Fisheries Science 掲載報文要旨

ジャイアントグーラミィ Osphronemus gouramy 用高配合大豆油粕飼料におけるアルギニン添加の影響

M. A. Suprayudi(IPB),竹内俊郎(東水大),I. Mokoginta, and T. Kartikasari(IPB)

 グーラミィを用いて,大豆油粕(DSM)飼料におけるアルギニン添加の影響を明らかにする目的で,DSM およびアルギニン含量の異なる 4 種類の飼料で平均体重 21.6 g の魚を 56 日間飼育した。アルギニン無添加の DSM 飼料(飼料タンパク質中の 50% および 75% を DSM で代替)で飼育した魚の飼育成績は劣り,特に,75% 代替飼料区で有意に劣っていた(p<0.05)。しかし,それらの飼料にアルギニンを添加することにより飼育成績が改善され,75%DSM 代替飼料区でもアルギニン添加により 50%DSM 代替アルギニン無添加飼料区とほぼ同等の成長,飼料効率,タンパク質効率およびタンパク質と脂質の体蓄積率を示し,グーラミィ用大豆油粕飼料にとって,アルギニンは重要なアミノ酸補足因子であることがわかった。
66 (5), 807-811(2000)
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駿河湾におけるヤモリザメ属 2 種の生殖と食性

堀江 琢,田中 彰(東海大海洋)

 1981-1989 年と 1992-1996 年に駿河湾で採集した,ヤモリザメ 731 個体及びニホンヤモリザメ 754 個体を用いてそれらの生殖と食性について調査した。両種とも調査年の前半と後半で成熟全長が異なった。後半のヤモリザメ雌の成熟全長は駿河トラフを挟む東西の海域で異なり西部の方が大きかった。両種とも卵黄に富む大型の卵を周年保持していることから,明確な産卵期を有していないと考えられた。両種とも主に魚類,甲殻類,頭足類などの生物を捕食していた。ヤモリザメは季節により海域間で,ニホンヤモリザメは成長に伴い異なった餌生物を捕食していた。
66 (5), 812-825(2000)
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異なる生育温度における低温性 Vibrio 属細菌の生育パターンとアデノシンリン酸

森井 秀昭,去川 洋充(長崎大水)

 低温非好塩性 Vibrio では至適生育温度を 15-25℃ にもち,生育曲線が生育に伴い増加する菌群(I 型菌)と同温度を 20-30℃ にもち,同曲線が定常期以降で減少する菌群(II 型菌)があった。ATP, ADP, AMP 量の割合およびこれらの生育に伴う消長は,どの生育温度でも,各菌群内では類似したが,両菌群間では異なり,I 型菌とII 型菌では生態型が異なると考えられた。また両菌群とも AMP の割合が最も高く,エネルギー充足率は極めて低く(0.38 以下),既報の結果から異なった。
66 (5), 826-833(2000)
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クロマグロ飼育仔稚魚における耳石日輪形成

伊藤智幸(遠洋水研),椎名康彦(A & A ハッチェリー),辻 祥子(遠洋水研),
遠藤文則(日本配合飼料),手塚信弘(日栽協奄美)

 クロマグロの耳石微細輪紋について,形成周期および第 1 輪形成時期を 3 ヶ所の実験室で飼育した仔稚魚から推定した。第 1 輪は受精後 5 日,ふ化後約 4 日で形成され,これは既往の研究による摂餌開始時と一致していた。輪紋は受精 71 日後まで 1 日 1 本形成されていた。成長の遅い魚ほど耳石輪紋が不明瞭であった。野生魚の耳石輪紋がより明瞭であったことから,野生魚の成長が実験室よりも速いか,または成長の速い個体のみが野生で生き残ると考えられた。
66 (5), 834-839(2000)
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タイ産キノボリウオ Anabas testudineus 地域集団の遺伝的特徴と類縁関係

関野正志(水工研),原 素之(養殖研)

