Fisheries Science 掲載報文要旨

東部インド洋熱帯マグロ施網漁業における選択的漁獲:新しい施網選択性モデルに基づく評価

Watcharapong Chumchuen(鹿大院連合農),
松岡達郎,安樂和彦(鹿大水),
Sukchai Arnupapboon(SEAFDEC)

 東部インド洋における流し浮き漁礁を用いた熱帯マグロ施網漁業における選択的漁獲を評価するために,1995-2003 年に商業網と類似の網を用いて操業試験を行った。カツオ,キハダ,メバチの 3 種の漁獲物のサイズ組成と,新たに開発した魚体と網目の遭遇時の保持確率に基づく施網選択性モデルを用いて計算した選択性曲線を比較した。当該漁具は片側選択性を有し,漁獲結果は商業サイズの個体を十分に選択的に保持していたが,漁獲に多く含まれるキハダ,メバチの未成熟魚の,漁具の選択性による排除は困難であると結論した。

82(3), 391-404 (2016)
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西部インド洋熱帯マグロ施網漁業における操業法による選択的漁獲:漁業者にとっての素群れ操業受入れ可能性

Watcharapong Chumchuen(鹿大院連合農),
松岡達郎,安樂和彦(鹿大水),
Wilailux Premkit(タイ国遠洋水産工学開発研究所)

 西部インド洋でのタイ国マグロ施網漁船の 2005-2007 年操業資料から,操業法による選択的漁獲の可能性と操業方法の組み合わせ(操業戦略)について分析した。素群れ操業は付き物操業に比べてサイズ選択的で,経済的リスクは大きいが潜在的操業収入は大きかった。素群れ操業成功率等で代表される技術力が操業戦略の決定要因であった。漁獲努力を多様な操業法に分散してリスクを回避しているジェネラリストがいたが,シミュレーションの結果,高・中位技術力の漁業者は,収入の減少なく素群れ操業の増加が可能であることが示された。

82(3), 405-416 (2016)
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理論的方法によるヨーロッパマイワシ Sardina pilchardus とラウンドサルディネラ Sardinella aurita のターゲットストレングス推定

Salaheddine El Ayoubi, Kamal Mamza(モロッコ国立漁業研,モロッコ),
藤野忠敬(マリノフォーラム 21),
安部幸樹(水産機構水工研),
甘糟和男(海洋大先端科学技術研セ),
宮下和士(北大フィールド科セ)

 ヨーロッパマイワシ Sardina pilchardus とラウンドサルディネラ Sardinella aurita について,鰾の長さと幅を実測し,回転楕円体モデルにより 38 kHz と 120 kHz でのターゲットストレングス(TS)を推定した。魚体の全長に対する鰾の長さの比は二種で類似していたが,全長に対する鰾の幅の比は S. auritaS. pilchardus に比べて小さく,変動が大きかった。遊泳姿勢角(θfish)が平均 0°標準偏差 10°の正規分布に従うと仮定すると,全長で標準化した平均 TS(標準化平均 TS)は S. pilchardus で-64.0 dB (38 kHz)と-65.2 dB (120 kHz),S. aurita で-66.2 dB (38 kHz)と-67.2 dB (120 kHz)と推定された。本研究で四つの異なる θfish の分布(0±10°, 0±15°, -5±10°, -5±15°)により得られた 38 kHz の標準化平均 TS は現在,現存量推定の解析に適用されている値より S. pilchardus で 6-9 dB,S. aurita で 5-7 dB 高かった。これは現在適用されている標準化平均 TS を用いた場合に S. pilchardus で 4-8 倍,S. aurita で 3-5 倍の過大推定が生じる可能性を示唆している。

82(3), 417-423 (2016)
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平衡石の微量元素組成による頭足類の回遊の再構築:アメリカオオアカイカ Dosidicus gigas の事例研究

Bi Lin Liu(上海海洋大,中国),
Jie Cao, Samuel B. Truesdell,Yong Chen(メイン大,米国),
Xin Jun Chen, Si Quan Tian(上海海洋大)

