Fisheries Science 掲載報文要旨

甲殻類の生殖機構 ―卵黄形成過程の制御およびそのメカニズム―(総説)

T. Subramoniam(国立海洋技術研,インド)

 近年の分子生物学的解析により,複雑と考えられてきた甲殻類の卵黄形成の一端が明らかにされつつある。本総説では卵黄タンパク質の部分アミノ酸配列を基にした卵黄タンパク質前駆体(Vg)遺伝子の単離と,それにより可能になった Vg の全一次構造の演繹,プロセシング機構の解析,遺伝子発現組織の同定,ならびに各卵黄形成期での遺伝子発現の変動などについて述べる。また,眼柄由来のペプチドホルモンやその他のホルモンによる生殖と脱皮の総合的な制御,脳や胸部神経節由来の生体アミン類の生理学的作用についても考察する。
(文責 マーシー・ワイルダー)

77(1), 1-21 (2011)
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北太平洋メカジキ資源のベイジアン余剰生産モデルに基づく資源評価

ジョン ブロイザック(米国大気海洋気象局太平洋諸島水産科学研),
石村学志(北大サステイナビリティ研セ)

 本研究では北太平洋メカジキ資源のための三つのパラメーターによるベイジアン余剰生産モデルを開発し,1)北太平洋における単一個体群,2)北太平洋を東西に分けた二つの個体群,の二つの個体群仮定に基づく資源評価を目的とした。余剰生産モデルのフィットから資源量推定結果は本研究で使用した最も長い時系列データである 1952 年から 2006 年までの日本のはえ縄漁業漁獲努力量データが大きく結果に影響していること,また,モデル設定において内的増加率や環境収容力の事前分布影響と仮定の重要性が示唆された。

77(1), 23-34 (2011)
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確率的フロンティア分析によるハタハタ刺網漁業の生産性

Do-Hoon Kim, Kyounghoon Lee, Bong-Seong Bae
and Seong-Wook Park(国立韓国水産科学院)

 漁業経営改善のための方針を決定する際にその生産性を推定することが重要である。韓国東岸で行われているハタハタ対象の沿岸刺網漁業の生産性を確率的フロンティア分析により推定した。切断正規分布によって非効率を示すトランスログ生産関数を設定した。出力変数は航海当たりの生産量で,入力変数は漁船のトン数,馬力,乗組員数など,漁業活動に直接関連する物理的な生産要因である。平均的な生産性は 0.59[0.40-0.79]で,これはハタハタ刺網漁業の非効率性を意味した。また,異なるトン数階級の漁船でも平均的な生産性に違いがないことが確認された。
(文責 松下吉樹)

77(1), 35-40 (2011)
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カワハギ稚魚はクラゲのみを摂餌して成長・生残できる

宮島悠子,益田玲爾(京大フィールド研セ),
栗原紋子(海洋大),
鎌田 遼,山下 洋(京大フィールド研セ),
竹内俊郎(海洋大)

 カワハギの餌料としてのミズクラゲの栄養価を評価するため,16 日間の給餌実験と脂質・脂肪酸分析を行った。その結果,カワハギはミズクラゲのみを餌として成長・生残可能であることが示された。また,クラゲをオキアミとともに給餌した場合,オキアミを単独で給餌する場合よりも成長が良かった。カワハギは 1 日当たり体重の 24 倍(クラゲのみ給餌時),および 13 倍(オキアミとともに給餌時)のミズクラゲを捕食した。以上の結果から,大量発生したクラゲへの対処法として,魚類餌料への利用の可能性が示された。

77(1), 41-48 (2011)
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タイ国バンドン湾のドンサックで漁獲されたノコギリガザミ類の成熟サイズと体サイズ組成

浜崎活幸(海洋大),松井直弘(関総テクノス),
野上 誠(関西電力)

