Fisheries Science 掲載報文要旨

日本の遠洋・近海はえ縄漁業から推定した北太平洋におけるヨシキリザメの資源量指数

平岡優子(水産機構国際水研),
金岩 稔(東京農大生物産業),
大下誠二,高橋紀夫,甲斐幹彦,
余川浩太郎(水産機構国際水研)

 北太平洋における 1994 年から 2010 年のヨシキリザメの資源量指数を推定するため,気仙沼港を基地とするはえ縄漁船による漁業データを解析し,本種とメカジキのターゲット変化を考慮した CPUE の標準化を行った。本解析ではヨシキリザメをターゲットとしている操業を抽出したところ,1990 年代から全体的なはえ縄漁場の北上とともに本種を狙う操業が増加していることが明らかとなった。メカジキ CPUE の 10 パーセンタイル値をターゲット効果として標準化モデルへ適用した結果,本種の CPUE は上昇傾向にあることが示唆された。

82(5), 687-699 (2016)
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マルチビームソナーを用いた韓国南部沿岸域における定置網内の音響モニタリング

Hyungbeen Lee(国立水産科学院),
Kyounghoon Lee(全南大学),
Seonghun Kim,Donggil Lee,
Yongsu Yang(国立水産科学院,韓国)

 本研究は韓国南部沿岸域に設置された定置網内の魚群行動を広角マルチビームイメージングソナーを横方向に設置してモニタリングする手法について検討したものである。得られたデータが環境日周変動や潮流の変化に影響されるのか調べた。夜間に定置網に入網する魚群量は日中よりも 22 倍多かった。網内魚群量は夜間に流速が遅い時間帯に多かったが,昼間は流速による影響はなかった。本研究により定置網内の魚群行動を把握する方法を示すことができたと考えられる。
(文責 高木 力)

82(5), 701-708 (2016)
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浮遊期のクサカリツボダイ Pentaceros wheeleri の初期生活史特性

村上知里,米崎史郎(水産機構国際水研),
巣山 哲,中神正康(水産機構東北水研),
奥田武弘,清田雅史(水産機構国際水研)

 浮遊期のクサカリツボダイは中東部太平洋の(北緯 36-50°,東経 178°-西経 137°)で多く出現し,その海域が本種の浮遊期における主要な生育場所であると判明した。耳石の輪紋解析により孵化時期は 12-2 月であること,雄と雌の VB 成長関数のパラメータは k=0.909 と 1.055,L=308 と 290(mm),t0=0.183 と 0.260(yr)と推定された。2.5 歳魚の平均標準体長は着底個体と同程度の 263-271 mm となること,3 歳以上の個体がほとんど採集されないことから,3 歳に達するまでに大部分の個体が着底すると考えられた。

82(5), 709-718 (2016)
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エツ Coilia nasus の glyoxalase 1 遺伝子:性状解析と輸送ストレス下での発現

Fukuan Du(南京農科大・中国水産科学研究院),
Gangchun Xu,Yan Li,Zhijuan Nie(中国水産科学研究院),
Pao Xu(南京農科大・中国水産科学研究院,中国)

 ハンドリングストレスに敏感なエツでは,漁獲や輸送に伴うストレスにより組織の損傷や絶命が頻繁に起こる。本報では,様々な生理反応や疾病に関与する glyoxalase 1(Glo1)cDNA をエツから単離し,その発現に対する輸送ストレスの影響を調べた。単離した cDNA にコードされるアミノ酸配列中には典型的な glyoxalase ドメインが認められた。mRNA は脳,肝臓,心臓,頭腎,鰓で強く発現していた。輸送を模したストレスを与えることで,肝臓で 2.5-16.1 倍,脳で 2.0-4.8 倍 mRNA が増加した。ストレスによる発現変化は,Western Blot 法により蛋白レベルでも確認された。
(文責 井上広滋)

