Fisheries Science 掲載報文要旨

[特集] 沿岸複合生態系

緒言:沿岸海域における生物生産の構造的機能的単位としての沿岸複合生態系

渡邊良朗,河村知彦(東大大気海洋研),
山下 洋(京大フィールド研セ)

 沿岸海域は,河口域,岩礁域,サンゴ礁などの相対的に独立した個生態系(IE)から構成される。IEは栄養塩や有機物の循環と生物の移動によって密に連関して沿岸複合生態系(CEC)を形成する。CECは,種多様度が高く,漁業養殖業生産において大きな役割を果たし,重要な人間活動の場となっている。CECの構造と機能の理解に基づいて,沿岸海域の保全と持続的な生産を促進することを目的として,本特集号を編んだ。

84(2), 149-152 (2018)
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スズキ稚魚のユニークな回遊パターン―その巧みな生き残り戦略(総説)

笠井亮秀(北大院水),冨士泰期(水産機構東北水研),
鈴木啓太,山下 洋(京大フィールド研セ)

 スズキは沖合で産卵し,卵稚仔は沿岸域へと輸送される。その後,稚魚の一部は河川を遡上するが,一部は沿岸域に留まる。その際,潮汐の大きい河川では潮流を利用し,小さい河川では塩水楔を利用する。河川を遡上した個体は豊富な餌により高成長を遂げる。エスチュアリ―は高生産なので多くの魚の重要な成育場となっているが,狭いうえ,環境の変化も大きい。丹後海ではスズキ親魚の40%近くが成育場としてエスチュアリ―を利用している。エスチュアリ―と沿岸域の両方を生育場として利用できることが,スズキ資源を安定させる鍵である。

84(2), 153-162 (2018)
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強成層型河口域におけるスズキ稚魚の遡上メカニズム

冨士泰期(京大院農),笠井亮秀(京大フィールド研セ),
山下 洋(京大フィールド研セ)

 潮汐が小さく,下層で塩水が楔状に遡上するため成層しやすい由良川河口域において,スズキLateolabrax japonicus稚魚と塩水楔の分布を調べた。2009年から2012年の全ての年において,塩水遡上と稚魚分布が上流側へ拡大する時期が一致しており,稚魚が塩水遡上を利用して河口域に進入していると考えられた。一方で,塩水が遡上しても稚魚が河口域に進入しない状態も見られた。そこで,稚魚遡上開始日齢と平均経験水温の関係を調べ,稚魚の遡上に対する水温の影響を評価した結果,有効積算水温が約500℃・日となった段階で稚魚の遡上が始まることが分かった。

84(2), 163-172 (2018)
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東北地方太平洋岸におけるヒラメ当歳魚の成長に伴う生息場所変化:加入成功におよぼす影響

栗田 豊,岡崎雄二(水産機構東北水研),
山下 洋(京大フィールド研セ)

 仙台湾においてヒラメ当歳魚の成長に伴う生息場所変化と食性を調べた。夏季(6-8月)に着底した当歳魚は浅海域(<15m)に長期間(着底後1年),全長250mmになるまで生息可能であった。また,全長150-250mmの当歳魚は,浅海域と沖合域(30-80m)の双方に生息した。これらは,着底後2-3か月で沖合域に移出する他海域と大きく異なった。この海域特異的特徴は,浅海域において長期間餌が豊富であること,水温が高くなりすぎないことにより可能になり,また,本海域におけるヒラメの高い加入成功に寄与していると考えられた。

84(2), 173-187 (2018)
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エゾアワビにおける成長に伴う住み場の変化(総説)

高見秀輝(水産機構東北水研),
河村知彦(東大大気海洋研)

 本総説では,エゾアワビ天然集団の加入に関する研究論文を中心に渉猟し,本種の成長に伴う住み場変化の過程と変化が起こる要因について整理した。本種の住み場は,深所の無節サンゴモ群落から小型海藻群落を経て浅所の大型褐藻群落へと変化する。このような変化が起こる一因として,成長に伴う食性変化が考えられた。一方,成長に伴い捕食に対する耐性が向上すると微小な住み場環境が変化し,岩盤や転石の間隙など隠れ場から表出した場所へ移行する。エゾアワビの加入には,これらの多様な環境の維持が不可欠であると考えられた。

