下田 徹(水研セ西海水研),藤岡義三(国際農研セ), チュンポン・スリトン,チティマ・アユタカ (タイ・カセサート大) |
エビ養殖池とマングローブエンクロージャーとの間で水を循環させるモデル実験行った。1 万尾のエビがポンド 1 と 5 に,2 万尾のエビがポンド 2 に収容され,476 本のマングローブがポンド 3,4 に植林され,毎週木曜日,ポンド 2 と 5 の約 30% の水がエンクロージャー(ポンド 3 と 4)に移動され,月曜日に同量がエビ養殖池に戻された。窒素収支から 2.1 または 5.2 単位面積のマングローブ域が養殖池に残存している窒素を処理するのに必要であると概算された。
ワラウート クードプラン(ラジャマンガラ工科大学), ウタイラト ナナコーン(カセサート大学), 中嶋正道,谷口順彦(東北大院農) |
マイクロサテライト DNA マーカーを用いて,ハタ類 8 種における遺伝的多様性評価を行った。平均アリル数,平均ヘテロ接合体率,集団の有効サイズは他の海産魚で報告されている値と比べてやや低い値を示した。E. ongus を除く全ての種において,種特異的アリルが観察された。一方,同一アリルに固定していた E. bleekeri と E. maculatus の Em-03*157 はシーケンスの結果 119 番目の塩基が T と C に分岐していた。この結果は種間の類縁関係を示す樹形図に影響を与えた。種間の類縁関係を調べる際にはホモプラシーの影響を考慮する必要がある。
奥村誠一(北里大水),荒井克俊(北大院水), 張ヶ谷圭恭,江口浩崇,酒井瑞穂, 仙北屋浩亮(北里大水), 古川末広(マリーン開発),山森邦夫(北里大水) |
エゾアワビ三倍体の効率生産を目指して,安全・安価なカフェイン処理による三倍体の誘起を試みた。受精後 12 分から 24 分間,10 または 15 mM カフェインで受精卵を浸漬処理したところ,着底後 6 日から 11 ヶ月の稚貝において 91 から 100% の高い三倍化率が得られた。さらに三倍化処理群中に二倍性および三倍性の細胞が混在する着底後の生存性モザイク個体をアワビ類で初めて見出した。
嶋田幸典(福井県大生物資源), 鹿野隆人(ウィンザー大学グレートレイクス研究所), 村上直人(水研セ北水研),津崎龍雄(水研セ玉野セ), 青海忠久(福井県大生物資源) |
ヒラメの初期発育における母性効果の変動を調べるために,4×4 の総当り交配により 16 家族を作出した。それぞれの仔稚魚は受精卵から変態完了まで共通環境条件下で飼育し,成長形質の母性効果および遺伝率を推定した。母性効果は孵化直後に高く,孵化後 30 日齢で消失した。一方,遺伝率は変態完了までを通して比較的高い値で推移し,大きな変動を示さなかった(全長:0.14±0.06,体高:0.10±0.05)。これらのことから,ヒラメの初期発育は,母性効果だけでなく遺伝的要因にも影響されることが示唆された。
黄普奎,古澤昌彦(海洋大),尾形正樹(古野電気) |
高周波数・多周波音響システムの較正法を開発すると共に,検証実験を行った。6 周波においてターゲットストレングス(TS)の変動が小さい標準球の大きさをタングステンカーバイドの半径 1 mm に決定し,標準球較正を実施し,この方法が,多周波システムにも容易かつ精度よく行えることを確認した。
また,非常に小さい TS の金属球を用いて動物プランクトンを模した擬似散乱体群を設計製作し,多周波システムによる計測を行い,実際の散乱体の分布密度と多周波インバース(MFI)法による推定結果を比較し,MFI 法の検証と必要なパラメータの特性を検討した。
安住 薫(北大),中村真司(愛媛大), 北村真一,鄭 星珠(全南大), 金平圭介,岩田久人,田辺信介,鈴木 聡(愛媛大) |
近年,韓国の養殖場にてマボヤの致死的な病気が蔓延している。著者らは原因解明の一助として,病気と病気でないマボヤの各組織における有機スズ化合物の蓄積量と,魚病ウイルスの 1 種ビルナウイルスの感染状態を調べた。その結果,韓国養殖場のマボヤの各組織から高濃度の有機スズ化合物の蓄積およびビルナウイルスの潜伏が検出された。しかしながら,いずれの場合も病気の有無による違いは認められず,少なくとも有機スズ化合物およびビルナウイルスは本病の直接的な原因ではないと考えられた。
