Fisheries Science 掲載報文要旨

異種間増幅を利用したカタクチイワシ Engraulis japonicus における遺伝子領域の一塩基多型マーカー開発

Iratxe Monte,Mikel Iriondo,Carmen Manzano,
Andone Estonba(バスク大,スペイン)

 ヨーロッパカタクチイワシの一塩基多型(SNP)検出に設計されたプライマー/プローブの異種間増幅により,カタクチイワシの新規 SNP マーカーを開発した。451 の SNP マーカーがカタクチイワシで良好な増幅を示し,そのうち 176 が多型であった。核 SNP の平均ヘテロ接合体率は 0.102 で,ハーディ・ワインベルグ平衡からの有意な逸脱は認められなかった。二つのミトコンドリア DNA 上の SNP では,カタクチイワシ特異的アリルが認められたため,これらの SNP は本種を同定するマーカーとして利用できると考えられた。本研究で開発された SNP は,食品原材料の追跡や集団遺伝研究など,様々な課題に応用できるツールになる。
(文責 關野正志)

84(1), 1-7 (2018)
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ケンサキイカ幼稚仔における色素胞配列と発光器の形成

豊福太樹(佐賀玄海水振セ),
和田年史(兵庫県立大自然研)

 本研究はケンサキイカ幼稚仔における色素胞配列の経時的変化と,墨汁嚢上発光器の形成時期を明らかにした。飼育実験で得た外套背長 2.2-13.6 mm の幼稚仔において,本種の色素胞数とそれらの配列が記載され,一対の発光器は孵化直後(2.2 mm DML)から腹側墨汁嚢上に観察された。また約 7-9 mm DML の標本では色素胞数の著しい増加と,発光器の顕著な成長が観察され,本時期がパララーバから幼体への移行期と推察された。本結果は,日本近海において形態的特徴からケンサキイカ幼稚仔の種同定を可能とし,本種の資源管理に役立つと考えられる。

84(1), 9-15 (2018)
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ズワイガニに対するズワイガニ桿状ウイルス(CoBV)の実験感染

元林裕仁(三重大院生資),
宮台俊明(福井県大海洋生資),
一色 正(三重大院生資)

 CoBV に感染した血リンパ白濁症病ガニの磨砕濾液をズワイガニに接種し,2℃ と 2-8℃ で飼育する感染実験を行った。その結果,2℃ 群は 2-8℃ 群よりも急性に死亡し,本症の肉眼的・病理組織学的症状が再現された。血リンパと様々な組織中で CoBV-DNA コピー数の増加がみられ,2℃ 群の血リンパ中の本コピー数は生残個体よりも死亡個体で高かった。したがって,本疾病は CoBV の感染症であること,および CoBV のズワイガニに対する病原性は水温に依存し,病ガニはウイルス血症に陥って死亡することが判明した。

84(1), 17-24 (2018)
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ビスフェノール A はインディアンスネークヘッドの自然免疫に影響を及ぼす

Mamta Pandey,Soma M. Ghorai,Umesh Rai(デリー大,インド)

 本研究は内分泌攪乱物質であるビスフェノール A がインディアンスネークヘッドの脾臓貪食細胞における貪食能,スーパーオキシド産生能および一酸化窒素放出能に及ぼす影響について調べた。ビスフェノール A あるいは 17β-エストラジオールは有意にスーパーオキシド産生を増加させた。逆に,貪食能は低下し,一酸化窒素放出も低いものとなった。これらのことよりビスフェノール A はインディアンスネークヘッドの自然免疫応答に影響を与えることが示された。
(文責 廣野育生)

84(1), 25-31 (2018)
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稚ナマコの光走性,接触走性,重力走性および乱流に対する反応

山口真以,益田玲爾,山下 洋(京大フィールド研セ)

 稚ナマコが各種の刺激に対して示す反応性を検討し,本種の生息適地を理解する上での基礎知見とした。明暗を設けた水槽で稚ナマコは暗所を好んだが,水槽底の構造物の有無は稚ナマコの分布に影響せず,水槽内での鉛直的な位置への選好性も認められなかった。表層に乱流を発生させた水槽では水面に接する個体が有意に減少した。稚ナマコは明所を避けつつランダムに移動し,付着能力等にも制約された結果,カキ殻礁等の生息適地に定着するものと考えられた。

84(1), 33-39 (2018)
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シロウリガイ類長期飼育システムの宿主生存と共生菌保持に対する効果

