Fisheries Science 掲載報文要旨

音響および可視化解析によるエチゼンクラゲの遊泳速度の測定

Kyouhghoon LEE(Natl. Fish. Res. Dev. Inst., Korea),
Bong-Seong BAE(East Sea Fish. Res. Inst., Korea),
In-Ok KIM(West Sea Fish. Res. Inst., Korea),
Won-Deuk YOON(Natl. Fish. Res. Dev. Inst., Korea)

 計量魚探,音響カメラと CTD を用いて黄海海域におけるエチゼンクラゲの分布調査を実施し,音響追跡法(PTV)によりエチゼンクラゲの鉛直分布に応じた遊泳速度を解析した。エチゼンクラゲは主として水深 40 m まで存在することがわかった。平均遊泳速度は傘径(BS)の 0.6 倍と推定され,一定の遊泳速度を維持する傾向にあった。また,モンテカルロシミュレーションにより,遊泳速度が 0.46BS から 0.89BS までの範囲内であることもわかった。これらの結果は,エチゼンクラゲの発生源と行動の予測に役に立つと考えられる。
(文責 胡 夫祥)

76(6), 893-899 (2010)
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フィンランドの河川環境は外来種ニジマスの生活史初期生残に影響を及ぼすか

Kai Korsu, Ari Huusko (Univ. Oulu, Finland)

 ニジマスは北ヨーロッパの河川において放流されてきたが,定着している河川はまだ少ない。そこで,フィンランドにおいて本種の生活史初期の生残に対する河川環境の影響について調べた。卵の生残率は 47% であったが,これは未受精卵が多く存在したためであった。卵の生残率と河川環境(水温と pH)との間には有意な関係はみられなかった。一方,孵化仔魚と稚魚の生残率は 80% 以上と高かった。したがって,本調査地の河川環境はニジマスの生活史初期の生残にほとんど影響を及ぼさないことが示唆された。
(文責 佐野光彦)

76(6), 901-907 (2010)
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サケ Oncorhynchus keta の幼稚魚調査から親の回帰は予測できるのか? 北海道東部における事例研究

斎藤寿彦,清水幾太郎,関 二郎,加賀敏樹,
長谷川英一(水研セさけますセ),
斎藤裕美(東海大生物理工),
長澤和也(広大院生物圏科)

 サケの回帰量予測における幼稚魚調査の有効性を検討するため,1999~2002 年に根室海峡で実施された幼稚魚調査の結果と親の回帰率を比較した。2000 年級群(降海:2001 年)は,幼稚魚の分布密度,成長率およびコンディションが高かったことが報告されている。そのため,同年級群の高い回帰率が期待されたが,実際は最も低かった。代わって,海洋生活 1 年目の表面海水温と放流サイズを用いた統計モデルでは,精度良く回帰率変動を再現できた。幼稚魚調査の結果と実際の回帰にみられた不一致の理由を検討し,今後のサケ幼稚魚調査の改善点を議論した。

76(6), 909-920 (2010)
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スッチキャットフィッシュ Pangasianodon hypophthalmus 仔魚期の感覚器の発達と行動の変化

向井幸則,Audrey Daning Tuzan,
Sitti Raehanah Muhamad Shaleh,
Bernardette Mabel Manjaji-Matsumoto
(サバ大ボルネオ海洋研,マレーシア)

 スッチキャットフィッシュ仔魚は未発達な形態を伴ってふ化したが,その後急速に発達した。2 日目には各感覚器官がかなり発達するとともに摂餌を開始し,3 日目には内耳がほぼ完成し,10 日目に前後の鼻腔が現れた。遊離感丘は 10 日目に頭部で皮下に沈下し始め,20 日目に管器が形成された。感覚器官の急速な発達は,本種の生息地である河川への適応と,後屈曲期仔魚においては河川流下行動と深く関連していることが推察された。

76(6), 921-930 (2010)
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有明海および東京湾におけるハマグリの生殖周期

中村泰男(国立環境研),中野 善(長大院生産科学),
圦本達也,前野幸男(水研セ西海水研),
小泉孝義(日本ミクニヤ),玉置昭夫(長大水)

 有明海の天然ハマグリおよび有明海から東京湾に移植した個体の生殖周期を生殖巣の組織切片観察に基づき検討した。いずれの海域においても生殖周期は雌雄で同調しており,早春に生殖巣の発達が始まり,夏に成熟し,晩夏から初秋にかけて大規模な放卵・放精が認められた。また最小成熟サイズはこれまで考えられていたよりも小さく,17-20 mm であった。両海域の栄養環境や塩分はかなり異なるものの,水温はほぼ同様の季節変化を示すことから,生殖周期は主として水温によってコントロールされていることが示唆された。

