[特集]環境変動下におけるスケトウダラの社会・生態システム:学際的アプローチ

導入:スケトウダラが産まれてから食卓にあがるまで

牧野光琢(水研セ中央水研),
Suam Kim(釜慶大学校,韓国),
Anatoly Velikanov(サハリン漁業海洋学研究所,ロシア),
Keith Criddle(アラスカ大フェアバンクス,米国),
船本鉄一郎(水研セ北水研),
廣田将仁(水研セ中央水研),
桜井泰憲(北大院水)

 水産業は,生態系サービスに依存した食料供給産業である。海の中で魚が産まれ,成長し,漁獲され,加工・流通を経て,各家庭の食卓等で消費されるまでの全体を水産システムと呼ぶ。本特集は,北部太平洋海域のスケトウダラに着目し,水産システムの各段階に関する専門分野の最新知見を,日・韓・米・露から集めるとともに,学際総合研究としての水産研究のみが実施しうる研究の方向性を探る。

80(2), 103-107 (2014)
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スケトウダラ:世界的な資源状況

Oleg A. Bulatov(VNIRO,ロシア)

 スケトウダラは世界中で漁獲されており,その主な漁場はベーリング海とオホーツク海である。大規模な漁獲は 1960 年代に始められ,この 50 年間の年間水揚げ量は平均 1.5 万トンにもなる。漁獲量は毎年大きく変動しており,この変動が合理的な資源管理を困難にしている。漁獲量は生物量と連動しており,またその生物量は北太平洋の気候変動と密接な関係にあることが示唆されている。北太平洋の冷却はその生物量を日本海で増加させるもののベーリング海やオホーツク海では減少させており,同海域の温暖化は逆のことを引き起こすものと予測される。
(文責 東海 正)

80(2), 109-116 (2014)
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スケトウダラ Theragra chalcogramma 太平洋系群と日本海北部系群の加入量変動要因の比較

船本鉄一郎,山村織生(水研セ北水研),
志田 修(道中央水試),板谷和彦(稚内水試),
森  賢(水研セ北水研),檜山義明(水研セ日水研),
桜井泰憲(北大院水)

 スケトウダラ Theragra chalcogramma 太平洋系群と日本海北部系群の加入量変動要因を比較した。太平洋系群の加入量が 1・2 月の水温と正の関係を示すのに対し,日本海北部系群の加入量は 1・2 月および 4 月の水温と負の関係を示す。また,太平洋系群については 2 月の北西風が,一方,日本海北部系群については 3 月の対馬暖流が,初期生活史の輸送を通して加入量に影響を及ぼしていると考えられる。さらに,太平洋系群では共食いが加入量を決定する上で大きな役割を担っていると推測されるのに対し,日本海北部系群については共食いは確認されていない。これらの知見をもとに,両系群の加入量変動メカニズムを提唱する。

80(2), 117-126 (2014)
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高解像度海洋モデルに基づく粒子追跡実験を用いたスケトウダラ太平洋系群卵仔魚の輸送過程に関する予備的研究

黒田 寛(水研セ北水研,中央水研),
高橋大介(東北大院農),三寺史夫(北大低温研),
東屋知範(水研セ北水研),瀬藤 聡(水研セ中央水研)

 サブメソスケール変動が解像できる 1/50°高解像度海洋モデルを構築して,スケトウダラ太平洋系群の卵仔魚を模した粒子追跡実験を行い,噴火湾内への輸送過程に関わる重要な物理要素を整理した。その結果,サブメソスケール変動の適切な再現および浮力によって粒子が表層付近にとどまる効果が不可欠であった。また,浮力に依存した鉛直位置の微妙な違いは,湾内滞留率にも重大な影響を及ぼすため,浮力だけではなく,より現実的な生物過程あるいは統計的な生物分布に基づく鉛直移動を考慮した粒子追跡実験が今後必要になる。

80(2), 127-138 (2014)
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噴火湾周辺の昼夜におけるスケトウダラ稚魚の鉛直分布に対する環境要因と餌生物の影響