 マングローブ域の破壊が進んだタイ国バンドン湾のドンサックにおいて,ノコギリガザミ類の成熟サイズと体サイズ組成を調査した。成熟サイズは,雌では腹部の形態で,雄では鋏サイズの相対成長の変化に基づき推定した。トゲノコギリガザミとアカテノコギリガザミの 2 種が漁獲され,前者が 87% を占めた。雌雄の 50% 成熟サイズ(甲の側刺を含む最大幅)はそれぞれ 112.0 mm と 106.4 mm と推定され,未成熟個体が漁獲物の半数程度に達した。ノコギリガザミ類の持続的利用のためには,50% 成熟サイズに基づいた漁業規制とマングローブの修復が必須である。

77(1), 49-57 (2011)
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マイクロサテライトおよびミトコンドリア DNA 解析によるトラフグ Takifugu rubripes およびカラス T. chinensis の遺伝的差異の検討

MD. Shaheed Reza,木下滋晴,古川 聡(東大院農),
望月俊孝(河久),渡部終五(東大院農)

 Takifugu 属トラフグとカラスはごく近縁であることが知られている。両種の遺伝的差異を検討するため,玄界灘と周防灘で採取したトラフグ 2 グループと韓国の東沿岸沖で採取したカラス 1 グループにつき,4 つのマイクロサテライトとミトコンドリアのコントロール領域を用いて,各グループ間の遺伝的差異を調べた。その結果,各グループ間の遺伝的差異は小さく,トラフグの両グループ間の差異はカラス・グループとの各差異よりむしろ大きかった。以上の結果は,トラフグとカラスが極めて近縁で,むしろ同種とみなせることを示唆する。

77(1), 59-67 (2011)
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ニベ Nibea mistukurii 仔魚の腹腔内へ顕微移植したブリ Seriola quinqueradiata 精原細胞の宿主生殖腺への生着とその挙動

樋口健太郎,竹内 裕,三輪美砂子,
山本洋嗣,常本和伸,吉崎悟朗(海洋大)

 ブリ(平均体重 722 g)の未成熟精巣より得られた精原細胞をニベ仔魚(全長 4 mm)の腹腔内へ移植した。移植 3 週間後,81.8% の宿主個体の生殖腺内で,ブリ精原細胞の生着が認められた。これら生着したブリ精原細胞は,細胞増殖マーカーである抗 PCNA 抗体に陽性を示した。移植 11 ヶ月後の成熟精巣を用いてブリ vasa 特異的な cRNA プローブを用いた in situ hybridization を行った結果,10 個体中 1 個体のみでブリ vasa 陽性細胞が観察された。本結果から,科の異なる種間での精原細胞移植においても,ドナー精原細胞は宿主生殖腺内に生着し,増殖・長期生存が可能であることが明らかとなった。

77(1), 69-77 (2011)
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基質への馴致がシロクラベラ人工種苗の生残に及ぼす影響:定住性捕食者ナミハタを用いた室内実験

河端雄毅(京大院情報),
浅見公雄,小林真人,佐藤 琢,奥澤公一,
山田秀秋,與世田兼三(水研セ西海水研),
荒井修亮(京大院情報)

 本研究では,水槽内被食実験により,基質(シェルター)への馴致が放流後のシロクラベラ人工種苗の生残に及ぼす影響を調べた。本種人工種苗に 3 つの異なる処理(基質有り+馴致有り;基質有り+馴致無し;基質無し+馴致無し)を施し,定住性捕食者ナミハタの捕食圧に曝した。その結果,基質有り+馴致有り区が他の区より高い基質利用頻度および生残率を示した。よって,基質への馴致が本種人工種苗の基質利用を促進させ,生残率を向上させることが示唆された。

77(1), 79-85 (2011)
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アニマルモデルを用いたヒラメ Paralichthys olivaceus の成長形質のための遺伝パラメータの評価

Yong-Xin Liu, Hai-Jin Liu, Gui-Xing Wang,
Yu-Fen Wang, Fei Si, Zhao-Hui Sun,
Xiao-Yan Zhang, Jia-Di Wang (Chinese Acad. Fish. Sci., China)

