Fisheries Science 掲載報文要旨

コイ用飼料への植物タンパク質配合によるリン(P)負荷の低減

Jahan Parveen,渡邉 武,Kiron Viswanath,佐藤秀一(東水大)

 コイ用飼料によるPと窒素(N)の負荷量を魚粉と植物タンパク質の併用配合により低減することを検討した。魚粉5-15%,濃縮大豆タンパク質10-20%,コーングルテンミール3-5%,大豆油粕2.0-8.5%を配合した粗タンパク質(CP)35%以下,可消化エネルギー3.5kcal/g以上の試験飼料5種類を作製し,平均3.4gのコイを10週間飼育した。増肉係数は対照区(CP40.8%の魚粉飼料)と試験飼料区間で大差なかった。Pの吸収率と蓄積率は試験区で対照区より顕著に高く,Nの保留率は対照区で最も低かった。総PおよびNの負荷量(kg/t生産量)は試験飼料区で7.1-8.9および36.1-41.3で,対照区(15.2および48.1)よりかなり低かった。
69(2), 219-225 (2003)
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タンパク質原料の併用によるコイ用飼料からのリン(P)と窒素(N)負荷量の削減

Jahan Parveen,渡邉 武,Kiron Viswanath,佐藤秀一(東水大)

 タンパク質源として魚粉と他の動物性・植物性原料を多種類配合した4飼料で平均5.1gのコイを12週間飼育し,PとNの負荷量削減に有効な配合組成を検討した。各飼料間で成長に大差なかったが,増肉係数は濃縮大豆タンパク質配合区で劣った。Pの吸収率と保留率はフェザーミール配合区で高かったが,Nでは飼料間で大差なかった。その結果,生産量トン当たりのPとNの負荷量はそれぞれ7.8-9.2kgおよび39.1-40.7kgとなり,両者とも霞ヶ浦で報告されている値(P:18-20kg, N:45kg)より低かった。
69(2), 226-233 (2003)
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ニホンウナギの排卵におけるプロスタグランジンの役割

香川浩彦,田中秀樹,鵜沼辰哉,太田博巳,玄浩一郎,奥澤公一(養殖研)

 卵成熟誘起ステロイド(17,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one, DHP)は核移動期卵母細胞のin vitro最終成熟と排卵を誘起した。プロスタグランジン(PG)はDHPで最終成熟を誘導された卵母細胞の排卵を誘起し,用いたPGのうちPGF2が最も効果があったが,PGE1は効果が認められなかった。indomethacin, actinomycin DおよびcycloheximideはDHPで誘導された排卵を抑制し,これらの抑制はPGF2を加えることによって解除された。DHPは内因性のPGの生合成を介してウナギの排卵を誘導していることが明らかとなった。

69(2), 234-241 (2003)
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ヒラメ稚魚期に対するタウリン,β-アラニンおよびγ-アミノ酪酸の影響

金 信權,竹内俊郎(東水大),横山雅仁(国際農研セ),村田裕子(中央水研)

 ヒラメ稚魚に対するタウリンの添加効果を明らかにするため,魚粉飼料を対照に,タウリン,β-アラニンおよびγ-アミノ酪酸3種類のアミノ酸を各1.0%添加した4種類の飼料を用いて,平均体重0.4gのヒラメ稚魚を4週間飼育した結果,タウリン添加区で優れた成長効果が得られた。また,各組織中のアミノ酸組成においてもタウリン添加区のみにタウリンの増加が見られた。一方,平均体重15gのヒラメ稚魚を用いて対照飼料,タウリン添加飼料2種類で4週間飼育したところ,いずれも同等の成長効果を示した。これらの結果から,成長と各組織へのアミノ酸組成の変化はタウリンのみであること,タウリンは稚魚時に強く要求され,成長に伴ってその要求性は低下することがわかった。
69(2), 242-248 (2003)
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テンジクダイの生活史特性の地理的変異

久米 元,山口敦子(長大水),青木一郎(東大院農)

