Fisheries Science 掲載報文要旨

ミンククジラ Balaenoptera acutorostrata 腸内容物から分離された通性嫌気性菌の 16S rRNA 遺伝子に基づく同定

小川 剛,石田真巳,加藤秀弘(海洋大),
藤瀬良弘(日本鯨類研),浦野直人(海洋大)

 現在,鯨類の腸内細菌相についての研究例は非常に乏しい。本研究では,3 頭のメスのミンククジラ Balaenoptera acutorostrata から採取された腸内容物の通性嫌気性菌の生菌数と 16S rRNA 遺伝子に基づく同定を行った。生菌数は糞便 1 g(湿重量)あたり(2.2±0.4)×105 から(8.9±2.0)×108 の間であった。各分離株は Enterococcus faecalis, Enterococcus sp., Enterobacter cloacae, Enterobacter sp, Escherichia coli, Edwardsiella ictaluri, Clostridium sp. と同定された。ミンククジラ腸内細菌相は陸上哺乳動物に近いと推測した。

76(2), 177-181 (2010)
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カタクチイワシ仔稚魚に対するサバ属魚類の捕食動態:捕獲成功は餌の成長状態に関連するか?

Dominique Robert(ラバル大カナダ),
髙須賀明典(水研セ中央水研),
中束明佳(海洋大),久保田洋(水研セ中央水研),
大関芳沖(水研セ中央水研),
西田 宏(水研セ中央水研),
Louis Fortier(ラバル大)

 カタクチイワシ仔稚魚に対するサバ属魚類の捕食が餌の成長特性に関連するか否かを検証した。2004 年及び 2005 年に北西太平洋沖合域においてサバ属魚類とカタクチイワシ仔稚魚を同時採集し,カタクチイワシ仔稚魚の被食個体と生残個体間で耳石から推定した直近の成長速度を比較した結果,両者の間に有意差は認められなかった。サバ属魚類は比較的小型の稚魚であっても捕食能力が高いため,餌の成長速度に無関係に捕食できたと考えられる。従って,仔稚魚の成長速度選択的被食は捕食者の体サイズよりも摂餌戦略に依存していると結論される。

76(2), 183-188 (2010)
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In vitro におけるキンギョの再生鱗の石灰化に関する研究:組織学的ならびに定量的解析

小川展弘,浦 和寛,都木靖彰(北大院水)

Ca と P の不足条件下で再生させたキンギョの鱗(未石灰化再生鱗)が石灰化機構を調べるモデルとして有用か評価した。未石灰化再生鱗の Ca・P 含有量は正常再生鱗の約 1/3 に減少した。未石灰化再生鱗を生理的塩類溶液中で 4 時間培養すると Ca 含有量は 2~3 倍に,P 含有量は 1.5 倍に増加した。また,組織学的解析で骨質層の高電子密度物質中で石灰化が進行することが示された。これは生体内における再生鱗の石灰化と同様であった。以上から,この実験法は鱗におけるごく初期の石灰化の分子機構を調べるモデルとして有用であると考えられた。

76(2), 189-198 (2010)
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海水に馴致したウナギは浸透圧調節の副産物として腸内でマグネシウムカルサイトを産生する

馬久地みゆき(東大院農),
八田珠朗(国際農研セ),金子豊二(東大院農)

 海水に馴致した魚類が排出する白い固形物(Ca 沈殿)の物理化学的性質を明らかにし,生物学的意義を検討した。Ca 沈殿は淡水馴致個体からは排出されず,海水濃度依存的に増加したことより,Ca 沈殿は浸透圧調節に関与していると考えられた。物理化学的分析より Ca 沈殿の主成分である Ca と Mg は 7:2 で存在し,Ca 沈殿は CaCO3 と MgCO3 から成るマグネシウムカルサイトと非晶質との混合物であることがわかった。また,Ca 沈殿に含まれている Ca, Mg は海水中の Ca, Mg に由来していることが分かった。

76(2), 199-205 (2010)
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水田に放流されたニゴロブナの仔稚魚および稲わらの施肥が及ぼす水生生物群集構造への影響について

山崎真嗣(中央農研),
大塚泰介,楠岡 泰,前畑政善(琵琶博),
大林博幸,今井清之,柴原藤善(滋賀農技セ),
木村眞人(名大院生命農)