82(5), 719-728 (2016)
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河川加入後のニホンウナギの成長が河川内分布に与える影響

脇谷量子郎(九大院農),海部健三(中央大法),
望岡典隆(九大院農)

 ニホンウナギの河川加入後成長と河川内分布の関係を調べるために,鹿児島県土河川の上流および下流の淡水域で採集した 156 個体のメス黄ウナギについて,耳石による成長履歴推定を行い,上流群(遡上),下流大型群(残留),下流小型群(未決定)の 3 群で比較した。下流大型群は加入後の 3 年間,上流群より高成長を示し,下流小型群は両者の中間の値を示した。また最若齢個体が,下流の 1 齢に対し上流で主に 3 齢であったことから,河川加入後の約 3 年間の成長が,その後の河川内分布を規定することが示唆された。

82(5), 729-736 (2016)
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北太平洋産アカイカ顎板の色素発達における性的非同期性

Zhou Fang,Bilin Liu,Xinjun Chen,Yue Jin,Jianhua Li(上海海洋大,中国),
Yong Chen(メイン大,米国)

 イカ類の顎板は形状や色が多様な硬組織で,顎板の色素沈着過程は成長や食性の変化を反映する。本研究は,従来の分類法に種特異的な情報を加え,北太平洋産アカイカの色素変化に基づく顎板成長の定量的分類法を提示した。色素沈着段階(PS)は成長に伴い進行し,PS 間で体サイズ,顎板サイズおよび重量が有意に異なった。また体サイズと顎板サイズの関係は雌雄間で有意に異なった。観察された雌雄の違いは,回遊経路の違いにより生じた成長の違いに起因すると推察された。また,顎板色素沈着過程は食性の違いによる成長差を反映すると推察された。雌雄の非同期的色素沈着は,顎板形態から性を識別する際の補足的な手法も提供するだろう。
(文責 栗田 豊)

82(5), 737-746 (2016)
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シャコガイ類に共生する褐虫藻のクレードを簡便・迅速に判別するマルチプレックス PCR 法の開発

池田正太(広大院生物圏科),
山下 洋(水産機構西海水研),
Lawrence M. Liao,小池一彦(広大院生物圏科)

 二枚貝のシャコガイ類は低緯度海域に生息する水産重要種である。シャコガイ類には褐虫藻(渦鞭毛藻 Symbiodinium)が共生している。褐虫藻は 9 つの遺伝的系統群に分けられ,それぞれが特有の生理的特徴を示し,さらに宿主の環境耐性に影響を与える。しかしながらシャコガイ類に共生する褐虫藻の解析例は少なく,そのことが種苗生産時に褐虫藻を人工感染させた後の幼生生残率の低下を招いている。本研究ではこれら褐虫藻の遺伝的系統を迅速・簡易的に解析するために,特異性と検出感度の高いマルチプレックス PCR を開発した。

82(5), 747-753 (2016)
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東シナ海大陸棚および台湾周辺海域における魚類プランクトンの冬季群集

Yu-Kai Chen,Wen-Yu Chen,Yi-Chen Wang,
Ming-An Lee(台湾海洋大,台湾)

 2008 年冬季の東シナ海および台湾周辺海域において,82 科 165 種の稚魚が出現した。ヨコエソが約 20% と卓越し,続いてカサゴ科およびボラ科がそれぞれ約 6% となった。水平分布は黒潮流域Ⅰ,Ⅱ,東シナ海および台湾海峡の 4 つに分類され,温暖な黒潮沖合で高密度に出現し,東シナ海では少なかった。中深層性の稚魚の生存に適した黒潮ではヨコエソ,東シナ海および台湾海峡では底生のフカカサゴ科が卓越した。出現した稚魚群集は,北東モンスーンにともなう海流構造に一致していた。
(文責 吉永龍起)

82(5), 755-769 (2016)
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ミトコンドリア調節領域の配列に基づいた北西太平洋のヒラ Ilisha elongata の集団構造解析

