Fisheries Science 掲載報文要旨

日本市場における魚種間の代替補完関係及びこの資源管理上の意義

阪井裕太郎,八木信行(東大院農),
有路昌彦,髙原淳志(アミタ持続可能経済研),
黒倉 壽(東大院農)

 近年,我が国で消費される主要なマグロ類に関する漁獲規制が強化されており,これに伴い,マグロ及び関連する魚類の我が国における消費動向に変化が生じる可能性がある。本研究では,計量経済学における非定常時系列分析の理論に基づき,このような日本の水産物市場における魚種間の需要の代替補完関係を AIDSECM により分析し,その結果カツオがマグロの強い代替材であることなどが示された。これらの結果は,資源管理を行う際に,市場における代替補完関係への考慮も重要である点を示唆していると考えられる。

75(5), 1079-1087 (2009)
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カラモートエビ Melicertus kerathurus の北東大西洋と地中海への分布は近年である

Rosalia Pellerito, Marco Arculeo (Univ. Palermo, Italy),
Francois Bonhomme (Univ. Montpellier II, France)

 地中海 9 地点,東部大西洋 2 地点で採取したクルマエビの 1 種(Melicertus kerathurus)計 173 個体についてミトコンドリア DNA の COI 遺伝子部分領域(494 bp)の塩基配列を決定し,集団遺伝学的解析を行った。全標本の塩基多様度(π)は 0.00275,ハプロタイプ多様度(h)は 0.718 であった。有意な集団分化(Fst=0.194)が検出されたが,地中海―大西洋標本間という地理的区分での分化ではなかった。地中海集団は氷期後に大西洋から再移住してきたものと推定される。
(文責 張 成年)

75(5), 1089-1095 (2009)
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夏眠期と活動期におけるマナマコ Apostichopus japonicus の住み場選択

山名裕介(北大院水),浜野龍夫(水大校),
五嶋聖治(北大水)

 マナマコの夏眠場の選択に関る要因を明らかにするため,住み場の価値(角度・照度・接触面積)が付着位置によって異なる実験装置内で,付着位置に対する選択性を観察した。結果,夏眠期においてマナマコは負の走地性,負の走光性,正の走触性を備え,これらの選択性に従って行動することが明らかとなった。さらに,これら 3 つの条件を全て満たす住み場でない限り,夜間に活発に移動し,夏眠場にはならないことが示唆された。

75(5), 1097-1102 (2009)
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カレイ類におけるマガレイのマイクロサテライト DNA の増幅

金 相圭(国立水産科学院生命工学研,韓国),
森 島輝,荒井克俊(北大院水)

 マガレイで開発した 8 マイクロサテライト DNA マーカー座を他の 11 種のカレイ類で増幅した。スクリーニングの後,3 種(イシガレイ,スナガレイ,マコガレイ)の 8 座で検討した結果,1 から 22 のアレルを含む多型がみられた。He はイシガレイで 0.66~0.96,スナガレイで 0.62~0.96,マコガレイで 0.43~0.91 であった。マガレイのマイクロサテライトを挟む領域の塩基配列に対する平均ホモロジーはイシガレイで 93.7%,スナガレイで 91.2%,マコガレイで 93.9% であった。

75(5), 1103-1107 (2009)
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マトフエフキ(フエフキダイ科)の定住性および日中の行動圏のサイズと空間配置

名波 敦,山田秀秋(水研セ西海水研)

 携帯式 GPS 受信機を使用して,マトフエフキの日中における行動圏のサイズと空間配置を調べた。150 m×200 m の調査域にみられた 21 個体を体側面の模様の違いによって個体識別し,4 つのサイズクラスに分けた。本種の日中における定住性は高く,行動圏の大きさは全長と有意な正の相関があった。同じサイズクラス同士の行動圏は互いに離れており,違うサイズクラス同士の行動圏は重なっていた。攻撃行動は同じサイズ同士で頻繁にみられた。本種の日中の行動圏は同じサイズクラスに属する個体に対するなわばりと考えられた。