 東京湾,大阪湾,新潟県沿岸域の3海域に生息するテンジクダイの生活史特性について調査した。1-2歳時,東京湾個体群は他個体群に比べ雌雄ともによい成長を示していた。また,最高年齢は東京湾と大阪湾の両個体群がそれぞれ3歳と2歳であるのに対し,新潟県沿岸域個体群は5歳と長く,産卵期の長さは他個体群の4ヶ月間に対し2ヶ月間と短かった。このトレードオフは,新潟県沿岸域個体群がそこの環境に適応し生活している可能性を示している。
69(2), 249-259 (2003)
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東北沖の流れ藻生物群集における食う-食われる関係

佐野 稔(科技特,日水研),大森迪夫,谷口和也(東北大院農)

 流れ藻に生息する葉上動物の消化管内容物を観察するために,1994年5~6月に宮城県沖から流れ藻を採集した。観察した16種の葉上動物は主な食物により,甲殻類を捕食する肉食性,甲殻類と羽状目珪藻を摂食する雑食性,羽状目珪藻,ヒバマタ目海藻,ヒバマタ目以外の海藻を摂食する植食性に区別できた。羽状目珪藻とヒバマタ目以外の海藻は流れ藻に付着していたと考えられた。以上の結果から流れ藻葉上動物は,流れ藻の藻体とそれに付着する藻類を一次生産者とした食物網の中で重要な役割を果たしていることが示された。

69(2), 260-268 (2003)
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中部北太平洋移行帯におけるシマガツオの摂餌習性

渡邉 光(科技特),窪寺恒己(科博),川原重幸(遠洋水研)

 中部北太平洋移行帯で2000年の4~5月に採集したシマガツオの食性を3つの標準体長群別に種レベルの解像力で定量的に明らかにした。小型個体(11.0~19.9cm)は端脚類(消化が進み種類は不明)を中心に捕食し,頭足類(主にツメイカ)が続いた。中・大型個体(それぞれ20.0~30.9cm, 31.0~40.9cm)はともに頭足類(主にツメイカ,ヒメドスイカ,タコイカ)を主食しており,中型個体では端脚類(主にPhronima sedentariaPlatyscelus ovoides)が,大型個体では魚類(主にハダカエソ科の1種)が頭足類に続いた。

69(2), 269-276 (2003)
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サクラエビの鉛直移動パターンに関する月齢と生息水深の影響

邱 萬敦,鄭 利榮,陳 哲聡(高雄海洋技院)

 台湾南西部沿岸域において,サクラエビAcetes intermediusの鉛直移動パターンを調査し,夜間の鉛直移動には月齢の影響していることが確認された。すなわち,浮上に際して月明かりを回避する傾向があり,表層への浮上と水深10m層への沈降行動の解発因として月明かりが作用していた。沈降に際しては,日出前に海底あるいは水深50-80m層に急速に移動した。Kaoping Canyonの深い水域では沈降移動がゆっくりと行われ,これは4μmol/s/m2の明るさと関係していた。表層域でのサクラエビの密度が月明かりに影響されることから,月齢が台湾南西部で夜間に行われる大型すくい網の漁獲に影響する要因の一つとなっていることを明らかにした。
69(2), 277-287 (2003)
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イカ内臓を用いたマグロ延縄用人工釣餌の開発と比較試験

蛇沼俊二(北大院水),宮嶋克己(函館工技セ),阿部俊夫(コーノ)

 イカ肝臓を主成分とするマグロ延縄用の人工釣餌を開発し,この性能について,人工餌4616個,天然イカ餌7260個を用いた比較試験を行った。
 その結果,メバチ,キハダなどのマグロ類27尾,サメ類101尾を含む総計217尾が漁獲された。餌種の違いによるマグロ類の釣獲率には有意差は無く,サメ類の釣獲率に有意差が見られた。
 この人工餌はマグロの釣獲に有効であると同時に,サメ類の混獲を減少させる性能を持つことが分かった。
69(2), 288-292 (2003)
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南ポルトガルのヘイク延縄におけるサメ混獲防除

