Fisheries Science掲載報文要旨

MiFishメタバーコーディング:環境DNAから魚類を多種同時並列検出する手法(総説)

宮 正樹,後藤 亮,佐土哲也

 本総説では,環境DNAから魚類を分類群横断的にまとめて検出するMiFish法の現状を紹介すると共にその可能性と限界を明らかにし,今後の展望について記す。2015年にこの技法の概要が発表されて以来,MiFish法とその周辺技術は格段に進歩し,国内だけでなく世界の六大陸で行われた魚類群集研究で用いられるようになった。これらの技術的進歩と事例研究を紹介すると共に,本手法を適用した各種の応用研究を紹介する。さらには,本手法で実現可能になった多地点高頻度モニタリングが,生態系アプローチに基づく水産資源管理に有用ではないかと主張する。

86(6), 939-970 (2020)
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魚群行動モデルを用いた定置網の漁獲過程シミュレーション

高橋勇樹,米山和良(北大院水)

 本研究では,定置網の漁獲効率を定量的に評価するために,Boidモデルに基づいた魚群行動シミュレーションモデルを提案し,実スケールの定置網に対して適用した。入網口の網地角度(θ)を変えてシミュレーションした結果,θ=55°の時を除いて,定置網へ入網する魚群量は全個体の約60%であった。また,箱網への入網量は網地角度が増加するにつれて減少した。これらの結果,本研究ではθ=60°のとき漁獲効率が最大となった。以上から,提案手法によって定置網形状と漁獲効率の関係を評価でき,効率的な定置網設計に貢献できるといえる。

86(6), 971-983 (2020)
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アメリカ領サモアのサンゴ礁に生息する漁業対象魚類3種の成長と成熟

Cassandra Pardee,Brett M. Taylor,Sean Felise,
Domingo Ochavillo,Javier Cuetos-Bueno

 アメリカ領サモアにおける漁業対象小型魚類3種について,年齢から生活史を明らかにした。扁平石から査定された最高年齢と推定成熟体長は,各々Chlorurus japanensisが7歳,20.9 cm,Lethrinus rubrioperculatusが10歳,20.4 cm,Naso lituratusが25歳,17.5 cmだった。年齢組成から推定されたN. lituratusの全死亡係数は,7歳までが非常に高く,その後低いという2つのphaseを示した。これらの結果は,今後の資源評価と生態系モデルに有用な情報を与えるであろう。
(文責 片山知史)

86(6), 985-993 (2020)
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トルコ・マルマラ海南側沿岸で行われているDonax trunculusChamelea gallinaを対象とした桁網漁業の混獲投棄

Serhat Çolakoğlu

 マルマラ海南側沿岸で二枚貝Donax trunculusChamelea gallinaを対象として行われている機械式(MD),手動式桁網(HD)の混獲投棄の実態を明らかにすることを目的とした。2011年8月から2012年7月に水深0-2mの海底を137回の曳網し合計29種を漁獲した。MD,HDの総漁獲量はそれぞれ107,752.69,94,257.40 gで,混獲,投棄,規制サイズ以下および斃死個体が漁獲量に占める割合はそれぞれ10.78,5.08 %であった。混獲生物の中で商業価値のある主な種は,MDではAcanthocardia tuberculataRapana venosaで,HDではRuditapes philippinarumMytilus galloprovincialisであり,二枚貝の資源保護と持続可能な漁業に対して重要な知見を得た。
(文責 江幡恵吾)

86(6), 995-1004 (2020)
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日本海南部と台湾北部海域におけるケンサキイカ雌の生活史特性の違い

Yumeng Pang,Chih-Shin Chen,岩田容子

 ケンサキイカは日本や台湾を含む北西太平洋沿岸海域における水産重要種である。本研究は,環境変動に対する個体群応答メカニズムを明らかにするため,資源量変動パターンが異なる日本海南部と台湾北部海域において,生活史特性の季節的・地域的な変化を調べた。その結果,成長率,成熟サイズ,雌の繁殖特性(生殖腺重量指数,孕卵数,卵サイズ)などの生活史特性は,両地域個体群間・季節間で異なっていた。本研究で得られたケンサキイカの生活史特性に関する基礎的知見は,イカ類の有効な漁業管理に役立つと考えられる。

86(6), 1005-1017 (2020)
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日本海東部佐渡周辺域におけるクロマグロ稚魚の分布と初期成長

