Fisheries Science 掲載報文要旨

ヘドロブロックから溶出する栄養塩が褐藻アラメの成長および生残率に及ぼす効果

陳  勇,荒川久幸,太田順子,森永 勤(東水大)

 海底堆積泥(いわゆるヘドロ)を利用した人工海藻礁の特性の1 つとして,礁から栄養塩の溶出がある。本研究では,ヘドロとセメントを様々な割合で混合させた試験ブロックを作製し,ブロックからの栄養塩の溶出量を測定するとともに,溶出した栄養塩がアラメ配偶体や芽胞体の成長や生残率に及ぼす効果について検討した。

28 日間濾過海水に浸漬したブロックから溶出する栄養塩濃度は,日数の経過に伴い増加し,NO3N, NO2-N では約 10 日後最大となり,その後はほぼ一定していた。また,栄養塩の溶出量はセメント含有率の低い,すなわちヘドロ含有量の多いものほど高い傾向を示した。試験ブロックの浸漬液中におけるアラメ配偶体および芽胞体の成長はヘドロ含有量の高い物ほど良い傾向を示した。生残率はヘドロを含有する試験ブロックの浸漬液で高く,ヘドロを含有しないモルタルブロックの浸漬液で低い傾向を示した。

66(6), 1001-1005 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


サンゴ共生藻培養株に対する温度,光強度,塩分および窒素塩濃度の影響

坂見知子(養殖研)

 2 種類のサンゴ Pocillopora damicornis および Montipora verrucosa から単離した共生藻培養株に対する,温度,光強度,培地の塩分,無機窒素塩濃度の影響を調べた。その結果,両株で温度,光強度に対する応答が異なり,また比増殖速度と光化学系 2 活性では最大となる温度が異なっていた。塩分低下の影響は,温度および光強度が適域からはずれた場合に顕著にみられた。5~20 μM / day の窒素塩の添加によって,細胞密度や細胞当たりのクロロフィル含有量は増大したが,細胞当たりの光合成量は一定であった。
66(6), 1006-1013 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


台湾南西部沿岸域におけるアキアミ類Acetes intermedius の時空間的分布

邱 萬敦,吳 金鎮,鄭 利榮(高雄海洋技術学院)

 1996 年 7 月から 10 月の間に漁船 13 隻によって漁獲された 1546 標本をもとに台湾南西部沿岸域におけるアキアミの時空間分布について調査した。夏季の激しい降雨による河川水の流出により,成体のエビは内湾外部へ移動し始め,その後本種は漁獲される。7 月には東港と枋山沖の浅い大陸棚でエビの集団が発見された。それらは 8, 9 月には高密度で主に東港沖の高屏渓に集中していた。10 月には東港と枋山沿岸に戻ってきたが,低密度であった。大量の降雨は,河川水が大量に流出するとき,成体とその子孫の間の餌に対する競争を減少させることができるような回遊を引き起こす一つの要因である。北東の季節風が吹く頃アキアミは内湾域に戻り,その漁期は終わる。
66(6), 1014-1025 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


繊毛虫テトラヒメナの観賞魚に対する実験感染

Aranya Ponpornpisit(鹿大連大),延東 真,村田 寿(宮大農)

 各種観賞魚の尾部付け根を酢酸により傷害した後,水温 25~30℃, pH 6.0~8.0 の条件下で,テトラヒメナ(Tetrahymena pyriformis)の懸濁液(>100 cells / mL)に 1 日間暴露すると感染が成立した。高い感染率を示す種と低い感染率を示す種について病理組織学的に検討した結果,酢酸による皮膚深部におよぶ傷害が,感染成立の大きな要因であることが分かった。
66(6), 1026-1031 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ノコギリモク幼体の生育限界光量と日補償点との関係

村瀬 昇,鬼頭 鈞,水上 譲(水大校),前川行幸(三重大生物資源)

