公益社団法人日本水産学会における
東日本大震災への対応および復興支援の関連活動(続編)

はじめに

 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の発生から5年半の歳月が流れました。地震と津波は、東北を中心として北海道から関東に及ぶ太平洋沿岸域に甚大な被害をもたらし、多くの人命が失われました。被災地の復興は遅々として進まず、未だに多くの被災地で、住民の多くが仮設住宅での暮らしや、故郷を離れての避難生活を余儀なくされています。沿岸地域の基幹産業である水産業も甚大な被害を受けましたが、漁船や港湾施設、水産加工施設などのインフラは、住宅地等に比べれば早急にその復旧作業が進行しました。しかしながら、人々の暮らしが安定しないなかで、漁業や水産加工業の回復にも様々な障害があり、震災以前の状態には遠く及ばない現状にあると言えます。東京電力福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故によって震災直後に沿岸の魚介藻類に見られた高い放射性物質濃度は大幅に減少し、現在ではほとんどの魚介藻類で食品中の放射性物質の基準値を下回っていますが、風評被害の影響は未だに収まらず、福島県では本格的な漁業再開の見通しすら立っていません。
 日本水産学会では、震災直後から被災地の水産業や沿岸地域社会への支援につながる各種の活動を行ってきました。震災1 ヶ月後の平成23 年4 月11 日には、「東日本大震災からの復興に向けた日本水産学会の行動計画」を策定し、地域社会や水産業の再構築に直結する即効性のある研究を行うことや、環境放射能汚染問題の研究を促進させる方針を発表しました。その方針に沿って、本学会の会員各位が様々な研究活動を展開するとともに、学会としても様々な観点からシンポジウムを開催したり、日本水産学会誌において特集記事を掲載するなど、研究者間の情報交換を促進して研究の進展、高度化に貢献するとともに、一般市民や業界関係者、行政関係者等に成果を公表する活動を行っています。
 地震と津波は、人間社会のみならず、沿岸の海洋生態系にも大きな影響を及ぼしました。地震や津波によって海洋生態系がどのような影響を受け、それが今後どのように変化していくのかを明らかにすることは、被災地域の沿岸漁業の復興と発展にとって不可欠な過程であると同時に、近代科学が初めて直面する世界的に注目される課題でもあります。生態系や魚介藻類の体内における放射性物質濃度の推移とともに、地震・津波後の生態系の遷移に関する研究についても、本学会として取り組むべき重要な課題として、多くの会員が研究活動を行うとともに、学会としても様々な取り組みを行ってきました。
 地震や津波によって破壊された港湾施設や防潮堤の再建が各地で本格化しています。それは被災地の人々の暮らしや産業の復興に不可欠な過程ではありますが、地震と津波による大攪乱から回復しつつある海洋生態系に新たな攪乱をもたらすことにもなります。長い将来にわたって被災地における漁業および関連する水産業を持続的に発展させていくためには、復興しつつある漁業の進め方に配慮すると同時に、海岸の改変や人工構造物の建設においても海洋生態系に及ぼす影響を考慮する必要があると考えます。またこのような生態系の変化が漁業という産業にどのように影響を与えるのか、また放射能汚染の風評などが水産物消費者の行動にどのように影響するのかなど、社会科学的側面についても解明すべき課題が未だ多い状況です。本学会においても、そのために必要な科学的知見の集積と成果の公表に一層の努力をしていく所存です。
 本冊子は、平成25年6月にとりまとめた「日本水産学会における東日本大震災への対応および復興支援の関連活動」に続く、すなわち平成25年6月から平成28年3月までの本学会における震災復興に関する活動についてとりまとめたものです。上述したとおり、被災地の人々の暮らしや水産業の復興にはまだまだ様々な課題が残されていますが、震災後の5年間における本学会の活動や本学会の会員によって得られた科学的知見は、被災地の漁業、養殖業、水産関連産業の復興のみならず、将来にわたる被災地の水産業の発展にも貢献するものと確信しています。
 本学会ではこれまでに引き続き、上記の多様な観点から震災に係わる自然科学と社会科学の両分野での研究を推進するとともに、その成果の普及活動を行うことを通じて、被災地の復興とそれに引き続く長期的な課題の克服に貢献できるよう努力していきます。本学会による東日本大震災への対応および復興支援に関連する諸活動に対して、ご理解、ご協力を頂いたすべての皆様に厚くお礼申し上げるとともに、今後も一層のご理解、ご協力をお願いいたします。
 なお、この記録は、公益社団法人日本水産学会東日本大震災災害復興支援検討委員会で審議の上、取りまとめ公表するものです。

