桜本和美(東水大),杉山秀樹(秋田水振セ),鈴木直樹(東水大)
秋田県では1992年から3年間ハタハタ漁業が全面禁漁となり,解禁後は県独自のTAC制を導入している。解禁後TACの値は毎年増大しているが,禁漁効果については不明のままである。本研究では水温と沿岸漁獲量を用いた漁獲量予測モデルを作成し,シミュレーションにより3年間の禁漁効果を判定した。その結果,禁漁を行わなかった場合,1995年以降の漁獲量水準は禁漁前の低水準のまま推移した。禁漁による効果は大きく,また,解禁後のTAC制が資源の回復に果たす役割の重要性も示唆された。山家秀信,山崎文雄(北大水)
ニジマスにおいて,排卵雌尿がメチルテストステロン(MT)処理未成熟魚を誘引するか否かを検討した。採尿にはカテーテルを用いた。ニジマス未成熟魚にMTを4週間経口投与後,Y字水路を用いて蒸留水,環境水,尿,卵巣腔液に対する移動頻度を記録した。蒸留水と環境水に対する移動頻度は,MT処理魚と対照魚の間に差はなく,実験区と対照区への移動頻度にも差はなかった。MT処理魚に対し排卵雌尿,未成熟雌尿,卵巣腔液を供したところ,排卵雌尿に対してのみ有意に多く移動した。MT未処理対照魚は排卵雌尿に反応しなかった。以上の結果より,ニジマスの排卵雌尿は成熟雄を誘引する性フェロモンを含むことが示唆された。
山本剛史(養殖研),小西浩司(群馬水試),島 隆夫,古板博文,鈴木伸洋(養殖研),田畑満生(帝京科大)
脂質と炭水化物の配合割合が初期体重28gのニジマスの成長や体成分に及ぼす影響を自発摂餌条件下で検討した。粗脂肪(CF)を18~8%,α-デンプン(S)を9~36%とした飼料を水温17℃の下で8週間給与した。成長に差はなかったが,タンパク質効率はCF18%,S9%飼料およびCF8%,S36%飼料で劣った。魚体脂質含量はS添加に伴い減少した。従って,本実験条件下ではCF15%,S18%またはCF11%,S27%の飼料が最も適切であると推察された。升間主計(日栽協),川村軍蔵(鹿大水),手塚信弘,小磯雅彦(日栽協),難波憲二(広大生物生産)
クロマグロの種苗生産の際,薄明時(dawn)に稚魚が水槽壁や生簀網へ衝突し大量死亡が起こっている。この衝突は魚が視覚的に方向感覚を失ったためと考え,著者らは沖出し時のクロマグロ稚魚(全長50.7-96.8mm)の網膜運動反応と海上の飼育場所における薄明時の照度変化の測定を行った。網膜が暗視から明視へ移行する照度は7.52lxで,それに要する時間は15分であった。薄明時の照度は暗視照度から急速に増加し,10分後に明視照度に達した。環境照度の変化と網膜適応の不調和が視覚的な方向感覚の喪失を引き起こしたと思われる。視覚的に方向感覚を失った稚魚がその高い遊泳力をコントロールできず,薄明時に水槽壁や生簀網に衝突する可能性がある。Gerald F. Quinitio,Josefa D. Tan-Fermin,永井顕充(SEAFDEC)
雌性先熟魚のEpinepheluscoioides(体重19-168g)をmibolerone 0, 50, 100, 200μg/kg-飼料投与区に分け,18週間投与したのち,通常飼料で24週まで飼育し,この間8週ごとに生殖腺を組織学的に調べた。対照区では24週後には卵母細胞数が増加した。しかし,100および200μg区では16週後,精子の出現には至らぬものの精子形成の進行が認められ,投与を止めた24週後には逆に少数の卵母細胞が認められた。この結果,miboleroneの経口投与により本種の性転換を誘導しうることが示された。小路 淳(京大院農),前原 務(愛媛中予水試),青山光宏(京大院農),藤本 宏,岩本明雄(日栽協),田中 克(京大院農)
サワラ仔魚の日間摂食量を調べるために,瀬戸内海中央部における天然仔魚の採集と,マダイ仔魚を給餌された飼育魚のサンプリングを昼夜連続で行った。天然仔魚の胃内容物の大部分をニシン目・ハゼ科などの魚類仔魚が占めた。ElliottandPerssonの手法に従い,天然および飼育魚の日間摂食量(乾燥重量の体重比)はそれぞれ111.1-127.2%および90.6-111.7%と推定された。飼育条件下において1尾のサワラは稚魚期の初期(日齢20)までに1000尾以上のマダイふ化仔魚を捕食するものと推定された。石川智士,青山 潤,塚本勝巳,西田 睦(東大海洋研)