 水田に放流されたニゴロブナ仔稚魚が,水生生物の群集構造に与える影響を明らかにするために,仔魚放流の有無および稲わら施肥管理の異なる 6 つの処理区を設置し,定期的に田面水およびフナの消化管内容物中の水生生物群集構造を調査した。フナが稚魚になると,放流区でミジンコ目とカイミジンコ目が著しく減少し,ミドリムシ目やハルテリア目などが増加した。この群集の構造変化は,フナを起点としたトップダウン栄養カスケードと間接的ボトムアップ効果によって説明される。稲藁を施肥するとタマミジンコが多くなる傾向が認められ た。

76(2), 207-217 (2010)
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低塩分条件下で飼育されたバナメイエビの脱皮周期に伴う炭酸脱水酵素および Na/K-ATPase 活性の変動

Safiah Jasmani, Vidya Jayasankar,
Marcy N. Wilder(国際農研セ),進士淳平(東大院農)

 バナメイエビの脱皮周期において,血リンパ浸透圧,血リンパ中無機イオン濃度および鰓の炭酸脱水酵素(CA), Na/K-ATPase の酵素活性を測定した。血リンパ浸透圧,血リンパ中 Na 濃度及び Cl 濃度は脱皮前期から脱皮後期にかけて減少した。鰓の CA 活性は脱皮直前に高く,Na/K-ATPase 活性は脱皮前後に高かった。以上のことから,鰓の CA は Na 及び Cl の取り込みに関与していると考えられ,また,鰓の Na/K-ATPase は水分を体内に吸収するために機能していることが示唆された。

76(2), 219-225 (2010)
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日本海に生息する高齢ズワイガニの機能不全卵巣に関する組織学的研究

今  攸,小野真宏(若狭エネ研),
本間義治(新潟大医)

 若狭湾沖に設置されたズワイガニ漁礁周辺では,最終脱皮後 9 年前後の高齢雌が時折漁獲されている。これら個体の機能不全卵巣の退化変性過程を明らかにするため,組織学的観察を行った。卵巣は縮小し,ほとんどの卵巣で正常に発達している卵母細胞はみられず,濾胞細胞による吸収が行われている閉鎖卵胞で占められていた。卵巣表面には 1~10 数個の橙色~黒色の結節が散在し,これらは様々な崩壊過程を示す退行中の卵母細胞の集団で占められていた。結節は高齢個体の 26% に認められ,これら高齢個体は産卵能力を喪失していると推察された。

76(2), 227-233 (2010)
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光合成特性に基づいたコアマモの光要求量の推定

阿部真比古,横田圭五,倉島 彰,
前川行幸(三重大院生資)

 コアマモの光要求量を推定するため,室内培養した実生を材料に用い,水温 10-25℃ で一週間培養した後,光合成量および呼吸量を測定した。得られた光合成-光特性と太陽放射の日変化に基づいた数学モデルを用いて推定した日補償点は,海面の光量の 9.3-13.6%,日積算光量は 3.8-5.3 mol photons/m2/day で,10℃ で最も光要求量が高くなった。算出した生育限界水深は,これまで報告されている生育下限水深と一致した。本研究で使用した数学モデルはコアマモの光要求量を推定することができ,普通コアマモはアマモよりも浅所に生育するのはアマモとの光要求量の違いが一因であることが示唆された。

76(2), 235-242 (2010)
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ヒラメ初期発達期における 4 種の色素細胞の密度変化

中村光男(京大院農),青海忠久(福井県大生物資源),
有瀧真人(水研セ宮古セ),
益田玲爾(京大フィールド研セ),
田中 克,田川正朋(京大院農・京大フィールド研セ)

 異体類の左右性発現機構,および種苗生産における体色異常防除の基礎的知見として,ヒラメに見られる全種の色素細胞について変態期に焦点をあてて密度変化を調べた。黒色素胞と同様に,黄色素胞には 2 度の出現時期のあることが観察され,それらは深さと大きさが異なっていた。その結果,色素胞は主に仔魚期に左右対称に存在するもの(仔魚型黒色素胞,早期出現黄色素胞,白色素胞),変態期以降に有眼側のみに出現するもの(成魚型黒色素胞と晩期出現黄色素胞),および,変態期以降に左右対称に出現するもの(虹色素胞),の 3 タイプに分類された。

