Fisheries Science 掲載報文要旨

水圏生物科学および水産食品科学における核磁気共鳴技術の利用(総説)

金子 元,潮 秀樹,Hong Ji

核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance; NMR)を利用した代謝産物の分析は,ゲノミクスおよびプロテオミクスに補完的な情報を提供する重要な技術である。本総説では,NMR を用いた水圏生物科学および水産食品科学分野の研究を概観し,将来の展望を議論する。とくに,これまで利用例が少ない in vivo NMR 分光法および安定同位体 13C で標識した代謝産物の追跡法につき,水圏生物の多様な代謝を理解するための有用な技術として詳述する。

85(1), 1-17 (2019)
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東シナ海トロール網において最小規制目合を持つコッドエンドの選択性

東海 正,塩出大輔,酒井 猛,依田真里

 東シナ海の魚類 20 種とイカ類 2 種に対する最小規制目合(目合内径 54 mm)のコッドエンドを持つトロール網のコッドエンド選択性曲線を,カバーネット装着操業試験の結果から求めた。魚類 18 種(タチウオとハモを除く)の選択性パラメータ(50% 選択体長と選択レンジ)と魚体型の関係から,細長い体型の魚種ほど網目を抜けやすくかつ選択性が鋭くないことを示した。さらに,50% 選択体長と最小成熟体長など再生産パラメータを比較することで,単一目合のコッドエンド選択によって複数種を対象とした資源利用の持続性を検討した。

85(1), 19-32 (2019)
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ナイルティラピア GIFT 系統の脂肪組織における摂食後のグルコース代謝

Jing-Yun Feng,Qin-Qin Liu,Hang-Zhong Xu,
Rui-Hong Chen,Li Luo,Shi-Mei Lin,
Yong-Jun Chen,De-Shou Wang

 本研究では,高成長を示すナイルティラピア GIFT 系統の脂肪組織における摂食後のグルコース代謝変化を解析した。脂肪組織での各種のグルコース代謝関連遺伝子の発現を経時的に解析した結果,同系統の脂肪組織は過剰なグルコースを蓄積する能力を有すること,そこでのグリコーゲン分解とグルコース放出が血糖値に影響することが示唆された。また,同系統の脂肪組織では,ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼは糖新生ではなくグリセロール新生に関わること,産生されたグリセロールはトリグリセリドの供給源となっていることなども示唆された。

(文責 大久保範聡)

85(1), 33-41 (2019)
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東日本大震災後の岩手県大槌湾に回帰するシロサケの回帰と成熟状態のモニタリング

日下部誠,野畑重教,斉藤 楓,池羽希理子,
小笠原早苗,田中 潔,竹井祥郎,兵藤 晋

 2011 年 3 月 11 日に発生した東北大地震とそれに伴う津波が,その後のサケの回帰と繁殖に与えた影響を検証するため,2012 年から 2016 年の 10 月から 1 月に大槌湾口に設置された定置網でシロサケを採捕し,年齢,体長,体重,性比,生殖腺重量,血中ステロイド量をモニタリングした。その結果,孵化場の被害によるシロサケ稚魚の放流数の減少が回帰シロサケ親魚の年齢構成を一時的に変化させ,このことが 2013 年度と 2014 年度の体サイズや血中性ステロイド濃度の変動パターンに影響を与えたことが示唆された。

85(1), 43-51 (2019)
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アリューシャン列島アムチトカ海峡における海鳥の分布密度と海洋環境

西沢文吾,大西広二,綿貫 豊

 海鳥の分布要因を調べるために,夏季に,北太平洋からアリューシャン列島アムチトカ海峡を通り,ベーリング海に至る航路上で目視観測をおこなった。同時に,餌生物分布と海流を調べるための音響調査と CTD 観測を実施した。海鳥の密度はアムチトカ海峡(283 羽/km2)で最も大きく,そこは餌生物バイオマスも大きかった。次いで,ベーリング海(100 羽/km2),北太平洋(4 羽/km2)の順であった。アムチトカ海峡ではエトロフウミスズメ Aethia cristatella が優占し(95% 個体数),ベーリング海ではハシボソミズナギドリ Ardenna tenuirostris が優占した(92%)。同海峡内では,中央部に位置する海山の北側でエトロフウミスズメの密度が高く,そこは海水の混合が盛んで,濃い餌生物パッチがあった。潮汐流と海底地形との相互作用によって餌生物が集積し,そこを小型ウミスズメ類が利用していたのだろう。