R. Coelho, L. Bentes, J. M. S. Gonalves,P. G. Lino, J. Ribeiro, K. Erzini (Algarve Univ.)

 南ポルトガルAlgarve におけるヘイクMerulussius merlucciusを対象とした離底延縄では深海性サメ類の混獲投棄が問題となっている。この漁具について,海底からの釣針位置と漁獲対象種,混獲種の組成を調べた結果,ヘイクは海底から離れた中間部に位置する釣針で多く漁獲され,海底側で少ない傾向となり,サメ類では逆にほとんどが海底側で漁獲されていた。海底側の釣針をなくす漁具構成にした場合に,対象魚の漁獲減少は僅かであり,サメ類の混獲を減少させることができた。また,black catsh Galeus melastomusについては,海底側の釣針で投棄される小型個体が多かったことから,海底から離れた釣針だけを使用することで投棄死亡の減少に役立つことが考えられた。
69(2), 293-299 (2003)
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音響テレメトリー手法による定置網箱網の挙動解析

黄 普奎(東水大),申 鉉玉(釜慶大)

 音響テレメトリー手法で網の動きを測定できる係留式水中測位システム(UPS)を製作し,小潮期と大潮期に韓国のJaran湾の定置網で実験を行った。実験は,4個のトランスポンダを網に付け,1個を海底に固定した。UPSのx軸,y軸およびz軸での測位誤差は,各々0.6m, 0.8mおよび1.2mであった。小潮期の東西方向(揚網方向),南北方向および上下方向の移動距離は,各々3.2m, 3.4mおよび2.1mであり,大潮期には,それぞれ7.8m, 7.8mおよび5.0mであった。この実験でUPSは箱網の動きの測定に使えることが確認できた。

69(2), 300-307 (2003)
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底部開放型軟式浮体の流体力特性

松村一弘(道工技セ),山下成治(北大院水)

 底部開放型軟式浮体(エアバッグ)の運動解析に重要である浮力と流体力特性の関係を,相似模型を用いた水槽内の正弦加振実験から求めた。

 浮体に作用する引張力応答は,全模型において加振周期から1/4波長分の位相範囲内の遅れを示したが,基本周期に変化は見られなかった。浮体が満気状態になるにつれて各種流体力係数は球形浮体の値に近付いた。加振による履歴効果は僅少であり,抵抗係数の分散は比較的大きいものの,慣性力や流体抵抗力に比して浮力が支配的に作用していた。

 これらの結果から,鉛直運動が卓越するエアバックの設計と運用では,浮体容積と充填圧気量を重点的に管理すれば良いと推察された。

69(2), 308-316 (2003)
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Red drum稚魚の攻撃的摂餌行動における感覚機構の役割

廖 一久,張 怡頴(台湾水試)

 Red drumは台湾における外来の養殖対象魚種であり,魚類や無脊椎動物など様々の餌生物を捕食する。本研究ではその摂餌様式を明らかにするために,捕食行動に関わるであろう視覚,嗅覚,側線感覚などの遮断を行い,行動への影響を観察した。側線器官による機械的受容を遮断すると,捕食行動が完全に消失した。嗅房を焼灼すると捕食行動は逆に活発になった。光の遮断は捕食行動に有意な影響を与えなかった。以上より,本種の捕食行動に最も重要な感覚器は側線器官であり,視覚はこれに次ぐものと結論された。
69(2), 317-322 (2003)
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リュウキュウアユの卵発生と仔稚魚の成長に伴う形態変化

立原一憲,川口敬子(琉球大理)

