Fisheries Science掲載報文要旨

魚類のサイトカイン:研究の現状とその応用(総説)

酒井正博,引間順一,河野智哉

 サイトカインは免疫システムの制御に関与する低分子の糖タンパク質であり,これまでに100種類以上がヒトにおいて同定されてきた。魚類においても,これらに相当するサイトカインが発見されてきた。魚類の自然免疫応答は,サイトカインの発現をマーカーとして用いることで調べることができる。我々は,様々なサイトカイン遺伝子の発現を分析するために,マルチプレックスRT-PCR分析法を開発し,免疫賦活剤により活性化した魚における免疫応答を調査した。IL-1βのような炎症性サイトカインの免疫応答は,免疫賦活剤を投与した魚において活性化することが示された。

87(1), 1-9 (2021)
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レプトセファルスの摂食生態:マリンスノーを餌とするユニークな戦略(総説)

塚本勝巳,マイケル・ミラー

 透明な体のレプトセファルスの消化管に通常餌はなく,餌の特定は困難であった。 人工仔魚はサメ卵黄を含む餌を選択摂餌することが明らかとなった。天然仔魚の消化管の観察とDNA分析の結果,マリンスノー関連物質を含んでいると示唆された。同位体比分析によると仔魚は低栄養段階で分類群・地理的差異があり,行動や歯の形状もマリンスノーの摂餌を支持する結果であったことから,レプトセファルスはグリコサミノグリカンと組織に速やかに変換される高栄養価で同化しやすい物質を含むマリンスノーを消費する摂餌戦略をもつと考えられる。

87(1), 11-29 (2021)
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東シナ海におけるガザミPortunus trituberculatus刺網の網目選択性

Guoqiang Xu, Wenbin Zhu, Liuxiong Xu

 ガザミを漁獲対象とした刺網の最適目合を決定するために,6種類の網地(目合100, 110, 120, 130, 140, 150 mm)を用いて,2018年7月に東シナ海で試験操業を行った。試験操業の結果,甲長範囲46.2-83.7 mmのガザミが合計436個体漁獲され,それらはすべての網地に絡まった状態であった。目合が100 mm以上になると,水揚げ可能な最小サイズである甲長60 mmよりも小さな個体の漁獲割合が20 %以下に低下した。刺網の網目選択性はAICの値が最も小さくなった正規分布関数モデルで決定され,目合の異なる6種類の網地の最適甲長は,それぞれ49.8, 54.8, 59.8, 64.8, 69.8, 74.8 mmであった。
(文責 江幡恵吾)

87(1), 31-38 (2021)
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Schizothorax labiatusの血生化学的パラメータに対する季節および性別の影響

Kousar Jan, Imtiaz Ahmed

 Schizothorax labiatusでは魚類の健康状態の評価に用いられる血生化学的指標に関する情報が不足している。本研究では天然から採捕した本魚種における血生化学的指標の季節および性別による変動を測定することで,当該指標の標準状態を把握すること目的とした。その結果,血中赤血球数は通年メスよりもオスで高いことが示され,雌雄において夏季に最も高くなることが示された。また,血清中グルコース,コレステロール,尿素は季節や性別に影響を受けることが見出され,これらも夏季に高値を示す傾向にあった。
(文責 渡邊壮一)

87(1), 39-54 (2021)
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ブリにおける複数のコカイン・アンフェタミン調節転写産物:cDNAクローニング,脳における分布,絶食・魚粉水溶性画分への応答

深田陽久,村下幸司,泉水彩花,益本俊郎

 ブリにおいて5種のコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART 1b, 2a, 2b, 3a, 3b)のcDNAを同定した。絶食―再給餌試験では,食欲中枢である視床下部のcart 1b, 2aが絶食によって減少し,再給餌によって回復する傾向が見られた。次に各脳部位を測定対象として行った絶食試験では,終脳,視床下部または小脳でcart 1b, 2a, 3a, 3bの減少が見られた。魚粉水溶性画分には,いずれのcartも応答をしなかった。以上のことから,ブリにおける複数のCARTのうち,終脳・視床下部のcart 1b, 2aが食欲の抑制に関与していると考えられた。

87(1), 55-64 (2021)
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マングローブガニScylla paramamosainの求愛触刺激信号受容器としての甲羅感覚毛斑

