Fisheries Science 掲載報文要旨

エビ漕網における混獲削減装置 SURF-BRD の有効サイズ選択性のモデリング

梶川和武(水大校),東海 正,胡 夫祥(海洋大)

 混獲削減装置 SURF-BRD は網口の下端部に設置され,山型を形成する 2 枚の分離パネル(FP, RP)と 2 つの逃避口で構成されている。本研究では,この装置の高さを脇網高さの 1/3 とした試作型と 1/2 とした改良型を用いた操業実験結果から,主要魚種の分離効果を表現する数理モデルを作成した。数理モデルによって推定した試作型,改良型の FP・RP への遭遇確率とサイズ選択性を魚種別に評価した。その結果,RP の目合は小さくすれば,有用種の小型個体や小型カニ類の混獲をさらに防ぐことができることが判明した。

79(6), 879-894 (2013)
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バナメイエビの眼柄切除後の卵巣における卵黄形成と免疫反応の動態

Sun-Hye Bae(東大院農),
奥津智之,Bong Jung Kang(国際農研セ),
Marcy N. Wilder(東大院農,国際農研セ)

 バナメイエビの眼柄切除後の卵巣では,4 日以後,卵黄タンパク質遺伝子発現量の増加ならびに組織学的な卵細胞の発達が認められた。その際,総血球数は片側切除の場合は切除後 4 時間において有意に減少し,両側切除の場合には切除後 20 日に減少した。血球細胞における免疫関連遺伝子発現量を調べた結果,両側眼柄切除区の 20 日において prophenoloxidase および peroxinectin 遺伝子の上昇が認められた。本研究により,眼柄切除により卵巣発達促進と同時に起こる免疫反応の一端が明らかとなった。

79(6), 895-903 (2013)
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サキグロタマツメタの卵塊形成の頻度および時期

冨山 毅(広大院生物圏科)

 福島県松川浦において採集したサキグロタマツメタを用いて,飼育条件下で卵塊形成の頻度を調べた。13 組のペアのうち,12 組が 10 月に 1 日,1~2 個の卵塊を形成し,その後の卵塊形成はみられなかったことから,本種は産卵期に一回だけ産卵すると考えられた。松川浦における卵塊出現時期は年により変動し,水温の高い年ほど遅く出現したことから,水温から卵塊の出現時期を予測できる可能性が示唆された。

79(6), 905-910 (2013)
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沖縄島海域におけるスジアラの成長,成熟と性転換サイズおよび年齢の関係

海老沢明彦(沖縄水技セ)

 資源評価および資源の持続的利用を目的とし,沖縄島北部海域で漁獲された 1,046 尾のスジアラから,成長,成熟と性転換および年齢の関係を解析した。年齢は,耳石切断面を焼却処理して得られた輪紋を計数し,生殖腺の組織標本から成熟段階と性判別を行った。von Bertalanffy の成長式の 3 定数 L, k, t0 は,それぞれ 61.2 cm(尾叉長:LF),0.289, 0.41 であった。得られた最高齢は 18.8 歳(体長 62.3 cm,オス)で,産卵期は 5~7 月,43.3 cm LF,約 5 歳で雌の 50% が成熟した。本種は,雌性先熟の性転換を行い,59.8 cm LF, 10.3 歳で雌雄の性比が 1:1 となった。

79(6), 911-921 (2013)
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日本の汽水域における珪藻 Skeletonema 属の種多様性

山田真知子,大坪繭子,溝田千秋,堤 友紀(福女大国際文理),
飯田直樹(富山水研),岡村和麿(水研セ西海水研),
児玉真史(水研セ中央水研),梅原 亮(熊県大環共)

 富山湾,筑後川感潮域および諫早湾調整池の 3 ヶ所の汽水域に出現する Skeletonema を分子解析と微細形態解析により同定を行い,種多様性を検討した。その結果,塩分が 0.6~11.0 の汽水からは Skeletonema costatum s.s. のみが単離され,塩分が 0.1 の諫早湾堆積物からは水温が 10~30℃ で塩分が 5 と 30 の培養条件下で S. costatum s.s. のみが発芽した。これらのことから,S. costatum s.s. は生活史を通じて淡水側の汽水域によく適応していることが明らかになった。

79(6), 923-934 (2013)
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四倍体ギンブナ雌雄ペア子孫の遺伝学的特徴

董  捷(北大院水),村上 賢(麻布大獣),
藤本貴史(北大院水),山羽悦郎(北大フィールド科セ),
荒井克俊(北大院水)

