Fisheries Science 掲載報文要旨

新しい養魚飼料の開発(総説)

渡邉 武(東水大)

 現在まで養魚飼料はタンパク質および脂質源の大部分を魚粉および魚油に依存してきた。しかし,原料魚の資源量に減少の兆しが見えており,また将来食糧としての消費量の増加が予測されている。そのため世界中で魚粉・ 魚油に代わる原料の探索が行われており,現在までの研究で各種原料を併用し EAA バランスを維持し,n-3HUFA 要求量を充足すればかなりの部分を代替できることが明らかにされている。代替原料中の栄養素の利用性を改善し,タンパク質・ エネルギー比を適正に保持した新しいタイプの飼料は窒素やリンの排泄削減に有効でなければならない。また,健康維持に有効で,免疫能を増強することにより抗病性の向上が図れることが望ましい。健全な魚類養殖においては経済性だけでなく持続可能な養殖と清浄な環境との共存を目指した適正な飼養標準の確立が必要であろう。
 新世紀においても養殖は食糧タンパク質供給源としての重要な役割を担っており,そのためより優れた養魚飼料の開発が求められている。
68(2), 242-252 (2002)
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自発摂餌飼育されたティラピアにおける低ストレスと高生体防御能

延東 真,熊原千佳子,吉田照豊(宮崎大農),田畑満生(帝京科学大理工)

 自発摂餌飼育と定刻給餌飼育のティラピアの,ストレスと生体防御能を比較した。自発摂餌魚は定刻給餌魚と比較して体色が白く,血液中コルチゾール量は低かった。自発摂餌飼育は定刻給餌飼育に比べて,低ストレス飼育法であることが分かった。また,自発摂餌魚のマクロファージ貪食能,抗体産生能,血液中リンパ球数は,定刻給餌魚より有意に高かった。自発摂餌によりストレスが軽減され,そのため生体防御能が高まったと考えられた。
68(2), 253-257 (2002)
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魚類養殖および真珠養殖が五ヶ所湾の底層環境に及ぼす影響:マクロベントス群集の季節変動からみた評価

横山 寿(養殖研)

 魚類養殖と真珠養殖がマクロベントスに及ぼす影響を明らかにするために,五ヶ所湾の漁場において 1995 年 6 月から翌年 7 月にかけて毎月,調査を行った。魚類養殖場では貧酸素化により 7 月から 11 月にかけて無生物状態となった。酸素回復後約 2 ヶ月経過した 12 月よりイトゴカイが急激に増殖し,著しく優占した。2 月以降,コオニスピオや端脚類が順に加入し,4 月にはマクロベントスの生息密度,現存量,出現種数が最大となった。真珠養殖場では生息密度や種組成が年間を通じ安定しており,著しく優占する種はなかった。このような相違は負荷有機物量の相違に起因すると考えられた。
68(2), 258-268 (2002)
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給餌および飢餓キンギョにおける咽頭骨の骨形態計測に及ぼすカルシトニンの影響

篠崎文夏,麦谷泰雄(北大院水)

 魚類におけるカルシトニンの作用を明らかにするために,キンギョにサケカルシトニン(sCT)を投与(10 ng/g 体重)し,代謝の活発な咽頭骨を用いて,組織観察と骨形態計測を行った。sCT 投与により飢餓個体で骨芽細胞の細胞高が増加した。また破骨細胞は萎縮し,骨表面から離脱した。骨形態計測では,sCT 投与により骨形成面には影響がなかったが,骨吸収面では,給餌群および飢餓群のいずれにおいても吸収細胞面が減少し,特に飢餓群で顕著であった。エストロゲン処理群でも sCT 投与により吸収細胞面が減少した。これらのことから,キンギョでは,カルシトニンは,咽頭骨からの過剰なカルシウムの溶出を防ぐ機能があると推察された。
68(2), 269-276 (2002)
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真骨魚における仮想的遊泳時の運動ニューロン活動の導出

吉田将之,室地康彦,馬場義彦,植松一眞(広島大生物生産)