75(5), 1109-1116 (2009)
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日本中部産コアマモの光合成に及ぼす温度の影響

阿部真比古(水研セ西海水研),
横田圭五(三重県農林商工部),
倉島 彰,前川行幸(三重大生物資源)

 室内培養したコアマモ実生を用い,5~35℃ の水温で培養しながら光合成活性を調べた。最大総光合成速度 Pmaxg は培養直後では 35℃ で最大となったが,培養 6 日目には 29℃ へ移行した。光補償点 Ic は培養期間中,30℃ で急激に増加した。30~35℃ では培養期間中に草体が脱色・枯死した。5~29℃ では草体の光合成活性に大きな影響は与えなかった。コアマモの高温限界水温である 29℃ は高温側の分布限界と一致し,これまで報告のあるアマモと同様に光合成特性と分布限界との関連性が示唆された。

75(5), 1117-1123 (2009)
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ゴンズイの摂餌活動リズム

笠井聖仙,山本 司,北迫宏一郎,清原貞夫(鹿大理工)

 ゴンズイの摂餌活動を調べるため,本種の摂餌活動(餌箱に入る回数)と摂餌量を明暗サイクルでの自由摂餌下で調べ,さらに異なる光条件下で給餌制限を行なったときの摂餌活動を測定した。自由摂餌では夜行性の摂餌活動を示し,明暗サイクル下の明期での制限給餌では,給餌時刻前後に摂餌活動がみられた(摂餌予知活動)。この摂餌予知活動は恒明条件下でも継続し,その活動の平均周期は 24.0 h であった。以上の結果は,ゴンズイは夜行性の摂餌活動リズムを示し,この摂餌活動は制限給餌時刻に同調することを示している。

75(5), 1125-1132 (2009)
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超音波テレメトリーによるメバルの回帰,固執および日周移動

三田村啓理(京大院情報),
内田圭一,宮本佳則(海洋大),
荒井修亮(京大院情報),柿原利治(海洋大),
横田高士,奥山隼一,河端雄毅,安田十也(京大院情報)

 2004 年 6 月から 7 月まで京都府舞鶴湾で,メバル 3 個体の回帰,固執と日周移動を超音波テレメトリーで調べた。捕獲地点から 80~120 m 離れた地点に放流した。全個体が放流時間に関係なく夕暮れに各捕獲地点へ回帰した。深度センサ付の 1 個体は,放流直後は鉛直移動を繰り返した。その後,海底付近を遊泳して回帰した。回帰後の全個体の行動圏は小さく,1~2 個のコアエリアを有した。1 つは昼夜ともに使用されたが,他方は主に夜間に使用された。深度センサ付の 1 個体は,昼間は岩の隙間の深度を使用したのに対して,夜間は表層から深場まで使用した。

75(5), 1133-1140 (2009)
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シロクラベラ人工種苗における耳石微細構造の形成様式

山田秀秋(水研セ西海水研),
千村昌之(水研セ北水研),
浅見公雄,佐藤 琢,小林真人,名波 敦(水研セ西海水研)

 日齢既知のシロクラベラ仔稚魚を用いて耳石(礫石)分析を行い,微細輪紋数がふ化日を基準とした日齢と一致することを明らかにした。耳石および標準体長の相対成長(対全長比)を調べたところ,仔魚期を終える頃に屈曲点が認められ,同時に耳石輪紋間隔が最大値に達した。着底マークは確認されなかったものの,耳石輪紋間隔が最大となる時の日齢は,天然海域で採集した稚魚の浮遊期間の指標になると考えられた。耳石径―体長関係も着底期の前後で大きく変化したため,耳石径を用いた体長の逆算には注意を要することが判った。

75(5), 1141-1146 (2009)
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様々な塩分環境に馴致したウナギにおける鰓塩類細胞の形態変化

徐 美暎,李 慶美,金子豊二(東大院農)

