Fisheries Science 掲載報文要旨

カツオ節製造過程における減圧処理によるカツオ煮熟肉へのくん煙浸透の効果

Simson Masengi(鹿大連農研),進藤 穣,御木英昌(鹿大水)

 節製造の焙乾工程において,煮熟直後の減圧処理がカツオ肉へのくん煙成分(フェノール類)の浸透に及ぼす効果および品質に及ぼす 2 次的効果について検討した。減圧処理は,真空凍結乾燥器中(400 Pa)で 30 分間行った。その後,くん煙材(桜チップ)を用いて,1 日 3 時間の焙乾操作(90±10℃)を 6 日間繰り返し行った。その結果,焙乾後の脂質量と水分量は,減圧処理をしない煮熟肉に比べ,それぞれ 0.6% と 2.7%(湿量基準)程度少なかった。減圧処理をした煮熟肉の筋肉線維間に空隙が生じ,くん煙成分の浸透が容易になると思われた。したがって,減圧処理によってカツオ煮熟肉のフェノール類が増加し,抗酸化作用が付与されて品質が向上したものと考えられた。
68(3), 459-464 (2002)
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異なる光周期におけるティラピア Oreochromis niloticus 稚魚の給餌と無給餌時の代謝量およびエネルギー損失

Amal K. Biswas,遠藤雅人,竹内俊郎(東水大)

 平均体重 8.6 または 9.5 g のティラピア稚魚を用いて,異なる光周期(3L:3D; 6L:6D; 12L:12D; 24L:24D)における給餌および無給餌時の酸素消費量を測定し,両者間の酸素消費量の差から求めた代謝量やエネルギー損失を算出した。測定には密閉式循環濾過水槽を用い,魚を収容した水槽の入口と出口に自動の溶存酸素計を設置し,水温 28℃ で測定した。給餌の有無にもかかわらず,酸素消費量は明暗周期に同調したリズムが見られた。給餌と無給餌の平均酸素消費量から算出したエネルギー損失は明期と暗期のサイクルが短くなるほど増加する傾向が見られた。
68(3), 465-477 (2002)

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チャイロマルハタ仔魚の卵黄吸収,摂餌開始,成長,生残に及ぼす塩分,エアレーション,照度の影響

ジョベルト トレド,ノラ カベロイ,ジェラルド キニチオ カシアノ コレスカ Jr.(SEAFDEC),中川平介(広大生物生産)

 チャイロマルハタ Epinephelus coioides 種苗生産過程には不明な点が多いので,本研究では種苗生産技術向上のため仔魚の至適飼育条件を求めた。孵化仔魚を 1500 尾/40 L の密度で異なる塩分(8, 16 24, 32, 40 ppt),エアレーション強度(0, 0.62, 1.25, 2.50, 3.75 mL/min/L),照度(0, 120, 230, 500, 700 lx)で 4~6 日間飼育して飼育条件と仔魚期の油球の吸収状態,摂餌開始,成長との関係について検討した。孵化仔魚の生残から至適条件を求めた結果,塩分濃度 16~24 ppt,エアレーション強度 0.62-1.25 mL/min/L,照度 500~700 lx の条件が有意(p<0.05)に良好な結果を示した。
68(3), 478-483 (2002)

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コイ消化管組織内における亜鉛結合タンパク質の局在

王 明雄,荘 佩棋,孫 藍天,鄭 森雄(台湾海洋大)

 コイの消化管における亜鉛結合タンパク質の局在性を,亜鉛と結合型 SH 基の分布を指標として検討した。細胞分画を行ったところ,亜鉛結合タンパク質は核細胞残渣画分に回収された。この画分をコラゲナーゼ処理し,ショ糖濃度勾配遠心分離で分画したところ,50% 以上の亜鉛結合タンパク質が遊離した。組織学的観察の結果と合わせて,亜鉛結合タンパク質は主に消化管上皮細胞とその周辺に存在する筋肉細胞の側底膜部位に分布し,基底膜のIV型コラーゲンと結合している可能性が示唆された。
68(3), 484-493 (2002)

