Fisheries Science掲載報文要旨

周防灘南部海域に位置する産卵場におけるマコガレイの滞留期間と行動

山本宗一郎,三田村啓理,帯津直彦,佐藤允昭
 周防灘南部に位置する豊後高田市長崎鼻地先の産卵場にて,マコガレイ20尾(雌9尾,雄11尾)に超音波発信機を装着し,産卵盛期(12月中~下旬)前の11月29日に放流し,設置型受信機により追跡した。18尾は調査海域内を徘徊したり,一時的な移出後に再び現れたりし,12月中旬までに完全に移出した。2尾は1月中旬まで滞留し,産卵盛期に泥~極粗砂底で昼夜問わず徘徊していた。よって,18尾のほとんどは調査海域および周辺で産卵場所を探していたが調査海域では産卵・放精せずに移出し,2尾は調査海域内で産卵・放精していたと考えられた。
87(2), 161-171 (2021)
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日本南西海域におけるアオリイカの生活史特性と平衡石の形に見られる変異

金 子芸,陳 志炘,柳下直己,
山口敦子,王 佳惠,沈 康寧
 長崎県周辺の6地点から採集したアオリイカSepioteuthis lessoniana 142個体を用いて,分子遺伝学的特徴,および生活史特性や平衡石の形における変異を明らかにした。ミトコンドリアDNAの分析により,本種には従来から存在するとされているSepioteuthis sp. 1およびsp. 2に加え,新たにsp. 2Aの存在が明らかになった。本海域ではsp. 2が優占し,sp. 1は稀であった。sp. 2およびsp. 2Aでは,外套長組成,外套長-体重関係,年齢組成,および平均成長率などの生活史特性はよく似ていたが,孵化はsp. 2が夏季でsp. 2Aが冬季であると推定され,また,平衡石の翼の形にわずかな違いが見られた。
87(2), 173-185 (2021)
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寄生性カイアシ類Pennella sp.による感染はサンマCololabis sairaの死亡率に影響する

巣山 哲,宮本洋臣,冨士泰期
 Pennella sp.による寄生がサンマの死亡率に影響するかを調べるために,サンマ1歳魚の有病率(感染魚数/検査魚数×100[%]),平均寄生強度(寄生したPennella sp.の総数/感染魚数),相対寄生強度(寄生したPennella sp.の総数/検査した魚の数)および感染魚1個体に寄生したPennella sp.の最大数について,月別変化を調べた。分析したサンマは,2016年5月から2019年12月まで,中部および西部北太平洋から採集された合計32,376個体である。寄生状況を示すこれらの指標は5-6月に最も高く,その後急激に減少した。また,サンマ904個体の体内に残された寄生虫の残骸(頭胸部)を探したが,6個しか見つからなかった。寄生虫が死亡した後にその頭胸部が容易に脱落する可能性は低いと考えられ,有病率とその強度の減少はPennella sp.の死亡に起因するのではなく,寄生を受けたサンマの死亡が原因であると推測された。
87(2), 187-202 (2021)
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ニホンウナギAnguilla japonicaの性分化初期における性特異的遺伝子の発現プロファイル

稲葉博之,原 誠二,堀内萌未,井尻成保,北野 健

 ニホンウナギAnguilla japonicaは性分化期に外部環境による影響を受けやすいが,本種の性分化機構は不明な点が多い。そこで本研究では,養殖ウナギの性分化機構を解明するため,無処理(雄)またはエストラジオール(E2)処理(雌)したウナギにおける性特異的遺伝子の発現解析を行った。その結果,雌特異的遺伝子(foxl2a, cyp19a1)の発現量はE2処理個体の卵巣と未分化生殖腺で高かったが,雄特異的遺伝子(amh, gsdf)の発現量は無処理個体の精巣と未分化生殖腺で高かった。これらの事から,上記遺伝子はニホンウナギの性分化に関与することが示唆された。

87(2), 203-209 (2021)
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浮遊性アオサから溶出した有機物のアサリに対する成長阻害作用

内田基晴,三好達夫,新村陽子,吉田吾郎,兼松正衛

 浮遊性アオサのアサリ(稚貝,成貝,幼貝)の成長に対する影響を調べた。アオサの藻体を環境相当の42.7 g/L (or 0.68 g/cm2) で浮遊させると成貝を除く稚貝および幼貝に対して成長を抑制した。この成長阻害作用は,アオサ由来のDOMが飼育水に0.47 mg C/L溶出することで観察された。一方,アオサ繁茂域海水のDOM濃度は平均2.3 mg C/Lで近隣海水より1.6 mg C/L高かったことから,アオサによるアサリへの成長阻害は,有機物濃度だけで考えると自然界でも起こり得ると考えられた。

87(2), 211-221 (2021)
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東北太平洋岸におけるヒラメ生息水深・水温の季節変化

栗田 豊,佐久間徹,筧 茂穂,島村信也,實松敦之,
北川紘匡,伊藤進一,河邊 玲,柴田泰宙,冨山 毅
 福島県底曳網・刺網漁業の操業記録と底水温分布を用いて,2006-2008年のヒラメ生息水深と水温の季節変化を明らかにした。主分布水深は周年100 m以浅であったが,最大分布水深は夏季100 m~冬季200 mと季節変化があった。生息水温は4.6-21.0℃で他海域と比べ低かった。ヒラメ成魚に装着した水深・水温記録計の情報,調査船による分布水深情報は,上記の結果を支持した。また,水温が成層する春~秋季には,遊泳時の経験水温が底水温よりも高いことが明らかとなった。生息環境が生活史に及ぼす影響を考察した。
87(2), 223-237 (2021)
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北海道寿都漁港におけるアサリ垂下養殖の可能性

櫻井 泉,森 健貴,久富悠一朗

 北海道寿都漁港においてアサリ垂下養殖の可能性を調べた。網カゴに収容した平均殻長28 mmのアサリを2018年に港奥および2019年に港中央に垂下した結果,1年後にはそれぞれ34および41 mmに伸長した。また,水温,クロロフィルaおよび流速の移流成分に場所間の差はなかったが,流速の変動成分は港奥より港中央で高かった。これより,港中央は港奥より餌料供給が良好と推察され,港中央での垂下養殖の可能性が示された。

87(2), 239-251 (2021)
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異なる塩分レベル環境に置かれたAnguilla marmorataシラスウナギの自発運動と成長反応

Goldyn Anne G. Aquino, Patrick C. Cabaitan,
David H. Secor

 本論文では,北部フィリピンのカガヤン川河口のAnguilla marmorataを用い熱帯ウナギにおける淡水,汽水,海水の指向性やそれら塩分環境における成長について検討した。その結果,本種は海水より汽水や淡水を好み,海水飼育区では汽水および淡水区に比べ体長の伸びが低かった。このように生息域に淡水を好み高成長を示す本種にとって,漁獲圧の上昇,水質汚染,淡水域で強まる採石になどが本種に及ぼす影響が懸念される。

87(2), 253-262 (2021)
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