 脱イオン水(DFW),淡水(FW),30% 希釈海水(DSW)および海水(SW)に馴致したウナギで,鰓塩類細胞の形態変化を免疫染色と走査電顕を用いて調べた。Na/K-ATPase 免疫陽性の塩類細胞のうち,鰓弁上の細胞が SW 群で最も発達し,2 次鰓弁の塩類細胞は DFW 群で発達が顕著であった。低張環境(DFW, FW)の塩類細胞では頂端膜が平らもしくは僅かに膨らんだ形態を示した。等張(DSW)・高張(SW)環境では頂端膜がピットを形成し,海水型塩類細胞の指標となる CFTR の発現が見られた。

75(5), 1147-1156 (2009)
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中華人民共和国湖北省におけるシラウオ科の一種 Neosalanx taihuensis の成熟と産卵

Wang Bao Gong, Hong Tao Li, Shou Qi Xie,
Jia Shou Liu (Chinese Academy of Sciences),
Brian R. Murphy (Virginia Polytechnic Institute and State Univ., USA),
Song Guang Xie (Chinese Academy of Sciences)

 中国湖北省の Tian-e-zhou 湖において,2006 年 3 月から 2007 年 11 月にかけてシラウオ科ヒメシラウオ属の一種 Neosalanx taihuensis を採集し,産卵期を調べた。その結果,本種は春季(1 月下旬~5 月中旬)と秋季(9 月下旬~11 月初旬)の年 2 回,産卵することが明らかとなった。春季に産まれた雌は,その年の秋季に産卵したあと,翌春にも産卵して死亡することが示唆された。春季産卵雌の抱卵数,生殖腺体指数,肥満度は,2006 年よりも 2007 年において増大した。
(文責 佐野光彦)

75(5), 1157-1165 (2009)
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ヒラメに貧血症をおこすディクリドフォラ科単生類 Neoheterobothrium hirame の起源

良永知義,堤 信幸,Kathryn A. Hall,
小川和夫(東大院農)

 1990 年中頃より日本近海のヒラメに出現した寄生虫 N. hirame の起源を明らかにするため,北米東岸において,southern flounder の同属未同定種(以下,N. sp. PL と略記)と summer flounder の N. affine を採集し,日本の N. hirame との間で,形態の比較と ITS1-5.8S RNA-ITS2 と mt COI 領域の塩基配列の比較を行った。その結果,N. hirame は,形態的にも塩基配列にも N. sp. PL と実質的差が無く,一方,N. affine とは明らかに異なっていた。この結果から,N. hirameN. sp. PL と同種であり,近年北米から日本に持ち込まれたことが明らかとなった。

75(5), 1167-1176 (2009)
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瀬戸内海,燧灘カタクチイワシ仔魚の成長率と水温,餌量,体サイズの関係

銭谷 弘,河野悌昌(水研セ瀬水研),
塚本洋一(水研セ西海水研),
益田玲爾(京大フィールド研セ)

 瀬戸内海中央部,燧灘で採集したカタクチイワシ仔魚の成長率 ĝ (mm day-1),体重当たり成長率 Ĝ (d-1)と水温,餌量指数 C (d-1),体サイズの関係を耳石成長解析により検討した。C はカイアシ類との遭遇・捕食成功範囲で構成される個体ベースモデルで計算した。ĝ は体長増加,C の減少に伴い減少した。Ĝ は水温上昇,カタクチイワシ個体重量増加に伴い減少し,C の増加に伴い増加した。ĝ, Ĝ は水温よりも C,体サイズに依存していた。燧灘におけるカタクチイワシの成長予測には,水温のみならず,C,体サイズも考慮しなければならない。

75(5), 1177-1188 (2009)
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富山湾におけるシラエビ雌の繁殖生態

南條暢聡(富山県水産漁港課),大富 潤(鹿大水)

