Fisheries Science 掲載報文要旨

再生産成功指数を用いたマサバ資源の回復方策

河合裕朗(東大海洋研),谷津明彦,渡邊千夏子,三谷卓美(中央水研),勝川俊雄,松田裕之(東大海洋研)

 マサバ太平洋系群は,1990 年代に 2 度,卓越年級群が発生したにもかかわらず,成熟するまでにほとんど漁獲され,資源は回復しなかった。未成魚を保護することの効果を見積もるため,(0) 90 年代の漁獲圧,(1)卓越年級群保護,(2)高水準期の平均漁獲死亡係数の維持,(3)方策 2 からさらに漁獲率を半減させる方策を比べた。これらのうち,方策 3 が 1992 年から 1999 年の累積漁獲量が最大になり,かつ最終資源量も最高になった。さらに,現在の漁獲圧を今後も続けた場合,20 年後までに資源が回復する可能性は 0.2% 以下であった。方策 3 を採った場合,10 年後に資源量が 300 万トン以上に回復する可能性は 40% と推測された。
68(5), 963-971 (2002)
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マアナゴの胚と仔魚の発生

堀江則行,宇藤朋子,山田祥朗,岡村明浩,張  寰,三河直美,赤澤敦司,田中 悟,岡 英夫(いらご研)

 催熟したマアナゴ雌の成熟卵を自然に成熟したマアナゴ雄の精子で受精させ,水温 12~14°C の海水中に収容し観察した。媒精 4 時間後に第一卵割が起こった。媒精 24 時間後に被覆が始まり,38 時間後に胚体が形成され,84 時間後から孵化が始まった。孵化直後の仔魚の外部形態はニホンウナギのそれに類似しており,全長は約 2.5 mm であった。孵化 7 日後に口と肛門が開口した。10 日後に尾部に色素が現れた。11 日後には全長約 8 mm に達した。14 日後には眼球に色素が沈着し始めた。無給餌で孵化 19 日まで生存した。

68(5), 972-983 (2002)
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クロソイの視精度と分光感度特性

鳥澤眞介,平石智徳,山本勝太郎,梨本勝昭(北大院水)

 視覚による行動制御の試みられているクロソイの視覚特性として視精度,遠近調節能力,分光感度特性を求めた。
 視精度は網膜切片の錐体密度から算出した。供試魚の視精度は 9.5 分~10.7 分,視力にして 0.09~0.11 であった。さらに,遠近調節能力を水晶体移動の測定により求めた。焦点の合う範囲は全長の 0.74 倍の最近点から無限遠方までとなり,その方向は前方から 16°上方であった。
 また,分光感度特性は水平細胞の活動電位である S 電位を導出することにより求めた。供試魚 45 尾から 300 の細胞の S 電位を記録した。確認できたすべての応答が刺激光の全範囲で過分極し,522 nm の付近で最大応答を示した。
68(5), 984-990 (2002)
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23°C で飼育したハタ Epinephelus malabaricus のグルコースとデンプンの利用性

S.-Y. Shiau and Y.-H. Lin(台湾海洋大))

 平均体重 4.95 g のハタを水温 23°C で 8 週間,魚粉をタンパク源とした飼料に,14.3% のグルコース(Glu)あるいはコーンスターチ(CS)を加えて飼育した。その結果,成長,飼料効率とも CS 区の方が優れていた。肝臓中の糖代謝酵素を測定したところ,ヘキソキナーゼおよびグルコース 6 リン酸脱水素酵素活性は CS 区の魚の方が、グルコース 6 ホスファターゼ活性は Glu 区の魚の方が有意に高かった。飼育結果および肝臓中の糖代謝酵素活性から,23°C で飼育したハタでは炭水化物源として Glu よりも CS の方が利用性が高いことがわかった。
68(5), 991-995 (2002)
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マダイ仔魚の摂餌機能の発達

茂木正人(福山大海洋生物工)

 マダイ仔魚の摂餌関連骨格の発育を観察し,摂餌機能の発達を明らかにした。開口後 11 時間(11 HAMO)までに,口腔を形成する基本的な要素が出現した。開口時間を基準とした摂餌様式の変化の過程は,骨格要素の出現,化骨および成長様式に基づき 3 段階に分けられた:1)吸い込み摂餌初期(24~80-100 HAMO):骨格要素の大型化,2)吸い込み摂餌発達期(~200-220 HAMO):骨格要素の増加,3)移行期(吸い込み+くわえ込み摂餌;200-220 HAMO~):骨格要素の増加と大型化,化骨の開始,歯の出現。この発育区分は,これまでに報告されている,飼育下での栄養転換様式に基づく発育区分および天然水域で観察されている餌料組成の変化と対応している。