84(2), 189-200 (2018)
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相模湾長井沿岸におけるサザエの成長に伴う生息場と餌料の変化

早川 淳,大土直哉,河村知彦(東大海洋研),
黒木洋明(水研セ中央水研)

 相模湾長井沿岸の岩礁域において,着底直後の初期稚貝から成貝までのサザエの生息場を調査した。殻高10mm未満の稚貝は有節サンゴモ群落を,殻高50mm以上の個体はアラメやカジメの群落を主要な生息場として利用していた。また,9か月の給餌実験により,サザエ稚貝の成長にとってカジメよりもマクサが好適な餌料であることが明らかになった。飼育個体と野外から採集した個体の窒素および炭素の安定同位体比を比較した結果,野外においてもマクサが重要な餌料であること,サザエの成長に伴う明瞭な餌料の変化は生じないことが示唆された。

84(2), 201-209 (2018)
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相模湾長井沿岸に生息するヨツハモガニPugettia quadridensの成長に伴う生息場変化

大土直哉,河村知彦,早川 淳(東大大気海洋研),
黒木洋明(水研機構中央水研),
渡邊良朗(東大大気海洋研)

 アワビ類稚貝の捕食者に想定されるヨツハモガニについて,相模湾長井沿岸における出現動態を調査した。沿岸域の11の生息場を調査対象とし,甲幅組成と雌雄の発達段階組成の経月変化を生息場毎に解析した結果,本種は潮下帯の小型紅藻群落を初期生息場とし,その後成長した個体の大部分が,冬から初夏にかけて低潮線付近のヒジキ群落に移動することがわかった。周年を通じて,無節サンゴモ群落に生息するアワビ類稚貝から生息場スケールで隔絶されていることから,本種による捕食が暖流系アワビ類資源量に与える影響は限定的と考えられる。

84(2), 211-225 (2018)
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北海道厚岸水域ニシンの生活史初期における成育場利用

白藤徳夫(水産機構東北水研),
中川 亨,村上直人,伊藤 明,
鬼塚年弘(水研機構北水研),
森岡泰三(水産機構西海水研),
渡邊良朗(東大大気海洋研)

 北海道東部太平洋岸の厚岸湾と厚岸湖で,ニシンの卵,仔稚魚の分布を調べた。卵は4月に湖東部奥域の植生密度が高いアマモ場に分布したが,仔魚は湖奥域の植生密度が低い砂泥域に分布した。稚魚は湖奥域の水温上昇に伴い徐々に分布域を湖西部に変え,8月に湖内全域の水温が20℃に近づくと水温が低い湾域の底層へ移動した。本種は初期発育に伴って異なる成育場を連続的に利用していること,資源量高水準期の1960年代には卵仔魚が湖内と湾内全域に分布したが,低水準期の近年では卵仔魚の分布が湖内に限定されていることがわかった。

84(2), 227-236 (2018)
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北海道東部海域におけるアサリRuditapes philippinarumの浮遊幼生期と底生期の連結性

長谷川夏樹(水産機構増養殖研),
阿部博哉(北大院環境科学),
鬼塚年弘,伊藤 明(水産機構北水研)

 北海道東部の厚岸湖および厚岸湾域において,アサリRuditapes philippinarumの浮遊幼生期と底生期の連結性に関する研究を行い,その複合的な沿岸生態系の利用について検討した。野外調査の結果,アサリ漁場が形成されている厚岸湖から産卵放出された浮遊幼生の大半は厚岸湾に分散することが明らかとなった。また,数値計算の結果,エスチュアリー循環によって湾の中・底層から湖へ浮遊幼生が移送され,浮遊幼生の再回帰と漁場への稚貝着底に貢献することが示され,その効率は河川流量や風向によって変化した。

