Fisheries Science 掲載報文要旨

内水面資源管理の米日間比較(総説)

Frank J. Rahel,谷口義則

 米国と日本では内水面遊漁資源管理主体が異なり,米国では州機関が,日本では主に漁業協同組合が管理する。米国では生物学者の雇用,生息環境保全,多様な遊漁規則,釣り具販売を原資とする税が普遍的であるが,日本では漁協による種苗放流と伝統を重んじた相互監視による資源管理が主であり,両国が相互に学べることは多い。一方で,共に新規の遊漁者開拓,在来種の保護等の共通課題に直面している。
85(2), 271-283 (2019)
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漁獲データに基づくガストロ Gasterochisma melampus の生物特性:分布,漁獲量,体長,CPUE

伊藤智幸

 20年以上の日本延縄漁業及び調査のデータを利用してガストロの資源生物特性を解析した。本種は南緯35度から45度間で周極的に連続分布し,その南限は亜南極フロントに対応した。推定した世界の漁獲量は平均で1859トンであり,日本が平均64%と最大であった。産卵場である南東太平洋には大型魚が分布し,大西洋からインド洋を通じて南西太平洋までは小型の未成魚の摂餌海域であった。摂餌場の1993年から2016年までの釣獲率の変化並びに1970年の釣獲率との比較は,本種資源が抑圧されていないことを示唆した。
85(2), 285-294 (2019)
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加速度発信機により測定されたマアナゴ Conger myriaster の活動へ与える水温の影響

堀 友彌,野田琢嗣,和田敏裕,岩崎高資,荒井修亮,三田村啓理

 水温がマアナゴの活動に与える影響を,超音波加速度発信機を用いた2段階の実験により調べた。ビデオカメラで撮影した21個体の活動(胴体の振動周波数)と,腹腔内に装着した発信機の加速度測定値を比較した。また,10-28℃の異なる水温下における8個体の加速度測定値を測定した。その結果,胴体周波数と加速度測定値に正の相関が認められた。また,水温とマアナゴの活動度の関係性(水温10-26℃:正,26-28℃:負)が明らかにされた。以上の結果より,超音波加速度発信機を用いて,天然海域のマアナゴの活動度を推定できることが明らかとなった。
85(2), 295-302 (2019)
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宇和海におけるマアジの生殖年周期と産卵場形成機構

橋田大輔,松本直樹,冨山 毅

 卵巣の組織観察と1投網あたり漁獲量(CPUE)の分布変化から,生殖年周期と産卵場形成に及ぼす水温の影響を検討した。宇和海のマアジは冬季に卵黄形成を開始し,4月下旬から7月上旬に産卵していた。卵黄形成,産卵の適水温は,それぞれ16-20℃,16-21℃となり,生殖年周期に水温が重要な役割を担うことが示唆された。一方,高いCPUEは水温変化に係らず宇和海中部に集中しており,産卵場は水温以外の要因によっても形成されることが示された。また,産卵期と孵化時期の比較から,加入個体の孵化海域が宇和海以外にも存在することが示唆された。
85(2), 303-315 (2019)
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異なる波長のLEDが短期間の飢餓に晒したヒラメの免疫関連応答に与える影響

Tae Ho Lee, Jin Ah Song, Cheol Young Choi

 本研究ではヒラメを様々な波長のLED照明(青460 nm,緑520 nm,赤630 nm)を 2 段階の放射照度(0.3, 0.6 W/m2)に9日間置いて,自然免疫応答の調節を調べた。メラトニン受容体 1(MTR-1),メラトニン,IgM およびリゾチームのレベルを免疫関連の評価値に用いた。その結果,メラトニン,IgM およびリゾチームは飢餓状態に晒すと給餌区よりも有意に減少した。ところが,実験期間を通じたこれらの値の減少幅は緑および青色 LED 照射群では小さく,赤色 LED 照射群では大きくなった。これらのことから,単波長の光(緑と青)の照射はヒラメの免疫力増強に効果があると考えられた。
(文責 阪倉良孝)
85(2), 317-325 (2019)
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いけすに収容した魚から放出される環境 DNA の海洋における分散と分解