田中寛繁,児玉武稔,鈴木伸明,望月洋佑,
芦田拡士,佐藤拓也,武島弘彦,野原健司

 日本海東部佐渡周辺域におけるクロマグロ稚魚の分布と初期成長について2017,2018年8-9月のトロール調査により調べた。稚魚は主に対馬暖流より陸地側で採集され,採集点の5m水温は22.8-27.2℃であった。尾叉長は12-320 mmであり,140-170 mm(両年),50 mm付近(2018年)にモードが認められた。耳石解析から,稚魚の孵化日は主に7月上中旬(両年),8月上中旬(2018年)と推定された。日本海東部は,7-8月に孵化したクロマグロの生育場として重要であることが示唆された。

86(6), 1019-1028 (2020)
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ベトナム国メコンデルタにおける塩水化はスネークヘッドChanna striataへの高温度の影響を助長しうる

Tran Thi Phuong Lan,Tran Thi Thanh Hien,
Tran Le Cam Tu,Nguyen Van Khanh,
芳賀 穣,Tran Minh Phu

 塩水化(0, 6, 9‰)と高水温(28, 31, 34℃)がスネークヘッドChanna striataの生残,成長および飼料効率への影響を調べた。淡水区では,生残,および日間増重率は温度により差はなく,低温区や低レベルの塩分区も同様であった。キモトリプシン活性は高温区で高くなった。乾物,タンパク質および脂質の消化吸収率(ADC)は31℃-0‰区で最も高かった。最高温では中塩区と高温区で3分の1の魚が死亡し,ADCとアミラーゼ活性は最低となり,増肉係数が最大となった。

86(6), 1029-1036 (2020)
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絶食-再給餌によるサクラマス腸および肝臓における細胞ストレス応答

近藤秀裕,佐野広明,王 媛媛,川瀬純也,島軒英二,
ワリッサラ・ジラポンパイロ,野崎玲子,廣野育生

 絶食後再給餌したサクラマスOncorhynchus masou masouの腸および肝臓におけるトランスクリプトーム解析により,8倍以上の発現変動する遺伝子をそれぞれ29および45同定した。肝臓では,栄養の代謝に関わる遺伝子の発現変動がみられた。一方いずれの臓器においても,GRP78およびエンドプラスミンなどのタンパク質の折り畳みに関与する遺伝子のmRNA量が上昇し,グリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)3の負の調節因子であるGSK3結合タンパク質のmRNA量が減少した。これらの結果は,絶食後の再給餌時により細胞ストレスが誘導されることを示している。

86(6), 1037-1042 (2020)
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水揚げ状態でのチャネルキャットフィッシュ活魚保存時における血液生化学指標と筋肉組成への冷温麻酔の影響

Chan Bai,Guangquan Xiong,Ping Xu,
Ning Li,Juguang Wang,Tao Liao

 チャネルキャットフィッシュを水揚げ状態で活魚として維持することを目的として冷温麻酔法について検討した。20℃から1℃まで2,4,6℃/hで低下させる実験区を設定し,その後水揚げ状態での生存時間,血液生化学指標,筋肉組成について検討した。結果,2℃/h低下区では冷温麻酔後12時間の水揚げ保存後でも生残率は100%であった。血液生化学解析の結果AST,ALT,尿素態窒素は冷温麻酔もしくは水揚げ保存により上昇した。筋肉中タンパク質および脂肪量が冷温麻酔により減少するなどの変化も見られた。
(文責 渡邊壮一)

86(6), 1043-1053 (2020)
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ガルフパールオイスターPinctada radiataの塩分変化に対する生理的応答評価

Saeid Tamadoni Jahromi,Sajjad Pourmozaffar,
Hossein Rameshi,Mohsen Gozari,Reza Nahavandi

 環境水の低塩分化がガルフパールオイスターに与える影響を評価するため14日間の飼育実験を行った。低塩分条件下で,濾水速度の有意な減少や従属栄養細菌数の有意な増加が見られたが,血漿中のカルシウム,アスパラギン酸アミノ基転移酵素,アラニンアミノ基転移酵素,アルカリフォスファターゼ濃度に変化は見られなかった。生残率は塩分35と40で最も高く,塩分20と25ではグルコース濃度が低下した。塩分30と35でHSP70およびHSP90の遺伝子発現は上昇したが,HSP20は低下した。本種は広塩性であるが,至適塩分は30-40であると考えられた。
(文責 渡部諭史)

86(6), 1055-1065 (2020)
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瀬戸内海東部の小湾(志度湾)における植物プランクトン生産の季節変動