68(5), 996-1003 (2002)
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ヒラメ仔稚魚から分離した腸内細菌の病原細菌に対する抗菌活性

杉田治男,岡野隆司,鈴木由起子,岩井梯作,水上勝允(日大生物資源),秋山信彦(東海大海洋),松浦聖寿(日大生物資源)

 飼餌料では Aeromonas, Bacillus, coryneforms, Vibrio などが優占したのに対し,仔稚魚の腸管では Aeromonas, Moraxella および Vibrio が優占した。腸管由来菌の 1.7~24.3% が L. garvieae, P. piscicida, V. anguillarum および V. vulnicus に対して抗菌活性を示し,特に孵化 197 日後に分離した Vibrioothers の 53.3% が P. pisicicida の増殖を阻害した。これらの結果から,病原細菌に対して抗菌作用をもつ腸内細菌が感染症予防の効果を発揮することが期待された。
68 (5), 1004-1011 (2002)
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西部瀬戸内海海底泥中における有毒渦鞭毛藻 Alexandrium spp. シストの現存量と水平分布

山口峰生,板倉 茂,長崎慶三,小谷祐一(瀬戸内水研)

 西部瀬戸内海における Alexandrium spp. シストの現存量と水平分布を調べた。周防灘,伊予灘,別府湾におけるシストの分布範囲は狭く,その密度も低かったが,安芸灘,燧灘,備後灘では低密度ながら広範囲に検出された。徳山湾と広島湾では全調査点でシストが検出され,最大密度もそれぞれ 8,137 と 4,454 cysts/cm3 湿泥と非常に高かった。本結果に基づき,西部瀬戸内海におけるシスト分布の特徴と麻痺性貝毒発生の可能性を考察した。
68(5), 1012-1019 (2002)
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台湾北東海岸に生息するフクトコブシの炭素と酸素の安定同位体分析による野生集団と人口放流種苗集団の識別と生息量の試算

李 英周,郭 晃豪(台湾大漁),陳 于高(台湾大地質)

 台湾産フクトコブシ Haliotis diversicolor の野生集団と放流種苗集団の識別を炭素同位体の分析によって試みた。フクトコブシとその死殻は,台湾北東海岸 Mao Aw 湾において,潜水により 80 cm 四方枠を用いて採集した。野生集団と放流種苗の生息密度・生息量および放流種苗の生残率を 1997 年と 1998 年に調べた。資料の年齢は,酸素の同位体比と水温の逆相関関係に基づき,各月の水温から推定した。その結果,安定同位体による分析は,両集団の識別,生息密度・生息量の見積りに有効な方法であることが確認された。

68(5), 1020-1028 (2002)
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クローンギンブナの高水温耐性と初代培養細胞による形質評価

阪本憲司(福山大生命工),Worawut Koedprang,中嶋正道,谷口順彦(東北大院農)

 クローンギンブナ 3 系統(SCC-1, -2, -3)の稚魚における高水温耐性の差異を調べ,生体の耐性能と尾鰭由来初代培養細胞の高温感受性との関連を調査した。水温 20°C で飼育していた供試魚を水温 36.5±0.5 °C に設定した水槽に収容し,死亡までに要した経過時間を測定した。その結果,SCC-1 系統が最も高い耐性能を有していた。尾鰭由来初代培養細胞の高温感受性は,37, 40, 43°C でインキュベート後の細胞生残率として求めた。その結果,SCC-1 由来の細胞で最も高い生細胞率が得られた。このことから,生体と初代培養細胞の高温耐性に関連がみられた。
68(5), 1029-1033 (2002)
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東北沖陸棚斜面域に分布するオオクチイワシ(ハダカイワシ科)の食性

内川和久(遠水研),山村織生(北水研),北川大二(東北水研八戸),桜井泰憲(北大院水)

 東北沖・太平洋側の陸棚斜面域おけるオオクチイワシ Notoscopelus japonicus の食性を調べた。主要餌生物はカイアシ類やオキアミ類などの浮遊性甲殻類であった。それらのうちツノナシオキアミ Euphausia pacica が卓越し,餌生物中に占める割合は個体数で 83.1%,湿重量で 72.4% であった。4 月と 10 月で,オオクチイワシの餌生物組成に差異は認められないが,10 月の餌生物サイズは有意に小さく,捕食個体数は有意に増加していた。これらのことから,オオクチイワシは餌生物種を季節的に変化させず,10 月に小型のツノナシオキアミを数多く捕食することが示された。オオクチイワシの食性におけるツノナシオキアミの重要性は,両者の鉛直分布が昼夜とも大きく重複していることで生じたものと推察された。
68(5), 1034-1040 (2002)
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ラージマウスバスの色覚,遠近調節,視力