川村軍蔵,Teodora Uy Bagarinao,
Chi Keong Loke,Hsein-Loong Au,
Annita Seok Kian Yong,Leong-Seng Lim

 マングローブガニ全4種の甲羅前部4か所に新しく感覚毛斑が見つかった。Scylla paramamosainの感覚毛斑は特異的に触刺激を受容することが分かった(心電図法による)。タンク飼育中の成ガニS. paramamosainの求愛行動の観察では,雌に近寄った雄ガニが第一歩脚を伸ばして雌の甲羅の感覚毛斑に触刺激を加えた後に雌の甲羅に乗って雌を抱擁しながら第三顎脚で触刺激を加え続けた。雌はこの求愛行動を受け容れた。これらのことより,マングローブガニの求愛行動である甲羅への触刺激の受容器は感覚毛斑であると結論された。

87(1), 65-70 (2021)
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チョウザメ胚における標的割球卵割阻害技術の開発

ムジャヒド・アリ・シャー,斎藤大樹,
ラデク・シンデルカ,ヴィクトリア・イェゴロヴァ,
マレク・ロディナ,アブドゥル・ラシード・バローチ,
ロマン・フラネック,トーマシュ・ティホパッド,
マルティン・プシェニチカ

 脊椎動物胚の卵割パターンには「全割」と「盤割」がある。多くの硬骨魚類は盤割を行うものの,チョウザメ類は全割を行う。本研究では,魚類の卵割パターン進化を調べるための実験系構築を目的とし,チョウザメ胚で擬似盤割胚を誘導する技術の開発を試みた。その結果,生体毒素として知られる2,4-decadienal(0.01 %)を顕微注入した胚に光照射(44.86-91.15Wm-2)を行うことで,mRNAの局在パターンを変えることなく,卵割を阻害できることが明らかとなった。
87(1), 71-83 (2021)
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コルチゾルはgonadal soma-derived growth factor (GSDF) とanti-Mullerian hormone receptor type 2 (AMHR2) を介してXXメダカの雄化を引き起こす

原 誠二,澤村理英,北野 健

 メダカOryzias latipesは,哺乳類と同様にXX/XY型の性決定様式をもつ硬骨魚類であるが,高水温下ではコルチゾル量の上昇により,XX個体での生殖細胞の増殖が抑制されて雄化する。本研究では,コルチゾル下流の雄化機構を解明するため,遺伝子ノックアウト(KO)技術を用いて,GSDF及びAMHR2の機能を解析した。その結果,これらKOメダカのXX個体においては,コルチゾルによる生殖細胞数の増殖が抑制されず,全ての個体が雌へと分化することが分かった。したがって,コルチゾルによるXXメダカの雄化には,GSDFとAMHR2が深く関与することが明らかとなった。

87(1), 85-91 (2021)
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エストラジールによるキンギョの雄の生殖活動の抑制:精液を出さずに性行動を行う雄の出現

小林牧人,木島 舞,松塚唯子,
早川洋一,岩田惠理,木村武二

 環境エストロゲンのひとつであるエストラジオール(E2)を,カプセルを用いて雄のキンギョに移植し,14あるいは15週間,生殖機能の変化を調べた。二次性徴の発現,精液産生個体数は移植後5週目から減少し,その後低値を示した。E2による性行動の抑制開始は遅く,15週目に性行動を行わなくなる個体と続ける個体が見られた。性行動と精液産生の関係を個体ごとに調べると,精液を出さず性行動もしない個体と精液を出さずに性行動を行う個体が出現した。

87(1), 93-104 (2021)
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クロマグロ生殖細胞を特異的に検出するモノクローナル抗体を用いたサバ科宿主内におけるドナー由来細胞追跡法の開発

矢澤良輔,窪川つばさ,市田健介,川村 亘,
谷怜央人,森田哲朗,吉崎悟朗

 クロマグロ精原細胞を抗原としたモノクローナル抗体の中から,クロマグロ精巣細胞を認識し,サバ科の近縁種であるマサバおよびスマの精巣細胞で陰性となる抗体を一つずつ見出した。さらに,クロマグロ生殖細胞を移植した宿主魚で免疫組織染色を行った結果,両抗体ともドナークロマグロの生殖細胞のみを検出することが可能であった。また,両抗体ともA型精原細胞から精細胞に至る各分化段階のクロマグロ生殖細胞を認識することから,オスの宿主生殖腺内でドナークロマグロ細胞の挙動を長期にわたり追跡可能であることが示唆された。