ウナギの集団構造を検討するため,産卵群の遺伝的組成をある程度反映する可能性のあるシラスに注目し,種子島,神奈川および茨城で同一年度の異なった接岸時期に採集したシラス計51個体について,ミトコンドリアDNAの調節領域を含む615塩基の配列を決定し,標本間の遺伝的異質性の有無について調べた。その結果,各接岸時期や接岸地域による遺伝的なまとまりは見られなかった。また,既報の中国産ウナギなど31個体分のデータを含めた検討からも,ウナギに複数の集団が存在するという徴候は得られなかった。胡 夫祥(東水大),大関芳沖(中央水研),東海 正,松田 皎(東水大)
浮魚類の稚仔魚を定量採集するために,船速などによらず一定水深を曳網する中層トロール網を開発した。網口は2.25m×2.25mで,全長12.5mの網には高強度ポリエチレン製綟網を使用した。また,縦横比6.0,反り比15%,上反角20°の湾曲V型デプレッサーを平行四辺形の原理に従い,左右2本ずつのブライドルにより網フレームの下側に取り付けた。この網の曳網特性を調べるために,実物の1/5の模型網を製作し,東京水産大学の回流水槽で実験を行い,流速およびワープ長を変えたときの網の水深とデプレッサーの迎角を測定した。その結果,ワープ長260, 310, 360, 410cmのいずれにおいて,30~100cm/sの広い流速範囲で,デプレッサーはほとんど25°の設定迎角を保ち,網水深の変動幅はわずか2.0%以内であった。模型実験の結果により,この新しい稚魚採集用中層トロール網は流速によらずほとんど一定水深を保持できることが期待される。RobertVassallo-Agius(東水大),今泉 均(日栽協古満目),渡邉 武(東水大),山崎哲男(日栽協古満目),佐藤秀一,ViswanathKiron(東水大)
シマアジの産卵および卵とふ化仔魚の脂質組成に及ぼすAstxの影響をみるため,7歳魚に産卵前5ヶ月間,生餌(RF),あるいはAstx無添加および10ppm添加のスチームドライペレット(DPおよびa-DP)を給餌した。その結果,RF区とa-DP区ではDP区の3倍以上の産卵量が得られた。浮上卵率,受精率,ふ化率はRF区とDP区で高く両区で差がなかったが,ふ化率はa-DP区で55.3%と,他2区の63.5%より劣った。飼料間で総脂質含量に差がなかったためか,卵とふ化仔魚の総脂質含量にも試験区間で大差なかった。卵とふ化仔魚の脂肪酸組成や脂質組成も飼料脂質を反映しており,n-3HUFA含量はRF区でやや高かったが,両組成に対するAstxの影響は見られなかった。以上,Astxはシマアジの産卵量を増加するのに有効であったが,卵に取り込まれないためか卵質改善には効果がなかった。RobertVassallo-Agius(東水大),今泉 均(日栽協古満目),渡邉 武(東水大),山崎哲男(日栽協古満目),佐藤秀一,ViswanathKiron(東水大)
シマアジの産卵に対する飼料中のイカミール(SM)の効果をみるため,魚粉:SM=(1:1)あるいは魚粉:SM:オキアミミール(KM)=(1:1:1)をタンパク質源としたスチームドライペレット(それぞれfs-DPおよびfsk-DPとする)で生簀(5×5×5m)に収容した7歳魚(10尾/区,♂:♀=5:5)を産卵前5ヶ月間飼育し,産卵量および卵質などを生餌(RF)区と比較した。産卵時の親魚の体重は各区とも3.5kg前後であった。産卵量はRF区で最も多かったが,受精率やふ化率などの卵質はfs-DP区で最も優れていた。しかし,fsk-DP区では産卵量および卵質とも劣った。卵およびふ化仔魚の脂質や脂肪酸組成は飼料脂質を反映していた。以上,飼料のタンパク質源としてSMの配合はシマアジの卵質改善に有効であったが,KMとの併用では産卵量,卵質いずれに対しても効果が認められなかった。杉田 毅, 示野貞夫,大久保康典,細川秀毅,益本俊郎(高知大農)
