Fisheries Science 掲載報文要旨

ベトナムにおける淡水エビ養殖の現状と展望(総説)

Nguyen Thanh Phuong, Tran Ngoc Hai,
Tran Thi Thanh Hien, Tran Van Bui,
Do Thi Thanh Huong, Vu Nam Son
(カントー大水産養殖),諸岡慶昇,福田 裕,
マーシー・ワイルダー(国際農研セ)

 ベトナムのメコンデルタでは,ブラックタイガーおよびナマズ類が養殖産業の中で重要な位置を占めている。しかし,近年,淡水性オニテナガエビが注目され,水田での養殖が小規模農家の生活水準の向上に貢献してきた。1990 年代の養殖オニテナガエビの年間生産量は 3,000 トン以下であったが,安定的な種苗生産技術の定着に伴い,2002 年には生産量が 10,000 トン以上へ急増している。本総説では,淡水エビ養殖の急速な成長を支えている技術開発の経緯および技術移転の社会経済的評価を紹介すると共に,その将来を展望する。

72 (1), 1-12 (2006)
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ニホンウナギプレレプトケファルスの消化管形成過程の微細構造学的観察

尾崎雄一(北大院水),
田中秀樹,香川浩彦,太田博巳(水研セ養殖研),
足立伸次,山内晧平(北大院水)

 人為催熟を施したニホンウナギ親魚から得られたプレレプトケファルスを用い,消化管の電子顕微鏡観察を行った。消化管は孵化直後では卵黄嚢の背側にのみ認められ,単層の上皮細胞から構成されていた。孵化後 3 日目には消化管は伸長し,前腸部および中腸部,5 日目にはさらに後腸部の分化が認められた。7 日目以降は各上皮細胞において形態学的変化は認められず,7 日目までにレプトケファルスと同程度まで分化することが示された。給餌を施した個体の後腸部の上皮細胞では,餌料の吸収と思われる細胞膜の陥入および空胞が観察された。

72 (1), 13-19 (2006)
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ミトコンドリア DNA 分析に基づくヨーロッパアナゴの遺伝的分化の証拠

A. T. Correia (Centro Interdis. Invest. Mar. Ambient.),
R. Faria, P. Alexandrino
(Centro Invest. Biodiv. Rec. Genét. Univ. do Porto),
C. Antunes, E. J. Isidro (Univ. dos Açores),
J. Coimbra (Univ. do Port)

 北東大西洋域の重要資源であるヨーロッパアナゴ(Conger conger )の集団構造解明のために,6 地点から得られた 40 個体について,mtDNA 調節領域 432 bp の塩基配列を決定した。30 サイトの変異から,28 のハプロタイプが検出された。地域標本内の平均塩基配列差(1.3~4.2%)は,地域標本間のそれ(1.4~3.6%)とほぼ同程度であったが,一部の集団間に統計的に有意な分化が検出され,複数集団の存在が示唆された。しかし分析標本数はまだ少なく,今後,より多くの標本の分析が必要である。
(文責 西田 睦)

72 (1), 20-27 (2006)
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サケ卵の水カビ病に対する次亜塩素酸ナトリウムの防除効果

C. Khomvilai,柏木正章,C. Sangrungruang,
吉岡 基(三重大生物資源)

 ふ化場で飼育中の受精から発眼期までのサケ卵を残留塩素濃度 10 mg/L の次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaOCl)で毎日 15 分間処理した。その結果,飼育 23 日目の発眼卵の水カビ感染率は,処理卵が 1.8~33.4%,無処理の対照卵が 11.3~59.3% で,前者の方が低かった( p<0.01)。発眼率はそれぞれ 85.9~98.6% および 66.1~97.5% で,処理卵の方が高かった( p<0.01)。すなわち,NaOCl はサケ卵の水カビ病発生を有効に防除した。

72 (1), 28-32 (2006)
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マツカワにおける親魚管理のための DNA マーカーを用いた個体間の遺伝的類縁関係評価法の検討

マリア・デル・マル・オルテガ-ヴィライザン・ロモ
(東北大院農),鈴木重則(水研セ厚岸),
中嶋正道,谷口順彦(東北大院農)

