Fisheries Science 掲載報文要旨

動物セルラーゼ―水生無脊椎由来酵素に注目して(総説)

谷村 彩,劉  文,山田京平(京大院農),
岸田拓士(京大霊長研),豊原治彦(京大院農)

 本総説では,動物セルラーゼに関する研究について 1900 年代半ばから最新のものに至る論文を渉猟し,陸生と水生,共生と内源性の観点から分類した。特に自身の染色体 DNA 上にコードされる内源性セルラーゼについては詳述した。これらの酵素について,糖加水分解酵素ファミリーにおける分類や一次構造上の類似性についても述べた。なかでも,近年著しく研究が進んだ軟体動物,節足動物,棘皮動物などの水生生物については,それらの食性や生態との関連について概説するとともに,水生生物由来のセルラーゼの今後の応用の可能性についても論じた。

79(1), 1-13 (2013)
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有節サンゴモ類藻体によるサザエ稚貝の捕食者からの保護効果

早川 淳(水研セ増養殖研),河村知彦(東大大気海洋研),
黒木洋明(水研セ増養殖研),渡邊良朗(東大大気海洋研)

 サザエの初期生息場である有節サンゴモ群落について,その捕食者からの保護効果を室内実験により検討した。肉食性巻貝であるヒメヨウラクを用いた実験では,有節サンゴモ藻体が存在する実験区でのサザエ稚貝の生残率が存在しない実験区に比べて高かった。また,オハグロベラを用いた実験でも有節サンゴモ藻体の存在によりサザエ稚貝の生残率は高まった。ヒメヨウラクを用いた実験では,より小型のサザエ稚貝を用いた場合に保護効果が顕著であったが,オハグロベラを用いた実験では稚貝のサイズによる保護効果の差異は認められなかった。

79(1), 15-20 (2013)
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メキシコのバハカリフォルニア半島西岸における red crab Pleuroncodes planipes の豊度と遺伝的多様性

J. A. De Anda-Montañez, R. Perez-Enriquez(CIBNOR),
S. Martínez-Aguilar (CRIP),
F. Hernández-Martínez (CIBNOR),
F. J. García-Rodríguez (CICIMAR),
A. Amador-Buenrostro (CICESE,メキシコ)

 メキシコのバハカリフォルニア半島西岸において,red crab Pleuroncodes planipes の分布,現存量及び遺伝的集団構造を調べた。半島沿岸の水深別に定線を設け,底引き網による調査を実施した。Red crab は調査海域に広く分布し,特に Bahia Magdalena とその周辺の湧昇域に多くみられ,51~100 m(2297 kg/時)と 201~300 m(3223 kg/時)での漁獲が多かった。ミトコンドリア DNA の塩基配列に基づく集団遺伝学的解析により,遺伝的集団構造は認められなかった。調査海域における red crab の総現存量の推定値は 611525 トンであり,有望な漁業資源になりうるものと考えられた。
(文責 浜崎活幸)

79(1), 21-32 (2013)
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クルマエビのビテロジェニン遺伝子発現に対する眼柄内ペプチドの影響

筒井直昭,長倉-中村彩乃,永井千晶(東大院農),
大平 剛(神奈川大理),Marcy N. Wilder(国際農研セ),
長澤寛道(東大院農)

 クルマエビの眼柄に含まれる主要なペプチド,6 種類の甲殻類血糖上昇ホルモン(CHH)と 1 種類の脱皮抑制ホルモン(MIH)について,ビテロジェニン遺伝子発現に対する影響を卵巣片の培養系を用いて調べた。MIH 以外の 6 種類の CHH に,濃度依存的な遺伝子発現の抑制活性が確認された。6 種類の CHH 間で活性に有意な差は認められなかった。同じく眼柄に含まれる赤色色素凝集ホルモンや色素拡散ホルモンは,遺伝子発現に対して影響を示さなかった。以上より,本種では 6 種類の CHH が卵黄形成抑制ホルモンとしての機能も有することが示唆された。

79(1), 33-38 (2013)
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アーカイバルタグデータに基づくメバチ Thunnus obesus 潜水メカニズムの検討

松本隆之(水研セ国際水研),
北川貴士,木村伸吾(東大院新領域/東大大気海洋研)

 日本近海にて放流されたメバチ Thunnus obesus 18 個体のアーカイバルタグデータに基づき,遊泳水深に与える要因を検討した。昼間の平均水深と体長には正の相関があり,分布層の最低水温は約 10℃ ないしそれ以上で,海表面照度と遊泳水深には正の相関が優占した。遊泳水深と DSL(深海散乱層)の同調がみられた。550 m 以深の潜行は 1 日平均 0.3 回生じ,摂餌,逃避等が目的と考えられた。本種は幅広い水温帯,水温差への耐性により深海にも適応し,成長に伴いそれらはより発達した。本種の遊泳水深は主として餌生物の分布によると考えられる。

79(1), 39-46 (2013)
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シオミズツボワムシ Brachionus plicatilis 抽出液中のインスリン/インスリン様成長因子(IGF)様活性

