Fisheries Science 掲載報文要旨

超音波ドップラー流向流速プロファイラー(ADCP)により推定された遊泳速度を用いた音響散乱層の識別

李 坰勲(韓国水産科学院),向井 徹(北大院水),
李 旲在(韓国釜慶大),飯田浩二(北大院水)

 ADCP で音響散乱層と魚群の移動速度を測定し,それと計量魚探情報を併用して魚種判別を行う手法の評価を行った。音響散乱層の平均移動速度は,周りの水塊と比較し,偏差が 5.3 cm/s 大きいものとして特徴づけられた。また,サンマの平均遊泳速度は 91.3 cm/s,ハダカイワシのそれは 28.1 cm/s と推定された。これらの値はそれぞれの体長の 4.19,4.26 倍であった。本方法は調査海域に分布する多くの魚種の識別方法として利用できると考えられた。

80(1), 1-11 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ニューカレドニアの広範囲の地域で漁獲されるハマダイ属 2 種の限定的な集団遺伝構造

Kim L. Loeun(アデレード大,オーストラリア),
Sharyn Goldstien(カンタベリー大,ニュージーランド),
Dianne Gleeson(キャンベラ大,オーストラリア),
Simon J. Nicol(Oceanic Fisheries Programme,ニューカレドニア),
Corey J. A. Bradshaw(アデレード大)

 Etelis carbunculus および E. coruscans の地理的連続性をミトコンドリア DNA の調節領域を用いて集団解析した。ニューカレドニア周辺で最低 200 km 以上離れた 3 地域からサンプルを採集した。E. carbunculus では 2 つの異なる遺伝集団が認められ,E. coruscans では一つの集団が認められた。各魚種の遺伝構造における地域分化は小さく,これらの広い 3 地域において両種とも一つの遺伝集団として保護および管理していく必要があり,この地域におけるハマダイ属漁業においては国境を越えた管理が要求されると考えられる。
(文責 家戸敬太郎)

80(1), 13-19 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


マングローブの生育するマイクロハビタットと生育しないマイクロハビタット間における魚類群集構造と餌資源量の違い

南條楠土(東大大気海洋研),河野裕美(東海大沖セ),
中村洋平(高知大院黒潮),堀之内正博(島大汽セ),
佐野光彦(東大院農)

 沖縄県西表島浦内川のマングローブクリークにおいて,魚類群集構造,餌資源量,および物理環境をマングローブの生育する河川岸部と,生育しない河川中央部(砂地)の間で比較した。前者では魚類の種数と個体数が後者よりも顕著に多く,餌となるカニ類や海藻類が多かった。これにより,魚類の分布と餌の量の関係は食性グループによって異なり,底生甲殻類食魚と植食魚の分布には餌資源量が大きく影響しているが,動物プランクトン食魚の分布には,他の要因(水流や捕食者に対するシェルターの存在)がより影響していると考えられた。

80(1), 21-41 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ニシン亜目魚類仔魚の季節的水温変動に対する成長速度応答の差異

渡邊良朗,落合伸一郎,深道絹代(東大大気海洋研)

 相模湾に生息するニシン亜目魚類 3 種の仔魚の間では,季節的な水温変動に対する成長速度の応答が異なっていた。2008 年 2 月~2009 年 4 月にウルメイワシ,カタクチイワシ,マイワシの仔魚をシラス漁獲物から採集し,脊索長 15~24 mm の範囲にある 5 段階の体長時における成長速度と環境水温との関係を解析した。ウルメイワシはどの体長時にも両者間に強い相関関係が見られたが,カタクチイワシでは弱い相関関係がみられ,マイワシでは有意な関係が見られなかった。水温に対する成長速度応答の違いの生態学的な意味を考察した。

80(1), 43-51 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


マアジ Trachurus japonicus の最大遊泳速度への水温と疲労の影響

M. Riyanto,柳瀬一尊,有元貴文(海洋大)

 マアジ Trachurus japonicus(18.2±0.8 cm FL, n=185)の遊泳特性を回流水路で観察するとともに,筋電図(EMG)と筋収縮時間の測定を行った。10,15,22℃ の 3 段階の水温条件で尾鰭振動数と遊泳速度の関係を求め,遊泳速度は尾鰭振動数の増加に対して直線的に増大するが,その傾きは水温 10℃ の条件で低くなった。筋電図の測定より,普通筋の活動は 71.4~99.6 cm/s(3.7~5.3 FL/s)の速度段階から始まり,尾鰭振動数として毎秒 6 回に相当する。また,強制遊泳を経験した個体の筋収縮時間は顕著に増大し,最大遊泳速度の能力に影響することを確認した。