84(2), 237-249 (2018)
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舞鶴湾におけるマナマコの成長段階別の分布特性と環境要因の関係

南 憲吏(北大フィールド科セ),
澤田英樹,益田玲爾,高橋宏司(京大フィールド研セ),
白川北斗(北大フィールド科セ),
山下 洋(京大フィールド研セ)

 京都府舞鶴湾の親ナマコと稚ナマコの分布特性を明らかにし,底質環境との関係を解析した。親ナマコは禁漁区に近い湾の北東に多く,稚ナマコは湾の中央で多く採集された。親ナマコは海由来の有機物が豊富で海岸地形の急峻な地点に多く,サイズが大きくなるに伴い深い水深に分布を拡大する傾向がみられた。親ナマコの生息地と稚ナマコの生息地の連続性が本種の資源を維持する上で重要と考えられた。

84(2), 251-259 (2018)
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藻場内で混生する2種の海草種組成の時空間変異:漁獲対象となるエビの個体群管理への影響

遊佐貴志(東京農大生物産業・青森水総研),
小路 淳(広大院生物圏科),
千葉 晋(東京農大生物産業)

 アマモとスゲアマモからなる能取湖の藻場において両海草種の組成の時空間変異を調べ,それらの生息場所としての質を考察した。長期間隔(17年)での比較では各種の相対量と分布域は湖内で大きく変化していた。短期(4か月)ではスゲアマモの量はアマモの量,水深,地点の影響を受けており,海草種間で構造差が観察された。表在性動物の多様性に海草種は関係しなかったが,有用種であるホッカイエビに着目したところ,本種はスゲアマモで多かった。本研究は海草の種構成の変化が藻場の生息場所としての質に影響しうることを示した。

84(2), 261-273 (2018)
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亜寒帯域のアマモ場における魚類群集の昼夜変化

田中拓希(南海放送(株)・広大院生物圏科),
千葉 晋(東京農大生物産業),
遊佐貴志(青森水総研),小路 淳(広大院生物圏科)

 季節・昼夜ごとの魚類相調査と生物・物理環境調査を亜寒帯に位置する北海道能取湖のアマモ場で実施した。魚食性魚類の平均種数,分布密度,湿重量,および魚類群集の平均栄養段階(湿重量による加重平均)は,調査したすべての季節において日中に比べて夜間に大きく,外部生態系からアマモ場へ魚食性魚類が訪問することにより,稚魚・小型魚類の被食リスクが夜間に増大することが示唆された。アマモ場は,日中には稚魚・小型魚類の被食シェルターとなる一方で,夜間には水産業上重要な魚食性魚類の摂餌場としても機能する可能性がある。

84(2), 275-281 (2018)
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貧栄養化環境下での持続的沿岸漁業へ向けた複合生態系による沿岸統合管理

堀 正和,濵岡秀樹(水産機構瀬水研),
廣田将仁(水産機構中央水研),
Franck Lagarde,Sandrine Vaz(フランス海洋開発研,仏国),
浜口昌己(水産機構瀬水研),
法理樹里,牧野光琢(水産機構中央水研)

 水産業と水質改善の調和を目指すことは沿岸域の生態系サービスの持続的利用に不可欠である。本稿では複合生態系の概念をカキ養殖と海草藻場との相互作用に用い,生態学,社会経済学,心理学からなる学際的研究による沿岸統合管理について紹介する。その第一歩として,潮間帯のカキ礁と潮下帯の海草藻場が隣接する海洋景観は日本沿岸の本来の複合生態系の姿であり,この景観復元により生物生産の本来の過程を再構築し,栄養塩を添加することなく,生産効率の改善によって生物生産の強化と生態系サービスの質の向上を目指している。

84(2), 283-292 (2018)
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沿岸複合生態系モデリング:現状と挑戦(総説)

伊藤幸彦(東大大気海洋研),
竹茂愛吾(水産機構国際水研),
笠井亮秀(北大院水),木村伸吾(東大大気海洋研)