生田哲朗(海洋研究開発機構),
杉村 誠,根本 卓(新江ノ島水族館),
青木 結(海洋研究開発機構),
多米晃裕(マリンワークジャパン),
山本正浩,齋藤正輝(海洋研究開発機構),
下川嘉樹(横浜市立大),
三輪哲也(海洋研究開発機構・横浜市立大),
長井裕季子,吉田尊雄,藤倉克則,豊福高志(海洋研究開発機構)

 化学合成細菌を内部共生させる深海性二枚貝シロウリガイ類は飼育が難しく,その生態の理解を深める障壁となっている。そこで泥の有機物から硫化水素を発生させる水槽にシロウリガイを入れ,環境計測,貝の生存率解析,共生菌数の定量,電子顕微鏡観察,共生菌 dsrA 遺伝子発現解析等を行い,当飼育法の評価を試みた。その結果,当水槽は共生菌数の維持に効果があることが示され,水槽由来の硫化水素の寄与が示唆された。しかし生残率の向上は統計的に有意でなく,硫化水素の安定供給や,酸素/二酸化炭素比の制御の必要性が示唆された。

84(1), 41-51 (2018)
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クルマエビ甲殻類雌性ホルモン様分子の cDNA クローニングと遺伝子発現解析

甲高彩華,大平 剛(神奈川大理)

 クルマエビ甲殻類雌性ホルモン(crustacean female sex hormone, CFSH)様分子の cDNA を単離した。クルマエビ CFSH 様分子はアオガニ CFSH と 38.9% の相同性しかなかったが,8 個のシステイン残基の位置と 1 箇所のアスパラギン結合型糖鎖の付加配列の位置は保存されていた。クルマエビ CFSH 様分子の遺伝子発現は雌雄の眼柄で観察された。遺伝子発現の局在を in situ ハイブリダイゼーションで調べた結果,終髄 X 器官,内髄 X 器官,外髄の周辺の細胞で陽性シグナルが観察された。

84(1), 53-60 (2018)
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DNA メチル化解析によるマガキ野生集団のエピジェネティック変異

Xin Zhang,Qi Li,Lingfeng Kong,Hong Yu(中国海洋大,中国)

 野生の無脊椎動物において,エピジェネティックな変異を生じる DNA メチル化がどのような働きをしているのかはほとんど分かっていない。そこで,中国と韓国に由来する野生マガキの計 7 集団についてメチル化感受性増幅多型(MSAP)解析を行った。計 636 座が検出され,ゲノム全体にメチル化が起こっていることを示していた。特に韓国に由来する集団について明瞭な分化が認められ,これは地理的な隔離と創始者効果の双方によって生じていると考えられた。本研究では,野生二枚貝の適応的なエピジェネティック変異に関する情報も得られた。
(文責 吉永龍起)

84(1), 61-70 (2018)
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中国長江における F2 カラチョウザメ Acipenser sinensis 稚魚の降海回遊行動

Chuan Wu,Lei Chen,Yong Gao,Wei Jiang(カラチョウザメ研究所,中国)

 孵化場で作出・養殖されたカラチョウザメの第 2 世代(F2)稚魚の降海回遊行動と分布を調べるため,PIT タグを用いた音響追跡と再捕調査を行った。長江上流で標識放流した稚魚は,下流に向かって 24.2-125.9 km/日(平均 88.5 km/日)で移動した。遊泳水深は 0.2-32.3 m(平均 10.4 m)で,河川の中層~上層を選好して遊泳した。標識した 61 尾のうち 21 尾(34%)が河口に到達した。標識魚の再捕調査により,河口域において F2 稚魚は天然魚と同様の分布を示すことがわかった。
(文責 黒木真理)

84(1), 71-78 (2018)
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超音波テレメトリー手法を用いた沿岸産卵場におけるニシンの回遊追跡

富安 信(北大院環・日本学術振興会 DC),
白川北斗(北大フィールド科セ),
飯野祐樹(東大大気海洋研),
宮下和士(北大フィールド科セ)

 沿岸の産卵場におけるニシン Clupea pallasii の回遊生態は,国内の本種資源の管理に不可欠な情報である。本研究では,超音波テレメトリー手法により北海道東部厚岸でのニシン地域個体群における産卵回遊を追跡した。2 種の回遊パターン(湖への回遊,湾での滞在)が観察され,前者は湖内での産卵に関連する行動であると考えられた。後者は産卵後の行動であると考えられたが,短期間で追跡が途絶えたことから,湾での受信調査の検知範囲や頻度よりも広い距離や時間スケールで回遊をしていたものと考えられた。

84(1), 79-89 (2018)
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ホタテガイ外套膜上皮組織の摂取は亜急性毒性を引き起こす

長谷川靖,板垣大介,今野喜和子,
長谷川千尋(室蘭工大院)