川村軍蔵,岸本利久(鹿大水)

 本研究は,視覚効果を意図したバス用ルアーの改善に必要なラージマウスバスの視覚に関する知見を得ることを目的とした。電気生理学的手法を用いて網膜から記録した S 電位に C1 型と 3 種の L 型がみられたことより,この魚は色覚を持ち,長波長の光に高い感度をもつと結論された。死の前後のレンズの移動方向は体軸方向の視軸を示し,移動距離より計算された遠近調節の近点は 13.5 cm 前方であった。網膜の錐体密度より視力は 0.10 と推定された。
68(5), 1041-1046 (2002)
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雑種チョウザメ(ベステル F2)の性分化に及ぼすホルモン投与の影響

尾本直隆,前林 衛(北電総研),三橋絵吏,吉冨耕司,足立伸次,山内晧平(北大院水)

 エストラジオール-17β(E2)および 17α-メチルテストステロン(MT)の経口投与が,チョウザメの生殖腺の性分化過程に及ぼす影響を調べた。ホルモン投与は,第 1 実験では孵化後 14~31 ヵ月,第 2 実験では 3~18 ヵ月に餌料に添加して行った。第 1 実験では,MT 投与群の性比に大きな偏りはなく,E2 投与群は殆どが雌に分化したものの,約半数の個体は卵巣特有の薄板構造が観察されなかった。一方,第 2 実験では,E2 投与群の 97% が雌に,MT 投与群の 93% が雄に分化した。
68(5), 1047-1054 (2002)
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霞ヶ浦産雄コイおよびゲンゴロウブナの血漿中ビテロジェニンの測定

松本 建,小林牧人,二瓶義明,渡部終五(東大院農),金子豊二(東大海洋研),深田陽久,平野香織,原 彰彦(北大院水)

 内分泌撹乱化学物質の雌性ホルモン作用による魚類の生殖活動への影響を調べるために,霞ヶ浦の雄コイおよびゲンゴロウブナの血漿中ビテロジェニン(VTG)濃度を測定した。ほとんどの個体で VTG は検出限界(40 ng/ml)以下であったが,少量の VTG が検出される個体も見られた。しかし,これらの魚の精巣組織像および血漿中の性ホルモン濃度に異常は見られず,今回採集した魚において内分泌撹乱化学物質の生殖活動への影響は認められなかった。
68(5), 1055-1066 (2002)
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サケ科魚類の水カビ病発生に関与するミズカビの病原性

Hussein M. A. Mortada,畑井喜司雄(日獣大)

 水カビ病罹病ベニザケから分離された Saprolegnia salmonis NJM 9851 と Saprolegnia parasitica NJM 9868 の病原性を網もみ処理した 5 種類のサケ科魚類に対して試験した。S. salmonis NJM 9851 の遊走子で感染試験を実施した結果,最終 6 日後までの水カビ病による死亡率はブラウンマスで 90%,マスノスケで 93.3%,ニジマス,ヤマメ,イワナで 100% であった。また,S. parasitica NJM 9868 の場合にはすべての魚種で 100% であった。病理組織学的検査の結果,患部に表皮の喪失,皮下織の水腫,筋組織の変性などが見られた。両菌株はサケ科魚類に陽性対照の病原性 S. parasitica H2 と同様に強い病原性を有することが明らかとなった。

68(5), 1067-1072 (2002)
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cDNA クローニングと質量分析によるメバチ・プロオピオメラノコルチン関連ペプチドの検出

高橋明義,雨宮 裕(北里大水),安田明和(サントリー生有研),目黒 煕(東北福祉大感性研),川内浩司(北里大水)

 コルチコトロピン,メラノトロピンおよび β-エンドルフィンの前駆体であるプロオピオメラノコルチン(POMC)の cDNA を,メバチ下垂体からクローン化した。次に,下垂体(1 個)抽出物の HPLC 分画物を質量分析し,得られた値を当該翻訳アミノ酸配列と照合した。その結果,メバチ POMC からプロセッシングにより生じる 8 種のペプチドを検出した。本法により,微量生体試料からの POMC 関連ペプチドの検出法を確立した。
68(5), 1073-1080 (2002)
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漁具の選択曲線の数値推定値を計算する方法

