Fisheries Science 掲載報文要旨

なぜタラの抗体産生能は低いのか? 遺伝学的な解釈(総説)

Lars Pilstrom(Uppsala Univ.),
Gregory W. Warr(Medical Univ. South Carolina),
Siv Stromberg(Uppsala Univ.)

 タラの免疫機構は特異抗体を産生できないという点で特殊である。本総説はタラが特異抗体を産生できない理由について,タラの免疫グロブリン遺伝子に関する研究結果から考察した。タラの免疫グロブリン重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の数,構造,構成,多様性および発現様式は他魚種のものと大きな違いはなく,このことから特異抗体を産生できない理由を説明することはできなかった。タラが特異抗体を産生できない理由について,主要組織適合抗原クラスII分子をコードする遺伝子が欠如していることが考えられる。
(文責 青木 宙)

71(5), 961-971 (2005)
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チラタ湖の養殖生簀下の水質変動と魚の生残に対するその影響

Irzal Effendie, Kukuh Nirmalaumar,
Hasan Saputra, Agus Oman Sudrajat,
Muhammad Zairin Jr.(ボゴール農大),
黒倉 寿(東大院農)

 インドネシアのチラタ湖において,網生簀養殖による養魚の大量斃死の前後で,水質の鉛直分布を調べた。大量斃死の 4 ヶ月前には,水深 8 m 層は還元的で無酸素状態であったが,大量斃死 4 日後には,8 m 層と 10 m 層は貧酸素状態ではあるものの,酸化的であり,上下層間で強い混合があったことがうかがわれた。8 ヵ月後に再び成層が形成され下層が還元状態になった状態でおこなった暴露試験では,8 m 層に固定した網生簀で飼育した魚のほとんどが 6 時間以内に死亡した。以上より,大量斃死は,急激で強い混合の結果,貧酸素水が上層にもたらされたために引き起こされたものと推測された。

71(5), 972-977 (2005)
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AIC を使用したモデル選択は大標本の CPUE 標準化に対して適切か?

庄野 宏(水研セ遠洋水研)

 水産資源解析におけるモデル選択指標として広く使用されている情報量規準 AIC は,大標本の場合にも偏りが生じることが知られている。大標本の場合に一致性と呼ばれる漸近的に望ましい性質を持つ情報量規準 BIC, HQ, CAIC を用いて CPUE 標準化を扱った分散分析モデルによるモデル選択を行ったところ,AIC とこれらの規準ではモデル選択結果の違いが見られた。大標本における回帰分析を用いた計算機シミュレーションにより,AIC と比較して一致性を持つ規準(BIC, HQ, CAIC)の真のモデルを選ぶ選択パフォーマンスが良いことが確かめられた。

71(5), 978-986 (2005)
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real-time PCR 法を用いた有毒渦鞭毛藻 Alexandrium tamarense 培養シストの定量的検出法の確立

神川龍馬(京大院農),田辺 (細井)祥子(滋賀県大),
長井 敏,板倉 茂(水研セ瀬戸内水研),
左子芳彦(京大院農)

 麻痺性貝毒の原因藻である渦鞭毛藻 Alexandrium tamarense シストの real-time PCR 法による定量化を目的として,培養シストから CTAB 処理を用いた DNA 抽出法を確立した。本方法にてシストの希釈系列から DNA を抽出し real-time PCR 法で分析した結果,Ct とシスト数の間には直線関係が得られた。本結果を検量線として用いることで,A. tamarenseA. catenella シストの混在するサンプル中からも A. tamarense シストの定量的検出が可能であることが示され,培養シストの定量的検出法が確立できた。

71(5), 987-991 (2005)
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RFID と GPS を用いたあなご筒漁業における漁獲努力量自動モニタリングシステムの開発

内田圭一(海洋大),荒井修亮,守屋和幸(京大院情報),
宮本佳則,柿原利治,東海 正(海洋大)