久保田仁志,土居隆秀(栃木水試), 山本祥一郎(水研セ中央水研),渡邊精一(海洋大) |
遺伝的に純粋なイワナ在来個体群の特定を目的として,河川内における遺伝的集団構造を mtDNACyt-b 領域の塩基配列と 8 遺伝子座のマイクロサテライト多型に基づき解析した。支流群および既放流水域の mtDNA ハプロタイプ頻度を比較したところ,河川毎に共通のハプロタイプが認められ,いくつかの支流では単型であった。既放流水域と残りの支流では,複数のハプロタイプが認められた。共通のハプロタイプで単型だった集団は,在来個体群だと考えられ,この特定結果は,マイクロサテライトの解析結果からも支持された。
Hasan Fazli,張 昌翼,Douglas Edward Hay, 李 春雨(釜慶大), Ali-asghar Janbaz (Ecol. Faculty of the Caspian Sea), Mohammad Sayad Borani (Guilan Fish. Res. Center) |
カスピ海における水位変動やクラゲ侵入が主要漁獲対象種である anchovy kilka の個体群生態や資源重量に与えた影響を評価した。漁獲物の年齢組成,体長-体重関係,成長パラメータ,肥満度,性比,成熟段階,自然死亡・漁獲死亡,漁獲開始年齢および産卵親魚量を推定した。自然死亡係数は 0.473/年,漁獲死亡係数は 0.541-2.690/年であった。資源重量は 1996 年の約 18 万 6 千トンから 2004 年の 1 万 2 千トン以下へと減少した。近年の高い漁獲率は持続的ではなく,乱獲が資源崩壊を説明する 1 要因である。
(文責 白木原 国雄)
鬼塚年弘,河村知彦(東大海洋研), 大橋智志(長崎水試),堀井豊充(水研セ中央水研), 渡邊良朗(東大海洋研) |
殻長約 500,800,1200 μm のトコブシ初期稚貝に 4 種類の付着珪藻を摂食させ,摂食行動の観察と成長速度の測定を行った。殻長 800 μm 未満では,摂食させた珪藻種間で初期稚貝の成長速度に大きな差は認められなかったが,それ以降は成長速度が有意に異なった。殻長 800 μm 未満の初期稚貝は珪藻が分泌する粘液物質を,それよりも大きな初期稚貝では珪藻の細胞内容物を主な栄養源とすると考えられた。各珪藻の餌料価値は,珪藻の付着形態や細胞殻の強度により異なり,初期稚貝の成長に伴って変化した。
堀 正和(水研セ瀬水研),野田隆史(北大院環) |
エゾバフンウニ種苗育成海域を擁する岩礁海岸おいて,エゾバフンウニ天然個体と種苗個体への鳥類捕食量とその季節変異を調べた。その結果,ハシボソガラスが年間約 36 kgww/ha,カモメ類が年間約 100 kgww/ha のエゾバフンウニを捕食し,カラスの捕食量には明瞭な季節変異が見られた。またカラスは潮間帯タイドプール内の天然個体を捕食したのに対し,カモメ類は育成海域内の種苗個体を選択的に捕食した。カモメ類が種苗個体を選択的に捕食した原因について,いくつかの仮説が考察された。
山本昌幸(香水試),富永 修(福井県大生物資源) |
瀬戸内海の大浜海岸でヒラメ稚魚,アラメガレイ,ヒメハゼの日間摂餌量と餌生物密度の日周変動を調べた。胃内容物重量指数と摂餌率の昼夜比較から,3 魚種は日中に摂餌することがわかった。ヒラメとヒメハゼはアミとエビジャコを,アラメガレイは主にアミを摂餌していた。ヒラメ(平均体重:0.35 g),アラメガレイ(0.13 g),ヒメハゼ(1.03 g)の平均日間摂餌量はそれぞれの平均体重の 18.1%,13.2%,3.7% であった。底層のアミの出現量は日中に高く,夜間に低くなった一方,エビジャコの出現傾向はこの逆となった。
Helen S. Marcial(東大院農),萩原篤志(長大水) |