87(1), 105-112 (2021)
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緑色光によるホシガレイ成長促進効果の応用に向けた評価

清水大輔,水澤寛太,前田知己,山口大梧,高橋明義

 水槽色または飼育密度が異なる条件下でホシガレイに緑色光照射を照射し,それらの要因が成長に及ぼす影響を検証した。反復測定二元配置分散分析の結果,白黒いずれの水槽においても,また4.3kg・m-2および13kg・m-2のいずれの飼育密度においても緑色光照射は成長を促進した。一方,水槽色と飼育密度はいずれも成長に影響しなかった。水槽色は緑色光の効果に影響しないこと,ならびに本研究における飼育密度の範囲であれば緑色光照射による成長促進効果が期待できることが示唆された。

87(1), 113-119 (2021)
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過去の津波痕跡の探索と津波インパクトが長面浦に生息する微生物群集に及ぼす影響

奥村 裕,松岡裕美,荒川久幸,門叶冬樹,
鈴木 淳,入月俊明,梶田展人,原 素之

 津波により湾口付近に大きな影響を受けた長面浦内2箇所で柱状泥を採取し,津波痕跡を見つけるとともに微生物群集の変動を調べた。2011年3月の津波による堆積層とともに,湾奥から,享徳地震(1454年)と推察される津波痕跡を見つけた。柱状泥層別の18S rRNA遺伝子解析では,植物プランクトンが優占していた。中でも渦鞭毛藻のAlexandrium spp.が堆積時期に関わらず優占しており,次いで珪藻が優占していた。植物プランクトンの群集組成は過去の津波でも劇的な変化は観察されず津波に対して影響を受けにくかったと判断した。

87(1), 121-130 (2021)
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2007-2013年における台湾海峡での仔魚群集の冬季年変動と水塊との関係

Yu-Kai Chen, Chia-Yi Pan, Yi-Chen Wang,
Hsiu-Ju Tseng, Bo-Kun Su, Ming-An Lee

 2007年から2013年の冬季における台湾海峡での仔魚群集組成の年変動特性について,水塊との関係を通して特徴づけをおこなった。黒潮分派域で形成される仔魚群集は主にハダカイワシ属およびサイウオ属の種から構成され,その群集組成に大きな年変動はみられなかった。一方で,中国沿岸系水に由来する冷水域では,ハゼ科やフサカサゴ科の出現頻度が高いもの群集組成に大きな年変動がみられた。また,群集構造の年変動に対して,表面水温と塩分が強く関係していると考えられた。
(文責 北門利英)

87(1), 131-144 (2021)
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外来種ヨーロッパザラボヤAscidiella aspersaから単離された溶血活性化合物3,7,11,15-tetramethyl-hexadecan-1,19-disulfate

永井宏史,柴原秀哉,松嶋良次,内田 肇,
金森 誠,野方靖行,神尾道也

 北大西洋ヨーロッパ沿岸原産の単体性のホヤであるヨーロッパザラボヤAscidiella aspersaは北日本に侵入し,ホタテの養殖施設などに大規模な個体群を形成する。また,群生したA. aspersaは養殖ホタテの生育を阻害することが知られている。このことからA. aspersaの保有する化合物がホタテの生育に悪影響を示す可能性も考えられた。そこで今回は,溶血活性を指標にA. aspersaに由来する化合物の探索を行った。その結果,3,7,11,15-tetramethyl-hexadecan-1,19-disulfate(1)が溶血活性物質としてA. aspersaから単離された。化合物1のホタテとブラインシュリンプに対する毒性は軽度であった。

87(1), 145-150 (2021)
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魚類の酸化ストレスを測定するためのバイオセンサの開発

呉 海云,尾形まどか,大貫 等,遠藤英明

 魚類の酸化ストレス応答を把握するには,活性酸素種の前駆体となるスーパーオキシドアニオン(O2-)の濃度を知る必要がある。しかし,O2-は不安定なラジカルであり,生体中での測定は極めて困難であった。本研究では,電子伝達タンパク質であるシトクロムcを各種自己組織化単分子膜を用いて電極表面に固定化することで,O2-を迅速に定量可能なバイオセンサの開発を試みた。本センサは,O2-の特異的検出が可能であり,生体試料中に存在する僅かなO2-に対しても反応性が著しく高いことを示した。

87(1), 151-159 (2021)
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