 1998 年 4 月から 6 月の山口県深川湾水深 8 m のノコギリモク群落を対象に,幼体の生育限界光量と日補償点を明らかにするために,光合成と呼吸,群落内の光分布,日射量を測定した。群落床部での幼体の生育限界光量は海面に対する相対値で 1.0~1.5% であった。幼体の葉の光合成速度は 50 μM m−2 s−1 以下の範囲で光量が高まるにつれて直線的に増加した。幼体の呼吸速度は 2.49 μ LO2cm−2 h−1,補償点は 4.98 μM m−2s−1 であった。光合成―光関係と日射量の日変化から数学モデルを作成し日補償点を推定した。本研究期間中の平均的な日射条件では推定された日補償点は 1.3% であった。この値はノコギリモク群落内で実測された幼体の生育限界光量とよく一致し,本モデルの有効性が確かめられた。
66(6), 1032-1038 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


日本と台湾5 海域におけるホシザメの食性と成長に伴う食性変化の海域差

山口敦子(長大水),谷内 透(東大農)

 青森,東京湾,舞鶴,下関,台湾において底曳網により漁獲されたホシザメ 935 個体の胃内容物を調べた。空胃率は 0-6.1% の範囲であった。3 つの指標(%W, %F, RI)から見ると,青森,下関,台湾ではカニ類,東京湾では口脚類,舞鶴ではエビ類が重要な餌項目となっていた。魚類はどの海域でもあまり利用されていなかったが,舞鶴では二番目に重要な餌となっていた。海域間での餌の重複度は一般に高かったが,東京湾は他の海域との重複度が最も低かった。東京湾では資源量の多い底層の甲殻類よりも,底泥中の甲殻類を選択的に餌としていることがわかった。成長に伴う餌生物の変化は東京湾,舞鶴,台湾で認められ,餌の多様性は成長に伴い低くなる傾向が見られた。従来ホシザメは押し潰し型の食性に分類されていたが,底泥中に生息する餌生物を掘り起こして丸呑みする(東京湾),底層の餌生物を押し潰して食べる(東京湾を除く海域)と,環境に応じて二つの摂餌戦略があると推定された。
66(6), 1039-1048 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


養殖サケ類へのアニサキス科線虫感染の可能性

井上広滋,大島俊一郎,平田龍善,木村郁夫(日水中研)

 養殖サケ類へのアニサキス科線虫感染の可能性を,薄切筋肉の直接観察および消化管内用物の検査から推察した。直接観察では,天然ギンザケ14 尾中 7 尾,天然サケ 40 尾中 40 尾から Anisakis simplex が検出されたのに対し,海面養殖ギンザケ,ニジマス各々 249 尾,40 尾の筋肉中には線虫は見出されなかった。消化管の検査においても,海面養殖ギンザケ,ニジマスからアニサキス類を媒介する餌生物は発見されなかった。以上の結果より,養殖サケ類にアニサキス類が感染する確率は低いと結論された。
66(6), 1049-1052 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


生簀におけるブリの最大成長および体重維持に必要なエネルギーおよびタンパク質量

渡邉哉子(東水大),浦賢二郎,矢田武義(長崎水試), Viswanath Kiron,佐藤秀一,渡邉 武(東水大)

 ブリの最大成長と体重維持に必要なエネルギーとタンパク質量を実用的な観点から測定した。平均体重(31, 94 および 506 g)が異なるブリを海面小割生簀に収容し,それぞれ自然水温下(平均 29.8, 27.1 および 18.8℃)で,飽食区および飽食量の 70-10% 給餌区を設け,可消化エネルギー(DE)と可消化タンパク質(DP)含量が既知のドライペレットで約 1 ヶ月間飼育した。その結果,魚のサイズや水温にかかわらず給餌量と成長の間には正の相関がみられた。最大成長に必要な DE と DP は平均体重が 31, 94 および 506 g の魚でそれぞれ 206 kcal と 22.5 g, 274 kcal と 27.3 g,および 82 kacl と 7.7 g / kgBW / day であった。体重維持にはそれぞれ 31 kcal と 3.4 g, 31 kcal と 3.1 g,および 29 kacl と 2.7 g / kgBW / day であった。また,体エネルギー含量を維持するに必要なそれらの値は体重維持の場合よりかなり高かった。
66(6), 1053-1061 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


集魚灯点灯用太陽光発電システムの性能評価

酒井久治(東水大),ムルヨノ バスコロ,アリ クスビアント(ボゴール農科大)