川内陽平(北大院環),千村昌之(水研セ北水研),
武藤卓志(道栽水試),渡野邉雅道(函館水試),
白川北斗(函館国際水産・海洋都市推進機構),
宮下和士(北大フィールド科セ)

 北海道噴火湾周辺の餌生物転換時期におけるスケトウダラ稚魚の鉛直分布の昼夜変化と,物理,飼料環境との関係を検討した。湾内の昼間は,大型の稚魚(30 mm 以上)が湾外に比べて中底層の水塊に多く分布し,大きな餌生物(体幅 0.5 mm 以上)を摂餌した。夜間になると,稚魚は昼間よりも大きな餌を摂食した一方で,湾外では中底層により大型の個体が分布する傾向があり,湾内ではほとんどが表層へ移動していた。これらの違いは,各場所において,稚魚が摂餌のためにより好適な物理環境に適合しようとした可能性を示唆する。

80(2), 139-149 (2014)
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東部ベーリング海におけるスケトウダラの加入,豊度,分布と漁業管理

Mikhail A. Stepanenko, Elena V. Gritsay(太平洋水産研究センター,ロシア)

 ベーリング海のスケトウダラは明確に異なる 2 つの産卵場を持つ。東部ベーリング海の本種の加入と年級豊度は経年変動が大きく,年級強度と水温,海氷分布,あるいは初期生残との関係は明瞭ではない。一方,本種の加入と年級強度は,若齢魚の冬期の生残に大きく左右される。また,海洋物理環境,生産性,動物プランクトンの種組成の年変動は,結果的には年級豊度や資源量の大きな変動と密接に関係する。ロシア国内および国際合意に基づいたスケトウダラ調査結果の適用による,生態系本位の漁業管理の実施は非常に重要である。
(文責 宮下和士)

80(2), 151-160 (2014)
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日本におけるスケトウダラの資源評価と資源管理

森  賢(水研セ北水研),檜山義明(水研セ日水研)

 本報告は日本で実施されているスケトウダラの資源評価と資源管理のレビューである。日本ではスケトウダラは 4 評価群に区分され管理されている。日本海北部系群と根室海峡群は資源状況が悪く,資源回復を目的とした管理方策が提案される。一方,太平洋系群とオホーツク海南部群は,現在の資源水準以上を維持する管理方策が提案される。日本では漁業者による自主的管理や許可制度による努力量管理等が行われてきたが,近年では,TAC 管理,資源回復計画,資源管理計画等が実施された。これらは資源状況に応じて立案されるが,社会・経済的要因や生態系的要因なども考慮される必要がある。

80(2), 161-172 (2014)
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北海道南西太平洋沿岸域におけるスケトウダラの産卵回遊時期の年変動と刺網漁業に与える影響について

志田 修,三原行雄(道中央水試),
武藤卓志(道栽水試),
宮下和士(北大フィールド科セ)

 北海道の南西太平洋沿岸域は,スケトウダラ太平洋系群の産卵場であり,索餌場から産卵のため回遊してくる親魚を対象とした刺網漁業が,産卵期を含む 10 月-1 月を主漁期として営まれている。音響調査により推定した時期別分布量と刺網漁業の月別漁獲量から,海洋環境変動の影響を受けて,回遊タイミングの変化が 10 年スケールで起こっていることが示唆されている。この変化は月別の単価や漁場形成の違いを通じて刺網漁業に影響を与えている。これらの研究結果は,スケトウダラ資源のより効果的な管理手法の確立に利用できると考えられる。

80(2), 173-179 (2014)
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西部アラスカ州地域開発割当プログラム(CDQ)の使用量と重要性の変化

Alan C. Haynie(NOAA・NMFS・アラスカ漁業科学センター,米国)

