Fisheries Science 掲載報文要旨

バハカリフルニア西岸海域のアメリカオオアカイカ漁業における環境影響

Alfonso Medellín-Ortiz(国立水産生物研究所・バハカリフォルニア自治大),
Lázaro Cadena-Cárdenas,Omar Santana-Morales(国立水産生物研究所,メキシコ)

 アメリカオオアカイカの漁獲は 2000 年から増加し,2012 年には 1 万 4 千トンに及んでいるが,資源量,分布などの本種に関する知見は少ない。そこで本研究では,本種およびとカリフォルニアマイワシの CPUE と,海洋環境などとの関係について一般化線形モデルを用いて調べた。また,2 つの減耗モデルを用いて本種の資源量を推定した。本種の 80% 以上は沿岸 20 海里内で漁獲され,その CPUE の違いに季節性が見られた。また,本種とカリフォルニアマイワシの漁場は 75% 以上重複していたが,漁獲量との相関は見られなかった。そして本種の漁獲と,多くの環境要因との間では直接的な関係が見られなかった。
(文責 宮下和士)

82(6), 851-861 (2016)
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食物連鎖を介して感染する寄生性線虫 Heliconema anguillae の通年感染と複雑なデモグラフィーが示唆するニホンウナギ汽水域個体の摂餌活性

片平浩孝(広大院生物圏科),
水野晃秀(宇和島水産高校),
長澤和也(広大院生物圏科)

 食物連鎖を介してニホンウナギに寄生する線虫 Heliconema anguillae の個体群構造を,愛媛県御荘湾の宿主個体を用いて調べ,その季節的変化を明らかにした。2008 年 5 月から翌年 3 月にかけての定期的採集サンプルすべてにおいて成虫および小型の新規感染個体が見られ,周年を通して線虫の感染が起きていることが確認された。これまでニホンウナギは冬に摂餌しなくなると一般に考えられてきたが,本研究の結果は,調査水域のウナギ個体が冬期においても摂餌活性を維持し,線虫の中間宿主を食べていることを示唆する。

82(6), 863-871 (2016)
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インド洋-太平洋の南洋域に分布するクロミンククジラ Balaenoptera bonaerensis の遺伝的特性と集団構造

Luis A. Pastene,後藤睦夫(日鯨研)

 インド洋から太平洋の南洋域に分布するクロミンククジラの遺伝的集団構造について,mtDNA(338 bp)とマイクロサテライト DNA(MS: 12 遺伝子座)を用いて解析を行った。2005/06 年から 2010/11 年にかけて,第二期南極海鯨類捕獲調査で東経 35 度から西経 145 度内の海域で採集された 2000 個体以上の標本を用いた。インド洋と太平洋の海域間で異質性の検討を行った結果,遺伝的有意差が確認された。このことは南極海にインド洋と太平洋由来の異なる集団が存在することを示唆する。また,MS の解析結果は,雌よりも雄がより分散し,その程度に年変化があることも示している。

82(6), 873-886 (2016)
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日本沿岸に生息するイカナゴ属の制限酵素断片長多型に基づいた種判別法

田中千香也,青木良太,井田 齊(北里大海洋生命),
青山 潤(東大大気海洋研),
竹谷裕平(青森県水産総合研),稲田真一(宮城県庁),
鵜嵜直文(愛知県庁),吉永龍起(北里大海洋生命)

 日本沿岸に生息するイカナゴ属 3 種を簡便かつ迅速に判別するため,計 704 個体の COI 遺伝子座の部分塩基配列を決定し,制限酵素断片長多型に基づいた種判別法を開発した。その結果,稀に出現するハプロタイプ(<2%)を除いて高精度で判別可能であることがわかった。続いて宗谷海峡で採集して COI 座の塩基配列により種判別したイカナゴとオオイカナゴの形態を比較したところ,両種の形質はほぼ重なっていた。本研究で開発した手法は,イカナゴ属における今後の生態研究および資源管理に資するものと考えられた。

82(6), 887-895 (2016)
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2 つの独立したマルチプレックス PCR 法を用いたキハダ Thunnus albacares とメバチ T. obesus の種および系統判別

東 亮一,佐久間啓,千葉 悟,鈴木伸明(水産機構国際水研),
張 成年(水産機構中央水研),
仙波靖子,岡本浩明(水産機構国際水研),
野原健司(東海大海洋)