80(1), 53-59 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


東シナ海におけるマアジの年齢・成熟特性

依田真里(水研セ西海水研),
白石哲朗(岡山県水産振興協会),
由上龍嗣(水研セ西海水研),
大下誠二(水研セ国際水研)

 東シナ海で漁獲したマアジを用い,耳石を用いた年齢査定,卵巣の生殖腺指数 GSI の季節変化ならびに組織学的観察を行い,成長および成熟特性を調べた。Von Bertalanffy の成長式は FLt=401{1-exp [-0.275(t+1.149)]}(0.8<t<6.9),ここで t は年齢,FLtt 歳時における平均尾叉長を示す。産卵期は 12 月から 6 月で,産卵盛期は 2 月から 5 月と考えられた。過去の知見と比べると満 1 才時点の体長は大きかったが,最小成熟体長は小さいと考えられ,より若齢で成熟が開始していると考えられた。

80(1), 61-68 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


異なる飼育水温がマハタ仔稚魚の生残,成長および形態異常に及ぼす影響

辻 将治(三重水研),阿部久代(三重保健所),
羽生和弘(三重水研),栗山 功(三重農水部),
土橋靖史(三重水研),津本欣吾(三重農水部),
二郷卓生,糟谷 亨,加藤高史,河村 剛,岡田一宏(三重栽漁セ),
宇治 督(水研セ増養殖研),
澤田好史(近大水研)

 23~29℃ の異なる水温でマハタ仔稚魚を飼育し,生残,成長,形態異常に及ぼす影響を比較した。全長 30~40 mm の稚魚の生残率は 25~26℃ で高く,成長は高水温で促進された。形態異常魚出現率は 25~27℃ で低かった。椎体の変形出現率は高水温で高く,神経棘の 2 叉は 23℃ で高かった。脊椎骨の屈曲,癒合あるいは椎体欠損の出現と水温に関連はなかったが,屈曲出現率は未開腔個体で高かった。以上より,マハタ仔稚魚の飼育適水温は 25~26℃ であり,脊椎屈曲の防除策として鰾の開腔条件を求める必要性が示された。

80(1), 69-81 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


シアノファージ Ma-LMM01 感染時の Microcystis aeruginosa 遺伝子の転写動態解析

本田貴史,高橋春菜,左子芳彦,吉田天士(京大院農)

 シアノファージ Ma-LMM01 感染過程における Microcystis の計 14 の遺伝子の転写動態を調べた。感染細胞と非感染細胞でハウスキーピング遺伝子,炭素代謝系遺伝子および光化学系反応中心(PSII)遺伝子の明確な差異は見られなかった。一方で,PSII保護に関与するストレス応答遺伝子と,その転写の一部を担うとみられるストレス応答 σ 因子 sigB の転写促進が見られた。したがって,本ファージは宿主ストレス応答系を利用して PSIIを保護し,転写を激変させることなく核酸源を確保していると考えられた。

80(1), 83-91 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


魚味噌から分離したヒスタミン生成菌 Staphylococcus epidermidis TYH1 からのヒスチジン脱炭酸酵素の精製

舊谷亜由美(水研セ中央水研),
原田恭行,小善圭一,横井健二(富山食研),
西塔正孝(女子栄養大),里見正隆(水研セ中央水研)

 魚味噌から分離されたヒスタミン(Hm)生成菌 S. epidermidis TYH1 から,硫安分画および各種クロマトグラフィーを経てヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)を精製した。分子量は約 121 kDa(α 鎖:27~30 kDa,β 鎖:7~9 kDa)であった。酵素活性の至適 pH および至適温度はそれぞれ pH 6.0 および 60℃ であり,他菌種の HDC より高温下でも Hm を生成することが可能であった。さらに,本酵素は-30℃ における凍結耐性も有することから,本酵素が食品衛生上の危害の原因となる可能性が高いといえる。

80(1), 93-101 (2014)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法