 クラーレ注射で不動化したキンギョまたはコイの体側筋に 100 mm 径のエナメル被覆銅線を刺入し,電気的活動を細胞外誘導した。自由遊泳中の筋電図と比較して,振幅・ 持続時間が共に小さいスパイクからなる叢放電が記録された。不動化状態で上記記録と筋繊維からの細胞内記録を同時に行ったところ,この叢放電は筋繊維の膜電位変化を伴わなかった。よって,不動化標本で細胞外記録された活動は,仮想的遊泳の発現に伴う運動神経活動である。本法は,真骨魚遊泳運動の中枢機構研究のための有用かつ簡便なツールとなる。
68(2), 277-281 (2002)
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スジアラ Plectropomus leopardus の変態に及ぼすチロキシンとチオウレアの影響

DODY DHARMAWAN TRIJUNO,田川正朋,田中 克(京大院農),與世田兼三,廣川 潤(日栽協八重山)

 孵化後 35 日のスジアラ(Plectropomus leopardus)稚魚を甲状腺ホルモンのチロキシン(T4, 0.1 ppm)あるいはホルモン合成阻害剤のチオウレア(TU, 30 ppm)に 13 日間浸漬した。対照区では実験開始後 13 日目に全てが変態を完了したが,T4 区では 3 日目に完了した。一方,TU 区では 13 日目でも変態を完了しなかった。T4 処理によって,着底行動,背腹伸長鰭条の吸収,鰭条の鋸歯状突起の消失,赤色不透明化等が促進された。TU 処理では,伸長鰭条吸収の遅延や異常な黒色化等が見られた。これらの結果は,スジアラ変態時に起こる変化に甲状腺ホルモンが関与していることを示唆する。
68(2), 282-289 (2002)
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ニホンウナギの人為催熟過程における生殖腺刺激ホルモン β 鎖の遺伝子発現

末武弘章,大久保範聡,佐藤成美,吉浦康壽,鈴木 譲,会田勝美(東大院農)

 サケ生殖腺刺激ホルモン(sGTH)投与によるニホンウナギの人為催熟過程における下垂体 GTH β 鎖 mRNA 量の変動を定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応で調べた。卵形成過程の初期,とくに sGTH 投与前では GTH Iβ 鎖 mRNA 量は高値を示したのに対して GTH IIβ 鎖 mRNA 量は低値であった。しかし,sGTH 投与後,卵黄蓄積・ 卵成熟の進行に伴い,GTH Iβ 鎖 mRNA 量の低下と同時に,GTH IIβ 鎖 mRNA 量の著しい上昇が見られた。これらの結果は,sGTH 投与が GTH I 合成を抑制し,GTH II 合成を促進することを示すとともに,これら 2 つの GTH が卵形成過程において異なる生理的役割をもつことを示唆している。
68(2), 290-298 (2002)
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クルマエビにおけるマイクロサテライト DNA マーカーの遺伝様式とそれらを用いた血縁個体間の遺伝的類縁関係の把握

菅谷琢磨,池田 実(東北大院農),森 秀志(愛媛県水試),谷口順彦(東北大院農)

 天然クルマエビにおける雌親とそれらの子供との間でマイクロサテライト DNA マーカーの遺伝様式を解析した。解析は,7 家系において 5 マーカー座を用いて行った。これらのうち 2 つのマーカー座においては,全ての家系で子供の遺伝子型の分離比はメンデルの法則に従っていた。残りの 3 マーカー座では幾つかの家系で null アリルが仮定された。このため,これら 3 つのマーカー座を集団解析に用いる際には,解析結果について慎重な判断が必要である。しかし,UPGMA 法によるデンドログラム上では各兄弟が明確に区別され,これら 5 つのマーカー座が個体間の血縁関係の把握に有効である可能性が示された。
68(2), 299-305 (2002)
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サザエにおいて飢餓が殻軸筋内の RNA/DNA 比,グリコーゲン量,C/N 比に及ぼす影響

