筒井直昭(国際農研セ),大平 剛(神奈川大理), 奥津智之,進士淳平,Sun-Hye Bae, Bong Jung Kang, Marcy N. Wilder(国際農研セ) |
バナメイのサイナス腺に由来する甲殻類血糖上昇ホルモン族(CHH 族)ペプチドのうち,含量が多く,明確な卵黄形成抑制活性を示す分子種である Liv-SGP-G の前駆体をコードする cDNA を単離した。前駆体の構造はタイプⅠの CHH 族ペプチドに特徴的,すなわちシグナルペプチド,甲殻類血糖上昇ホルモン前駆体関連ペプチド,ホルモン部分等から構成されていた。大腸菌発現系を用いて調製した組換え Liv-SGP-G は,同種の卵巣培養系を用いた生物検定系において天然の Liv-SGP-G と同程度の卵黄形成抑制活性を示した。
亘 真吾(水研セ瀬水研),村田 実(山口水研セ), 樋下雄一,三代和樹(大分水研), 尾田成幸,石谷 誠(福岡水海技セ) |
瀬戸内海西部海域でハモを採集し,耳石による年齢査定と成長の関係を再検討した。当海域の既報では輪紋が毎年 3~5 月に形成され,4~5 輪以上の個体で 9~10 月に形成されることが報告されている。月別に耳石の縁辺成長率を検討したところ,第 1 輪は孵化翌年の 11 月までに形成され,その後輪紋は 1 年に 1 本 7~8 月に形成されることが示された。生殖腺指数の変化を参考に 8 月を年齢の起算月とした。推定された von Bertalanffy 成長式は,雄雌それぞれ L=806.6{1-exp[-0.33(t+0.06)]},L=1264.0{1-exp[-0.19(t+0.15)]}だった。本研究の年齢と全長の関係は,3 歳以上で雌雄とも既報と比較し 100 mm ほど大きかった。
渡邊 俊,青山 潤(東大大気海洋研), 萩原聖士(北大院水),阿井文瓶(NPO 日本さかなの会), Rhodora V. Azanza(フィリピン大), 塚本勝巳(東大大気海洋研) |
2009 年にそれぞれ記載された Anguilla luzonensis と A. huangi の分類学的関係を形態および分子形質により検討した。腹椎骨数と脊椎骨数の比較では,両種間に差異は認められなかった。また,既知種と両種を含めたミトコンドリア DNA の 16S リボソーム RNA 遺伝子領域とチトクローム b 遺伝子領域の変異の比較では,両種の差異は種内の範囲であった。以上の結果より,両種は同種であり,動物命名規約の先取権に則り,A. luzonensis が有効名で,A. huangi は新参シノニムであると判断した。
Yap Minlee(地球研),Roeroe Kakaskasen Andreas, Laurentius Theodorus Xaverius Lalamentik(サムラトランギ大,インドネシア), 岡本峰雄(海洋大) |
マナド海域で着床具とマリンブロックを用いてミドリイシ科サンゴ(ミドリイシ属+イソポラ属)の加入時期と初期の成長を調べた。2007 年には少なくとも 3 回の加入があった。着生翌年 2~5 月のサンゴは被覆状で,イソポラ属が多い海域では平均最大直径 13.4±5.86 mm,イソポラ属がいない海域では 18.5±5.01 mm であった。イソポラ属はミドリイシ属との識別が困難で年に複数回幼生を放出する。イソポラ属が混入する海域では,2~3 月の加入サイズが小さめであったが,4 月には概ね同サイズになった。
設楽愛子,近藤秀裕,廣野育生(海洋大) |
heat shock protein は,細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に発現が上昇して細胞を保護するタンパク質の一群であり,真核生物に広く保存されている。我々はクルマエビゲノム中に見られる巨大繰返し配列中より,新規 HSP70 様遺伝子(MjHSP70-2)を発見した。クルマエビ類では,HSP70 および heat shock cognate 70 が既に報告されているが,MjHSP70-2 は既知のクルマエビ HSP70 (MjHSP70)と約 60% の相同性を示した。系統解析および発現解析の結果,MjHSP70-2 は,既知の MjHSP70 とは異なる機能を持つことが示された。