村上弘章,尹 錫鎭,笠井亮秀,源 利文,
山本哲史,坂田雅之,堀内智矢,澤田英樹,
近藤倫生,山下 洋,益田玲爾

 環境 DNA(eDNA)の分散と分解の過程を明らかにするため,シマアジを収容したいけすを舞鶴湾内に設置した。いけす近傍と北西,北東方向に 10-1000 m 離れた 13 か所の定点で,いけすの設置と引き揚げ後の一定の時間後に表層の海水を採取した。種特異的検出系を用いた qPCR により,本種の eDNA は設置直後から検出され,陽性の全 57 検体のうち 45 検体は,いけすから 30 m 以内からであった。また,引き揚げ 2 時間以降は検出されなかった。よって eDNA 分析の結果は,長期間・広範囲ではなく,直近の生物情報を強く反映することが示唆された。
85(2), 327-337 (2019)
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アオリイカの雄の配偶様式 2 型における繁殖形質の連続性

Chun-Yen Lin, Chih-Shin Chen, Chuan-Chin Chiao

 アオリイカは乱婚種で,雌は複数の雄と交接する。その際,大型の雄は雌の輸卵管開口部に精莢を送るのに対し,小型の雄は精莢を雌の口球外唇に置くため,後者は受精に著しく不利と考えられる。成熟雄の個体群で精莢と精子の形態を調べたところ,精莢長は外套長と正の相関が,精子長は外套長と負の相関があった。またこれらのサイズや形態には 2 型は存在せず連続的であった。よって中間サイズの雄は繁殖機会にあわせて 2 つの交接様式を切り替えていると予想され,このことが本種の配偶様式 2 型の動的平衡の維持に寄与していると考えられた。
(文責 益田玲爾)
85(2), 339-347 (2019)
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Siniperca chuatsi の二つのインスリン様成長因子 1 受容体の分子性状と絶食・再給餌期間中の発現変動の解析

Xiaoli Chen, Gongpei Wang, Xue Lu, Peng Xu,
Shuang Zeng, Zhi Chen, Qiaoying Zhu, Guifeng Li

 ケツギョ Siniperca chuatsi から,二つのインスリン様成長因子 1(IGF1)受容体(scIGF1R1, scIGF1R2) cDNA を単離した。コードされるペプチドは,いずれも短い膜貫通ドメイン,二つの L ドメイン,furin 様 Cysteine-rich ドメインを含んでいた。分子系統解析では,両受容体は別のクラスターに分かれた。両受容体遺伝子は,調べた全ての組織で発現していたが,生殖腺,肝臓,脳で発現が高かった。絶食中の 1 週間に両受容体遺伝子の発現は筋肉と肝臓で増加したが,再給餌後次第に絶食前のレベルに戻った。絶食中に IGF1 遺伝子の発現は減少したが,血中 IGF1 レベルに顕著な変動は認められなかった。
(文責 井上広滋)
85(2), 349-360 (2019)
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深海性フエダイの一種ハマダイ Etelis coruscans の瀬周辺の水平・鉛直行動と定住性

奥山隼一,宍道弘敏,林原 毅

 深海性フエダイの一種であるハマダイは,生息域が深海であることから観察が難しく,その行動や回遊などに不明な点が多い。本研究では超音波テレメトリーを用いハマダイの行動を調査した。放流・追跡した 8 尾のうち,少なくとも 6 尾は放流後の生存を確認した。追跡個体は次第に調査海域であるオジカ瀬から離れ,33-34 日後には滞在割合は三分の一に減少した。水平移動は 2.2±2.0 km/日であり,滞在深度は 168.8-288.8 m,鉛直移動は最大 50.0 m/日であった。本研究は深海性フエダイにおいて詳細な水平・鉛直移動を記録した初めての研究である。
85(2), 361-368 (2019)
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内湾海底における日周性の貧酸素がアカガイのへい死におよぼす影響