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ヒラメの成長ホルモン遺伝子多型と成長との関係

姜 汀河,李 相俊,朴 承烈,柳 浩英(韓国水産振興院生物工学)

 本研究ではヒラメ成長ホルモン遺伝子の多型とその成長とした形質との関係について調べた。Southern blot により,ヒラメ成長ホルモン遺伝子は単一コピーであることがわかった。また,ヒラメ成長ホルモン遺伝子全領域の PCR 増幅の結果,本遺伝子にはサイズ多型が存在することが確認された。その多型と成長との関係を調べるために,体重によって分けた大・中・小 3 グループ(各 20 個体)における多型を分析したところ,6 つのハプロタイプによる 15 の遺伝子型が観察された。それぞれの体サイズグループ間には,そのハプロタイプおよび遺伝子型の頻度に有意的差があることが確認された。
68(3), 494-498 (2002)

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煮熟と蒸煮アワビ肉の微細構造と物性

高  折,田代有里,小川廣男(東水大)

 アワビ肉の煮熟肉と蒸煮肉の粘弾性と組織構造および水分移動を比較した。組織観察から,加熱に伴い両者とも筋線維間の空隙は増大したが,組織構造の変化は煮熟の方が大きかった。加熱 1 時間の瞬間弾性率は両者ともほぼ同じであったが,緩和時間は蒸煮肉の方が大きく増大した。更に 3 時間まで加熱する間に瞬間弾性率は煮熟肉において,大きく減少し,逆に,緩和時間は加熱 1 時間と同様に蒸煮肉の方で大となった。以上より,煮熟と蒸煮アワビ肉の違いは,加熱 1 時間では筋原繊維の熱変性の程度に,更に 3 時間までの加熱では,水分と固形分の流出および水交換の差異に起因するものと思われた。
68(3), 499-508 (2002)
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ヒラメの成長と生化学的指標に及ぼす飼料中のアルギニンおよびリジン含量の影響

MD. シャーアロム,手島新一,石川 学,越塩俊介(鹿大水)

 飼料中のアルギニン(Arg)とリジン(Lys)含量の不均衡がヒラメの成長と生化学的指標に及ぼす影響を明らかにするために,Arg および Lys 含量の異なる 5 種類の試験飼料を給与し,ヒラメ稚魚(平均体重 1.85 g)を 40 日間飼育した。飼料 Arg または Lys の欠乏は,生残率,日間成長率,飼料効率およびタンパク蓄積率に有意に影響した。しかし,Arg または Lys が飼料中に適当量添加された場合には Arg または Lys の過剰添加による成長の低下はみられず,Arg と Lys の間には拮抗作用を生じないと示唆された。
68(3), 509-516 (2002)
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エダコモンサンゴ(Montipora digitata)における脂質分布

屋 宏典(琉球大農生資),山城秀之(名桜大観光),翁長恭子,岩崎公典,高良健作(琉球大農生資)

 サンゴにおける脂質の代謝様式を探るためエダコモンサンゴ(枝状サンゴ)の部位別脂質組成を調べた。エダコモンサンゴは沖縄北部瀬底島の礁原上から採集した。枝の先端から上部,中部,下部の部位別に脂質を抽出し,組成を調べた。貯蔵脂質であるトリアシルグリセロール,ワックスエステル濃度は上部より下部において高く,構造脂質であるステロールおよびリン脂質濃度は逆に下部より上部で高くなる傾向にあり,先端部では脂質利用が亢進或いは脂質合成が低下していることが示唆された。トリアシルグリセロール,ワックスエステル,リン脂質いずれの脂質画分においても下部でパルミチン酸濃度が高くなる傾向にあった。
68(3), 517-522 (2002)
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台湾北東海域におけるキントキダイの繁殖価推定

劉 光明,洪 國尭(台湾海洋大)

