Fisheries Science 掲載報文要旨

ミナミマグロ Thunnus maccoyii 幼魚の時空間分布変動:加入量指数の正確な推定に及ぼす影響

藤岡 紘(長大院生産),河邊 玲(長大海セ),
Alistair J. Hobday (CSIRO Mar. Res., Australia),
高尾芳三(水研セ水工研),
宮下和士(北大フィールド科セ),
境  磨,伊藤智幸(水研セ遠洋水研)

 オーストラリア南西海域にてミナミマグロの資源加入調査が実施され,毎年の加入量指数が試算されてきた。本研究では,同海域にて,バイオテレメトリー手法を用いて,ミナミマグロの分布・移動様式の経年変動を調査した。その結果,分布パターンは小海山へ集群する年と陸棚上を散在する年の 2 パターンに分類された。小海山へ集群する年には,加入調査海域の外側である沿岸域を高頻度で移動するため,加入量指数は過小評価されている可能性がある。現行の調査海域に沿岸域を加えることで,加入量指数の高精度化に繋がるものと考えられる。

76(3), 403-410 (2010)
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東ベーリング海生態系の組織化と構造における異体類の役割

Sung Il Lee(日本海漁業研究所,韓国),
Kerim Y. Aydin, Paul D. Spencer, Thomas K. Wilderbuer
(アラスカ水産科学センター,USA),
Chang Ik Zhang(国立釜慶大学,韓国)

 Ecopath/Ecosim を用いて東ベーリング海生態系の組織化と構造における異体類の役割を評価した。生態系構成種の生物量,生産量/生物量,消費量/生物量,食性,漁獲量を入力して栄養段階モデルを構築し,各種の生態的地位や漁獲が生態系に与える影響等を推定した。その結果,異体類ギルドの中で生物量の最も多く食性が広いコガネガレイが最も重要な種であり,オヒョウ,カラスガレイ,アラスカアブラガレイが海棲哺乳類や海鳥とともにキーストーン種であった。異体類間での相互捕食は認められなかったが,食性の重複は広く存在した。
(文責 松石 隆)

76(3), 411-434 (2010)
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イセエビ後期フィロソーマ幼生における溶解アミノ酸の吸収

ソイレメス サメット ジャン(海洋大),
村上恵祐(水研セ南伊豆セ),
ストルスマン カルロス アウグスト,
横田賢史,渡邊精一(海洋大)

 312 日齢のフィロソーマ幼生を 1, 2, 5, 10 および 20 μM の 7 種類のアミノ酸(methionine, aspartic acid, valine, glycine, glutamic acid, alanine, threonine)を添加した海水で 5 時間インキュベートし,アミノ酸の取込量を調べた。最も取り込み量が多かったのは aspartic acid と glutamic acid で,最も取り込み量が少なかったのは methionine, valine と threonine だった。アミノ酸の合計取り込み量は 1, 2, 5, 10 および 20 μM でそれぞれ 1.61, 2.08, 5.94, 7.91, 16.44 μmol/g/h で,アミノ酸の吸収量には濃度依存性が認められた。

76(3), 437-444 (2010)
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石垣島周辺水域におけるゴマフエダイ未成魚の年齢と成長

山田秀秋(水研セ西海水研)

 河川および沿岸域において採集したゴマフエダイ幼魚・未成魚を対象に,扁平石の横断面標本を使った年齢査定を行った。不透明帯を基準とした縁辺成長率には明瞭な季節変化が認められたことから,不透明帯は一年に 1 本形成される年輪であることが分かった。年齢―体長関係の分析により,幼魚期には 1 年に約 6.3 cm 成長すると推測された。体長約 10 cm 未満の 0 歳魚のほとんどが河川に生息しており,1 歳以降になると成長の良い個体から降海しはじめると考えられた。

76(3), 445-450 (2010)
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イトウ Hucho perryi の耳石 Sr/Ca 比におよぼす塩分の影響

新井崇臣(東大大気海洋研)

 耳石 Sr/Ca 比を指標としたイトウの回遊履歴解析の妥当性を検証するために,耳石 Sr/Ca 比におよぼす塩分の影響を調べた。イトウを 4 つの異なる塩分区で 60 日間飼育し,飼育期間中の環境水の塩分と水温を 30 分間隔で計測した。環境水中の Ca, Sr および Sr/Ca 比は塩分と正の相関が見られた。また,耳石 Sr/Ca 比は塩分と正の相関関係がみられた。一方で,水温変化と対応した変動は見出されなかった。以上から,本種の耳石 Sr/Ca 比は生活史の中で経験した塩分環境を反映し,回遊履歴解析に有効な指標となると考えられた。

76(3), 451-455 (2010)
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暗条件下におけるスッチキャットフィッシュ Pangasianodon hypophthalmus 仔魚の摂餌行動

向井幸則,Audrey Daning Tuzan,
Leong Seng Lim, Syahirah Yahaya
(マレーシアサバ大ボルネオ海洋研)