エピネフリン投与したコイでは,肝膵臓および筋肉のcAMP濃度とglycogenphosphorylase活性は増大してグリコーゲン含量は減少した。また,肝膵臓のG6PaseとFBPaseの活性は筋肉のPFK活性とともに増大し,血糖値は増大した。24時間後には多成分は回復傾向にあったが,筋肉のPFK活性は高く推移した。以上の結果から,エピネフリン投与時の肝膵臓ではグリコーゲンの分解と糖新生を促進して筋肉にグルコースを供給しており,筋肉ではこのグルコースとグリコーゲンを用いた解糖が活発に行われていると推察された。柿沼 誠,柴原直子,池田華子,前川行幸,天野秀臣(三重大生物資源)
20℃培養不稔性アナアオサを対象とし,30℃培養藻体の温度ストレス応答反応について検討した。30℃培養藻体の色素含量および遊離アミノ酸含量は,20℃培養藻体のそれらと比較して有意に増加した。また,温度ストレス特異的に蓄積されるタンパク質の存在が示唆された。さらに,20℃培養藻体ではNAD/NADP依存性グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)が,30℃培養藻体では加えてNADP依存性GDHが発現していることが明らかとなった。これらの結果から,不稔性アナアオサは温度ストレス応答反応を示すものと推察された。船木 稔(北見工大),西澤 信(共成製薬),澤谷拓治(北海道立工業技術センター),井上貞信, 山岸 喬(北見工大)
マコンブ,リシリコンブおよびオニコンブの仮根のNa, K, Ca, Mg, Fe, MnおよびZnを分析し,葉状体および葉柄と比較した。天然および養殖品を分析した結果,養殖したマコンブの仮根にはKが多く(11.76-14.91g/100g乾燥重量),またK/Na比は3.88-5.18で,葉柄や葉状体,および葉状体の文献値(1.0-2.2)よりも大きかった。3種のコンブの仮根部は,葉柄や葉状体よりCa含量が高く,Mn含量も同様な傾向を示した。マコンブとオニコンブの仮根部がミネラル,特にK含量が高いことは新しい知見である。関口勝司(岩手水技セ),佐藤 繁(北里大水),加賀新之助(岩手水技セ),緒方武比古,児玉正昭(北里大水)
4種類の二枚貝とマボヤをそれぞれ別の水槽で飼育し,培養したAlexandriumtamarenseを給餌して生物種による麻痺性貝毒蓄積能の差異を調べた。調べた種は給餌したA.tamarenseをほとんどすべて摂取したが,個体別の毒蓄積量には顕著な差が認められた。しかし,その平均毒量は給餌量とともに増加し,同一量のA.tamarenseを給餌した生物はほぼ同様の毒蓄積量を示した。このことは,フィールドでみられる種間の毒蓄積の差異は自然条件下における餌料の取り込み行動の差異に起因することを示唆する。TriWinarniAgustini,鈴木 徹,萩原知明,石崎松一郎,田中宗彦,高井陸雄(東水大)
魚肉の凍結貯蔵中のK値,メト化の変化については-40℃まで調べられた例があるが,商業貯蔵温度(-60℃)以下の温度域におけるデータは無い。それら貯蔵条件に根拠を与えるとともに,凍結貯蔵中の各種化学,生化学的変化の代表として,キハダマグロ肉のK値変化速度高 ,小川廣男,田代有里,磯 直道(東水大)
加熱処理をしたときのクロアワビHaliotisdiscus肉の物性変化を明らかにするために,アワビ中心部位肉を縦断面と横断面とに分け,煮熟肉と生肉とを比較した。光顕と電顕(SEM)観察から,生肉では筋線維の密度が高く,コラーゲンが縦断面に網目状,横断面に紐状分布することが分かった。煮熟すると筋線維が凝集して空隙が広がり,また,コラーゲン繊維が消失した。煮熟肉では,弾性率と破断強度は生肉より小さく,縦と横の断面の差はほとんどなくなった。煮熟肉の緩和時間は生肉より大きくなり,粘性率の増大を示した。以上により,圧縮方向による生肉の弾性率の違いはコラーゲンの分布と方向性に依存し,また,煮熟によりそれが消失して弾性率と粘性率に差が認められなくなるのはコラーゲンのゼラチン化が原因の一つであることが明らかとなった。白井展也(東水大),鈴木平光(食総研),東海林 茂(月島食品),和田 俊(東水大)
