Fisheries Science 掲載報文要旨

東北南部海域におけるマアナゴ分布の季節的変化

片山知史(東北大院農),石田敏則(福島水試相馬),
清水勇吾(水研セ東北水研),山廼邉昭文(福島水試)

 東北南部海域におけるマアナゴの分布の季節的変化を,底曳船のCPUEデータを用いて明らかにし,100m水温との関係を調べた。マアナゴは水深100~200mを中心に広く分布するが,主に2月3月には北緯37度40分以北において著しく低密度となった。これは同海域における10度以下の低水温の出現に対応していた。マアナゴの体長,年齢,生殖腺重量指数,肥満度を南北水域間で比較したところ有意差は認められなかった。したがって,本海域におけるマアナゴの分布の季節的変化は,低水温を避けた南北回遊によるものと考えられた。

70(1), 1-6 (2004)
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ヒラメ天然稚魚と人工稚魚の逃避行動の比較

宮崎多恵子(三重大生物資源),青海忠久(福井県大生物資源),
木下 泉(高知大海洋研セ),塚本勝巳(東大海洋研)

 ヒラメ天然稚魚と人工稚魚のダミー捕食者(ヒメオコゼ)からの逃避行動を実験水槽の明条件下で観察した。いずれの稚魚も,水中に浮上する遊泳ではなく,昼行性捕食者に発見されにくい,水底に沿う遊泳で捕食者から逃げた。逃避時の初速は天然と人工でそれぞれ9.3および9.8TL/sで,魚類の最大遊泳速度にほぼ等しかった。初速(vcm/s)と捕食者との接近距離(dmm)の関係から,捕食者がより接近したときほど稚魚はより速い速度で逃げることが明らかになった(v=-2.7+82.1;r=-0.33, ANOVA, p<0.02)。

70(1), 7-10 (2004)
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安定同位体比から見たアサリとシオフキによる餌料選択

笠井亮秀,堀江比沙子,坂本 亘(京大院)

 炭素と窒素の同位体比(δ13C,δ15N)を用いてアサリとシオフキの餌料を調べた。貝の同位体比はδ13C=-17‰, δ15N=10‰であり,生息域の懸濁物の同位体比(δ13C=-25‰, δ15N=4‰)より高かった。生息域の懸濁物には90%の陸起源有機物が含まれていたが,貝では10%であった。これは貝が海由来有機物を選択的に摂取していることを示している。また,大雨の直後に貝のδ13Cが減少した。降雨により多量の陸上有機物が生息域に流れ込み,貝が一時的に餌料を変化させざるを得なかったものと考えられる。

70(1), 11-20 (2004)
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アオリイカの長時間輸送条件と飼育水槽への移送条件の検証

池田 譲(琉球大理),上田幸男(水研セ西海水研),
櫻澤郁子(理研脳総セ・北大院水),
松本 元(理研脳総セ)

 アオリイカ幼体・亜成体の輸送条件を室内および野外試験から検討した。室内実験では宅急便輸送を想定し様々な条件下でイカの生残を調べたが,水質と水温の低下にも拘わらず33尾中12尾が24時間以上生残した。生残はイカ体重:輸送海水量比が30未満および底面積の大きな輸送器で高かった。これに基づき,徳島県から埼玉県までアオリイカ計24尾(体重50g未満~441g)を宅急便にて22~23時間かけて輸送し20尾の生残を確認した。輸送個体の水槽への移送に際しては1時間以上かけてイカを飼育水に馴化する必要があった。

70(1), 21-27 (2004)
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ベトナムで発見されたドウモイ酸生産底生珪藻 Nitzschia navis-varingica の広い分布

小瀧裕一(北里大水),
Nina Lundholm (Univ. Copenhagen),
小野寺秀幸(東北大院農),小林健司(北里大水),
Fe Farida A. Bajarias (BFAR, Pilippines),
Elsa F. Furio (NFRDI, Pilippines),
岩滝光儀(東大院農),福代康夫(東大アジアセ),
児玉正昭(北里大水)

 本邦沖縄,東北地方およびフィリピン産のNitzschia 様珪藻を培養してドウモイ酸生産能検索を行い,全ての地域に生産能を有する珪藻を確認した。計 183株中88株が有毒で,毒含量は0.1~15.3pg/cellであった。全ての有毒株は,最近ベトナムで発見され新種と同定されたNitzschia navis-varingica であった。また本株は汽水域のみから分離された。この結果は,ドウモイ酸を生産する N. navis-varingica が熱帯から温帯の汽水域に広く分布することを示唆する。