奥村卓二,長澤トシ子,林 育夫,佐藤善徳(日水研)

 飢餓状態と飽食状態のサザエを使って殻軸筋内の RNA/DNA 比,グリコーゲン量,C/N 比を比較し,これらの生化学的指標の有効性を検討した。各指標は無給餌 20 日後には飽食個体より有意に低くなった。さらに,75 日間の無給餌後に 33 日間再給餌することで各指標は上昇した。3 つの生化学的指標の間で無給餌による低下と再給餌による上昇を比較すると,RNA/DNA 比がもっとも速く変化した。しかし,RNA/DNA 比は変動が大きいため他の指標と同時に用いる必要があると考えられた。
68(2), 306-311 (2002)
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染色体操作技術により誘導された軸形成異常胚

山羽悦郎(北大フ科セ),大谷 哲,南昌芳,荒井克俊(北大院水)

 キンギョとフナを材料として,第 2 極体放出阻止を引き起こす温度処理や圧力処理の発生に対する影響を,形態学的,分子生物学的な手法により明らかにした。UV 精子による受精卵を,5 分後に高温または圧力処理すると,不完全な胚盤形成やエピボリーの遅れ,背側構造の欠損が引き起こされた。より長い処理が,より重篤な欠損を引き起こした。処理胚では後期胞胚期における goosecoid 遺伝子の発現が,消失または減少した。正常精子による受精卵でも背側構造異常は誘導されたことから,この異常は劣性な遺伝子のホモ化によるものではなく,処理により背側形成因子の動物極への移動が阻害されたためと考えられた。
68(2), 313-319 (2002)
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仔魚を給餌したマサバとワムシおよびアルテミアを給餌したマサバの遊泳行動の発達の比較

益田玲爾,小路 淳,青山光宏,田中 克(京大院農)

 異なる餌料条件下で飼育したマサバ仔稚魚の遊泳速度の発達過程を比較した。実験区としてワムシとアルテミアのみで給餌した区(R 区)と,ワムシに加えてマダイ仔魚を与えた区(Pm 区)とを設けた。Pm 区のマサバは成長が速く,また同一サイズで比較した場合,R 区の仔稚魚に較べて巡航遊泳速度および瞬発遊泳速度において優れていた。天然海域のマサバ仔稚魚においても,遭遇する餌の種類に応じて遊泳能力の発達過程は異なるものと推察された。
68(2), 320-324 (2002)
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ニジマスの成長に伴なう各種飼料原料中 P の吸収率の変化および大豆油粕エクストルーダー処理の効果

佐藤秀一,高根沢実,秋元淳志,VISWANATH KIRON,渡邉 武(東水大)

 ニジマスの成長に伴なう各種餌料原料に含まれる P の吸収率の変化および大豆油粕をエクストルーダー処理した時の効果を検討した。魚粉の P の吸収率は成長に伴い,減少する傾向が認められたが,フェザーミールや植物性原料中のそれは 2 g で低く,10 g 以上で改善されほぼ安定した。また,大豆油粕をエクストルーダー処理すると,いずれのサイズにおいても吸収率が高くなった。各種原料中 P の吸収率は,北洋魚粉 31~46%,沿岸魚粉 49~59%,肉骨粉 36~46%,フェザーミール 36~84%,大豆油粕 3.4~37%,エクストルーダー処理大豆油粕 25~58%,濃縮大豆タンパク質 3.7~34%,コーングルテンミール 0~17% であった。
68(2), 325-331 (2002)
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琉球列島黒島に打ち上げられたカノコイセエビ(Panulirus longipes bispinosus)のプエルルス幼生

井上誠章,関口秀夫(三重大生物資源),御前 洋(串本海中公園)

 1993 年 1 月 28 日,低気圧の通過にともない琉球列島の黒島の海岸に多数の海洋生物が打ち上げられた。打ち上げ生物として 525 個体 74 種が同定されたが,そのなかにはイセエビ(Panulirus)属のプエルルス幼生 13 個体が含まれていた。同定の結果,これらは P. longipes bispinosus の幼生であった。本研究では,サンゴ礁が発達する黒島の海岸に打ち上げられたプエルルス幼生の同定と詳細な形態の記載を行った。
68(2), 332-340 (2002)
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天然アユ消化管の性状に関する研究

