Fisheries Science掲載報文要旨

浮力と水中重量が異なる調査トロール網の漁獲の違い

鄭 程模,松下吉樹,広瀬美由紀,
酒井 猛,川内陽平,依田真里

 2隻の調査船(陽光丸と熊本丸)が同じデザインで浮力と沈降力が異なる漁具を用いて,同じ調査点で45日以内に行ったトロール調査結果を比較した。各船の網口高さと袖先間隔の間には相関が無く,網口高さはカイトを装備する陽光丸が高く,袖先間隔は浮子だけの熊本丸のほうが広がる傾向があった。GLM解析の結果,網口高さは2隻のキダイ,ケンサキイカの漁獲の多寡に,袖先間隔はキダイ,ケンサキイカ,ワニギスの多寡に影響した。一方,網の形状はマアジとカイワリの漁獲の多寡には関係しなかった。

87(3), 263-270 (2021)
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耳石微量元素組成によるForsterygion nigripenneの河口域での生息地利用の推定

Fasil Taddese,Malcolm Reid,Heidi Heim-Ballew,
Matt G. Jarvis,Gerard P. Closs

 ニュージーランド南部に分布するヘビギンポ科のForsterygion nigripenneについて,耳石微量元素組成による生息地利用の推定を行った。レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)を用いて成長に伴う耳石微量元素の変化を調べたところ,Sr:Ca比とBa:Ca比に顕著な変化はみられず,河口内および河口域周辺における生息環境を示した。したがって,耳石微量元素には反映されない一時的な海域への移動の可能性はあるものの,本種は河口域に密接に関連した生活史をもつと考えられた。
(文責 黒木真理)

87(3), 271-281 (2021)
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数値モデルによる サンマLED集魚灯の設置角度の最適化

Fei Li,Chuanxiang Hua,Qingcheng Zhu,Liming Song

 本論文では,サンマ漁業におけるLED集魚灯の最適配置を検討するために,LEDモジュールの様々な設置角度での照明特性を評価する数値光学モデルを提案する。数値モデルによる推定値と妥当性検証のための光学実験の結果はよく一致し(平均誤差8.83%),推定された光の分布は設置角度に大きく依存していた。設置角度が増すと,最大照度は減少し,光源から遠ざかった。また,このとき水平照射距離は増加したが,その増加率はしだいに減少した。最大照度点を過ぎると,照度の減衰は,設置角度により異なるモードを示した。
(文責 安間洋樹)

87(3), 283-296 (2021)
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中国沿岸州における海面漁獲漁業の多面的分析

Qi Ding,Xiujuan Shan,Xianshi Jin,Harry Gorfine

 本研究では,公式統計を用いて中国の国および省レベルでの漁業生産の歴史をレビューし,11の沿岸省が直面している生物社会経済的な課題を吟味した。その結果,努力量当たり漁獲量は,国と省の両方のスケールで急激に減少し,特に伝統的に対象とされてきた多くの底生魚資源の漁獲量は明らかに減少傾向にあることが分かった。また,11の省は,生物学的,社会的,経済的属性が異なる4つのクラスターに分類された。中国の海面漁業の持続可能性を向上させるためには,省ごとに的を絞った対策が必要であると言える。
(文責 阪井裕太郎)
87(3), 297-309 (2021)
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ミトコンドリアDNAマーカーに基づいたミャンマー エーヤワディー川におけるSilonia silondiaの集団構造

Toe Toe Soe,Thida Lay Thwe,Pwint Thu Aye,
Kyi Thar Myint,Than Than Lwin,Ye Win Thaung,
Aye Aye Min,三井翔太,寺原 猛,遠藤雅人,
横田賢史,M. Moshiur Rahman,小林武志

 S. silondiaはミャンマーで商業的に重要な魚種であるが,集団構造に関する基礎的知見は乏しい。そこで,ミトコンドリアDNAの2つの遺伝子(cytochrome bとATPase 6/8)に基づき,ミャンマーで最も流域面積が大きいエーヤワディー川の種々の地域で採取したS. silondiaの集団構造を解析した。その結果,ミャンマーのS. silondiaは,バングラデシュやインドとは有意に異なる集団である一方で,エーヤワディー川の地域間では有意な集団構造は見られないことが明らかとなった。