76(2), 243-250 (2010)
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外来種ニジマスと在来種サクラマスのハビタットニッチ分割

長谷川 功(水研セさけますセ),
山本俊昭(日本獣医生命科学大),
北西 滋(北大院地球環境)

 北海道石狩市を流れる厚田川支流出戸股(でとまた)沢では,外来種ニジマスは倒流木,在来種サクラマスはアンダーカットバンク(川岸のえぐれ)が多い環境で個体数がそれぞれ多いことが明らかとなった。また,サクラマス個体数に対してニジマスは負の影響を与えていなかった。これらの結果は,ハビタットニッチの重複が小さいために,サクラマスとニジマス間の競争があまり強く生じず,その結果ニジマスが出戸股沢に定着できたことを示唆する。

76(2), 251-256 (2010)
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未成熟卵濾胞からウナギ仔魚生産を可能にする生体外培養系の確立

安部智貴,井尻成保,足立伸次,山内晧平(北大院水)

 ニホンウナギの卵黄形成完了後の卵巣を生体外で培養し,卵成熟および排卵を誘導した。摘出した卵濾胞を,様々な濃度の BSA を添加した培養液に入れ,DHP を添加して 15 時間培養し,最終成熟および排卵を誘導した。その後,PGFを加えてさらに排卵を誘導し,得られた卵の人工授精を行った。その結果,孵化率は個体毎に大きくばらついたが,BSA および PGF を添加せず,DHP 添加のみで得られた卵で孵化率が高いことが示唆された。孵化仔魚は無給餌下で 14 日間生存し,生体外培養系で得られた卵を用いて初めて孵化仔魚を得ることに成功した。

76(2), 257-265 (2010)
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塩分および水温がマナマコの塩分耐性に及ぼす影響

Meiyan Hu, Qi Li, Li Li (Ocean Univ. China)

 異なる水温(23, 25, 27℃)・塩分(25, 30, 35 psu)環境下で馴致した稚マナマコの塩分上昇・低下に対する耐性を調べた。塩分を 2 psu h-1 で徐々に上昇・下降させた場合と,急激に上昇(32-46 psu)・下降(9-25 psu)させた場合の生残を比較した。CSMax・CSMin(徐々に上昇・下降させて全個体が死亡した最高・最低塩分),USTL・LSTL(急激に上昇・下降させて全個体が死亡した最高・最低塩分)は,馴致塩分に正の相関を示し,馴致水温に負の相関を示した。CSMax は USTL より 6.2-10.0 psu 高く,CSMin は LSTL より 5.5-8.5 psu 低かった。
(文責 河村知彦)

76(2), 267-273 (2010)
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本州の河川におけるブラウントラウト,イワナ,サクラマスの流程に沿った分布パターンの違い

山本祥一郎(水研セ中央水研),
北野 聡(長野県環境保全研),
坂野博之,柳生将之(水研セ中央水研)

 本州のある河川に定着したブラウントラウトと在来サケ科魚類(イワナ,サクラマス)の流程分布パターンを潜水目視により調べた。流程 4 km の範囲に設定した 3 つの調査区間(上流域,中流域,下流域)に含まれるすべての淵を目視したところ,上流区間ではイワナのみ分布しているのに対し,中流区間と下流区間ではブラウントラウトが優占していた。また,下流区間ではイワナの生息は確認できず,サクラマスの密度もブラウントラウトと比べて著しく低かった。以上の観察結果は,河川の下流域に生息する在来サケ科魚類がブラウントラウトに置き換わっていることを示す。

76(2), 275-280 (2010)
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多毛類 Perinereis sp. からのプロスタグランジン E2 の検出とインビトロにおけるウシエビの卵母細胞の発達に及ぼす影響

Oraporn Meunpol (Chulalongkorn Univ., Thailand),
E Duangjai (Kasetsart Univ., Thailand),
R. Yoonpun (Kasetsart Univ., Thailand),
S. Piyatiratitivorakul (Chulalongkorn Univ., Thailand)