70(1), 28-32 (2004)
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マコガレイの聴覚閾値に関する空中実験による検討

須賀友大(北大水),河邊 玲(北大フィールド科セ),
平石智徳(北大水),梨本勝昭(北大水)

 無鰾魚であるマコガレイの聴覚閾値曲線について,水中に魚を固定してスピーカを対向させる方法で求めると,有鰾魚と同じレベルとなり,良くなることが報告されている。本研究は魚を空気中に固定することで粒子変位を排除し音圧のみを刺激として与え10尾のマコガレイを使い聴覚閾値曲線を求めた。求められた閾値曲線は,既存の水中に固定した魚を中心として両側から同位相同振幅で放音する方法で求められてきた閾値曲線より高くなった。この差は水中実験では水粒子変位が抑制されず,側線が反応していたことに起因すると考えられる。

70(1), 33-40 (2004)
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造礁サンゴの白化が魚類群集へ及ぼす影響

佐野光彦(東大院農)

 琉球諸島西表島網取湾のサンゴ礁では,1998年の夏から秋にかけて,造礁サンゴの大規模な白化現象が観察された。ミドリイシ属の樹枝状サンゴが優占する礁原の調査域では,1998年10月にほぼすべてのサンゴが白化し,翌年の10月までにはすべてのサンゴが死滅した。そこで,サンゴの白化の前,最中,および1年後で,魚類群集の構造がどのように変化したかを調べた。その結果,群集構造はサンゴの白化自体によっては変化しなかったが,その後のサンゴの死滅に伴って,種数と個体数が有意に減少することがわかった。

70(1), 41-46 (2004)
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ホモ型クローンを用いたアユの性連鎖DNAマーカーの探索

渡邊智久(東北大院農),山崎公男(和歌山内水漁セ),
関 伸吾(高知大農),谷口順彦(東北大院農)

 アユの性決定遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを探索するため,AFLPsおよびマイクロサテライトDNAを用いて,3家系の半同胞集団における性(オス)に関して連鎖解析を行った。AFLP D7-141*マーカーは 3家系すべてにおいてオス性個体に強い特異性を示し,すべてのオス個体で検出されたが,メスについても全体の8.7%の個体で検出された。さらに天然個体を用いて評価したところ類似の結果を得た。D7-141*マーカーは海系アユのオスの性決定遺伝子座に強く連鎖するマーカーであることが示唆された。

70(1), 47-52 (2004)
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ヌマガレイ稚魚の成長および体組成に及ぼす飼料中のグルコース,デキストリンおよびデンプンの影響

S.-M. Lee(江陵大),J. H. Lee(蔚珍水産孵化場)

 ヌマガレイ稚魚(9.7g)に,グルコース(glu),デキストリン(dex)およびデンプン(st)を20%,20%および5-20%づつ添加した飼料を10週間給餌した。増重率・飼料効率・タンパク質効率は20%glu区で最も劣り,増重率は20%dex区で最も優れた。魚体および肝臓中の脂質含量はstが増加するに伴って減少し,5%区と10-25%区に有意差が見られた。肝臓中のグリコーゲン含量と比肝重値はstが増加するに伴い増加した。ヌマガレイはgluよりもdexやstを利用し,stの最適添加量は25%以下と考えられた。
(文責 竹内俊郎)

70(1), 53-58 (2004)
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ヒラメ稚魚の無眼側黒化および脊椎骨異常出現に及ぼすビタミンDの影響

芳賀 穣,竹内俊郎,村山靖之(海洋大),
太田健吾,福永辰廣(水研セ伯方島)

 ビタミンD3および活性型ビタミンDを100g当り0.5mgまたは0.05mg添加した飼料を全長9.8±0.77mm(孵化後22日目)のヒラメ仔魚に28日間給餌した。その結果,孵化後70日目では活性型ビタミンD添加飼料区の魚の躯幹部に有意に黒化が出現した。また,全黒化は活性型ビタミンD区のみで見られた。さらに,ビタミンD3区および活性型ビタミンD区において腹椎の湾曲率に有意差が見られた。これらの結果から,飼料中のビタミンD3および活性型ビタミンDが黒化および脊椎骨異常を生じさせていると考えられた。

70(1), 59-67 (2004)
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大西洋クロマグロThunnus thynnus のミトコンドリア DNA全塩基配列

Manuel Manchado, Gaetano Catanese,
Carlos Infante(C.I.C.E.M.)