Qian Wang,Jie Zhang(上海海洋大,中国),
松本 仁(長崎鶴洋高校),
Jin-Koo Kim(釜慶大,韓国),
Chenhong Li(上海海洋大)

 ヒラは西部太平洋からジャワ海に分布する重要種であるが,近年その漁獲量の低下や分布域の縮小が認められている。本研究では本種の適切な資源管理の基礎情報として,集団構造の解析を行った。中国,韓国,日本の合計 16 箇所でサンプリングを行い,ミトコンドリアの D-ループ領域の塩基配列を解析した。その結果,本種は極めて大きな遺伝的多様性を保持していた。西韓国湾の Dandong 集団は他地域とは明瞭に異なっていたものの,その他すべての集団間での分化程度は弱いものであった。また,尾鰭の形態の二型間での遺伝的差異は認められなかった。
(文責 吉崎悟朗)

82(5), 771-785 (2016)
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南ベトナムのメコンデルタにおけるホコハゼおよびエビ養殖池間の浮遊微生物の現存量と溶存酸素消費の比較

和田 実,森 郁晃(長大院水環),
横内一樹(水研セ中央水研),
八木光晴,田北 徹(長大水),石松 惇(長大海セ),
岩滝光儀,高橋和也(東大院農),
マイ・バン・ヒュ(長大院水環),
ヴォ・タン・トアン,ハ・ホク・フン,
トラン・ダク・ディン(カントー大,ベトナム)

 メコンデルタで拡大しているホコハゼ Pseudoapocryptes elongatus の養殖環境について知見を得るため,養殖池の微細藻類の現存量と組成,細菌の現存量および溶存酸素濃度を測定し,近隣のエビ養殖池と比較した。その結果,ハゼ養殖池の微生物現存量はエビ養殖池と比べて常に高く,Chlorella sp. を主体とする微細藻類は 1.8×107 cells/mL,細菌は 1×108 cells/mL に達していた。ハゼ養殖池の溶存酸素消費速度は高く,日没から 2,3 時間で無酸素化することが確かめられた。

82(5), 787-797 (2016)
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海産動物プランクトン Tigriopus japonicusDiaphanosoma celebensis の量産培養とマダイ仔魚に対する餌料効果

萩原篤志,金 禧珍,松本北斗,太田裕介(長大院水環),
森田哲朗,畑中晃昌,石塚梨沙(日本水産(株)中央研),
阪倉良孝(長大院水環)

 アルテミアの代替餌料として Tigriopus japonicusDiaphanosoma celebensis を用い,飼育水に鶏糞抽出液(CDE)を添加して量産培養を行った。その結果,CDE 添加により両種の個体群増殖率が高くなり,必須脂肪酸の含有量は T. japonicus の方が D. celebensis とアルテミアより高いことが分かった。また,これらをマダイ仔魚に 28 日給餌したところ,両種の給餌によってアルテミアで飼育するよりも高い生残率と干出耐性を示した。

82(5), 799-809 (2016)
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ティラピア Oreochromis niloticus 稚魚用無魚粉飼料におけるトウモロコシ副産物の有効性

Sandamali Sakunthala Herath(Ruhuna 大,スリランカ・海洋大),
芳賀 穣,佐藤秀一(海洋大)

 ティラピア Oreochromis niloticus 稚魚用無魚粉飼料におけるトウモロコシ副産物の有効性を評価した。すなわち,魚粉または濃縮トウモロコシタンパク,コーングルテンミール,高タンパクトウモロコシ蒸留粕(HPDDG),可溶性物含有トウモロコシ蒸留粕(DDGS)を含む飼料を作製し,4.5 g の魚に 12 週間給餌した。対照区および DDGS 飼料給餌区で有意に高い飼育成績が得られ,次いで HPDDG 区で優れた成績が得られた。また,全魚体と筋肉中タンパク質含量も HPDDG 区で最も高く,脂質含量は DDGS 区で高かった。DDGS はティラピア用飼料の魚粉を完全に代替するのに有効であると示唆された。