 多毛類 Perinereis sp. から検出されたプロスタグランジン E2 (PGE2)の量は,多毛類のサイズにより異なり,小型の個体より成熟した大型の個体の方が高い値を示した(平均体長 10 cm で 18.16±5.82 ng PGE2・mg-1 protein,平均体長 17 cm では 160.8±37.09 ng PGE2・mg-1 protein)。ウシエビの卵黄形成前卵母細胞を多毛類の抽出液および合成 PGE2 で培養した結果,いずれの場合も卵母細胞形成が促進され,特に卵黄形成後期と排卵期に顕著であった。
(文責 瀬川 進)

76(2), 281-286 (2010)
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ティラピアの連鎖球菌症制御におけるシナモン油の有用性

Pongsak Rattanachaikunsopon,
Parichat Phumkhachorn
(Ubon Ratchathani Univ., Thailand)

 Streptococcus iniae に対する 4 種の香辛料抽出油の抗菌活性を調べたところ,シナモン油に最も強い抗菌活性が見られた。また,シナモン油の構成成分を個別に抽出して,各々抗菌活性を調べたところ,主成分である cinnamaldehyde のみに抗菌作用が認められた。ティラピアにシナモン油添加飼料を給餌した後,S. iniae による攻撃試験を行ったところ,シナモン油の添加量に依存して生残率は高くなり,連鎖球菌症を制御する天然飼料添加剤としての有用性が示唆された。
(文責 舞田正志)

76(2), 287-293 (2010)
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海産仔魚,マハタおよびオニオコゼ,の活力評価のための酵素活性のスクリーニング

Yaowalux Ruttanapornvareesakul(長崎県産業振興財団),
阪倉良孝(長大水),萩原篤志(長大院生産)

 酵素活性が海産仔魚の状態を評価する指標となるか検討した。3 つの異なる形状の飼育水槽(浅,中間,深)を用い,水量 100 L,通気量 50 mL/min で,マハタ(5 日齢まで)とオニオコゼ(10 日齢まで)の飼育を行い,仔魚の生残,浮上死数,成長および計 3 種の酵素活性を測定した。両種とも生残率は深い水槽が最も高かった。マハタ仔魚の生残と 0 日齢のアルカリフォスファターゼ活性に,オニオコゼの生残と 1 日齢のトリプシン,アルカリフォスファターゼ活性の間にそれぞれ負の相関があった。これらの酵素活性を指標に海産仔魚の健康度測定が可能と思われる。

76(2), 295-304 (2010)
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融合精子を用いた雄性発生アマゴの作出

名古屋博之(水研セ養殖研),
河村功一(三重大院生資),太田博巳(近大農)

 精子融合及び卵割阻止の 2 種の方法でアマゴの雄性発生 2 倍体の作出を試みた。精子融合には 50% ポリエチレングリコール(分子量 7500)で 100 秒間の処理が有効であった。受精率は精子融合法が低かったが,生存率は 2 方法とも同程度であった。雄性発生の証明は精子融合法ではマイクロサテライトマーカーのヘテロ結合性により,また卵割阻止法では劣性遺伝を示すアルビノが表現型になることにより確認した。これらの結果から,精子融合法では卵割阻止法で失われる作出個体の遺伝的多様性の維持に有効であることが示された。

76(2), 305-313 (2010)
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環境要因,特に貧酸素と台風が大阪湾のガザミの加入に及ぼす影響

有山啓之(大阪環農水総研),
David H. Secor (Univ. Maryland, USA)

 大阪湾のガザミ加入に環境要因が及ぼす影響を把握するために,25 年間の漁獲データと環境要因との関係を調べた。豊漁の時期は主に 8 月か 11 月で,8 月の CPUE はそれ以前の加入量,稚ガニ期の底層酸素飽和度および台風襲来数と関係があった。11 月の CPUE は台風襲来数と強い相関があり,底層酸素飽和度とも関係していた。これらのことから,貧酸素は稚ガニの斃死を招く重要な要因で,正常な酸素状態は加入成功の必要条件であり,台風襲来数との相関は水塊混合による貧酸素水塊の崩壊などが原因と考えられた。

76(2), 315-324 (2010)
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韓国南東海域のスルメイカにおける残留性有機汚染物質の蓄積特性

Jong Ho Won (Korea Ocean Res. Devel. Inst., Gyeongsang Natl. Univ., Korea),
Sang Hee Hong, Won Joon Shim, Un Hyuk Yim (KORDI, Korea),
Gi Beum Kim (Gyeongsang Natl. Univ., Korea)