ラード,タイ産ナマズ油,日本ナマズ油,イワシ油を5%含んだ実験飼料をマウスに4週間与え,日本ナマズ油がマウスの血漿および肝臓の脂質成分に与える影響を調べた。日本ナマズ油群はラード,タイ産ナマズ油,イワシ油群に比べ,血漿および肝臓のアラキドン酸(20:4n-6)含量が高く,ドコサヘキサエン酸(22:6n-3)含量も高かったが,イワシ油群とは有意差がなかった。日本ナマズ油群は飼料中のコレステロール含量(143mg/100gfeed)が高いにもかかわらず,血漿の総コレステロール(T-Chol.)含量はラード,タイ産ナマズ油群に比べて差がなく,肝臓のT-Chol.含量はイワシ油群と同じ値まで低下した。これらの結果から,日本ナマズ油は20:4n-6および22:6n-3を摂取するのに最適な油であり,肝臓のT-Chol.含量の低下に有効であると考えられる。赤壁善彦,松井健二,梶原忠彦(山口大農)
海藻(緑,褐および紅藻)を磨砕して粗酵素液を調製し,長鎖脂肪酸のα-酸化活性を調べた。まず,緑藻アナアオサにおいて,不飽和脂肪酸であるオレイン酸,リノール酸およびリノレン酸を添加したところ,いずれも相当する(R)-2-ヒドロペルオキシ酸(99%ee)が得られた。また,その他緑藻,褐藻およびに紅藻についての同様な実験においても,パルミチン酸を基質として用いた場合,得られたヒドロペルオキシ酸は,アオサと同様な立体化学(R-配置)ならびに不斉収率(99%ee)を示した。以上のことから,2-位へのエナンチオ選択的ヒドロペルオキシ化は,緑藻のみならず褐藻ならびに紅藻においても見いだされた。藪 健史(中央水研,東水大),等々力節子(食総研),山下倫明(中央水研,東水大)
ゼブラフィッシュ胚を用いて受精卵・仔魚への熱,紫外線およびγ線のストレスによって誘発されるアポトーシスを調べた。ホールマウントTUNEL染色によって,各種ストレス処理によって生じたアポトーシス細胞を検出できた。胚抽出液中のカスパーゼ-3様活性はストレス処理後,誘導された。カスパーゼ-3を介するアポトーシスの反応経路がストレス誘導性アポトーシスに主要な役割を果たすことが推定される。村田裕子,佐田(潮)紀子,横山雅仁,桑原隆治,金庭正樹,大原一郎(中央水研)
バフンウニ生殖巣中の苦味アミノ酸pulcherrimineを分析するため,Dabs-Clにて誘導体化し,メタノール-酢酸-水を移動相として用いた逆相HPLCによる分析方法を検討した。pulcherrimine濃度に対する検量線は0-4μg/mLの範囲で直線性が得られた(r=0.994)。本法によってバフンウニ生殖巣のpulcherrimine濃度を測定したところ,卵巣では平均1.37mg/100gであったが,精巣中には検出されなかった。また,苦味の強さとpulcherrimine濃度との間に高い相関関係が得られた(r=0.860,p<0.0001)。これらの結果は苦味の原因がpulcherrimineであることを強く支持するものである。田中宗彦,岩田聖美(東水大),RomaneeSanguandeekul(チュラロンコン大),半田明弘(キューピー研),石崎松一郎(東水大)
クロカジキ水溶性タンパク質(FWSP)から調製した可食性フィルムの引っ張り強度(TS),引っ張り伸び率(EAB)並びに水蒸気透過性(WVP)におよぼす可塑剤の種類と濃度の影響について検討した。可塑剤としてグリセロール,ポリエチレングリコール(PEG),エチレングリコール,ショ糖,ソルビトールを用いたところ,グリセロールとPEGにより柔軟性に富むフィルムが形成された。グリセロール濃度の増加にともなってTSは減少し,EABとWVPは増大した。一方,PEGの添加はEABよりもTSに対してより顕著な影響をもたらし,両可塑剤を混合した場合,グリセロールとPEGの比が2:1でEABが最大となった。グリセロールとPEGの組み合わせにより,可食性FWSPフィルムのTS,EAB,WVPが変えられることを明らかにした。吉田吾郎,吉川浩二,寺脇利信(瀬戸内海水研)