 スッチキャットフィッシュふ化仔魚の感覚器は未発達であったが,仔魚の成長に伴って感覚器は急速に発達した。ふ化後 2 日目の仔魚は摂餌を開始したが,味蕾が触髭上,頭部上,口腔内に分布していた。他の感覚器もこの時期までによく発達していた。仔魚は明・暗条件下においてアルテミア幼生を摂餌し,摂餌率はふ化後 4, 7 日目において暗条件下の方が有意に高かった。また,仔魚は凍結死させたアルテミアも明・暗条件下で摂餌した。これらの摂餌行動は視覚や遊離感丘によるものではなく,味蕾等の化学感覚器によるものと考えられた。

76(3), 457-461 (2010)
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ニベ脂肪酸不飽和化酵素と鎖長延長酵素 cDNA のクローニングとその発現解析

山本洋嗣,壁谷尚樹,竹内裕(海洋大),
Alimuddin(ボゴール農大,インドネシア),
芳賀 穣,佐藤秀一,竹内俊郎,吉崎悟朗(海洋大)

 ニベ肝臓より脂肪酸不飽和化酵素(fads6)様遺伝子および鎖長延長酵素(elovl5)様 cDNA を単離した。様々な濃度のドコサヘキサエン酸(DHA)強化アルテミアを給餌したニベ稚魚における各遺伝子の発現解析を行った結果,DHA 無強化区における fads6 様遺伝子の発現量は DHA 強化区より有為に高かった。一方,各区における elovl5 様遺伝子の発現には有為差は認められなかった。本結果から,ニベ fads6 様遺伝子の発現は,稚魚体内に蓄積された DHA 量により抑制的に制御されていることが示唆された。

76(3), 463-472 (2010)
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飼付け放流されたシマアジのサギ類による捕食尾数の推定

仁部玄通(鹿児島県水産振興課),鈴木直樹(海洋大),
崎山一孝(水研セ瀬水研),森岡伸介(国際農研セ),
大野 淳(インテム)

 本研究は,1997 年から 1999 年に長崎県五島列島において飼付け放流されたシマアジのサギ類による捕食尾数を推定した。放流場所に飛来したサギ類を目視で計数し,目視観察で単位時間当たりに 1 羽のサギ類が捕食したシマアジの尾数を求め,サギ類によるシマアジの捕食尾数を推定した。飼付け期間が長くなるとサギ類の飛来数が多くなった。90 日間飼付けをした 1998 年では 5741 尾(放流尾数の 14.0%),15 日間飼付けをした 1999 年では 829 尾(放流尾数の 1.80%)のシマアジがサギ類により捕食された。

76(3), 473-480 (2010)
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海洋性細菌 Bacillus pumilus および付着性大型藻類を使用した無換水条件下における Penaeus monodon 稚エビの生残率および成長率の向上

Sanjoy Banerjee, Helena Khatoon, Mohamed Shariff,
Fatimah Md. Yusoff (Univ. Putra Malaysia, Malaysia)

 Bacillus pumilus のみ(B),付着性大型藻類のみ(M),B. pumilus と付着性大型藻類(BM)およびこれらを含まないコントロール区(C)において Penaeus monodon の稚エビ(PL)を飼育した。M 区および BM 区では,飼育水のアンモニア態窒素濃度および亜硝酸性窒素濃度が低く,PL の生残率および相対成長速度が高かった。また,BM 区の PL はタンパク質,脂質,PUFA, EPA および DHA の含有率が高かった。加えて,BM 区の飼育水は他の処理区よりも Vibrio 菌数が少なかった。以上のことから,B. pumilus と付着性大型藻類の共同体の利用は PL の成長率および生残率の向上に有効であると考えられる。
(文責 マーシー・ワイルダー)

76(3), 481-487 (2010)
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異なる Nocardia seriolae 菌株に対するオオクチバス Micropterus salmoides の免疫応答

嶋原佳子,黄 韻芬,蔡 明安,王 佩琪,
陳 石柱(國立屏東科技大,台湾)

 由来の異なる Nocardia seriolae 菌株に対するオオクチバスの免疫応答を比較した。各菌株のホルマリン死菌をフロインド不完全アジュバントと混合し,4 週間間隔で 3 回オオクチバスに接種した結果,いずれの菌株を用いた場合も,末梢血のニトロブルーテトラゾリウム陽性細胞数および血清のリゾチーム活性は上昇していなかった。各菌株の菌体に対する血清中の抗体は上昇していたが,いずれの区においても感染試験において防御効果は見られなかった。

76(3), 489-494 (2010)
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Cd を蓄積したニジマス肝臓から分離した高分子可溶性画分に結合した Cd がアミノレブリン酸脱水酵素の活性におよぼす影響

賈 慧娟,任 恵峰,遠藤英明,林 哲仁(海洋大)

 金属に特異的に反応するアミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)に及ぼす諸条件を検討した後,Cd を給餌したニジマスの肝臓から分画した,非メタロチオネイン高分子可溶性画分の Cd が ALAD 活性の阻害率を測定した。パセリ添加飼料を給餌した E2 区から分画された HMF(高分子画分)-Cd は毒性を示したものの,パセリ非添加の E1 区より弱かった。吸収スペクトルから E2 区の HMF にはチオール基の割合が相対的に多い可能性があり,メタロチオネインとして捕捉しきれない可溶性画分中の Cd は HMF に結合し,毒性を弱めることで生体防禦の一翼を担うものと思われた。