仙北屋 圭,小林志保,大慶則之,山下 洋

 アカガイのへい死が起こる七尾南湾において,2002-2013 年に計 4 回のアカガイ飼育試験を行い,2013 年には夏季に海底の水温と溶存酸素(DO)を連続観測した。いずれの調査でも夏・秋季にアカガイのへい死が確認され,夏季の日中に観測された高い DO が夜間は 2 mg/L 未満に減少したことから,夜間の貧酸素がへい死の原因と推察された。水槽実験により夜間のみ貧酸素となる高水温環境を再現したところ,飼育アカガイ血リンパ液中にコハク酸が増加し 35 日目に全個体が死亡した。これらの結果から夏季の日周期的貧酸素がアカガイへい死の原因と推定された。
85(2), 369-377 (2019)
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ヒゲダイ稚魚の海面いけす飼育における最適給餌頻度

Sung-Yong Oh, B. A. Venmathi Maran, Jin Woo Park

 ヒゲダイ稚魚を海面いけすで 60 日間飼育し,給餌頻度が成長,摂餌量,体組成および血液性状に与える影響を調べた。平均体重 28.8 g の稚魚に市販配合飼料(タンパク質 49.0%)を手蒔きで飽食給餌し,4 つの給餌頻度(1-4 回/日)を設けた。増重量,比成長率および摂餌率は 3-4 回/日給餌の方が 1-2 回/日給餌よりも有意に高かった。飼料効率と体サイズ差は給餌頻度の影響を受けなかった。1 日のうち第 1 回目の給餌の際に飼料摂取は最大となった。魚体中の粗脂肪は 3-4 回/日給餌の方が 1-2 回/日給餌よりも有意に高かった。血中のグルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼおよびグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼの濃度は 1 回/日給餌の方が他の給餌区よりも高い値を示した。以上の結果から,本種の 30-150 g の稚魚の海上いけす飼育では 1 日 3 回の給餌が最適であると判断した。
(文責 阪倉良孝)
85(2), 379-385 (2019)
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マアジ筋肉エキス中のカンパチに対する摂餌刺激物質の検索

高桑史明,益本俊郎,深田陽久

 カンパチ飼料の嗜好性を改善するため,餌料であるマアジのエキス中に存在すると考えられる摂餌刺激物質を検索した。マアジ筋肉エキス成分の分析結果に基づいて調製した各種合成エキスを添加して精製カゼイン飼料を作成し,魚体重 44-186 g のカンパチに 7 日間飽食給与した。魚体重と摂餌量から摂餌刺激活性を判定した結果,マアジ筋肉エキスのカンパチに対する活性は,主としてイノシン酸に基因することが明らかになった。また,これ以外の核酸関連物質の間には協同効果が認められ,これらを併用すれば有効なことも分かった。
85(2), 387-395 (2019)
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Tetraselmis suecica 給餌による海産ツボワムシ Brachionus koreanus の脂肪酸不飽和化酵素遺伝子群のゲノムワイド同定とその発現および脂肪酸組成

Min-Chul Lee,萩原篤志,Heum Gi Park, Jae-Seong Lee

 シオミズツボワムシ(S 型)の 1 種である Brachionus koreanus の脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を同定し,mRNA の発現量を測定した。本種は 8 種類の不飽和化酵素遺伝子を有し,系統解析により,それぞれ 2, 5, 1 種類の Δ4, Δ5/6, Δ9 不飽和化酵素に分類された。微細藻の Tetraselmis suecica を給餌することにより,無給餌と比べて,これら不飽和化酵素遺伝子の発現が増加した。また,T. suecica の脂肪酸組成と比較して,T. suecica を給餌した本種からより多くの種類の脂肪酸が検出された。
85(2), 397-406 (2019)
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