Fisheries Science 掲載報文要旨

“共有地の悲劇”を防ぐための“競争的配分ルールを導入したプール制”による漁業管理

金子貴臣,山川 卓,青木一郎(東大院農)

 プール制漁業が孕む問題を回避しつつ,漁獲による資源減少のような,漁業が生み出す外部不経済を内部化する手法として「競争原理を導入したプール制漁業」を提案する。漁業者間で事前合意した目標に沿う操業をした漁業者にはより多く収益を配分する。ゲーム理論を用いて分析を行い,管理手法としての性能をコンピュータシミュレーションで評価した。我々の示す例では,漁獲努力量を大幅に抑制し,資源量を高く維持し,同時に収益も高めることができた。改良の余地はあるものの,このシステムの概念は持続的な漁業管理の達成に貢献できる。

75(6), 1345-1357 (2009)
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DIDSON を用いた養殖魚トランスファ時の尾数と体長の自動計測

韓  軍(東大生研),本多直人(水研セ水工研),
浅田 昭(東大生研),柴田耕治(東陽テクニカ)

 DIDSON を用いて養殖魚トランスファ時の尾数と体長の自動計測手法を開発した。位相限定相関による画像マッチングでトランスファゲート網の“ブレ”を押さえ背景を除去した。魚の輪郭をコンタートレース法で抽出し,魚跡を予測・追跡できるようなカルマンフィルタを設計した。魚跡を解析し魚を自動計数することができた。さらに精度よく魚の全長を計測するため,分離された魚影を魚の形状から検索してグルーピングした。

 養殖魚ブリ(平均全長 83.1 cm)を供試魚として検証実験を実施し,自動計測した平均全長と実測値との差が 0.0~2.4 cm であった。

75(6), 1359-1367 (2009)
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心電図測定によるマアジの遊泳耐久時間と回復過程に関する水温の影響

Nofrizal(海洋大),柳瀬一尊(ゲルフ大),
有元貴文(海洋大)

 小型回流水槽を用いて,マアジの遊泳耐久時間と心拍数変化について水温の影響を検討した。10℃ において遊泳持続時間は短く,最大持続速度も低い値となり,遊泳能力として劣る結果となった。遊泳前の心電図測定で,コントロールとしての心拍数は 10℃ で平均して毎分 25.3 回,15℃ で 38.9 回,22℃ では 67.2 回と水温の影響は大きく現れ,その後は遊泳速度に対応して上昇し,それぞれ 60, 125, 208 回/分の最大心拍数まで増加した。心拍数の回復過程について,中間速度段階では高温条件で長く遊泳したときに回復に時間を要した。

75(6), 1369-1375 (2009)
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北太平洋における Neocalanus 属カイアシ類(N. cristatus および N. plumchrus)の理論ターゲットストレングス推定に必要な密度比,音速比の測定

松倉隆一(北大院環),
安間洋樹,宮下和士(北大フィールド科セ),
村瀬弘人,米崎史朗(日鯨研),
船本鉄一郎(水研セ北水研),
本田 聡(水研セ中央水研)

 Neocalanus 属カイアシ類の理論ターゲットストレングス(TS)を推定するため,海水との密度比 g,音速比 h を測定した。N. cristatusN. plumchrusg の範囲は 0.997~1.009, 0.995~1.009 で体長との相関はみられなかった。一方 h は 1.006~1.021, 1.013~1.025 の範囲で水温による変化がみられた。採集深度における水温,塩分,深度から計算した g, h を用い,DWBA モデルにより周波数 38, 120, 200 kHz における理論 TS と体長の回帰式を得た。

75(6), 1377-1387 (2009)
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アメリカイタヤガイにおける EST 由来一塩基多型の特性

李 栄華,李  琪,孔 令鋒(中国海洋大水産学院)

 4968 のアメリカイタヤガイの EST 配列から 3905 の SNP を推定し,tetra-primer ARMS-PCR 法により 30SNP を調べ,17 が多型,マイナーアリル頻度が 0.016~0.484 であった。BLASTX 検索では 16 が高いヒットを示し,11 がコード領域に存在し全て同義置換であった。SNP の頻度変異を明らかにするため,EST データセット分析により最適コドン表を推測した。その結果,コドン使用率の選択が部分的に coding SNP の二つのアリル頻度に差異をもたすことが示唆された。
(文責 原 素之)

75(6), 1389-1400 (2009)
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サンゴ域と海草藻場が離れすぎると,フエフキダイ属 5 種は海草藻場を成育場として利用しないのか

中村洋平(高知大院黒潮),
堀之内正博(島根大汽水セ),
佐野光彦(東大院農),澁野拓郎(水研セ養殖研)