 生活史パラメタを用いて資源解析を行い,台湾北東海域におけるキントキダイの繁殖価を推定した。年間自然死亡率 0 歳で 10.4920/yr, 1~9 歳で 0.3256/yr,最高齢を 9 歳とし生命表を作成した。産卵数サイズに指数的に比例し,成熟率は成熟率と尾叉長の関係から推定した。漁獲死亡率の増加によって,純繁殖価,世代時間および内的自然増加率は減少した。年齢別の漁獲死亡率を F=1.2/yr で固定し,3 歳から漁獲し始めると資源は平衡状態を保った。漁獲開始が成熟年齢以上なら強い回復力を持つ。0 歳の死亡率が最も敏感なパラメタであった。
68(3), 523-528 (2002)
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テナガエビの進入と脱出からみた小型かごの漁獲について

山根 猛(近大農),平石智徳(北大院水)

 テナガエビのかごへの進入と脱出は,かごの入り口の構造と内部における個体群過程の影響を受ける。かご内の個体数変動と個体群過程の関係を解明するために,無餌かご内の個体数変動についてモデル式と野外実験から検討した。かご内の個体数は数日間隔で増減を繰り返すパターンを示した。かご内の個体数の増減は計算結果に一致した。結果は,生物要因(本種のかご内での個体群過程)およびかご構造(非生物要因)によって,個体のかごへの進入と脱出が制限されることを示唆する。
68(3), 529-533 (2002)
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北海道沿岸域のスケトウダラにおけるアニサキス科線虫 2 種の寄生状況と地域特異性

小西健志,櫻井泰憲(北大院水)

 1999 年と 2000 年の冬期に,北海道沿岸のスケトウダラを 3 系群 5 地点から採集し,アニサキス科線虫類の Anisakis simplexContracaecum osculatum の寄生状況を比較した。寄生状況は両種ともに系群間で有意に異なり,A. simplex の寄生状況は同一系群内の調査地点間でも異なった。これらの結果は,スケトウダラの成長や餌生物,および最終宿主の分布に起因すると考えられる。また,本研究はこれらの線虫種がスケトウダラの系群指標として有用であることを示した。
68(3), 534-542 (2002)
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異なる光周期におけるティラピア Oreochromis niloticus 成魚の給餌と無給餌時の代謝量およびエネルギー損失

Amal K. Biswas,竹内俊郎(東水大)

 平均体重約 100 g のティラピア成魚を用いて,異なる光周期(3L:3D; 6L:6D; 12L:12D; 24L:24D)における給餌および無給餌時の酸素消費量を測定し,両者間の酸素消費量の差から求めた代謝量やエネルギー損失を算出した。測定方法は前報と同様である。その結果,明暗周期による酸素消費量の増減は稚魚期と比較し,成魚でより明確に見られた。また,給餌時および無給餌時の酸素消費量も成魚で低下した。エネルギーの損失は稚魚期と同様に,明暗周期が短くなるに伴い増加する傾向が見られた。
68(3), 543-553 (2002)
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四万十川河口域における岸際から流心部へのアユ仔稚魚の分布拡大

高橋勇夫,東 健作,藤田真二(西日本科技研),木下 泉(高知大海洋研セ)

 四万十川の河口域の岸際と流心部および淡水域でアユ仔稚魚を採集した。河口域では,流心部で岸際よりも体長の大きいものが採集されたことから,接岸したアユ仔魚は成長とともに流心部へ分布を拡大すると考えられた。分布拡大は体長 20 mm 前後から生じた。しかし,このような分布様式はふ化時期によって異なり,早生まれのアユは岸際に短期間滞在した後に流心部へと移動するのに対し,遅生まれは岸際に長期間滞在する傾向にあった。同様なことが河川下流部における遡上期稚魚の滞在期間にも認められた。遅生まれが長期滞在傾向となることの一因は彼らの低成長率にあると考えられた。
68(3), 554-559 (2002)
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ヒラメ仔稚魚の体色形態形成に及ぼす全トランスレチノイン酸の影響

芳賀 穣,竹内俊郎(東水大),青海忠久(福井県大)

 ヒラメ仔魚を発育段階に沿って 5 区に分け,それぞれに 10 L 培養槽当たり 100 mg の全トランスレチノイン酸を含む DHA で強化した生物餌料を給餌した。その結果,A-B ステージに atRA 強化ワムシを給餌した魚に体色および下顎・尾部の異常が生じた。また,この体色白化パターンは既報のものと顕著に異なっていた。さらに,脊椎・骨数の増加も腹椎尾椎の両方で観察された。A-B ステージに atRA 強化餌料を給餌した魚に顕著な異常が生じたことから,これらの異常はヒラメの発育ステージに依存することが示唆された。
68(3), 560-570 (2002)
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温泉排水由来耐熱性酵母によるエタノール生産に及ぼす温度と細胞接種濃度の影響