 頭足類はその生涯を通じて多様な回遊パターンを示す。本研究では,大規模な回遊を行う頭足類のアメリカオオアカイカ Dosidicus gigas を用いて,海面水温と平衡石の微量元素組成の関係から回遊パターンの再構築を試みた。平衡石の微量元素組成は,アメリカオオアカイカの幼生から成体に至る生活史段階の回遊ルートを推定するための自然標識として有用であることがわかった。しかし,本手法は海流によって受動的に輸送される初期生活史段階の受精卵とふ化幼生には適用できなかった。
(文責 黒木真理)

82(3), 425-433 (2016)
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高水温と高 CO2 条件下でのカタクチイワシの逃避行動

ノパラート・ナスチョン(長大院水環・チュンフォン海洋水産セ,タイ),
八木光晴(長大水),河端雄毅(長大海セ),高 坤山(厦門大,中国),石松 惇(長大海セ)

 海洋温暖化と酸性化の魚類影響について,多くの研究が近年発表されているが,行動に関してはほとんど知見がない。本研究では,カタクチイワシの逃避行動への温暖化と酸性化の影響について検討した。1 ヶ月の 4 実験条件(水温 15/19℃; CO2 400/1000 ppm)への馴致後,逃避行動を高速ビデオカメラで記録し,解析した。回転速度の値が CO2 に関わらず 19℃ で 15℃ よりも有意に高かった以外は,水温および CO2 は逃避行動に影響を及ぼさなかった。群れ形成時の逃避行動,捕食者を加えた実験を行って,将来の海洋環境が与える影響についてさらに検討する必要がある。

82(3), 435-444 (2016)
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飼育実験で検証した卵巣の血管発達に基づいたサンマの経産魚の判別手法

巣山 哲(水産機構東北水研),
清水昭男(水産機構中央水研),
井須小羊子(鹿児島県庁),小澤 瞳(水産庁),
森岡泰三(水産機構西海水研),中屋光裕(北大水産),
中川 亨,村上直人,市川 卓(水産機構北水研),
上野康弘(水産機構水工研)

 サンマの経産魚と未産魚との判別方法を開発するために,水温を制御した条件下でサンマの飼育実験を行い,産卵前と産卵中,産卵後の個体の卵巣を得た。これらの卵巣をビクトリアブルーで染色し,卵巣内細動脈の違いを明らかにした。また,低水温下で飼育することによって産卵を抑制して長期間飼育した個体についても同様に観察した。産卵後の個体では細動脈の弾性繊維が明瞭に染まったが,産卵前の個体および長期間低水温で産卵を抑制した個体では染色されなかった。ビクトリアブルー陽性の細動脈は経産魚の指標として有効であると考えられた。

82(3), 445-457 (2016)
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瀬戸内海における単細胞性窒素固定ラン藻の分布と多様性

橋本怜弥,綿井博康(京大院農),
宮原一隆(兵庫県水産技術セ),
左子芳彦,吉田天士(京大院農)

 本研究では,瀬戸内海における単細胞性窒素固定ラン藻の分布と多様性を調べるため,単細胞性窒素固定ラン藻の 16S rRNA 遺伝子のクローン解析と単細胞性窒素固定ラン藻である UCYN-A および UCYN-C のニトロゲナーゼ(nifH)遺伝子を標的としたリアルタイム PCR を行った。クローン解析の結果,UCYN-A と UCYN-C を検出した。特に UCYN-C は 16S rRNA 遺伝子に基づきさらに 3 つのグループに分岐した。リアルタイム PCR の結果,UCYN-A は夏季を中心に検出された一方で,UCYN-C は冬季でも多量に検出された。以上より,瀬戸内海において,UCYN-A と UCYN-C が広く分布していることが示された。

82(3), 459-471 (2016)
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酵素処理魚粉を使用した配合飼料がマサバ稚魚のエネルギー分配に及ぼす影響

大西尭行,Amal Biswas,上中康司,村田 修,滝井健二(近大水研)

