西部・中部太平洋(WCPO)における基礎生産とカツオ資源動態の時空間変動

嚴 國維,呂 學榮(国立台湾海洋大,台湾)

 西部・中部太平洋(WCPO)における基礎生産の時空間変動を理解することは重要であり,その変動はカツオ資源の分布に密接に関係するかもしれない。本研究では,衛星データと鉛直一般化基礎生産モデル(VGPM)により積算基礎生産量(IPP)を推定し,また得られた IPP とカツオの資源加入量との関係を知るための時系列解析を行った。その結果,(a)WCPO 東部の IPP が最大であること,(b)IPP とエルニーニョ・南方振動(ENSO)に有意な関係がある海域は主に赤道周辺海域であること,(c)カツオの資源加入量が高いのは IPP ブルーム直後から 26 カ月目と 49 カ月目であること,が示された。
(文責 宮下和士)

82(4), 563-571 (2016)
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東シナ海におけるマアジ仔魚の発育に伴う食性の変化

広田祐一(水産機構中央水研),
本多 仁(水産機構日水研),
阪地英男(水産機構瀬戸内水研),
上原伸二(水産機構日水研),
市川忠史(水産機構東北水研)

 東シナ海南部において昼夜各 7 層で採集したマアジ仔魚の消化管内容物を検討した。消化管内容物個数の 99.5% を,体積の 99.0% を,かいあし類(卵やノープリウスを含む)が占めた。0-10 m 層に分布する体長 5 mm 未満の仔魚は,かいあし類卵やノープリウスを多く摂餌し,卵と同じ大きさのコペポダイトをほとんど摂餌しなかった。10-20 m 層ではかいあし類卵やコペポダイトを主に摂餌した。一方 5 mm 以上の仔魚は 30 m 層以浅ではかいあし類卵やコペポダイトを,30 m 層以深ではかいあし類コペポダイトを主に摂餌した。

82(4), 573-583 (2016)
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DNA マーカーを用いた日本沿岸におけるアオリイカ属アカイカ Sepioteuthis sp. 1 とシロイカ Sepioteuthis sp. 2 の資源貢献組成

笘野哲史,Gustavo Sanchez,河合賢太郎(広大院生物圏科),
笠岡祝安(中山製鋼),上田幸男(徳島農水総技セ),
海野徹也(広大院生物圏科)

 アオリイカ属アカイカ Sepioteuthis sp. 1 とシロイカ S. sp. 2 の資源貢献を解明するため,日本 19 地点 1718 個体のアオリイカ属をマイクロサテライト DNA とミトコンドリア DNA を用いて種判別を行った。結果,233 個体(17.3%)のアカイカが太平洋沿岸から得られ,大隅諸島で優占した。シロイカ 1421 個体(82.7%)は大隅諸島を除いて優占していた。漁獲水深はアカイカで 10-53 m,シロイカで 30 m 以浅となり,以上の結果から両種の生態学的相違が示唆された。

82(4), 585-596 (2016)
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顎板微細構造に基づくペルー排他的経済水域沖のアメリカオオアカイカ Dosidicus gigas の日齢,成長および集団構造

Guanyu Hu,Zhou Fang,Bilin Liu,Dan Yang,Xinjun Chen(上海海洋大,中国),
Yong Chen(メイン大,米国)

 2013 年 7-10 月にペルー排他的経済水域沖において中国のいか釣り漁船で漁獲されたアメリカオオアカイカについて,上顎板を用いて日齢と成長を調べた。上顎の吻矢状面に明瞭な輪紋が観察され,雌は 123-298 日齢,雄は 106-274 日齢と推定された。日齢から逆算して求めた孵化日は 2012 年 12 月から 2013 年 5 月となり,すべて南半球の夏秋生まれ群で,ピークは 1-3 月であった。外套長と体重の成長は指数関数式に近似され,雌雄差は認められなかった。最大日間成長率は 2.12 mm/日,外套長の瞬間成長率は 0.59/日であった。
(文責 黒木真理)