平成28年10月

公益社団法人日本水産学会東日本大震災災害復興支援検討委員会

【平成28年度委員会】
委 員 長: 河村知彦 東京大学教授
副委員長: 神山孝史(水産研究・教育機構 震災復興現地推進本部)東北区水産研究所沿岸漁業資源研究センター長
  八木信行(水産政策委員長)東京大学准教授
委  員: 秋山秀樹(東北支部担当理事)東北区水産研究所長
  浅川修一(企画広報委員長)東京大学教授
  石丸 隆 東京海洋大学特任教授
  大越和加(水産環境保全委員会委員長)東北大学准教授
  片山知史(災害復興支援拠点)東北大学教授
  木島明博(東北支部会員の理事、災害復興支援拠点)東北大学教授
  黒倉 壽(水産政策担当理事)東京大学特任教授
  佐藤秀一(総務担当理事)東京海洋大学教授
  塚本勝巳(会長)日本大学教授
  萩原篤志(日本学術会議水産学分科会連携会員)長崎大学教授
  森田貴己 水産研究・教育機構 中央水産研究所 放射能調査グループ長
  山下 洋(水産政策担当理事)京都大学教授
  良永知義(総務担当理事)東京大学教授
  和田時夫(副会長)水産研究・教育機構理事
  和田敏裕 福島大学准教授
  (平成28年10月1日時点の役職)

【平成27年度委員会】
委 員 長: 渡部終五(会長)
委  員: 吾妻行雄(東北支部担当理事、東北支部長、災害復興支援拠点代表)東北大学教授
  石丸 隆(日本海洋学会代表)東京海洋大学特任教授
  大越和加(理事、水産環境保全委員会委員長)東北大学准教授
  大関芳沖(水産総合研究センター本部)研究主幹
  神山孝史(水産総合研究センター震災復興現地推進本部)東北区水産研究所特任部長
  金子豊二(総務担当理事)東京大学教授
  木島明博(水産増殖担当理事)東北大学教授
  黒倉  壽 (水産政策委員会元委員長)東京大学教授
  東海 正(総務担当理事)東京海洋大学教授
  長島裕二(企画広報委員会代表)東京海洋大学教授
  森田貴己(水研セ放射能専門家)水産総合研究センター中央水産研究所放射能調査グループ長
  八木信行 (水産政策委員会委員長)東京大学准教授
  山下 洋(水産政策担当理事)京都大学教授
  和田時夫(水産総合研究センター理事)
  (平成28年3月31日時点の役職)

【平成26年度委員会】
委 員 長: 渡部終五(会長)
副委員長: 山下 洋(水産政策担当理事)京都大学教授
委  員: 吾妻行雄(東北支部担当、東北支部長)東北大学教授
  石丸 隆(日本海洋学会代表)東京海洋大学特任教授
  大越和加(理事候補者、東北支部会員)東北大学准教授
  大関芳沖(水産総合研究センター震災復興現地推進本部)東北区水産研究所業務推進部長
  金子豊二(総務担当理事)東京大学教授
  木島明博(水産増殖担当)東北大学教授
  黒倉 壽(水産政策委員会元委員長)東京大学教授
  東海 正(総務担当理事)東京海洋大学教授
  長島裕二(企画広報委員会代表)東京海洋大学教授
  森田貴己(水研セ放射能専門家、関東支部会員)水産総合研究センター本部研究開発コーディネーター
  八木信行(水産政策委員会委員長、福島県地域漁業復興協議会委員)東京大学准教授
  (平成27年3月31日時点の役職)
問い合わせ先
    公益社団法人 日本水産学会 事務局  
    〒108-8477 東京都港区港南4-5-7
    Tel:03-3471-2165 Fax:03-3471-2054
    fishsci@d1.dion.ne.jp (@dの次は数字の1です。)
    http://www.jsfs.jp

(表紙の写真は、養殖施設が復興しつつある宮城県志津川湾(神山孝史氏撮影))

公益社団法人日本水産学会における東日本大震災への対応
および復興支援の関連活動(続編)