 一度に複数の漁具を使用する延縄式漁具において,その一つ一つを個別に識別し,漁具の投入位置,漁獲の有無を自動的に記録するシステムの開発を行った。同システムは,データキャリアーである IC タグ(RFID タグ)とアンテナが非接触で通信を行うことができる RFID システムと,個々の漁具の位置を測位する GPS,それを制御する PC から構成される。本研究では,同システムの試験機を延縄式漁具の一つであるあなご筒漁業に導入し,通常操業の漁船から,漁具の設置位置と漁獲の情報を自動的に記録できる事を確認した。

71(5), 992-1002 (2005)
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沖縄島福地ダム湖に生息する陸封リュウキュウアユ仔稚魚の食性変化

川上達也,立原一憲(琉大理)

 沖縄島福地ダムに生息する陸封リュウキュウアユの仔稚魚期における食性を調べた。摂餌率は成長に伴って上昇した。卵黄期および体長 19.9 mm 以下の仔魚は主に渦鞭毛虫類とワムシ類を摂餌していた。餌生物は成長に伴って多様化し,体長 10.0~14.9 mm でケンミジンコ類とミジンコ類に対する摂餌が増加した。さらに体長 20.0~24.9 mm で消化管内容物組成に大きな変化が認められ,ミジンコ類を専食するようになった。このような食性変化は成長に伴う口径の拡大や遊泳力の増大,感覚器の発達に対応していると考えられた。

71(5), 1003-1009 (2005)
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イオニア海のカジキ・ビンナガ延縄による海亀類の偶発的漁獲

Gregorio De Metrio(Bari 大獣医,イタリア)

 1999, 2000 年のイオニア海でのカジキ,ビンナガを対象とした浮延縄漁業における海亀類の捕獲率,健康状態,並びに標識放流・再捕の調査結果をとりまとめた。アカウミガメ 198 個体,アオウミガメ 2 個体の漁獲が記録され,これは漁獲物全体の 0.5~5.7% に相当した。調査海域での全漁獲努力量による換算捕獲数は,1999 年で 1084(95% 信頼区間で 667~1502),2000 年で 4447(同 3189~5705)と推定された。捕獲個体はすべて生存状態で放流されたが,ほぼ半数の個体では消化器系に深く針掛かりしており,放流時に取り外すことはできなかった。
(文責 有元貴文)

71(5), 1010-1018 (2005)
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ウグイによるカバー利用の自然光強度実験

藤本泰文,岩田宗彦(北里大水)

 魚類の遮蔽物(カバー)利用と照度の関係を,野外実験と水槽実験から評価した。河川の淵に,カバーを備えた魚巣ブロックを設置すると,ブロックのカバーを利用するウグイ個体数は,照度が高い時刻帯に増加した。選択実験水槽の一方に,27% あるいは 93% 遮光率の人工カバーを設置し,5000~50000 lx の照度条件で,ウグイのカバー利用時間を比較した。遮光率が高く,照度が強い条件で,カバー利用時間が増加した。本実験の結果は,河川魚類資源の回復にカバー設置が有効であることを示す。

71(5), 1019-1028 (2005)
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日本産重要魚類における総水銀およびメチル水銀含量

山下由美子,大村裕治,岡崎恵美子(水研セ中央水研)

 日本で消費される 23 種の魚介類の筋肉および可食部の水銀含量を測定した。筋肉における総水銀含量はキンメダイ Beryx splendens (0.78±0.56 μg /g),大西洋産クロマグロ Thunnus thynnus (0.42±0.06 μg /g),太平洋産クロマグロ T. thynnus (0.59±0.34 μg /g),メバチ T. obesus (0.98±0.34 μg /g),クロカジキ Makaira nigricans (0.56±0.05 μg /g),マカジキ Tetraptrus audax (0.51±0.08 μg /g),およびメカジキ Xiphias gladius (0.47±0.24 μg /g)で高レベルだった。他の種の筋肉における水銀含量は日本の暫定的規制値(総水銀含量 0.4 μg /g)未満であった。キンメダイ,クロマグロおよびメバチでは体重と筋肉中の水銀含量との間に高い相関性が認められた。

71(5), 1029-1035 (2005)
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市販のプロバイオティックスが Penaeus vannamei 養殖池に与える効果

Yan-Bo Wang,Zi-Rong Xu,
Mei-Sheng Xia(Zhejiang Univ.)

