古川誠志郎(長大院生産),大下誠二(水研セ西海水研), 巴 晴太郎(青年海外協力隊・元長大院生産), 白石哲朗(岡山県水産振興協会・元水研セ西海水研), 中塚直征,河邊 玲(長大院水環) |
九州西部海域でシイラの年齢・成長および成熟特性を,鱗・耳石を用いた齢査定および,生殖腺指数 GSI の季節変化と生殖腺の組織学的観察により調べた。Von Bertalanffy の成長曲線は雄が FLt=1049{1-exp [-0.835(t+6.975×10-14)]}で,雌が FLt=938{1-exp [-1.029(t+6.975×10-14)]}であった。ここで,t は年齢,FLt は t 歳時における平均尾叉長を示す。産卵期は 6 月から 8 月で,雌雄ともに孵化後,翌年の産卵期には成熟に達するものと考えられた。
長谷川 功(水研セ北水研), 山﨑千登勢(北大環境科学院), 太田民久(北大苫小牧研究林),大熊一正(水研セ北水研) |
外来種ブラウントラウトと在来種サクラマスの食性比較を,北海道千歳川支流ママチ川に設けた 12 調査区で 1 年を通して行った。その結果,陸生昆虫が多い夏季で,ヨコエビが多い場所では,食性の重複が他の餌環境下と比べて極端に小さかった。このことは,餌環境によって,餌を巡る種間競争の様相が変わることを示唆する。また,ブラウントラウトによるサクラマスの捕食はほとんどみられなかった。
Billy Nzau Matondo, Michaël Ovidio, Jean-Claude Philippart, Pascal Poncin (Liège 大,ベルギー) |
Abramis brama×Blicca bjoerkna の F1 ハイブリッドの性成熟期における生殖腺重量指数(GSI),繁殖能力,卵サイズなどのメスの生殖関連形質と精液の密度・粘度などのオスの生殖関連形質を親の形質と比較した。雑種化は雌雄とも配偶子の質に影響を及ぼしたが,卵サイズは親魚の形質を一部受け継いでいた。精液については,親魚の形質を受け継いだ白色のものと,親魚とは全く異なる薄いものとの 2 グループが認められた。これらのことから,本 F1 世代の雌雄は質の良い配偶子を生産する可能性を有し,河川において F2 世代やバッククロス世代を生み出すことも可能であることが明らかとなった。
(文責 潮 秀樹)
巣山 哲,中神正康,納谷美也子(水研セ東北水研八戸), 上野康弘(水研セ中央水研) |
8 月以降の漁期に日本沿岸で漁獲されるサンマが,漁期前に分布していた海域を明らかにするため,6~7 月に採集された 1 歳魚の耳石年輪半径の平均値を 143°E から 165°W の経度 10 度ごとの 6 つの海区で求め,漁期の月別集計値と比較した。漁期前の年輪半径は西側より東側の海域で小さくなっていた。漁期では早い月ほど年輪半径は大きく,10 月以降に漁獲されたものでは,漁期前に 160°E 以東に分布していたものに相当したことから,6~7 月に 160°E 以東に分布していたサンマも,漁場に来遊すると考えられた。
進士淳平(東大院農), マーシー N. ワイルダー(国際農研セ) |
クルマエビ類 Litopenaeus vannamei を対象に,空気暴露および低塩分ストレス条件下における血リンパ中遊離アミノ酸,アンモニア態窒素,炭水化物およびグルコース動態の分析を行った。両ストレス条件下において,炭水化物と同様に,グリシンや L-アルギニンなど特定の遊離アミノ酸の血中濃度が上昇した。また,このときアミノ酸の異化代謝産物であるアンモニア態窒素の血中濃度が上昇していた。これらの結果は,上述した遊離アミノ酸が両ストレス条件下で共通してエネルギー源として利用されたことを示唆している。
青山 潤(東大大気海洋研),篠田 章(東医大生物), 吉永龍起(北里大海洋),塚本勝巳(東大大気海洋研) |
シラスウナギ資源減少の実態を明らかにするため,神奈川県相模川河口において,接岸量のモニタリング調査を実施した。その結果,過去 2 カ年(2009 年 11 月~2011 年 10 月),これまで冬期にあったシラスウナギの接岸ピークが 6 月の初夏となっていることがわかった。ウナギ資源の効率的な保護・管理のためには,より広範囲にわたる正確な情報の収集が急務である。
近藤秀裕,隅田慧光,川名由利子,廣野育生, 長坂玲子(海洋大), 金子 元,潮 秀樹,渡部終五(東大院農) |