 大西洋クロマグロThunnus thynnus のミトコンドリア DNA塩基配列の全長を決定した。この魚のミトコンドリア全ゲノムをロングPCRを使用した遺伝子増幅によって精製し分析したところ,全長は16526bpであった。遺伝子構成や配置順序,塩基組成は,他の硬骨魚類で知られているところとよく一致した。タンパク質遺伝子,リボソームRNA遺伝子,および転移RNA遺伝子の塩基配列の特徴を検討した。L鎖複製開始地点は,安定的なステム―ループ構造を有していた。非コード領域(Dループ領域)に保存的なブロックが観察された。
(文責 西田 睦)

70(1), 68-73 (2004)
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自発摂餌によるヨーロッパ産スズキ稚魚の成長および飼料選択性に及ぼすタウリンの影響

Jose Brotons Martinez, Stavros Chatzifotis,
Pascal Divanach (IMBR),竹内俊郎(海洋大)

 ヨーロッパ産スズキ稚魚(体重0.79g:以下スズキ)の成長および摂餌選択性に及ぼすタウリン(Tau)の影響を調べた。実験1では,Tauをそれぞれ0, 0.1, 0.2および0.3%添加した餌を給餌し,実験2では上述の4種類の餌を自由に摂餌させた。その結果,0.2および0.3%添加区で日間成長率が3.2%と優れるとともに両添加飼料を選択的に摂餌することが観察された。スズキはTauを0.2%要求することが明らかとなった。さらに,成長と餌の嗜好性は正の相関を示すことから,自発摂餌機は稚魚飼料の改善に対して有効な手段となるものと考えられた。

70(1), 74-79 (2004)
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ヒラメの網膜桿体細胞の増殖機構に関する免疫細胞化学的研究

大村百合(名大院生命農),塩澤聡(水研セ小浜),
田畑和男(兵庫水試)

 ヒラメの網膜桿体細胞は変態の頃に出現し,成魚では一列を成す錐体細胞の上に厚い桿体外節層がみられるので,着底以降も増殖し続けるものとみなされた。変態後の養殖稚魚及び漁獲成魚の網膜についてPCNA(増殖細胞核抗原)免疫陽性細胞の分布を調べ,桿体細胞の増殖機構の解明を試みた。稚魚では外顆粒層全体に免疫陽性細胞が豊富に分布し,前駆細胞が外顆粒層の基底部から頂上部へ移動して新しい桿体細胞に成ることが示唆された。成魚では周縁部胚芽帯付近以外に免疫陽性細胞は少なかった。

70(1), 80-86 (2004)
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北海道胆振沿岸における遊漁船によるサクラマス釣獲尾数の推定

宮腰靖之,小山達也,青山智哉(道孵化場),
榊原 滋(北海道水産林務部),北田修一(海洋大)

 北海道太平洋側の胆振沿岸において,遊漁船によるサクラマスの釣獲尾数を調べた。標本抽出は1段のクラスターサンプリングとし,標本船のすべての出漁日における遊漁者数と釣獲尾数を記録した。同海域におけるサクラマスの釣獲尾数(括弧内は標準誤差)は1999年には66,844(11,685)尾,2000年には57,454(6,559)尾と推定された。これは北海道沿岸での漁業による年間漁獲尾数の12~13%に相当し,遊漁によるサクラマスの釣獲尾数の把握が重要であることが示唆された。

70(1), 87-93 (2004)
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北海道南部臼尻沖の定置網に混獲されたネズミイルカの生殖腺組織像

本間義治,牛木辰男,橋都浩哉,
武田政衛(新潟大院医歯),
松石 隆,本野吉子(北大院水)

 北海道臼尻沖の大型定置網に,時折迷入混獲されるネズミイルカの成熟度を明らかにするため,水槽収容後に死亡した個体の生殖腺を組織学的に観察した。材料は,2002年4月11日の♂個体と,4月16日の♀個体である。精巣は固定像が悪く,精小管上皮はセルトリー細胞と少数の大型原始生殖細胞で占められ,小管腔は形成されておらず,間質のライデイヒ細胞は未分化であった。精巣網と精巣上体管の発達も悪く,未熟幼鯨と判断された。卵巣は固定像が良く,1次卵胞と2次卵胞のほか,これらの閉鎖卵がみられたが,グラーフ卵胞は存在しなかった。卵管や膨大部の粘膜上皮には,AF陽性物質が検出されなかったので,これも未熟幼鯨と判断された。