 中国における Penaeus vannamei 養殖池の水質・細菌群集・エビ生産量等に対する市販のプロバイオティックスの効果について調べた。その結果,その使用によって,Bacillus 属細菌,アンモニア生成細菌,タンパク分解細菌数などが有意に高くなる一方,Vibrio 属細菌が抑制されること,溶存酸素濃度の増加,リン酸塩・全無機態チッソ・COD の減少などが示された。またエビの収量もプロバイオティックスの使用により増加し,生存率も上昇することが分かった。以上の結果から,市販のプロバイオティックスの使用は,エビ養殖池の水質環境や生産に大きな改善効果をもたらすことが明らかとなった。
(文責 深見公雄)

71(5), 1036-1041 (2005)
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宇和海におけるホタルジャコ Acropoma japonicum の生態と生活史

奥田 昇(愛媛大沿岸研セ),濱岡秀樹(CAEPA),
大森浩二(愛媛大沿岸研セ)

 ホタルジャコの生態と生活史が宇和海で調査された。稚魚は繁殖期間の終盤に定着し,翌年,満 1 歳で成熟を開始した。1 歳魚は,2 歳以上の年級群と同程度の配偶子投資を行った。繁殖期間中,雄は雌より生理的コンディションを低下させた。このコンディションの低下は,雄の死亡リスクを増加させ,個体群性比を雌に偏らせる原因かもしれない。1 歳魚の多くは,繁殖後の冬季に消失した。この理由として,捕食や繁殖後の疲弊の影響は小さそうだった。漁獲は重要な要因の 1 つであるが,年齢特異的な深場への移動の可能性も示唆された。

71(5), 1042-1048 (2005)
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雄マダイの生殖腺刺激ホルモン遺伝子の発現に及ぼす 11-ケトテストステロンおよび生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンの影響

山口園子(九大院生資環),
玄浩一郎,奥澤公一(水研セ養殖研),
熊倉直樹(テキサス工科大),松山倫也(九大院農),
香川浩彦(水研セ養殖研)

 生殖腺刺激ホルモン(GTH)の合成調節機構を解明するため,精巣除去雄マダイを用いて,11-ケトテストステロン(11-KT)または GnRH アナログ(GnRHa)が GTH サブユニット遺伝子の発現に及ぼす影響を調べた。その結果,精巣で合成される 11-KT は FSHβ の発現を抑制することが明らかとなった。一方,GnRHa は精巣での 11-KT の合成を介して FSHβ を抑制することや,LHβ および αGSU の発現を促進することが明らかとなった。

71(5), 1049-1058 (2005)
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中部北太平洋海山海域におけるクサカリツボダイ雌の成熟と産卵周期

柳本 卓(水研セ北水研),
Robert L Humphreys Jr.(NOAA ホノルル研究所)

 中部北太平洋海山海域におけるクサカリツボダイ雌の生殖腺発達過程と産卵周期を調べるため,組織学的観察を行った。卵の発達段階を卵原細胞期から成熟期の 8 期に分類した。組織学的成熟度を卵巣卵の中で最も発達した段階で表し GSI との関係を調べた結果,GSI が増加すると共に成熟度が大きくなった。卵母細胞径組成,成熟度,GSI の月別変化から,産卵期は 11 月から 2 月で盛期は 12 月から 1 月と考えられた。産卵期の卵母細胞径組成と発達段階別卵組成から卵巣卵は非同時発生型であり,同一産卵期に数回産卵を行い産卵期も長いと考えられた。

71(5), 1059-1068 (2005)
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本州中部沖日本海の若狭湾におけるキダイの生殖周期

富永 修,井上みき,鎌田美穂,
青海忠久(福井県大生物資源)