出生後 24 時間以内のミジンコをエストラジオール 17β(E2)と 4-ノニルフェノール(4-NP)に曝露した。曝露濃度は E2 が 0~1000 μg/L,4-NP が 0~50 μg/L(いずれも LC50 値の 1/4 以下の濃度)とした。このとき化学物質に曝露したミジンコを親世代とし,直接曝露していない子世代から曾孫世代までの計 4 世代を 25℃ 下で個体別飼育した。ミジンコを E2 に曝露すると,無添加の場合に比べて産仔開始令が早くなると共に,総産仔数も多くなった。化学物質に直接曝露していない F1 と F2 世代でも同様の傾向がみられた。またミジンコを 1,10 μg/L の 4-NP に曝露した場合にも産仔数の増加が親世代のみに確認された。
土井 航,Than Than Lwin,横田賢史, Carlos Augusto Strussmann,渡邊精一(海洋大) |
東京湾のケブカエンコウガニの性成熟,性的 2 型および繁殖について調査した。成熟脱皮は,雌では腹節,雄では鉗脚と歩脚長節の相対成長によって示され,それぞれ未成熟・成熟群に分離できた。性的 2 型は 2 次性徴を示したすべての形質でみられた。交尾は春に集中すると推定され,卵巣はその前後から発達し始めた。抱卵雌は 12 月を除くすべての月で出現したが,特に多く出現したのは 8 月から 10 月であった。卵巣内卵数は 7,800~57,000 粒で甲長と高い相関があり,1 個体の雌の年間産卵回数は 1 回以上と推定された。
服部 努,成松庸二,伊藤正木,上田祐司, 藤原邦浩(水研セ東北水研八戸), 北川大二(水研セ北水研) |
東北太平洋海域のキチジの資源量は,豊度の高い 1999~2002 年級群の加入により増加した。本研究では,1996~2004 年における本種の成長を調べた。1999 年級群は 3 歳,2000~2002 年級群は 2 歳で成長が悪くなり,これらの年級群は 1993~1998 年級群より小さかった。2~4 歳魚において,豊度と平均体長の間に負の相関が認められ,豊度が高い年級群の体長が小さくなっていた。また,キチジの主分布域の水温変化は小さかった。そこで,底生魚類群集およびキチジの食性の変化による成長への影響を考察した。
永田(藤原)恵里奈,江口陽子, 内海龍太郎,江口 充(近大農) |
V. anguillarum の Na+-NADH: quinone oxidoreductase (Na+-NQR)の転写制御を調べた。クローニングした Na+-NQR は 7 kb で,6 つの ORF から成り,アミノ酸配列は他のビブリオ属細菌と 80% 以上の相同性を示した。nqrA の上流には 2 つのプロモーター(P1 と P2)が存在し,P1 は対数期から定常期にかけて恒常的に活性化した。P2 は,定常期でのみ活性化された。これは定常期特異的に働く P2 が V. anguillarum の栄養飢餓生残に貢献している可能性を示す。
体重 0.1~70 g のヒラメおよび 0.6~20 g のマダイを,水温 20℃,半止水式条件下でホウ素に 96 時間暴露した。いずれの魚種でもホウ素の 96 時間半数致死濃度(LC50 値)は供試魚のサイズの増加とともに直線的に増加した。また,急性毒性に対する水温の影響を,ヒラメでは 10~25℃,マダイでは 12~25℃ の範囲で調べた。体重 0. 6 gと 1.5 g のヒラメおよび体重 2.4 g のマダイでは水温上昇とともにホウ素の LC50 値は直線的に減少したが,体重 0.6 g のマダイでは水温の明確な影響は認められなかった。
嶋田幸典(福井県大生物資源), 村上直人(水研セ北水研),津崎龍雄(水研セ玉野セ), 青海忠久(福井県大生物資源) |
ヒラメ Paralichthys olivaceus の天然親魚由来および継代親魚由来の人工種苗を 10 家系(天然由来 7 家系,継代由来 3 家系)作出し,孵化後 94 日齢に 9 種の行動形質,高塩分耐性および 6 種の形態形質を測定し比較した。これらの形質について由来間の平均値の比較および由来ごとの遺伝率を推定した。その結果,継代由来は天然由来と比較して,成長が優れていたが生存に関わる逃避などの行動特性が劣っていた。これらのことから,種苗生産に用いる親魚は放流または養殖の目的によって配慮して使用すべきと考えられた。