82(4), 597-604 (2016)
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パラナ川・パラグアイ川流域における Pseudoplatystoma corruscans および Pseudoplatystoma reticulatum 純粋個体の遺伝的多様性

Jussara Oliveira Vaini,Bruno do Amaral Crispim(Grande Dourados 連邦大),
Danielly Beraldo dos Santos Silva(Sao Paulo 州立大),
Celso Benites(Mato Grosso do Sul 連邦大),
Marcia Regina Russo,Alexeia Barufatti Grisolia(Grande Dourados 連邦大,ブラジル)

 交雑個体の増加により,野生環境における純粋な原種の存在が脅かされている Pseudoplatystoma corruscansP. reticulatum のパラナ川・パラグアイ川流域における遺伝的多様性を解析した。前者 76 個体,後者 16 個体について,6 つの共通マイクロサテライト座位および両種に 1 つずつの種特異的座位を解析したところ,ヘテロ接合度の低下が認められ,遺伝的多様性を維持するための方策が必要と考えられた。また,本研究において使用したマーカーは,両種の純粋系統の管理や育種,遺伝資源保護プログラムのための有効なツールとなることが確認された。
(文責 井上広滋)

82(4), 605-611 (2016)
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ニジマスのケモカイン様レセプター 3 遺伝子の特性と発現解析

Zhitao Qi,Qihuan Zhang(塩城工学院,中国),
Jason W. Holland(アバディーン大,英国),
Qian Gao(上海海洋大,中国),
Carolina Tafalla(INIA,スペイン),
Xiuchun Wang(塩城工学院),
Tiehui Wang(アバディーン大)

 ニジマスの 3 番目のケモカイン様レセプター遺伝子(CMKLR3)を同定した。これは,7 つの膜通過領域,ダイニン調節複合体(DRC)モチーフと 2 つのシステイン残基という CMKLR の特徴を有していたが,既知の魚類の遺伝子とは相同性が低かった。体腎,頭腎および IgM 陽性 B 細胞で発現が高く,細菌と寄生虫感染により変化したが,ウイルス感染では変わらなかった。また,in vitro では IFN-γ と IL-6 の添加によって変化した。ニジマス CMKLR3 は炎症反応における重要な調節機能を有し,複雑に制御されていることが示唆された。
(文責 佐野元彦)

82(4), 613-622 (2016)
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褐藻カジメ幼胞子体の成長と生残に対する水温と窒素濃度の影響

高  旭(東北大院農・神戸大),
遠藤 光,永木美智子,吾妻行雄(東北大院農)

 本研究では,静岡県伊豆半島産カジメ幼胞子体の光合成,成長,生残,窒素,クロロフィル a 量に対する水温(20,26,28,30℃)と栄養塩濃度(栄養添加区と無添加区)の影響を調べた。栄養添加区では水温上昇に伴って光合成速度と相対成長率が低下した。しかし,30℃ でも高い窒素含有量,クロロフィル a 量,生残率を維持した。これに対して,無添加区では 28℃ でクロロフィル a 量と相対成長率が低下し,30℃ で全個体が死亡した。このように,高水温・貧栄養条件は幼胞子体の生残率と成長率を低下させるため,カジメ群落を縮小させる可能性がある。

82(4), 623-629 (2016)
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茨城県涸沼の塩性湿地における魚類の食性

金子誠也(東大院農),加納光樹(茨城大水圏セ),
佐野光彦(東大院農)

 涸沼の塩性湿地で採集された 28 種の魚類について食性解析を行った。ワカサギ,クロダイ,アシシロハゼ,シモフリシマハゼ,ジュズカケハゼ,ボラの 6 種では成長に伴い,主要な餌項目に変化が認められた。食性の類似度に基づきクラスター分析を行ったところ,各魚種は 7 つの食性グループ(小型底生・半底生甲殻類食,動物プランクトン食,水生昆虫食,多毛類食,植物食,陸生昆虫食,デトリタス食)に分類された。これらのうち,種数が多かったのは小型底生・半底生甲殻類食(18 種)と動物プランクトン食(8 種)であった。