広島湾産のノコギリモクの藻体上に形成された不定胚から人工種苗を作出し,その成長と成熟を観察した。不定胚は室内培養下のノコギリモクの発生初期の茎葉から出現した。不定胚は茎葉上で発芽し,茎葉から剥離した後,仮根を形成して基盤に固着した。不定胚の形成は通気培養下で促進され,茎葉は短期間で多数の新生発芽体に覆われ,1年後には球状の発芽体の集合体が得られた。分離した発芽体を,種苗として1997年の12月より屋外水槽中で培養した。種苗は翌年の秋以降急速な主枝の伸長を開始し,屋外培養を開始しておよそ1年後の冬に生殖器床を形成し,全長1m程度の成熟藻体となった。山本剛史,島 隆夫,古板博文,鈴木伸洋(養殖研),白石 學(中央水研)
摂餌中に残餌が糞に混ざらない採糞用水槽を用い,手撒き給餌と自発摂餌によるフローティングタイプ飼料の栄養成分の消化吸収率を間接法により比較した。ニジマスではタンパク質,脂質,でんぷんおよび灰分の消化率に給餌方法による差はなかった。コイでは自発摂餌におけるでんぷんや脂質の消化率が若干低くなる傾向が見られたが,摂餌量に起因すると推察された。従って,摂餌量に差がなければ今回用いた試験飼料の栄養成分の消化吸収率には給餌方法による差はほとんどないと判断された。マリア・ハケウ・モウラ・コインブラ(東水大),長谷川理(神奈川水総研所),小林一展,是次真六郎,
大原恵理子,岡本信明(東水大)
秋山敏男(福井県水試),鵜沼辰哉,山本剛史(養殖研)
カゼインをタンパク源とする精製飼料(タンパク含量10-50%)および褐藻類の生アラメ(10%)をアカウニ稚ウニに給餌しながら8週間飼育し,飼料タンパク質の至適添加量を検討した。殻の成長や飼料効率は20-50%区が10%区より有意に高かった。増重や生殖腺指数では20-40%区が優れていたが,他の精製飼料区と比べて統計的な有意差はなかった。以上の結果から,至適量は20%程度と推察された。また,アラメ区は精製飼料区と比較していずれのパラメーターでも劣っていた。これは,アラメのタンパク含量の低さやアミノ酸バランスの悪さなどが関係していると考えられた。近藤竜二(福井県大生物資源),今井一郎(京大院農)
1991年夏季に広島湾北部から分離されたChattonellaantiquaを殺藻するγプロテオバクテリアに属する細菌4株の16SrDNAの塩基配列を決定し,系統解析を行った。その結果,S,K,D株はAlteromonasmacleodiiと最も近縁であり,R株はPseudoalteromonasbacteriolyticaと系統的に近縁であった。各殺藻細菌株の16SrDNAに特異的な配列を基に作成したプライマーを用いて,系統的に近縁な数種の細菌株も含めてPCRを行ったところ,各々の殺藻細菌株の16SrDNAのみが増幅されたことから,本手法は殺藻細菌を特異的に検出する方法として有効であると考えられる。石樋由香,山田佳裕(養殖研),鯵坂哲朗(京大院農),横山 寿(養殖研)
五ヶ所湾のガラモ場に生育するホンダワラ類4種の個体内におけるδ13Cの分布を明らかにした。気胞,葉のδ13Cは主枝より高く,すべての種において上部の側枝ほどδ13Cが高い傾向がみられた。δ13C分布は-20.0~-9.3‰(平均値-14.9‰)で,植物プランクトンのδ13C(-20‰)と比べて有意に高かった。これはホンダワラ類と植物プランクトンとがδ13Cで識別されることを示しており,δ13Cがガラモ場の食物網解析に有効であることが示唆された。張 成年(遠洋水研),PaulA.Sandifer(サウスカロライナ自然資源局)
米国東部のスジエビの一種(Palaemonetesvulgaris)において,産卵中の雌の腹部に蓄積された卵を固定し卵と精子の相互作用を走査電顕によって観察した。精子は円盤状の頭部とその中心部から突き出た1本のスパイクでできている。卵表面で観察された精子は,1)頭部から微少フィラメントが伸長,2)頭部で卵表に接着,3)スパイクが曲がり卵表に接触,4)スパイクが卵膜に貫通し頭部が卵表から乖離,5)スパイクが卵膜内へ貫入,6)頭部が卵膜内へ貫入,という様相を呈し,この順序で受精が起こるものと想定された。複数の精子が同時に卵膜内へ貫入しているところが観察された。吉永龍起(東大海洋研),萩原篤志(長大水),塚本勝巳(東大海洋研)