早川 淳,河村知彦(東大海洋研), 堀井豊充(水研セ中央水研),渡邊良朗(東大海洋研) |
海藻 7 種と付着珪藻 3 種のサザエ浮遊幼生に対する着底誘引能を調べた。有節サンゴモの 1 種ヘリトリカニノテとテングサ類の 1 種マクサに,他の海藻や珪藻よりも有意に強い着底誘引能が認められた。枯死させたヘリトリカニノテとプラスチック製人工藻体を用いた実験により,藻体の形状は着底誘引因子ではなく,ヘリトリカニノテやマクサに含まれる化学物質がサザエ浮遊幼生の着底を誘起すると考えられた。有節サンゴモやテングサ類群落内にはサザエ稚貝が高密度に分布する要因の一つは浮遊幼生の着底基質の選択性にあることが示唆された。
田中庸介(水研セ遠洋水研), 郭 又皙(Gyeongsang Natl. Univ., Korea), 田中 克(京大フィールド研セ), 澤田好史,岡田貴彦,宮下 盛,熊井英水(近大水研) |
核酸比の変化から飼育条件下におけるクロマグロ仔稚魚の成長ポテンシャルを検討した。2002 年 8 月に近畿大学水産研究所大島実験場で生産されたクロマグロ仔稚魚を分析に用いた。核酸比の値はふ化後 13 日から 19 日までは 3.77 から 7.28(平均値)と緩やかに増加した,変態期終了時(ふ化後 21 日)には急激にその値が上昇し(19.11),その後も高い値を維持した。変態終了時における急激な核酸比の上昇は,稚魚期における高い体成長を支持するものと推定され,クロマグロ仔稚魚に特徴的なパターンであると考えられた。
細井公富,新里宙也,高木雅哉(京大院農), 田辺(細井)祥子(神戸大内海域環境教育研究セ), 澤田英樹,寺沢恵理,豊原治彦(京大院農) |
マガキタウリントランスポーター(oyTAUT)の cDNA クローニングおよび機能・発現解析を行った。oyTAUT は,脊椎動物タウリントランスポーター(TAUT)と比較して,タウリンに対して低い親和性と選択性を示し,そのタウリン輸送活性は高濃度の NaCl 要求性を示した。また,高・低浸透ストレスいずれによってもその mRNA 量が増加した。これらの機能・発現特性は,ムラサキイガイ TAUT とほぼ同様であることから,タウリンをオスモライトとして蓄積する軟体類の TAUT に共通するものであると推測された。
及川 寛(水研セ中央水研), 藤田恒雄(福島県水産事務所),齋藤 健(福島水試), 里見正隆,矢野 豊(水研セ中央水研) |
2002~2005 年の 4 年間にわたり福島県小名浜港でトゲクリガニ及びイシガニの麻痺性貝毒(PSP)蓄積を調べた。トゲクリガニは,ムラサキイガイの毒力が高い年には毒化個体が多く,肝膵臓部は最大で 85.3 MU/g の毒力を示した。PSP 成分のうち,弱毒成分の割合に大きな変化はなく,体内での変換が毒性に与える影響は小さいと考えられた。一方,イシガニの肝膵臓部にも PSP 成分を検出したが,最大毒性値は 7.4 MU/g であり,毒化個体数も少なく,小名浜港では両種の毒化レベルは大きく異なることが明らかとなった。
駒井 強,川端兆宏,東條博昭, 牛腸 忍(長谷川香料技研), 一島英治(創価大院工) |
スルメイカ(Todarodes pacificus)肝膵臓から 36 kDa のセリンカルボキシペプチダーゼを単離した。至適 pH 4.0 で C-末端が疎水性あるいは大きな側鎖のアミノ酸残基をもつ基質によく作用した。そのため末端に疎水性アミノ酸が存在する苦味ペプチドの苦味除去が可能と考え,大豆,カゼイン,コーンからペプシンなどにより苦味ペプチドを作成して,本酵素による苦味除去を試みた。大豆ペプチドの苦味は完全に除去され,カゼインおよびコーンペプチドの苦味も大幅に低減された。