 富山湾産シラエビの雌について,成熟サイズ,産卵時期,幼生孵出時期,抱卵数を調べた。標本は,シラエビ漁場内において漁船と調査船を利用して通年採集した。抱卵個体の最小体長は 47.7 mm であった。雌の抱卵率は,体長が大きくなるにつれて高くなり,57.9 mm になるとその割合は 50% に達した。抱卵個体は調査期間中常に出現したが,孵化直前の胚を有する雌は 10~5 月に多くみられた。また,秋から冬における孵化直前の胚の数は春よりも多い傾向がみられた。一方,産卵直後の胚を有する雌は主に 4~7 月と 10~1 月に多く出現した。

75(5), 1189-1195 (2009)
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東京湾域におけるウナギ Anguilla japonica とヨーロッパウナギ A. anguilla の回遊履歴

新井崇臣(東大海洋研),茅野尚子(北里大),
小竹 朱(東大海洋研)

 耳石の Sr:Ca 比から東京湾域で採集したウナギ A. japonica とヨーロッパウナギ A. anguilla の回遊履歴を推定した。ヨーロッパウナギの成長段階は銀ウナギで,海洋生活期を除く生活史に沿った Sr:Ca 比は一貫して低かったことから,降海回遊を始めた直後の個体と判断された。一方ウナギは,河口ウナギあるいは海ウナギと判断された。ただし,淡水生活期間は個体ごとに大きく異なっていた。以上のことから,これらのウナギは沿岸域に接岸後,様々な塩分環境に適応して過ごしていることが明らかになった。

75(5), 1197-1203 (2009)
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低塩分は発芽直前のアマモ種子内炭水化物異化に影響を及ぼす

杉浦裕幸(三重大院生物資源,赤塚植物園),
廣江陽子(赤塚植物園),
鈴木智子(岡山大院自然科学),
前川行幸(三重大生物資源)

 発芽前後のアマモ種子中のデンプン粒分布を電顕,組織化学により観察し,デンプンおよび糖質の量的変動を生化学的に分析した。天然海水中では,デンプン数・量が発芽時に顕著に減少し,本葉形成時期に糖質量が増加した。この増加は本葉の光合成によると推定された。天然海水中よりも低塩分水中で,種皮開裂前のデンプン数・量がより早く減少し,それに伴い糖質量が有意に増加した。したがって,種皮開裂前の炭水化物異化は下胚軸の貯蔵デンプンに大きく依存し,低塩分が炭水化物異化に干渉することによって種皮開裂を早めると考えられた。

75(5), 1205-1217 (2009)
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北オーストラリアからインドネシアに生息する 2 種のフエダイ個体群の年齢,成長,死亡率

Gary C. Fry, David A. Milton (CSIRO, Australia)

 北オーストラリア(NA)と東インドネシア(EI)に生息する 2 種のフエダイ Lutjanus erythropterus (LE), L. malabaricus (LM) の生活史の違いを検討した。最大年齢は,それぞれ 42 歳と 48 歳であった。成長は NA より EI の方が速く,種によっては地点による成長の差も認められた。死亡率は 0.09~0.16 year-1 と低かった。両種は熱帯のフエダイに典型的な長寿命,低死亡率の同様の生活史を示したが,成長が異なることから,資源管理はそれぞれの個体群に応じて行うべきである。
(文責:松石 隆)

75(5), 1219-1229 (2009)
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クルマエビのキモトリプシン様プロテアーゼのクローン化と発現解析

Threechada Danwattananusorn,近藤秀裕,
青木 宙,廣野育生(海洋大院)

 ペプチドグリカンにより刺激したクルマエビの肝膵臓より,キモトリプシン様プロテアーゼ(Mj chy)部分配列を 5'SAGE 法により得た。次いで,タンパク質コード領域の配列を決定したところ 219 アミノ酸をコードしていることが予想された。Mj-chy の発現は肝膵臓,胃および腸で検出された。さらに,クルマエビの免疫関連組織である血球,リンパ様器官あるいは肝膵臓における Mj-chy の発現についてペプチドグリカンによる刺激に対する応答を調べたところ,いずれの組織においても遺伝子発現の増加が検出された。

