Hanne Digre (SINTEF Fish. Aquacult., Norwegian Univ.), Ulrik Jes Hansen, Ulf Erikson (SINTEF Fish. Aquacult.) |
同一構成のトロール網に従来の菱目コッドエンドと菱目で横目使用の T90 型コッドエンドを用いて比較操業試験を行い,漁獲されたコッドとハドックのサイズと品質を評価した。16 回の操業で計 47.6 トンの漁獲があったが,両コッドエンドの間では漁獲重量に違いは見られなかった。しかし,従来型のコッドエンドを使用した場合に比べて,T90 型コッドエンドを使用したトロール網で漁獲された魚のサイズがわずかに大きいことに加えて,漁獲されたハドックには多くの外部損傷が確認された。一方,T90 型トロール網に比べて,従来のトロール網で漁獲されたコッドの切り身の品質はやや低い傾向にあった。
(文責 胡 夫祥)
三宅陽一,木村伸吾,河村知彦, 北川貴士(東大大気海洋研), 原 素之(養殖研),干川 裕(道総研中央水試) |
忍路湾内の保護区では,エゾアワビ Haliotis discus hannai 親貝の大部分が人工種苗であるにも係わらず天然稚貝の割合が高い。湾内外の親貝群から保護区への幼生供給および有効な保護区設置場所を推定するため,数値モデルにより幼生分散をシミュレートした。その結果,湾内天然親貝群から保護区への幼生供給は,人工種苗親貝群のそれよりも高く示され,保護区由来の幼生の大部分が湾外へ分散することが示された。また,保護区の湾規模への拡大による再生産の向上,湾奥での新たな保護区設置の有効性が示された。
小糸智子(東大院新領域,東大大気海洋研), 窪川かおる(東大大気海洋研), 田辺信介(愛媛大沿岸研セ), 宮崎信之(東大大気海洋研) |
マイルカ科 12 属 15 種,ネズミイルカ科ネズミイルカの short wave-length sensitive (SWS) 遺伝子の部分配列を決定した。マイルカ,ハセイルカ,ハシナガイルカ,スジイルカ,サラワクイルカ,シナウスイロイルカに共通の 39 塩基の挿入配列や,上記の 6 種とハンドウイルカ,タイセイヨウマダライルカに共通の塩基置換が認められたが,いずれも他の 7 種や鯨類と比較的近縁な陸上哺乳類には存在しなかった。したがって,変異をもつ 8 種は,科内でもっとも遅れて分化したことが示唆された。この結果は分子系統解析でも支持された。
海老沢明彦,金城清昭,喜屋武俊彦(沖縄水海研セ) |
沖縄島海域で採集されたシロクラベラ 257 尾の耳石切断面から年齢査定を行い,成長,性比および成熟と年齢との関係を明らかにした。落射光で白濁して見える輪紋は 1 月から 7 月にかけ,1 年に 1 回形成されることが明らかとなった。成長式における 3 定数はそれぞれ L∞=68.1 (cm), k=0.263, t0=-0.023 (yr)となった。性転換によってオスの割合が 50% に達する年齢は 6.15 歳で,50% のメスが性成熟する年齢は約 2 歳であった。標本中の最高齢は 17 歳であった。
山名裕介(和歌山自然博),浜野龍夫(徳島大), 五嶋聖治(北大水) |
マナマコ Apostichopus japonicus の幼稚仔の成長に関する知見を得るため,平生湾の転石海岸において定期調査を実施した。0 歳の幼稚仔(青色型・黒色型)は,着底後ほとんど成長せずに約半年を過ごした後,1 月から 6 月にかけて急速に成長した。1 歳の幼稚仔は,高水温期を石の下などで夏眠して過ごし,11 月に活動状態になったが,完全に夏眠から回復するにはさらに 1 ヵ月を要した。幼稚仔は 3 歳に達する前に大部分が潮間帯を移出した。幼稚仔の成長には 3 つのパターンが認められ,これは主に 0 歳時の成長開始時期の差に原因があると考えられた。
Mi-Jung Kim, Hye Suck An (Natl. Fish. Res. Devel. Inst., Korea), Kwang-Ho Choi (West Sea Fish. Res. Inst., Korea) |
近年,韓国ではマダラ資源の増大のために人工種苗の放流が行われているが,天然マダラ集団の遺伝的多様性への影響が懸念されている。本研究では,マイクロサテライトマーカーを利用して,韓国周辺海域由来の 3 集団と北太平洋由来の 3 集団の遺伝学的多様性を解析し,韓国東方海域のマダラ集団にアレルの変異に基づく遺伝的特異性が認められることを明らかにした。一方,西方海域と南方海域のマダラ集団の間では遺伝的差異はほとんど認められなかった。
(文責 尾島孝男)
大平 剛(神奈川大理),水藤勝喜(愛知水産基金), 山根史裕(三重栽培セ), 永井千晶,鈴木道生,筒井直昭,長澤寛道(東大院農), 泉 進(神奈川大理) |