 タイ国中央部,東部および南部半島域の 3 地域,7 地点で採集されたキノボリウオ Anabas testudineus についてアロザイム分析を行い,集団間の遺伝的関係を調べた。調べた 18 遺伝子座のうち,12 座位で多型が認められた。遺伝距離に基づく枝分かれ図から,7 標本は大きくチャオプラヤ河水系,メコン河水系,およびマレー半島域グループの 3 グループに分けられ,それぞれのグループでは,いくつかの遺伝子座で,特徴的な遺伝子頻度組成が見られた。他のタイ産淡水魚の報告例と同様に,タイ産キノボリウオの集団構造は,河川水系等の地形要因の影響を強く受けているものと考えられた。
66 (5), 840-845(2000)
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ヒラメ変態期における形態形成に及ぼすチロキシンのステージ特異性

柳 進馨,竹内俊郎(東水大),青海忠久(福井県大)

 ヒラメ変態期の形態形成に対するチロキシン(T4)の感受性を調べるため,発育ステージ毎の浸漬実験を行った。6 区の試験区を設け,各水槽にふ化仔魚を 600 尾ずつ収容し,A ・ B, C ・ D, E ・ F, C~F および A~F のステージ分けで 10 nmol の T4 を投与した。その結果,T4 の刺激により着底稚魚への変態が早まり,眼の移動,伸長鰭長の吸収および着底行動に有意差が認められた。また,仔魚の着底および眼の移動は E ・ F ステージの浸漬により,伸長鰭長の吸収は C~F ステージの浸漬によりそれぞれ促進され,T4 浸漬の時間に比例することがわかった。このことから,T4 の刺激によるヒラメ変態の特徴は,組識および発育ステージにより感受性に差があることが明らかになった。
66 (5), 846-850(2000)
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中層トロールシステムにおける鉛直運動のモデリング

李 春雨,李 珠煕(釜慶大学校)

 漁船,オッターボード,および網漁具から構成される中層トロールシステムについて,船の進行方向に対して鉛直平面内の運動を表すモデルを構築した。網とオッターボードの水深,およびワープ張力について,モデルによる数値解と海上実験で得られた計測結果との適合性を検討した。本モデルにより,中層トロールシステムの運動特性を求めるシミュレーションが可能となり,設計パラメータの異なる中層トロール漁具の運動を予測する際に利用できることを確認した。
66 (5), 851-857(2000)
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ファジー論理を応用した中層トロール網の水深制御

李 春雨,李 珠煕,金仁振(釜慶大学校)

 中層トロール網の曳行水深を自動制御するシステムとして,ファジーアルゴリズムを用いた制御系を設計し,実船による海上実験を行った。ファジーコントローラでは操業現場で熟練した船長や漁労長の採用するルールをもとに,目標水深と現在の網水深との水深差に基づいて,ワープの長さが決定,制御される。実験の結果,ファジー制御系は目標水深に追従する性能を有し,曳網速度の変化などの外乱に対して優れた応答特性を持っていることが明らかにされた。
66 (5), 858-862(2000)
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アカムシ(多毛綱)の捕獲処理コストと成長との相互関係

斉藤英俊,今林博道,河合幸一郎(広大生物生産)

 貝類捕食者アカムシの捕獲処理コストと成長との相互関係を明らかにするため,本種に三種類の二枚貝を与えて,15 日間の室内飼育実験をおこなった。摂食量,標準呼吸量,尿量,糞量,および摂食時のゼリー状物質量は,餌の種類によって有意な差はなかったが,成長量は,アサリ給餌区で最も高く,次いでムラサキイガイ給餌区,マガキ給餌区の順であった。これに対して,活動余地呼吸量や捕獲処理時のゼリー状物質量は,マガキ給餌区で最も多かった。このように,本種の成長は,おもに捕獲処理の際に消費されるエネルギーによって決まることが明らかになった。
66 (5), 863-870(2000)
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魚類由来浮遊培養細胞を用いた合成化学物質の毒性評価

森 真朗,若林明子(都環境研)