 ホタテガイ外套膜上皮組織を含む餌をラットに食餌させると食物摂取量が減少し,その後,死亡することを明らかにした。肝臓,腎臓組織の組織学的研究,および血液生化学的研究から肝臓,腎臓組織に障害が起きていることが示唆された。毒性を示す成分について検討したところ,麻痺性貝毒や下痢性貝毒とは異なる分子量 1 万以上の水溶性成分が毒性を示すことがわかった。以上の結果は,ホタテガイ組織には新たな毒性成分が存在していることを示している。

84(1), 91-100 (2018)
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コイおよびカンパチにおける有用プロバイオティクスとしての発酵食品由来乳酸菌株の選抜

Nguyen Thi Hue Linh(宮崎大院農工総合),
境健太郎(宮崎大産学地域・連携セ),
田岡洋介(宮崎大農)

 発酵食品由来乳酸菌を水産増養殖へ利用するために,分離株のプロバイオティック能力を評価した。分離 65 株のうち 3 株(GYP 31 株,L 15 株,K-C2 株)は,供試魚病細菌 Edwardsiella tarda, Streptococcus dysgalactiae, S. iniae 及び Lactococcus garvieae に対して拮抗作用を示し,pH 2.0-9.0, NaCl 濃度 0-5% の条件下で生残した。酸・人工胃腸液耐性試験において,K-C2 株は GYP 31 株及び L 15 株と比較して高い耐性能を示した。候補株として選抜した K-C2 株は,16S rRNA 遺伝子(1438 bp)に基づく系統解析により,L. lactis と同定された。In vitro で K-C2 株をコイ及びカンパチの腸粘液に 1010 cfu/mL で添加すると,それぞれ 62% 及び 58% が付着した。

84(1), 101-111 (2018)
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ガザミ幼生の生育能力に及ぼす親ガニとふ化後餌料の影響

團 重樹,山崎英樹(水産機構瀬水研),
浜崎活幸(海洋大)

 ガザミ種苗生産における形態異常と栄養不足に起因する幼生の大量死を防ぐための適正な餌料条件を検討するために,ナンノクロロプシスとアルテミアを用い,2 回の飼育実験を行った。各飼育実験とも 3 尾の親ガニからふ化した幼生を別々の容器に収容し,異なる餌料条件で飼育した。その結果,ふ化した幼生の特性は親ガニごとに大きく異なり,幼生の生残に適した餌料条件も各親ガニで異なっていた。したがって,ガザミ種苗生産の成否は,親ガニごとに異なる幼生の特性と飼育条件の適否によって決まるものと考えられた。

84(1), 113-126 (2018)
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逆相 HPLC による深海性イガイ類組織中の遊離アミノ酸およびタウリン関連化合物の一斉分析

長﨑稔拓(東大大気海洋研),小糸智子(日大生物資源),
根本 卓(新江ノ島水族館),潮 秀樹(東大院農),
井上広滋(東大大気海洋研)

 タウリン(Tau),ヒポタウリン(Hpt)は軟体動物に著量存在するが,生合成経路の情報が乏しい。アンモニア存在下の PTC 化による,Tau 関連化合物の安定的な一斉分析法を用い,深海熱水噴出域の固有種シチヨウシンカイヒバリガイの主要組織の分析を行った。鰓と消化腺は Tau, Hpt を多く含み,前駆物質も検出されたことから,主要な Tau/Hpt 合成組織と考えられた。シスタチオニンは各組織で検出され,前駆体として貯蔵されている可能性がある。また,閉殻筋は非含硫アミノ酸を含む遊離アミノ酸含量が高かった。

84(1), 127-134 (2018)
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ブリ肉各部位の冷蔵中における品質変化

谷本昌太(県立広島大),菊谷遙香(県立広島大院),
北林佳織(比治山大),
大北智子,有田梨乃,西村沙也加,竹本玲実,馬渕良太(県立広島大),
下田満哉(九州大院)

 ブリ(平均体重 5.4 kg)の品質変化を調べるために,各部位を冷蔵し,ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリーとにおい嗅ぎ分析(GC-O)を行った。GC-O により感知された 24 種類のにおいの中で 2,3-butanedione を含む 11 成分が特定された。Kovats retention index 1387 の未同定の化合物が貯蔵前後のいずれの肉においても最も強いにおいであった。GC-O により血合肉のにおい成分が肩肉の普通肉と比べてその強度が強いことが示され,それらは貯蔵中に増加した。以上の結果から,血合肉中の同定できた成分のみならず閾値の小さい未同定の成分がブリ肉のにおいに寄与していることが示された。

84(1), 135-148 (2018)
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