 フエフキダイ属のいくつかの種では,稚魚と成魚はそれぞれ異なった場所(前者は海草藻場,後者はサンゴ域)に生息することが知られている。そこで,両生息場の距離の違いがフエフキダイ属 5 種の稚魚の海草藻場利用パターンに与える影響を調べた。沖縄県石垣島と西表島の 3 海域において,サンゴ域に隣接する海草藻場とそうでない海草藻場でフエフキダイ属 5 種の稚魚の種数と個体数を比較したところ,少なくとも 2 海域で両海草藻場間に有意な違いは認められなかった。したがって,海草藻場とサンゴ域が数 km 以上離れていても,海草藻場はフエフキダイ属 5 種の成育場として有効であることがわかった。

75(6), 1401-1408 (2009)
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タイ国トラン県の連続海草藻場と断片化海草藻場間における魚類群集構造の違い

堀之内正博(島根大汽水セ),
Prasert Tongnunui(RUT),
南條楠土(東大院農),中村洋平(高知大黒潮),
佐野光彦(東大院農),小河久朗(北里大海洋)

 タイ国トラン県において,断片化した海草藻場と連続した海草藻場の魚類群集構造を調べたところ,種の多様性は前者で顕著に高く,また,どちらか片方の海草藻場のみに出現した種が存在することなどの違いがあることがわかった。これは,断片化海草藻場にはより多様なマイクロハビタットが存在することや,それらの相対量が海草藻場間で異なることなどに起因すると思われた。本調査域においては断片化海草藻場で魚類の種多様性がより高くなっていたとはいえ,人為的攪乱によるハビタットの断片化は容認すべきではないことは明らかである。

75(6), 1409-1416 (2009)
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日本海北部におけるベニズワイガニの深度分布

養松郁子,廣瀬太郎,白井 滋(水研セ日水研)

 籠網漁業による漁獲圧が低い,日本海北部の北海道南西部沖ならびに西津軽海盆において桁網によりベニズワイガニを採集し,その結果を漁獲圧の高い大和堆(既報)と比較した。北海道南西部沖の水深 1800 m 以深に甲幅 40 mm 以上の未成体個体が高密度に分布し,雄は成長しながら,雌は成熟脱皮後に,それぞれ浅場へ移動することが示唆された。雌の抱卵量は大和堆の結果と同様に水深が深いほど少なく,これらが漁業の影響ではないことが示唆された。西津軽海盆では水深 2000 m 以深での採集がなく,これらの傾向は明瞭ではなかった。

75(6), 1417-1429 (2009)
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ティラピアのカラムナリス症制御におけるニラ油の天然抗菌性物質としての有用性

Pongsak Rattanachaikunsopon, Parichat Phumkhachorn
(Ubon Univ., Thailand)

 ティラピアのカラムナリス症に対するニラ油の抗菌活性を調べた。ニラ油にはニンニクやタマネギなどのネギ科の植物と同様に数種の diallyl sulfides を含有し,in vitro における Flavobacterium columnare に対する抗菌性は DTS および DTTS が強かった。F. columnare による攻撃試験の結果,ニラ油の添加量に依存して生残率は高くなり,天然の抗菌性飼料添加物としての有用性が示唆された。
(文責 舞田正志)

75(6), 1431-1437 (2009)
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マダイ筋形質画分から得たセリンプロテアーゼが血液に由来する可能性

吉田朝美,ベ・インウ(長大院生産),
園田裕子(長大水),曹 敏傑(中国集美大),
橘 勝康,長富 潔,原 研冶(長大水)

 コラーゲン分解は魚肉軟化現象の原因の一つとして知られている。著者らはマダイ筋形質画分より,ゼラチン分解活性を持つセリンプロテアーゼを精製し,N 末端アミノ酸配列 32 残基を決定した。本酵素の SDS-PAGE(還元下)における分子量は 38 kDa であった。さらに,マダイ血清より精製した本酵素と同様の性質をもつタンパク質の N 末端アミノ酸配列 10 残基は,筋形質画分由来の本酵素のものと一致した。従って,本酵素は血液に存在し,魚体の死後,血液から筋肉へと移行して筋肉タンパク質の分解に関与することが示唆された。

75(6), 1439-1444 (2009)
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コイおよびスケトウダラミオシンのトランスグルタミナーゼによる分子内架橋に関わるグルタミン残基の同定

埜澤尚範,江蔵麻衣(北大院水)

 コイ普通筋ミオシンにトランスグルタミナーゼにより蛍光性アミンを取り込ませ,各種消化断片の解析から,アミンがミオシン重鎖サブフラグメント 2 領域の 520 番目の Gln に特異的に取り込まれることを明らかにした。スケトウダラ肉糊の場合も,アミンは,ほぼ特異的に Gln(520)に取り込まれ,この領域がミオシンの二量体形成に必須であると推察された。スケトウダラでは,他にライトメロミオシンの C 末端領域にも反応性 Gln の存在が推定され,この僅かな相違が四量体以上の架橋反応に関与している可能性が考えられた。

75(6), 1445-1452 (2009)
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フナ卵から得られたシステインプロテアーゼインヒビターの性状について

Shinn-Shuenn Tzeng, Hui-Chun Wu, Wen-Chieh Sung,
Chien-An Liu(Chia-Nan Univ. Pharm. Sci., Taiwan)