 若狭湾およびその周辺海域に分布するキダイの産卵期および生殖年周期を明らかにするために,1999 年 5 月から 2000 年 12 月までの期間に雌雄のキダイを採集し,生殖腺重量指数(GSI)の季節変化を調べるとともに生殖腺の組織学的観察を行った。その結果,本種の GSI のピークは雌雄ともに秋季の 1 回であり,産卵期は 8 月に始まり 12 月までに終了すると考えられた。この結果は春と秋の 2 回の産卵期が存在する東シナ海と異なっており,若狭湾では水温の上昇により卵黄蓄積が始まり,日長の短日化により産卵が終了すると考えられた。

71(5), 1069-1077 (2005)
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ティラピア Oreochromis mossambicus 活性化 C キナーゼに対する膜レセプター(RACK)の cDNA クローニングおよび生殖腺刺激ホルモンによる発現調節

謝 淑玲(輔英大),阮 燕華(中央研究院),
呉 俊興(国立高雄大),郭 欽明(中央研究院)

 モザンビークティラピア Oreochromis mossambicus 活性化 C キナーゼに対する膜レセプター(RACK)の cDNA クローニングを行った。ティラピア RACK cDNA の全長は 1,109 塩基で,翻訳領域は 954 塩基からなり 317 アミノ酸をコードした。ティラピア RACK は他生物のものと 77~99% のアミノ酸の相同性を示し,他生物のものと同様 7 つの WD-40 モチーフをもっていた。下垂体におけるティラピア RACK の発現はサケおよびニワトリ型生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンの投与により増大した。
(文責 青木 宙)

71(5), 1078-1083 (2005)
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サケ脳下垂体抽出液注射による雌ニホンウナギ生殖腺の状態の推定

香川浩彦(宮崎大農)

 養殖雌ウナギの成熟促進を効率的に行うためには,性成熟可能な雌を選別する必要がある。このため,未熟な雌ウナギにサケ脳下垂体抽出液(SPE)注射し,血中エストラジオール-17β (E2)量を経時的に測定した。その結果,血中 E2 量は,全く卵巣を有していなかった個体(不妊魚)では増加が認められなかったが,正常な卵巣を有していた個体と一部卵巣が欠如した異常個体では注射後 1~3 日目に有意に上昇した。このことから,SPE を注射して 1~3 日の間に血中 E2 量を測定することにより,不妊個体と卵巣を有している個体を区別できることが明らかとなった。

71(5), 1084-1090 (2005)
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シロサケとカラフトマスの視物質組成の変動

長谷川英一(さけ・ます資管セ)

 シロサケとカラフトマスの桿体視物質組成の生息場所の変遷による変化を調べるために,発眼卵以降から放流前,成育回遊時,遡河回遊時そして産卵前の母川遡上時において両種のロドプシン-ポルフィロプシン比,すなわち全桿体視物質量に対するロドプシン量の割合を求めた。その結果,ロドプシン比は海洋生活に移行後は徐々に増加すること,母川遡上後は逆に減少すること,海洋生活中はシロサケの方がカラフトマスよりも常に高いことなどが判明した。また,遡河回遊時に沿岸定置網で漁獲された場合に個体差が最も大きくなった。

71(5), 1091-1097 (2005)
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若狭湾西部養老におけるホンダワラ科海藻 5 種の年間純生産量

八谷光介,西垣友和,道家章生,
和田洋藏(京都海洋セ)

 層別刈り取り法によって見積もられた若狭湾西部養老地先のホンダワラ科海藻の年間純生産量は,ヤツマタモク:2,407,ノコギリモク:2,132,ヨレモク:1,458,ジョロモク:1,197,マメタワラ:1,471 g dry wt /m2 となった。また,最大現存量に対する年間純生産量の比は 1.3~1.7 であった。層別刈り取り法によって推定した流失量は層を厚くするとほど減少し,全長 3 m 以上の藻体では層厚を 50 cm とすることも可能だが,全長 3 m 以下の藻体では 20 cm 以下の層厚を採用すべきことが示唆された。

71(5), 1098-1106 (2005)
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宮城県女川湾における褐藻フクリンアミジの生活史と無脊椎動物相