上野良平,浦野直人,木村 茂(東水大)

 伊豆・蓮台寺温泉の排水由来の耐熱性,発酵性酵母 RND13 株について,産業レベルに近い高濃度グルコース(15%)を基質とした場合の高温域におけるエタノール生産能を調べた。RND13 株は 40℃,細胞接種濃度 5%(w/v)の条件でグルコースをほぼ完全に利用し,6.6%(w/v)のエタノールを生産した。これは本株の 30℃ 発酵時に得られたエタノール濃度 7.0-7.2% に匹敵する値であった。しかし 43℃ ではグルコースを完全に利用することはできず,エタノール生産量も 6.0% と若干の減少が見られた。また SSU rDNA の塩基配列に基づく系統解析の結果,本株は子嚢菌酵母 Candida glabrata および Kluyveromyces delphensis に非常に近縁であった。
68(3), 571-578 (2002)
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市販コイ用飼料に起因するリン(P)および窒素(N)負荷量の水槽飼育による評価

Parveen Jahan,渡邉 武,佐藤秀一,Viswanath Kiron(東水大)

 コイ養殖における P と N の負荷量(kg/t 生産量)を調べるため,茨城県霞ヶ浦で使用された市販飼料 5 種類と魚粉 25% 配合の対照飼料を用いて平均 12.6 g(2 群/区)のコイを 12 週間飼育した。4 種類の市販飼料では有効 P 含量が要求量を下回っていた。

 飼育成績は対照区で明らかに優れていた。飼料 P の吸収率(20.4-47.0%)と保留率(14.0-36.3%)は試験区間で大きく異なった。保留率に基づいて算出した総 P 負荷量も市販飼料区間で 14.8-26.4 と異なり,対照区の 8.5 に比べ高かった。総 N 負荷量も 30.9-86.0 となり,対照区で最小になった。4 種類の市販飼料区では体脂質含量が高く,骨の Ca と P の含量が低くなり,有効 P の不足が確認された。十分な有効 P を含んだ市販飼料では成長も良く,P と N の負荷量も比較的低い値が測定された。このように飼料の有効 P 含量が適正でないと成長が抑制され,P や N の排泄量が増加することがわかった。

68(3), 579-586 (2002)
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異なる漁場で漁獲したマアジの化学成分および体色の比較

大迫一史,山口 陽,黒川孝雄,桑原浩一(長崎水試),齋藤洋昭(中央水研),野崎征宣(長大水)

 長崎沿岸海域および対馬沿岸海域の中小型旋網漁業,東シナ海の以西底曳網および大中型旋網漁業で漁獲されたマアジの化学成分と体色を 1997 年 7 月から 2000 年 5 月にかけて調べた。粗脂肪含量は対馬産が高い値を示したが,他の漁場では差異が無く,エキス態窒素量は以西底曳網産が他の漁場のものよりも若干少ない傾向を示した。体色は漁場に基づくクロアジ,シロアジおよびキアジの通称とは異なった。粗脂肪含量と体色の結果から,対馬産の粗脂肪含量は別として,他の漁場で漁獲されたものは品質的に大きな差異は認められなかった。
68(3), 587-594 (2002)
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リン(P)負荷削減に有効な代替原料配合コイ用飼料

Parveen Jahan,渡邉 武,佐藤秀一,Viswanath Kiron(東水大)