ヨシエビ Metapenaeus ensis のサイナス腺から最も主要なペプチドを精製し,N 末端アミノ酸配列解析および cDNA クローニングにより,全一次構造を明らかにした。その結果,このペプチドは他種の甲殻類血糖上昇ホルモン(CHH)と高い相同性を有していた。このペプチドを近縁種であるクルマエビに投与したところ,濃度依存的に血中グルコースレベルを上昇させた。これらのことから,このペプチドはヨシエビの血糖値を上昇させる主要な CHH であると考えられた。
Te-Hua Hsu,Jin-Chywan Gwo(国立台湾海洋大) |
本研究では,外部形態からの性判別が困難な台湾固有のサクラマス(タイワンマス)の性判別技術を確立した。雄特異的な性マーカー「OtY2」を基にプライマーを設計し,鰭や筋肉の標本を用いて,分子生物学的(PCR)手法による非侵襲的な性判別に成功した。本手法は天然集団の雌雄比や有効集団サイズの推定をはじめ,本種の保全生態学的研究に寄与する。
(文責 Carlos A. Strüssmann)
鬼塚年弘(水研セ中央水研),河村知彦(東大海洋研), 岩永俊介,大橋智志(長崎水試), 堀井豊充(水研セ中央水研) |
トコブシ稚貝(殻長 2.0~6.5 mm)にアラメ配偶体と初期胞子体および付着珪藻 Nitzschia sp. を給餌し,成長を比較した。配偶体と初期胞子体を給餌した場合,給餌開始時の殻長が大きい稚貝ほど成長速度が高かった。一方,Nitzschia sp. を給餌した場合にはこのような傾向は認められなかった。配偶体は殻長 3 mm 以上の,初期胞子体は 5 mm 以上の稚貝について高い成長速度をもたらした。アラメの餌料価値は,トコブシの成長に伴い変化し,配偶体,初期胞子体の順で効率的に利用されるようになると考えられる。
Leila Basti,瀬川 進(海洋大) |
西日本沿岸域で多発する有害渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama による二枚貝類の大量斃死の過程を明らかにするために,アサリを材料として H. circularisquama の暴露実験を行った。アサリの斃死は H. circularisquama の細胞密度 50 cells/ml,水温 15℃ で観察され,3 段階の水温,6 段階の細胞密度による 1 週間の死亡率は,水温が高いほど,細胞密度が高いほど高くなった(ANOVA, p<0.01)。麻痺に至ったアサリの鰓はトリパンブルーにより染色されたことから,鰓の損傷が示唆された。
松田圭史,マーシー・ワイルダー(国際農研セ) |
ERG によりバナメイエビ若齢体と亜成体の光受容能力について調べた。暗順応にかかる時間は約 70~80 分で,適正な光刺激間隔は 50 秒以上であることが明らかにされた。暗順応した供試体について,強さの等しい 14 種類の単色光を複眼に照射し,ERG を記録した。分光応答曲線は若齢体と亜成体で有意な差が認められた。最大応答はいずれも 544 nm であったが,568 nm に対する応答は若齢体が有意に大きく,518 nm は亜成体が有意に大きかった。分光応答曲線を比較した時,若齢体では亜成体に比べて 518 nm 以下の感度の劣ることが示された。
冨士泰期,笠井亮秀,鈴木啓太(京大院農), 上野正博,山下 洋(京大フィールド研セ) |
2008 年 4 月から 7 月にかけて由良川河口域でスズキ Lateolabrax japonicus 稚魚の食性と回遊を調べた。スズキ稚魚は採集期間を通じて河口外側の砕波帯から上流 15 km の淡水域まで幅広く分布しており,体長は 4 月に約 20 mm, 7 月に約 70 mm の個体が採集された。アミ類が淡水域,砕波帯いずれにおいても重要な餌生物であった。本研究によりスズキ稚魚の初期生活史において砕波帯のみならず,河川淡水域が重要な成育場となっていることが明らかとなった。
Pongsak Rattanachaikunsopon, Parichat Phumkhachorn (Ubon Ratchathani 大,タイ) |
タイ原産の野菜である Cratoxylum formosum 水抽出物のティラピアにおける生体防御および抗病性に及ぼす影響を調べた。飼料中に抽出物を 1 % および 1.5% 添加して投与すると,20 日間の投与で白血球貪食能が,30 日間の投与でライソザイム活性および呼吸バーストが有意に上昇した。抽出物を 30 日間投与したあとに行った S. agalactiae による感染実験では死亡率を有意に低下させ,C. formosum 水抽出物はティラピアの生体防御能および抗病性を向上させることがわかった。
(文責 舞田正志)
西木一生,野田真宏,伊丹利明,吉田照豊(宮崎大農) |