中川平介,海野徹也,関本高志(広大生物生産),IRFAN AMBAS(ハサヌディン大海洋水産),LINN W. MONTGOMERY(ノーザンアリゾナ大生物科学),中野武登(広島工業大環境科学)

 広島県太田川で捕獲したアユの消化管とその内容物を分析した。比腸管長は体長 12-22 cm ではほぼ一定であった。消化管の性状は腸管長を除けば本質的に養殖アユとの違いはなかった。腸管の襞は先端から肛門にしたがって高くなる傾向がみられた。珪藻と藍藻は消化管で外観的に破壊されることなく内容物が吸収されたが,緑藻は外見的に殆ど変化はなかった。胃内容物の pH は 4.1±1.0 を示し,腸管では 7.9±0.4 であった。消化管内容物量は成長と共に増加し,その量は養殖アユの 3 倍にも達した。天然アユは貧弱な栄養成分を有する餌料の珪藻,藍藻を大量にしかも連続的に摂餌することで補っているものと考えられる。
68(2), 341-346 (2002)
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淡水中の Ca2+ 濃度変化による killifish 鰓塩類細胞の形態変化

加藤扶美,金子豊二(東大海洋研)

 広塩性魚類の killifish を Ca2+ 濃度を 0.1, 0.5, 2.5 mM に調節した環境水に馴致した。環境水 Ca2+ 濃度が低くなるにつれて鰓塩類細胞が有意に大型化した。0.1, 0.5 mM Ca2+ 群では塩類細胞の外界に接する頂端部は微絨毛を発達させ,2.5 mM 群では陥入してピットを形成した。また,低 Ca2+ 環境では Ca2+ 取込みに関与する酵素である鰓の Na, K-ATPase 活性が上昇した。killifish の鰓塩類細胞が低 Ca2+ 環境中で Ca2+ の取り込みに関与することが示唆された。
68(2), 347-355 (2002)
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広島湾産有毒渦鞭毛藻 Gymnodinium catenatum (Dinophyceae) の増殖に及ぼす水温,塩分および光強度の影響

山本民次,呉 碩津,片岡幸弘(広大生物生産)

 広島湾産 Gymnodinium catenatum は水温約 20-30℃,塩分約 20-32 の範囲で,比増殖速度 m=0.2/day 以上の値が得られた。m は水温(T)と塩分(S)の関数として m=(-6.84×10-4T2+0.0354T-0.213)×(-1.03×10-3S2+0.0579S-0.548)/0.31 と表され,25℃, 30 で最大比増殖速度 0.31/day が得られた。水温,塩分,光強度に関する広島湾の観測データと比較したところ,本種は夏から秋にかけてブルームを形成するものと期待される。
68(2), 356-363 (2002)
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四万十川河口域に出現する仔稚魚の種組成と季節変化

藤田真二(西日本科技研),木下 泉(高知大海研セ),高橋勇夫,東 健作(西日本科技研)

 日本では研究例の少ない河口域での仔稚魚相を明らかにするため,四万十川河口域の浅所で仔稚魚の採集を 2 ヶ年に亘って実施した。その結果,44 科 100 種以上,合計 49,101 尾の主に仔稚魚を得た。主な出現種はクロサギ,シマイサキ,キチヌ,マハゼ,ボラ,サツキハゼ,クロダイなどの沿岸性の海産魚であった。これらの多くは仔魚から稚魚への移行期に河口内浅所に加入し,稚魚後期までの期間滞在した。河口内浅所が長期の成育場となりうる条件はコアマモ帯などのシェルターの存在にあると判断された。
68(2), 364-370 (2002)
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高性能ポリエチレン網糸の疲労特性

WORAWIT WANCHANA,兼廣春之,稲田博史(東水大)