田中栄次(東水大)

 数値積分の手法を応用し,選択曲線の関数型を仮定せずにそれを推定する方法を提案した。選択性に関して石田の方法と同様に幾何学的相似性を仮定する。選択曲線はその自然対数の導関数を集計して再現される。導関数の値は目合が異なる刺網の漁獲試験から推定する。誤差評価はブートストラップ法で行う。この方法をカラフトマスのデータに適用した結果,石田の方法などと類似した結果を得た。データの収集や課題について議論した。
68(5), 1081-1087 (2002)
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珪藻類に替わるアワビ Halitos discus R. 稚貝用微粒子飼料

A. Stott,竹内俊郎,小池康之,山川 紘(東水大),今田 克(今田技術士事務所)

 殻長 853±166 μm のアワビ稚貝を各区 114 個体ずつ 10 L の水槽に収容後,水温 14°C で 4 週間,3 種類の異なる微粒子飼料を用いて飼育し,成長と生残に及ぼす影響を付着珪藻類と比較した。なお,実験は 1 区 3 水槽とした。
 その結果,成長は珪藻類を含め各区の間に差は見られなかったが,生残率は珪藻区が 19.5% であったのに対して,3 種類の微粒子飼料区では 39-44% と有意に優れていた(p<0.05)。しかし,微粒子飼料のサイズ(27,44 および 69 μm)や飼料組成の違いによる差はなかった。本結果は微粒子飼料の有効性を示している。
68(5), 1088-1093 (2002)
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アワビの成長に伴う微量金属元素の取り込みと排出

新井崇臣(東大海洋研),前田 勝,山川 紘,鎌谷明善(東水大),宮崎信之(東大海洋研)

 アワビ生体内の微量元素の濃度や分布が成長段階,元素の性質等によってどのように変動するか明らかにした。筋肉中の Cd と Pb の濃度は 0 才から 8 才への成長に伴って減少する傾向が見られた。Zn 濃度は地域によって成長と負の相関を示したり成長に伴う相関を示さない 2 種類の傾向が見られた。一方,筋肉中の Cu と Mn 濃度は成長に伴う相関は見られなかった。アワビの成長に伴って微量金属元素の生体中への取り込みあるいは排出の機能に変化が生じたものと考えられた。環境条件の違いによる微量元素の取り込みの特異性を調査するため,同一年令(5 才)の試料について分析結果を比較したところ,筋肉中の各微量金属元素濃度に海域差が見出された。この差は生息環境の相違を反映したものと推察された。
68(5), 1094-1098 (2002)
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飼育ニシン雄の初回成熟時の精巣発達と血中ステロイドホルモンの動態

古屋康則(岐阜大教育),征矢野清(長大水),山本和久,尾花博幸(日栽協),松原孝博(北水研)

 ニシンの精子形成は 1 年魚 7 月に始まり,その後活発化して 12 月にはほぼ完了し,翌年 4 月に産卵した。血中テストステロン濃度は精子形成期を通じて低値で推移したが,11-ケトテストステロン(11-KT)は精子形成期に増加し,1 月には 6.6 ng/ml の最高値を示した。これは 11-KT が精子形成を調節する主要なホルモンであることを示唆する。血中 17α, 20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オンは産卵期にのみ高値を示し,排精に関与すると考えられた。
68(5), 1099-1105 (2002)
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繁殖ポテンシャル:生物資源の長期的繁殖力の評価

勝川俊雄,松田裕之,故 松宮義晴(東大海洋研)

 水産資源の管理基準は,産卵親魚バイオマス(SSB)で設定される場合が多い。しかし,SSB には未成魚の潜在的な産卵能力を評価できないという問題点がある。筆者らは繁殖ポテンシャル(PRP)という資源の長期的な繁殖力の指標を提唱した。PRP とは,現存資源のこれから先における生涯産卵量の期待値である。本研究では,PRP の有効性を解析的に示すとともに,クロマグロ西大西洋系群の資源評価へと適用した。PRP はシミュレーションによって求めたクロマグロの長期的持続性と同一のトレンドを示した。成熟齢が高く,年齢構成が不安定な資源の評価には,高齢魚の動態に強く影響される SSB よりも PRP が有効である。
68(5), 1106-1112 (2002)
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スサビノリ(紅色植物門,ウシケノリ目)純系 3 株の遺伝情報