 マツカワにおける放流種苗の遺伝的多様性維持のために種苗生産に関与した親魚数とその家系割合を推定する必要がある。マイクロサテライト DNA を用いた個体間の遺伝的距離を 3 種類の方法で算出し,さらに 3 種類の判別法を用いて個体間の遺伝的距離から人工種苗中の家系判別を試みた。個体間の遺伝的距離はいずれの手法でも血縁係数と正の有意な相関を示した。また,個体間の遺伝的距離をアリル共有度あるいは遺伝的類似度で算出し,枝分かれ図を作成するか PRT 法で家系を判別する方法が人工種苗中の家系判別に有効であることが示された。

72 (1), 33-39 (2006)
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観賞魚取引に対する新たな熱帯魚供給方法

D. Lecchini(琉球大院理工),S. Polti(CRIOBE),
中村洋平(琉球大院理工),
P. Mosconi(Aquarium de Canet),
土屋 誠(琉球大院理工),
G. Remoissenet(Service de la péche),
S. Planes(CRIOBE, UMR 8046 EPHE-CNRS)

 現在,観賞魚取引で問題視されている毒薬による魚類採集の解決策として,新たな熱帯魚供給方法が求められている。本論文では,網によって採集した仔魚を水槽内で成育させてから出荷するという方法を提案する。この方法の利点としては,(1) 採集時における魚類や環境への悪影響が少ない,(2) 品質管理が容易である,(3) 人工餌料による飼育が成魚と比べて容易である,様々な種やサイズを市場に提供できる,などが挙げられる。また,フレンチポリネシアを例に本方法が経済的に継続維持できる可能性を示唆した。

72 (1), 40-47 (2006)
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ホシガレイの種苗放流事業における再捕魚の親子鑑定

マリア・デル・マル・オルテガ-ビライザン・ロモ
(東北大院農),有瀧真人(水研セ宮古),
谷口順彦(東北大院農)

 ホシガレイの放流種苗の追跡調査を実施した。2002 年に生産された放流種苗および 2002 年から 2004 年に採集された再捕魚のマイクロサテライト(ms)DNA マーカーのアリル型を判定した。親魚のアリル型との対比により,個々の再捕魚に対し親子鑑定を実施した。放流魚集団の有効サイズはおよそ 8 と著しく低かった。放流種苗および再捕魚の平均アリル数と平均へテロ接合体率はほとんど差異が見られなかった。再捕魚の家系構成から,放流当初は生残率に家系差のあることが示唆されたが,その後,生残率に家系間差がなくなったものと考えられた。

72 (1), 48-52 (2006)
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クロマグロ成魚の海域による体サイズの違い

伊藤智幸(水研セ遠洋水研)

 クロマグロ成魚の延縄とまき網による漁獲物の体長組成を,日本近海,台湾近海,西部太平洋低緯度海域,南半球の海域間で比較した。中型成魚(尾叉長 160~209 cm)は日本近海で,大型成魚(210 cm 以上)は台湾近海で,小型成魚(120~159 cm)は日本海で一部の年に,それぞれ多く漁獲されていた。低緯度海域と南半球では中型成魚と大型成魚がわずかに漁獲されていた。中型成魚の体長組成は日本の各地で一致していた。クロマグロ成魚は,加齢に伴って産卵期が早くなり,産卵海域や分布・回遊が変化すると考えられた。

72 (1), 53-62 (2006)
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超音波測位システムとオーブコムブイを用いたまぐろ延縄漁具水中 3 次元形状の計測

宮本佳則,内田圭一,折井玲子,温  震,
塩出大輔,柿原利治(海洋大)

 これまで延縄漁具の敷設形状の把握は,小型メモリ式水深計で釣針の設置深度を測定し,その後シミュレーションにより敷設状況を推定する研究が行われてきた。しかしながら,枝縄のふかれの問題などから,実際の操業形態での漁具の海中 3 次元形状の把握が必要となっている。

 本研究では,一般に水中生物の行動調査に用いられる超音波測位システムと,通信衛星を用いたオーブコムブイを併用してまぐろ延縄の 3 次元水中形状測定を試み,その変化をリアルタイムでモニターすることができた。今後の技術的改良で高精度測位への可能性を示唆した。

