Fisheries Science 掲載報文要旨

太平洋におけるハチワレの分布と生態学的特性について

松永浩昌,余川浩太郎(水研セ国際水研)

 1992~2006 年度における地方公庁船等のまぐろ延縄混獲・測定資料を用い,これまで不明な点が多かったハチワレの分布,移動・回遊等について解析した。出現頻度は小型個体の集中的な分布が見られた 10~20°N を中心とした海域で高かったが,高緯度になるのに従って低くなった。また季節的移動や雌雄による出現の違い,成長に伴う遊泳力の増加による分布域の拡大が推測された。胎児を持った雌は 36°N 以南で見られたが,出産後間もないと考えられる幼魚は 10~15°N に集中し,この海域が出産・生育場になっている可能性が示唆された。

79(5), 737-748 (2013)
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潮間帯二枚貝の食餌トレーサーとしての安定同位体および脂肪酸

Liqiang Zhao,Feng Yang,Xiwu Yan(大連海洋大,中国)

 中国北部庄河湾の潮間帯に生息する産業上重要 6 種の二枚貝の懸濁態有機物(POM)および土壌有機物(SOM)の δ13C 値は,それぞれ -22.5 および -14.9‰ であった。Isotope two-source mixing model に基づいて算出したところ,これらの潮間帯二枚貝は POM を主な食料源としているものと考えられ,これらの二枚貝は同じ食料源を摂取しているものと考えられた。脂肪酸マーカーによる解析でも,POM が主要な食料源であるものと考えられ,バクテリアや陸上有機物も重要な補助源であるものと考えられた。
(文責 潮 秀樹)

79(5), 749-756 (2013)
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南日本の太平洋沿岸域では水温がウルメイワシ仔魚の成長を決定する

渡邊良朗,鈴木龍生(東大大気海洋研),
津野健太朗(高知県水産振興部)

 仔魚期ウルメイワシの成長速度が,経験した水温によって決まることを明らかにした。土佐湾でウルメイワシ仔魚を採集して日齢を査定した。2000 年 9 月~2002 年 3 月に孵化した仔魚の中から,連続する 2~5 日間に孵化した 16 群を孵化日コホートとし,摂餌開始期(第 1~5 日輪)と仔魚期の最大日輪間隔の平均値を各コホートで求めて水温との関係を調べた。その結果,季節的な成長速度変動の 80~90% が,水温の季節変動によって説明された。土佐湾では,ウルメイワシ仔魚の成長速度が水温によって決定されることがわかった。

79(5), 757-766 (2013)
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東北沿岸海域で採捕されたサメガレイ着底期仔魚および稚魚の形態および生息場の特徴

阿部拓三(北大水),和田敏裕(福島水試),
有瀧真人(水研セ西海水研),
佐藤長明(ダイビングサービスグラントスカルピン),
南 卓志(福山大学)

 サメガレイ仔稚魚の形態および生息場の特徴を明らかにした。志津川湾(岩礁域,水深 6~12 m)ではスキューバ潜水採集により,いわき(砂浜域,水深 10~50 m)では小型トロールにより変態期仔魚 5 個体(体長 22.1~31.7 mm),稚魚 12 個体(23.7~46.4 mm)を得た。岩礁域では,仔魚は透明な,稚魚は多様な体色を示した。砂浜域では単調な体色を呈した。仔魚には全身を覆う棘が確認された。有眼側の棘は発育に伴い発達する一方,無眼側では退縮し,稚魚では確認されなくなった。サメガレイは沿岸の岩礁域・砂浜域に着底・適応可能であると考えられた。

79(5), 767-777 (2013)
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異なる温度条件下におけるアサリの稚貝および成貝に対する Perkinsus olseni の病害性の実験的な評価

脇  司,良永知義(東大院農)

 国内のアサリ資源の減少要因として Perkinsus 属原虫の寄生が疑われている。そこで,国内における優占種である P. olseni のアサリ稚貝と成貝に対する病害性を 30℃ から 18℃ の条件で攻撃試験によって調べた。その結果,18℃ で飼育した成貝を除いて,水温と体サイズに関係なく,平均寄生強度が凡そ 106 細胞数/g 軟体部湿重量に達した時期に攻撃区の生残率が対照区より有意に低くなった。同様の寄生強度が天然アサリでも確認されており,本虫は天然アサリでも死亡要因になっていることが示唆された。

79(5), 779-786 (2013)
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ヒラメ稚魚の個体識別による着色型黒化および白化個体着色過程の検討

礒島俊実(京大院農),
牧野 直,高草木将人(千葉水総研セ),
田川正朋(京大院農)