 コイ養殖における P 負荷の最大要因である飼料中の魚粉を削減するため,代替タンパク質を用いて 5 種類の試験飼料を作製し,平均 3.9 g(2 群/区)のコイを 12 週間飼育した。飼育成績は飼料中の魚粉含量とともに向上し,20% 区で最も優れ,次いで対照区(市販飼料)の順であった。P 吸収率は試験区間で 41.6-52.0%,対照区で 42.6% であった。試験区では P と窒素(N)の保留率は 31.4-34.7% と 34.7-41.7% で,後者は魚粉含量とともに増加した。対照区ではそれぞれ 27.6 と 41.2% であった。総 P と総 N 負荷量は 9.1-10.7 と 34.6-43.1 kg/t 生産量で,魚粉配合量に比例して前者は増加,後者は減少した。対照区では 13.9 と 35.6 kg/t 生産量であった。
68(3), 595-602 (2002)
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スルメイカ肝臓 38 kDa および 42 kDa キチナーゼアイソザイムの特性

松宮政弘,宮内浩二,望月 篤(日大生物資源)

 精製酵素のコロイダルキチンに対する最適 pH は 38 kDa キチナーゼでは pH3.0 に,42 kDa キチナーゼでは pH3.0 と 9.0 に認められた。グリコールキチンに対する Kmkcat は 38 kDa キチナーゼでは 0.071 mg/mL と 1.22/s, 42 kDa キチナーゼでは 0.074 mg/mL と 0.196/s で,両酵素とも N-アセチルキトペンタマーによる基質阻害がみられた。また 38 kDa キチナーゼはグリコールキチン,β-キチンを,42 kDa キチナーゼはコロイダルキチンを良く分解し,両酵素ともキトサン,N-アセチルキトオリゴ糖(4-6 糖)を分解し,pNp-N-アセチルキトオリゴ糖(2-4 糖)より pNp を遊離した。両酵素の N 末端アミノ酸配列は異なり,他種との相同性は認められた。
68(3), 603-609 (2002)
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コイのマトリックスメタロプロテアーゼ 9cDNA の単離と性状

竹内壱明,久保田賢,木下政人,豊原治彦,坂口守彦(京大院農)

 コイ細胞 EPC からマトリックスメタロプロテアーゼ 9(MMP-9)の cDNA を単離した。EPC 細胞および MMP-9 cDNA を発現させた COS-7 細胞の培養上清を用いたゼラチンザイモグラフィーおよびイムノブロット分析から得られた前駆体型酵素の見かけの質量は 76 kDa であった。これは哺乳類 MMP-9 の 92 kDa よりかなり小さく,ニワトリの 75 kDa ゼラチナーゼ B 様酵素とほぼ同じであった。コイ組織における MMP-9 mRNA の分布を調べた結果,腎臓および脾臓に多量の,鰓,心臓,ヒレおよび眼に少量の mRNA が検出されたが,肝膵臓,腸,脳,筋肉および皮では検出されなかった。
68(3), 610-617 (2002)
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ヒラメ由来ゼラチナーゼの cDNA クローニングとその性質

木下政人,矢部泰二郎,久保田光俊,竹内壱明,久保田賢,豊原治彦,坂口守彦(京大院農)

 これまでの研究から,筋肉中に存在する金属プロテアーゼの冷蔵中の魚肉軟化現象への関与が示唆された。本研究では,ヒラメを用いゼラチナーゼ cDNA の単離と性状の検討を行った。その結果,他生物の MMP2 と MMP9 と高い相同性を有する 2 種の cDNA(jfMMP2jfMMP9)を得た。前者は多くの組織,後者は腎臓,脾臓,心臓,エラに発現することが明らかになった。COS7 細胞を用いて作製した両酵素はゼラチン分解活性を示し,それらは 1,10-フェナントロリンにより阻害された。
68(3), 618-626 (2002)
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コイ筋原繊維の加熱変性様式に及ぼす加熱温度と KCl 濃度の影響

山本剛司,高橋真之,加藤早苗,今野久仁彦(北大水)

 加熱温度(30-40℃)と KCl 濃度はコイ筋原繊維の変性様式を大きく変えた。0.1M KCl での加熱では,S-1 より rod の変性速度が温度の影響を受けた。そして,各温度で rod の変性に対応して,溶解性の低下が起こった。KCl 濃度が 0.3 M KCl 以上の場合は加熱温度によらず S-1 と rod の変性速度は同じになった。また,筋原繊維中のミオシンを S-1, rod に切断してから加熱すると,rod の変性はほとんど起こらなくなった。それゆえ,S-1 と rod が結合していることがミオシンの変性様式の上で重要な意味を持つと結論した。
68(3), 627-633 (2002)
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有毒渦鞭毛藻 Gymnodinium catenatum からの11-hydroxy STX の O-22 位に特異的な硫酸基転移酵素の精製とその性質