85(1), 53-60 (2019)
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若狭湾の人工岩礁における潮下帯海藻群集の遷移とホンダワラ属褐藻の競争関係

遠藤 光,西垣友和,山本圭吾,竹野功璽

 若狭湾に設置された人工岩礁には,1 年後に 1 年生種アカモクの群落が,2 年後には多年生種ヤツマタモク・マメタワラの群落が形成された。入植したアカモクの除去は,多年生種の 1 年目の成長を促進したが,2 年目には影響しなかった。同様に,多年生種の除去はアカモクの 1 年目の成長を促進したが,2 年目には除去の有無に関わらず成長が抑制された。このように,アカモクと多年生種は遷移初期には競争関係にあることが示唆された。

85(1), 61-69 (2019)
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東シナ海におけるマアジ Trachurus japonicus 仔稚魚の窒素安定同位体比の時空間変動要因の解析

梅 衛平,梅澤 有,万 鑫,佐々千由紀,高橋素光

 2005 年から 2010 年の 4 月に東シナ海で採取したマアジ Trachurus japonicus 仔稚魚の炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)は,δ13C 値の空間変動は明瞭でないが,δ15N 値は南部で高く,より高い栄養段階の餌を摂餌する体長の大きい個体の分布と,一次生産への窒素固定の低い寄与の影響と推定された。マアジ稚魚の δ15N 値の経年変動は,主に餌(例:Oncaeidae copepodites や Corycaeus)の変動の影響があると考えられた。マアジ仔魚と中深層魚類の仔魚の δ13C・δ15N 値は重複がなく,餌の競争が低いことを示唆していた。本結果は,東シナ海における他の魚の摂餌・回遊生態を理解するうえでも有用である。

85(1),71-80 (2019)
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丹後海および仙台湾におけるスズキの年齢と成長

蒋 薇,Edouard Lavergne,栗田 豊,外舘香那,
笠井亮秀,冨士泰期,山下 洋

 スズキ Lateolabrax japonicus では,耳石を用いた年齢査定法は確立されていない。そこで,耳石の縁辺成長率の月変化から輪紋形成の年周期性を確認し,年齢査定法を検討して,丹後海と仙台湾で漁獲されたスズキに適用した。Von Bertalanffy モデルによると,両海域ともに成魚期には雌が雄よりも同年齢では大型であった。また,仙台湾で成長が速く極限サイズも大きかった。両海域ともに成熟開始年齢前後から成長率が減少し,エネルギー配分が成長から成熟へ変化することが示唆された。成長速度や極限体長の海域間差は,水温と餌生物生産力の差を反映したものと推察された。

85(1),81-98 (2019)
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ソウギョの多量体免疫グロブリン受容体(pIgR)の特性と Flavobacterium columnare に対する pIgR と免疫グロブリンの免疫応答

Guojing Xu,Qinglei Meng,Zhuang Li,Gongtai Tian,
Chao Wang,Junxia Gong,Jinlu Zhang

 多量体免疫グロブリンの取り込みは,主に多量体免疫グロブリン受容体(pIgR)によって調節され,それは免疫系を活性化し,病原体の侵入から防御することができる。本研究では初めて,ソウギョの pIgR の完全長 cDNA 配列解析と発現について調べた。pIgR は皮膚,えら,腸および肝臓において mRNA の高い蓄積が見られた。さらに,pIgR およびその 2 つのリガンド(IgM および IgZ)の Flavobacterium columnare に対する免疫応答を調べた。IgM および IgZ の転写のパターンは,pIgR のそれと類似していた。
(文責 廣野育生)

85(1),101-112 (2019)
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涸沼の塩性湿地の微小生息場所間における魚類群集構造の比較

金子誠也,加納光樹,佐野光彦

 涸沼の塩性湿地に設定した 3 つの微小生息場所(クリークの上流部と下流部および湿地前縁部)で魚類を採集し,群集構造を比較した。魚類の種数と個体数はクリーク上流部に比べて湿地前縁部で多く,種組成も両者の間で大きく異なっていた。このような群集構造の違いは,餌資源量(アミ類,ユスリカ類幼虫,デトリタスなど)のほか,水深や溶存酸素量,底質が微小生息場所間で異なることと関連付けられ,生物的・非生物的要因が微小生息場所を通じた魚類の分布パターンに影響を及ぼすことが示された。