 飼育条件下におけるリュウキュウアユの卵発生と仔稚魚の形態変化を記載した。受精卵は直径0.98-1.18mmで,水温19.7-22.0℃の条件下では約155時間で孵化し始めた。孵化仔魚は体長5.0-5.9mmであった。孵化5日後(7.8mm)には卵黄を吸収し終えた。孵化20日後(13.7mm)に脊索末端が上屈し始め,孵化30日後(16.3mm)に上屈が終了した。背鰭,臀鰭,腹鰭,脂鰭の原基は,それぞれ14.7, 16.3, 21.8, 21.8mmに出現した。すべての鰭条数は28mmで定数に達した。櫛状歯は30mmで形成され始め,40-50mmで完成した。孵化110日後,約40mmには成魚とほぼ同じプロポーションとなった。
69(2), 323-330 (2003)
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自発摂餌の報酬量レベルがニジマスOncorhynchus mykissの遊泳垂直分布と成長におよぼす影響

Wei-Min Chen,田畑満生(帝京科大理工)

 ニジマス15尾の小個体群を自発給餌機で飼育し,一回のスイッチ起動で得られる報酬量は,低・中・高の三通り(それぞれ0.051, 0.089, 0.267g/kg体重)とした。中・高報酬量群では,低報酬量群に比べて遊泳垂直分布がほぼ均等になったが,群れの少数個体の行動によって分布の態様が変わることがあった。また,スイッチを起動する個体がスイッチの周辺を占有することはなかった。ニジマスの中報酬量群はスイッチ起動回数を自発的に増やすことで高報酬量群と同程度の給餌量,成長量を得ることができたが,低報酬量群はできなかった。
69(2), 331-336 (2003)
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生物標識として寄生虫を用いたホシザメの系群識別

山口敦子(長大水),横山 博,小川和夫(東大農),谷内 透(日大生物資源)

 ホシザメに寄生する寄生虫を生物標識として系群識別に用いることが出来るかどうかを評価するため,青森,銚子,東京湾,舞鶴,下関,宇和島,台湾の7海域におけるホシザメの寄生虫相を調べた。1038個体の宿主から線虫1種,粘液胞子虫2種,カイアシ類2種,条虫8種,計13種の寄生虫が記録された。東京湾における寄生虫相は他の海域と最も類似度が低く(19.2%),東京湾のものを一つの系群とする見方を支持するものであった。青森と東京湾25個体の宿主の腸内に8種の条虫類が確認され,正準判別分析によりこれら2海域を完全に識別できた。したがって,条虫類は系群識別に最も有効な指標となり得ることがわかった。
69(2), 337-342 (2003)
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ニホンザリガニの人工生息地における流速条件

中田和義(北大院水),浜野龍夫,林 健一(水大校),川井唯史(道原子力環境セ)

 ニホンザリガニを飼育する時に使用する人工巣穴の中の好適な流速を明らかにする目的で研究を行った。適切なサイズの人工巣穴を用いて,流速が0cm/sの巣穴Aと流速を5段階(0, 5, 10, 20, 30cm/s)に変化させた巣穴Bを同時に用意して選択させた。実験の結果,流速が10cm/s以上になると,水流を伴う巣穴Bを有意に選択する個体は認められなかった。20cm/sでは,水流によって巣穴外に流される個体が見られはじめ,30cm/sでは大半の個体が巣穴外に流れ出た。以上の結果から,人工巣穴の中の適切な流速は約5cm/s以下であると結論した。
69(2), 343-347 (2003)
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マイワシは鰾で1-kHzの音を聞く

赤松友成,名波 敦(水工研),Hong Young Yan(ケンタッキー大)

 水中音の潜在的な魚群行動への影響が指摘されているが,底性魚類や淡水魚に比べ浮き魚の聴覚能力の知見は乏しい。頭頂部に誘発される聴性脳幹反応を5尾のマイワシで計測し,聴覚閾値曲線を得た。また,マイワシの鰾は聴覚能力を増強していると推定されているため,魚体の音波吸収特性も計測した。聴覚の最高感度と魚体の吸収極大を与える周波数は,それぞれ1024Hzと1040Hzであった。マイワシは,他の海産魚に比べ高い周波数で感度が良く,音波を鰾で受波していると考えられた。
69(2), 348-354 (2003)
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土佐湾の砂浜海岸砕波帯におけるアユ仔魚の加入と移動