76(6), 931-941 (2010)
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本州東西沿岸で採集されたババガレイ稚魚の初記載

和田敏裕,千代窪孝志(福島水試),
有瀧真人(水研セ西海水研)

 新潟および福島沿岸で採集されたババガレイ稚魚 4 個体(全長 27.8-40.9 mm,水深 15-50 m)の形態的特徴を明らかにした。稚魚は,細長い楕円形の体躯とやや突出した前鼻管に特徴づけられた。着底稚魚の有眼側体躯全体には,黒色素胞と黄色素胞が疎に分布した。胸鰭の伸長と鱗の形成が観察された稚魚では,複数の黒色斑紋が観察された。同時に採集されたカレイ科稚魚(マガレイ,マコガレイ,イシガレイ,ミギガレイ)との分布水深比較より,ババガレイは地先の海況に応じた輸送過程を経て,沿岸-沖合性カレイ科稚魚の成育場に着底し得ると考えられた。

76(6), 943-949 (2010)
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カタクチイワシの未成魚・成魚期における耳石日周輪形成の検証

並木重伸(東大院農),田中寛繁(水研セ西海水研),
片山知史(水研セ中央水研),舩木 修(神奈川水技セ),
青木一郎(東大院農),大関芳沖(水研セ)

 カタクチイワシの未成魚・成魚を飼育し,アリザリンコンプレクソン(ALC)を用いて耳石を標識して耳石日周輪の形成を検証した。水温 20℃ 以上の夏季の実験では,2 回の ALC マーク間の輪紋数と経過日数が一致し日周性が確認できた。一方,冬季の実験では耳石に明瞭な輪紋は観察されなかった。13℃ 以下の低水温によって耳石成長と輪紋形成の活性が低下したことによると考えられる。間隔が約 1 μm 以上の明瞭な輪紋は日周輪と判断できるが,冬季に低水温を経験した未成魚・成魚ではその間の輪紋が不明瞭になる可能性がある。

76(6), 951-959 (2010)
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バナメイエビ Litopenaeus vannamei からの配偶子形成に関わる Dmc1 遺伝子のクローニングと発現解析

奥津智之,姜 奉廷(国際農研セ),
三輪美砂子,吉崎悟朗(海洋大),
前野幸男,マーシー N ワイルダー(国際農研セ)

 本研究では,エビ類の生殖細胞分化過程を把握するため,減数分裂マーカーとして知られる Dmc1 遺伝子のホモログをバナメイエビよりクローニングし,その発現解析を行った。バナメイエビ Dmc1 遺伝子のオープンリーディングフレームは 1,023 塩基(341 アミノ酸残基)から構成されており,そのアミノ酸配列は他動物の Dmc1 と高い相同性を示した。また,その mRNA は精原細胞および卵原細胞に局在していた。本研究により,LvDmc1 が生殖細胞分化の初期段階におけるマーカーとして使用できる可能性が示された。

76(6), 961-969 (2010)
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韓国南部海域におけるキグチの生殖年周期

Han Kyu Lim (Natl. Fish. Res. Dev. Inst., Korea),
Minh Hoang Le (Pukyong Univ., Korea),
Cheul Min An, Sung Yeon Kim, Mi Seon Park
(Natl. Fish. Res. Dev. Inst., Korea),
Young Jin Chang (Pukyong Univ., Korea)

 2008 年 2 月から 2009 年 1 月までに木浦,釜山および済州島周辺の海域で漁獲されたキグチの生殖周期およびバッチ産卵数を調査した。雌雄ともに 4 月から 6 月に成熟した生殖腺を持ち,高い生殖腺指数を示すことから,この期間が南韓国海域における同種の産卵期と推定された。また卵巣卵の組成から同種が繰り返し産卵を行うことが示唆された。バッチ産卵数は,全長 20.0-26.7 cm の魚において 19,396-106,311 粒と推定された。バッチ産卵数は,全長および体重と正の相関を示した。
(文責 小林 牧人)

76(6), 971-980 (2010)
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養殖クロマグロの粘液胞子虫と微胞子虫寄生

章 晋勇(中国科学院水生生物研),
孟  飛,横山 博(東大院農),
宮原治郎,高見生雄(長崎水試),
小川和夫(東大院農)

 養殖クロマグロに 2 種類の粘液胞子虫と 1 種類の微胞子虫が見つかった。形態および遺伝子解析により,心臓寄生と脳寄生の粘液胞子虫はそれぞれ Kudoa shiomitsuiK. yasunagai に同定された。前者は寄生率が 77~100% に達したのに対して,後者の寄生率は低かった。体側筋肉に白色シストを形成する微胞子虫は,ブリ等のべこ病原因 Microsporidium spp. と似ていたが,形態と遺伝子により区別され,Microsporidium sp. PBT と仮称された。この微胞子虫は寄生率が最高 100% に達し可食部に寄生することから,産業的に被害を与える可能性がある。