飯塚 治(北大院水),中村佳代,尾崎照遵,岡本信明(東水大),嵯峨直恆(北大院水)

 アマノリ属植物は,海洋における基礎・応用両面での研究のモデル植物として注目されつつある。AFLP (Amplied Fragment Length Polymorphism) は,植物ゲノムの遺伝地図の作成や育種に重要な形質の連鎖解析等の手段として用いられている。AFLP マーカーが遺伝地図作成に適用可能かどうかを確認するため,純系株の作出と AFLP マーカーによる多型解析を行った。3 つの純系株から DNA を抽出し,AFLP マーカー 5 セットにおいて多型性の検出を行い合計 227 本の多型バンドを確認した。この結果,AFLP がスサビノリの多型解析に用いることが可能であることが示唆された。
68(5), 1113-1117 (2002)
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マダイ筋肉における V/XI 型コラーゲン α1 鎖の翻訳産物と分解産物の免疫学的手法による検出

東畑 顕,徳田有希,坂口守彦,豊原治彦(京大院農)

 V/XI 型コラーゲン α1 鎖の翻訳・分解産物を,マダイ筋肉において検出するために,C テロペプチドに対する特異的抗体を用いてウエスタンブロット分析を行った。筋肉から調製した酸可溶性およびペプシン可溶性コラーゲンにおいては,V/XI 型コラーゲン α 鎖および β 鎖に相当するバンドが認められた。また,筋肉アルカリ抽出画分では,分子量約 65 k の位置にバンドが認められたことから,V/XI 型コラーゲン α1 鎖が限定的に分解されていることが示唆された。
68(5), 1118-1123 (2002)
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FHMsp 細胞に対する界面活性剤の細胞毒性

森 真朗(都環境研),川久保尚弥(東薬大),若林明子(都環境研)

 ファットヘッドミノー由来浮遊培養系 FHMsp 細胞に対する 8 種類の陽イオン,陰イオン,両性イオン,非イオン界面活性剤の毒性をニュートラルレッド法により調べた。界面活性剤の毒性順は,陽イオン>陰イオン>非イオン>両性イオン界面活性剤であった。FHMsp 細胞の SDS に対する感受性は,いくつかの哺乳類由来細胞と同等若しくはより高い傾向が認められた。細胞単層形成前に界面活性剤を細胞に曝露する方法により,アッセイに要する時間を短縮することができた。魚体を用いる毒性試験の前に行うスクリーニング試験に FHMsp 細胞を利用するには,両者の相関性に関する検討が必要である。
68(5), 1124-1128 (2002)
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コイ背部普通筋中へのピンク筋の介在が K 値の経時変化に及ぼす影響

矢田 修,槌本六秀,槌本六良,王 勤,Paula Andrea Gomez Apablaza,橘 勝康(長大海研)

 コイを用い,背部普通筋へのピンク筋の介在が,死後の K 値変化に及ぼす影響を明らかにしようとした。深さ方向の筋タイプの構成は,血合筋部が赤筋のみ,中間筋部がピンク筋のみ,普通筋部が白筋(サブタイプⅡa 或いはⅡb)とピンク筋からなっていた。K 値変化は,血合筋,中間筋,普通筋の順位で速く,ピンク筋が介在した普通筋の深さ方向の 3 部位では,K 値変化に顕著な差は認められなかった。筋タイプの違いによる K 値変化は,赤筋,ピンク筋,白筋の順位で速かったことから,背部普通筋へのピンク筋の介在は死後の K 値変化を速めると考えられた。
68(5), 1129-1137 (2002)
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トリガイ足部の加熱処理および貯蔵による呈味およびテクスチャーの変化

米田千恵(お茶女大生活科学),笠松千夏(鎌倉女大家政),畑江敬子(お茶女大生活科学),渡部終五(東大院農)

 トリガイ足部の 85°C 加熱および 4°C 貯蔵による食味の変化について調べた。加熱処理によりトリガイ足部の重量は減少し,硬さが増した。遊離アミノ酸および AMP 量は加熱試料より生試料に多く含まれていたが,官能評価では,生試料は生臭さが強かった。4°C で 10 日間までの貯蔵により,生試料では黒紫色の退色が著しかったが,加熱試料では色調が保持され,組織は強靭であった。生試料の ATP および関連化合物の消長は,貯蔵 5 日目以降の変化が大きかった。
68(5), 1138-1144 (2002)
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スケトウダラ・ミオシンの加熱による LMM 領域における構造変化と凝集