 マサバ稚魚のエネルギー分配と代謝率・遊泳速度の経時変化を測定した。摂餌後の酸素消費量は絶食時の 1.4-1.9 倍に増加し,4-9 時間で絶食時の値に戻った。遊泳速度は酸素消費量と同様に変動し,摂餌が代謝率や遊泳行動の変化に大きく影響していた。糞,尿,熱量増加+活動,標準代謝および成長へのエネルギー分配率はそれぞれ摂取エネルギーの 7.4, 8.7, 35.9, 23.5 および 24.5% であった。従ってマサバ稚魚は生命維持や消化・吸収コストが多い影響で成長へのエネルギー分配率が小さくなることがわかった。

82(3), 473-480 (2016)
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メガイアワビ消化管内におけるプロバイオティクス(ペディオコッカス属 Ab1 株)の動態および計数

田中礼士,三矢皓之,青木美月,宮崎多恵子(三重大院生資),
大坪雅史(道工技セ),Peter Bossier(ゲント大・ベルギー)

 本研究では,アワビ由来のプロバイオティクス(ペディオコッカス属 Ab1 株)の蛍光 in situ ハイブリダイゼーションにおける検出条件設定と,宿主消化管内での計数および動態を調べた。Ab1 株特異的検出プローブを用いて計数したところ,Ab1 株添加個体では対照個体に比べ 102 ほど消化管内の AB1 細胞数が多く確認された。さらに Ab1 株添加個体および対照個体の超薄切片を観察したところ,Ab1 株添加個体の消化管およびエラから AB1 細胞が確認されたことから,Ab1 株は宿主消化管内に定着し,十分な細胞数を維持していることが示唆された。

82(3), 481-489 (2016)
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セタシジミ Corbicula sandai の同位体分別

笠井亮秀(京大フィールド研セ),
石崎大介,礒田能年(滋賀水試)

 セタシジミの同位体分別を調べるために,餌の切替え実験を行った。シジミ軟体部の同位体比は,炭素,窒素ともに新しい餌を反映して変化し,約 40 日後に新しい値に収束した。実験期間中,同じ餌を与えた個体間の同位体比の差は小さかった。同位体変化を指数関数で近似したところ,分別係数は炭素で 0.1-0.7‰,窒素で 2.1-3.6‰ となり,過去に推定されていた値に近い値であった。炭素の半減期(12-22 日)は窒素の半減期(7-9 日)よりも長かった。推定された分別係数は,食物段階や食物連鎖を理解するうえで,有効な情報となる。

82(3), 491-498 (2016)
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松島湾におけるマガキ採苗不良のメカニズム

筧 茂穂,神山孝史,阿部博和(水産機構東北水研),
花輪正一,太田裕達,松浦 良,押野明夫(宮城水技セ)

 2013 年 8 月に松島湾で起きたマガキの採苗不良のメカニズムを解明するために,海洋環境と幼生輸送の観点から既存データを解析した。小型幼生は多く出現していたにもかかわらず,大型幼生がほとんど出現せず,採苗不良につながった。2013 年 8 月には表層に顕著な低塩分水が分布し,これにより湾外に流出する密度流が駆動されていた。密度流の駆動力の時間変化を調べたところ,2013 年の 7 月下旬~8 月上旬にかけて強い流出があり,これによりマガキ幼生が湾外に流出し,大型幼生の出現が起きなかったと考えられた。

82(3), 499-508 (2016)
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イワシクジラ由来鯨油摂取による肝臓脂質蓄積抑制作用

平子哲史(人間総合大人間科学),鈴木まみ子(昭和大医),
金 賢珠,飯塚 讓,松本明世(城西大薬),
和田亘弘(東大院医),岡部まい(東京食糧),
竹ノ谷文子(星薬大薬),安永玄太(鯨類研),
山中 聡,宮崎 章(昭和大医),
塩田清二(星薬大先端生命研)

 鯨油には EPA, DHA などの脂肪酸が豊富に含まれているが,これまで,鯨油の有効性については検討されていない。本研究では KK マウスを用い,イワシクジラ由来鯨油が脂質代謝に与える影響を検討した。高脂肪食により脂肪肝が誘導されたが,肝臓中の中性脂肪値は対照群と比較し鯨油摂取により減少し,肝臓組織中の脂肪滴も減少した。肝臓中の脂肪酸合成に関与する遺伝子発現は,対照群と比較し鯨油摂取群で有意に減少した。本研究結果から,鯨油は高脂肪食負荷によって生じた過剰な肝臓への脂質蓄積を減少させることが明らかとなった。