吉田天士(福井県大生物資源),左子芳彦,内田有恆,角谷友則(京大院農),荒川 修,野口玉雄(長大水),石田祐三郎(福山大工)

 有毒渦鞭毛藻 G. catenatum より,11-α, β-hydroxy STX を基質とし,PAPS を硫酸基の供与体とする硫酸基転移酵素(O-ST)を精製した。アフィニティーカラムを含む 3 本のカラムを用いて電気泳動的に単一にまで精製を行なった本酵素は,約 65 kDa のモノマーで,11-α, β-hydroxy STX の O-22 位にのみ硫酸基を転移し,GTX2+3 へと変換する活性を示した。また,反応の至適温度が 35℃,至適 pH は 6.0 で,反応に金属イオンを要求しなかった。以前報告した N21 位に特異的な硫酸基転移酵素(N-ST)に加え,PSP 毒の硫酸化には 2 つの異なる酵素が関与していることが明らかとなった。
68(3), 634-642 (2002)
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メバル属 5 種のミトコンドリア DNA 調節領域における塩基配列の変異性

樋口正仁(新潟県),加藤和範(新潟水海研)

 ウスメバル,トゴットメバル,メバル,クロソイおよびハツメの mtDNA 調節領域における塩基配列の変異性を調査した。各種内の塩基多様度は種ごとに異なり,ウスメバルの値が最も大きく(3.45%),クロソイが最も小さな値を示した(0.19%)。そして,これら 5 種の調節領域の塩基配列データが本魚種の集団構造解析に適用可能であると考えられた。特に,ウスメバルの調節領域には著しい遺伝的変異が蓄積し,このような変異はウスメバルの有効な集団サイズが大きいことよって維持されていると推測された。
68(3), 643-650 (2002)
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カキ外套膜で発現する遺伝子の解析

宮本裕史(近大生物理工),濱口昌巳(瀬戸内水研),大越健嗣(石巻専修大理工)

 suppression subtractive hybridization 法によりカキ外套膜で発現する遺伝子を 347 個単離し,その末端塩基配列を決定した。その結果 61 種類の cDNA に関しては,既知の配列との有意な類似性を示し,機能の違いにより,タンパク質合成,細胞骨格,シグナル伝達,細胞外マトリックス,代謝,転写因子などのグループに分類することができた。No. 64 cDNA 関しては,その予想されるアミノ酸配列は,すでに報告されているマガキアクチンよりも,マゼランツキヒガイ Placopecten magellanicus において同定されているアクチンに対して,より高い類似性を示した。
68(3), 651-658 (2002)
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ムラサキヒメオウギガニのまひ性毒

葵 永祥(大仁技院),何 平合(海博館),鄭 森雄,黄 登福(台湾海洋大)

 ムラサキとヒメオウギガニは台湾の蘭岾と小琉球で採取し,フグ毒試験法に準じて毒性を調べた。一方,それらの試料から毒を 1% 酢酸メタノールで抽出し,ジクロロメタンで脱脂後,Dioflo YM-1 膜で限外濾過,BioGel P-2 カラムクロマトグラフィーにより順次精製した後,電気泳動,HPLC および GC-MS によりその組成を調べた。その結果,蘭岾と小琉球で採取したカニの毒性はそれぞれ 230±94 (mean±S.D.) MU, 241±114MU と認められた。かつ毒の主体はともにフグ毒(83%)と gonyautorin 1-4 (17%)と検出された。従って,本種カニは新たな有毒種と確認された。
68(3), 659-661 (2002)
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水晒し中に酸化した魚肉のゲル形成能

Dusadee Tunhun,伊藤慶明,森岡克司,久保田 賢,小畠 渥(高知大農)