 ヒラメの成長の遺伝パラメータを評価するために,完全同胞および半同胞家系を作出し,体重,体長および体高を測定した。表現型変異を 4 アニマルモデルを用いて尤度比検定した結果,相加遺伝効果の遺伝率はモデル,形質および日齢により変動した。母性効果は体高のみに有意であり,表現分散の 49% を占めた。表現型変異に占める完全同胞効果の比は 0.09~0.22 であった。遺伝率は全体的に低く育種には家系選抜が有効である可能性が示された。全モデルを用いて評価した 3 形質間の遺伝相関は 0.80 以上であった。全体に遺伝相関は日齢とともに増加した。
(文責 家戸敬太郎)

77(1), 87-93 (2011)
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稲田養魚における米の収量に対する魚の影響

鶴田哲也,山口元吉,阿部信一郎,
井口恵一朗(水研セ中央水研)

 実験水田内にフナ類を用いた稲田養魚区とイネ単独栽培区を設け,生物相,水質および米の収量を比較することにより,養魚水田において米の収量が増大する生態学的プロセスを検証した。稲田養魚区では,フナ類の摂餌の影響により,ウキクサ類の被覆率および動物プランクトンや底性無脊椎動物の個体数が減少した。また,これらの餌生物を利用したフナ類が排泄を行うことにより,水田水中の硝酸性窒素濃度が高い値を示した。結果として,フナ類の排泄物が施肥効果をもたらし,稲田養魚区では米の収量が約 20% 増大した。

77(1), 95-106 (2011)
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化学感覚による摂餌行動を行うスッチキャットフィッシュ Pangasianodon hypophthalmus 仔魚の低照度下における顕著に高い生存率

向井幸則(サバ大学ボルネオ海洋研,マレーシア)

 スッチキャットフィッシュ仔魚期の摂餌行動を,明・暗条件下,未処理・処理(遊離感丘阻害)条件下で,アルテミア幼生に対する摂餌率で比較したところ,各グループ間に有意差はなかった。したがって,仔魚の摂餌は視覚や側線感覚ではなく,化学感覚によるものと考えられた。種々の照度下で仔魚の飼育実験を行った結果,0.1 Lx 下では 100 Lx 下に対して約 3 倍という顕著に高い生存率が得られた。これは,低照度下において仔魚は表・中層を活発に遊泳し,そのことによって,共食い行動が減少することによると考えられた。

77(1), 107-111 (2011)
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ノカルジア原因細菌の疫学研究への α-グルコシダーゼ活性と薬剤感受性試験の応用

ターマー ファウジイ イスマイル(宮崎大農),
竹下 朗(黒瀬水産),梅田奈央子(日本水産),
伊丹利明,吉田照豊(宮崎大農)

 宮崎,鹿児島県で分離されたノカルジア株に対する OTC および Em の最小発育阻止濃度と α-グルコシダーゼ活性について検討した。すべての陽性株(n=15)は OTC 耐性,Em 感受性であった。陰性株(n=95)は OTC 感受性で,大半の株(n=93)が Em 耐性であった。陰性の 2 株は両薬剤に感受性であった。OTC 耐性株は,tet(K) あるいは tet(L) をまたは両方を保有していた。Em 耐性株は mef(A) msr(D) の両方を保有していた。

77(1), 113-118 (2011)
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マダイ稚魚における魚粉代替タンパク質源としての大豆油粕とホタテガイ残渣発酵物の利用性について

Md. Abdul Kader(鹿大院連農),
越塩俊介,石川 学,横山佐一郎(鹿大水),
Mahbuba Bulbul(鹿大院連農),本多勇喜(鹿大水),
Roger Edward Mamauag, Asda Laining(鹿大院連農)

 魚粉に対する代替たんぱく質検索の一環として,ホタテガイ残渣及び大豆油粕の混合物を複合菌で発酵させ,この発酵物の有用性についてマダイを用いて検討した。発酵物含有飼料をマダイ稚魚(飼育開始時の体重:2.8 g)に 45 日間投与した結果,成長指標は発酵物 11% 及び 23% 添加区が魚粉主体飼料と同等で,34% 及び 46% 添加区では劣った。また,23% 添加区の魚が最も酸化に対する抵抗力が高く,酸化ストレス状態が低いことが判明した。このことから,大豆油粕とホタテガイ残渣混合物を発酵することで得られる素材が魚粉代替物として十分利用できることが示唆され,その代替率は 30% 付近であることが判明した。