85(1), 113-125 (2019)
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ウニにおけるビテロジェニン様タンパク質の精製および生化学的解析

西宮 攻,寺岡慶彦,後藤孝弘,由比智春,
樋口一郎,浦 和寛,都木靖彰

 エゾバフンウニ Strongylocentrotus intermedius とキタムラサキウニ Mesocentrotus nudus の生殖巣より主要卵黄タンパク質(MYP)とは異なる新規卵黄タンパク質の精製を行った。同タンパク質を質量分析によるタンパク質同定に供した結果,ともにビテロジェニン様(Vtg-like)であった。精製した両種の Vtg-like は糖類と脂質と結合していた。両種において Vtg-like は卵巣,精巣ともに存在すること,また雌においては未受精卵に存在することが確認された。

85(1), 127-135 (2019)
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ヘッドスペース固相マイクロ抽出/ガスクロマトグラフィー質量分析法によって検討したアゲマキガイに含まれる揮発性物質に対する塩分の影響

Zhaoshou Ran,Sijia Zhang,Yilei Zhu,Aiying Ke,
Jilin Xu,Yanrong Li,Kai Liao,Shuang Li,
Yun Ran,Xiaojun Yan

 良好な臭いを持つ揮発性物質は生および加熱した海産食品特有の特徴である。しかし,海産二枚貝の揮発性物質に対する塩分の影響については不確かなままである。この研究では,さまざまな塩分の下で養殖された生および加熱したアゲマキガイの揮発性物質をヘッドスペース固相マイクロ抽出/ガスクロマトグラフィー質量分析法によって調査した。生のサンプルからは全部で 28 種の揮発性物質が同定され,主に,1-pentanol, 1,5-octadien-3-ol, 1-octen-3-ol を含有していた。加熱したサンプルからは合計 41 種の揮発性物質が決定され,pentanal, 1-pentanol, hexanal が優先していた。生か加熱かにかかわらず,高塩分で養殖されたアゲマキガイの方がより豊富な揮発性物質を含んでいた。低塩分で養殖したアゲマキガイを収獲前の数日間高塩分で養育すると揮発性物質含有量は大きく改善した。
(文責 桑野和可)

85(1), 137-146 (2019)
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バナメイ用飼料における魚粉代替原料としての単細胞タンパク質の評価

Ali Hamidoghli,Hyeonho Yun,Seonghun Won,
SuKyung Kim,Nathaniel W. Farris,Sungchul C. Bai

 バナメイ用飼料において,細菌由来タンパク質 PROTIDE(PRO)による至適魚粉代替率を検討した。PRO による魚粉代替率を 0-40% まで5 段階に調整した飼料を,平均体重 0.15 g の稚エビに 9 週間給与した。終了時体重,増重率,増肉計数は,代替率 0 および 10% 区が,30 および 40% 区よりも有意に優れた。筋肉および全魚体のタンパク質含量は,飼料中 PRO 含量の増加にともない上昇した。バナメイ用飼料における PRO の至適魚粉代替率は,アミノ酸を補足しない場合には 10-20% であると考えられた。
(文責 古板博文)

85(1), 147-155 (2019)
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コンニャク・オリゴ糖添加飼料のコイ科魚類 Schizothorax prenanti の血清中および腸管における免疫活性に及ぼす影響

Mingrui Chen,Yinglong Wu,Qiuping Yan,
Jiaqi Zhao,Limei Feng,Mei He,Zhenzhen Lv

 コンニャク・オリゴ糖(KOS)添加飼料を Schizothorax prenanti に与えて血清中および腸管の免疫活性,腸管細菌叢に及ぼす影響を調べた。対照飼料とこれに KOS を 0.4%(低 KOS)あるいは 1.6%(高 KOS)添加した飼料を給餌したところ,血清中の代替溶血性補体活性(CH50),補体 C3 量,一酸化窒素量の増加,マロンジアルデヒドの減少が高 KOS 群で,有意なスーパーオキシドディスムターゼ活性が両 KOS 群でみられた。乳酸菌レベルは高 KOS 群で増加したが,Aeromonas 属細菌は両 KOS 群で減少した。高 KOS 群では腸管のリゾチームと酸性ホスファターゼの活性が上昇した。また,腸管の免疫関連遺伝子では,Toll-like receptor 22,TNF-α と IL-1β が発現上昇した。
(文責 佐野元彦)