本編

目次


理事会主催シンポジウム「東日本大震災からの復興・復旧への日本水産学会の取組の経過と展望-何が出来たか、何が出来なかったか、これから何をするべきか-」(日水誌79-3)3
水産環境保全委員会「水産環境における放射性物質の汚染とその影響」(日水誌79-5)18
水産利用懇話会「震災後の東北地方における水産業の現状と今後の展望」(日水誌79-4)22
水産増殖懇話会「貝類の防疫を考える−東日本大震災からの復興にむけて」(日水誌79-4)26
学会創立80周年記念理事会主催シンポジウム「日本水産学会のこれから─東日本大震災を越えて」(Future of the Japanese Society of Fisheries Science ? Beyond the Great East Japan Earthquake Disaster)(日水誌80-1)30
東北支部大会ミニシンポジウム「沿岸漁業における東日本大震災からの復興の現状と展望」(東北大学マリンサイエンス復興支援室共催)(平成25年11月8日開催)50
東北支部大会ミニシンポジウム「沿岸漁業における東日本大震災からの復興の現状と展望」(東北大学マリンサイエンス復興支援室共催)(日水誌80-2)52
東日本大震災と東北マリンサイエンス拠点形成事業 (日水誌79-2)55
東日本大震災後の復旧状況について (日水誌79-2)57
岩手県水産技術センターの被災とこれから (日水誌79-2)59
被災地の水産業の現状とこれから 岩手大学三陸復興推進機構 (日水誌79-3)61
東日本大震災による水産試験場施設の被害と水産業復興への取組 茨城県水産試験場 (日水誌79-3)66
東日本大震災による水産試験場等の被害状況とその後の取組 福島県水産試験場 (日水誌79-3)69
震災1年半後の三陸沿岸を訪問して思うこと (日水誌79-3)71
マガキ Crassostrea gigas 養殖に対する東日本大震災の影響と復興への取組 (日水誌79-4)72
東北支部大会ミニシンポジウム「東北沿岸の磯根漁業の再生に向けた新たな取り組みと現状」(平成26年11月7日開催)75
東北支部大会ミニシンポジウム「東北沿岸の磯根漁業の再生に向けた新たな取り組みと現状」(日水誌81-2)77
日本学術会議主催学術フォーラム「東日本大震災からの水産業および関連沿岸社会・自然環境の復興・再生に向けて」(日本水産学会共催)(平成25年11月29日開催)80
日本学術会議主催学術フォーラム「東日本大震災からの水産業および関連沿岸社会・自然環境の復興・再生に向けて」(日本水産学会共催)(日水誌80-3)82
海岸構造物(防潮堤)敷設(嵩上げ)に関連した情報提供85
水産総合研究センター東北区水産研究所 宮古庁舎の再建と新組織(日水誌80-5)86
水産利用懇話会「水産加工の震災後復興と新たな取り組み」(平成26年2月7日開催)87
水産利用懇話会「水産加工の震災後復興と新たな取り組み」(日水誌80-5)88
水産環境保全委員会「地震・津波から3年後の東北地方太平洋沿岸域の現状―天災による自然攪乱と修復による人為的攪乱―」(平成26年3月27日開催)92
水産環境保全委員会「地震・津波から3年後の東北地方太平洋沿岸域の現状―天災による自然攪乱と修復による人為的攪乱―」(日水誌80-4)95
企画広報委員会「震災からの復興―水産研究に求められる視点―」(平成26年3月27日開催)99
企画広報委員会「震災からの復興―水産研究に求められる視点―」(日水誌80-5)101
日本学術会議主催公開シンポジウム「東日本大震災からの水産業および関連沿岸社会・自然環境の復興・再生に向けて(第2回)―日本学術会議の第二次提言を踏まえて―」(日本水産学会共催)(平成26年11月21日開催)124
日本学術会議主催公開シンポジウム「東日本大震災からの水産業および関連沿岸社会・自然環境の復興・再生に向けて(第2回)―日本学術会議の第二次提言を踏まえて―」(日本水産学会共催)(日水誌81-2)127
平成27年度日本水産学会理事会特別シンポジウム「東北の海は今,震災後4年間の研究成果と漁業復興」(東北マリンサイエンス拠点形成事業・国際研究開発法人水産総合研究センター共同主催)(平成27年9月21日開催)130
平成27年度日本水産学会理事会特別シンポジウム「東北の海は今,震災後4年間の研究成果と漁業復興」(東北マリンサイエンス拠点形成事業・国際研究開発法人水産総合研究センター共同主催)(日水誌82-2)135
沿岸環境関連学会連絡協議会ジョイントシンポジウム「沿岸環境科学と社会の接点をめぐって─海洋保護区の展開・漁村の震災復興」(平成27年2月7日開催)157
水産環境保全委員会「東北・北海道沿岸における東日本大震災以後の貝毒の問題」(平成27年9月25日開催)159
水産環境保全委員会「東北・北海道沿岸における東日本大震災以後の貝毒の問題」(日水誌82-2)161
平成27年度秋季大会シンポジウム「東日本大震災からの復興・再生に向けた新たな水産業の創成につながる新技術開発」(平成27年9月25日開催)164
平成27年度秋季大会シンポジウム「東日本大震災からの復興・再生に向けた新たな水産業の創成につながる新技術開発」(日水誌82-2)165
漁業講演会「東日本大震災からの漁船漁業の復興─現状と課題」(平成27年9月22日開催)174
漁業講演会「東日本大震災からの漁船漁業の復興─現状と課題」(日水誌82-2)176
日本学術会議主催公開シンポジウム「東日本大震災による原子力発電所事故に伴う魚介類の放射能汚染の問題と今後の展望」(平成27年11月27日開催)180
平成28年度春季大会シンポジウム「三陸沿岸における水産業の復興と新たな水産人材育成―3大学連携三陸水産研究教育拠点形成事業の成果と今後の展望―(平成28年3月26日開催)182
日本水産学会東日本大震災災害復興支援検討委員会(特別委員会)議事内容183