Fisheries Science 掲載報文要旨

年間産卵量推定の向上のためのランダムフォレストとサポートベクターマシンの使用

Zengguang Li(中国海洋大,中国・メイン大,米国),
Rong Wan, Zhenjiang Ye(中国海洋大),
Yong Chen(メイン大),
Yiping Ren, Hong Liu, Yiqian Jiang(中国海洋大)

 非ゼロの確率を推定する二項分布と,非ゼロ値を扱う対数正規分布(LN)またはガンマ分布(LG)を用いた加法モデルが産卵量法(EPM)に適用されてきた。しかし,この分布の仮定は産卵量データで満たされていない。中国海州湾のキグチ,メナダ,コノシロの EPM 調査データを,2 種類の機械学習法,ランダムフォレスト(RF)とサポートベクターマシン(SVM),を含む 4 種類のモデルで解析し,その性能を交差検証で比較した。RF と SVM が,LN と LG より優れていた。RF や SVM のような機械学習法が,EPM 調査に使われることを提案する。
(文責 平松一彦)

83(1), 1-11 (2017)
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メキシコ湾の天然礁および人工礁におけるフエダイ属 Lutjanus campechanus のエネルギー蓄積の季節変化と性差

Brittany D. Schwartzkopf(ルイジアナ州立大),
James H. Cowan Jr.(オレゴン州立大,米国)

 メキシコ湾の天然礁および人工礁に生息する red snapper の栄養状態を評価するために,2011 年 9 月から 2013 年 10 月にかけて採集した標本の肝重指数(LSI)と筋組織カロリー密度(CD)を測定した。肝臓のエネルギー蓄積は,春に最も高く,夏に減少したが,天然礁の魚の LSI は特に高い値を示した。天然礁の雌の LSI は雄のそれよりも高かったことから産卵のためのエネルギー蓄積が大きいと考えられたが,人工礁では LSI に性差は検出されなかった。天然礁の雌の LSI は人工礁の雌のそれよりも高かったことから,天然礁では雌は繁殖のためのエネルギーをより多く蓄積できると考えられた。カロリー密度をみると,天然礁では冬に最も高く,その後秋まで減少を続けたが,人工礁ではその逆の傾向が見られた。筋肉に蓄積されたエネルギーは生殖腺発達に利用され,肝臓に蓄積されたエネルギーは産卵後に利用されたと考えられた。生息域によって栄養状態が異なることから,red snapper 資源評価の新たなパラメータとして利用できると考えた。
(文責 阪倉良孝)

83(1), 13-22 (2017)
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中層トロールを用いた北西太平洋におけるサンマの資源量の直接推定

上野康弘(水産機構水工研),
巣山 哲,中神正康,納谷美也子,酒井光夫,
栗田 豊(水産機構東北水研)

 サンマの分布を調べるには長い間流し網が使われてきたが,流し網では,調査有効面積が推定できないことから資源の絶対量を求めることは難しかった。中層トロールによる資源量推定を実用化するため,北西太平洋において,流し網と中層トロールの比較操業を行った。中層トロールの単位努力量当たり漁獲量の地理的分布パターンは流し網と同様であり,既知の中層トロールの採集効率を用いて,掃海面積法により資源量とその推定値の信頼区間が推定できた。

83(1), 23-33 (2017)
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ブリの精子形成に伴う血中 11-KT 濃度および生殖腺刺激ホルモン,性ステロイド合成関連タンパク,インシュリン様成長因子の遺伝子発現量の変化

樋口健太郎,玄 浩一郎(水産機構西海水研),
泉田大介(長大海セ),風藤行紀(水産機構増養殖研),
堀田卓朗,高志利宣,青野英明(水産機構西海水研),
征矢野 清(長大海セ)