85(1), 157-165 (2019)
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分光光度法による様々な LED 照明下で培養された Nannochloropsis oculata の栄養塩欠乏下の代謝様態変化の把握

松井英明,安樂和彦,小谷知也

 本研究は,各種 LED 照明下で N. oculata を培養した時,吸光度比 Abs490/Abs680 が栄養塩欠乏に伴う代謝様態の変化の指標になるか調べた。全ての LED 条件で,Abs490/Abs680 が減少から上昇に転じる時に,パルミチン酸とエイコサペンタエン酸の含量とクロロフィル a 含量が変化した。この時の吸光度比と代謝産物含量は,赤色 LED 試験区を除き有意な相関関係にあった。630 nm の赤色光を抑えれば,分光光度法は N. oculata の代謝様態の変化を把握するのに用いられる可能性がある。

85(1), 167-176 (2019)
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Aeromonas veronii bv. sobria とリポ多糖による攻撃後のスッポン Pelodiscus sinensis の腸粘膜組織における上皮内リンパ球,杯細胞および免疫グロブリン遺伝子の応答について

Jiehao Xu,Hanxiang Chen,
Wanrong Zhang,Haisheng Xu

 Aeromonas veronii bv. sobria(Avs)とリポ多糖(LPS)に対するスッポン腸粘膜免疫を評価するために実施した。上皮内リンパ球(IEL)および杯細胞の数の有意な増加は Avs による攻撃の 12 時間後から観察され,LPS では 48 時間で観察された。免疫グロブリン M(IgM)mRNA の発現も 12 時間から 24 時間の間に増加し,その後 96 時間で減少した。IgM mRNA の発現は,48 時間を除いて対照群におけるそれより有意に高かった。対照的に,IgD mRNA の発現は,対照群と比較して有意差を示さなかった。この結果は,スッポンにおける IEL,杯細胞および IgM が腸管粘膜免疫に関与していることを示唆した。
(文責 廣野育生)

85(1), 177-185 (2019)
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Aeromonas hydrophila 経口感染時のソウギョの腸管における Bacillus subtilis の投与効果

Ding Zhang,Zhixin Wu,Xiaoxuan Chen,
Huan Wang,Daoyuan Guo

 B. subtilis Ch9 株あるいは対照としてリン酸緩衝液を 3 日間投与したソウギョに A. hydrophila を経口感染させた。経時的に腸管を採取し,TUNEL アッセイ,caspase-3,-8 および bcl-2 の遺伝子発現解析,病理組織学解析,caspase-3,-8 の活性測定を行った。B. subtilis 投与による腸管細胞のアポトーシスの誘導および caspase-3,-8 活性の上昇,腸管組織損傷の軽減が見られた。しかし,caspase-3,-8 と bcl-2 の遺伝子発現の顕著な上昇はなかった。これらの結果は,B. subtilis Ch9 株投与が A. hydrophila 感染時に腸管アポトーシスを増加させること,また,caspase 依存性のアポトーシスが腸管組織損傷の軽減に重要な役割を果たしていることを示唆する。
(文責 佐野元彦)

85(1), 187-197 (2019)
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Chlorella vulgaris の飼料添加はティラピアに対する亜ヒ酸ナトリウム慢性毒性を改善する

Eman Zahran,Walaa Awadin,Engy Risha,
Asmaa A. Khaled,Tiehui Wang

 本研究では,ティラピアに対する亜ヒ酸ナトリウム慢性毒性を Chlorella vulgaris(Ch)の飼料添加により緩和することが可能かどうかを病理組織学的,生化学的ならびに免疫学的な指標により評価を行った。亜ヒ酸ナトリウム 7 ppm に 21 日間浸漬暴露したティラピアの鰓,肝臓及び腎臓に毒性所見が観察された。血液生化学検査では,ALT,AST,ALP,尿素窒素及びクレアチニンの上昇と Na+ 及び総タンパクの低下が見られた。さらに,IL-1β,TNF-α 及び TGF-β1 の遺伝子発現量は亜ヒ酸ナトリウムへの暴露により顕著に上昇した。一方,これらの毒性所見は飼料への Ch 添加量に依存して軽減された。
(文責 舞田正志)

85(1), 199-215 (2019)
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ゲノム編集ツール導入法であるマイクロインジェクション法のトラフグ Takifugu rubripes 及びマダイ Pagrus major における最適化