 太陽電池の漁船および漁業への応用を前提に,太陽電池と蓄電池を組み合わせた独立電源形の太陽光発電システムの性能実験を行なった。その結果,変換効率は- 0.0024 t+0.2231(t は平均気温),蓄電池の効率を表わす充放電係数は 0.378 であった。本装置をインドネシアのバガンに設置する場合の発生電力は,一日当たり 0.263 MJ / m2 であると推定した。この推定電力は日本の日射条件に比べると 48% の増加であり,0.5 kW の集魚灯を 10 時間点灯する場合では 18.2 m2 の太陽電池が必要であることを明らかにした。
66(6), 1062-1067 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ニジマスの免疫反応に対するβ-カロテンの添加効果

E. C. Amar, V. Kiron,佐藤秀一,岡本信明,渡邉 武(東水大)

 ニジマスの免疫機能に対する β-カロテンの添加効果について検討した。すなわち,β-カロテンを 0, 40, 200,および 400 mg / kg 添加した精製飼料を平均体重 45 g のニジマスに 12 週間給餌し,成長,飼料効率,液性および細胞性免疫機能を測定した。  成長と飼料効率には,β-カロテン添加による顕著な影響はみられなかった。液性免疫機能では,総免疫グロブリン含量は 200 mg / kg 添加区でもっとも高く,血清補体活性は 400 mg / kg 添加することにより,有意に高くなった。また,血清リゾチーム活性は β-カロテンの飼料への添加に伴い高くなる傾向がみられた。一方,細胞免疫機能では,頭腎白血球の貪食活性が 400 mg / kg 添加区で有意に高かったが,末梢血白血球の活性酸素産生能は添加量の増加に伴ない低くなった。

 以上のことから,β-カロテンの飼料への添加はニジマス稚魚の血清補体活性および免疫グロブリン含量に影響を及ぼすものと推察された。

66(6), 1068-1075 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


密度成層湖におけるチオ硫酸の分析

近藤竜二,笠嶋倫子,松田洋之,畑 幸彦(福井県大生物資源)

 高速液体クロマトグラフィーによるチオ硫酸の高感度分析方法について検討した。分離用カラムにはShodex Asahipak NH2P-50 (4E) を使用した。移動相に100 mM Na2HPO4 (pH 8.5) を用い,チオ硫酸を215 nm でモニターした。本法では 20 分以内にチオ硫酸を分析でき,検出限界は 10 pmol(20 μL を注入した場合の濃度は 0.5 μM)であった。試水中に NaCl が存在しても分析には影響されず,海水試料にも十分適用できることが明らかとなった。試料の採取に関しては採取後直ちに酸素瓶に満たして空気と遮断し,5 時間以内に測定すれば安定した定量結果が得られた。この方法で密度成層湖である水月湖水中のチオ硫酸の分布を調査したところ,密度躍層のある水深 6~7 m 以深にチオ硫酸が検出され,その濃度は 1 μM 以下から 60 μM であった。
66(6), 1076-1081 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ヒラメ脾臓および腎臓におけるIg 保有細胞の分布

徳田有希,豊原治彦,池本 優(京大院農),喜納辰夫(京大再生研),坂口守彦(京大院農)

ヒラメの脾臓と腎臓の細胞について抗ヒラメ IgM モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーを行い,細胞表面 Ig 保有(sIg<;>+<;>)細胞の割合を明らかにした。その結果,頭腎中に占める sIg 細胞の割合は体腎中に占める sIg 細胞の割合と全個体間で高い相関(r=0.996)を示したが,脾臓と頭腎および体腎の間にはいずれも有意な相関性が認められなかった。また,腎臓には成熟 B 細胞の他に,脾臓には認められない sIg 発現量の少ない sIg 細胞が存在したことおよび免疫染色により頭腎に形質細胞が存在することが確認されたことから,頭腎にはプラズマ細胞への分化段階にある B 細胞系列が存在するものと判断された。
66(6), 1082-1086 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


有明海に放流されたタイショウエビPenaeus (Fenneropenaeus) chinensis 人工種苗の成長と産卵

中島則久(佐賀有明水振セ),皆川 恵(西海水研),伊藤史郎(佐賀有明水振セ)