70(1), 94-99 (2004)
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マアジ稚魚の消化管内容物

広田祐一,上原伸二,本多 仁(水研セ中央水研)

 2000年4月九州南東方において得られた体長10.7mmから51.6mmのマアジ稚魚123個体の消化管内容物を検討した。消化管内容物個体のうち,97.8%がかいあし類であった。稚魚の成長とともに摂餌された獲物のサイズは大きくなった。ネット試料と稚魚の摂餌した獲物の体長組成と比較すると,体長35mmまでの稚魚は体幅300μm前後の動物プランクトンを好んで摂餌し,体長35mm以上の稚魚はさらに大きな動物プランクトンも好んで摂餌したことが伺えた。これは稚魚の運動能力の高まりと関係していると考えられた。

70(1), 100-107 (2004)
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広島湾産Gymnodinium catenatum による硝酸塩,アンモニウム塩,リン酸塩の取り込みおよび増殖の動力学

山本民次(広大院生物圏),
呉 碩津(水研セ瀬戸内水研),
片岡幸弘(広大院生物圏)

 広島湾産G. catenatum による最大取り込み速度と半飽和定数は,硝酸塩で 6.48pmol cell-1h-1と7.60μM,アンモニウム塩で3.37pmol cell-1h-1と33.6μM,リン酸塩で1.42pmol cell-1h-1と3.40μMであった。一方,窒素制限の半連続培養実験によって得られた最大比増殖速度(μ′m)は0.36d-1,最小細胞内窒素含量は31.3pmol cell-1であった。また,リン制限ではμ′m0.37d-1,最小細胞内リン含量1.83pmol cell-1が得られた。

70(1), 108-115 (2004)
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東京湾および相模湾におけるコノシロの産卵特性

孔 立波(海洋大),川崎将義(東大海洋研),
黒田一紀(東大海洋研),河野 博(海洋大),
藤田 清(海洋大)

 神奈川県水産総合研究所が1981~1994年に調査した東京湾・相模湾における卵の分布と水温・塩分に関する資料を解析し,コノシロの産卵特性を明らかにした。1) 産卵期は4~7月である,2) 主産卵場は,相模湾では4月に葉山沖に形成され,5~6月に西方海域へ拡大し,7月に産卵は終息する。東京湾のそれは,相模湾よりも産卵強度の強くなる5月には外湾域にあり,6~7月に内湾へ北上移動する,3) 主産卵場の水温と塩分は16~19℃と31.5~34.5psuであり,本種の産卵場と産卵期を規定する基本的な生物学的要因として重要である。

70(1), 116-122 (2004)
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水産資源管理の意思決定における最適なコントロール・ルールの数値的探索

勝川俊雄(東大海洋研)

 近年,漁獲圧を資源状態の関数として表現したコントロール・ルール(CR)が資源管理の主流となりつつある。CRは資源状態によって漁獲圧を変えることを前提としているが,現行のCRのほとんどは漁獲率一定を仮定したFMSYに依存している。本研究では,FMSYなどの管理基準とは独立に,最適CRを数値シミュレーションで求める手法を考案した。最適CRは,対象資源の生活史と資源量推定の不確実性に影響されるために,全ての種に画一的に利用可能なCRは存在しなかった。

70(1), 123-131 (2004)
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宇治川のコイ科魚にみられたメタセルカリアの重篤寄生

小川和夫(東大農),中津川俊雄(京都海洋セ),
安崎正芳(東大農)

 2000年冬に,衰弱し,体表から出血したオイカワとコウライモロコが宇治川で多数観察された。細菌とウイルスは検出されなかったが,ブセファルス科吸虫のメタセルカリアが皮膚,鰭,目などに大量に被嚢していたことから,この寄生が原因と考えられた。吸虫に感染したカワヒバリガイ(第一中間宿主)が宇治川に持ち込まれ,第二中間宿主のコイ科魚,終宿主のビワコオオナマズに寄生して,宇治川で生活環が完結したと想定された。この吸虫の寄生は今のところ淀川水系に限られているが,他水系への寄生の拡大の危険性を指摘した。