吾妻行雄(東北大院農),桑原康裕(網走水試),
谷口和也(東北大院農)

 1998 年 6 月~1999 年 9 月に,宮城県女川湾のフクリンアミジの生活史と群落内の底生無脊椎動物を調べた。1998 年 7 月~9 月に,胞子体が四分胞子を形成し,1999 年 5 月には今までに観察されたことのない雌雄の配偶体が出現した。1999 年は成熟した胞子体が出現せず,生活史は 2 年以上で完結すると考えられた。出現した主要な腹足網の中で,アコヤシタダミ,ヤマザンショウ,マメシタダミ,ハナチグサガイはフクリンアミジの現存量と季節的に同調した。10 月にキタムラサキウニ稚仔が高密度で出現し,3 月以降に消失した。

71(5), 1107-1114 (2005)
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魚類の水中における聴性脳幹反応計測手法

須賀友大(北大院水),赤松友成(水研セ水工研),
河邊 玲(北大フィールド科セ),
平石智徳,山本勝太郎(北大院水)

 従来の聴性脳幹反応(ABR)計測手法は小型水槽で魚を水面付近の位置に精密に固定する必要があり,海や大型水槽のような広い環境での計測には適用が難しかった。本研究では電極を絶縁,防水することで水面付近の位置ではなく水中に魚を固定して ABR を計測する手法を試みた。供試魚にはキンギョを用い,従来の ABR 手法と水中手法とで ABR 波形と聴覚閾値を比較して有効性を検討した。ABR 波形と聴覚閾値はともに従来手法と水中手法とで同じような傾向を示した。水中手法は広い環境での計測に応用できる可能性が示唆された。

71(5), 1115-1119 (2005)
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マツカワにおける放流再捕個体の遺伝的組成

MM Ortega-Villaizan Romo(東北大院農),
鈴木重則(水研セ厚岸),
中嶋正道,谷口順彦(東北大院農)

 マイクロサテライトマーカーを用いてマツカワの野生,養殖と試験採捕標本における遺伝的変異性を調べた。各標本間に有意な遺伝的差異が観察された。親子鑑定を行った結果,試験採捕個体は全て放流個体であった。放流時と再捕時の家系の比率を比較したところ差が見られなかったことから,家系間で自然環境下での生残率に差が無く,放流個体の遺伝的組成がそのまま野生集団の遺伝的組成に反映される可能性があることが示された。このことから,放流により野生集団の保全を図る場合,放流種苗の遺伝的組成に注意を払う必要があることが示された。

71(5), 1120-1130 (2005)
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ブリ稚魚に対するタウリンの影響

松成宏之,竹内俊郎(海洋大),
高橋 誠,虫明敬一(水研セ)

 市販飼料にタウリンを 0, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0% 添加した飼料を,平均体重 0.5 g のブリ稚魚に 6 週間給餌し,ブリ稚魚に及ぼすタウリンの影響について検討した。3 週間目では 1.5% 以上添加した区で成長が有意に優れた。タウリン添加区では,3 および 6 週間目ともに増重率が改善した。筋肉中のタウリン含量は飼料中のタウリン含量に比例して増加した。市販飼料区では筋肉中のセリンが増加した。ブリ稚魚では飼料中へのタウリン添加により成長が改善されること,さらに含硫アミノ酸代謝に影響を及ぼすことが明らかになった。

71(5), 1131-1135 (2005)
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ニジカジカ Alcichthys alcicornis の視力と分光感度

松田圭史(北大院水),鳥澤眞介(近大農),
平石智徳(北大院水),
梨本勝昭(日本データサービス),
山本勝太郎(北大院水)

 本研究は,未利用資源であるニジカジカの視覚に関する知見を得ることを目的とした。視力は網膜の錐体密度から算出し,最大視力は 0.14 と推定された。電気刺激によるレンズの移動方向から視軸は約 17°下向きであることが示唆され,移動距離から計算された遠近調節の近点は全長の 0.87 倍であった。電気生理学的手法により網膜から 1 種の L 型,2 種の C 型 S 電位応答を記録した。よって色覚を有し,波長 554 nm において最大感度を持つと結論された。