尾崎 依,金子 元,伯野史彦,高橋伸一郎,
渡部終五(東大院農)

 寿命研究のモデルであるシオミズツボワムシ(以下ワムシ)が,進化的に保存された寿命制御因子インスリン/IGF-I をもつかどうか検討した。ワムシ抽出液をラット L6 筋芽細胞に添加したところ,インスリン/IGF 様シグナル伝達経路の構成因子のリン酸化量が増加し,その程度は絶食ワムシ抽出液より給餌ワムシ抽出液で高い傾向にあった。また,これらのリン酸化は当該因子上流のキナーゼの阻害剤により抑制された。したがって,ワムシはインスリン/IGF 様因子を有し,給餌によりその活性が増加することが示唆された。

79(1), 47-53 (2013)
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底面給餌および手網追尾による人工種苗ヒラメの摂餌行動の改善

高橋宏司,益田玲爾,山下 洋(京大フィールド研セ)

 ヒラメ人工種苗における摂餌時の極端な離底行動を改善するため,水槽底面からの給餌および手網による追尾の効果を検討した。実験区として,底付近から給餌する底面給餌区,手網で 1 日に 2~4 回追いかける手網追尾区,および対照区の水面給餌区を設け,処理前と 2 週間後の水面給餌時の離底行動を観察した。処理後の比較では,底面給餌区の離底行動は対照区より有意に少なかった。処理前後の比較では,底面給餌区と手網追尾区において離底行動が抑制され,飼育時の経験を操作することで放流魚の行動を改善できる可能性が示された。

79(1), 55-60 (2013)
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沖縄産カキ類のミトコンドリア DNA バーコーディング:日本海域におけるポルトガルガキ Crassostrea angulata の隠蔽集団

関野正志(水研セ中央水研),
山下博由(貝類多様性研究所)

 筆者らは,沖縄島のカキ類の種多様性評価のため,ミトコンドリア DNA(mtDNA)バーコーディングによる沖縄産カキサンプルの種判別を行った。特に注目すべき結果として,マガキ(Crassostrea gigas)とごく近縁のポルトガルガキ(C. angulata)が沖縄島に分布することを発見した。その他の Crassostrea 属のカキとしてはマガキとミナミマガキ(C. bilineata; syn. C. iredalei)が同定された。一方,Saccostrea 属のカキ類については,混乱した分類体系のために種は特定できなかった。しかし mtDNA の塩基配列に基づく系統樹から,Saccostrea 属内の種(系統)の多様性が示された。

79(1), 61-76 (2013)
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ニホンウナギのレプトケファルス期における海水適応能と水・イオン調節機構

李 慶美(東大院農),
山田祥朗,岡村明浩(いらご研),
塚本勝巳(東大大気海洋研),
金子豊二(東大院農)

 ウナギのレプトケファルスの体液浸透圧は 360~540 ミリオスモルで,海水の半分以下の値であった。体表には Na/K-ATPase 陽性の塩類細胞が広く分布し,蛍光 Na 指示薬および chloride test により,塩類細胞の頂端部から Na と Cl が排出される様子が観察された。また蛍光物質を含む海水にレプトを浸漬し,消化管内における蛍光強度を測定することで,飲水と消化管における水の吸収を調べた。その結果,水は主に直腸で吸収されることが示された。以上のことより,塩類を排出し水を補う海水適応能が,すでにレプト期のウナギに備わっていることが明らかとなった。

79(1), 77-86 (2013)
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大型海藻と無節サンゴモが優占するエゾアワビ生息場における食物網構造:個体発生に伴うニッチの変化

元 南一,河村知彦(東大大気海洋研),
高見秀輝(水研セ東北水研),渡邊良朗(東大大気海洋研)

 大型海藻と無節サンゴモが優占するエゾアワビ生息場における食物網構造を解析するため,底生生物の個体数,種組成,および安定同位体比を調べた。殻長約 30 mm 以下のエゾアワビ稚貝は無節サンゴモ群落に多く,成貝は大型海藻群落に多く分布した。安定同位体比分析の結果から,無節サンゴモ群落では単一の,大型海藻群落では複数の食物連鎖が存在することが示唆された。本研究の結果,エゾアワビがその生活史戦略として,個体発生に伴ってニッチ(生息場,食性)を変化させていることが明らかとなった。

79(1), 87-97 (2013)
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ヒラメに対する Vibrio scophthalmi 強毒株及び弱毒株の病原性の比較

G. Qiao, I.-K. Jang, K. M. Won(NFRDI,韓国),
S. H. Woo(釜慶大,韓国),
D.-H. Xu(農務省,米国),S. I. Park(釜慶大)

 ヒラメ病魚から分離される Vibrio scophthalmi には株による毒性の違いがあることが知られているが,ヒラメに対する病原性を比較した研究はほとんどない。本研究では,強毒株及び弱毒株のヒラメに対する病原性の違いを様々な指標を用いて調べた。強毒性株の LD50 は 10.14 μg protein/g fish で弱毒性株のそれ(15.99 μg protein/g fish)より低かった。強毒性株は弱毒性株に比べて SOD 活性が高く,マクロファージの細胞内 O2 産生を抑制した。また,いくつかの菌体外生成物及び体表粘液中での増殖性に強毒株と弱毒株で違いが見られた。
(文責 舞田正志)