72 (1), 63-68 (2006)
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北西太平洋におけるミンククジラのヒゲ板中安定同位体比変動

三谷曜子(京大院農),坂東武治(日鯨研),
高井則之,坂本 亘(京大院農)

 北西太平洋におけるミンククジラの摂餌履歴を推定するため,ヒゲ板成長層毎に炭素(δ13C)・窒素(δ15N)安定同位体比分析を行い,餌生物の値と比較した。ヒゲ板中 δ15N には 1~2 カ所の谷状部が見られ,これらは初夏におけるオキアミから魚への餌変化によるものと示唆された。ヒゲ板成長速度は 129 mm/年と計算され,ヒゲ板には 1.4 年の摂餌履歴が記録されていると考えられた。一部の未成熟個体のヒゲ板先端部において δ15N が高くなっていたことから,δ15N 分析は離乳直後の個体と,それ以降の未成熟個体を分ける有用な方法であると考えられる。

72 (1), 69-76 (2006)
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FISH (Fluorescence in situ hybridization) 法を用いた有毒渦鞭毛藻 Alexandrium tamarense および A. catenella の迅速同定法の開発

田辺(細井)祥子,左子芳彦(京大院農)

 麻痺性貝毒の原因となる有毒渦鞭毛藻 2 種の同定・識別を目的として,rRNA 標的プローブを用いた FISH 法を確立した。本法を用いた蛍光染色により,これら有毒種の培養株および天然細胞を正確に同定することが可能であった。また,本法は特別な技術や機器が不要で,実験工程は極めて簡便であり,30 分で同定可能な手法であった。これらの迅速性・簡便性は,麻痺性貝毒のモニタリングにおける FISH 法の有用性を示すものであり,実際の現場海域への応用が期待された。

72 (1), 77-82 (2006)
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異なるタンパク質と脂質含量の飼料による Sciaena umbra の飼育

S. Chatzifotis, A. V. Martin-Prat, N. Limberis,
N. Papandroulakis, P. Divanach(Institute of Aquaculture,
National Center for Marine Research)

 Sciaena umbra のタンパク質要求量の基礎データを得るため,平均体重 78.8±15.8 g の S. umbra に等エネルギー,異なるタンパク質/脂質比の飼料(①HPLF52/8,②MPMF42/14,③LPHF31/23,④HPLF+LPHF)を自発給餌し,77 日間の飼育試験を行った。①と②区の魚は③区の魚よりも顕著に高い成長率および飼料効率を示した。④の魚の成長は①と類似していたが,飼料効率は著しく高かった。各区の肥満度および比肝重値に差異はなかった。S. umbra の肝臓に脂質が多く含まれていることから,肝臓がエネルギーの蓄積器官であると判断された。
(文責 竹内俊郎)

72 (1), 83-88 (2006)
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天然ヒラメの脳と脳下垂体における 3 種類の GnRH の分布

Ky Xuan Pham,天野勝文,阿見弥典子(北里大水),
栗田 豊(水研セ東北水研),山森邦夫(北里大水)

 ヒラメの生殖内分泌機構の解明を目的として,成熟期直前の 6 月と未熟期の 1 月に天然ヒラメをサンプリングし,脳と脳下垂体における 3 種類の生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)量を比較した。脳下垂体にはタイ型 GnRH 量がサケ型 GnRH とニワトリⅡ型 GnRH よりも多く存在した。タイ型 GnRH 量は,終脳,視床下部と脳下垂体において成熟期直前に有意に高かった。以上より,タイ型 GnRH 量がヒラメの性成熟を制御することが示唆された。

72 (1), 89-94 (2006)
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ドイツ湾におけるカレイ科魚類ダブの中規模空間分布解析:使用漁具の相違は解析に影響を与えるか?