 本研究では,人為環境下で飼育されたブリ雄の精子形成に伴う血中 11-KT 濃度および脳下垂体における生殖腺刺激ホルモン β サブユニット遺伝子(fshb, lhb),精巣における性ステロイド合成関連遺伝子(star, cyp11a1, cyp17a1, hsd3b),インシュリン様成長因子遺伝子(igf-1, igf-2)の発現量の変化を調べた。その結果,ブリの精子形成の初期段階は FSH が cyp17a1 の発現増加を介して 11-KT 合成を促すことによって誘導されること,後期段階は LH によって誘導されることが示唆された。さらに,精巣で発現するインシュリン様成長因子は精子形成に重要な働きをしている可能性が示唆された。

83(1), 35-46 (2017)
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胃内容物の形態観察と DNA 解析によるシロザケ Oncorhynchus keta 稚魚の食性解析比較―稚魚食性解析の一例として―

大類穗子,島村 繁(JAMSTEC),
清水勇一,小川 元(岩手水技セ),
山田雄一郎,清水恵子,笠井宏朗(北里大海洋),
北里 洋,藤原義弘,藤倉克則,瀧下清貴(JAMSTEC)

 北日本沿岸から採集されたシロザケ稚魚を用いて,胃内容物の形態観察と DNA 解析による稚魚食性解析の比較を行った。DNA 解析では形態観察より多くの餌生物を同定することができた。しかし先行研究同様に餌生物の消化の程度によって DNA 検出の感度が異なり,さらに遺伝子データベースに目的の餌生物群の遺伝子配列が登録されていないため正確に同定できないものもあった。また DNA 解析では餌生物の餌までも検出される可能性が示された。稚魚食性を正確に解析するには,DNA 解析と形態観察それぞれの長所および短所を考慮する必要がある。

83(1), 47-56 (2017)
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眼柄除去したバナメイエビにおけるレプチン受容体重複転写産物の組織分布と遺伝子発現

Si-Ping Deng, Hua-Pu Chen, Chun-Hua Zhu,
Man Ye, Guang-Li Li(広東海洋大,中国)

 バナメイエビのレプチン受容体重複転写産物 (LEPROT) アミノ酸配列の系統解析を行ったところ,他の無脊椎動物のそれらと高い一致率が認められた。LEPROT 転写産物の発現は生殖腺および腸で最大で,肝膵臓,造雄腺,筋肉でも認められたものの,鰓,心臓,胃では低かった。眼柄除去により生殖腺重量指数は顕著に増大したものの,比肝重値は減少した。眼柄除去を行ったところ,LEPROT 転写産物は生殖腺と腸では減少したが,肝膵臓では増大した。これらの結果は,バナメイエビの栄養調節において LEPROT が重要な役割を担っていることを示唆している。
(文責 吉永龍起)

83(1), 57-64 (2017)
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シオミズツボワムシ Brachionus plicatilis species complex の低温耐性

金 禧珍,岩淵 睦,阪倉良孝,萩原篤志(長大院水環)

 シオミズツボワムシの 5 つの株(NH1L,オーストラリア,ドイツ,NH1L(♀)とオーストラリア(♂)の交雑株 N×A, NH1L(♀)とドイツ(♂)の交雑株 N×G)を用い,低温(12℃)で生活史,生殖特性,運動性を観察した。全ての株で寿命,再生産期間,世代時間の延長と産卵・産仔数の減少がみられた。低温での増殖能は NH1L, N×G が高かったが,両性生殖能は全ての株で消失した。低温での運動性は,短期観察(6 時間)では NH1L が,長期観察(10 日間)では NH1L, N×A, N×G が高かった。

83(1), 65-72 (2017)
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心電図観察によるマアジの疲労分析・中間速度遊泳運動時の心拍数の変化と遊泳時間の影響について

程若氷(上海海洋大,中国・海洋大),
Mochammad Riyanto(ボゴール農科大,インドネシア),
有元貴文,柳瀬一尊(海洋大)