87(3), 311-320 (2021)
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環境DNAによって明らかにしたアユと冷水病菌の時空間分布

天満陽奈子,常川光樹,藤吉里帆,髙井 一,廣瀬雅惠,
政井菜々美,鷲見康介,瀧花雄大,柳澤壮玄,
土田康太,大原健一,徐 寿明,高木雅紀,太田晶子,
岩田浩義,矢追雄一,源 利文

 Flavobacterium psychrophilumを病原体とする細菌性冷水病が日本国内で,特にアユの間で広く発生している。本研究では,F. psychrophilumとアユの動態を環境DNAを用いて調査することで,アユにおける細菌性冷水病への感染時期を調査した。長良川と揖斐川の河川水を毎月採水して環境DNA定量を行った結果,初夏と秋にアユ,F. psychrophilumともに比較的高いeDNA濃度が記録され,これらの季節にアユが冷水病に感染していることが示唆された。

87(3), 321-330 (2021)
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形態及び行動観察で明らかになる,クリガニ成熟メスの脱皮の兆候

神尾道也,長田拓己,矢野弘奈

 配偶行動及び性フェロモンの研究に適しているクリガニTelmessus cheiragonusの脱皮ステージを体を傷つけずに推定するために,第6腹節及び尾節の外部形態観察による脱皮ステージを構築した。また,脱皮前後のメスは観察者に対しても交尾前ガード中のような服従行動を見せることを明らかにした。これらの形態的および行動上の兆候を組み合わせることで成熟メスの脱皮からの時間を推定できる。この非侵襲的な脱皮ステージの測定は行動研究及び長期間の観察を伴う生理・生化学的な研究等と共に行うのに適している。
87(3), 331-337 (2021)
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卵と孵化仔魚の採集から考察するニホンウナギの複数産卵地点形成の可能性

竹内 綾,樋口貴俊,渡邊 俊,Michael J. Miller,
山梨津乃,福場辰洋,岡村明浩,
沖野龍文,三輪哲也,塚本勝巳

 2014年5月,ニホンウナギの産卵場である西マリアナ海嶺南端部の海域で,水中カメラシステムによる本種の産卵行動の撮影,音響調査による親魚の検知,ORIネットによる卵と孵化仔魚の採集を試みた。その結果,親魚の撮影には至らなかったが,卵3個と孵化仔魚245個体を採集した。そのうち224個体の孵化仔魚は,卵の採集地点から南西に約160km離れた海域で見つかり,これら仔魚と卵は異なる地点で生じた産卵に由来するものと推測される。つまり,少なくとも2地点でニホンウナギの産卵が起きたと考える。

87(3), 339-352 (2021)
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ヒラメParalichthys olivaceusにおけるシステイン酸経路によるタウリン合成:段階的な飼料システイン酸添加が成長,タウリン含量,タウリン合成酵素,成長ホルモンならびにインスリン様成長因子の遺伝子発現に及ぼす影響

中村康平,Marina Mojena Gonzales-Plasus,
牛草(伊藤)智子,益田玲爾,壁谷尚樹,
近藤秀裕,廣野育生,佐藤秀一,芳賀 穣

 システイン酸がヒラメ稚魚の成長,含硫アミノ酸含量,ならびにタウリン合成酵素,成長ホルモン(gh),インスリン様成長因子(igf-1)遺伝子の発現におよぼす影響を調べた。0.9 gのヒラメにシステイン酸を含まない基本飼料(対照);0.25,0.5,および1.0%システイン酸を添加した飼料(C0.25, C0.5, C1.0)を30日間与えた。C0.25およびC0.5区では対照区よりも有意に成長が優れた。タウリン含量は,システイン酸区で対照区よりも有意に高く,C1.0区のIGF-1の発現は対照区のそれよりも有意に高かった。

87(3), 353-363 (2021)
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アカモク種苗生産における炭酸ガス海水によるヨコエビの駆除