 ミトコンドリア DNA4 領域の塩基置換に基づいて,キハダとメバチの種と系統を識別するためのマルチプレックス PCR を開発した。妥当性の検証はマグロ属魚類の 7 種 3247 個体を用いて行い,メバチとキハダはほぼ完全に判別された。メバチの 2 つの種内系統(α 型および β 型)のうち,前者は大西洋で優占し,インド-太平洋ではほぼ皆無であることが知られているが,我々の開発したマルチプレックス法はこれら 2 つの系統も判別でき,従来法よりも迅速で頑健であった。

82(6), 897-904 (2016)
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石西礁湖北礁におけるミドリイシ属サンゴ 3 種の 5 年目までの成長

岡本峰雄(珊藻研),
野島 哲(元九大院理),
藤原秀一((株)いであ),斉藤倫実(環境省)

 2008, 2009 年の産卵後 1 年目に 1 才と仮定したミドリイシ属サンゴ(直径 12 mm 未満;平均 8.0±2.2 mm)719 群体を 5 年目まで追跡した。1 年目は被覆状(EC),2 年目は EC と樹枝を伸ばしたもの(OB:枝 1 本,SB:枝複数)が約半数ずつ,3 年目は樹枝が被覆部を超えない(SB)群体 2/3 と被覆部を超えた(WB)群体が 1/3 となった。3 年目の SB までの成長は遅く基盤部を形成・強化する段階であり,3 年目の WB から樹枝の成長が加速し,成体の特徴が現れた。優占するミドリイシ属 3 種の 5 年目の最大直径は 144-226 mm であった。

82(6), 905-913 (2016)
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フィリピン・ミンダナオ島に接岸するウナギ属の種組成

白鳥史晃,石川拓磨,田中千香也(北里大海洋生命),
青山 潤(東大大気海洋研),篠田 章(東京医科大),
Apolinario V. Yambot(中央ルソン州立大),
吉永龍起(北里大海洋生命)

 ニホンウナギ Anguilla japonica など温帯種の資源の激減にともない,商業的需要が高まっているウナギ属熱帯種は,分布域すら明らかではない種がほとんどである。そこで,フィリピン・ミンダナオ島に接岸するシラスウナギの種組成を遺伝子解析により調べた。その結果,計 7 種・亜種の接岸が確認され,A. marmorataA. bicolor pacifica が卓越した。一方,ニホンウナギを含む他の 5 種の接岸は稀であった。また,A. interioris は固有の尾部色素を有する可能性が示唆された。

82(6), 915-922 (2016)
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付着生物 3 種によるミズクラゲエフィラ濾過能

鈴木健太郎(電力中央研),熊倉恵美(セレス),
野方靖行(電力中央研)

 ミズクラゲはエフィラ期に大量減耗することが示唆されている。この減耗はメデューサ期の個体群サイズに大きな影響を与えると考えられるが,減耗要因は不明である。本研究では,ストロビラからの放出直後にエフィラが遭遇する濾過食性付着生物のエフィラ濾過能を明らかにすることを目的とし,室内実験を行った。その結果,ムラサキイガイのエフィラ濾過能がシロボヤおよびアメリカフジツボより高いことが明らかとなった。また,ムラサキイガイは,放出直後の小型のエフィラを,成長した大型のものより効率的に濾過した。

82(6), 923-930 (2016)
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コイにおける菜種粕と水草粉の消化吸収率に及ぼす塩化ナトリウム,クエン酸,および加熱処理の複合効果

石川和也,杉浦省三(滋賀県大環境)

 菜種粕と水草粉を食塩あるいはクエン酸と共に 120℃ で 10 分もしくは 60 分加熱処理した。処理効果はコイによる消化吸収率試験によって判定した。ナトリウム(Na)含量の低い菜種粕では,食塩の添加が乾物,有機物,タンパク質,リンなどの消化性を向上した。Na 含量の高い水草では,食塩の添加は無効であった。一方,クエン酸の添加は,両原料ともにリンと数種の無機塩類の吸収率を向上した。菜種粕にクエン酸を添加後に加熱処理することで,乾物,有機物,およびタンパク質の消化性がより改善する傾向が見られた。

82(6), 931-939 (2016)
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ウナギ仔稚魚の体サイズと形態異常における水流の影響

黒木真理(東大院農),岡村明浩(いらご研),
竹内 綾,塚本勝巳(日大生物資源)

 人工ふ化したニホンウナギ仔稚魚について,飼育水槽の水流に対する成長と形態異常の発症率を調べた。流速増加に伴ってレプトセファルスの体サイズは有意に小さくなり,脊索後弯の形態異常を呈する割合が多くなった。弱い水流であっても長期にわたる定常的な水流はレプトセファルスの形態に影響を及ぼすことがわかった。変態を完了したシラスウナギでは,65% に計 8 種類の脊椎骨異常が観察された。健常なウナギ種苗生産の実現に向けて,各発育段階における最適な水流環境を整えることの重要性が示された。