 回流水槽を使ってマアジ(尾叉長 15.7±0.8 cm, n=15)を水温 22℃, 0.8 尾叉長倍速度(FL/s)の流速に馴致させた後,一定流速に上昇させて強制遊泳下での心拍数を計測した。0.8FL/s で毎分 52.9 回であった心拍数は,4FL/s で 148.2 回,5FL/s で 168.6 回,6FL/s で 183.2 回へと急速に上昇した後,遊泳停止まで安定状態を保った。普通筋の活動が確認されている 5FL/s と 6FL/s では,流速を段階的に上昇させた過去の報告に比べ遊泳持続時間が有意に長くなった。また,遊泳停止後の心拍数の回復は,遊泳持続時間が長くなるに従い長くなる傾向が見られた。

83(1), 73-82 (2017)
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魚粉飼料の鶏肉加工残渣による一部代替と胆汁酸の添加が中国産スッポンの成長,消化率および血清中酵素活性に与える影響

Yingguang Ji, Yipeng Gu, Haiyan Liu, Zhencai Yang,
Chunsheng Li(河北師範大,中国)

 中国産スッポン Pelodiscus sinensis 用の市販飼料の魚粉を鶏肉加工残渣肉(PBM)により一部代替し,さらに胆汁酸の添加の有無を組み合わせて,計 4 種の等窒素飼料を作成して,60 日間の飼育試験を実施した。Diet 1 は魚粉を主タンパク源(100%)とし,Diet 2 は魚粉(60.8%)の一部を PBM (39.2%)に置き換えた。Diet 3 と 4 は,Diet 1 と 2 にそれぞれ胆汁酸を 1 g/kg となるように添加した。成長,およびグルタミン酸-ピルビン酸トランスアミナーゼとグルタミン酸-オキサロ酢酸トランスアミナーゼ活性には Diet 1 と 2 の間で有意差は検出されなかった。脂質消化率(ADCL)は魚粉を代替すると減少する傾向があった。Diet 4 の増重量,相対成長率,給餌率,比成長速度,乾物消化率,ADCL およびタンパク消化率(ADCP)はいずれも Diet 2 よりも増加した(28.1, 28.8, 10.1, 20.6, 1.7, 0.6, 0.3%)。魚粉を PBM で 39.2% 代替して胆汁酸を加えることで,本種の市販飼料と同等の成長をすることが分かった。
(文責 阪倉良孝)

83(1), 83-88 (2017)
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草魚養殖池における Pseudomonas stutzeri F11 株による窒素の除去特性

Luoqin Fu(浙江大),Xiaoping Zhang (CBRC),
Yibing Wang, Lisha Peng, Weifen Li(浙江大,中国)

 草魚養殖池における Pseudomonas stutzeri F11 株による窒素の除去特性を種々の環境条件において検討した。実験的条件下での草魚養殖池への F11 株の接種により,池のアンモニア態窒素,亜硝酸態窒素,および全窒素は減少した。しかし,硝酸態窒素の変化は認められなかった。454 pyrosequencing 解析の結果,池の細菌相は F11 株の接種により大きく変化した。また,メタゲノム解析により池の中に存在している機能遺伝子にも変化が認められた。特に,窒素代謝に関わる遺伝子に変化が認められた。これらの結果は,微生物の接種による養殖池の水質改善に効果があることを示した。
(文責 木村 凡)

83(1), 89-98 (2017)
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大豆油粕のアルコール抽出物がブリの成長と消化生理に及ぼす影響

Hung Phuc Nguyen(ハノイ教育大,ベトナム),
Peerapon Khaoian,古谷尚大,永野順也,
深田陽久,益本俊郎(高知大農)

 大豆油粕のアルコール抽出物がブリ稚魚(平均体重 25 g)に及ぼす影響を調べたところ,大豆油粕飼料やアルコール抽出物を魚粉または大豆油粕に添加した飼料では,魚の成長が魚粉対照飼料またはアルコール抽出した大豆油粕飼料に比べて劣っていた。また,成長が劣った前者の飼料を給与した魚では,消化吸収率や消化内容物の膵臓消化酵素活性が低く,消化酵素分泌促進ホルモン CCK の遺伝子発現量も少なかった。以上から,大豆のアルコール抽出物は膵臓消化酵素の分泌抑制を介した消化吸収率の低下によって成長を遅延させると考えられた。