東 健作,高橋勇夫,藤田真二(西日本科技研),木下 泉(高知大海洋研セ)

 土佐湾の砂浜海岸砕波帯におけるアユ仔魚の加入と移動過程を知るため,小型曳網による採集を11月から4月にかけてほぼ5日間隔で合計31回行った。採集量,サイズと日齢,滞在期間から,アユ仔魚の出現様式は「短期滞在群」と「長期滞在群」に区分された。「短期滞在群」は11月中旬から12月中旬に大量に砕波帯に加入し,体長25mm前後に達するまでの約1ヶ月間滞在した。砕波帯に大量加入した「短期滞在群」は,体長25mm前後に成長すると浅海域に分布域を広げることが示唆された。他方,12月中旬以降に加入した「長期滞在群」は,量的には少ないものの,体長40mm前後に達するまでの3-4ヶ月間滞在することが推測された。
69(2), 355-360 (2003)
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韓国産および日本産スサビノリから分離した赤腐れ病病原菌Pythium porphyraeのRAPDマーカーによる遺伝子多型解析

朴 贊善,柿沼 誠,坂口研一,天野秀臣(三重大生物資源)

 韓国の牙山,木浦,莞島,釜山産および宮城,愛知,福岡県産スサビノリから分離した赤腐れ病病原菌37株の遺伝子多型を調べるため,各分離株のRAPDマーカーにつき群平均法によるクラスター分析を行った。その結果,37分離株は宮城県の2分離株(グループ1),韓国牙山の全分離株および莞島の1分離株を含む他の日本分離株(グループ2),韓国分離株(グループ3)に分けられた。日本分離株間の遺伝的距離は,韓国分離株間のそれよりも大きかった。
69(2), 361-368 (2003)
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カナダ東部のヒバリガイModiolus modiolusにおけるマンガンおよび亜鉛の蓄積と相関

Chiu-Long Chou, Lisa Ann Paon, John Daniel Moatt, Vlaine Zwicker (BIO)

 カナダ東部の工業および非工業地帯3地点におけるヒバリガイ諸組織中のMnとZnの蓄積について検討した。すべての地点で消化管中に高い金属濃度が観察された。すべての地点および組織においてMnとZn含量には高い相関が認められた。異なる組織間でZn含量は直線回帰相関を示し,Mn含量は曲線回帰相関を示した。全軟体部のMnとZn含量は3地点で異なる回帰曲線を示し,ヒバリガイはこれら金属の環境モニタリングに有用と考えられた。これらMnおよびZnはヒバリガイにおいて何らかの機能を果していることが示唆された。

69(2), 369-378 (2003)
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エノキタケ粗抽出物水溶液によるエビの黒変現象防止効果

張 美順,真田愛子,潮 秀樹,田中宗彦,大島敏明(東水大)

 エノキタケの70%アセトン抽出物水溶液によるエビの黒変現象防止効果を調べた。アセトン抽出物水溶液はザリガニ血リンパおよびマッシュルームのチロシナーゼ活性を効果的に阻害した。陽イオン交換および陰イオン交換カラムに付して得た2種の非吸着画分を同体積のザリガニ血リンパと混合して色の変化を観察したところ,黒色メラニン生成を明らかに抑制することが観察された。さらに,サルエビをアセトン抽出物水溶液に浸漬することによって,エビの黒変現象を効果的に抑制することも見出した。以上の結果から,ポリフェノルオキシダーゼ(チロシナーゼ)による甲殻類の黒色を効果的に防止する天然物由来の添加物として,エノキタケ抽出物の応用が期待される。

69(2), 379-384 (2003)
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16S rDNAに基づく迅速グルーピング法を用いた沿岸環境におけるビブリオ属細菌の季節変動

前田俊道,松尾由佳,古下 学,芝 恒男(水大校)