 四倍体ギンブナ雌雄の自然産卵により得た子孫の DNA 量を調べたところ,全個体が四倍体であった。さらに RAPD-PCR 法により分析したところ,子孫と母親の間で電気泳動像は一例を除き同一で,かつ父親の遺伝的影響は認められなかった。子孫は染色体数 4n=206,核型 40M+80SM+80ST/T+6m(微小染色体)を示し,5.8S+28SrDNA をプローブとした FISH では,二倍体キンギョの 4 シグナルに対して 8 シグナルを示した。以上の結果は,四倍体の精子によっても,四倍体の卵の雌性発生が生じ,子孫は四倍体クローンとなったことを示す。

79(6), 935-941 (2013)
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恒常的レポータージーンアッセイ系を用いたメダカグルココルチコイド受容体 1b の様々な化学物質に対する転写活性化能の測定

佐藤和也,岡本雅希,鈴木雄太,木庭景悠,
辰己博基,寺村久志,池内俊貴(長浜バイオ大)

 メダカ Orizyas latipes のグルココルチコイド受容体(GR)1b を用いた恒常的レポータージーンアッセイ系を確立し,様々な物質による転写活性化能を調べた。天然のコルチコイドではコルチゾルが親和性および比活性ともに最も強かった。合成コルチコイドであるデキサメタゾン,プレドニゾロン,クロベタゾールプロピオン酸塩はいずれもコルチゾルよりもはるかに強かった。また,哺乳類での合成プロゲスチンであるメレンゲステロール酢酸塩はメダカ GR1b には部分活性薬であることがわかった。調べた中では,その他のホルモンおよび薬剤には活性はなかった。

79(6), 943-948 (2013)
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トリガイのミトコンドリアゲノム塩基配列

今西裕一,田中雅幸,藤原正夢(京都海セ)

 トリガイのミトゲノム塩基配列を調査した。19,110 bp のゲノムには 42 遺伝子が含まれ,既報の海産二枚貝と同様に,すべてが DNA 二本鎖の片側に偏在していた。また,ゲノムのサイズおよび遺伝子配置は,ザルガイ科の既報種と著しく異なっていた。さらに,異歯亜綱二枚貝ミトゲノムの atp8 アミノ酸配列は,新たに同定されたトリガイ他 2 種を含め,近縁種間で良好に保存されていることが明らかとなった。tRNA-Cys を含む 154 bp モチーフで構成される反復領域には,リピート多型(mtVNTR)が認められ,集団遺伝学等における遺伝マーカー候補と考えられた。

79(6), 949-957 (2013)
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熱と光によるアコヤガイ真珠の可視蛍光変化

平松潤一,岩橋徳典,永井清仁((株)ミキモト)

 熱処理(60~120℃)と日光照射(人工太陽光源)によるアコヤガイ真珠の可視蛍光スペクトル変化と黄変について調べた。その結果,熱による真珠の可視蛍光変化は,処理温度に大きく依存し,アミノグアニジンによって抑制されたことから主としてメイラード反応による蛍光性後期反応生成物の蓄積によるものと推察された。一方,光照射では,可視蛍光変化の特徴が熱と異なること,脱酸素条件下では 430 nm における蛍光強度の変化が認められなかったことから,その主要因はメイラード反応ではなく光酸化である可能性が示唆された。

79(6), 959-966 (2013)
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タイセイヨウサケと日本に生息するサケ科魚類間の人為交配および自然交配

伴 真俊(水研セ北水研),名古屋博之(水研セ増養殖研),
佐藤俊平(水研セ北水研),八重樫博文(水研セ東北水研),
市村政樹(サーモン科学館),佐藤信洋(さけ科学館)

 タイセイヨウサケと日本に生息するサケ科魚類間に交雑が起きる可能性を調べるため,人為交配試験と自然交配試験を行った。交雑が起きているかどうかの判定は,短鎖散在反復配列(SINE)を用いて遺伝学的に調べた。その結果,人為交配試験から得た生存個体は交雑魚か雌性発生魚である可能性が高かった。しかし,交配魚の生残率は 2% 未満と極めて低かった。また,自然交配試験では交配魚を得る事ができなかった。今回の交配試験から,自然環境下におけるタイセイヨウサケと日本のサケ科魚類間の交雑は起き難いと推察される。

79(6), 967-975 (2013)
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元素分析による日本,中国及び韓国産アサリの原産国判別法の検討

井口 潤,高嶋康晴,浪越充司(消費技セ),
山下由美子,山下倫明(水研セ中央水研)

 日本,中国及び韓国で漁獲されたアサリの原産国を判別するために,アサリの殻に含まれる 10 元素を ICP-MS で測定した。3 産地のアサリの As, Rb, Ba 及び Pb の平均濃度を比較すると,日本産に比べ中国産及び韓国産はそれぞれ 2 倍程度高かった。測定した元素を用い,線形判別分析により日本―中国,日本―韓国,中国―韓国及び日本―外国の 4 種類の原産国判別モデルを構築し,アサリの原産国を正しく判別する確率は 80.0~100% であった。日本―中国,日本―韓国及び日本―外国モデルでは,アサリの原産国を 90.0% 以上の確率で正しく判別した。