 アラスカ州の地域団体に漁獲枠を割り当てる地域開発割当プログラム(CDQ)の中で,東部ベーリング海のスケトウダラ漁業は最大であり,全割当量の 10% に達する。本論文はスケトウダラ CDQ 権の時空間的使用量がどのように変化してきたか検討した。また CDQ 使用料のばらつきと,1992-2005 年の CDQ 漁業権価格の変化を検討した。CDQ 権の行使は,漁期の広がりから,漁期内の制限水域内での授権的な漁業へと変化してきた。CDQ 権を所有する漁船数は減少し続け,今や全てのスケトウダラ CDQ 漁業は海上加工船によってのみ行われている。
(文責 髙津哲也)

80(2), 181-191 (2014)
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境界を跨る:ベーリング海のスケトウダラ資源の協力・非協力管理戦略

Keith R. Criddle, James W. Strong(アラスカ大フェアバンクス,米国)

 東部ベーリング海のスケトウダラ漁業は 10 億ドル以上の産地生産額を誇る漁業である。同資源は米国の EEZ 境界を越えて分布する跨界性資源であり,分布域の変動も大きい。分布の中心が北西に移動すると,ロシア EEZ 内での漁獲圧に多く晒されることになる。協調的な管理の欠如は,現状の管理戦略に反映されないリスクをもたらす。本研究では,環境変動によって資源量と分布域が変化する状況下での米国とロシアのスケトウダラ漁業を念頭に,複数製品/複数市場による生物経済モデルを用いて,最適な協力・非協力管理戦略を定式化した。
(文責:山川 卓)

80(2), 193-203 (2014)
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スケトウダラの加工技術~すり身による技術革新~

福田 裕(海洋大)

 日本が開発したカニかまぼこは,“SURIMI” と表示されパリのレストランで人気がある。今や北米,欧州などの工場で 30 万トン以上ものカニかまぼこが生産され,“SURIMI” は世界の共通語となった。“SURIMI” の元々の意味は,練り製品の中間素材である冷凍すり身のことであり,スケトウダラを原料に日本で開発された。水産食品では初めての中間素材の誕生である。食品中間素材の小麦粉,澱粉などは,食品産業の近代化,工業化の道を拓いたが,冷凍すり身は,日本の練り製品産業の近代化と,カニかまぼこの国際化を促し,スケトウダラの利用に大きな変革をもたらした。

80(2), 205-211 (2014)
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韓国におけるスケトウダラの市場と消費

Do-Hoon Kim(釜慶大学),
Sukyung Kang(韓国国立水産科学院),
Suam Kim(釜慶大学,韓国)

 スケトウダラは韓国の食文化を様々な形で支えており,韓国漁業において最重要魚種の一つである。しかし 2000 年から韓国沖合漁業によるスケトウダラ漁獲量は激減し,国内生産量は徐々に縮小している。そのため韓国のスケトウダラ供給は輸入への依存度を高めている。そこで今後の市場を予測する際需要の予測が重要になっており,本稿では需要分析を行った。その結果,韓国の需要は(潜在も含め)50 万トンに達することが明らかになったが,それを満たし得る供給は期待できない。
(文責 有路昌彦)

80(2), 213-218 (2014)
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スケトウダラの市場と流通―現状と展望―

廣田将仁(水研セ中央水研),河野政道(マルハニチロ),
芳賀みずえ(釧路短大)

 本稿は,市場化と流通の視点からスケトウダラの産業の構造と変遷について考察する。ただし,スケトウダラ産業の国際化に伴う進展とその成果だけでなく,地域利用の重要性にも注目し,その利用形態の多様性が地域産業や社会の活力を維持する可能性を持つという視点に立つ。近年,スケトウダラ国際市場において日本の影響力は低下しているが,今後のあるべき方向として多様な流通チャネルと柔軟な経営,その基盤となる多様性のある食文化,食習慣などの地域利用が産業を頑健に維持するために重要であることを指摘する。

80(2), 219-226 (2014)
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総合研究としての水産科学にむけて

牧野光琢(水研セ中央水研),桜井泰憲(北大院水)