 ビブリオ属細菌の迅速グルーピング法を,特異的PCRと制限酵素切断片長多型による16S rDNAの解析により開発した。46種のビブリオと8の類縁細菌を14のグループに迅速に分けることができた。この方法を用いて,響灘の吉見湾のビブリオの季節変動を調べた。海水と堆積物の両方において,Vibrio parahaemolyticus, V. alginolyticus, V. campbellii, V. carchariae, V. harveyi, V. natriegensのグループが海水温度が20℃を超えた時に優占し,20℃以下ではV. splendidus biotype IとV. lentusのグループが高い割合を占めた。

69(2), 385-394 (2003)
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塩分濃度変化がマガキの遊離アミノ酸量に及ぼす影響

細井公富(京大院農),久保田賢(高知大農),豊原容子(華頂短大生活),豊原治彦,林 勇夫(京大院農)

 マガキの浸透圧適応において,オスモライトとして重要な遊離アミノ酸を同定するため,浸透圧変化に応答した外套膜中の遊離アミノ酸量の変動を調べた。低浸透圧では,暴露後8時間までのタウリンの減少が顕著であった。高浸透圧では,アラニンが即座に増加した一方,タウリンは暴露後48時間以降に増加した。これらから,マガキの低浸透圧適応ではタウリンが,高浸透圧では短期適応にはアラニンが,長期適応にはタウリンが,オスモライトとして特に重要な役割を果たすことが示唆された。
69(2), 395-400 (2003)
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カラスガレイ皮の細胞外マトリックス成分による肝細胞増殖因子の誘導と細胞生育阻害

野口 誠,有福一郎,山下昭道(鳥取産技セ),佐藤建三(鳥取大医)

 カラスガレイReinhararditus hippoglossoidesの皮は食品加工において廃棄されている。この魚皮内の生理活性成分を単離する目的で,細胞外マトリックス成分による肝細胞増殖因子(HGF)の誘導活性と腫瘍細胞の増殖抑制活性を解析した。その結果,魚皮のアルカリ抽出画分(プロテオグリカン分画)に強いHGF誘導活性が見られた。さらに,このアルカリ抽出液をグルコサミノグリカンに分画したところ,デルマタン硫酸に最も強いHGF誘導活性が見られた。また,魚皮アルカリ抽出分画は数種の腫瘍細胞の増殖を抑制する効果も示された。これらの結果から,この魚皮は薬品のみならず機能性食品に役立つ素材であることが確認された。
69(2), 401-407 (2003)
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スルメイカの保管による外套膜透明感の変化

吉岡武也,木下康宣,吉野博之(道工技セ),朴 信虎,今野久仁彦,関 伸夫(北大院水)

 活スルメイカを即殺し0℃に保管した際の,外套膜の外観の変化を検討した。剥皮した外套膜のLと濁度の測定結果より,透明感は保管24時間後に失われていた。外套膜の厚さは,透明感の消失より速い保管12時間後に最大となったことより,透明感の変化の原因は,筋肉の収縮による構造変化のみではないと判断された。また,外套膜筋肉中のATPは24時間後にほぼ消失しており,透明感の低下と同調していた。表皮の発色は,保管24時間後に最大となり,外套膜の透明感の低下やATPの消失と類似していた。
69(2), 408-413 (2003)
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TMAOase(トリメチルアミン-N-オキシド脱メチル化酵素)の80℃における耐熱性と活性

木村メイコ(北大院水),木村郁夫(日水中研),関 伸夫(北大院水)

 TMAOaseはTMAOのジメチルアミンとホルムアルデヒドへの分解を触媒する酵素である。スケトウダラ筋肉から精製単離した本酵素は耐熱性であった。酵素のCDスペクトルは温度に依存して可逆的に変化したが,80℃においても活性を有していた。しかし,筋原繊維画分中の本酵素活性は30℃以上の加熱で著しく低下したが,加熱筋原繊維画分からは活性のある酵素が回収された。TMAOは高温下では試験管内で非酵素的にも分解された。スケトウダラ筋肉中のTMAOの分解は40℃以下では酵素的に,それ以上の温度では主に非酵素的に分解されることを推測した。酵素の耐熱性に基づいて簡便な精製方法を提案した。
69(2), 414-420 (2003)
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ウナギ属魚類の稚魚の耳石におけるアルカリ土類金属とMnの分布(短報)