75(5), 1231-1238 (2009)
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アカハタ仔稚魚の形態発育

川辺勝俊(都小笠原水セ),河野 博(海洋大)

 アカハタの初期形態発育を飼育下で観察した。体長 5 mm までにハタ類に特徴的な腹腔背面,第 2 背鰭棘と腹鰭棘の先端および尾柄部の黒色素胞が出現した。主な黒色素胞と頭部棘および顎歯の発現は,脊索末端部の上屈が完了した体長 7 mm までに確認された。鰭条数が定数に達した体長 14 mm になると,稚魚の体側に横帯の形成が始まった。体長 40 mm 以降は,主な頭部棘は消失する一方で体表の黒色素胞が発達して 5 本の横帯が明瞭になるとともに,体形,色彩とも成魚とほとんど変わらなくなった。

75(5), 1239-1251 (2009)
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飼育条件下におけるチャイロマルハタ稚魚の共食いに及ぼす魚体サイズと選別効果

竹下 朗(長大院生産,黒瀬水産),
征矢野 清(長大海セ)

 チャイロマルハタの稚魚期に発生する共食いを,異なるサイズの稚魚を用いて観察したところ,それは全長 30 mm 前後において活発であるが,40 mm 以上では不活発であった。またその行動は,噛み付き,飲み込み,窒息の 3 タイプに分類された。サイズ選別による共食い行動抑制効果を調べたところ,全長 40 mm 以上の稚魚ではサイズ選別による効果が認められる傾向を示したものの,30 mm までの稚魚では噛み付きによる共食いが多く発生し,これまで有効とされているサイズ選別では完全に共食い行動を抑制することは出来なかった。

75(5), 1253-1258 (2009)
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マガレイの形態異常発現の感受期におけるドコサヘキサエン酸要求

佐藤敦一(道栽水試,海洋大院),
高谷義幸(道栽水試),竹内俊郎(海洋大)

 マガレイの形態異常発現の感受期(D~E ステージ,ワムシ・アルテミア併用給餌期)におけるドコサヘキサエン酸(DHA)要求量について,形態正常率を指標に検討した。15 日齢の仔魚(体長 6.0 mm, D ステージ)を用いて E ステージまで DHA 含量の異なるワムシとアルテミアを給餌し,その後は変態完了まで市販強化剤で強化したアルテミアを全実験区に給餌した。その結果,D~E ステージの DHA 要求量(乾燥重量換算)は,ワムシで 1.7~3.2%,アルテミアで 1.4~2.8% と推定され,餌料の DHA 強化による形態異常防除効果は,ワムシの方がアルテミアより優った。

75(5), 1259-1266 (2009)
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コウライエビの成長に関連する SCAR マーカーについて

Yuying He(青島海洋大学,中国),
Ping Liu(中国科学技術院),
Jian Li(中国科学技術院),
Qingyin Wang(中国科学技術院)

 成長形質の異なる養殖コウライエビ(Fenneropenaeus chinensis)ついて SCAR 解析を行った。RAPD 法を用いて多型断片のスクリーニングを行った結果,成長形質と関連する 9 つの RAPD マーカーを得た。得られた RAPD マーカーの配列から SCAR 解析用のロングプライマーを設計し,6 つのプライマーセットを得た。これらのうち,多型を示す 2 種類のプライマー候補を得た。これらは,成長形質の多型検出の候補となることを示した。
(文責 廣野育生)

75(5), 1267-1274 (2009)
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ティラピア Oreochromis niloticus 初期配合飼料における食品廃棄物を用いた魚粉代替の検討

Gabriel G. Bake,遠藤雅人(海洋大),
秋元淳志(日配),竹内俊郎(海洋大)