82(4), 631-637 (2016)
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キュウリウオ卵の卵膜除去法の開発と正常胚発生過程の記載

高橋英佑(北大フィールド科セ・北大院水),
川上 優(北大フィールド科セ),
荒井克俊(北大院水),
山羽悦郎(北大フィールド科セ)

 キュウリウオ受精卵の卵膜除去の条件を検討するとともに,10℃ での胚発生過程を観察した。環境水で受精を行った 1 分後から,0.1% の濃度のトリプシンを含み pH を 11.0 に調整したリンゲル液で 5 時間処理することで卵膜を除去できた。孵化時の生残率の平均は 37.8% であった。胚発生には,エピボリー終了まで 3 日,孵化まで 22 日と長い時間が必要であった。その間,胚体は透明であり器官形成を容易に観察できた。発生様式は,おおむねゼブラフィッシュなどの硬骨魚類と同様であり,これらで蓄積された胚操作の技術を適用可能なことが示唆された。

82(4), 639-652 (2016)
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カラドンコの主要組織適合抗原 IIA・IIB 遺伝子の特性と発現解析

Fenfei Liang,Yayuan Wang,Panfeng Tao,
Guosong Zhang,Shaowu Yi(南京師範大学,中国)

 カラドンコ Odontobutis potamophila から主要組織適合抗原(MHC)IIA と IIB の遺伝子を単離した。推定アミノ酸配列では,他の硬骨魚類やほ乳類の MHC II 抗原結合モチーフの保存が認められ,脊椎動物の配列と 25-52% の相同性を示した。これら 2 遺伝子の発現は,すべての検査組織中で恒常的に見られ,Aeromonas hydrophila の接種によって肝臓,脾臓および腎臓で顕著に変化した。以上の結果からカラドンコの MHC IIA と IIB 遺伝子が免疫調節において重要な役割を有することが示唆された。
(文責 佐野元彦)

82(4), 653-663 (2016)
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コウライギギ Pelteobagrus fulvidraco の成長成績,消化酵素活性及び免疫反応に及ぼす魚粉を大豆ペプチドで代替した飼料の影響

Zhen-xin Zhao,Chang-you Song,Jun Xie,Xian-ping Ge,
Bo Liu,Si-lei Xia,Shun Yang(南京農大),
Qing Wang(HANOVE),Sai-hua Zhu(CAFS,中国)

 本研究では,大豆ペプチドで一部魚粉を代替した飼料がコウライギギの成長成績,消化酵素活性及び免疫反応に及ぼす影響について調べた。魚粉代替 0%(D-0),20%(D-20),35%(D-35)及び 50%(D-50)の 4 試験区で 8 週間飼育した。D-50 で魚体重,増重率,相対成長速度は D-0 に匹敵し,飼料転換効率は,他の区に比べて減少した。Aeromonas hydrophila 接種では,すべての飼料区で斃死が起きたが,D-50 で D-0 より斃死率が少なかった。従って D-50 飼料は成長成績及び免疫反応から見てコウライギギの飼料として利用できると結論づけた。
(文責 森岡克司)

82(4), 665-673 (2016)
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相模湾深層水由来低温菌 Vibrio sp. Pr21 が生産する中性金属プロテアーゼの精製と性質

石田真巳,吉田-三島千恵,前田洋祐,山本 仁,
津田 亮,石井晴人,浦野直人(海洋大),
樺澤 洋(油壺マリンパーク)

 相模湾深層水汲み上げ施設のろ過フィルターから低温菌を探索し,0-25℃ で生育する Vibrio sp. Pr21 を単離した。同菌培養液からアゾコール分解性の中性金属プロテアーゼ(36 kDa)を精製し,PR プロテアーゼと名付けた。ウシ真皮 I 型コラーゲンを基質にすると 10,20,30℃ で β 鎖以上の多量体が消失して α 鎖が蓄積したため,本酵素はテロペプチド部分を切断すると推定した。本酵素はミズクラゲの液化も 10℃ と 25℃ で加速した。以上から,低温での廃水処理などへ本酵素の応用可能性が示唆される。

82(4), 675-683 (2016)
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