 化学物質の魚類に対する毒性を調べるため,魚類由来浮遊培養細胞を用いる迅速・簡便な毒性試験方法の開発を試みた。浮遊培養細胞の CHSE-sp 細胞と単層培養細胞の CHSE-214 細胞を用い,ニュートラルレッド法により 11 種類の合成化学物質の細胞毒性を調べた。両細胞に対する化学物質の毒性値は良い相関を示した。また,両細胞を用いた毒性試験結果と文献から調べた魚体を用いた毒性試験結果とは良い相関を示した。魚類由来浮遊培養細胞を用いる毒性試験方法は,魚体を用いる毒性試験に先立って行う一次スクリーニングに適した迅速・簡便な方法であると考えられた。
66 (5), 871-875(2000)
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雌オニテナガエビの生殖脱皮周期と非生殖脱皮周期における血中エクジステロイド量の変動

奥村卓二,会田勝美(東大農)

 雌オニテナガエビを用いて,生殖脱皮周期と非生殖脱皮周期における血中エクジステロイド(Ecd)量を比較した。それぞれの脱皮周期で,Ecd 総量は,脱皮後期と間期で低く,脱皮前期で上昇して脱皮直前にピークに達するといった変動を示した。さらに,20-ヒドロキシエクジソン,エクジソンと免疫陽性の高極性物質が両脱皮周期の個体から検出され,20-ヒドロキシエクジソンがもっとも多かった。両脱皮周期で Ecd 総量および各 Ecd 量に差がなかったことから,Ecd は卵巣発達に関与しないことが示唆された。
66 (5), 876-883(2000)
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ブリの最大成長および体重維持に必要なエネルギーおよびタンパク質量

渡邉哉子(東水大),原 洋一,浦 賢二郎,矢田武義(長崎水試),Viswanath Kiron,佐藤秀一,渡邉 武(東水大)

 ブリの最大成長および体重維持に必要なエネルギーおよびタンパク質量を明らかにするため,平均体重(8-280 g)が異なるブリをそれぞれ 500 l 水槽に収容し,自然水温下(平均 24.6-27.1℃)で,飽食区および飽食量の 80-0% 給餌区を設け約 1 ヶ月間飼育した。試験飼料には可消化エネルギー(DE)および可消化タンパク質(DP)含量が既知のドライペレット(EP)を使用した。その結果,魚のサイズや水温にかかわらず給餌量と成長の間には正の相関がみられた。飽食区の日間給餌率から求めた最大成長に必要な DE(kcal/kgBW/day)と DP(g/kgBW/day)は飼育開始時平均体重が 8, 63, 160, 237 および 280 g の魚でそれぞれ,225 と 21.7, 136 と 14.8, 125 と 11.2, 111 と 10.7,および 92 と 8.2 であった。日間成長率が 0 になる点から求めた体重維持に必要な DE と DP はそれぞれ 61 と 5.9, 15 と 1.7, 15 と 1.3, 24 と 2.3,および 12 と 1.0 であった。また,DE 摂取量とエネルギー蓄積率から求めた魚体のエネルギー含量を維持するに必要な DE と DP 量はこれらの値よりもかなり高くなった。
66 (5), 884-893(2000)
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ゴマアイゴにおける精巣活性と血中ステロイドホルモン量の周年変化

M. S. Rahman,竹村明洋,高野和則(琉大・熱生研)

 ゴマアイゴ雄の生殖活性の周年変化を精巣の組織学的観察と血中ステロイドホルモン量の測定から明らかにした。本種の精巣活性は,非成熟期(11-3 月),前産卵期(4-5 月),産卵期(6-7 月),そして後産卵期(8-10 月)の 4 期に分けることができた。非成熟期の精巣は精原細胞のみであったが,前産卵期には精母細胞以上に発達した雄性生殖細胞の増加が認められた。産卵期の卵巣と輸精管内は精子で占められたが,後産卵期には精原細胞と残存精子が観察できた。血中ステロイドホルモン(testosterone, 11-ketotestosterone と 17α,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one)は前産卵期に増加して産卵期にピークに達したが,後産卵期と非成熟期には低値で推移した。血中ステロイドホルモン量の変化は精巣活性のそれとよく一致していた。
66 (5), 894-900(2000)
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中国地方産イワナ Salvelinus leucomaenis の頭部斑紋型と水質との関係について