 有明海に放流されたタイショウエビ人工種苗の成長と産卵について調査した。本種の成長は早く,11 月(ふ化後 219-229 日)には平均体長で雄 154 mm,雌 198 mm に達した。再捕個体の最大体長は雄 164 mm,雌 223 mm であった。本種の成長は雄では Pitcher and MacDonald の式に,雌では Logistic 曲線に当てはまり,雄:Lt=155.0 [ 1-e2.925 sin {2π (t-16.151)/ 365)}- 0.0623 (t-10.712)],雌:Lt=200.3 /{ 1+e (1.985-0.034t)}( Lt:放流 t 日後の体長,t:放流後日数)で示された。雌の成熟状況を組織学的に調べたところ,2 月下旬には成熟した個体がみられ,残存成熟卵を有する産卵後期の個体は 4 月まで出現した。成熟および産卵個体の最小サイズはそれぞれ体長 189 mm および 193 mm であった。
66(6), 1087-1091 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


混合および分離飼育によるギンブナの成長および成熟形質の遺伝分散および環境分散の推定

Worawut Koedprang,大原健一,谷口順彦(東北大院農)

 野生ギンブナを親魚として 5 つのクローン系を作出し,成長形質(体長・体重)および成熟形質(生殖腺重量指数 GSI)に関する分散および遺伝率を混合飼育系と分離飼育系のそれぞれにおいて推定した。混合飼育系におけるクローン系の判別には,マイクロサテライト DNA マーカーを用いた。体長および体重の平均遺伝率は 1 ヶ月目では 0.105 および 0.127 と相対的に高く,3 ヶ月目では 0.057 および 0.052, 5 ヶ月目では 0.029 および 0.037, 10 ヶ月では 0.156 および 0.040 と相対的に低かった。10 ヶ月目の GSI の遺伝率は混合飼育系(0.510),分離飼育系(0.419)ともに高かった。
66(6), 1092-1099 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


給餌および絶食条件におけるブリ稚魚の成長と魚体成分に及ぼす運動飼育の影響

尾形 博,奥 宏海(養殖研)

 ブリ稚魚を用いて,給餌および絶食条件下における飼育流速(運動)と成長および体タンパク質・脂質含量の関係について調べた。運動条件で飼育することにより,ブリ稚魚の成長,飼料効率,タンパク質および脂質保留率が改善された。ブリ稚魚の成長に対する至適流速は1.6 bl / s と推定された。運動飼育によりタンパク質・脂質の同化作用および異化作用が昂進するが,給餌条件では同化作用が異化作用を上回ることが推察された。
66(6), 1100-1105 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ブリ幼魚の成長に伴う味覚受容器応答の変化

神原 淳(三重大生物資源),古川 清(東大院農),帝釈 元(鳥羽水族館),日高磐夫(三重大生物資源)

 孵化後尾叉長約9 cm まで飼育したブリを 2 群に分け,片方はアミとイカ,他方は魚を餌料として 2 ヶ月飼育し,飼育前後の味覚器の 7 物質に対する応答性を調べた。飼育前のブリでは応答値に大きな個体差がみられた。各物質の応答をプロリン応答の相対値で比較した結果,バリン他の応答値は飼育前後で有意に変化した(Mann-Whitney 検定)。飼育後の 2 群間には有意差がなかったことから,応答の変化は内因的なもので,餌料の影響ではないと推察された。天然ブリでも同様の傾向がみられ,稚魚期のブリ味覚器は発達段階にあるものと推測される。
66(6), 1106-1114 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ウナギ属仔魚の脳下垂体,甲状腺および生殖腺の発達過程

尾崎雄一,奥村浩美,風藤行紀,池内俊貴,井尻成保,長江真樹,足立伸次,山内晧平(北大院水)

 ウナギ属仔魚の脳下垂体,甲状腺および生殖腺の組織学的観察を行った。脳下垂体の甲状腺刺激ホルモン( TSH)産生細胞は 45.0 mm 以上のレプトケファルスで観察された。甲状腺でのチロキシン産生は今回用いた全てのレプトケファルス(19.8 mm 以上)で認められた。生殖腺はシラスウナギのみに観察された。以上の結果,レプトケファルスからシラスウナギへの変態には脳下垂体―甲状腺系が関与するが,プレレプトケファルスからレプトケファルスへの成長には関与しないことが示唆された。
66(6), 1115-1122 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