77(1), 119-128 (2011)
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リアルタイム LAMP 法による Vibrio nigripulchritudo の定量法の確立

フォール ジーン(宮崎大農),
チャクラボルティ グニマラ(宮崎大農),
河野智哉(宮崎大 IR 推進機構),
前田 稔(九州メディカル),鈴木祥広(宮崎大工),
伊丹利明(宮崎大農),酒井正博(宮崎大農)

 エビ養殖において問題になっている Vibrio nigripulchritudo を検出するためにリアルタイム LAMP 法の開発を行った。ITS 領域を対象に 4 種のプライマーを設計したところ,63℃, 60 分の反応で標的遺伝子を増幅することが可能であった。リアルタイム濁度計を用いた検出感度試験では 102 copy numbers まで検出が可能であった。本法は,他の細菌との交差性はなく,特異性を示した。さらに,リアルタイム LAMP 反応によって作製した標準曲線は高い精度(R2=0.9749)を示した。以上の結果から,V. nigripulchritudo のリアルタイム LAMP 法は迅速・定量検出法として適した方法であると考えられた。

77(1), 129-134 (2011)
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Article title; Aeropyrum pernix 由来の一酸化炭素デヒドロゲナーゼの遺伝子および発現の多様性

西村 宏,佐藤希美,野村良子,
岩田恵里,左子芳彦(京大院農)

 好気性超好熱古細菌 Aeropyrum pernix はモリブドプテリン型一酸化炭素デヒドロゲナーゼ(Mo-CODH)を発現している。長崎県橘湾で分離された A. pernix TB1-8 株は総活性および比活性がともに多様であった。TB1-8 株について Mo-CODH 遺伝子解析を行ったところ高活性株と低活性株に分類可能な塩基置換が見出され,演繹の結果アミノ酸の置換が起きていることが明らかになった。しかしながら 3D モデリングの結果,全ての置換はタンパク質表面であった。A. pernix の Mo-CODH 活性は遺伝子多様性や転写量ではなく,翻訳や翻訳後修飾によって調節を受けている可能性が示唆された。

77(1), 135-141 (2011)
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冷凍下におけるタラ類血合筋中の DMA 生成促進因子に関する検討

水口 亨(Sealord Group, New Zealand),
熊沢啓子,山下伸也(日水中央研),
Jon Safey(Sealord Group, New Zealand)

 冷凍下でスケトウダラ,南ダラ,ホキにおける普通筋,血合筋のジメチルアミン生成速度を比較評価した結果,各魚種において普通筋より血合筋のジメチルアミン生成が著しく,特にホキの血合筋は他の魚種より生成が著しかった。普通筋,血合筋の成分を分析した結果,各魚種の血合筋には,それぞれの普通筋よりジメチルアミンの生成を促進する非ヘム鉄とタウリンの含量が高いことが認められた。更にスケトウダラの各筋肉をゲルろ過に供した結果,血合筋中の低分子画分は普通筋の同画分よりジメチルアミンの生成を促進することが認められた。

77(1), 143-149 (2011)
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PCR-DGGE 法によるふなずし熟成中の微生物相解析

藤井建夫,渡辺祥子(海洋大),堀越昌子(滋賀大),
高橋 肇,木村 凡(海洋大)

 ふなずし熟成中(米飯漬け中)における微生物相解析を PCR-DGGE および平板法を用いて解析した。平板法では乳酸菌が 7 日以内に 8.0 log10 CFU/g に達し,その後 1 年間にわたり次第に減少した。PCR-DGGE 法解析の結果では,熟成 14~30 日目にかけて Lactobacillus plantarum,90 日以降には L. acetotolerance と相同性の高いバンドが優勢菌群として検出された。L. acetotolerans はこれまで従来法ではふなずしからが検出されたことがなく,PCR-DGGE 法によってはじめて存在が明らかになった菌群である。

77(1), 151-157 (2011)
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