 水産科学における総合研究とは「様々な知識や価値観やニーズを考慮しつつ,水産システムの持続可能性に関して学際的に行われる,社会と人類福利のための研究」である。個別学術分野の研究能力に加え,研究枠組みの共同決定,相互学習,利害関係者との意思疎通等の追加作業が必要となる。水産の総合研究により,外的要因や他セクターと水産業との相互作用の分析が可能になる。スケトウダラの場合,他の変動性資源との適切な組合せ方や,低下した資源を回復させる道筋などを考察することが可能となる。

80(2), 227-236 (2014)
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日本産シロザケ放流事業の現状と課題(総説)

北田修一(海洋大)

 日本のシロザケ放流事業を概観し,北見の定置網漁業の持続可能性を検討した。オホーツクでは回帰率・数とも最高水準にあるが,他では 2005 年以降減少している。北海道の 160 以上の河川で自然産卵が確認された。遺伝的多様性はミトコンドリアで低下していた。Ne/N 比は孵化場魚と野生魚を合わせて >0.15% と推定された。北海道 4,本州 2 の集団が推定されたが,遺伝的分化は弱い。早期群の放流は回帰時期を変化させたが,晩期群の遡上実施により回復しつつある。野生魚と孵化場魚を統合する遡上計画に基づく地域毎の増殖が望まれる。

80(2), 237-249 (2014)
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日本産シロザケの生活史と個体群動態に及ぼす温暖化の影響(総説)

帰山雅秀,セオ・ヒュンジュ,秦 玉雪(北大)

 サケ属魚類のバイオマス動態は北太平洋の長期的な気候変動とリンクし,特にアリューシャン低気圧と気候レジーム・シフトの影響を受ける。また,温暖化も日本系シロザケの生活史と個体群動態にポジティブおよびネガティブに影響を及ぼしつつあり,IPCC 第 4 次報告書の A1B シナリオに基づくと 2095 年までに本邦系シロザケはクリティカルな影響を受けることが予想される。本邦系シロザケの保全には,河川生態系のリカバリーと野生シロザケの保護を目的とした順応的管理と予防原則からなるリスク管理の確立が急務である。

80(2), 251-260 (2014)
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船上ライントランセクト調査に修正発見関数を用いたエチゼンクラゲ密度の推定について

Fanomezantsoa Randriarilala,北門利英,塩出大輔,
坂口雅之,林 敏史,東海 正(海洋大)

 2009 年 10 月に岩手県沖と日本海大和堆東部,対馬海峡で海鷹丸船上からエチゼンクラゲを計数ならびに横距離を計測する機会を得た。船体近く 10 m 距離内の海面の一部は船体の陰となって観測者からは見えなかった。これによる発見確率の低下を表すパラメータを導入し,またクラゲの大きさや体色などを要因としてデータを層化したところ,クラゲの大きさによって船体近くでの発見確率が異なるモデルが AIC によって選択された。平均密度の最大値は,岩手県沖と大和堆東部がそれぞれ 2.02 と 0.80 個体/ha と高かったのに対して,対馬海峡は 0.07 個体/ha と低かった。

80(2), 261-271 (2014)
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カラフトマスふ化場稚魚と野生稚魚の耳石に含まれる酸素,炭素安定同位体比の違い

冨田泰生(東大大気海洋研),
鈴木俊哉(農林水産技術会議事務局),
山田 努(東北大院理),浅海竜司(琉球大院理工),
八重樫博文(水研セ北水研根室),
井龍康文(東北大院理),大竹二雄(東大大気海洋研)

 カラフトマスのふ化場稚魚と野生稚魚の耳石に含まれる酸素(δ18Ootolith),炭素安定同位体比(δ13Cotolith)の違いを調べた。両者の δ18Ootolith と δ13Cotolith の間にはそれぞれ 0.6‰ と 8.1‰ の有意な違いが認められ,判別分析では的中率 95.8% で両者を判別できた。δ18Ootolith の違いは生息水温の違い,δ13Cotolith の違いは摂餌の違いによるものと考えられた。これより回帰親魚をふ化場由来の個体と野生個体とに判別することが可能と考えられた。