瀬田智文,倉島 彰

 アカモク種苗の培養中に発生したニセヒゲナガヨコエビ属の一種Sunamphitoe namhaensisが種苗を食害した。ヨコエビの駆除方法を検討するため,アワビおよびナマコ種苗生産においてカイアシ類の駆除に用いられる炭酸ガス海水への浸漬を試みた。複数の溶存二酸化炭素濃度および時間条件で検討を行ったところ,溶存二酸化炭素濃度26,262 μmol/kg(pH 5.0)の炭酸ガス海水に60分間浸漬することで,ヨコエビを100%駆除できることがわかった。同条件の炭酸ガス海水に60分浸漬しても,アカモク種苗の生残および生長に影響は及ばなかった。

87(3), 365-370 (2021)
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ウニ卵巣への苦味アミノ酸プルケリミンの蓄積と生殖周期との関係

村田裕子,齋藤 健,杉本剛士,清本正人,鵜沼辰哉

 東北地方のバフンウニ卵巣がほぼ周年苦く漁獲利用されない原因を探るため,三国(福井県,夏に漁獲)といわき(福島県)で生殖周期と卵巣へのプルケリミン(Pul)蓄積を比較した。両地点とも,Pulは秋から冬に卵形成が進む卵巣中に増加した後,春の放卵とともに減少し,未成熟卵巣に数か月残留して消失した。三国では,夏にPulがほとんど検出されなかったが,いわきでは,三国に比べ遅い産卵期がPul消失を遅らせ,早い卵形成の開始がPul蓄積を早めたため,夏にPulが検出されない期間が短かった。東北地方の海水温が低いことが主な要因と考えられた。

87(3), 371-381 (2021)
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異なる塩分環境下におけるクルマエビ腹部屈筋の代謝産物量の変化

小山寛喜,国吉久人,Sanit Piyapattanakorn,渡部終五

 環境中の塩分と代謝産物蓄積量との関係を明らかにするため,17, 34および40‰塩分海水にて24時間飼育したクルマエビの腹部屈筋を用いてメタボローム解析を行ったところ,計111種類の代謝産物が検出された。高塩分においては,アラニンやグルタミンなどの遊離アミノ酸蓄積量が増加したが,解糖やTCA回路に関係する化合物の蓄積量は減少した。さらに,これらの代謝産物の合成に関与する酵素の遺伝子発現量も環境中の塩分により変化しており,エビ類の塩分適応に重要な役割を果たしていることが示唆された。
87(3), 383-401 (2021)
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海洋性イミダゾールジペプチドであるバレニンは筋管細胞においてスーパーオキシドジスムターゼの活性化を誘導する

楊  敏,孫 露川阳,川端康之亮,前川貴浩,
谷山茂人,橘 勝康,平坂勝也

 本研究では,海洋性イミダゾールジペプチドであるバレニンの抗酸化活性効果について検討した。マウス筋管細胞へのバレニンの処理は,内因性スーパーオキシドアニオン(O2)の産生を減少させた。さらに,バレニンはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)遺伝子の発現増加ではなく,SOD活性化を促進することがわかった。In vitro SODアッセイにおいて,バレニンを構成するアミノ酸はSODの活性化には影響しなかったが,ジペプチドバレニンはSODを直接活性化した。以上より,バレニンはSODの活性化を介して抗酸化作用に寄与することが示唆された。

87(3), 403-409 (2021)
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機械学習によるベトナムのエビ養殖生産物の米国市場における輸出価格予測

Nguyen Minh Khiem,高橋勇樹,
Khuu Thi Phuong Dong,安間洋樹,木村暢夫

 水産物の輸出価格を予測することは,経営の安定のためにも重要な課題である。本研究では,時系列データからベトナムのエビの輸出価格の予測を試みた。データセットには,米国の農務省が公開しているデータベースを用い,33個の説明変数からAICにより15個を抽出した。機械学習のモデルには,ランダムフォレストと勾配ブースティングを使用した。その結果,ランダムフォレストを用いた場合は,6か月以上のデータを用いた場合に予測精度が高くなり,対照的に勾配ブースティングでは,短期間のデータを用いた方が予測精度は向上した。

87(3), 411-423 (2021)
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