82(6), 941-951 (2016)
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水温が陸上水槽で飼育したマダラの成長と血液性状に与える影響

Jeonghwan Park(釜慶大),
Pyong-Kih Kim(江原道立大,韓国)

 陸上水槽においてマダラ稚魚を異なる調温水,すなわち表層水と深層水を混合して水温を 6, 10, 14℃ に調整した海水で飼育し,生残,成長および血液性状を調べた。マダラ稚魚 100 個体(120.3±26.3 g, 22.0±1.2 cm)を各々の設定水温の飼育水槽(直径 2 m×水深 65 cm)に収容して,配合飼料を 1 日 2 回飽食量給餌し,55 日間飼育した。飼育終了時に成長と血液性状を調べた。マダラは 14℃ の長期曝露に対して摂餌活性と代謝は衰えなかったものの,耐性を示さなかった。血液性状解析よりマダラは設定した最低水温および最高水温の双方に対してストレスを受けていたことが示唆された。本研究から,魚体重 120-180 g のマダラが最適成長を示す水温は 8.5℃ と予想された。
(文責 阪倉良孝)

82(6), 953-960 (2016)
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コウライアカシタビラメ人工種苗に発現した形態異常

草加耕司(岡山水研),
藤田亮太,小倉佳奈,那須隆文,
有瀧真人(福山大生命工)

 コウライアカシタビラメ人工種苗に発現する形態異常の特徴を検討するため,眼位,体色等の左右不相称性 5 形質に着目して,96 尾の稚魚を観察した。人工種苗は正常個体,両面有色個体,両者の中間的な形態を示す中間個体の 3 タイプに分けられた。これらの現象は,異体類全般に発現する変態異常と考えられたが,白化や逆位は出現しなかった。眼位と体色において,正常個体と両面有色個体の中間形が出現しやすいことが,本種の特徴である可能性が示唆された。これら中間個体においては,眼の移動と体色被覆が同期していない現象が確認できた。

82(6), 961-968 (2016)
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2000-2001 年の太平洋西部海域におけるプラスチック微小片の分布

内田圭一,萩田隆一,林 敏史,東海 正(海洋大)

 2000 年から 2001 年にかけて太平洋西部海域の 31 地点でニューストンネット(目合 1.00 mm×1.64 mm)によるプラスチック微小片の採集を行った。マイクロプラスチック(5 mm 以下)を含むプラスチック微小片は,日本の南の北緯 20-30 度の海域とニュージーランド北東の南緯 20-30 度の海域で高密度に採集され(各々最高で 6.63×102 と 2.04×102 個/ha),これらの海域は北太平洋と南太平洋における亜熱帯循環内の漂流物収束帯の西端に位置する。赤道付近の熱帯循環内の採集点ではほとんど採集されなかった。

82(6), 969-974 (2016)
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鹿児島湾における移植イボニシによる有機スズ化合物生物濃縮

小山次朗,二茅早世子(鹿大水),
竹ノ内綾(鹿大院水),
國師恵美子,宇野誠一(鹿大水)

 イボニシによる有機スズ化合物(OTCs)生物濃縮を明らかにするため,鹿児島湾非汚染域から汚染域にイボニシを移植し,餌生物投与群(P)と非投与群(NP)に分けて最長 13 週間飼育した。その結果,P 群では 13 週後に 71% のオスにインポセックス発現が認められた。絶食による生残率低下のため,NP 群飼育は 8 週間で終了し,この間,インポセックス発現は観察されなかった。P 群中 OTCs 濃度は NP 群に比較して高く,その主な OTCs 起源の 1 つが餌生物であることが強く推察された。

82(6), 975-982 (2016)
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水産物に対する放射能汚染風評被害の緩和

宮田 勉,若松宏樹(水産機構中央水研)

 風評被害を緩和するために,本研究はそれに有効な商品パッケージや情報提供で風評被害対策プロモーションの効果を測定した。放射性物質の検査結果を表示することは逆に放射能を想起させる可能性があるため,写真とラベルも組み合わせることでどの要素が風評被害を軽減するのかを分析した。コンジョイント分析で分析した結果,写真とラベルは被験者の効用を高め,また,検査結果情報提供後,三陸産ワカメ商品に対する被験者の効用を高めた。そして,安全安心と検査済みのラベルは放射性物質検査結果情報を代替することが明確となった。

82(6), 983-989 (2016)
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