 異体類における,正常個体の着色型黒化及び白化個体の有眼側着色の過程を詳細に把握するため,孵化後 65 日のヒラメ稚魚に個体識別を施し着色の進行過程を 10 週間追跡調査した。黒化は主に尾柄部で開始し,縁辺部にそって頭部へと拡大し,約 2 ヶ月目以降には停止した。早期に黒化部が出現した個体は最終的な黒化面積が大きく成長も劣っていた。一方,白化個体の有眼側着色も約 2 ヶ月で停止したが,部域の着色順は着色型黒化とは異なっていた。黒化部の櫛鱗を検討した結果,黒化域と櫛鱗の分布域が完全には一致しなかった。

79(5), 787-797 (2013)
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長江上流の固有種である Ancherythroculter nigrocauda の繁殖生態

Chunchi Liu, Xin Gao, Huanshan Wang, Huanzhang Liu,
Wenxuan Cao(中国科学院水産生物研究所・中国科学院大学),
Patrick D. Danley(ベイラー大,米国)

 本研究では,2011 年 7 月から一年間,長江支流の Longxi 川で毎月サンプリングし,得られた 417 尾の A. nigrocauda を用いて本種の生殖特性を調査した。雌雄比は雌:雄=1:1.03 であったが,体長は著しく雌が大きい傾向があった。雄雌の性成熟は平均体長 106 と 125 mm から始まり,GSI と卵径の推移から産卵期は 4~8 月であることが分かった。卵数は 11,300~504,630 粒(平均 162,377 粒)であった。以上より,早熟,多産型,産卵回数が 1 回であることから,A. nigrocauda は r 選択種であると推察した。
(文責 カルロス・ストルスマン)

79(5), 799-806 (2013)
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マナマコ Apostichopus japonicus の成長,免疫および Vibrio splendidus 感染に対する耐性に及ぼす多糖マイクロカプセルおよび Bacillus subtilis の相乗効果

Ying Fan, Xiaoqing Yu, La Xu, Shuxian Wang,
Haibin Ye, Jing Diao, Xiusheng Yang, Tianbao Li(山東省海水養殖研究所,中国)

 マナマコ Apostichopus japonicus の成長,免疫および Vibrio splendidus 感染に対する耐性に及ぼす飼料への多糖マイクロカプセルおよび Bacillus subtilis 添加の影響を調べた。Astragalus polysaccharide および tuckahoe polysaccharide のマイクロカプセルに加えて B. subtilis を飼料に添加することで成長が有意に促進され(P<0.05),体腔液の lysozyme, superoxide dismutase および alkaline phosphatase の活性,並びに補体 C3 含量が有意に上昇し(P<0.05),さらに V. splendidus の人為感染試験における累積斃死率は有意に低下した(P<0.05)。
(文責 家戸敬太郎)

79(5), 807-814 (2013)
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タウリン強化ワムシの給与がカンパチ仔魚の成長および生残に及ぼす影響

松成宏之(水研セ増養殖研),橋本 博(水研セ志布志),
岩崎隆志(水研セ上浦),
小田憲太朗,増田賢嗣,今泉 均,照屋和久(水研セ志布志),
古板博文,山本剛史,浜田和久,虫明敬一(水研セ増養殖研)

 市販のタウリン強化剤を 0, 200, 400 および 800 mg/L 濃度で強化した S 型ワムシを 3 日齢から 10 日齢までカンパチ仔魚に与えた。800 mg/L 区の成長が有意に改善され,生残率は 400 mg/L 区が最も高く,初期の開腔率はタウリン強化濃度に伴い改善する傾向がみられた。仔魚のタウリン含量は,ワムシのタウリン含量に比例して増加した。これらの結果から,タウリン強化ワムシの給与はカンパチ仔魚の成長の改善に有効であることが示唆された。

79(5), 815-821 (2013)
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クビフリンによるマナマコの生体外卵成熟誘起と成熟卵の発生能

山野恵祐(水研セ増養殖研),
藤原篤志(水研セ中央水研),
中村昭文(水研セ増養殖研),吉国通庸(九大院農)

 クビフリンで誘起したマナマコ卵の卵成熟過程とその実用手法を報告する。まず生体外で卵巣をクビフリン処理したときの,細胞学的な卵成熟過程や卵巣からの成熟卵の放出過程を詳細に記載した。次いで卵成熟誘起やその成熟卵を用いた受精等に関する種々の条件を検討し,個体産卵による成熟卵と同等の発生能を有する成熟卵を生体外で作出する手法を確立した。本手法は,クビフリンを用いたマナマコの採卵法として活用可能である。

79(5), 823-832 (2013)
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マナマコ真皮における 400 kDa 糖タンパク質の存在