70(1), 132-140 (2004)
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韓国の網作字(えり)具の構造と流況特性

KYOUNG-MI KANG,申 鉉玉(釜慶大)

 韓国でカタクチイワシを対象とする網作字について,漁場流向に対する適切な設置角度を検討するため,漁具構造と流況並びに海底地形を測定した結果,両袖部根元の間隔は2.5m,左右袖の長さは各々106.6m,79mであり,設置角度は網口方向に355.5°であった。海底でV字型に石を積んで袖網を支える柱の基盤の部分と袖網の敷設水深は5-10mであった。2000年1月~2001年9月までの調査期間中,最大流速は80cm/s,平均流向は169.2°であった。数値モデルによる検証の結果,実物に最も近い湾曲した形状の場合が他の場合に比べて過流発生が少なかった。

70(1), 141-151 (2004)
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パラオ産海綿Luffariella sp.から単離したマノアライド誘導体

浪越通夫,鈴木重雄,目黒志織,永井宏史(海洋大),
小池義夫,喜多澤 彰(海洋大神鷹丸),
小林久芳(東大分生研),小田泰子,山田純子(共立薬大)

 パラオ産海綿Luffariella sp.から24-O-methylmanoalideのジアステレオマー2種(12),(6Z)-neomanoalide-24,25-diacetate (3), manoalide (4), seco-manoalide (5), (4E,6E )-dehydromanoalide (6), manoalide-25-acetate (7)を単離した。化合物12は分離中にマノアライドから生成されたことが分かった。化合物1(24R )と2 (24S)の立体構造は,12から誘導した 2種の24,25-di-O-methylmanoalides(89)および2の NOESYデータを基に決定した。化合物 3はすでに(6Z)-neomanoalideから化学反応によって作られているが,海綿から単離されたのはこれが最初である。化合物1, 2, 4, 5, 7はグラム陽性細菌Staphylococcus aureus に対して5-10μgで抗菌活性を示したが,化合物 3, 8, 9 は50μgでも抗菌活性を示さなかった。

70(1), 152-158 (2004)
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メイラード反応によって起こる貝類筋肉タンパク質の溶解性改変に及ぼす湿度とグルコース濃度の協同的影響

片山 茂,佐伯宏樹(北大院水)

 グルコース修飾によって起こるホタテガイ筋原線維(Mf)の水溶化に及ぼす湿度とグルコース濃度の影響について調べた。Mfとグルコースの混合比が1:3,1:6,1:9の場合,相対湿度(RH)65%以上ではミオシンの変性が進行し,RH 5%ではメイラード反応が進行しにくかった。これらの条件下では,Mfを水溶化できなかった。一方,混合比が1:18の場合,RH 35%以下でミオシンの変性を抑制しながらメイラード反応を進行させることができ,Mfは完全に水溶化した。なお,ミオシンの変性は,混合比に関わらず,グルコース濃度を0.08mol/g H2O以上にすることで抑制できた。

70(1), 159-166 (2004)
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アカテノコギリガザミ貯蔵中の腹部筋の生化学的変化

邱 思魁,黄 瑞蓬(台湾海洋大)

 ガザミを10, 25℃で貯蔵し,腹部筋の生化学的変化をpH,揮発性窒素(VNB),K-値,グリコーゲン,ATPと関連化合物,および遊離アミノ酸(FAA)量から追跡した。貯蔵2日までpH, VNB, K-値は変化しなかったが,グリコーゲン量は急激に低下した。初期腐敗は10℃では6日で,25℃では3日で起きた。10℃貯蔵では総FAAおよび味覚に関与するアミノ酸量に変化が認められなかったが,25℃貯蔵では腐敗直前に15-38%の増加が認められた。また,初期腐敗の段階でオルニチン,シトルリン,アンモニア量の著しい上昇が認められた。
(文責 今野久仁彦)

70(1), 167-173 (2004)
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ハマグリ内臓における3種のアミラーゼの精製と性質

曹 欽玉,許 元馨,趙 立民,江 善宗(台湾海洋大)