 沿岸複合生態系(CEC)モデリングに関連する概念と,既存モデルのレビューを行った。CECモデル開発は概念モデルのステージにあり,数値モデルに至るには特定モデルの開発と既存モデルの活用の2つの経路があり得る。CECモデル構築には,4つの生態学的要素(個体群の連結性,ハビタットの不均質性,個体発生,栄養段階の相互作用)を考慮することが必要であり,様々なモデルがこの要素に基づいて分類された。既存モデルを修正すべき点として,ハビタットの機能,初期生活段階における個体発生的成長,加入変動が挙げられた。

84(2), 293-307 (2018)
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中西部太平洋におけるカツオ漁業:ニューラルネットワークの生息地選択推定への適用

Jintao Wang, Xinjun Chen(上海海洋大,中国),
Kevin W. Staples, Yong Chen(メイン大,米国)

 中西部太平洋のカツオの生息地選択の空間モデルが,ニューラルネットワークを用いて開発された。モデルは,漁業データと表面水温等の海洋環境データを用いて作成された。カツオの資源量指数は単位努力量当り漁獲量,漁獲量,努力量とした。選択された最適モデルの正確さと安定性,独立変数の寄与,空間的感度解析の分布は,応答変数である資源量指数に依存した。クロロフィルαは生息地選択において最も有意な海洋要因であった。これらの結果は,カツオの生息地選択のモデル化へのニューラルネットワークの適用の理解を向上させる。
(文責 平松一彦)

84(2), 309-321 (2018)
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トロール網と拡網板の様々な組み合わせによる模型実験を用いた省エネルギー型中層トロールの開発

Jihoon Lee(全南大),
Chun-Woo Lee(釜慶大),
Songho Park,Jieun Kim (BM International),
Subong Park(釜慶大),
Taeho Kim(全南大,韓国)

 漁業による温室効果ガス排出の環境への影響が問題視されている。温室効果ガスは主に操業時の燃油消費時に排出され,燃油消費は移動時の抵抗と距離に関係する。本研究では水槽模型実験に基づき,操業時の燃油消費を削減するための新しく設計されたトロール網と拡網板が提案された。これにより中層トロールでは漁具に作用する抵抗は37.5%低減され,一航海時の燃油は17%削減される。本研究では省エネルギー型トロールの経済的効果についても調査された。得られた成果は,漁業による温室効果ガス排出とこれに伴う操業経費削減について有益な知見を与えるだろう。
(文責 髙木 力)

84(2), 323-334 (2018)
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チューニングVPAにおける資源量指数の非線形性の影響

橋本 緑,岡村 寛,市野川桃子(水産機構中央水研),
平松一彦(東大大気海洋研),山川 卓(東大院農)

 チューニングVPAで使用される資源量指数は,通常,実際の資源量と線形関係にあると仮定されるが,この仮定が成り立たない場合,非線形性が資源量推定値の偏りやレトロスペクティブバイアスを生じ,資源評価の信頼性を損なう恐れがある。非線形性を表すパラメータを推定する手法を用いたチューニングVPAにより,非線形性が偏りなく推定され,資源量推定値の偏りやレトロスペクティブバイアスが大きく軽減されることを確認した。また,本手法を日本の水産資源へ適用する場合の妥当性を評価し,資源評価の信頼性を高めることを示した。

84(2), 335-347 (2018)
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ホタテガイ漁場におけるマヒトデAsterias amurensis の超音波テレメトリーを利用した行動追跡

三好晃治(網走水試),桒原康裕(網走水試),
宮下和士(北大フィールド科セ)

 ホタテガイの捕食生物であるマヒトデに対して,超音波テレメトリーによる行動追跡技術を開発するとともに,ホタテガイ漁場における季節的な移動パターンおよび移動速度を解明した。本研究の結果,マヒトデの行動を2か月以上追跡することが可能となった。また,マヒトデは夏よりも春に活動量が有意に増し,春には最大45.9m/時以上の速度で移動することが明らかとなった。これらのことから,マヒトデの駆除範囲を漁場外へ一部拡大することが捕食被害の軽減に有効と示唆された。