日本の養殖ブリ・カンパチにおいて S. dysgalactiae を原因細菌とする疾病が問題となっている。本研究では,魚類から分離された S. dysgalactiae と哺乳動物から分離された株とを遺伝学的・生化学的な試験を用いて比較した。また,日本の養殖場で分離した魚類由来株 284 株を用い,疫学解析を行った。その結果,カンパチ由来株は遺伝学的に同質な細菌集団であることが明らかとなった。
石沢清華(北大院環境), 山本雄三(北大フィールド科セ), 傅法 隆,上田 宏(北大院環境,北大フィールド科セ) |
河川水中の溶存遊離アミノ酸(DFAA)の起源を,河床のバイオフィルムの培養実験により調べた。豊平川に石切片を 3 ヶ月間設置しバイオフィルムを形成させ,河川水温において 24 時間培養した。培養後,培養液中の DFAA 濃度と組成,バイオフィルムの全加水分解アミノ酸(THAA),クロロフィル a 量,バクテリア数を測定した。培養液中の DFAA 濃度は数倍増加したが,DFAA 組成は河川水中と同じで変化しなかった。DFAA 量の増加と THAA 量,クロロフィル a 量,バクテリア数の間には相関はなかった。河川水中の DFAA の起源の一つは,バイオフィルムであることが示唆された。
Nguyen Phuc Cam Tu(愛媛大農), Nguyen Ngoc Ha(愛媛大沿環研), 阿草哲郎(島根大医,愛媛大沿環研), 池本徳孝(愛媛大農),Bui Cach Tuyen (Nong Lam 大), 田辺信介(愛媛大沿環研),竹内一郎(愛媛大農) |
ベトナムの MRD(メコンデルタ),SKEZ(南部経済重要地域)及び CCZ(中部沿岸域)から採集したハマグリ属の 21 種の微量元素濃度を分析した。As, Mo, Sn, Pb 等は CCZ で最も高く SKEZ は低い傾向を示した。人口密度が低い CCZ の微量元素濃度が高い要因として,同地における造船所からの排水に由来することが推察された。本研究のハマグリ属の微量元素濃度は米国食品医薬品局等の安全基準以下であったが,As による CCZ のハマグリ属の発ガン性は比較的高く,過疎地でも産業排水由来の二枚貝類の消費を介した健康リスクの増加が示唆された。
遠藤英明,高橋英治(海洋大),村田政隆(道工技セ), 大貫 等,任 恵峰(海洋大), 津川若子,早出広司(農工大) |
ヒラメの血糖値を連続的に測定するためのワイヤレスバイオセンサを製作した。まず,魚の眼球外膜内部に存在する間質液(EISF)と血液中に含まれるグルコース濃度との相関を調べたところ,両者の間には良い相関性が認められた。次に,白金イリジウム線,グルコースオキシダーゼ等より針型バイオセンサを製作し,グルコース測定のための校正法を検討したところ,一点校正が適していることがわかった。本システムを用いることにより,ヒラメを自由に遊泳させた状態で約 16 時間に渡って,血糖値のリアルタイム測定が可能であった。
Yi Kyung Kim(釜慶大,韓国), 渡邊壮一,金子豊二(東大院農), Min Do Huh, Soo Il Park(釜慶大,韓国) |
腸管での水吸収に関与するアクアポリン(AQP)分子種について,ウナギを用いて検討した。まず海水順致ウナギの腸管より AQP3, 8, 10 を同定した。AQP3 は広範な組織で発現し,AQP8, 10 は主に腸管で発現していた。次に淡水,海水順致ウナギの前腸,後腸,直腸での AQP 発現量を AQP1 も含めて測定した。その結果,淡水順致群と比較し,海水順致群の腸管後部で全ての AQP の発現が高い傾向を示した。特に水吸収に重要な直腸での AQP1, 3 の発現が海水順致ウナギで有意に高く,海水適応時での水吸収への寄与が強く示唆された。
孫 禎晧(全南大,韓国),大島敏明(海洋大) |
氷蔵 72 時間におけるカツオ肉の脂質酸化が身色の退色に及ぼす影響を検証した。身色の暗褐色化に伴いメトミオグロビン(metMb)含量は徐々に増加した。一方,アスコルビン酸ナトリウムや Trolox®を肉に添加すると,ハイドロパーオキサイドおよび metMb の生成は強く抑制された。α-トコフェロール含量は氷蔵中に変動しなかった。すなわち,カツオ肉氷蔵中に進行する脂質酸化は,ミオグロビンのメト化に密接に関与することが確認された。
阪井裕太郎,松井隆宏,八木信行(東大院農), 千田良仁(アミタ持続可能経済研), 黒倉 壽(東大院農) |
近年,権利準拠型の漁業管理の有効性に注目が集まっているが,実際のデータを用いてその有効性を定量的に分析した例は少ない。本研究では日本における権利準拠型の漁業の一つである TURF について,その一類型であるプール制に焦点を当て,有効性の検証を行った。プール制の 2 つの効果とされている漁獲量調整機能と漁獲物の鮮度向上機能が,実際の魚価に与えた影響を計量経済学の手法を用いて分析し,これらが価格に大きな影響を及ぼしていることが示された。本研究の手法は他の漁業管理システムの効果を分析する際にも有用である。