山口一岩,古賀希望,一見和彦,多田邦尚

 カキ養殖の盛んな志度湾内の定点で,植物プランクトン生産の周年変動を調べた。水柱積算生産量は0.13-1.61 g C m-2 d-1の間にあり,年間生産量は218 g C m-2 y-1と試算された。日生産量の変動は植物プランクトン生物量(水柱積算クロロフィルa)と有意に関係していた。梅雨期と,初秋の成層崩壊期に生産量は極大値を示し,年間生産量に対するこれらのイベントの寄与は大きかった。水深が浅く光が潤沢な同湾では,栄養塩(窒素)供給の増大が生産量の増大を生む契機だと考えられた。

86(6), 1067-1078 (2020)
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ウリタエビジャコCrangon uritaiがネオニコチノイド系殺虫剤に対し高耐性を有する理由の究明:クルマエビPenaeus japonicas,海産アミAmericamysis bahiaとの比較で見えた酸化酵素(オキシゲナーゼ)の殺虫剤耐性への関与

羽野健志,伊藤克敏,大久保信幸,
伊藤真奈,渡邉昭生,阪地英男

 本研究は,ウリタエビジャコ(以下,エビジャコ)が,クルマエビ,海産アミに比べネオニコチノイド系殺虫剤(NNDs)に対し高耐性を有する要因を明らかにすることを目的とした。まず,昆虫の先行研究で感受性に起因するとされるニコチン性アセチルコリン受容体の差異(loop D 81番アミノ酸残基)を調べたところ,3種間で違いはなかった。次に,解毒代謝に関与する酵素3種の各阻害剤とNNDsを共曝露した結果,エビジャコでのみ酸化酵素阻害剤+NND処理により死亡率が増加した。以上の結果,エビジャコのNNDsへの高耐性には酸化酵素の関与が示唆された。

86(6), 1079-1086 (2020)
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瀬戸内海産のマガキの栄養成分と季節変動

礒野千晶,丸田ひとみ,馬  芸,
我如古菜月,三宅剛史,山下広美

 マガキの栄養成分の特徴は商品価値に影響を及ぼす要因となる。本研究では,瀬戸内海沿岸の養殖地域,広島,岡山,兵庫で2013-2014年に養殖されたマガキの主要な栄養成分含量を収穫時期ごとに比較した。4月にかけて3地域産ともグリコーゲンが増加したが,3月の岡山および兵庫産カキは広島産より有意に高かった。広島産カキは12月から4月のほとんどの月で亜鉛含有量が有意に高かった。岡山および広島産カキは11月から4月にかけてイコサペンタエン酸が有意に増加した。養殖地域と収穫時期によりマガキの栄養成分含量が変動すると示唆された。

86(6), 1087-1099 (2020)
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ベトナム産サバフグ属魚類におけるテトロドトキシンおよびその類縁体の組織分布

Linh Vu Thuy,山本 茂,川村梨香,竹村直輝,
八巻康平,安元 剛,高田健太郎,渡部終五,佐藤 繁

 ベトナム産サバフグ属魚類,シロサバフグ,クロサバフグ,ドクサバフグ,カナフグにおけるテトロドトキシン(TTX)およびその類縁体(総称TTXs)の組織分布を調べた。TTXsに反応する抗TTXポリクローナル抗体を用いた酵素結合免疫吸着法で調べたところ,ほぼ全ての魚種および組織抽出物で抗体反応が検出された。シロサバフグの筋肉組織についてはさらに高速液体クロマトグラフィーおよび液体クロマトグラフィー質量分析に供したところ,5,6,11-trideoxyTTXは検出されたものの,TTXは検出されなかった。

86(6), 1101-1110 (2020)
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ヒラメ筋肉凍結貯蔵中のミオシン変性に対する初期鮮度の影響

范 馨茹,今野久仁彦,蔺 小雨,
于 希良,刘 宇轩,董 秀萍

 0℃で0(即殺),2(硬直),5日(解硬)間貯蔵した鮮度の異なるヒラメ肉を-20℃で凍結貯蔵し,ミオシンの変性進行を比較した。いずれの試料でも,ATPase失活後も,Mg-ATP存在下での塩溶解性を保持していた。その多くは凝集体を形成し,単量体のみがATPase活性を保持していた。貯蔵初期では,即殺ヒラメ肉(0日)は他に比べ高いATPase活性と塩溶解性を保持し,ミオシン変性が抑制されていた。しかし,貯蔵期間が長くなると(60日),3者間での変性程度に差が認められず,高鮮度の優位性が期待できないと結論した。

86(6), 1111-1120 (2020)
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