 ティラピア仔魚を 5 種の配合飼料(D1:魚粉主体,D2:20% を食品廃棄物リサイクル原料(FIW)で代替,D3:10% を FIW, 10% を醤油粕(SSW)で代替,D4:20% を FIW およびトリプトファンで代替,D5:22% を SSW で代替)で 70 日間飼育した。その結果,D3 区は最も良好な成長を示した。また,トリプトファンを添加した D4 区は添加しなかった D2 区と比較し,高い体重増加を示した。これらの結果から食品廃棄物の混合利用や不足アミノ酸添加の有効性が示され,魚粉削減が可能であることが示唆された。

75(5), 1275-1283 (2009)
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乳酸菌によるメガイアワビ消化管内への定着性およびプロバイオティクス効果

家畠俊平,稲垣直史,奥西将之,中野みよ,
田中礼士,前田広人(三重大院生資)

 分離乳酸菌の in vitro でのアワビへの有用性評価試験および in vivo での投与乳酸菌の消化管内への定着性ならびにプロバイオティクス効果試験を行った。In vitro 試験の結果,2 株の乳酸菌(Lactobacillus sp. a3 株,Enterococcus sp. s6 株)が胆汁塩・人工胃液に対する高い抵抗性,アワビ魚病原因菌の高い生育阻害を示した。これら 2 株について In vivo 試験を行った結果,a3 株は宿主消化管内定着性を示すとともに,宿主消化管内の消化酵素,有機酸の増加が確認された。これらの結果から,アワビ消化管内への乳酸菌の定着およびプロバイオティクス効果が初めて示された。

75(5), 1285-1293 (2009)
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集団飼育カレイ目マツカワ,Verasper moseri,の自発摂餌活動における個体別特性

須沼俊和,天野勝文(北里大海洋),
山野目 健(岩手水技セ),山森邦夫(北里大海洋)

 マツカワの自発摂餌飼育の基礎知見を得るために,集団飼育下での個体別特性を調べた.屋外の 6 水槽に自発摂餌用給餌機(1 回転当たり餌料が 3 粒落下)とスイッチを設置した.個体識別した 3~5 個体を収容し,週に 1 回 24 時間連続撮影した.摂餌を伴わない摂餌要求は皆無であった.摂餌要求は主に日出,日入り付近と夜間に観察された.3 水槽で摂餌要求回数に個体差があったが,全個体で体重が増加した.以上より,集団自発摂餌飼育したマツカワは,摂餌要求回数に個体差があっても順調に成長することが示唆された.

75(5), 1295-1300 (2009)
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中国におけるヒゴイの成長関連形質に母性および父性遺伝効果の評価

Cheng-Hui Wang, Jun Wang (Shanghai Ocean University, China),
Song-Ping Xiang (Provincial Farm of Oujiang Color Common Carp),
Yao-Ping Lv (Lishui College in Zhejiang),
Jian Wang, Xiao-Zhen He (Provincial Farm of Oujiang Color Common Carp),
Si-Fa Li (Shanghai Ocean University)

 混合遺伝モデルである完全なダイアレル交配をヒゴイ Cyprinus carpio L. 3 変種,C. carpio. var. singuonensis, C. carpio var. wuyuanensis および C. carpio var. color を用いて実施し,成長関連形質に及ぼす親および直接的(相加および優性)遺伝効果を解析した。孵化後 20 ヶ月目において,魚体重,体高,体幅および尾柄高において母性分散が有意であり,父性分散は全長のみで有意であった。C. carpio var. wuyuanensis の雌および C. carpio var. color は雌雄とも親魚として用いることが適当であった。一方,C. carpio var. singuonensis は最も親魚として適していなかった。
(文責 家戸敬太郎)

75(5), 1301-1305 (2009)
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カゼイン飼料に添加した大豆のサポニンとレクチンおよびタウロコール酸がニジマスの腸管組織および胆のう胆汁塩に及ぼす影響

岩下恭朗,鈴木伸洋(東海大院),
松成宏之,杉田 毅,山本剛史(水研セ養殖研)