摂餌制限がニジマス筋肉における栄養代謝関連遺伝子の発現に及ぼす影響を解析するため,一週間に一度給餌した区(制限区)および毎日 2 回給餌した区(飽食区)で発現変動する遺伝子を,マイクロアレイ法で解析した。2,701 遺伝子で 2 倍以上の発現変動がみられ,とくに解糖系酵素遺伝子の発現量低下が顕著にみられた。成長ホルモン受容体遺伝子 mRNA 蓄積量が増加し,アディポネクチン遺伝子 mRNA 蓄積量が減少していたことから,これらの情報伝達系により栄養代謝関連遺伝子の発現が調節されていることが示唆された。
豊川雅哉,柴田正志(水研セ西海水研), 程 家驊,李 惠玉,凌 建忠,林 楠,劉 尊雷, 張 翼(中国水産科学研究院東海水産研), 清水 学(水研セ中央水研),秋山秀樹(水研セ西海水研) |
エチゼンクラゲの直径 1~2 mm のエフィラを東シナ海北西部から黄海にかけての 2 ヶ所から初めて発見した。これらの標本は 2011 年 5 月 22 日と 26 日に採集された。エフィラの成長段階と採集場所の水温が約 16℃ であったことから,これらのエフィラがポリプから遊離したのは 5 月上旬と考えられた。東シナ海および黄海沿岸の水温の推移と流れの向きを考えると,エフィラの発生源であるポリプの棲息場所は,長江河口から江蘇省にかけての沿岸付近と考えられた。
趙 岩,戸田昌邦,侯 吉倫,麻生真実, 荒井克俊(北大院水) |
東京の市場より得たドジョウ 491 尾中 81.2% は二倍体であったが,ほかに三倍体(11.5%),四倍体(6.7%),五~七倍体相当の DNA 量をもつ個体(0.6%)が生じた。フローサイトメトリーの結果,これら倍数体の多くは正倍数体ではなかった。高三倍体と高四倍体の雄の生殖能力を調べたところ,前者は不妊であったが,後者は受精能力をもつ高二倍性精子を産した。その精子と UV 照射卵を用いた人為雄性発生子孫の染色体観察から,高四倍体の精子は 2n=54 の高二倍性であることが判明した。
Xiao Zhao, Duo Duan, Xiangru Feng, Yilong Chen, Zhen Sun, Shengmei Jia, Jiangshuai He(吉林大人畜共通感染症研), Bin Wang(吉林大獣医学部), Wei Li(黒竜江生物科技職業学院), Junhui Zhang, Wendong Wang(吉林大人畜共通感染症研), Zhenguo Yang(吉林大獣医学部), Qiang Lu(吉林大人畜共通感染症研,中国) |
重要な炎症性サイトカイン腫瘍壊死因子 α (TNFα) の遺伝子をコイから単離した。TNFα4 cDNA は全長 1318 bp であり,ORF は 255 アミノ酸をコードする 768 bp であった。本遺伝子は 3`UTR には多型が認められ,4 つのエクソンおよび 3 つのイントロンから構成されていた。Aeromonas hydrophila Ahcs01 暴露は TNFα4 遺伝子発現を誘導したことから,本サイトカインはコイにおける炎症および抗細菌応答に重要な役割を果たすものと考えられた。
(文責 潮 秀樹)
井上誠章(三重大院生資),南部亮元(水研セ水工研), 長谷川夏樹(水研セ北水研), 日向野純也(水研セ増養殖研), 桑原久実(水研セ水工研),関口秀夫(三重大院生資) |
SEM 観察によって,水温 20℃ と 24℃ で飼育したアサリ浮遊幼生および稚貝の貝殻形態を比較した。その結果,幼生殻Iの殻長(=トロコフォラ幼生期の最終殻長)には有意差がなかった。一方で,水温 20℃ 飼育での幼生期間は 24℃ と比較して長く,幼生殻IIとIの殻長差(=浮遊幼生期間の成長量)および幼生殻IIの殻長(=着底時の殻長)も大きかった。すなわち浮遊幼生期の長さ,貝殻成長量および着底サイズは生息水温等の環境要因により変動し,それは貝殻形態に反映される。これは現場の浮遊幼生または稚貝の貝殻形態の調査から多くの情報が引き出せることを意味する。
清水大輔(水研セ東北水研), 藤浪祐一郎(水研セ東北水研宮古), 澤口小有美(水研セ北水研), 松原孝博(愛媛大南水研セ) |
ホシガレイ人工養成親魚は,卵黄形成は進むが最終成熟が起こらず,排卵させるには LH-RHa コレステロールペレット投与が有効であった。生検法による卵巣卵径のモニタリングおよび時期別のホルモン投与試験により効果的な投与条件が明らかとなり,卵黄形成終了時の適期(平均卵巣卵径約 0.95 mm)に投与すれば低濃度(20 μg/kg)でも排卵した。投与時期が早いと低濃度では排卵せず,排卵までに時間を要し,時期が遅いと退行により受精しなかった。本研究で開発した手法により,人工養成魚からの大量採卵が可能となった。
荻村 亨,二見邦彦,片桐孝之,舞田正志, アナ・テレサ・ゴンサルベス,延東 真(海洋大) |