 ヨーロッパフナ卵から 2 種のシスタチン(cst-Iおよび cst-II)を単離した。分子量はそれぞれ還元条件下で 11.9 k および 14.4 k であった。pH 4 から 11 の間で酵素阻害活性の低下は認められず,パパイン,カテプシン L およびブロメラインを阻害したが,カテプシン B やトリプシンを抑制しなかった。cst-Ⅰの N 末端配列は NH2-AGIPGGLVDADINDADVQ であり,コイのシスタチンと 88.9% の相同性を有した。この 2 種の cst 阻害物質はファミリー 2 シスタチンに含まれるものと考えられた。
(文責 潮 秀樹)

75(6), 1453-1460 (2009)
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ウナギ筋肉から精製された新奇蛍光タンパク質

林 征一,戸田佳文(鹿大水)

 著者等は遊離筋細胞を蛍光実体顕微鏡で観察している際,筋細胞の中に緑色蛍光を示す細胞が存在する事を発見した。筋肉から精製した蛍光物質は,分子量 16.5~17 kDa の単量体タンパク質であった。タンパク質の吸収スペクトルは,オワンクラゲ GFP と類似しフラボプロテインとは異なった。本タンパク質は Native PAGE 後その蛍光を検出出来たが,SDS-PAGE 後蛍光は検出出来なかった。著者等はウナギ筋肉から得られた蛍光タンパク質は新奇 GFP 様タンパク質であると推測した。

75(6), 1461-1469 (2009)
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ベッコウガサの β-アラノピン脱水素酵素とタウロピン脱水素酵素の cDNA クローニングと構造比較

遠藤紀之(北里大海洋,電中研),
松浦央人,菅野信弘(北里大海洋)

 ベッコウガサの β-アラノピン脱水素酵素(β-AlDH)とタウロピン脱水素酵素(TaDH)の cDNA をクローニングした。β-AlDH と TaDH の cDNA はそれぞれ 1,479 bp および 1,444 bp からなり,何れも 402 残基のタンパク質をコードしていた。両酵素は 96% のアミノ酸同一率を示し,N 末端から 275 残基は同一の配列であった。これらはダイダイイソカイメンの TaDH を除く海産無脊椎動物由来オピン脱水素酵素と相同性を示し,両酵素ともアヤボラのアラノピン脱水素酵素と最も高いアミノ酸同一率を示した。

75(6), 1471-1479 (2009)
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ティラピアフィレーの氷蔵中における血合筋およびミオグロビン画分の変色率に及ぼす酸・アルカリ前処理の影響

周 照仁,楊 景雍,李 佩芬(高雄海洋科技大),
落合芳博(東大院農)

 ティラピア皮むきフィレーを 5 % および 10% 乳酸(LA)あるいは 10% 炭酸ナトリウム(SC)水溶液で前処理して氷蔵し,血合筋およびミオグロビン(Mb)画分の変色率の変化を,メト化率および色彩値を指標として追跡した。メト化率および a*値の増加速度は 10% LA で最も大きく,10% SC で最も小さかった。血合筋から調製した Mb 画分の変色率についても同様の pH 依存性がみられた。また,血合肉の変色は pH 6.3 以下で促進されること,SC 処理は変色の抑制に有効であることが認められた。

75(6), 1481-1488 (2009)
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養殖カンパチ筋肉の化学成分及びその肉の物性との関係

ディレンドラ・プラサド・タクール,森岡克司,
伊藤直也,和田瑞穂,伊藤慶明(高知大農)

 養殖カンパチ筋肉の化学成分と物性の関係を養殖ブリ筋肉との比較により調べた。カンパチ肉の破断強度は,ブリに比べて高く,その季節変動の割合も小さかった。筋肉の一般成分では,ブリ同様,脂質含量に季節的な変動が認められたが,その幅はブリに比べて小さかった。筋肉のコラーゲン含量は,通年,ブリよりも高い値を示した。また,筋肉の脂質含量およびコラーゲン含量ともに肉の硬さと相関が認められなかったことから,ブリ筋肉とは異なり,これらの筋肉構成成分は肉の物性に直接的には関与しないものと推察した。

75(6), 1489-1498 (2009)
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能登半島産あじのなれずしの微生物相と化学成分

久田 孝(海洋大),
谷辺礼子,森真由美(石川県水セ),
武 春美,道畠俊英(石川工試),
矢野俊博(石川県大),
高橋 肇,木村 凡(海洋大)

 能登半島東北部(奥能登地域)で製造された漬込期間の異なる(1.5~12 カ月)12 製品のあじのなれずし(あじのすす)について,微生物フローラ,有機酸,遊離アミノなどを検討した。乳酸菌数は 107 cfu/g,乳酸量は 23 mg/g 以上,pH は 4.4 以下で典型的な乳酸発酵食品であることが示されたが,長期漬込みされた製品では乳酸量が高く,乳酸菌数は低い値であった。耐酸性の乳酸菌として Lactobacillus plantarum,また耐塩性酵母として Debaryomyces hansenii が分離された。

75(6), 1499-1506 (2009)
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