76(6), 981-990 (2010)
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実験感染によるヒラメパラウベリス症病原性の特性

Kyoung Mi Won, Mi Young Cho,
Myoung Ae Park(国立水産振興院,韓国),
Ki Hong Kim, Soo Il Park,
Deok Chan Lee(釜慶大,韓国),
Mun Gyeong Kwon, Jin Woo Kim
(国立水産振興院,韓国)

 ヒラメのパラウベリス症の病原性の特性を感染実験により調べた。攻撃菌数が多いほど感染実験による死亡率は高く,ハンドリングストレスは,1×107 CFU/fish で攻撃した場合に有意に死亡率を上昇させた。感染実験期間中,腎臓および脾臓では攻撃後の経過時間とともに臓器中の菌数は低下したが,肝臓および脳には長期間菌が残存していた。また,本症の特徴的な病変は心膜炎であった。脳での菌の増殖は,ハンドリングストレスを与えた方が顕著であった。
(文責 舞田 正志)

76(6), 991-998 (2010)
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好気性超好熱古細菌 Aeropyrum pernix 由来の一酸化炭素デヒドロゲナーゼの精製と性状解析

西村 宏,野村良子,岩田恵里,佐藤希美,
左子芳彦(京大院農)

 好気性超好熱古細菌 Aeropyrum pernix は従属栄養条件下にて一酸化炭素デヒドロゲナーゼ活性(CODH)を有していた。本酵素を完全精製した結果,2.1 μmol CO/min/mg (95℃, pH 8.0)の一酸化炭素酸化活性を示した。また本酵素は高い耐熱性と酸素耐性を同時に示した。本 CODH は L (86.6 kDa), M (34.5 kDa) そして S(12.6 kDa)の 3 つのサブユニットから成り,サブユニット組成は L:M:S≒1:2:1 であった。各サブユニットの N 末端アミノ酸配列の結果から本酵素の遺伝子解析を行った。その結果,本酵素はモリブデン型 CODH に属し,系統解析より新規な系統に属することが明らかになった。

76(6), 999-1006 (2010)
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淡水産二枚貝,Unio elongatulus eucirrus の生体内過酸化と抗酸化および生物機能に対するシペルメトリンの影響

Kenan Köprücü, Serpil Yonar (Firat University, Turkey),
Engin Seker (Tunceli University, Turkey)

 淡水産二枚貝,Unio elongatulus の生体内過酸化に及ぼすシペルメトリンの影響について分析した。シペルメトリンにより,二枚貝の消化腺とえら中のマロンジアルデヒド量(MDA)は増大したが,抗酸化の目安となるグルタチオン(GSH)やカタラーゼ(CAT)酵素活性は減少した。高い濃度のシペルメトリン添加により,貝のろ過能力は低下した。これらの結果より,シペルメトリンは,節足動物や魚類に対してだけでなく,貝類などの軟体動物に対しても毒性を示すことがわかった。
(文責 宮下 和夫)

76(6), 1007-1013 (2010)
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色落ち海苔から単離したグリセロールガラクトシドのラットにおけるプレバイオティック効果

石原賢司,小山田千秋,佐藤洋子,鈴木敏之,
金庭正樹(水研セ中央水研),
国武浩美,村岡俊彦(熊本水研セ)

 色落ち海苔に多く含まれ,in vitro でプレバイオティック活性を示すグリセロールガラクトシド(GG;フロリドシド:2-O-グリセロール-α-D-ガラクトピラノシド,およびイソフロリドシド:1-O-グリセロール-α-D-ガラクトピラノシド)について,in vivo におけるプレバイオティック効果をラットで検討した。食餌 GG はラット盲腸のビフィズス菌および Lactobacillus 菌数を選択的に増加させた。本データは色落ち海苔の健康食品としての利用法開発に資するものと考えられる。

76(6), 1015-1021 (2010)
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クロマグロの消費選好に関するコンジョイント分析

有路昌彦(近大農)

 近年資源の大幅な減少を背景に,国際的にクロマグロの漁獲が規制されつつある。そのため今後供給不足が発生する可能性が高まっている。一方,完全養殖の技術は,産業化が可能な水準にまで至りつつある。そこで消費者のニーズを明らかにし,完全養殖も含め今後のクロマグロのマーケティングを考察するため,コンジョイント分析を行った。結果,クロマグロ資源の現状および養殖方法に関する情報の提供と,エコラベルによって,消費者の支払意志額は大幅に向上することが明らかになった。ゆえに,情報提供とラベルの認証制度は重要であるといえる。

76(6), 1023-1028 (2010)
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