水田尚志,小泉勇樹,井上詩織,染矢千明,細井公富,
横山芳博,吉中禮二(福井県大海洋生資)

 マナマコ真皮の中性塩溶液抽出物中に分子量約 40 万のタンパク質(400 K 成分)の存在を認めた。400 K成分は 2-メルカプトエタノールを用いた還元処理により 200 K 成分へと変換され,これらはいずれも PAS 反応に陽性を示した。従って,400 K 成分はジスルフィド結合によって連結した 2 本の 200 K 成分からなる糖タンパク質であることが分かった。また,アミノ酸組成においては Asp や Glu に富むほか,Cys を含んでいた。400 K 成分が示すこれらの構造的な特徴はフィブロネクチンとの類似性を示唆するものである。

79(5), 833-839 (2013)
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ソデイカ皮膚コラーゲンの酵素的可溶化:カビ由来酸性プロテアーゼの応用

水田尚志,西澤麻友,関口風太(福井県大海洋生資),
松尾和彦(沖縄水海技セ),
横山芳博,吉中禮二(福井県大海洋生資)

 カビの一種 Rhizopus niveus が産生する酸性プロテアーゼを用いてソデイカ皮膚コラーゲンの可溶化を行い,得られたコラーゲンの性状をブタペプシンを用いた場合と比較した。いずれの場合もコラーゲンに対して重量比で 1/10 量の酵素を添加し 0.5 M 酢酸中で 72 時間 4℃ にて撹拌処理することで総コラーゲンの 90% 以上を可溶化でき,2 種のコラーゲン分子種(SQ-I および SQ-II 型)の性状も両者の間でそれぞれ概ね類似していた。これらの結果は,本プロテアーゼがソデイカ皮膚コラーゲンの可溶化に有効であることを示唆するものである。

79(5), 841-848 (2013)
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スズキの皮からのコラーゲン抽出への超音波処理の適用

Hyun Kyung Kim, Young Ho Kim(KFRI,韓国),
Hyun Jin Park(KU,韓国),
Nam Hyouck Lee(KFRI,韓国)

 本研究は,超音波処理(20 kHz,振幅 20~80%)によるスズキの皮からの効率的なコラーゲン抽出法(酢酸濃度 0.01, 0.05, 0.1 M,試料:酢酸比 1:200(w/v),抽出時間 24 時間まで)について検討したものである。超音波処理の適用による最も効率的なコラーゲン抽出法は,0.1 M 酢酸中で 3 時間,振幅 80% で超音波処理する方法であった。この処理で抽出された成分は,ペプシン処理によってコラーゲンを構成する主要成分に変化が見られなかったことから,コラーゲンであると判断した。
(文責 森岡克司)

79(5), 849-856 (2013)
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トラフグ各種部位からのコラーゲンの単離および希酢酸に対するその溶解性

塚本啓司,横山芳博,鈴木 徹,水田尚志,
吉中禮二,赤羽義章(福井県大海洋生資)

 トラフグ部位(普通筋,皮,脊椎骨,腸,鰓,鰭,肝膵臓および鰾)よりコラーゲンを抽出し,その含量および溶解性を調べた。トラフグの肉は硬い歯応えを示すが,普通筋のコラーゲン含量は 0.95±0.07% を示し,他の魚種と比較し高くはなかった。普通筋と皮では溶解性は高くそれぞれ 47.2±7.8% および 70.8±8.1% を示した。さらに,プロリンおよびリジン残基の水酸化を調べた。多くの部位ではリジン残基の水酸化率は酸可溶性画分よりも不溶性画分で高く,ヒドロキシリジン由来コラーゲン架橋が希酢酸に対するコラーゲンの安定性に寄与するものと考えられる。

79(5), 857-864 (2013)
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スサビノリ Pyropia yezoensis における ITS-1 領域の PCR-RFLP 解析による乾ノリの原産地判別

東畑 顕(水研セ中央水研),浪越充司(消費技セ),
鈴木珠水(水研セ中央水研),井口 潤(消費技セ),
水澤奈々美,原 竜朗,今村伸太朗,藪 健史,山下由美子,山下倫明(水研セ中央水研)

 国内産乾ノリにおける ITS-1 領域の塩基配列は,スサビノリ品種ナラワスサビと一致した。中国産は,スサビノリ品種ミノミアサクサと類似した塩基配列を示した。韓国産は,他のスサビノリ品種およびアマノリが用いられていた。また,中国産・韓国産には,国内産と一致する塩基配列も検出され,最近移植された品種も使われていた。RFLP 分析によって,国内産は 432 bp の塩基配列が増幅され,MspI によって切断されたが,外国産は切断されなかった。

79(5), 865-875 (2013)
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