シオミズツボワムシBrachionusplicatilisは,日周的な飢餓条件下で繁殖を抑制し,寿命が非飢餓ワムシと比べて2倍以上に長くなる。本研究はワムシの個体数変動機構を理解するため,飢餓条件を与えたワムシが生んだ仔虫の生存期間を調べた。飢餓区ワムシは1日あたり3時間だけ給餌し,対照区ワムシには常に給餌した。これら2区の第1仔をそれぞれ集め,絶食条件下での生存期間を求めた。その結果,飢餓区のワムシが産んだ仔虫は,対照区のワムシのそれらに比べて生存期間が有意に長くなった。このことより,ワムシは周期的な飢餓条件下では,飢餓耐性が高い仔虫を生む繁殖戦略を有することが明らかになった。山崎裕治(東大海洋研),今野 哲(山形内水試),後藤 晃(北大水)
回遊型のカワヤツメと淡水型のシベリアヤツメ,スナヤツメ北方型および南方型について,卵サイズおよび孕卵数の種間比較を行った。淡水型3種の卵サイズは,いずれもカワヤツメに比べて大きな値を示す傾向が認められた。卵数においては,カワヤツメに比べ淡水型種は少ない卵数を呈した。以上の結果と既報のカワヤツメ類における系統関係をあわせると,カワヤツメからスナヤツメ北方型とシベリアヤツメへの系統進化に伴って,その繁殖形質は小卵多産から大卵少産へと進化したと考えられる。また,前3者とは遠縁のスナヤツメ南方型が他の淡水型種と同様に大卵少産の繁殖特性を有することは,それが生息環境に適応的な形質であることを示唆する。田中淑人(鹿大水),赤瀬信一郎(鹿大農連合大学院),山田章二(鹿大水)
海綿Tedaniadigitataよりclathriaxanthinをリパーゼ加水分解により分離し,そのCDスペクトルより3位の立体構造をSと決定した。一方,clathriaxanthinの異性体であるisoclathriaxanthinについても同様にSであると決定した。柿沼 誠,小澤由忠,伊藤早矢加,天野秀臣(三重大生物資源)
20℃培養不稔性アオサではNAD/NADP依存性グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)が,30℃培養藻体では加えてNADP依存性GDHが発現している。cDNAクローニングの結果,2種類のGDHを有する30℃培養藻体のcDNAライブラリーから,447アミノ酸をコードするpGDH-L,およびその一部領域の欠失した421アミノ酸をコードするpGDH-Sの2種類のクローンが得られた。RT-PCRの結果から,GDH-Lは20℃および30℃両培養藻体で発現していること,GDH-Sは30℃で24時間以上培養した場合に発現することが示唆された。埜澤尚範,森 隆史,関 伸夫 (北大院水)
海産および淡水産貝類筋肉トランスグルタミナーゼの塩濃度依存性を比較した。海産貝類酵素はいずれも海水程度のNaCl濃度で活性が顕著に増加したが,淡水産貝類酵素はNaClの影響を受けないか,またはむしろ活性が低下した。この結果は,本酵素が体液や海水等の外的環境と接触して活性発現するという仮説を支持している。また,海産のホタテガイ,アサリ,淡水産イシマキガイには各々静電的に単一の酵素が含まれていたが,ヤマトシジミには少なくとも4種の酵素が検出された。ヤマトシジミは汽水産で,広範囲の塩濃度環境に適応していることから,多型が存在すると考えられる。白井展也,和田 俊(東水大)
養殖日本ナマズのホスファチジルイノシトール(PI)の脂肪酸組成に与える季節の影響を明らかにするため,冬季および夏季養殖日本ナマズの背肉,肝臓および卵巣におけるPIの脂肪酸組成を比較した。背肉では18:0,20:4n-6,22:6n-3が,肝臓および卵巣では18:0および20:4n-6が主要な脂肪酸であった。冬季は夏季に比べて,背肉の22:6n-3割合が,肝臓ならびに卵巣の20:5n-3割合が顕著に高かった。冬季の背肉,肝臓および卵巣の20:4n-6割合は夏季に比べて低かった。これらの結果から日本ナマズのPIの脂肪酸組成は季節により影響され,冬季で20:5n-3,22:6n-3が多く,夏季で20:4n-6が多い傾向にあることがわかった。