塚本勝巳(東大大気海洋研),望岡典隆(九大院農), Michael J. Miller(東大大気海洋研), 小山純弘(JAMSTEC), 渡邊 俊,青山 潤(東大大気海洋研) |
2012 年 7 月,西マリアナ海嶺スルガ海山南方海域で潜水船しんかい 6500 と Deep-Tow 水中カメラによるウナギ産卵行動の観察を試みた。しんかい 6500 による昼間 200~800 m 層の潜水調査でも,Deep-Tow による夜間 130~250 m 層の調査でもウナギ産卵集団は観察されなかった。しかし,7 月 17 日 20 時 13 分,深度 179 m でウナギ産卵親魚らしき映像が Deep-Tow で得られた。全体の体形と頭部形態は雄ウナギもしくはクビナガアナゴに一致しており,他の中深層性ウナギ目魚類とは大きく異なった。
松本隆之(水研セ国際水研),北川貴士(東大大気海洋研), 木村伸吾(東大院新領域/大気海洋研) |
アーカイバルタグデータに基づき,我が国南西海域で放流した 5 個体のキハダ Thunnus albacares 幼魚(尾叉長 52.5~92 cm)の鉛直行動を解析した。本種はおおむね表層混合層もしくは躍層上部の,海表面水温からの差が小さい範囲に分布し,体長とともに浅層に分布する割合が高くなった。鉛直分布と海洋環境の関連が見られ,水温勾配が小さくなる冬季に表層付近の分布比率が高まった。10 m 以浅のごく表層に滞在する行動が主として夜間および冬季に見られた。
福田野歩人,Michael J. Miller,青山 潤, 篠田 章,塚本勝巳(東大大気海洋研) |
ニホンウナギのシラスウナギから黄ウナギまでの色素発達段階を区分するため,色素発達の経過を観察した。結果,ニホンウナギの色素発達段階はヨーロッパウナギのもの(VA~VIB)を適用でき,VB を 2 段階に細分化したものが適当と考えられた。また,グアニンの腹腔部への沈着完了が黄ウナギの区分尺度になると考えられた。体成長,体型の変化には VIA4 前後で転換点があり,これは受動的回遊から能動的回遊への生態学的転換と概ね一致した。これより,“シラスウナギ”と“クロコ”を,その前後で区分するのが適当であると考えられた。
Haifang Wang(中山大学),Jijia Sun(華南農業大学), Xue Lu, Pengfei Wang, Peng Xu, Lei Zeng(中山大学), Deguang Yu(珠江水産研究所), Guifeng Li(中山大学,中国) |
ケツギョ属交雑魚においてインスリン様成長因子I(IGF-I)遺伝子の一塩基変異多型(SNPs)のスクリーニングおよびその多型と成長との関連を high-resolution melting 法により調べた。IGF-I 遺伝子のエクソン 3 の SNP1 は魚体重,体長および体幅と,エクソン 5 の SNP2 は魚体重,体高および体幅とそれぞれ有意に関連していた(P<0.05)。遺伝子座 SNP1 および SNP2 の遺伝子型が AA あるいは AG の個体は GG の個体よりも成長が速かった。これらの結果は,成長に影響を及ぼす IGF-I 遺伝子の 2 つの SNPs が量的形質ヌクレオチドである可能性があり,中国におけるケツギョ属の成長選抜において遺伝マーカーとして期待できることを示している。
(文責 家戸敬太郎)
村下幸司(水研セ増養殖研),秋元淳志(日配), 岩下恭朗(水研セ増養殖研), 天野俊二,鈴木伸洋(東海大), 松成宏之,古板博文,杉田 毅,山本剛史(水研セ増養殖研) |
各種大豆油粕(SBM,飼料用通常品;Afcep,複合菌発酵;DaBomb,乳酸菌発酵;PepSoyGen,麹・枯草菌発酵;HP300,酵素処理)を主タンパク質源とした無魚粉飼料を調整し,魚粉飼料(FM)を対照としてニジマスを飼育した。Afcep のみが FM に近い成長を示し,直腸・肝臓組織等にも異常がみられなかったのに対し,その他大豆油粕では SBM に比べ若干の改善があるのみだった。各種大豆油粕で Afcep のタンパク質が最も低分子化されていたことから,発酵による分解がその利用性改善に重要であると考えられた。
神保忠雄(水研セ増養殖研),團 重樹(水研セ瀬水研), 中屋光裕(北大水),芦立昌一(水研セ瀬水研), 浜崎活幸(海洋大) |