80(2), 273-280 (2014)
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日本で室内タンク培養されている紅藻 Agardhiella subulata の分類学的位置と光合成に対する温度と光の影響

Triet Duy Vo(九大院農・NITRA,ベトナム),
Gregory N. Nishihara(長大海セ),
嶌田 智(お茶大院人文創科),
渡邉裕基,藤本みどり(鹿大水),
川口栄男(九大院農),寺田竜太(鹿大水)

 食用や餌料として日本でタンク培養されている米国産未同定紅藻が Agardhiella subulata であることを,形態と分子系統解析で明らかにした。また,本種の培養に至適な生理条件を把握するため,様々な光量や水温における光合成活性を酸素電極とパルス変調クロロフィル蛍光測定法(PAM)で測定した。総光合成速度は 26.7℃ で最も高く,呼吸速度は高温ほど高くなった。また,PAM の最大量子収率は 23.7℃ で最高値となり,最大電子伝達速度は 31.0℃ で最高値になった。これらの結果から,本種の温度に対する光合成活性の幅広い耐性が周年栽培を可能にしていると示唆された。

80(2), 281-291 (2014)
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西部北太平洋におけるマサバ稚魚の孵化日と成長:耳石微細輪紋の日周性の検証と適用

高橋正知(水研セ中央水研),米田道夫(水研セ瀬水研),
北野 載(九大院農),川端 淳(水研セ中央水研),
斉藤真美(日本エヌ・ユー・エス)

 2007, 2009 年に西部北太平洋で採集されたマサバ稚魚について,飼育実験で確認された耳石の日輪形成周期に基づいて,孵化日と成長を調べた。耳石への蛍光標識実験から,耳石縦断面の日輪計測は耳石平面に比べて優れていること,第 1 輪は孵化後 3 日目に形成されることが判断された。縦断面輪紋計数により野外個体で 24~211 輪まで計数可能であった。推定孵化時期は 2 月から 6 月で,4 月発生個体はいずれの採集期間でも出現した。ゴンペルツ成長式で両年には有意差がみられ,2009 年は 2007 年より夏季までの成長が早く,秋季では遅くなった。

80(2), 293-300 (2014)
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ティラピア補体成分 C3 および新奇ザイモサン結合タンパク質の精製と特性

Soha G. R. Abdel-Salam,辻倉正和(九大院農),
近藤昌和(水大校),
杣本智軌,中尾実樹(九大院農)

 パン酵母の細胞壁を主成分とするザイモサンは,血清中の自然免疫因子である補体を活性化し,補体成分 C3 を結合するモデル標的物質である。我々は,ティラピア血清中に,補体 C3 以外にもザイモサンに強固に結合する分子量 240 kDa の新奇タンパク質(ZBP-240)を見出した。4 種の C3 アイソフォームと ZBP-240 を精製して機能を解析した結果,ZBP-240 はグラム陽性および陰性細菌や酵母に結合し,C3 と同様に白血球による貪食を促進するオプソニン作用を示し,自然免疫に関与することが示唆された。

80(2), 301-310 (2014)
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マツカワにおいてストレスは給餌やアルギニン注射によって誘導されるインスリンの分泌を抑制する

安藤 忠(水研セ西海水研)

 マツカワにおいて,給餌後のインスリン(INS)分泌に及ぼすストレスの影響を調べた。給餌 15 分後から 30 分間に渡って棒で追い回すことをストレスとした。その結果,ストレス群の最高血中 INS 濃度は 3.4±1.0 ng/mL であり,ストレス無し群の最高値(8.3±1.7 ng/mL)に比較し低かった。アルギニン(Arg)注射で INS 分泌を誘導してもストレスを加えると血中 INS 濃度は同様に低下した。さらに Arg 注射後のストレスを 10 分間としても血中 INS 濃度の上昇が認められなかった。以上から,ストレスは短期的であっても INS 分泌の強力な抑制要因であると考えられる。