84(2), 349-355 (2018)
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長江水域における生活史初期のキグチの分布

Nan Lin, Yuange Chen, Yan Jin, Xingwei Yuan,
Jianzhong Ling, Yazhou Jiang (中国水産科学研究院東シナ海水研,中国)

 2015年4-8月に長江水域で行った6回の魚類プランクトン調査からキグチLarimichthys polyactis幼期の分布を調べた。総計7個の卵と2461個体の仔稚魚を採集した。これらの個体数が最も多かったのは5月中旬で,7月中旬に最も少なくなった。発育段階別の個体密度は6回の調査でいずれも後屈曲期仔魚と稚魚が優占したが,発育段階により異なる水平分布パタンを示した。卵および卵黄期,前屈曲期仔魚は水深30mを超える測点で主に採集されたのに対し,後屈曲期仔魚と稚魚は長江河口の比較的水深の浅い水域に出現した。以上のことから,長江周辺でキグチの産卵数は減少しており,過去に較べてその産卵場としての機能が低下しているものの,依然として本種生活史初期の生育場としての役割を大きく果たしていると考えられる。
(文責 阪倉良孝)

84(2), 357-363 (2018)
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オニテナガエビ・ゾエアMacrobrachium rosenbergiiの薄明下における色覚閾値

川村軍蔵(サバ大海洋研,マレーシア),
Teodora Uy Bagarinao (SEAFDEC養殖部局,フィリピン),
Annita Seok Kian Yong,Aishah Binti Faisal,
Leong-Seng Lim(サバ大海洋研)

 本研究では色覚が行動学的に実証されているMacrobrachium rosenbergiiゾエアの自然光薄明下における色覚閾値を行動学的に調べた。ゾエア飼育水槽に4種の異なる色のビーズを様々な組合せで垂下し,夫々のビーズに誘引されて蝟集するゾエアの数を記録した。ゾエアは418-0.07cd/m2の明るさでは青と白に対する明瞭な嗜好性を示したが(χ2検定),0.02cd/m2では色嗜好性が消失し,色覚閾値は0.07cd/m2と0.02cd/m2の間であることが示された。ゾエアの像眼の光学系要素は夜行性昆虫のそれらに相当する大きさで,集光に有利な大きな光学系要素が薄明下の色覚を可能にしていると考えられた。

84(2), 365-371 (2018)
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大阪湾におけるカタクチイワシシラス期の成長と環境の関係

山本圭吾(大阪環農水研),斉藤真美(JANUS),
山下 洋(京大フィールド研セ)

 2008年に大阪湾でカタクチイワシシラスの成長の季節変化を耳石日周輪解析により調査し,環境要因との関係を検討した。シラスの漁獲前5日間の日間成長量は5月から7月と10月に増加する二峰型を示した。環境要因では水温およびカイアシ類ノープリウス幼生密度との間で関係が認められ,水温では約23℃で最大成長温度となるドーム型を示した。本研究により,カタクチイワシシラスの日間成長量は,23℃までは水温の上昇と共に増加するが,より高水温では餌密度や貧酸素などの他の要因によって制限されることが示唆された。

84(2), 373-383 (2018)
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粗製テンカワン果実(Shorea macrophylla)脂のコイ科魚 Tor tambroidesの脂質源としての利用に関する研究

Mohd Salleh Kamarudin, Mahkameh Lashkarizadeh Bami,
Aziz Arshad, Che Roos Saad, Mahdi Ebrahimi(マレーシアプトラ大,マレーシア)

 テンカワン果実はコイ科魚 Tor tambroidesなどの餌となっている。本研究では,T. tambroides稚魚の生育特性,体組成,脂肪酸組成に及ぼす粗製果実脂の影響について検討した。5つの異なる量の粗製果実脂を加えた餌を各3群で12週間給餌した。各試験区間における生存率,生育などの違いは観察されなかった。筋肉中の多価不飽和脂肪酸値は粗製果実脂0%試験区で有意に高かった。粗製果実脂はT. tambroidesなどの成長などに対して悪影響を及ぼさないことが示唆された。しかし,脂質,エネルギーおよび筋肉中多価不飽和脂肪酸の保持において,粗製パーム油に劣っていた。
(文責 廣野育生)