ケガニ幼生に,各種の栄養強化剤(無強化,ナンノクロロプシス,オレイン酸,高・低濃度の EPA および DHA)で強化したアルテミアを給餌し,生残,各齢期へ脱皮するまでの所要日数,体サイズおよび形態形成に及ぼす影響を調べた。生残率,体サイズおよび形態形成には,栄養強化による有意差は認められなかった。一方,各齢期までの所要日数は高濃度 EPA で強化した餌料で短くなったことから,本種の種苗生産では,この高濃度 EPA 強化餌料の脂肪酸組成を反映するようなアルテミアの栄養強化が有効であると結論付けられた。
海藻表在細菌は付着阻害物質を生産して,海藻への他生物の付着を防いでいる。有用な付着阻害物質を開発するための第 1 歩として,海藻表在細菌を分離し,その培養液の付着阻害活性を調べたところ,Undaria pinnatifida から分離した放線菌 Streptomyces violaceoruber に活性を見いだした。放線菌の培養液から活性成分として 3-octa-1′,3′-dienyl-4-methylfuran-2(5H)-one と 3-octa-1′-enyl-4-methylfuran-2(5H)-one を単離した。これらの化合物の数種の汚損生物に対する付着阻害活性は他生物に対する急性毒性より有意に低かった。
(文責 松永茂樹)
Hai-Tao Wu,Dong-Mei Li,Bei-Wei Zhu(大連工業大学,国家海洋食品工程技術研究セ), Jing-Heng Cheng,Jin-Jian Sun,Feng-Lin Wang,Yang Yang,Yu-Kun Song(大連工業大学,中国), Chen-Xu Yu(アイオワ州立大,USA) |
ナマコ Stichopus japonicas の内臓から,ブタノール抽出,硫安分画,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィー,電気泳動を経てアルカリホスファターゼを得た。分子量は 166±9 k であり,97 および 35 k のサブユニットから構成されていた。酵素活性の至適温度および至適 pH はそれぞれ 40℃ および pH 11 で,30℃ 以上では不安定であった。本酵素は Mg2+ によって活性化される一方,Zn2+, Ca2+ および EDTA で阻害され,その活性発現には Mg2+ が必要であるものと考えられた。Vmax および Km はそれぞれ 24.45 μmol/L min および 5.76 mM であった。
(文責 潮 秀樹)
川端建徳(海洋大),Dhugal J. Lindsay, 喜多村 稔,小西聡史(海洋研究開発機構), 西川 淳,西田周平(東大大気海洋研), 神尾道也,永井宏史(海洋大) |
本研究では,相模湾産の深海性の 12 種(ヒドロ虫綱 9 種,鉢虫綱 3 種)のクラゲを試料とし,緩衝液で抽出した粗抽出液について,細胞毒性,溶血活性,および甲殻類致死活性試験を行った。その結果,全てのクラゲが,いずれかの生物活性もしくは複数の生物活性を示した。中でも鉢虫綱の 3 種のクラゲは特に強い甲殻類致死活性を示した。これらの結果は,深海性のクラゲが生理活性物質の新たな探索源となる可能性を示している。また,本報告は深海性のクラゲがもつ生物活性を評価した初めての研究である。
三津橋 拓也,小野浩二,福田 学, 長谷川 靖(室蘭工大院) |
我々は,以前ホタテガイ貝殻中に活性酸素消去因子が存在していることを明らかにしてきた。本研究においてホタテガイ貝殻より活性酸素消去因子を単離,精製し,分子量約 90 kDa の蛍光色素の結合した糖タンパク質(90-kDa タンパク質)が活性酸素消去因子であることを明らかにした。この 90-kDa タンパク質は,スーパーオキシドアニオンラジカル(O2-)の消去活性に加え,鉄イオン還元活性,鉄イオンキレート能力をもつことを明らかにした。また,90-kDa タンパク質の部分アミノ酸配列構造を決定したところ,このタンパク質が新規のタンパク質であることがわかった。
井ノ原康太,木村郁夫,袁 春紅(鹿大水) |