79(1), 99-109 (2013)
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海上育成におけるクロマグロ人工種苗の衝突死の発生頻度

樋口健太郎,田中庸介,江場岳史,西 明文,久門一紀,
二階堂英城,塩澤 聡(水研セ西海水研)

 海上育成におけるクロマグロ人工種苗の大量減耗の要因として,生け簀網への衝突が考えられている。本研究では,海上育成におけるクロマグロ人工種苗の衝突死の発生頻度を把握するために,明確な衝突死の指標となる死亡個体の脊椎骨および副蝶形骨の骨折の割合を調べた。その結果,沖出し後 5~30 日,全長 5.5~15.2 cm の死亡個体の骨折の割合は 0.0~12.0% であったが,沖出し後 30~90 日,全長 21.0~39.2 cm の死亡個体では 17.8~78.0% に増加した。以上より,全長約 20 cm 以上のクロマグロ人工種苗では,生簀網への衝突が減耗の主要因となっていることが推察された。

79(1), 111-117 (2013)
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飼料中ロイコマラカイトグリーンのティラピアに対する毒性と吸収

Mintra Seel-audom(海洋大院),
Laddawan Krongpong(タイ水産局),
二見邦彦,Ana Teresa Gonçalves,片桐孝之(海洋大院),
Nontawith Areechon(カセサート大,タイ),
延東 真,舞田正志(海洋大院)

 飼料を介してマラカイトグリーンの汚染が起こる事例が養殖魚で発生している。本研究では,魚類におけるロイコマラカイトグリーン(LMG)の毒性と吸収を明らかにするために,ティラピアに LMG を含む飼料を 28 日間給餌した。その結果,肝臓と筋肉での LMG の残留は,それぞれ飼料中濃度の 12.2% および 6.2% であった。濃度依存的に Ht,Hb,MCH,血漿 ALP,ALT 活性および総コレステロールが有意に上昇した。また,鰓と肝臓において組織学的な変化が観察され,LMG の経口毒性として鰓および肝臓の障害が認められた。

79(1), 119-127 (2013)
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ゼブラフィッシュ鰓粘液細胞に対する非解離性アンモニアの影響

Abdullah Al-Zaidan,延東 真,舞田正志,
Ana Teresa Gonçalves,二見邦彦,片桐孝之(海洋大院)

 水棲生物に悪影響を及ぼすアンモニアについて,鰓弁と鰓蓋内部の上皮層の粘液細胞に与える毒性に着目した。濃度と時間を変えてゼブラフィッシュに曝露し,病理組織学的および粘液細胞での agr2 遺伝子発現により評価した。アンモニアへの曝露により粘液分泌の増加が見られ,曝露停止後の回復期には,それらは減少傾向となった。鰓の細胞変性は曝露時間および濃度に依存して重度となった。agr2 遺伝子の発現は回復期に有意に高くなり,粘液細胞密度と粘液分泌量の低下とともに減少した。

79(1), 129-142 (2013)
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ニジマス骨格筋における脂肪細胞関連細胞の分布

韓 ユナ,金子 元(東大院農),
長阪玲子,近藤秀裕,廣野育生(海洋大院),
高橋伸一郎(東大院農),渡部終五(北里大,東大院農),
潮 秀樹(東大院農)

 哺乳類ではアディポネクチンは主に脂肪組織で発現するが,ニジマスでは筋肉に多く発現する。ニジマスにおける脂肪細胞マーカーとしてアディポネクチンと心筋型脂肪酸結合タンパク質 H-FABP を採用し,それぞれの特異的抗体を作製して脂肪細胞の骨格筋における分布を解析した。その結果,アディポネクチンおよび H-FABP 陽性細胞は筋繊維周囲を取り囲む筋周膜付近や筋細胞間に認められた。すなわち,哺乳類の場合とは異なり,ニジマスではある程度分化した脂肪細胞様細胞が骨格筋組織内に広く分布することが明らかとなった。

79(1), 143-148 (2013)
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ホタテ閉殻筋筋原線維の加熱によるミオシン変性

佐藤亜衣子(北大院水),木下康宣(道工技セ),
今野久仁彦(北大院水)

 ホタテ筋原線維(Mf)の ATPase 失活は塩濃度上昇で著しく促進されたが,Ca2+ 添加の影響を受けなかった。この特性はイカ Mf と異なった。0.1 M KCl 中の Mf 加熱では ATPase 失活より速く塩溶解性,単量体ミオシンが減少したが,ミオシンのロッド部位の変性で説明できた。パラミオシンを多量に含むホタテ平滑筋 Mf も同じ変性様式を示した。0.5 M KCl 中の Mf 加熱では塩溶解性は維持され,ロッドの緩やかな変性が対応した。

79(1), 149-155 (2013)
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