Gulsun Ozyurt, Yesim Ozogul, Caner Enver Ozyurt, Abdurrahman Polat, Fatih Ozogul (Cukurova Univ. トルコ), Cengiz Gokbulut (Adnan Menderes Univ. トルコ), Beyza Ersoy, Esmeray Kuley (Cukurova Univ. トルコ) |
トルコにおける有用魚パーチの氷蔵中の官能評価,化学的変化(pH, TVB-N, K 値)および微生物学的変化(総菌数)に及ぼす 3 種の漁獲法の影響について調べた。刺し網のものでは 15 日目まで,延縄,銛のものでは 22 日目まで食用可と判定された。貯蔵当初のイノシン酸含量は刺し網のもので 2.4 μmol/g(延縄,銛ではそれぞれ 4.1 および 16.7 μmol/g)と有意に低かったが,K 値は銛で捕獲されたもので 24.4%(延縄,刺し網ではそれぞれ 57.7 および 64.4%)と有意に低かった。官能検査および総菌数からは,延縄が最も優れた漁獲法であることが示唆された。
(文責 落合芳博)
鄭 森雄,姚 政源,陳 彦樺, 林 子詠,鐘 岳穎(台湾海洋大) |
コイ,ソウギョ,ハクレン,テラピアの血液及び赤血球における Zn 濃度を調べた。これら魚種の全血 Zn 濃度(~6~14 μg/mL)は,他の魚種やほ乳類のものとほぼ同じであった。しかし,コイ赤血球の Zn 濃度は他の 3 魚種の約 2 倍(~5 vs.~2 μg/mL)であった。すなわちコイ血液中の約 70% は赤血球由来であり,さらに約 40% は細胞膜に分布していた。消化器由来 43 kDa Zn 結合タンパク質に対する抗体を使った免疫染色により,細胞膜上における同結合タンパク質の存在が示唆された。
(文責 村本光二)
糸井史朗,池口弘毅(東大院農), 金庭正樹,桑原隆治,大原一郎,石田典子, 山下倫明(水研セ中央水研),渡部終五(東大院農) |
ヒラメを 10,15 および 25℃ で,マダイを 8 および 23℃ で 4~5 週間飼育後,FoF1-ATPase の質的および量的変化を調べた。その結果,飼育温度の低下に伴いヒラメの FoF1-ATPase 比活性では有意な変化は認められなかったがマダイでは上昇した。また,単位ミトコンドリア・タンパク質量当たりの本酵素を構成する α-および β-サブユニット量は,両魚種とも各飼育温度間で有意な差は認められなかった。一方,単位筋組織重量当たりの本酵素 β-サブユニット量は,両魚種ともに飼育温度の低下に伴い増大した。
家戸敬太郎(近大水研,わかやま産業振興財団), 高木優嘉(近大水研),田丸 浩(三重大生物資源), 秋山真一(わかやま産業振興財団), 小西隆文(理研 CDB・発生ゲノミクス), 村田 修,熊井英水(近大水研) |
日本において重要な養殖魚であるマダイ Pagrus major のゲノム DNA ライブラリーより β-アクチン遺伝子をクローニングし,緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子の上流に β-アクチン遺伝子翻訳領域の 5′側断片を,下流に SV40 あるいは β-アクチン遺伝子翻訳領域の 3′側の poly A シグナル配列を連結した組換えプラスミドをそれぞれ構築した。これらのプラスミドをマダイ受精卵にマイクロインジェクションした結果,マダイ β-アクチン遺伝子を 5′側および 3′側の両方にもつものがマダイ胚において最も強い GFP 発現を示した。
片山 茂,佐伯宏樹(北大院水) |
糖修飾による魚貝類ミオシンの水溶化メカニズムを明らかにするため,ミオシンロッドのフィラメントの形成能と生理的塩濃度下における溶解状態を調べた。グルコース修飾によってコイとホタテガイのミオシンロッドは 0.1 M NaCl に可溶化したが,糖修飾の進行にともないフィラメント形成能は弱まり,フィラメントは崩壊した。不溶性フィラメントのサイズは水溶化に伴って小さくなり,やがて単量体として存在した。以上の結果から,糖修飾によるミオシンの水溶化がフィラメント形成能の喪失に起因すると推定した。