84(2), 385-397 (2018)
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水温がハタ科交雑種(雌アカマダラハタEpinephelus fuscoguttatus×雄タマカイE. lanceolatus)の生残,摂餌および成長に与える影響

Zhe Zhang, Zhangwu Yang(福建省水産研究所),
Ning Ding(河源出入境検験検疫局),
Weiwei Xiong (復旦大学附属小児科医院),
Guofu Zheng, Qi Lin(福建省水産研究所),
Gen Zhang (Shenzhen GenProMetab Biotechnology,中国)

 ハタ科交雑種Pearl gentian grouper(アカマダラハタEpinephelus fuscoguttatus ♀×E. lanceolatus ♂)は中国南東岸の重要な商業種であるが,飼育適水温は中国ではまだ報告がない。本研究では,本交雑種(121.62±10.08g)を6つの異なる水温(9, 14, 19, 24, 29, 34℃)で30日間飼育し,生残,摂餌および成長を比較した。生残率は水温上昇とともに向上した。飼育水温が14℃以下になると,魚の摂餌は止まり,18日以内に全滅したのに対し,29および34℃では生残率は100%であった。水温が高いほど摂餌率と増重量は高くなり,34℃で最も高くなった。29℃で飼育すると飼料転換効率は最も低くなった。成長速度と水温の間の回帰曲線の解析により,本交雑種の成長に最適な飼育水温は32.4℃と予想され,中国における本交雑種の飼育に重要な知見であると考えた。
(文責 阪倉良孝)

84(2), 399-404 (2018)
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海洋環境から単離したBurkholderia sp. AIU M5M02によるマンニトールを単一炭素源としたポリ(3-ヒドロキシブタン酸)の合成

山田美和(岩大農・岩大復興機構),
幸田有以,花角優太,山端勇貴,
森谷大樹,宮崎雅雄(岩大農),
山下哲郎(岩大農・岩大復興機構),
下飯 仁(岩大農)

 廃棄海藻を利用したバイオプラスチックの微生物合成を目指し,本研究では,アルギン酸やマンニトールを利用可能なポリヒドロキシアルカン酸合成菌を探索した。結果,マンニトールを単一炭素源とした際,ポリ(3-ヒドロキシブタン酸)[P(3HB)]を合成するBurkholderia sp. AIU M5M02を海泥から見出し,本菌がP(3HB)を高蓄積する培養条件を検討した。また,本菌はマンニトール以外の炭素源を用いた際もP(3HB)を合成したため,多様な原料をP(3HB)合成に利用できる可能性が示された。

84(2), 405-412 (2018)
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即席食品としてのクラゲRhopilema esculentumの異なる前処理効果

Xiuping Dong, Xinru Fan, Yang Wang, Libo Qi,
Shuang Liang, Lei Qin(大連工業大・国立シーフード加工研セ,中国),
Chenxu Yu(国立シーフード加工研セ,中国・アイオワ州立大,米国),
Beiwei Zhu(大連工業大・国立シーフード加工研セ)

 異なる前処理をした塩漬けクラゲ製品の即席食品としての評価を行った。脱塩後,異なる温度と時間で漂白した。サンプルの水分含有量,色特性,テクスチャー,微細構造を調べるとともに官能評価を行った。微生物増殖についても調べた。水分含有量および白色度は,長時間加熱すると減少し,温度が高いほど変化が速く起こった。熱処理なしの試料の含水率は加熱した試料に比べて約3%高かった。70℃の熱処理は,クラゲの色に影響を与えた。60℃処理に1分間の試料が最適な熱処理であることが示された。加熱,酸浸漬,紫外線滅菌およびソルビン酸カリウム処理の組み合わせは,クラゲ製品の貯蔵期間を延ばすことが示された。
(文責 廣野育生)

84(2), 413-422 (2018)
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