 ハマグリMeretrix lusoria 内臓から,3種のアミラーゼを精製した。精製アミラーゼの分子質量は49.6,58.7および100kDaで,それぞれAI-1,AI-2およびAIIと命名した。AI-1およびAI-2はアミロースをグルコースとマルトースに,一方AIIはアミロースとプルランをグルコースに加水分解した。これらのことから,AI-1およびAI-2はそれぞれ多機能なエキソおよびエンド型のα-アミラーゼ様酵素で,AIIはエキソ型のδ-アミラーゼ様酵素と考えられた。いずれのアミラーゼもCa2+依存性を示さなかった。
(文責 阿部宏喜)

70(1), 174-182 (2004)
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魚油乳化モデルにおけるインドネシア産海藻のメタノール抽出物の抗酸化性

Joko Santoso(ボゴール農大),
吉江由美子,鈴木 健(海洋大)

 7種インドネシア産海藻のメタノール抽出物について,鉄イオン有無の条件で魚油の乳化モデル(50℃,3時間及び24時間の培養)における抗酸化性を調べた。鉄イオン存在下ではいずれの海藻抽出物も,特に長時間の反応で無添加の対照に比べ過酸化物価の上昇を抑制した。特にCaulerpa sertularoides は強い抗酸化性を有し,どの時間においても過酸化物価の上昇を最も抑制すると共に,2価鉄のキレート作用が最も高かった。いずれの海藻もメタノール抽出物は鉄イオンとの結合力が高かったが,乳化モデルでは低下した。

70(1), 183-188 (2004)
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南日本,土佐湾における海水温の上昇と関連したカジメ群落の衰退(短報)

芹澤如比古(千葉大海洋セ),井本善次(高知大海生セ),
石川 徹(高知水試),大野正夫(高知大海生セ)

 土佐湾手結地先のカジメ群落の調査を1991~2001年まで行った。1992年より葉状部が被食されて時には茎部のみとなったカジメが確認され始め,1999年より生育するカジメはまばらとなり,2001年には生残するカジメは確認できなかった。土佐湾において1991~2000年の平均水温は1965~1990年のそれに比べ,室戸では0.7℃,田ノ浦では0.5℃上昇していた。土佐湾での水温上昇は手結地先のカジメ群落衰退の一因になっていると考えられる。

70(1), 189-191 (2004)
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ビスフェノールA及びノニルフェノールのホシガレイへの蓄積(短報)

李 虎哲,征矢野 清,石松 惇(長大院生産科学),
長江真樹,高良真也(長大環境),
石橋康弘(長大環境保全セ),
有薗幸司(熊本県大環境共生),高尾雄二(長大環境)

 ビスフェノールA(BPA)及びノニルフェノール(NP)を海水からホシガレイに曝露させ,体内濃度の経時変化を調べた。その結果,取り込まれた化学物質の濃度はおよそ1日目以降体内でほぼ一定に達し,曝露濃度とともに上昇した。また,曝露2日目における生物濃縮係数はBPAが38(70μg BPA/L), NPが17(80μg NP/L)であった。

70(1), 192-194 (2004)
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ヒラメの体表細胞で発現している遺伝子のExpressed sequence tag 解析(短報)

廣野育生,矢澤良輔,青木 宙(海洋大)

 ヒラメの体表細胞cDNAライブラリーを構築した。作製したライブラリーより無作為に112クローンを選択し,塩基配列を決定した。決定した塩基配列について,DNA/アミノ酸配列データバンクに登録されている配列と比較したところ,39クローンは既知の配列と相同性を示したが,残りの73クローンは未知の配列であった。既知の配列と相同性を示した39配列には29種類の異なる遺伝子がコードされていた。29種類の遺伝子の内,ケラチン遺伝子について発現している臓器,細胞について調べたところ,多くの臓器,組織で発現しているのが確認された。

70(1), 195-197 (2004)
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スケトウダラα-骨格筋アクチンの cDNA クローニング(短報)

田中啓之,前澤裕一,尾島孝男,西田清義(北大院水)

 スケトウダラα-骨格筋アクチンアイソフォーム(1型および2型アクチン)をコードするcDNAをRT-PCRによってクローニングした。それらの塩基配列より演繹されたアミノ酸配列は,それぞれソコダラ類1型および2型アクチンのアミノ酸配列と同一であり,ウサギ骨格筋アクチンのアミノ酸配列と比較して,7および6残基が異なっていた。一方,これらの魚類の1型アクチンcDNAの塩基配列は2型アクチンcDNAのそれよりも高度に保存されていることが示された。

70(1), 198-201 (2004)
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