76(3), 495-501 (2010)
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琉球列島におけるフエフキダイ属魚類 8 種の着底時の日齢と体長

中村洋平(高知大院黒潮),澁野拓郎(水研セ養殖研),
鈴木伸明(水研セ西海水研),
仲盛 淳,金城清昭(沖縄栽漁セ),
渡邊良朗(東大海洋研)

 フエフキダイ属魚類 8 種(イソフエフキ,ハマフエフキ,マトフエフキ,タテシマフエフキ,ハナフエフキ,キツネフエフキ,イトフエフキ,フエフキダイ属 sp. 2)の着底時の日齢と標準体長を,PCR-RFLP 法による種判別と礫石の日周輪解析によって調べた。ハナフエフキとタテシマフエフキとマトフエフキの着底時の平均体長は 13~16 mm であったのに対して,他の種は 17~22 mm であった。ハナフエフキとタテシマフエフキとイソフエフキの着底時の平均日齢は 26 日であったのに対して,他の種は 28~31 日であった。

76(3), 503-510 (2010)
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コイのプロテアソーム活性化因子 PA28-α サブユニット遺伝子のクローニングおよび発現解析

Yeping Tan
(Jilin Univ., China; South China Agr. Univ., China),
Qiang Lu, Lianrui Li, Yanlei Zhu(Jilin Univ., China),
Baoquan Fu(Chin. Acad. Agr. Sci., China)

 コイ白血球の cDNA ライブラリーからプロテアソーム活性化因子 PA28-α サブユニットの cDNA をクローン化した。この cDNA は 1097 bp から成り 249 残基のアミノ酸配列をコードしていた。このアミノ酸配列は,既報の魚類や哺乳類の PA28-α のものと 92~54% の相同性を示し,このタンパク質に特徴的な機能ドメインを保存していた。コイ PA28-α の構造遺伝子は 11 のエキソンと 10 のイントロンから構成され,免疫に応答して,鰓,脾臓,腎臓,肝臓で強く,筋肉,脳,心臓では弱く発現することが分かった。
(文責 尾島孝男)

76(3), 511-519 (2010)
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ブリとヒラメの筋肉エキスに含まれるうま味物質―呈味上の多機能性

丸次由希子,清水桃子(京大院農),
村田道代(奈良教大),安藤正史(近大農),
坂口守彦(四條畷大),平田 孝(京大院農)

 魚肉エキス中に含まれる主要なうま味物質(イノシン酸とグルタミン酸)の役割を解明するため,ブリおよびヒラメ筋肉の熱水抽出エキスを酸性ホスファターゼおよびグルタミン酸脱炭酸酵素で処理し,呈味上に現れる変化を観察した。その結果,これらの酵素処理によりうま味物質の含量は著しく減少することがわかった。さらに呈味試験によって,うま味の減少のみならず酸味の増加や「こく」および味全体の強度が低下することなどが認められた。これらの事実は,うま味物質が単にうま味の発現のみならず,多くの機能をもつことを示唆している。

76(3), 521-528 (2010)
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下痢性貝毒検査において観察されたホタテガイ Patinopecten yessoensis 中腸腺中のピロフェオホルバイドによるマウス光過敏症

橋本 諭(北大院水,道衛研),
上野健一,高橋健一(道衛研),
鈴木敏之(水研セ中央水研),板橋 豊(北大院水)

 噴火湾産ホタテガイの下痢性貝毒検査において,中腸腺抽出物を投与したマウスに光過敏と思われる症状が観察された。冷凍保存していた中腸腺からは,光増感物質ピロフェオホルバイドが 300~530 μg/g 検出され,その投与量は発症に十分であった。またマウス試験により,発症には光の暴露も必要であることを確認した。これにより検査時に観察された症状は光過敏症であり,生育環境により,懸濁物食者であるホタテガイも,アワビ同様,マウスに症状を引き起こせるほどのピロフェオホルバイドを蓄積することが明らかとなった。

76(3), 529-536 (2010)
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マサバ発酵食品なれずしのコレステロール抑制作用

伊藤光史,赤羽義章(福井県大海洋生資)

 なれずしのエキス(EX)及びペプチド画分(PF)と非ペプチド画分(NP)を脂質負荷食飼育した Wistar ラットに 30 日間経口投与した。EX と NP の投与群では,血漿の総コレステロール(CH)と LDL-CH,中性脂肪の増加および肝臓脂質の蓄積が抑制されたが,PF 投与群では効果はやや弱かった。また,EX, PF, NP 投与群ともに,糞に排泄される総脂質と CH の増加および胆汁酸の増加傾向が見られ,肝臓では CH から胆汁酸への合成を律速するコレステロール 7α ヒドロキシラーゼ活性の上昇傾向が認められた。

76(3), 537-546 (2010)
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