河合幸一郎(広大生物生産),増原 彩(マックスバリュー),今林博道(広大生物生産)

 中国地方 17 河川のイワナの頭部斑紋型と水質との関係を調べた。斑紋を定量的に比較するため,斑紋指標I(最長の斑紋の幅に対する長さの比)及びII(両眼間隔に対する最も幅の広い斑紋の幅の比)を考案した。両指標をそれぞれ 3 つの範囲に分け,これに基いて全イワナサンプルを A から H の 8 型に分けた。短く幅が広い A 型は中国地方中央部の錦川,江川や斐伊川,長く幅が狭い H 型は中国地方東部の蒲生川で最も優占的であった。一方,棲息域の水の電気伝導度と指標Iの間には有意な正の相関,指標IIとの間には有意な負の相関が見られたのに対し,鉄イオン濃度と指標Iの間には有意な負の相関,指標IIとの間には有意な正の相関が見られた。
66 (5), 901-907(2000)
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アカムシ(多毛綱)の探索コストと成長との相互関係

斉藤英俊,今林博道,河合幸一郎(広大生物生産)

 貝類捕食者アカムシの探索コストと成長との相互関係を明らかにするため,本種に異なる 2 サイズのアサリを与えて 15 日間の室内摂餌実験をおこなった。捕食行動時間をみると小型餌区では中型餌区と比較して,総探索時間では 1.8 倍長かったが,総捕獲処理および総摂食時間では有意な差はなかった。エネルギー収支をみると小型餌区では中型餌区と比較して,探索コストとみなされる活動余地呼吸量および代謝排出量では,それぞれ 11.8% および 2.8% 高く,逆に成長量では 19.3% 低かった。このように探索コストの増大は,成長を低下させることが明らかになった。
66 (5), 908-914(2000)
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東北地方におけるアユの放流効果の判定

ケオサン クリッティカー,林崎健一,朝日田卓,井田 斉(北里大水産)

 岩手県南部の盛川および稗貫川の 2 河川におけるアユの放流効果を判定するため,河川からの標本,琵琶湖産ならびに種苗センター産の標本の酵素の多型現象を解析した。解析した 17 遺伝子座の中で 8 遺伝子座に多型現象が認められ,とくに GPI-1MPI の 2 遺伝子座で集団間に差が認められた。これらの遺伝子組成を用い放流種苗の河川への定着の検討を試みた結果,稗貫川では種苗の起源から推定した組成に近い組成で釣獲されたが,盛川では放流に起源しない個体が卓越しており,天然の遡上量が極めて多いか,放流個体が早期に釣獲されてしまうなどの効果が推定された。
66 (5), 915-923(2000)
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マイワシ Sardinops melanostictus のミトコンドリアゲノム全塩基配列

井上 潤(東大海洋研),宮 正樹(千葉中央博),西田 睦,塚本勝巳(東大海洋研)

 マイワシ Sardinops melanostictus のミトコンドリアゲノム全塩基配列を,ロング PCR のテクニックと計 30 組の魚類汎用プライマー(計 3 個の種特異的プライマーを含む)を用いて直接法により決定した。本種のミトコンドリアゲノムは全長 16,881 bp で,他の脊椎動物と同様に 2 個のリボゾーム RNA 遺伝子,22 個の転移 RNA(tRNA)遺伝子,ならびに 13 個のタンパク質遺伝子から構成されていた。また,遺伝子の配置も他の一般的な脊椎動物のものと一致した。tRNAPro 遺伝子と tRNAPhe 遺伝子の間にみられた 1200 bp の非コード領域は,いくつかの保存的領域を含むことから,調節領域(D-loop 領域)に相当すると考えられた。
66 (5), 924-932(2000)
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レクチン結合法を用いたニジマス耳石器官における糖の検出

都木靖彰(東大海洋研),石田 功,麦谷泰雄(北大水)