Vanessa Stelzenmuller (Univ. of Oldenburg),
Siegfried Ehrich (Federal Inst. Of Seafisheries),
Gerd-Peter Zauke (Univ. of Oldenburg)

 北海沖合の風車設置が魚類の空間分布に与える影響は異なる漁具を用いて評価されてきた。カレイ科魚類ダブのドイツ湾での空間分布に焦点をあて,漁具の相違が分布解析に与える影響を空間統計学を用いて見積もった。約 200 個の風車の設置面積に相当する海域でビームトロールとオッタートロールを用いた漁獲実験が行なわれた。漁獲データに空間的な自己相関が認められた。効率の高い漁具の使用は,空間構造の分解能を高めるが,必ずしもナゲットの変動性を弱めなかった。対象種の豊度と使用漁具の効率がこの評価に重要である。
(文責 白木原国雄)

72 (1), 95-104 (2006)
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安定同位体比による汽水湖におけるヤマトシジミの食性の推定

笠井亮秀,豊原治彦,中田晶子(京大院農),
三浦常廣(島根内水試),東信行(弘前大農)

 炭素と窒素の同位体比を用いて,異なる環境を持つ三つの汽水湖におけるヤマトシジミの餌料を調べた。水の交換率が大きく生産の低い十三湖では,上流側のヤマトシジミの同位体比は低く,下流側では高かった。これは上流側では陸起源有機物を多く同化し,下流側では海産植物プランクトンに依存していることを示している。一方水の交換率が小さく生産の高い小川原湖や宍道湖では,湖内で増殖した植物プランクトンが餌資源として重要であることが分かった。

72 (1), 105-114 (2006)
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スッポン Pelodiscus sinensis に対するリドカイン HCl-NaHCO3 の麻酔薬としての効果

In-Seok Park, Sung Hwoan Cho, Jun Wook Hur
(Korea Maritime Univ.),
Gyeng-Cheol Choi
(Chung Chong Buk-Do Inland Fish. Exp. Station),
Sung-Yong Oh, Dong Soo Kim(KORDI),
Jae-Seong Lee(Hanyang Univ.)

 異なる温度で飼育したサイズの異なるスッポン Pelodiscus sinensis に対するリドカイン HCl-NaHCO3 濃度の影響について調べた。その麻酔効果は,飼育温度が高いほど,濃度が高いほど,またスッポンのサイズが小さいほど,短時間で現れ,覚醒までに要する時間も,高温ほど,高濃度ほど,またサイズが小さいほど長かった。本研究の結果より,1000 ppm のリドカイン HCl-NaHCO3 の使用は,スッポンの運搬や取り扱いを容易にするものの,食用時にはその濃度が安全なレベルにまで低下していることが不可欠であると考えられた。
(文責:深見公雄)

72 (1), 115-118 (2006)
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魚類養殖場の生け簀から海底への有機物の沈降粒子束の季節変動

堤 裕昭(熊本県大環境共生),
Sarawut Srithongouthai(恵天),
井上晃宏,佐藤綾子(熊本県大環境共生),
濱 大吾(恵天)

 生け簀を用いた魚類養殖漁業では,大量の餌を消費するため,生け簀の海底に糞や残餌が沈降して有機汚泥の堆積を招くことが多い。この研究では,熊本県本渡市のマダイの養殖場で,セディメントトラップを用いて,海底への有機物の沈降粒子束の季節変動を調査した。魚類養殖場の海底直上における有機物の沈降粒子束は,年間平均で 2.11 gC/m2/day (TOC)に達し,養殖場外の値より約 2.5 倍高かった。また,生け簀での餌使用量の変化とは必ずしも一致せず,秋季に海水の鉛直混合が起きる時期に年間の最大値に達した。

72 (1), 119-127 (2006)
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ベニザケ 0 年魚スモルトの育成に必要な飼育条件

伴 真俊(さけ・ます資管セ)

 ベニザケ 0 年魚スモルトの育成に必要な飼育条件を把握するため,異なる日長と水温条件で飼育した幼魚における海水移行 24 時間後の血中ナトリウム濃度,鰓の Na, K-ATPase 活性,および鰭末端部の黒色素沈着を調べた。その結果,スモルト化は尾叉長が 8.5 cm を超えた群に,短日から長日への日長刺激が加わった時に惹起されることが明らかとなった。また,この過程は長日刺激により増加するチロキシンおよび成長ホルモンの影響を受けることが示唆された。さらに,一連の変化は高水温(11℃)より低水温(7℃)下でより明瞭に起きることが分かった。

72 (1), 128-135 (2006)
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LPS で刺激したトラフグリンパ球のアポトーシスと IgM 産生に及ぼすステロイドホルモンの影響