71(5), 1136-1142 (2005)
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火戻り条件下におけるシログチ筋原線維結合型セリンプロテアーゼの筋原線維分解作用

大久保誠(長大水,宮崎大生環),
長富 潔,原 研治,石原 忠(長大水),
荒西太士(宮崎大生環)

 シログチ筋肉の筋原線維画分を,pH 6.0,55℃ で 10 分間加熱し,筋原線維結合型セリンプロテアーゼ(MBSP)の粗酵素液を得た。シログチ MBSP は 65℃ 以下で安定で,65℃,2 時間のインキュベーションで 60% の残存活性を示した。また pH 2.0-11 で安定であった。本酵素は 0.5 M NaCl により,60% 阻害された。また,pH 6.0-9.0, 40-70℃ でミオシン重鎖を分解したが,アクチン,トロポミオシンはあまり分解せず,55℃ でミオシン重鎖をよく分解した。これらの結果から,シログチ MBSP は火戻りの原因酵素であることが強く示唆された。

71(5), 1143-1148 (2005)
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細菌由来の酵素により調製した寒天消化物の抗酸化作用

呉 紹祺(台湾海洋大),温 端南(中央研究院植物研),
瀋 崇良(台湾海洋大)

 6 種の市販試薬用寒天および 4 種の海藻由来の多糖を,寒天溶解性細菌および寒天軟化性細菌から調製したアガラーゼで処理して,オリゴサッカライド加水分解物を得た。それらの抗酸化性を調べたところ,オニアマノリ由来のものが最も抗酸化性が高く,また,ポリフェノール含量も最も高かった。一方,酵素処理を施しても抗酸化性を示さない試料も見られた。本研究により,寒天および海藻の多糖画分に含まれるポリフェノールが抗酸化性を示すことがわかったため,それらの健康食品としての利用が期待される。
(文責 松永茂樹)

71(5), 1149-1159 (2005)
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海藻混合物のラット血清脂質と血小板凝集に及ぼす影響

天野秀臣,柿沼 誠,Daniel A. Coury,
大野春香(三重大生物資源),
原 高明(ハクジュ ライフサイエンス)

 アラメ,ヒジキ,ワカメ成実葉,スサビノリの混合物(45:30:20:5 w /w)を,コレステロール含有飼料に 9-10% 添加してラットに 28 日間投与したところ,血清総,LDL-,遊離各コレステロール,中性脂肪はそれぞれ対照の 49.7%, 48.1%, 49.0%, 74.8% に有意に減少した。また,ADP 及びコラーゲン誘発血小板凝集はそれぞれ対照の 89.0% と 85.5% に有意に減少した。これらの結果から,上記海藻混合物はラット高脂血症と血栓の予防に有効であると推測された。

71(5), 1160-1166 (2005)
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ホタテガイ貝柱の生存貯蔵におよぼす微生物の影響

金子健一(北大院水),里見正隆(水研セ中央水研),
木村メイコ,埜澤尚範,関 伸夫(北大院水)

 ホタテガイ貝柱横紋筋を高溶存酸素人工海水中で貯蔵したところ,筋肉の ATP 量は 0,10℃ よりは 5℃ 貯蔵で長く維持された。海水の pH 低下と溶存酸素消費量の増大は筋肉 ATP の消失後も大きくなった。筋肉の生菌数は貯蔵中に増大し,107-108 cfu /g に到達した後に筋肉 ATP 量は急激に低下した。抗生物質あるいはソルビン酸添加の海水中では微生物の増殖と海水 pH の低下は抑制され,筋肉の ATP 量は長期間維持された。したがって,筋肉細胞は好気性微生物の増大によって溶存酸素が奪取され,窒息することが推定された。

71(5), 1167-1173 (2005)
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ホタテガイ貝殻に含まれるマトリックスタンパク質のクローニング

長谷川靖,内山孝二(室蘭工大応用化学)