 0.3% 食塩を含む塩化銅溶液で魚肉(コイ,トビウオ,スケトウダラ冷凍すり身)を水晒しすると,SH 基が減少し,ミオシン重鎖の SS 結合による二量体が形成した。この晒肉に EDTA を加えて調製したかまぼこゲルは 0.3% 食塩のみで晒した対照よりもゲル形成能が低下した。ゲルの SH 基量は加熱前とほとんど同じであるが,ミオシン重鎖およびアクチンが SS 結合により高分子化した。ウサギ肉でも同様であった。塩化銅で水晒後,EDTA 溶液で水晒しても同様の結果であった。従って,擂潰前に肉を酸化させるとゲル形成能が低下することが分かった。
68(3), 662-671 (2002)
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脱水に伴うエソ筋原繊維の変性と水の状態に及ぼすオキアミ筋肉酵素分解物の影響

張  農,山下康充(長大海生研),野崎征宣(長大水)

 オキアミの有効利用を図る目的から,酵素分解物を調製し,エソ筋原繊維(Mf)に 5% 添加後,脱水における Mf 中の水の状態と変性に及ぼす影響を,2 種類のエビの酵素分解物および脱水変性抑制効果を有するグルコース,グルタミン酸ナトリウム(Naglu)と比較検討した。酵素分解物の主要成分はペプチドであった。オキアミ酵素分解物は水分活性の低下および Mf の変性抑制効果を有した。これらの効果は,2 種類のエビ酵素分解物の効果とほぼ同程度であったが,グルコースや Naglu の効果より低かった。
68(3), 672-679 (2002)
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卵黄形成期のマダイ卵濾胞におけるエストラジオール-17β合成経路

太田耕平,山口園子,山口明彦(九大院農),奥沢公一,玄浩一郎,香川浩彦(養殖研),松山倫也(九大院農)

 各種放射標識ステロイドと卵黄形成期のマダイ卵濾胞との培養により得られた代謝物を同定することにより,マダイ卵濾胞におけるエストラジオール-17β (E2)の合成経路を明らかにした。その結果,マダイ卵濾胞ではテストステロン(T)とエストロン(E1)は両者共に合成されるが,E1 から E2 の合成量は T から E2 の合成量よりはるかに多いことから,E2 はアンドロステンジオン(AD)から T ではなく,主に E1 を経て合成されることが明らかとなった。
68(3), 680-687 (2002)
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ホタテガイ貝柱筋肉の低塩濃度抽出タンパク質のゲル化と鮮度

二木知美,加藤優子,埜澤尚範,関 伸夫(北大院水)

 ホタテガイ貝柱(横紋閉殻筋)の低塩濃度(0.16 M KCl)抽出液はしばらく放置すると白濁,ゲル化することを認めた。Ca2+ を添加すると直ちにゲル化した。この抽出液は水溶性タンパク質の他に高濃度のアクチンと少量のミオシンを含んでいた。これらのタンパク質の抽出量は肉中の ATP 含量と比例し,ATP 含量の低下に伴って低下したことから,貝柱の鮮度と関連があった。ATP はこれらのタンパク質の抽出とゲル化誘導の双方に必要であり,また,ゲル化には多量のアクチンと少量のミオシンの存在が必要であった。
68(3), 688-693 (2002)
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アコヤガイ初期稚貝の成長におよぼす人工飼料の効果(短報)

沼口勝之(中央水研)

 人工飼料 gelatinacacia マイクロカプセル(GAM)を用いてアコヤガイ初期稚貝の成長効果について検討を行った。本稿では,タラ肝油を用いた GAM の作成法について記述し,作成された GAM を飼料として用いてアコヤガイ初期稚貝を 11 日間飼育する実験を行った。GAM を単独で給餌したアコヤガイ初期稚貝は無給餌群と同様に成長効果は認められなかった。しかし,培養微細藻類 Isochrysis galbana の低密度区に GAM を 5×103 および 2×104 粒子/mL/日の密度になるように混合すると I. galbana の低密度単独給餌区よりも初期稚貝の成長が良くなり,タラ肝油で作成した人工飼料 GAM を微細藻類に混合して用いるとアコヤガイ初期稚貝の成長に有効であることが確認された。
68(3), 694-696 (2002)
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琉球諸島西表島におけるニジハタの雌性先熟性転換(短報)