 大豆油粕主体飼料を給与したニジマスの直腸組織変性の原因を明らかにするため,大豆サポニン(S),大豆レクチン(L)およびタウロコール酸(C)を単用あるいは併用添加したカゼイン飼料の影響を検討した。C 無添加の S 添加区では粘膜上皮に大型空胞変性がみられ,S と L を併用添加した区では粘膜固有層の増生も認められた。S や L に C を併用添加した区ではこれらは改善した。以上のことから,大豆油粕給与時の粘膜固有層の組織変性は S と L の相乗作用によるものであり,胆汁塩の強化によりこれらの変性は改善することが示唆された。

75(5), 1307-1315 (2009)
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マダイ筋肉中に存在するゼラチン分解酵素の性状

吉田朝美,ベ インウ(長大院生産),
園田裕子(長大水),
増尾隆一,尾田祥恵(長大院生産),
曹 敏傑(中国集美大),
長富 潔,原 研冶(長大水)

 マダイ筋肉より 4 種類のゼラチン分解酵素を部分精製し,その性状を明らかにした。Q-Sepharose を用いて分画した結果,G1 (90 kDa), G2 (65 kDa), G3 (60 kDa), G4 (100 kDa) が検出された。G1 と G4 は,阻害剤の影響と基質特異性からセリンプロテアーゼ,一方 G2 と G3 は,EDTA と o-phenanthroline により阻害され,APMA により活性化されたことからメタロプロテアーゼであると推察された。これらゼラチン分解酵素の至適 pH は 7~9,至適温度は 20~40℃ であった。

75(5), 1317-1322 (2009)
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天然および養殖トラフグ筋肉の脂肪酸組成

小泉鏡子,平塚聖一(静岡水技研)

 天然及び養殖(国産及び中国産)トラフグ 110 尾について,筋肉の脂質成分を比較するとともに,餌料と養殖魚の脂質成分の関係について検討した。C16:0, C16:1n-7, C20:4n-6 などの脂肪酸で,天然魚と養殖魚で有意差が認められた。さらに,C18:2n-6 など複数の脂肪酸において餌料と養殖魚の間に相関がみられたことから,トラフグ筋肉の脂肪酸組成は餌料の影響を受けている可能性が示唆された。天然魚,国産養殖魚及び中国産養殖魚の脂肪酸は明らかに異なる組成をしており,脂肪酸組成が判別の 1 つのツールになる可能性が示唆された。

75(5), 1323-1328 (2009)
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光学バイオセンサーと固定化酵素シリコン膜を用いた魚血漿中の総コレステロール測定

遠藤英明,郝 俊紅,舞田正志,林 哲仁,
任 恵峰,日比香子(海洋大)

 シリコーンゴムの疎水的特性を利用して,魚血漿中の総コレステロールを定量するための光学バイオセンサーを製作した.本システムは,固定化酵素シリコーンゴム膜,光学酸素プローブ,フローシステム等より構成されている.本センサーを用いて魚血漿中の総コレステロール濃度の測定を行ったところ,ブリでは 55~85 mg dl-1,ニジマスでは 20~90 mg dl-1 の範囲でそれぞれ定量が可能であった.一検体の分析所要時間は 3 分以内であり,5℃ に保存した酵素膜は 58 日間に渡って安定した測定が可能であった.

75(5), 1329-1336 (2009)
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数種頭足類の外套膜コラーゲンの熱水溶解性

水田尚志,田中孝英,横山芳博,
吉吉二(福井県大生物資源)

 5 種頭足類(スルメイカ,ケンサキイカ,アオリイカ,コウイカ,テナガコウイカ)の外套膜筋肉より粗コラーゲン繊維(アルカリ抽出残渣)を調製した。これに含まれるコラーゲンはいずれの種についても 40~90℃ の温度域における 30 分間の加熱で 47.0% 以下の溶解度を示し,37.5~42.5℃ 付近で変性した後においても熱水抽出に対する抵抗性をよく維持することが分かった。

75(5), 1337-1344 (2009)
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