台湾産養殖トラフグ筋肉における遊離アミノ酸およびヌクレオチド関連物質の季節変動

黄 登福,陳 泰源,萬 泉源,鄭 森雄(台湾海洋大)

 台湾で養殖されたトラフグを1 年間にわたってサンプリングし,筋肉の一般組成,遊離アミノ酸およびヌクレオチド関連物質を分析した。筋肉の一般組成には季節および地域差が見られなかったが,遊離アミノ酸とヌクレオチド関連物質は季節変化を示した。筋肉に含まれる遊離アミノ酸とヌクレオチド関連物質のうち量的に最も多かったのは Tau と IMP であった。味に関する遊離アミノ酸(Gly, Ala と Arg)とヌクレオチド関連物質(GMP, IMP と AMP)の量は 7 月から 1 月にかけて多かった。
66(6), 1123-1129 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


コイ肝膵臓カテプシンS の精製と性質

パンケイ ヘンネケ,原 研治,橘 勝康,曹 敏傑,長富 潔,石原 忠(長大海洋生産研)

 これまで魚類では報告の無かったリソゾームシステインプロテアーゼに属するカテプシンS をコイ肝膵臓から精製した。精製酵素は分子量約 37 kDa のモノマーであった。精製カテプシン S の N-末端アミノ酸配列分析では,V-P-D-A-M-D-W-Y-N-K-G-Y-V-T-D-V-K-N-Q の 19 残基が決定された。一方,精製カテプシン L の N-末端アミノ酸配列は V-P-N-S-L-D-W-R-E-K-G(11 残基)であった。精製カテプシン S の Z-Phe-Arg-MCA 基質やミオシン重鎖に対する最適 pH は 7.0 であり,pH 5-8 の範囲で作用した。またこの酵素は E-64, leupeptin, DTNB および TLCK により阻害された。精製カテプシン S はカテプシン L とは明らかに異なる,魚類では新奇の酵素であった。
66(6), 1130-1137 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


コイ肝膵臓カテプシンS の基質特異性と筋原線維タンパク質の分解

パンケイ ヘンネケ,原 研治,曹 敏傑,橘 勝康,長富 潔,石原 忠(長大海洋生産研)

 コイ肝膵臓カテプシンS のペプチドに対する基質特異性と筋原線維タンパク質に対する分解を調べた。α-ネオエンドルフィンとニューロテンシンに対し,それぞれ 6Arg-7Lys と 3Tyr-4Glu を分解した。またインシュリン B-鎖に対しては,3Asn-4Gln, 6Leu-7Cys, 12Val-13Glu, 13Glu-14Ala,16Tyr-17Leu, 22Arg-23Gly, 24Phe-25Phe, 26Tyr-27Thr を切断した。これらの分解の P2 位のアミノ酸は Phe, Leu, Val のようなバルキーあるいは疎水性のアミノ酸が主であった。タンパク基質に対して,本酵素はコイ a-アクチニン,アクチン,トロポミオシン,トロポニン T と C を良く分解した。トロポニンの分解はかなり速かった。
66(6), 1138-1143 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ホッケおよびスルメイカ筋肉の浸漬・乾燥過程における水分挙動と物性変化におよぼすソルビトールの影響

伊勢谷善助,久保友和,佐伯宏樹(北大院水)

 ホッケ(Am)とスルメイカ(Sq)の筋肉を 0.5-1.5 M ソルビトール溶液に浸漬後ただちに 30℃(相対湿度 60%)で乾燥し,その間の水分挙動と物性変化を調べた。魚肉水分はソルビトールによる浸透脱水現象によって大きく低下し,減率乾燥期間の蒸発水分量が減少した。さらに,乾燥時の魚肉表面の硬化と剪断強度の上昇もソルビトール浸漬によって効果的に抑制された。以上の結果は,ソルビトール浸漬が乾燥工程の短縮化と同時に,乾燥物の硬化抑制に有効な手段であることを示している。
66(6), 1144-1149 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