79(6), 977-982 (2013)
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2011 年 3 月の福島原発事故によってアユ漁場に流出したセシウム 137

井口恵一朗(水研セ増養殖研),
藤本 賢,帰山秀樹(水研セ中央水研),
冨谷 敦,榎本昌弘(福島内水試),
阿部信一郎(水研セ日水研),石田敏則(福島内水試)

 2011 年の夏と秋に福島県下の内水面漁場で採集した河川水,底泥,付着藻類,アユを対象に,セシウム 137 の濃度を測定した。河川水と底泥中のセシウム 137 量は減少していったが,両者の濃度の開きは 10000 倍以上に達した(底泥>河川水)。アユの総魚体内ではセシウム 137 の濃縮係数が 103~104 L/kg の間を変異し,セシウム 137 の半減に要する時間は約 39 日間と見積もられた。これらの結果は,餌の付着藻類から取り込まれるセシウム 137 について,アユの体内における滞留期間が比較的短いことを示唆する。

79(6), 983-988 (2013)
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九州北西岸域におけるカタクチイワシの漁獲量変動に風応力が及ぼす影響

竹茂愛吾,三宅陽一(東大院新領域,東大大気海洋研),
中田英昭(長大院水環),
北川貴士,木村伸吾(東大院新領域,東大大気海洋研)

 1963~2009 年における九州北西岸域のカタクチイワシ漁獲量に及ぼす風応力の影響を検討した。漁獲量と環境要因にレジーム・シフトが検出された。沿岸海区における漁獲量は 1980 年代中頃から減少傾向を示し,沖合海区の漁獲量は 1980 年代中頃から増加傾向を示した。沿岸海区の漁獲量減少は春季産卵期に卓越する北北東向きの風応力と有意な相関を示し,風応力の低下に伴って,産卵場から成育場への卵仔魚輸送量が減少したことが示唆された。本研究により,輸送環境が沿岸域の本種資源量変動に重要な役割を果たすことが示唆された。

79(6), 989-998 (2013)
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防汚物質 Sea-Nine 211 の海産藻類,甲殻類及び多毛類に対する毒性

隠塚俊満,小島大輔,伊藤真奈,伊藤克敏,
持田和彦,藤井一則(水研セ瀬水研)

 日本近海に生息する海産生物を用い,防汚物質の一種 Sea-Nine 211 の急性毒性を検討した。実測濃度を基にした海産藻類キートセロス,ドナリエラ,テトラセルミス,スケレトネマ,甲殻類シオダマリミジンコ,ガザミ及び多毛類イソゴカイに対する平均急性毒性値はそれぞれ 0.32, 3.9, 1.6, 0.22, 1.6, 12 及び 27 μg/L であった。イソゴカイを用いた底質毒性試験の結果から,実測濃度に基に 14 日間半数致死濃度及び無影響濃度を算出するとそれぞれ 110 及び 9.7 μg/kg dry-wt が得られた。

79(6), 999-1006 (2013)
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キヒトデ Asterias amurensis 由来レクチンの精製および性状解析

今道力敬(福井大),横山芳博(福井県大)

 キヒトデ体腔液から新規レクチン(AMUL)を精製するとともに,その性状解析を行った。ウサギ赤血球に対する凝集活性は,N-アセチルノイラミン酸および N-グリコリルノイラミン酸により顕著に阻害された。N-末端アミノ酸配列解析を行ったところ,AMUL は,ムラサキウニ由来 C 型レクチンである Echinoidin と最も高い相同性(54%)を示した。本結果は,AMUL が C 型レクチンに属する新規なシアル酸結合レクチンであることを明らかにするとともに,キヒトデのレクチン資源としての有用性を示唆している。

79(6), 1007-1013 (2013)
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ホタテガイ貝殻に含まれるレジスタントプロテインの同定とその胆汁酸結合活性

福田 学,高橋浩司,大川千晴,佐々木裕哉,長谷川 靖(室蘭工大・くらし環境系)

 ホタテガイ貝殻抽出液を含む餌をラットに食餌させることによって脂肪組織重量の減少,血中コレステロール濃度の低下がおこることを示した。貝殻抽出液を食餌させたラットでは糞中の胆汁酸量が増加し,アミノ酸組成が変化したことから,胆汁酸を結合するプロテアーゼに耐性なレジスタントプロテインが作用していることが推定された。そこで,貝殻抽出液中のレジスタントプロテインを単離し,その胆汁酸結合活性を明らかにした。このレジスタントプロテインは,以前,我々が同定した活性酸素消去因子と同一タンパク質であることがわかった。

79(6), 1017-1025 (2013)
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