 ニジマス内耳小﨡のレクチン結合性から,耳石器官に存在する糖の種類を推定した。耳石基質および耳石膜の subcupular meshwork では N-アセチルグルコサミンとマンノースが検出され,subcupular meshwork の一部が基質として耳石に取り込まれるとするこれまでの仮説と一致した。すべての小﨡上皮細胞が耳石基質と結合するレクチンの少なくとも一つとは結合し,内リンパ液のレクチン結合性も耳石基質と同じであったことから,耳石基質に含まれる糖は小﨡上皮細胞で産生され,内リンパ液に分泌された後,耳石に沈着するものと考えられた。
66 (5), 933-939(2000)
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日本海本州中部沿岸におけるベニズワイの産卵周期と産卵数

養松郁子(日水研)

 新潟県上越沖において,1993 年 4 月から 1994 年 4 月にかけてベニズワイの雌をほぼ毎月 1 回定期的に採集し,甲幅,外仔卵および卵巣の状態について定量的な測定を行った。

 本種の雌は,主に甲幅 68.1 mm をモードとする齢期で成熟するが,それよりも 1 齢期早くあるいは遅く成熟すると思われる個体も見られた。

 採集された個体はほとんどすべて経産雌で,孵出・産卵の盛期は 3, 4 月に見られた。外仔卵と卵巣の発生状況から本種の産卵周期は 2 年であることが示唆された。産卵直後と思われる雌の抱卵数は 0-60800 で,雌ガニの甲幅と正の相関が認められた。

66 (5), 940-946(2000)
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東京湾におけるテンジクダイの繁殖生態

久米 元(東大農),山口敦子(京女大),青木一郎(東大農),谷内 透(東大農)

 生殖腺の組織学的観察と生殖腺重量指数(GSI)をもとに,東京湾におけるテンジクダイの繁殖生態を明らかにした。産卵期は 7~10 月で,雌雄ともに満一歳(60.0 mmTL)で成熟することが判明した。産卵期の卵巣内に,第一次~二次卵黄球期の卵母細胞とともに排卵後濾胞がみられたこと,精子形成が非同時発生型であったことから,多回産卵を行っていると推定された。一回当たりの産卵数は 7983(76.0 mmTL)~19316(106.0 mmTL)で,全長との間に直線的な相関がみられた。卵形成の最終成熟段階で卵径の増大がみられなかったが,これは卵径の増大を防ぎ,雄の口内で保育できる卵数をできるだけ多くするための適応と考えられる。
66 (5), 947-954(2000)
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ブリの自発摂餌─異なる飼育環境下における明期摂餌型と暗期摂餌型の出現─

神原 淳,日高磐夫(三重大生物資源),栗山 功(三重県水技セ),山下光司,市川眞祐(三重大生物資源),
古川  清,会田勝美(東大院農),F. J. Sanchez-Vazquez(Murcia 大),田畑満生(帝京科大バイオ)

魚自身が摂餌要求にしたがってスイッチを押し,その信号で自動供給される餌を食べる自発摂餌は,養殖の新しい方法として応用が期待されている。本実験ではブリ若魚を光制御可能な実験室(LD 12 : 12)および屋外に設置した水槽内で自発摂餌装置により飼育し,その自発摂餌行動を調べた。屋内実験ではロッド型スイッチ,屋外実験では糸の先にペレットに似せた擬餌をつけた引っ張り式スイッチを使用したが,いずれの場合もブリは 1~3 日で自発摂餌を学習し,給餌機起動回数は日を追って増加した。一方,屋内実験では,自発摂餌は明暗周期に同調した明期摂餌型を示したが,屋外実験では,暗期摂餌型を示し,ブリの自発摂餌の摂餌型は照度に大きく影響を受けることが明らかとなった。
66 (5), 955-962(2000)
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ノロゲンゲの体側筋肉にみられた粘液胞子虫 Myxobolus aeglefini

横山 博(東大院農),若林信一(富山水試)