中居正臣,佐野光彦(東大院農)

 琉球諸島西表島において,1997 年 7 月から 1998 年 8 月に 262 個体のニジハタを採集した。それらの生殖腺を組織学的に観察したところ,雌が 130 個体,性転換中個体が 27 個体,雄が 105 個体であった。性転換中個体の生殖腺は卵母細胞が退化し,精母細胞が発現している状態であった。また,すべての雄の精巣には卵巣腔がみられた。各性の全長範囲は,雌が 115-195 mm,性転換中個体が 137-180 mm,雄が 143-211 mm であった。以上の結果より,本種は雌性先熟魚であることが明らかになった。
68(3), 697-699 (2002)
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海中での同居試験による養殖アコヤガイの大量死再現の試み(短報)

平野瑞樹,金井欣也,吉越一馬(長大院生産)

 軟体部の赤変を伴う養殖アコヤガイの大量死に関し,伝染性の有無を検討するため,健常貝と罹病貝との接触あるいは同居による感染試験を長崎県鹿町および大分県蒲江の漁場で 5 回にわたって実施した。試験期間中(2~4.5 ヶ月)に罹病貝は高率で死亡したが,健常貝の成長,生残ならびに赤変化率に影響を与えなかった。また,罹病貝の導入による同漁場の養殖アコヤガイへの悪影響も認められなかった。
68(3), 700-702 (2002)
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マコンブ分解能を有する海洋細菌 3 株の分子系統解析(短報)

内田基晴(中央水研),前田俊道,芝 恒男(水大校)

 マコンブ分解細菌 3 株(AR06 株,HA02 株,TO01 株)について分類学的知見を得るため,16S rDNA の塩基配列に基づく分子系統解析および DNA-DNA 相同性試験をおこなった。AR06 株は Pseudoalteromonas atlantica IAM 12927T との DNA 相同性が 70% 以上であることなどから P. atlantica と同定された。HA02 株は,16S rDNA 塩基配列から Glaciecola 属と考えられたが,最も近縁な Glaciecola pallidula との同塩基配列ホモロジーは 95.2% と低かった。TO01 株は,16S rDNA 塩基配列から Alteromonas 属と考えられたが,最も近縁な Alteromonas macleodii IAM 12920T との DNA 相同性は 50% 以下であり別種と考えられた。
68(3), 703-705 (2002)
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アミアイゴの精子運動能獲得における月齢同調現象(短報)

Harahap, A.P.,竹村明洋,仲村茂夫,Rahman, M.S.,高野和則(琉大熱生研)

 アミアイゴ(Siganus spinus)における精子運動時間の変化を月齢周期にあわせて調べた。本種の生殖腺体指数(GSI)は 5 月から 7 月の新月時(産卵月齢)に高値を示した。精液を海水で希釈した時の精子運動時間は新月時に上昇した。また,新月時における精しょうの浸透圧は減少したのに対し,pH は増加した。産卵月齢前後に精子運動時間や精しょうの浸透圧や pH が急激に変化したことから,本種の精子形成最終段階に月の変化が重要であることが示唆された。
68(3), 706-708 (2002)
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マルソウダ加工処理残滓自己消化エキス中の苦味成分の分離(短報)

劉 承初,森岡克司,伊藤慶明,小畠 渥(高知大農)

 マルソウダ加工処理残滓自己消化撹拌および静置調製エキス中の苦味成分の分離を試みた。ブタノール抽出により,撹拌および静置調製エキス中の苦味成分は,ブタノール画分に回収できた。さらにこの画分をゲルろ過に供したところ,撹拌エキスでは強い苦味を示す画分(F3)および弱い苦味を示す画分(F4)が得られたが,静置エキスでは,F3 に苦味は認められず,F4 にのみ弱い苦味が認められた。両エキスの F3 画分のアミノ酸組成およびニンヒドリンによる発色にほとんど差は認められなかったものの,紫外部吸収に顕著な差が認められた。以上の結果より,撹拌エキス中の苦味は,アミノ酸以外の成分に由来するものと推察した。
68(3), 709-711 (2002)

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