イバラヒゲおよびカラフトソコダラ骨格筋中のα-アクチンアイソフォームのアミノ酸配列

森田貴己(中央水研)

 イバラヒゲ骨格筋由来の cDNA ライブラリーから 2 種類の α-アクチン cDNA を単離した。カラフトソコダラの骨格筋からも,RT-PCR クローニングにより 2 種類の α-アクチン cDNA (α-アクチン 1,α-アクチン 2)を単離した。これら α-アクチン cDNA から演繹されたアミノ酸配列のアイソフォーム間の違いは,155 番目のアミノ酸残基(Ala / Ser)のみであった。α-アクチン 1 と α-アクチン 2 の演繹アミノ酸配列は,2 種類のソコダラ間でそれぞれ同一であった。ノザンハイブリダイゼーションの結果,骨格筋中にこれら 2 種類の α-アクチン遺伝子の発現が観察された。
66(6), 1150-1157 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


韓国産および日本産スサビノリから分離した赤腐れ病病原菌Pythium sp. の可溶性タンパク質およびアイソザイムの電気泳動パターンの比較

朴 贊善,坂口研一,柿沼 誠,天野秀臣(三重大生物資源)

 韓国莞島産スサビノリの赤腐れ病病原菌(莞島分離株)可溶性タンパク質の SDS 存在下と非存在下の PAGE パターンは宮城県産,愛知県産および福岡県産スサビノリから分離した菌株(宮城分離株,愛知分離株,福岡分離株)のそれと僅かに異なった。デンプンゲル電気泳動により 8 種酵素でアイソザイムが検出され,群平均法によるクラスター分析の結果,宮城分離株と愛知分離株が類似し,莞島分離株と福岡分離株はいずれの菌株とも類似しないことが判った。
66(6), 1158-1162 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


シログチ普通筋ミオシン重鎖全長のcDNA クローニングと一次構造解析

尹盛 豪,柿沼 誠,平山 泰(東大院農),山本常治(水練技術懇話会),渡部終五(東大院農)

 シログチ普通筋ミオシン全長をコードする cDNA クローンを単離した。本クローンの演繹アミノ酸配列は 1,930 アミノ酸残基を含んでいた。サブフラグメント-1 重鎖では疎水性および親水性領域が交互に分布したが,ロッドは疎水性に富む傾向にあった。さらに,ロッドでは α ヘリックスの 2 重コイル構造に特徴的な 7 アミノ酸残基の繰返し配列がみられた。一方,ミオシン重鎖全長の一次構造を既報のスケトウダラのものと比較したところ,90% のアミノ酸同一率が得られた。
66(6), 1163-1171 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


コイ肝膵臓由来の2 種類のトリプシン(Anionic trypsin)の精製と性質

曹 敏傑,長富 潔,鈴木 美穂,原 研治,橘 勝康,石原 忠(長大水)

 コイ肝膵臓の抽出液を硫安分画,DEAE-Sephacel, Ultrogel AcA 54, Q-Sepharose 等の各種クロマトグラフィーに供して,2 種類のトリプシン(Trypsin A, Trypsin B)を単離精製した。SDS-PAGE によりトリプシン A は,分子量約 28 kDa の単一バンドとして検出された。一方,トリプシン B は,還元,非還元条件下共に移動度の近い 2 本のバンド(28.5 kDa, 28 kDa)として確認された。Native-PAGE では,両酵素共単一バンドを示した。トリプシン A, B の至適温度は,各々 40℃ と 45℃ であった。また,至適 pH は,共に 9.0 であった。両酵素は,トリプシン・インヒビターによく阻害された。更に,N 末端アミノ酸配列を比較すると,コイ筋肉由来のトリプシン型セリン酵素や他生物種のトリプシンと高い相同性を示したが,同一のものではなかった。抗トリプシン A 抗体を用いたイムノブロット解析では,トリプシン B は強い免疫交叉性を示した。
66(6), 1172-1179 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


エゾアワビ初期稚貝の生残・成長に及ぼす飢餓の影響(短報)

高見秀輝,河村知彦,山下 洋(東北水研)