80(2), 311-316 (2014)
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ヒラメの体軸成長に伴う形態的特徴に関する遺伝子型および表現型の推定変数

Yong-Xin Liu, Li Jiang, Hai-Jin Liu, Run-Qing Yang
(中国水産化学研究院,中国)

 ヒラメの体軸成長に伴う形態的な特徴に関する遺伝的変数を推定するため 47 家系を含む 3 つの年級群の定量的遺伝子解析を行った。180 日齢と 360 日齢の魚について 1185~1981 個体の全長,標準体長,頭長,躯間長,尾柄長,尾鰭長の 6 つの長さと各部位の長さの比を算出した。尾柄長および他の長さに対する分散係数がその他の部位に比べて大きく,解析した全ての形質で中・高程度の遺伝性が認められた。180 日齢魚の遺伝性は 360 日齢魚よりも高く,体軸成長関連の形態形質が交雑により改善しうることを実証した。
(文責 芳賀 穣)

80(2), 317-321 (2014)
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アワビ飼料への宿主由来乳酸菌 Pediococcus sp. Ab1 株投与によるメガイアワビ消化管内細菌相の調節効果

家畠俊平,中野みよ,田中礼士(三重大院生資),
前田広人(鹿大水)

 本研究では,宿主由来乳酸菌 Pediococcus sp. Ab1 株を投与した時のアワビ消化管内細菌相への影響を調べた。Ab1 株の消化管内への定着により,その数は非添加区に比べ 105 倍高い値を示した。Ab1 がアワビ消化管内へ定着した結果,16S rRNA 遺伝子クローン解析において,消化管内細菌相構成に相違が確認された。これらの結果から,アワビ消化管内に定着したプロバイオティクスは,培養・非培養双方の消化管内細菌相に大きな影響を及ぼすことが初めて示された。

80(2), 323-331 (2014)
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韓国でヒラメから分離された 3 種の魚病細菌の rpoB 遺伝子を用いた multiplex PCR による同定

M. S. Kim(NFRDI),
J. Y. Cho(Soonchunhyang 大,韓国),
H. S. Choi(NFRDI,韓国)

 養殖ヒラメの重要な魚病細菌である Vibrio harveyi, Vibrio ichthyoenteri,及び Photobacterium damselae を迅速に同定するため,RNA ポリメラーゼ β サブユニット(rpoB)遺伝子を用いた multiplex PCR の応用を試みた。6 種のプライマー混合物を用いて PCR を行ったところ,V. harveyi, V. ichthyoenteri および P .damselae では,それぞれ,601, 434, 533 bp の PCR 産物が検出された。腎臓における本法の検出感度は,2.5×104 cfu/g (V. harveyi),2.5×105 cfu/g (V. ichthyoenteri),2.5×106 cfu/g (P. damselae)であった。TCBS 寒天培地で 2004 年~2010 年に養殖ヒラメから分離された 632 株の Vibrio 属細菌を本法で同定を試みたところ,265 株(41.9%)は V. ichthyoenteri,115 株(18.2%)は V. harveyi,72 株(11.4%)は P. damselae であった。本法はヒラメの 3 種の病原細菌の迅速同定に有用であると考えられた。
(文責 舞田正志)

80(2), 333-339 (2014)
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ヒラメのホルモン感受性リパーゼ:脂質蓄積器官としての鰭屈筋周辺組織の機能

Anurak Khieokhajonkhet,金子 元,大原和幸,
白神裕人,潮 秀樹(東大院農)

 ヒラメから 2 種類のホルモン感受性リパーゼ遺伝子(HSL1 および 2)をクローニングした。一般にエンガワと呼ばれる鰭屈筋組織には,多くの脂肪細胞が観察されるとともに,両遺伝子の転写産物も多く認められ,遊離脂肪酸の存在も確認された。また,HSL1 遺伝子の転写産物はこの脂肪細胞に蓄積していた。鰭屈筋は HSL によって生じた遊離脂肪酸を用いて持続的運動を行うものと考えられた。