82(5), 811-818 (2016)
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アユの飼育成績と生理状態に及ぼす低魚粉飼料の影響

山本剛史(水産機構増養殖研),鈴木伸洋(東海大院),
古板博文(水産機構増養殖研),天野俊二(東海大院),
奥 宏海,村下幸司,松成宏之(水産機構増養殖研),
宇野悦央,中山仁志(和歌山水試内水面)

 平均体重 22 g のアユに,魚粉含量が 51% の飼料(FM51)と,同魚粉の 40% および 60% を大豆油粕とコーングルテンミールとで置換した飼料(FM32,FM20)を 3 ヶ月間与え,飼育成績と生理状態に及ぼす影響を検討した。FM51 区に比べ,血漿の中性脂質よび組織のタウリンの含量が FM32 区と FM20 区で低かった以外,飼育成績や胆汁酸および肝臓や直腸の組織等の生理状態には魚粉削減による悪影響は見られなかった。以上のことからアユ用飼料の魚粉含量を 30% 程度に削減できることが明らかとなった。

82(5), 819-826 (2016)
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養殖域海水におけるハダムシ Neobenedenia girellae ふ化幼生定量検出系の確立

阿川泰夫(近大水研大島),
谷 和樹,山本修平,平野千早,白樫 正(近大水研白浜)

 ハダムシ Neobenedenia girellae は海面養殖で慢性的な問題となっている。ふ化幼生の分布状況が把握できれば寄生を未然に防ぐ方法の開発に繋がる可能性がある。そこで,海水中から N. girellae ふ化幼生を定量的に検出する定量リアルタイム PCR 系を構築した。N. girellae ふ化幼生 1 虫は約 220 万コピーの対象 DNA 配列を有することが判明した。養殖海域における海水試料を用いた分析では,遮光したカンパチ養殖生簀内から採取した海水中のふ化幼生数は非遮光生簀に比べ少なく,本法の有用性が示された。

82(5), 827-833 (2016)
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ズワイガニとベニズワイガニ肝膵臓の持つセルロース分解酵素の特性と高水圧適応の関係

足立亨介,谷村健斗(高知大農),
三井敏之(青学理工),森田貴己(水産機構中央水研),
養松郁子(水産機構日水研),
池島 耕,森岡克司(高知大農)

 ズワイガニとベニズワイガニの肝膵臓よりセルラーゼ(CoCel:ズワイガニ;CjCel:ベニズワイガニ)の部分精製酵素を調製した。CoCel では 20 MPa では常圧に比し,80% の活性を保持するものの,より高圧下では活性が減少し,200 MPa では 20% まで低下した。一方 CjCel は 50 MPa まで常圧下とほぼ同等の活性を示し,200 MPa においても 65% の活性を維持した。常圧下で両酵素はミカエリス・メンテン型の反応様式を示し,圧力下では非競合型の阻害様式が観察された。以上からより深い水域に生息するベニズワイガニのセルラーゼは深海の圧力環境により適応した特性を有していると考えられる。

82(5), 835-841 (2016)
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凍結ティラピア筋原線維中のミオシン変性を決定するアクチン変性

Wichulada Thavaro,阪本真梨,今野敬子,今野久仁彦(北大院水)

 ティラピア筋原線維(Mf)を凍結すると,ミオシン(M)は Ca2+-ATPase 失活後も塩溶解性を維持していたが,その原因は Rod 部分が変性しないことにあった。また Ca2+-ATPase 失活より先にアクチン(A)変性が確認されたので,凍結 Mf 中では M は A による安定化を受けていないことが示された。しかし,魚肉の凍結では A 変性は認められなかった。結果として,魚肉中では M は A で安定化された状態を保持し,M の安定性は Mf の約 9 倍であった。

82(5), 843-850 (2016)
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