 着底直後のエゾアワビ初期稚貝の飢餓耐性を明らかにするため,変態後の稚貝に異なる無給餌期間を与えて飼育し,給餌開始後の生残率,成長速度を比較した。実験期間を通じて無給餌条件下で飼育した稚貝は, 10 日から 13 日以降生残率が激減し,18 日までにほとんどの個体が死亡した。しかし,これらの稚貝にも約 100 μm の殻長の増加が認められた。生残率,成長速度に影響を及ぼさない無給餌期間は変態後 4~5 日であった。変態直後の餌料環境はエゾアワビ初期稚貝の成長,生残に大きな影響を及ぼすものと考えられる。
66(6), 1180-1182 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


in-situ 観察によるベニズワイガニの生息密度推定(短報)

藤倉克則,土田真二,橋本 惇(海洋科学技術セ)

 日本海の隠岐諸島周辺および奥尻島周辺の深海において,潜水調査船「しんかい 2000」と深海曳航式テレビカメラによるベニズワイガニの密度分布を推定した。得られた値は,トロール採集などによって算出された値より 2~3 倍高い値となり,採集法による密度推定にはバイアスが強くかかるため,in-situ 観察による推定値で採集法による推定値を補正する必要性が示唆された。また,奥尻島周辺では水深 100 m 毎の密度分布を求め,水深と漁獲量の関係について考察した。
66(6), 1183-1185 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


マアナゴConger myriaster のミトコンドリア DNA・調節領域近傍に認められた遺伝子配置変動(短報)

石川智士,木村呼郎(東大海洋研),東海 正(東水大),塚本勝巳,西田 睦(東大海洋研)

 ミトコンドリア DNA (mtDNA) はサイズが核DNA に比べて小さく,その遺伝子配置や一部領域の塩基配列の保存性が高いことから,多くの魚類に対応したユニバーサルプライマーが設計され,これらを用いたポリメラ-ゼ連鎖反応(PCR)法が,魚類の分子系統解析や集団解析に用いられている。しかし,mtDNA に遺伝子配置変動が起こっている場合は,PCR 法がうまく行かない場合がある。我々は,マアナゴの集団解析をする過程で,本種では,tRNAThr 遺伝子から tRNAPro遺伝子を経て調節領域に至る領域から,tRNAPro 遺伝子が消失していることを発見した。このことは,今後マアナゴの mtDNA 解析を用いた研究を行う場合に,遺伝子配置変動を考慮する必要性があることを示すとともに,いまだその機構が解明されていない mtDNA の遺伝子配置変動の研究に新たな一例を提供するものである。
66(6), 1186-1188 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ウニ卵巣におけるキトサナーゼ様酵素の存在の可能性(短報)

永井 毅(水大校)

 3 種類のウニ(バフンウニ,キタムラサキウニ,ムラサキウニ)卵巣のキトサナーゼ活性を測定した。その結果,ムラサキウニにおいてのみ酵素活性が認められた。そこでムラサキウニ粗酵素液を硫酸アンモニウムによる分画(0-60%, 60-80%, 80% 以上)をおこなったところ,60-80% の画分に活性が認められた。さらに本酵素の分子量を 12.5% ゲルを用いた SDS-PAGE で調べたところ,微生物由来のキトサナーゼとほぼ同様な分子サイズである約 34 kDa の主要タンパク質バンドが検出された。これらの結果から,ムラサキウニ卵巣にキトサナーゼ様酵素が存在する可能性が示唆された。
66(6), 1189-1190 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


水産食品におけるListeria monocytogenes の汚染実態(短報)

山崎浩司,舘山朋子,川合祐史,猪上徳雄(北大水)

 食中毒原因菌 L. monocytogenes (LM) の水産食品中における汚染実態について調査した。生鮮魚介類49 試料および水産加工品 61 試料の合計 110 試料のうち Listeria 属細菌が 14 試料(12.7%)から,LM は 7 試料(6.4%)から検出された。特にサケを原料とする製品からの LM 検出率(12.5%)は高かった。以上から,日本で流通する水産食品も欧米諸国と同様の頻度で LM に汚染されており,LM 認識度の低い日本でも製品を低温長期間保存することで増殖を招き食中毒事故の発生する危険性が示唆された。
66(6), 1191-1193 (2000)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法