 ホタテガイ貝殻に含まれるタンパク質の cDNA をクローニングし,その全塩基配列を決定した。クローニングした cDNA は 323 個のアミノ酸をコードしており,Gly, Ser, Asx の 3 つのアミノ酸を非常に多く含む特徴的配列を有していた。相同性検索の結果,このタンパク質はすでに報告されている 824 個のアミノ酸からなる MSP-1 に非常に高い相同性を示した。また,このタンパク質には 10 数種類にも及ぶアイソフォームが存在していることが明らかになった。

71(5), 1174-1178 (2005)
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閉鎖循環式システムによるマダイの種苗生産(短報)

友田 努(水研セ能登島),
伏見 浩(福山大生命工),黒倉 寿(東大院農)

 30 日間のマダイ種苗生産試験を,従来の掛け流し方式を対照区として閉鎖循環方式を用いて行った。閉鎖循環式システムは二つの 5 m3 飼育水槽と受水槽,泡沫分離装置,生物濾過槽,循環ポンプおよび紫外線殺菌装置で構成した。生物餌料には L 型ワムシとアルテミア幼生を用いた。閉鎖循環式システムの水質は,掛け流し方式と同等レベルを維持でき,飼育は十分に可能であった。また,閉鎖循環式システムによる飼育成績は成長,生残面からも対照区と同等であった。試験結果から,閉鎖循環式システムのマダイ種苗生産への応用が証明された。

71(5), 1179-1181 (2005)
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海亀混獲削減のためにまぐろ延縄釣針水深を制御する中立ブイ・システム(短報)

塩出大輔,胡 夫祥,志賀未知瑠,
横田耕介,東海 正(海洋大)

 まぐろ延縄において,幹縄の浮力調整を行うブイ(中立ブイと呼ぶ)を取りつけることで,一鉢分の釣針すべてをほぼ同じ水深に入れる方法を考案し,実験によってその効果を明らかにした。釣針 5 本を一鉢とした実験用幹縄に,浮力を調整するために浮子ひとつあるいは二つを付けて,幹縄 2 箇所と釣針 5 本の水深を調べた。まぐろ延縄では,一鉢のうちで浮縄近くの比較的水深の浅い釣針に海亀が混獲されるとされ,本方法に長い浮縄を用いることで,海亀の混獲を回避することができるのみならず,有効な針数を増やすことができる。

71(5), 1182-1184 (2005)
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沿岸成育場で採集されたマサバ稚魚の耳石微細構造から推定した産卵日と初期成長(短報)

黄 善道(Nat'l Fish. Res. Devel. Inst.),
李 泰源(Chungnam Nat'l Univ.)

 1995 年 6 月から 8 月に韓国南部 Namhae 島の定置網で採集されたマサバ稚魚耳石の日輪構造を,光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡により分析し,産卵日と初期成長速度を推定した。産卵期は 5 月中旬から 6 月上旬と推定され,3 回のピークが認められた。平均日間成長速度は 30-40 日齢までは 2.96 mm であり,その後減少し 80-90 日齢では 0.94 mm となった。90 日齢までの平均日間成長速度は 2.08 mm であった。稚魚は尾叉長 50 mm 前後で沖合の産卵場から沿岸域へ移動し,1 ヶ月で 150 mm 近くまで成長し再び徐々に沖合へ移動した。
文責 山下 洋)

71(5), 1185-1187 (2005)
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サケ卵から分離した Saprolegnia に対する次亜塩素酸ナトリウム溶液の殺菌効果(短報)

Khomvilai Chutima,苅田修一,
柏木正章,吉岡 基(三重大生物資源)

 マラカイトグリーンに代わるミズカビ病防除剤としての次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaOCl)の有効性を明らかにするために,サケ卵から分離したミズカビ菌 Saprolegnia sp. (MUI 0112 ) に対する NaOCl の菌糸発育阻止効果と遊走子発芽阻止効果を検討した。その結果,NaOCl の菌糸最小発育阻止塩素濃度は 30 mg /L(45 分間暴露),遊走子最小発芽阻止塩素濃度は 2.5 mg /L(1 分間暴露)であった。

71(5), 1188-1190 (2005)
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