真珠の変形とシミについて,病理組織学的,免疫組織化学的手法で細菌の局在を調べた。病理学的な特徴は,核と真珠層との間にメラニン沈着を伴った血球浸潤と殻皮層,線維状アラゴナイト様構造からなる炎症反応セットの存在であった。このセットが異常部位に局在したため,真珠の異常の主な要因であると思われた。細菌が炎症巣から検出され,それを 16S rRNA 解析したところ,多くは嫌気性の性質を持つ細菌と相同性が高いことがわかった。
萱場隆昭(釧路水試),辻 浩司(網走水試), 干川 裕(道中央水試),菊池八起,川端和博,大滝 勲(羅臼漁協), 渡邉 徹(八戸市水産科学館) |
世界遺産・知床羅臼では夏の観光シーズンにエゾバフンウニの出荷を望んでいるが,この時期は産卵期(7~9 月)であり,生殖巣(可食部)の品質は成熟のために劣化している。そこで成熟前(6 月)のウニを海洋深層水で低温飼育し,成熟抑制効果について検討した。地先海水(3~20℃)で飼育した場合,水温上昇に伴って配偶子形成が進行し,7 月下旬にはほぼ全個体が完熟状態となった。一方,海洋深層水(2~5℃)で飼育すると配偶子形成の進行が著しく抑制され,9 月上旬でも 60% 以上の個体が成熟前の状態を維持することがわかった。
山本剛史,村下幸司,松成宏之,杉田 毅, 古板博文(水研セ増養殖研), 岩下恭朗,天野俊二,鈴木伸洋(東海大) |
大豆タンパクの分子量がニジマスの胆汁と直腸組織に及ぼす影響を検討するため,魚粉,大豆油粕 (SBM),分離大豆タンパク (SPI),分子量の異なる 4 種の大豆ペプチド製品および分子量が最小のペプチド製品 (AM) にサポニンを添加した飼料を与えた。SBM と SPI で見られた胆汁酸量の減少や直腸組織変性が大豆ペプチド製品では改善する傾向が見られ,AM では魚粉と同等であったが,AM にサポニンを添加すると胆汁酸量が減少した。SBM によるニジマスの胆汁と直腸組織の異常には,大豆タンパクの分子量とともにサポニンが関係していると示唆された。
Mostafizur Rahman Mondol (済州大学校), Chul-Won Kim (Korea Natl. Coll. Agr. Fish.), Bong-Kyu Kim(済州大学校), Chang-Keun Kang (Ocean Sci. Technol. Inst., POSTECH), Kwang-Sik Choi(済州大学校,韓国) |
韓国南部の Gamakman 湾に垂下したマガキ人工生産種苗の初期成長と再生産を調べた。移殖から 4 ヶ月後の 2009 年 10 月には殻長が 27.4(7 月)~82.5 mm に,軟体部重量が 0.2~5.2 g に増加し,出荷可能となった。成熟は急速に進み,9 月を中心に 8~10 月に産卵が行われた。イライザ法によれば,卵重量は体重の 5.1(8 月)~8.8%(9 月)と比較的少なかった。産卵のための集中的なエネルギー消費に伴い 8~9 月の炭水化物含量は低かったが,蛋白質含量は卵量が最大の 9 月に最大となった。人工生産種苗は,天然幼生が不足している韓国のマガキ養殖場において,幼生の一部を供給し得ることが示された。
(文責 河村知彦)
橋木怜弥,吉田天士,久野草太郎(京大院農), 西川哲也(兵庫農水技総セ),左子芳彦(京大院農) |
日本海における炭素・窒素循環に関わるラン藻の多様性を明らかにするために,ラン藻 16S rDNA およびニトロゲナーゼ遺伝子 (nifH) のクローン解析を行った。その結果,日本海のラン藻では Synechococcus sub-cluster 5.1 が全体的に優占し,Synechococcus sub-cluster 5.3 が垂直的に広く分布していた。nifH 遺伝子のクローン解析の結果,光合成従属栄養性ラン藻 UCYN-A が深度 30~75 m 地点で検出されたが,従属栄養性細菌が優占していた。
隠塚俊満,角埜 彰,河野久美子,伊藤克敏, 持田和彦,藤井一則(水研セ瀬水研) |
日本近海に生息する海産生物を用い,防汚剤の一種クロロタロニルの急性毒性を検討すると共に,北米原産の海産魚マミチョグを用いた急性および慢性毒性を検討した。実測濃度を基にした海産藻類スケレトネマ,甲殻類シオダマリミジンコ,クルマエビ,魚類マダイ及びマミチョグに対する急性毒性値はそれぞれ 0.95, 16, 290, 35 及び 61 μg/L であり,マミチョグに対する慢性毒性値(無影響濃度)は 11 μg/L であった。マミチョグに対する急性慢性毒性比からマダイの慢性毒性値を推測すると 11 μg/L となった。