樋口智之,尾島孝男,西田清義(北大院水)

 スケトウダラ・ミオシンとそのライトメロミオシン(LMM)の加熱による構造変化と凝集性を円二色性,ANS 蛍光,および光散乱により検討した。まず,ミオシンを加熱すると,40°C 前後で α-ヘリックスの崩壊が主に LMM 領域で,また疎水性の増大と凝集が主に HMM 領域で起こり始めることが分かった。一方,LMM を単独で加熱しても凝集沈殿せず,また HMM とともに加熱しても共凝集しなかったが,ミオシンとともに加熱すると共凝集体を形成した。以上の結果,LMM はミオシンの LMM 領域と会合することによって,共凝集体を形成するものと思われた。このことは,ミオシンの加熱ゲル化が LMM の添加により阻害されたことからも支持された。

68(5), 1145-1150 (2002)
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分離したホタテガイ Patinopecten yessoensis 外套膜へのミネラルの吸着

船木 稔(北見工大),山本淳二,西澤 信(共成製薬),山岸 喬(北見工大)

 分離したホタテガイの外套膜が Zn, Ca, Mg, Fe, Cu, Ni および Co を 1 % 以上吸着することを明らかにした。外套膜を 5 % の硫酸亜鉛,塩化カルシウム,硫酸マグネシウムを用いて室温で処理した場合,吸着される Zn, Ca および Mg の量は乾燥重量あたり,それぞれ 44.3, 47.2 および 15.5 mg/g であった。吸着される Zn, Ca および Mg の量は処理に用いる塩溶液の濃度に依存していた。  分離した外套膜が栄養学的に重要なミネラルを吸着することが示されたのは初めてであり,新しいミネラル補給用食品素材の開発につながる可能性がある。
68(5), 1151-1154 (2002)
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東シナ海で採集された沖合域初記録のマアナゴ葉形仔魚(短報)

黒木洋明(中央水研),望岡典隆(九大院生資環),高木保昌,多部田修(長大水)

 長崎大学練習船長崎丸によって沖合域初記録となるマアナゴ葉形仔魚が東シナ海中央部で採集された。仔魚は 1997 年 4 月 4, 5 日に済州島南方約 200 km の大陸棚上(水深 69-90 m)で実施したオッタートロールの袖網部(12 個体),および同時に同海域で実施した口径 2 m の稚魚ネット(目合 0.5 mm)のステップ曳網(2 個体)で得られた。仔魚の全長は 83.1-97.5 mm,肛門前筋節数/総筋節数は 0.83-0.87 で,外部形態による発育段階は伸長期であった。仔魚は大陸沿岸水域あるいは大陸沿岸水と対馬海流水域とのフロント付近に出現した。
68(5), 1155-1157 (2002)
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初期生活期におけるイカナゴ耳石輪紋の微細構造(短報)

塚本洋一(瀬戸内海水研),山田浩且(三重水技),銭谷 弘(瀬戸内海水研)

 イカナゴの孵化後の初期成長を明らかにする目的で,光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いて耳石の輪紋形成について観察を行った。孵化時のイカナゴの耳石は半径約 7.5-9.5 μm(平均 8.5 μm)であり,この位置に明瞭なチェックリングが存在した。本種耳石の半径約 20-30 μm 以下の帯域は,光学顕微鏡下の観察では正確な輪紋の計数・計測が不可能であったが,走査型電子顕微鏡で観察すると明瞭な輪紋が観察できた。これらの輪紋は間隔が 0.4-0.7 μm で,この値は光学顕微鏡における実際の最小解像度を下回っていた。

68(5), 1158-1160 (2002)
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香港における渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama の初記録(短報)

岩滝光儀(東大院農),王 明華(香港漁農自然護理署),福代康夫(東大アジアセ)

 香港で 1986 年と 1987 年に発生した赤潮が,渦鞭毛藻の Heterocapsa circularisquama によるものであることが固定プランクトン試料の観察によりわかった。同種は二枚貝大量斃死原因種として 1988 年以降西日本沿岸のみから報告されていたが,今回の調査により本邦で記録される以前から香港に出現していたことが確認された。同種は,下殻上部にデンプン鞘で囲まれたピレノイドがあり,鎧板配列は Po, cp, 5', 3a, 7", 6c, 5s, 5"', 2""であった。また,透過電顕により多数の細胞鱗片が確認され,その細胞鱗片は H. circularisquama の原記載にある形と一致した。
68(5), 1161-1163 (2002)
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