 富山湾で漁獲されたノロゲンゲの体側筋肉中に,白色球形,約 3 mm 径の粘液胞子虫“シスト”が多数みられた。寄生虫学的検査より,胞子はほぼ球形,平均長 12.0 μm,平均幅 11.0 μm,極﨡平均長は 4.8 μm で,胞子後部に顕著な粘液質が観察された。組織学的検査より,“シスト”壁は宿主の軟骨組織由来で,さらに外側を結合組織に被包されているという珍しい特徴を有していた。以上の結果より,本粘液胞子虫は底棲性海産魚類の軟骨組織に寄生する Myxobolus aeglefini Auerbach 1906 と同定された。
66 (5), 963-966(2000)
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スケトウダラ筋肉のトリメチルアミン-N-オキシド脱メチル化酵素の精製と性質

木村メイコ,関 伸夫(北大院水),木村郁夫(日水中研)

 スケトウダラ筋原線維画分から標記酵素(TMAOase)の抽出を試みたところ,1 M NaCl 中で酸処理(pH 4.5)することで可溶化抽出できた。これを DEAE-セルロースクロマトグラフィーとゲルろ過によって部分精製した。さらに native PAGA で単離できた。本酵素の至適 pH は 7.0, TMAO に対する Km は 30 mM,活性化エネルギーは 0-30℃ で 38.4 kJ・mol-1・deg-1 であった。本酵素は活性化に Fe2+ を必要としたが,アスコルビン酸,システインのような還元剤は活性化能のある Fe2+ の酸化を防ぐために必要であった。分子量はゲルろ過で 40 万であるが,SDS-PAGE では 25,000 であった。
66 (5), 967-973(2000)
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分子量の異なる 3 種の糖アルコールの魚肉に対する浸透特性

大泉 徹,玉川浩子,赤羽義章(福井県大生物資源),金子由公(東和化成工業)

 分子量の異なる 3 種の糖アルコールとしてグリセロール(G),ソルビトール(S),およびマルチトール(M)の魚肉に対する浸透性を比較検討した。その結果,魚肉に対する浸透量は,いずれもそれらの浸漬液の浸透圧に依存して増大したが,浸透圧が同じなら浸透量は G>S>M の順に大きかった。一方,浸漬による水分減少量も浸透圧に依存して増加したが,浸透圧が同じなら水分減少量は M>S>G の順に大きかった。これらのことから,糖アルコールの分子量が魚肉に対する浸透とそれにともなう脱水に大きな影響を及ぼすことが示唆された。
66 (5), 974-979(2000)
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海洋微生物に含まれる astaxanthin-β-glucoside を始めとする極性カロテノイドの PC リポソームに対する抗酸化活性

松下裕子,鈴木里加子,奈良英一,横山昭裕,宮下和夫(北大)

 リノール酸含有 PC リポソームに対する各種カロテノイドの抗酸化活性を比較したところ,astaxanthin-β-glucoside が最も強く,ついで astaxanthin, zeaxanthin, β-carotene の順となった。一方,クロロホルム溶液中での上記カロテノイドの抗酸化活性にはほとんど差が見られなかった。したがって,これらのカロテノイドのリポソーム中での抗酸化活性は,そのラジカル消去作用だけでなく,PC リポソーム膜中での各種カロテノイドの位置や膜中への取り込まれ量などにも影響されることが考えられた。特に極性カロテノイドは,PC 膜を貫通する形でリポソームの二重膜を強化し,膜の外からの酸化を非極性カロテノイドより効果的に防いでいるものと推測された。こうした考えは,リポソーム膜の強化作用を有するコレステロールが,大豆 PC リポソームに対して抗酸化作用を示すことからも確かめられた。
66 (5), 980-985(2000)
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褐藻ホソメコンブの成長及び鉄摂取における天然有機錯体鉄の効果について(短報)

和 吾郎,久万健志,松永勝彦(北大水)