Saha Nil Ratan,末武弘章,菊池 潔,
鈴木 譲(東大院農水実)

 トラフグの末梢血,脾臓,頭腎から分離したリンパ球に対するステロイドホルモン処理によるアポトーシスや IgM 産生に及ぼす影響を調べたところ,コルチゾルによるアポトーシス誘導,IgM の mRNA 発現抑制のみが観察され,11 ケトテストステロン,エストラジオール 17β の影響は認められなかった。脾臓,頭腎のリンパ球に対する LPS 刺激は IgM の mRNA 発現を増大させたが,コルチゾルにより抑制され,コルチゾルが IgM 産生制御に大きな役割を演じていることが明らかとなった。

72 (1), 136-142 (2006)
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PCR-RFLP 分析による現在養殖されているノリの同定

二羽恭介(兵庫農水技総セ),有賀祐勝(東京農大)

 現在日本の各地で養殖されているノリ(Porphyra )の系統の迅速かつ信頼できる種の同定を容易にするため,葉緑体 DNA の RuBisCo spacer 領域と核 DNA の ITS 領域を用いた PCR-RFLP 分析により,ノリ糸状体 24 系統を調べた。その結果,全ての系統はナラワスサビノリと同定され,アサクサノリは見つからなかった。このことから現在日本で養殖されているノリの系統のほとんどはナラワスサビノリであり,盛んに選抜育種を進めた結果,ノリ養殖に利用されている株では遺伝的多様性が失われていることが確認された。

72 (1), 143-148 (2006)
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体温保持機構からみたクロマグロの温帯水域への適応

北川貴士,木村伸吾(東大海洋研),
中田英昭(長大水),山田陽巳(水研セ遠洋水研)

 1995~1997 年冬季に東シナ海でアーカイバルタグを装着したクロマグロ未成魚を放流した。回収された 23 個体の経験水温,腹腔内温度の時系列変化の解析を行った。体サイズの大きい個体ほど腹腔内温度と水温との差は大きくなる傾向にあったが,温度差の増大率は成長に伴い小さくなり,腹腔内温度は 35℃ を越えなかった。熱収支モデルにより,成長に伴い体の断熱性は増大するものの,その一方で発熱速度は減少することが示され,成長しても体温は致死温度には至らず,温帯域での活動を可能にしていると考えられた。

72 (1), 149-156 (2006)
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まだら模様の半数体-二倍体および二倍体-三倍体モザイクアマゴ

山木 勝(宇和島水高),山口 聰(愛媛大農),
荒井克俊(北大院水)

 野生型とアルビノ型の両方の色彩をもち,体表がまだらとなっている体色異常アマゴの血液,皮膚,鰭,脳および肝臓細胞の相対核 DNA 量を調査した。3 尾は二倍体(2n)であったが,8 尾が半数体-二倍体(1n/2n),1 尾が二倍体-三倍体(2n/3n)モザイクであったことから,まだら模様は倍数性モザイクと関係している可能性が示唆された。まだら魚のアルビノ遺伝子座における遺伝子型(野生型 AA または Aa,アルビノ型 aa )をアルビノ魚との交配子孫におけるアルビノ出現率から推定したころ,1n/2n 魚は半接合 a 半数体細胞と Aa あるいは AA 二倍体細胞とのモザイク,2n/3n 魚は aa 二倍体細胞と AAA, AAa または Aaa 三倍体細胞とのモザイク,2n 魚は aaAa 二倍体細胞からなる遺伝子型モザイクと考えられた。

72 (1), 157-165 (2006)
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ミクロネシア共和国チューク礁湖に生息するアイゴ 2 種の雌の生殖年周期と月周同調産卵

朴 龍柱,竹村明洋(琉球大熱生研セ),
李 栄敦(済州国立大海洋研)

 ミクロネシア共和国チューク礁湖に生息するハナアイゴとアミアイゴの生殖年周期と月周同調産卵を組織学的に調べた。ハナアイゴは 5~6 月に,そしてアミアイゴは 3 月と 7~9 月に発達した卵母細胞を有しており,これらの期間が繁殖期と考えられた。繁殖期に月齢に伴って採集した結果,ハナアイゴは下弦の月付近で,そしてアミアイゴは新月付近で産卵していた。沖縄近海に生息する両種の繁殖活性と比較した結果,繁殖期を規定する環境要因には地域差があるが,同調産卵は地域に関係なく月から得られる情報が重要であることが示唆された。