新井崇臣,佐藤 暢,石井輝秋,塚本勝巳(東大海洋研)

 世界各地から採集された合計5種の熱帯ウナギと温帯ウナギの稚魚の耳石微量元素分析(Mg, Ca, Sr, Ba, Mn)を行い,元素の代謝過程について検討を行った。Srはすべての種で耳石中心部から60-110μm付近で急激な減少が見られた。これは,レプトケファルスからシラスウナギへの変態過程で,体組織のSr濃度の急減に伴って,耳石のSrも変態期に顕著に減少したものと考えられた。一方,BaやMnは耳石中心部から縁辺部に至るまで均一に分布していた。これらの結果から,ウナギ稚魚の耳石微量元素の変化は外的(水温,塩分)な環境変化とは異なる要因で起こるものと考えられた。
69(2), 421-423 (2003)
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漂着重油中の多環芳香族炭化水素をMycobacterium sp.で分解した際の変異原性への影響(短報)

峯木 茂,菅原二三男,太田詠二(東京理科大),松尾 勝(筑波大),任 恵峰,林 哲仁(東水大),後藤純雄(国立環境研)

 重油は種々の変異原性物質を含むが,汚染箇所のバイオオーギュメンテーションを行うことにより,その代謝物等で汚染をかえって進行させてはならない。そこで,漂着重油中の有害な多環芳香族炭化水素(PAHs)をMycobacterium sp. H2-5で分解した際の変異原性への影響を検討した。漂着重油をH2-5株で処理後ベンゼン抽出した。ベンゼン画分の変異原性はコントロールと同様にS9mix添加時に濃度依存的であり,60日の処理期間中ほとんど変化しなかった。一方,水層は変異原性を示さなかった。従って,H2-5株による漂着重油中のPAHの分解により,かえって汚染を進行させるような恐れはないと考えられた。
69(2), 424-426 (2003)
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スルメイカ肝臓キチナーゼアイソザイムの精製と性質(短報)

松宮政弘,宮内浩二,望月 篤(日大生物資源)

 スルメイカ肝臓から硫安分画およびアフィニティー,イオン交換,吸着カラムクロマトグラフィーを用いてキチナーゼを精製した。精製酵素の分子量は42kDa,等電点は9.2であった。グリコールキチンに対する最適pHは3.5と7.0に,最適温度は60℃に,安定なpHは4~5付近であり,Zn2+, Ni2+およびBa2+により賦活された。また,本酵素はエキソ型キチン分解酵素の基質およびMicrococcus lysodeikticusを分解しなかった。これらの結果より,本酵素は先に報告した38kDaキチナーゼのアイソザイムと示唆された。
69(2), 427-429 (2003)
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訂正(Corrigendum)

 69巻2号に掲載したFisheries Scienceの報文要旨に誤りがありました。ご訂正ください。

取消 p279

Red drum稚魚の攻撃的摂餌行動における感覚機構の役割

廖 一久,張 怡頴(台湾水試)

追加 p279

天然および養殖メバルにおける酸素消費量の日周変化の比較

尹 成珍,金 鍾觀(海洋環境気候研),明 正求,金 浣洙(韓国海洋研)

 天然および養殖メバルの酸素消費率(OCR)を間欠流水式呼吸室を用いて測定した。天然魚のOCRは概潮汐リズムに相当する12.4時間の周期で極大値を示した。捕獲した天然魚を12L:12Dの飼育環境に30日間置くと,OCRは概日リズムに移行した。9か月間水槽で飼育した養殖魚のOCRは概日リズムに相当する24時間周期の極大値を示した。本研究の結果から,天然魚と養殖魚におけるOCRの変動リズムの相違は,主として潮汐リズムのある場所にいるかいないかという環境条件の違いによるものと推察される。
69(2), 430 (2003)

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