 韓国近海の状況を知るため,韓国南東海域より 2005 年に採集したスルメイカの有機塩素化合物(OCs)濃度を測定した。肝臓の PCBs, DDTs, CHLs および HCHs 濃度は,それぞれ 116-206, 158-325, 20.6-37.3 および 1.68-12.3 ng/g であった。雄の肝臓の値は雌よりも高く,雌では肝臓から生殖巣に OCs が再分配されると考えられた。OCs 濃度は脂肪含量とよい相関を示すが,体サイズとの相関は認められなかった。これらの結果から,雄イカの肝臓は体サイズに関わりなく韓国近海の OCs 汚染のモニタリングに有効であると考えられた。
(文責 都木靖彰)

76(2), 325-331 (2010)
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酸化トリブチルスズ暴露が海産魚マミチョグの F0 及び F1 世代におよぼす影響

持田和彦(水研セ瀬水研),
伊藤克敏(愛媛大南水研・沿環研セ),
河野久美子,隠塚俊満,角埜彰,
藤井一則(水研セ瀬水研)

 酸化トリブチルスズ(TBTO)の影響について,海産魚マミチョグを用いて受精卵から成熟期を経て,F1 の孵化に至るまで流水式暴露(設定濃度 0.13-1 μg/L,公比 2)により調べた。性分化に対する影響を調べたところ,高濃度暴露区において顕著に雄に偏っていた。成熟期には全ての TBTO 暴露区において,精巣におけるアポトーシス細胞出現頻度の有意な増加が認められた。また,F0 雌の産卵数の有意な減少が認められたほか,F1 世代においては孵化にかかる日数の増加および,暴露濃度依存性は認められなかったものの孵化率に対する顕著な影響が認められた。

76(2), 333-341 (2010)
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石西礁湖でのミドリイシ属サンゴの 2 才までの成長について

岡本峰雄,Yap Minlee(海洋大),
Roeroe K. A. (Sam Ratulangi Univ., Indonesia),
野島 哲(九大理院),小山田久美(JFE スチール),
藤原秀一(いであ),岩田 至(芙蓉海洋)

 サンゴの一斉産卵前に着床具(CSD)や穴をあけたマリンブロック(MB)を海に設置し,育ったミドリイシの成長を追跡した。MB の 10 mm 穴では 1 年後も穴の中で育ち,以後穴の外に被覆状に広がり 2 年で直径 21.5 mm (±3.7 mm)となった。架台に重ねたままの CSD では,ミドリイシは 405 日で 12 mm 未満(7.6 mm±2.4 mm)であった。764 日で 19.4 mm (±5.5 mm)となり,約 1/3 は被覆部から樹枝が 5 mm 以上伸びていたが,樹枝が被覆部の幅を超えたのは僅かであった。CSD を早い時期に分解して MB に固定したものは 629 日で樹枝部が基部より大きくなっていた。

76(2), 343-353 (2010)
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トゲクサビライシに含まれるレクチンの褐虫藻への影響

神保 充,山下 洋,小池一彦,酒井隆一,
神谷久男(北里大海洋)

 我々は,イシサンゴ目である Ctenactis echinata よりラクトース,メリビオース,D-ガラクトースに親和性を持つレクチンを見いだした。このレクチン CecL は N 型糖鎖を持つサブユニットがジスルフィド結合により 2 量体となっていた。培養褐虫藻を用いた生物検定では,CecL が鞭毛を持つ遊泳細胞を共生状態と類似した遊泳できない栄養細胞に変化させたが,増殖を抑制した。この結果は,褐虫藻とサンゴの共生の確立や褐虫藻の維持に,サンゴのレクチンが役割を持つことの別の証拠である。

76(2), 355-363 (2010)
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コイ筋原繊維(Mf)を基質としたスルメイカ肝臓に存在する三種類のプロテアーゼの性質

田 元勇,梅沢絵美(北大院水),
段  蕊(淮海工学院海洋),
今野久仁彦(北大院水)