72 (1), 166-172 (2006)
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イスズミ肉のゲル化特性

大迫一史(長崎水試),
Mohammed Anwar Hossain(東大院農),
川島 茜(長大水),桑原浩一,岡本 昭(長崎水試),
野崎征宣,橘 勝康(長大水)

 藻場の食害魚であるイスズミ肉のかまぼこ原料適性を,2001 年 10 月から 2002 年 9 月に長崎沿岸海域で漁獲された試料を用いて調べた。イスズミ清水晒肉は冬季に若干低いかまぼこ形成能を示したものの,産卵期も高いゲル形成能を示し,60℃ での戻りの現象も漁獲時期に関わらず認められなかった。また,清水晒による明瞭なゲル形成能の増大効果は見られなかった。以上の結果より,イスズミ肉は高いゲル形成能を有し,周年かまぼこ原料として使用可能であることが明らかになった。

72 (1), 173-178 (2006)
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ヒラメのグルタチオンペルオキシダーゼ活性と脂質過酸化に対する植物発酵産物の餌料添加効果

芦田貴行,竹井祥人,高垣正博,松浦良紀(万田発酵),
沖増英治(福山大生命工)

 ヒラメは,植物発酵産物(FVP)を 4 週間経口投与して脂質過酸化抑制効果を検討した。血清と肝臓組織内のグルタチオン濃度は,FVP 投与魚において増加傾向を示した。FVP 投与魚では,肝臓のグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)活性が上昇し,6 mg/kg body weight/day の FVP を投与魚では,有意に( p<0.05)高い値を示した。一方,FVP 投与魚の血清と肝臓の過酸化脂質量は,有意に( p<0.05)低下した。FVP の投与は,魚類の抗酸化活性を高める事が示唆された。

72 (1), 179-184 (2006)
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分子種の異なる 2 種のコイカテプシン B の存在

Tan Yan(長大院生産),
長富 潔,野崎征宣,石原 忠,原 研治(長大水)

 コイ筋肉からカテプシン B を精製し,2 種の酵素(B1 と B2)を得た。両部分精製酵素(29 kDa)の N 末端アミノ酸配列(12 残基)は同一であり,ラットカテプシン B 重鎖の N 末端配列と 75%,ヒトと 83% の相同性を示した。遺伝子クローニングの結果,コイカテプシン B cDNA (1,470 bp)は 330 アミノ酸をコードする ORF (993 bp)で構成されていた。更に,このコイカテプシン B と 94.8% の相同性がある isoform の一次構造も決定された。このことからカテプシン B が少なくとも 2 種類存在する可能性が示唆された。

72 (1), 185-194 (2006)
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海産腹足類ベッコウガサアラニンラセマーゼの精製および性状

横山雄彦,三村祐磨(北里大水),
佐藤 実(東北大院農),長久英三(北里大水)

 海産腹足類ベッコウガサ筋肉に遊離 D-アラニンおよびアラニンラセマーゼ活性が認められた。精製アラニンラセマーゼの性状は,分子質量が 40.5 kDa の単量体と推定され,最適 pH は 9.0,D-および L-アラニンに対する Km 値は,それぞれ 20.4 および 43.0 mM,アラニンを特異的に基質とした。真正細菌アラニンラセマーゼの補酵素であるピリドキサール 5′-リン酸(PLP)の要求性は認められなかったが,PLP 酵素阻害試薬試験から,本酵素は PLP 酵素であると推察された。海産腹足類における知見は初めてである。

72 (1), 195-201 (2006)
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ミトコンドリア・シトクロム b 遺伝子の塩基配列に基づく日本産およびニューカレドニア産フウセンキンメおよびキンメダイの同定について

秋元清治(神奈川水総研),糸井史朗(日大生物資源),
瀬崎啓次郎(日冷検),
Philippe Borsa(IRD-Genetique des Populations),
渡部終五(東大院農)