 高性能ポリエチレン(HPPE)と汎用のポリエチレン(PE),ナイロンマルチフィラメント(PAmu)およびナイロンモノフィラメント(PAmo)の 4 種類の網糸について,直線および結節の繰り返し疲労試験を行った。網糸の疲労寿命(破断回数)は負荷荷重の増大とともに減少したが,網糸間では HPPE が最も大きく,PAmo, PAmu, PE の順であった。結節疲労でも PAmo と HPPE が PAmu, PE よりも疲労耐久性にすぐれていた。電子顕微鏡による観察の結果,各網糸の疲労破断が繊維間の磨耗により起こっており,HPPE が他の網糸に比べ磨耗による影響が最も少なかった。また,繰り返し荷重の変化に伴う網糸の伸びの変化の測定から,網糸の伸び特性がその疲労特性に大きく影響することが示唆された。
68(2), 371-379 (2002)
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トコブシ貯蔵中における足筋のエキス成分の変化

邱 思魁,頼 孟美(台湾海洋大),藍 恵玲(台湾水試),蕭 泉源(台湾海洋大)

 トコブシを 5-25℃ で貯蔵し,その足筋の鮮度の指標とエキス成分の変化について調べた。pH 値は貯蔵後低下し,VBN と K 値は時間の経過に伴って上昇したが,5 ℃ 貯蔵では大きな変化がなかった。官能テストでは 5, 15 および 25℃ 貯蔵した場合,それぞれ 3.5, 2.5 および 1.0 日後初期腐敗に達した。ATP と ADP は貯蔵初期に速やかに減少したが,AMP は増加し,しかも貯蔵後期まで蓄積量はほとんど変化しなかった。遊離アミノ酸総量は増加し,主なものでは Tau, Glu, Gly, Ala および Arg などの増加が著しかった。
68(2), 380-387 (2002)
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異なる飼料で飼育したトコブシの煮熟肉における呈味成分の比較

邱 思魁,頼 孟美(台湾海洋大)

 オゴノリと配合飼料で飼育したトコブシ筋肉を加熱し,両飼料の味,エキス成分,グリコーゲンなどの含量を比較した。官能検査による味の嗜好性は配合飼料区が有意に高かった。クラスター分析と主成分分析の結果から飼料の採集時期にかかわらず,両飼料の化学成分組成には異なる特徴がみられた。オゴノリ区に比べ,配合飼料区は Tau および Arg 含量が低く,Gly, Ala, Ser, Pro, AMP およびグリコーゲン含量が高かった。両飼料の味の相違は主に Gly, Glu, AMP などの含量差に起因すると考えられた。
68(2), 388-394 (2002)
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液体培地再生法を用いた Streptomyces 属放線菌のプロトプラスト融合株の分離と諸性状

今田千秋,池本夕子,小林武志,濱田奈保子,渡邉悦生(東水大)

 迅速,簡便にプロトプラスト融合を行うために液体培地再生法を用いて Streptomyces 属の異種間でのプロトプラスト融合を行ったところ,S. griseus×S. durhamensis 間では 8 株,また S. californicus×S. catenulae 間では 2 株,寒天培地再生法では得られなかった融合株が新たに得られた。一方,S. ornatus×S. catenulae および S. ornatus×S. vendargensis 間では寒天培地再生法ではそれぞれ 7 株の融合株が得られたが液体培地法では全く得られなかった。これらの融合株とその親株との間では糖の資化性の有無や抗生物質耐性などの生理学的性状に大きな相違が認められた。また,本法を用いることにより,操作の簡便化と操作時間を大幅に短縮することができた。
68(2), 395-402 (2002)
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ホタテガイ Patinopecten yessoensis 外套膜からのミオシン重鎖 cDNA のクローニング

長谷川靖(室蘭工大)