83(1), 99-106 (2017)
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刺胞動物門におけるゲノムサイズに関する研究

足立賢太,三宅裕志(北里大海洋),
倉持卓司(葉山しおさい博物館),
水澤寛太,奥村誠一(北里大海洋)

 刺胞動物は祖先的な形質を残した後生動物であり,動物界の系統進化を検討する上で重要な分類群である。しかしながら,ゲノムサイズ(C 値)に関する知見は極めて乏しい。本研究は,刺胞動物 27 種の C 値を決定した。刺胞動物の C 値は,0.26-3.56 pg の範囲であり,ナガヨウラククラゲ Agalma elegans が高い値を示した。本研究は,今後の次世代型シークェンサーを用いた全ゲノム解析および細胞遺伝学分野の発展に資するものである。

83(1), 107-112 (2017)
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瀬戸内海のアマモ場周辺における殺藻細菌 Alteromonas spp. の分布

坂見知子(水産機構東北水研),
坂本節子(水産機構瀬水研),高木秀蔵(岡山県庁),
稲葉信晴(水産機構東北水研),今井一郎(北大院水)

 赤潮原因プランクトンを殺す細菌が藻場やアマモ場から多く分離されている。しかし,各種類ごとの分布については明らかになっていない。本研究ではシャットネラに対して強い殺藻作用を持つ Alteromonas 属の細菌 3 株について,東部瀬戸内海のアマモ場周辺における海水中の数を定量 PCR を用いて調べた。その結果,2 株については閉鎖的なアマモ場で顕著に多く検出された。また 3 株ともアマモが衰退する時季に大きく減少した。以上より,これらの殺藻細菌がアマモと関係をもって増殖し,周辺海域へ拡散していることが示唆された。

83(1), 113-121 (2017)
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In vitro でのフコキサンチンのモノアミンオキシダーゼ A および B の阻害活性及び分子ドッキングシュミレーション

Hyun Ah Jung(全北大),
Anupom Roy, Jar Sue Choi(釜慶大,韓国)

 本研究は,モノアミンオキシダーゼ(MAO) A, B 阻害によるパーキンソン病(PD)へのフコキサンチン効果の確認を目的とした。酵素阻害活性とその様式は,化学発光アッセイとカイネティクス解析で明らかにした。hMAO-A, B へのフコキサンチンの結合様式は分子ドッキングシュミレーションで行った。その結果,hMAO-A, B に対する顕著な阻害がみられた。分子ドッキングシュミレーションでは,水素および疎水結合により両 hMAO と高結合親和性を示すと予想された。これらは,フコキサンチンが PD を調整できる可逆的な hMAO 阻害剤であることを示唆している。
(文責 濱田友貴)

83(1), 123-132 (2017)
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ゴマサバおよびマサバの未凍結肉および凍結解凍肉の硬さと結合組織の構造について

橋本加奈子,小林正三(千葉水総研セ),
山下倫明(水産機構)

 同属近縁種であるゴマサバとマサバにおいて未凍結肉および凍結解凍肉の硬さを比較し,凍結前の筋肉の組織学的観察等をし,原料の筋肉の性状が凍結解凍肉の品質に及ぼす影響を調べた。未凍結肉および凍結解凍肉の破断強度はゴマサバの方が低かった。未凍結肉の筋肉の構造を走査型電子顕微鏡で観察したところ,結合組織のコラーゲンの構造はゴマサバの方が脆弱であり,また普通筋のコラーゲン量もゴマサバの方が少なかった。凍結前の筋肉の結合組織の構造とコラーゲン量は凍結解凍肉の硬さに影響を及ぼすと考えられる。

83(1), 133-139 (2017)
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