82(3), 509-517 (2016)
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ハタハタ Arctoscopus japonicus 乳酸脱水素酵素アイソザイムの由来組織による物理化学的特性の異同

菅原琴美,中川瑞希,米澤美香(秋田大理工),
中村成芳,城所俊一(長岡技科大生物),
涌井秀樹(秋田大理工),
布村 渉(秋田大理工・理工研セ)

 日本近海の重要水産資源であるハタハタ Arctoscopus japonicus は,低温海域を回遊し 13℃ 以下で産卵受精するが,ハタハタの運動及び精子のエネルギー代謝機構は不明である。一方,乳酸脱水素酵素(LDH)は解糖系代謝の最終段階を担うエネルギー代謝の要である。本研究では,ハタハタ骨格筋及び精巣の LDH の反応速度論的特性及び熱力学的解析により,両者の触媒効率には差がないが精巣型 LDH は骨格筋型よりも熱安定性が高いことを示し,構造的な安定性に違いがあることを明らかにした。

82(3), 519-527 (2016)
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肝臓の n-3/n-6 多価不飽和脂肪酸のシフトは farnesoid X receptor 欠損マウスの脂肪肝を改善する

宮田昌明,木下佑一,新野耕平,杉浦義正,
原田和樹(水産機構水大校)

 Farnesoid X receptor (FXR)の欠損マウスは肝障害が認められ脂肪肝であることから非アルコール性脂肪性肝疾患のモデルとされている。Fxr 欠損マウスに 4% 魚油含有食を 4 週間摂取させるとコーン油含有食と比べ,肝障害マーカーの差異は認められなかったが,肝内の n-3 系多価不飽和脂肪酸が蓄積し,肝トリグリセリド,コレステロールのレベル,脂肪合成関連酵素の mRNA とタンパク質レベルが低値を示した。これらの結果より Fxr 欠損マウスにおける肝臓の n-3/n-6 多価不飽和脂肪酸のシフトは肝臓の脂肪合成を変化させ,脂肪肝を改善する事が示唆された。

82(3), 529-536 (2016)
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チュウゴクモクズガニ肝膵臓および生殖腺の臭気成分の官能検査,エレクトリックノーズ分析および GC-MS による分析

Na Wu,Xi-Chang Wang,Ning-Ping Tao,
Yi-Qun Ni(上海海洋大,中国)

 チュウゴクモクズガニの肝膵臓および生殖巣の臭気特性について,官能検査,エレクトリックノーズ分析および GC-MS の分析により評価した。官能検査およびエレクトリックノーズ分析には強い相関が認められ,雌の肝膵臓および生殖巣は“XieHuang(雌のカニ味噌)”臭に大きく寄与した。一方,“XieGao(雄のカニ味噌)”臭には肝膵臓のみが重要な役割を果たした。GC-MS による分析の結果,53 種の臭気成分が同定された。肝膵臓の各臭気成分の量は混合サンプル(XieHuang/XieGao)の量と同程度であったが,生殖腺の各臭気成分の量は混合サンプルの量と異なった。
(文責 大迫一史)

82(3), 537-547 (2016)
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部分調整 LA-AIDS モデルによる震災前後の日本のワカメ市場分析

若松宏樹,宮田 勉(水産機構中央水研)

 本研究は東日本大震災前後の日本のワカメ市場構造の変化を分析した。分析には店舗販売時点情報(POS データ)を使用して国内 10 地域を分析した。データは 2005 年から 2014 年の月別データを用いた。LA-AIDS モデルによる分析によって推定された需要の自己,交叉価格弾力性を見ても震災前後で差異は存在するものの,顕著な需要の変化が発生している地域は限定的で,市場構造に大きな変化が起こっているとは言えなかった。つまり本研究から日本のワカメ市場における震災の影響は限定的であることが判明した。

82(3), 549-559 (2016)
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