 ホタテガイ外套膜組織よりミオシン重鎖をコードする cDNA をクローニングした。推定されたアミノ酸配列は,すでに報告されている 3 種のホタテガイ,Argopecten irradians, Pecten maximus, Placopecten magellanicus のミオシン重鎖と高い相同性を示した。また,興味深いことに外套膜ミオシンの ATP 結合部位,アクチン結合部位近傍の配列は横紋筋ミオシンに,S-2 hinge 部位,non-helical tail 部位はキャッチ筋ミオシンに高い相同性を示した。
68(2), 403-415 (2002)
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有毒渦鞭毛藻 Alexandrium tamarenseGymnodinium catenatum の溶存態有機リン利用特性

呉 碩津,山本民次,片岡幸弘,松田 治,松山幸彦,小谷祐一(広大生物生産)

 広島湾から分離した有毒渦鞭毛藻 2 種 Alexandrium tamarense (AT) と Gymnodinium catenatum (GC) による DOP の利用特性を検討した。AT は ATPase や pyrophosphatase を,GC は全てのリン加水分解酵素を有していると考えられた。Ortho-P をリン源としたバッチ培養では,両種とも Ortho-P 濃度の低下に伴いアルカリフォスファターゼ(AP)活性が上昇し,AP 活性が現れた時の Ortho-P 濃度は AT で 0.43 mM, GC で 3.3 mM であった。今回の結果から,DIP が枯渇することが多い広島湾において,両種の優占を支持する機構の 1 つとして DOP の利用が挙げられる。
68(2), 416-424 (2002)
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ヒラメの海水適応における CGRP の関与の可能性:エラにおける CGRP レセプター mRNA の発現解析

鈴木信雄(金沢大),鈴木 徹,黒川忠英(養殖研)

 CGRP の生理的役割を調べる為,海水から淡水に移行時のヒラメのエラにおける CGRP およびそのレセプターの発現を解析した。さらに,CGRP と同一のゲノム遺伝子にコードされている CT のレセプター(CTRLR)の発現も調べた。その結果,エラにおける CGRP のレセプターの発現は希釈海水に移行すると減少し,淡水では検出できなかった。また,CTRLR の発現は変化しなかった。さらに,CGRP はエラにおいては発現していなかった。したがって,腸等の組織から分泌された CGRP がエラに働き,ヒラメの海水適応に CGRP が関与している可能性が考えられる。
68(2), 425-429 (2002)
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マグロ煮汁タンパク質加水分解物による DPPH ラジカル消去作用

饒 家麟(台湾東方工商専),柯文慶(台湾中興大)

 マグロ煮汁を Aspergillus oryzae 起源のプロテアーゼ XXIII で分解して得た分解物は約 82% の DPPH ラジカル消去活性を有していた。この分解物を Sephadox G-25 のゲルろ過に供すると 6 つの画分が得られた。そのうち 2 つしか DPPH 消去作用を示さなかった。この 2 つの画分をさらに逆相液体クロマトグラフィーで分画したところ,7 つのピークが得られた。DPPH 消去作用の認められたペプチドのアミノ酸配列を決定したところ,それぞれ 4-8 残基のアミノ酸から構成されていることが分った。
68(2), 430-435 (2002)
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スサビノリの赤腐れ病起因真菌 Pythium porphyrae の細胞壁を分解する細菌酵素の多糖分解活性

喜多村悦至,茗荷尚史,亀井勇統(佐大海浜セ)

 ノリ養殖域より Pythium 細胞壁分解細菌,Bacillus sp. BE1, Bacillus sp. FE1, Pseudomonas sp. PE1 および Pseudomonas sp. PE2 の 4 株を分離した。Pythium 細胞壁をこれら細菌粗酵素液で処理し,分解産物を HPLC で検討した結果,BE1, FE1 および PE2 株で N-アセチルグルコサミンとグルコースが,PE1 株ではグルコースのみが検出された。さらに,4 株全ての粗酵素に β1,3-および β1,3-1,4-グルカナーゼ活性が確認され,β1,4-と β1,6-グルカナーゼ活性およびマンナナーゼ活性は観察されなかった。PE1 株以外ではキチナーゼ活性も検出された。また,BE1, FE1, PE1 および PE2 株が産生する多糖分解活性酵素の分子量は,50-100 kDa の範囲にあると推定された。
68(2), 436-445 (2002)
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1999 年台湾大地震による河川魚類群への影響(短報)