マグロ肉を-20℃ 付近で保存すると,鮮度の非常に良い場合,変色の進行は遅れるが,その機序については明らかにされていない。本論文では,マグロミオグロビン(Mb)の自動酸化速度と分子構造に対する ATP の作用について報告する。ミナミマグロ Mb の 25℃ における自動酸化は,酸性 pH 下で ATP によって抑制された。ATP を添加すると,Mb の soret 帯の吸光値,Mb 蛍光値,CD スペクトル,分子サイズ,表面電荷の変化が認められた。ATP が Mb 分子形状に作用し,それが Mb の自動酸化を制御することが示唆された。
渡邉康春,張 晏瑄(東北大院生命科学), 中村 修(北里大海洋), 永沼孝子,小川智久,村本光二(東北大院生命科学) |
ラムノース結合特異性レクチン(RBL)は,リポ多糖やリポテイコ酸を認識して細菌への結合活性を示すとともに,オプソニン作用をもち,自然免疫でパターン認識タンパク質としての役割を担っていると考えられる。本研究では,RBL がニジマス由来マクロファージ(RTM5)培養細胞での活性酸素種の産生を誘起して呼吸バーストを誘導することを明らかにした。この RBL の活性は,リガンド糖であるラムノースによって阻害されず,また RTM5 細胞上の Gb3 糖鎖とは異なる部位への結合によって発現することが分かった。
河嶋優美,赤﨑哲也,松本啓嗣,山﨑幸彦(財務省関税中央分析所), 嶌田 智(お茶の水女子大) |
税関では,輸入された緑藻製品が規制対象種(旧あおのり属又はひとえぐさ属のもの)であるかを確認する必要がある。一方で,乾燥粉末状の製品は形態学的識別が困難であるため,核 DNA の ITS2 を用いた分子生物学的手法での識別を試みた。その結果,原料種が,あおさ属(旧あおのり属も含む)のものは,規制対象種からなるグループ(Ulva linza-procera-prolifera [LPP complex])と 2 つの非該当種からなるグループに大別され,ひとえぐさ属のものからは,ひとえぐさ(Monostroma nitidum)のみが検出された。更に,5S rDNA spacer を用いた詳細分析では,U. linza と U. prolifera の交雑種と思われるものが検出された。
井口 潤(消費技セ), 山下由美子,東畑 顕(水研セ中央水研), 藪 健史(日大生物資源),山下倫明(水研セ中央水研) |
日本,中国及び台湾で養殖されたウナギを使ったうなぎ加工品の原料原産地を判別するために,うなぎ加工品の肉間骨に含まれる 12 元素を ICP-MS で測定した。3 産地を比較すると,V, Co, Sr, Ba, Pb 及び U において,有意な差が認められた。特に Pb の平均値については,日本産は台湾産に比べ 1/4 倍,中国産に比べ 1/6 倍の濃度であった。測定した元素を用い,線形判別分析により 2 種類の判別モデルを構築した。日本-中国モデルでは判別率が 82.5% 及び 93.3%,日本-台湾判別モデルでは判別率が 87.5% 及び 87.0% となり,高い確率で推定された。
Le-Chang Sun,金子浩大,岡﨑惠美子(海洋大院), Min-Jie Cao(集美大,中国),大脇博樹(長崎工技セ), Wu-Yin Weng(集美大),大迫一史(海洋大院) |
ツノナシオキアミ(エビ)の有効利用法開発の一環として,タンパク質の等電点を利用したエビ肉回収法の検討を行った。肉ホモジネートを酸性にして等電点で回収することにより 31.7% のタンパク質が,また,塩基性にして同様に回収することにより 73.4% のタンパク質が回収できた。一方で,ゼラチンザイモグラフィーにより,3 種のプロテアーゼが認められ,これの活性は,塩基性にした後回収したものの方が高かった。本種利用の上で,回収工程におけるこれらプロテアーゼの不活化の必要性が示唆された。
石村学志(北大サステイナビリティ学教育研セ), Magan Bailey(ワーゲニンゲン大,オランダ) |
水産物の市場価値を決めるのに重要な要素の一つに鮮度,つまり,漁獲してから消費者に届くまでの時間がある。本研究では東北大震災に被害のあった気仙沼で重要な水揚げであるはえ縄船からメカジキとヨシキリ鮫の水揚げに直目し,鮮度と水揚げ単価の関係を分析した。その結果,生鮮市場をターゲットするメカジキには鮮度と価格の関係に有意性はあるが,加工市場をターゲットとするヨシキリ鮫には有意性はなかった。この結果はどのように,被災した気仙沼漁業再建において,どのように漁獲行動を最適化するかに重要な示唆を含む。