 コイ筋原繊維を基質とした各種阻害剤による阻害実験よりスルメイカ肝臓の主要プロテアーゼはシステイン(C 型),メタロ(M 型),セリン(S 型)型の 3 種類であり,ミオシンを M 型は選択的に,C 型と S 型は比較的無秩序に切断した。C 型,M 型,S 型はそれぞれ,50℃, 35℃, 40℃ で,また,pH 5, pH 6-7, pH 8-9 で最大活性を示した。3 種類のうちで,C 型が最も熱及び pH 安定性に優れていた。熱および酸変性した Mf を C 型は非常に強く分解したが,逆に M 型による分解は抑制された。

76(2), 365-373 (2010)
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褐虫藻と宿主 Sinularia sp. の脂質と脂肪酸組成

Andrey B. Imbs, Irina M. Yakovleva
(A.Z. Zhirmunsky Inst. Mar. Biol., RAS, Russia),
Long Q. Pham (Vietnam. Acad. Sci. Technol., Vietnam)

 褐虫藻は極性脂質に富んでいたが,サンゴには中性脂質が多く,モノアシルグリセロール(MADAG)が 35% 含まれていた。一方.褐虫藻には MADAG が検出されなかった。したがって,MADAG は動物組織のみで生合成され,宿主を同定するバイオマーカーとして利用できると考えられた。また,褐虫藻では,18: 4n-3, 20: 5n-3, 22: 6n-3, 16: 3n-4, 16: 4n-1 が主要な脂肪酸で,宿主よりも,それぞれ,10.1 倍,11.0 倍,9.1 倍,4.2 倍,11.2 倍多く含まれていた。一方,宿主に特徴的な脂肪酸 24: 5n-6 と 24: 6n-3 が検出された。
(文責 宮下和夫)

76(2), 375-380 (2010)
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共生メタン酸化細菌をもつヘイトウシンカイヒバリガイの鰓におけるタウリン輸送体遺伝子の発現に対する硫化物長期暴露の影響

小糸智子(東大院新領域,東大海洋研),
中村(日下部)郁美(東大海洋研),
吉田尊雄,丸山 正,小俣珠乃(海洋研究開発機構),
宮崎信之,井上広滋(東大海洋研)

 相模湾メタン湧出域に生息するヘイトウシンカイヒバリガイのタウリン輸送体(TAUT) cDNA を単離し,TAUT mRNA,共生メタン酸化細菌 16S rDNA のリアルタイム PCR による定量系を確立した。次に,硫化物添加・無添加条件下で水槽飼育を行ない,鰓・外套膜・足を上記の方法で分析した。その結果,硫化物への長期曝露により,鰓において有意に TAUT mRNA 量が増加することがわかった。硫黄酸化細菌を共生させない本種でも,TAUT は硫化物の無毒化に関与していることが示唆される

76(2), 381-388 (2010)
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カンパチ Seriola dumerili およびマダイ Pagrus major 普通肉の品質に及ぼす脱血の効果

John Bosco Ahimbisibwe,井上皓介,柴田敏行,
青木恭彦(三重大院生資)

 カンパチおよびマダイ普通肉に及ぼす脱血の効果をみるために,脱血および非脱血の氷蔵カンパチおよびマダイから普通肉中の ATP 関連化合物,トリメチルアミン(TMA)および揮発性塩基窒素(VBN)を経時的に定量した。その結果,両魚種とも IMP の測定値は脱血区の方が有意に高く,K 値,ヒポキサンチン(Hx)および VBN では有意に低かった。TMA では両魚種とも氷蔵約 1 週間から脱血の効果が認められた。

76(2), 389-394 (2010)
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醤油漬け鮭イクラにおける乳酸菌発酵物およびペクチンよるナイシン抗菌力の増強

Dominic Kasujja Bagenda(はこだて未来大),
山崎浩司,小林哲也,川合祐史(北大院水)

 本研究では,醤油漬け鮭イクラでのリステリア菌による食中毒リスクを低減するため,ナイシン(Nis),乳酸菌(Pedicoccus pentosaceus, PP)発酵物とペクチンによる複合的な抗菌効果を検討した。鮭イクラでの Nis のみの作用では,Lm の発育遅延が見られただけであったが,Nis と共に PP 発酵物およびペクチンを同時に作用させると,12℃ でも Lm の発育は長時間に亘って完全に阻止された。また,官能的にも PP 発酵物-ペクチン処理鮭イクラは,市販鮭イクラと同等と評価された。

76(2), 395-401 (2010)
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