 褐藻ホソメコンブの成長及び鉄摂取速度における,河川から供給されると考えられる天然有機錯体鉄(フルボ酸-Fe(III))の効果について,他の有機錯体鉄(EDTA-Fe(III),クエン酸-Fe(III))及び固体水酸化鉄の効果と比較検討した。前報での沿岸性ケイ藻の鉄摂取は,有機錯体鉄から解離してくる無機の鉄イオン種を摂取していると考えられ,海水中ではほとんど鉄解離が起こらないフルボ酸-Fe(III)(1 p.p.m.C)では,増殖及び鉄摂取速度は著しく低いものであった。しかし,ホソメコンブの成長及び鉄摂取速度は,フルボ酸-Fe(III)(1 p.p.m.C)が最も速く,フルボ酸-Fe(III)錯体を取り込む生化学的な機能があると考えられ,その成長に重要な役割を果たしている。
66 (5), 986-988(2000)
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オレンジラッフィー Hoplostethus atlanticus の耳石からの 222Rn の逸散の確認(短報)

Robert W. Gauldie(ニュージーランド地質・核科学研),Max D. Cremer(ハワイ大)

 魚類の耳石中の 210Pb/226Rn 比に基づく年令査定法は,水溶性の中間壊変生成物である 222Rn が耳石から逸散しないという仮定の上に成り立っている。ガンマー線測定による過去のオレンジラッフィーの年令測定は,有意な量の 222Rn の逸散を指摘してきた。さらに感度の高いアルファー線測定法によって,222Rn が耳石から逸散することを確認した。
66 (5), 989-991(2000)
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ブリより分離された Lactococcus garvieae の莢膜および非莢膜抗原の所在に関する研究(短報)

岡田俊明,南 隆之(宮崎大農),大山 剛,安田広志(宮崎水試),吉田照豊(宮崎大農)

 ブリより分離された Lactococcus garvieae の莢膜抗原と非莢膜抗原の所在を莢膜抗原および非莢膜抗原に対するウサギ抗体を一次抗体とした免疫電子顕微鏡観察によりその所在を検討した。その結果,莢膜抗原は細胞周辺の莢膜全体にその所在が確認された。一方,非莢膜抗原は細胞周辺のみにその存在が確認されたが,莢膜には検出されなかった。
66 (5), 992-994(2000)
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有害渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama の天然個体群がアコヤガイの生残に及ぼす影響(短報)

永井清仁(ミキモト真研),松山幸彦,内田卓志(瀬戸内水研),赤松 蔚(ミキモト真研),本城凡夫(九大農)

 有害渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama の天然藻体の毒性を調べるため,1994 年に三重県の英虞湾で発生した赤潮海水を用い,アコヤガイへの暴露試験を実施した。実験は H. circularisquama 天然藻体の細胞密度を 100~10,000 cells/ml の範囲で調整し,それぞれの実験区でアコヤガイ成貝(平均殻高 69.7±5.52[SD]mm,湿重量 36.0±7.34[SD]g)10 個体を用いて試験した。H. circularisquama を暴露されたアコヤガイは暴露直後から著しい開閉運動や外套膜の収縮など本種に特有な症状を引き起こした。斃死は 2,000 cells/ml から観察されはじめ,6,000 cells/ml を越えるとほとんどの個体が 24 時間以内に斃死することが判明した。暴露 24 時間後における半致死濃度(LD50)はおよそ 5,000 cells/ml と算出された。この値は培養藻体を用いた既知の結果とほぼ一致することから,H. circularisquama の天然藻体と培養藻体の毒性はほとんど同じであると判断された。
66 (5), 995-997(2000)
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日本産海藻のカテキン類の含量(短報)

吉江由美子,王 煒,David Petillo,鈴木 健(東水大)

 日本近海に生息する海藻 27 種類のカテキン類の分布を HPLC を用いて調べた。カテキンならびにエピガロカテキンは多くの海藻に含まれていたが,カテキンガレートは 1 試料,エピカテキンガレートは 2 試料からのみ検出された。全体にガレート構造を有するカテキンは少なかった。アラメから多種類のカテキンが検出されたが,ワカメからはカテキン類は検出されず,ホソメコンブならびにスサビノリはごく少量のカテキンを有していた。
66 (5), 998-1000(2000)
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