岸本謙太,鷲尾洋平,村上 悠,片山貴士,
黒柳美和,家戸敬太郎,吉浦康寿,木下政人

 トラフグ及びマダイにおいて,効率的に授精卵へゲノム編集処理を行うために,マイクロインジェクション(MI)の条件:(1)授精卵の浸漬溶液,(2)授精後の経過時間,(3)採卵後の経過時間を最適化した。その結果,トラフグでは浸漬溶液に生理食塩水の岩松溶液または希釈海水を用いること,人工授精を 15 分間隔で採卵後 2.5 時間まで行うことが,マダイでは浸漬溶液に Leibovitz's L-15 溶液または岩松溶液を用いること,人工授精を 10 分間隔で採卵後 2.5 時間まで行うことが高生残率かつ多数の卵を処理可能な MI 法の条件であることを示した。

85(1), 217-226 (2019)
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ATP はサメミオシン Ca-ATPase の尿素変性を抑制する

緒方由美,木村郁夫

 海産サメ類は高濃度の尿素を蓄積しているが重篤な筋疾患を起こさない。理由としてサメ類タンパク質の尿素抵抗性とメチルアミン類が尿素の影響を相殺することが示唆されている。本研究ではアカシュモクザメミオシンの尿素変性に対する ATP の保護効果を Ca-ATPase 活性を指標として検討した。ATP 共存下でサメミオシンに尿素を添加して一定温度で保持すると,Ca-ATPase 活性の失活は一次反応式に従うが,初期の遅い変性と後期の速い変性の 2 相性を示した。後期の速い変性は ATP の消失に対応していた。ATP はサメミオシンの尿素変性を抑制することが明らかとなった。

85(1), 227-235 (2019)
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トラフグとマフグの自然交雑個体における TTX の体内分布

辰野竜平,宮田祐実,吉川廣幸,井野靖子,
福田 翼,古下 学,髙橋 洋

 山口県および島根県沿岸で採取されたトラフグとマフグの雑種と思われる 10 個体について遺伝学的手法を用いて両親種を判別したところ,両種の雑種第一世代が 9 個体(トラフグ母系 5 個体,マフグ母系 4 個体),トラフグ方向への戻し交配が 1 個体見いだされた。各個体の皮,筋肉,肝臓,および生殖腺の TTX 濃度を測定したところ,皮,肝臓,および卵巣から高い濃度の TTX が検出されたことに加えて,マフグ母系の雑種第一世代の筋肉から低濃度(<0.1-1.1 μg/g)の TTX が検出された。一方で,精巣から TTX は検出されなかった。

85(1), 237-245 (2019)
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ブリ肉の氷蔵中における臭い変化に対する窒素置換の効果

北林佳織,谷本昌太,菊谷遙香,
大北智子,馬渕良太,下田満哉

 ブリ肉(4.0±0.4 kg)の氷蔵中における臭い変化,脂質酸化および色の変化に対する窒素ガス包装(NGP)の効果を検討した。NGP は,貯蔵中の血合肉の褐変と脂質酸化を抑制した。また,NG は,主に血合肉に生じる揮発性成分の貯蔵中おける増加を抑制した。ガスクロマトグラフィー-嗅ぎ分析の結果,NGP した血合肉で感知される臭い成分の数は,貯蔵前と比べて減少した。すべての官能評価項目において,含気貯蔵の血合肉の評価値が貯蔵前と比べて有意に増加するのに対して,NGP した血合肉のそれらの有意な増加は認められなかった。以上の結果から,NGP がブリ肉の氷蔵中における品質劣化(脂質酸化,褐変,臭い変化)を防止する効果的な方法であることが示された。

85(1), 247-257 (2019)
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技術開発が養殖業及び漁獲漁業に及ぼす影響

ジェ・ボン・チャン,ユンスク・イ

 水産物に対する需要が高まる中,水産資源の開発が進んでいる。養殖業の生産性を向上させ,また漁獲漁業の持続可能な開発を行うため,多くの国では技術開発を政府が支援している。本研究は,このような政府支援が養殖業及び漁獲漁業の生産に与える影響を推定した。養殖業及び漁獲漁業の投入量,技術開発,養殖及び漁業生産量の関係を分析した結果,技術開発は養殖業及び漁業の生産量を向上させたことが示された。また,政府支援が民間による技術開発を活性化させ,この結果,養殖業及び漁獲漁業の生産が向上した点が示唆された。
(文責 八木信行)

85(1), 259-269 (2019)
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