 日本産フウセンキンメ 7 個体およびキンメダイ 45 個体の mtDNA シトクロム b 遺伝子 307bp の塩基配列を決定し,それぞれ 11 および 3 ハプロタイプを得た。これらを既報のニューカレドニア産キンメダイ A 種および W 種と最大節約法の系統樹で比較したところ,フウセンキンメと W 種,およびキンメダイと A 種は各単系統となり,両種はいずれも大きな地理的分布を示すことが明らかとなった。日本産個体のハロタイプのいくつかはニューカレドニア産のものと一致し,遺伝子フローが大海洋全域に渡る規模で生じていることが示された。

72 (1), 202-207 (2006)
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アユの新しいマイクロサテライト DNA マーカーの特徴(短報)

原 素之(水研セ養殖研),坂本 崇(海洋大),
関野正志(水研セ東北水研),大原健一(琵琶湖博),
松田宏典(岐阜淡水魚研),小林正裕(水研セ養殖研),
谷口順彦(東北大院農)

 アユ連鎖地図作製のために単離された 33 のマイクロサテライトの中から,天然集団解析用にあまり変異性が高くない 9 マーカー座について,両側回遊型と陸封型琵琶湖産アユ集団間及び両側回遊型アユの地域集団解析への有効性を検討した。9 座のうち 2 座で 2 型間に顕著な遺伝的違いが認められ,さらに異なる 2 座で両側回遊型アユの地域集団間に違いが認められた。すなわち,これらと既存マーカーとの組合せにより,琵琶湖産アユ種苗の在来河川への影響調査や両側回遊型アユの集団構造解析の高度化がはかられると考える。

72 (1), 208-210 (2006)
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フィルタリング処理を用いた浅海・閉鎖海域における超音波バイオテレメトリシステムによるカニの行動追跡の有効性(短報)

宮本佳則,内田圭一,折井麗子,
柿原利治,古澤昌彦(海洋大)

 海底地形などの障害物のある環境に生活のある小型の底生カニ類の行動生態は,多重反射のため音響的手法による追跡が困難であった。そこで,カニの移動速度を考慮しフィルタリング処理を行うことで,行動解析が可能でないかと考察した。実際に,超音波バイオテレメトリシステムを用いて,閉鎖的な浅海域におけるチチュウカイミドリガニ(Carcinus aestuarii )の行動追跡を試み,放流後から動きがなくなるまでの間,誤差範囲約 2 m 程度で行動を追跡する事ができた。

72 (1), 211-213 (2006)
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ワムシ餌料へのコバルト塩の添加効果(短報)

吉松隆夫(水研セ養殖研),
樋口貴大,張 東鳴(九大院農),
Norma R. Fortes(フィリピン大),
田中賢二(近大産理工),吉村研治(福岡裁セ)

 ワムシ餌料へのコバルト塩の添加効果を検討するため,硫酸コバルト 7 水和物を 0, 0.001, 0.01, 0.1 mg/mL の各餌料濃度で含むビタミン B12 無添加淡水クロレラ濃縮液 Chlorella vulgaris をワムシ Brachionus rotundiformis に至適量給餌し,塩分濃度 33,空気通気,30℃ の培養条件下で 3 日間のバッチ培養を行った。その結果,0.1 mg/mL の餌料添加濃度でコバルト塩を含む区の増殖が他の区より有意に勝った(P<0.05)。また,この 0.1 mg/mL 程度の餌料添加濃度では,ワムシの 3 時間あるいは 24 時間の生残に悪影響は認められなかった。

72 (1), 214-216 (2006)
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マコガレイの卵および仔魚に対するノニルフェノールの致死影響(短報)

久米 元,堀口敏宏,後藤晃宏,磯部友彦,
芹澤滋子,白石寛明,森田昌敏(環境研)

 マコガレイの卵および仔魚のノニルフェノールに対する急性毒性試験を行った。試験はコントロール,ソルベントコントロール,10, 30, 90, 270, 810, 2430 μL の設定濃度のもと,96 時間,止水式で行った。卵,仔魚ともに 90 μg/L で死亡率は有意に増大した。ただし,これは環境中で検出される濃度に比べ高すぎるため,今後は慢性毒性の影響等について考慮し調査を進める必要がある。

72 (1), 217-219 (2006)
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