Zissis Tzikas, Ioannis Ambrosiadis, Nikolaos Soultos, and Spyridon Georgakis (Aristotle Univ. of Thessaloniki, Greece) |
北エーゲ海産の地中海アジ Trachurus mediterraneus の魚体状態の季節変動を,2001~2005 年の 4 年間にわたり旋網漁業により採集した試料を用いて統計学的に解析した。魚体サイズは季節ごとに著しく変動し,体長および体重は春季と晩秋に最大となった。本研究の結果を既報のデータと比較した結果,地中海アジの魚体サイズの変動は地中海域とエーゲ海域で同様に起きており,地域間での差異は小さいことが分かった。これはアジの魚体状態の変化が,その再生産サイクルに関連して起こるためと考えられる。魚体の筋肉量は季節間で 23.33~33.07% の間で変動したが,季節内での変動は顕著ではなかった。
(文責 尾島孝男)
マリア・オルテガ-ビライザン・ロモ, 池田 実(東北大院農),有瀧真人(水研セ宮古セ), 鈴木重則(水研セ北水研),谷口順彦(東北大院農) |
マツカワとホシガレイの mtDNA には 61 bp を単位とする直列重複数の変異(mtVNTRs)が存在することが知られている。この VNTRs の遺伝マーカーとしての有効性を調べるため,雌雄一対交配から得られた子供と両親を比較した。その結果,ヘテロプラズミーを示した雌親の場合には,ハプロタイプの一部しか子供にみられない場合やそれぞれのハプロタイプの増幅量が著しく異なる場合があった。したがって,両種の集団遺伝学的分析において mtVNTRs を使用することは不適当と考えられた。
山野目健(岩手水技セ), 天野勝文,阿見弥典子,高橋明義(北里大水) |
我々は最近,白色水槽飼育がカレイ目マツカワの無眼側黒化防止に有効であり,これにメラニン凝集ホルモン(MCH)が関ることを報告した。本研究はこの現象がヒラメでも認められるか否かを調べた。平均全長 5.6 cm のヒラメ稚魚を白色および黒色水槽にそれぞれ 15 尾ずつ収容し 5 ヶ月間飼育した。その結果,白色水槽飼育魚の方が黒色水槽飼育魚よりも無眼側黒化面積率が低く,脳内 MCH 濃度は高かった。すなわち,ヒラメでも白色水槽飼育が黒化防止に有効であることが判明した。また,この現象への MCH の関与が示唆された。
荒川久幸(海洋大),渡部俊広(水研セ水工研), 森川由隆(三重大) |
餌に対する反応行動実験からイシダイのコントラスト閾値を求めた。実験水槽内に目標物(直径 5 mm のスルメイカ片)と黒色板を設置し,両者の見かけのコントラストを 13.6 から 0.008 の範囲で設定した。摂餌成功率は目標物の見かけのコントラストが 13.6 のとき,92% であったが,コントラストの減少とともに低下した。イシダイのコントラスト閾値は 0.036 付近にあると判明した。
Jinn-Rong Hseu (Fish. Res. Inst.), Pao-Sheng Shen (Tunghai Univ.), Wen-Bin Huang (Natl. Hualien Univ. of Edu.), Pung-Pung Hwang (Academia Sinica, Natl.Taiwan Univ.) |
ハタ科魚類 Epinephelus lanceolatus の種苗生産を不安定化させる要因として共食いがある。共食い確率の推定と共食い防止のためのモデル作成のために幼魚を用いた水槽実験を行った。その際,捕食者となりえる大型個体と小型個体の全長比が 1.20 から 1.80 となるようにした。このデータを用いて,共食い確率を捕食個体と被食個体の全長比,被食個体の全長,捕食個体の全長で説明するためのロジスティック回帰分析を行った。変数選択の結果,前 2 者が選ばれた。捕食者はより小型の個体を嗜好することが分かった。
(文責 白木原国雄)