80(2), 341-351 (2014)
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海草 Zostera marina(アマモ)に付着生息する,有害渦鞭毛藻 Alexandrium tamarense に対する増殖阻害細菌

大西由花(北大水産),毛利由華(科博),
辻 彰洋(科博),
扇 航平,山口 篤,今井一郎(北大水産)

 麻痺性貝毒原因渦鞭毛藻 Alexandrium tamarense に対して増殖阻害作用を示す細菌 E8 株と E9 株(薄黄色のコロニー)を,アマモ葉体から分離した。これらは全く同じ 16S rDNA 塩基配列を持ち,殺藻物質を生産して阻害作用を示した。同じ葉体試料からほぼ同じ塩基配列だが増殖阻害能を持たない細菌株(白色のコロニー)も単離された。増殖阻害細菌 2 株は,赤潮藻類に対しても増殖阻害能を発揮した。以上より,アマモ場は有害有毒藻類の発生を防除する可能性が考えられた。

80(2), 353-362 (2014)
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Symbiodinium の形態(遊泳細胞と不動球形細胞)を見分けるためのカルコフロール染色の応用

藤瀬里紗(広大院生物圏科),
山下 洋(水研セ西海水研),
小池一彦(広大院生物圏科)

 サンゴの共生藻として知られる Symbiodinium は,宿主から離れると遊泳細胞と不動球形細胞を日周的に形態変化する。室内実験では,遊泳細胞はサンゴへの感染時に重要であることが示唆されているが,遊泳行動を直接観察する方法は固定試料に使用できないため,遊泳細胞の環境中での出現率を知ることは困難である。本研究では,蛍光染色剤 calcofluor を用いることで簡便に形態を区別できることを見出した。遊泳能力による形態判別と有意な正の相関を得た。本手法は,環境中の Symbiodinium の遊泳パターンやサンゴから放出された褐虫藻の形態把握などに有用である。

80(2), 363-368 (2014)
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加圧熱水処理によりマサバの皮から調製された加水分解物は,抗酸化活性や機能性を有するアミノ酸が含まれている

A. K. M. Asaduzzaman, Byung-Soo Chun(釜慶大学校,韓国)

 凍結乾燥及び超臨界二酸化炭素(SC-CO2)抽出したマサバ皮から異なる温度(150~240℃)及び圧力(12~210 bars)条件で加圧熱水処理して得られたタンパク加水分解物の抗酸化活性及び機能性について調べた。凍結乾燥及び SC-CO2 抽出した加水分解物でのアミノ酸の最高収量は,240℃, 210 bars の条件下でそれぞれ 121.93±1.80 及び 122.96±2.84 mg/g であった。各種測定法による抗酸化活性は,処理温度及び圧力が上がるにつれて上昇し,240℃, 210 bars で最大となった。乳化性,気泡性などの機能性は,処理温度及び圧力が上がるにつれて低下した。以上の結果から,サバ皮から調製したタンパク加水分解物は,食品関連産業で添加物として使用できるものと結論した。
(文責 森岡克司)

80(2), 369-380 (2014)
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「ヤケ」クロマグロ筋肉中のミオシン変性

今野敬子,今野久仁彦(北大院水)

 マグロ肉中でのミオシン(M)変性は魚肉を定量的にホモジネートに変換させることで分析が可能となった。M 変性は Ca2+-ATPase 活性,塩溶解性,単量体ミオシン量,キモトリプシン消化による S-1, Rod 生成量から検討した。ほとんどの市販クロマグロ肉の pH は 5.4~5.7 まで低下していたが,M 変性は認められなかった。この肉を 30℃ で 60 分程度加熱すると M が変性した。しかし,pH 7 に調整した後の加熱では変性は認められなかった。「ヤケ肉」と判定されたクロマグロ肉でも,正常の外観を示す場所では M 変性が認められず,ヤケの発生が認められる部分でのみ M 変性が確認された。

80(2), 381-388 (2014)
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