方 力行,陳 義雄(海洋生物博),張 桂祥(中山大海洋資源研),韓 僑權,
李 財富(海洋生物博),陳 一鳴(中山大海洋資源研)

 1999 年 9 月に発生した台湾大地震による河川魚類個体群への影響を台湾大甲渓において調査した。大甲渓の 2 つの調査域において,在来優占種,Zacco pachycephalusAcrossocheilus paradoxus 2 種について,地震前(1988 年~1992 年)の各年 10 月~12 月に行った 45 回の目視による捕獲調査および地震直後の 1999 年 10 月~12 月の 9 回の調査データを用いて地震前後の体長組成を比較した。この結果,両種ともに地震後の稚魚(体長:1-3 cm)の全体に占める割合が地震前の同じ月に比べて有意に減少していることが明らかになった。また,地震前には比較的サンプルの少なかった体長 7 cm 以上の割合が地震直後に増加したことから,大地震によって稚魚と成魚の生息場所に変化が起きたことが示唆された。

68(2), 446-448 (2002)
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雄性卵保護魚クモハゼにおける雌個体の卵食(短報)

菱田泰宏(宮崎大院農)

 宮崎県延岡湾のタイドプールに人工巣を設置し,クモハゼ雄個体が巣に保持する卵数を記録した。その結果,巣に保持する卵の数は 72,467±16,510(平均±標準偏差,N=7)であった。一方,巣よりの卵の消失が,卵が巣に産み付けられて以降,卵が孵化するまで,毎日認められた。また,巣よりの卵の消失数は,巣が更なる卵の産み付けを受ける場合において,産み付けを受けない場合よりも多かった。巣に存在する個体の消化管内容物を調べたところ,卵の産み付けられていた巣より採集された個体では,雌雄とも 90% 以上の個体において卵を捕食していることを確認した。
68(2), 449-451 (2002)
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Nannochloropsis oculate を用いた[13C]エイコサペンタエン酸の調製(短報)

多胡彰郎(鹿大連合農),手島新一(鹿大水)

 海産生物での脂質代謝研究において,安定同位体([13C])の使用は,研究上の操作性はもちろん安全面からも,環境への影響が少ないことからも非常に有効な手法である。本研究は Nannochloropsis oculate を用いた[13C]エイコサペンタエン酸([13C]EPA)の生合成およびこの[13C]EPA を用いた[13C]1-myristoyl-2-eicosapentaenoyl phosphatidylcholine ([13C]EPA-PC)の化学合成法に関するものである。機器分析の結果,[13C]EPA の生合成および単離が確認され,高純度の[13C]EPA-PC の合成が確認された。合成された[13C]EPA-PC は魚類の脂質代謝研究に十分使用に耐えうるものであった。
68(2), 452-454 (2002)
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ヒラミル(Codium latum)由来血栓溶解酵素(CLP)によるプラスミノーゲンの活性化(短報)

松原主典,松浦 康(岡山県立大栄養),須見洋行(倉敷芸術科学大生命化学),堀 貫治,宮澤啓輔(広大生物生産)

 3 種ミル属緑藻より精製した血栓溶解酵素についてプラスミノーゲン活性化能を調べた。プラスミノーゲンのプラスミンへの変換を,フィブリン平板法,fibrinogenolysis 法,および合成基質法を用いて検討した。モツレミル(C. intricatum)およびクロミル(C. divaricatum)由来の血栓溶解酵素(CIPs, CDP)は活性を示さなかった。ヒラミル(C. latum)由来の血栓溶解酵素(CLP)はプラスミノーゲンを活性化したが,CLP の強力な活性は直接フィブリンを溶解するとともに,プラスミノーゲンをプラスミンへと活性化することによるものであることが明らかになった。
68(2), 455-457 (2002)
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