足立亨介,鳥山健太郎,畦倉 環,森岡克司(高知大農), Tongnunui Prasert (Rajamangala Univ. Tech. Srivijaya,タイ), 池島 耕(高知大農) |
マングローブクラブは落葉を大量に摂取することで炭素循環に寄与しているが,その消化機構は明らかにされていない。本研究ではマングローブクラブ肝膵臓由来のエンド β-1,4 グルカナーゼ活性,および β-グルコシダーゼ活性が,国内沿岸域のカニ類のそれよりも有意に高く認められた。またエンド β-1,4 グルカナーゼ活性のザイモグラム解析においては三種類のマングローブクラブで非常に近接した分子量が確認された。以上の結果からマングローブクラブは落葉中のセルロースを効率的に分解する内在性の酵素を有していると考えられた。
李 麗華,高橋浩司,堀 智彦,部田 茜,長谷川 靖(室蘭工大・くらし環境系領域) |
ホタテガイ貝殻ちょうつがいは貝殻の開閉に働く弾性組織である。ちょうつがいを 70% ギ酸で処理することにより分子量 12 kDa のタンパク質が遊離することを見出した。精製した 12 kDa タンパク質 (Ligament Protein-1) のアミノ酸組成はすでに報告されているアブダクチンのものと異なるものの,部分アミノ酸配列は類似していることがわかった。Ligament Protein-1 は,二次構造を保持しておりちょうつがいの弾性機能を知るために有用であることが示唆された。
Hyun Ah Jung (全北大学校), Md. Nurul Islam,Chan Mee Lee (釜慶大学校), Hyong Oh Jeong,Hae Young Chung (釜山大), Hee Chul Woo,Jae Sue Choi (釜慶大学校,韓国) |
フコキサンチンの血糖値低下作用について関連酵素の阻害作用について検討した。フコキサンチンは最終糖化産物 (AGE) の生成と,ヒト組み換えアルドース還元酵素活性及びラット水晶体由来アルドース還元酵素活性 (RLAR) を阻害した。また,チロシンホスファターゼ 1B 活性 (PTP1B) も阻害した。しかし,α-グルコシダーゼ活性の阻害にはフコキサンチンを 200 μM 以上添加する必要があった。反応速度論的な解析により,フコキサンチンの RLAR 活性に対する阻害様式は競争的であるのに対し,PTP1B に対しては,混合型阻害を示すことがわかった。3D 解析により,フコキサンチンの PTP1B に対する阻害には,PTP1B の 3 残基 (Phe30, Phe52, Gly183) とフコキサンチンの 2 個の水酸基が関わっていることが示された。その結合エネルギーは-7.66 kcal/mol であり,3 個の水素結合による酵素との結合の安定化と PTP1B の活性部位との密な結合も示された。こうしたフコキサンチンの作用により PTP1B の活性が阻害されるものと考えられた。
(文責 宮下和夫)
高 堅,越塩俊介,Binh Thanh Nguyen (鹿大水), 王 衛民,曹 小絹(華中農業大,中国) |
天然および養殖ドジョウの栄養価を明らかにするため,合計 60 尾のドジョウを用い,全魚体の一般分析,脂質クラス,脂肪酸組成及びアミノ酸組成比較を行った。総脂質及び中性脂質含量は養殖魚が天然魚よりも有意に高い値を示したが,極性脂質は,養殖魚が有意に低い値を示した。脂肪酸組成では,20:5n-3 及び 22:6n-3 は,養殖魚が天然魚よりも高い値を示したが,20:4n-6 は,養殖魚において,有意に低い値を示した。アミノ酸組成は,天然と養殖の間に差は見られなかった。以上の結果から,養殖ドジョウの消費は,n-3 高度不飽和脂肪酸の摂取に寄与することが示唆された。
Do-Hoon Kim (NFRDI,韓国), Douglas Lipton (メリーランド大,米国), Jong-Yeol Choi(国立釜山大学校,韓国) |
韓国におけるマダイ沖合養殖産業システムの経済効果を分析した。マダイの沖合養殖の経済的妥当性を検討するために,養殖期間中の収入と支出を算出し,10 年間のキャッシュフロー収支の正味現在価値と内部収益率を推定した。その結果,マダイ沖合養殖システムは現在の生産および市場環境では高い利益性を持つことが示された。これは種苗の生残率が高く,飼料転換効率が低いことと,市場価格が良好であることに起因する。主要な要因の感度分析の結果は,マダイ沖合養殖が生産環境および市況の変化に非常に敏感であることを示唆した。
(文責 黒倉 壽)