竹内俊郎(海洋大) |
海産魚介類の種苗生産において,大量へい死や形態異常あるいは天然魚介類と異なる行動を示す個体が多発し,健苗性と種苗性の双方に問題が生じている。そのため,それらの要因解明を図り,種苗生産技術の開発を行うことは極めて重要である。ここでは,1990 年以降現在までの約 20 年間における栄養学的研究,特に DHA,ビタミン A 関連物質,タウリンを取り上げ,種苗生産における魚介類の健全性向上に関する数々の成果について概説する。
南 憲吏(北大院水),東条斉興(マリノフォーラム 21), 安間洋樹(北大院水),伊藤祐介(広島農水), 野別貴博(知床財団),福井信一,宮下和士(北大フィールド科セ) |
Zhichao Wu(上海海洋大), Qianghua Xu, Jiangfeng Zhu, Xiaojie Dai, Liuxiong Xu(上海海洋大・農業省,中国) |
ミトコンドリア DNA のチトクローム b 遺伝子の配列を用いて,中央太平洋で採集したメバチマグロ Thunnus obesus の 8 集団の遺伝的違いを調べた。Cytb 遺伝子の 686 bp の配列において,合計 44 のハプロタイプおよび 26 の変異サイトが検知され,ヌクレオチド多様性は 0.17-0.27%,ハプロタイプ多様性は 0.604-0.793 であった。最尤法およびハプロタイプ・ネットワークは,メバチの 2 系群が太平洋中部で共存することを示したが,階層的 AMOVA とペアワイズテストでは,2 つの血統内のハプロタイプ中の地理的隔離を明らかできなかったが,Nm 値から,2 つの地域間の遺伝子交流が高いことが示唆された。
(文責 原 素之)
馬場真哉,松石 隆(北大院水) |
予報の精度だけで予測の能力を評価することは困難である。本研究では予測の能力を予測性と一致性の指標という二つの視点から評価した。予測性の指標として相互情報量 MI を使用した。MI は予報を使うことによる不確実性の減少量を表す。一致性の指標として的中率と相対エントロピー R を用いた。R は実際の漁況の確率分布と出された予報の確率分布との距離を表す。3 つのサンマ漁況予報を対象として評価を行った結果,的中率と予測性が逆転する例も見られた。様々な指標で評価することは,全般的な予測の能力を高めることにつながるだろう。
Yanfei Huang(中国科学院水生生物研究所,中国科学院大学), Fei Cheng(中国科学院水生生物研究所), Brian R. Murphy(Virginia Polytechnic Institute and State University,米国), Songguang Xie(中国科学院水生生物研究所) |
足立賢太,大西敬子(北里大海洋), 倉持卓司(葉山しおさい博物館), 吉永龍起,奥村誠一(北里大海洋) |
Hee-Do Jeung(済州大,韓国), Do-Hyung Kang, Heung-Sik Park(KIOST,韓国), Gilles Le Moullac(IFREMER,仏領ポリネシア), Kwang-Sik Choi(済州大) |
Adomas Ragauskas, Dalius Butkauskas(自然調査センター,リトアニア), Aniolas Sruoga(自然調査センター,ビタウタス・マグナム大,リトアニア), Vytautas Kesminas(自然調査センター), Isaak Rashal(ラトビア大,ラトビア), Wann-Nian Tzeng(台湾大学,台湾) |
Lingyun Yu, Junjie Bai, Tingting Cao, Jiajia Fan, Yingchun Quan, Dongmei Ma, Xing Ye(中国農林省,中国科学院) |
細美野里子(高知大農),古谷尚大(愛媛大院連合農), 髙橋紀行,益本俊郎,深田陽久(高知大農) |
佐藤拓哉(神戸大院理), 吉村真由美(森林総研・関西) |
阿賀野川水系上流域の10本の支流において,魚類相を物理的生息環境条件とともに調査した。調査を通して計 7 種の魚類が確認され,冷水性のイワナ Salvelinus leucomaenis とカジカ Cottus pollux が優占魚種であった。ヤマメ Onchorhynchus masou masou は水産有用魚種としての継続的放流にも関わらず,支流における捕獲数が比較的少なかった。確認魚種数と物理環境条件との間には有意な相関関係は見られなかったが,勾配が低く,川幅の狭い支流で 7 魚種すべてが確認された。当該地域の主要な遊漁対象種であるイワナの捕獲密度(/m2)は禁漁河川で非禁漁河川に比べて統計的に有意に高かった。
銭谷 弘(水研セ日水研),大西庸介(環総テクノス), 小畑泰弘(水産庁) |
Hongxia Mu(中国科学院水生生物研究所,同研究生院), Mingzheng Li, Huanzhang Liu, Wenxuan Cao(中国科学院水生生物研究所) |
長江三峡ダム上流の三峡貯水池の上流側入口に位置する Luoqi County で魚卵・仔魚の流入状況を調査した。カワヒラ亜科,ハゼ科,カマツカ亜科を主体に 5 目 9 科 46 種の魚卵・仔魚が採集された。総計で 124 億個体の魚卵・仔魚が流入していると見積もられ,うち 26 億個体が Pseudolaubuca sinensis,19 億個体が Hemiculter leucisculus,18 億個体がハゼ科魚類であった。これらの個体の由来する産卵場は,採集地点から 13-162 km 上流に位置すると推定された。上流域の広い範囲の生息場の保護について,強い関心を払う必要がある。
(文責 山川 卓)
西山雅人(大分水研),斉藤真美(Janus), 真田康広(大分県農林水産部), 尾上静正(大分県農林水産部), 髙須賀明典(水研セ中央水研), 大関芳沖(水研セ中央水研) |
本研究では,DNA 塩基配列分析と飼育実験による検証と共に,形態学的特徴に基づくマアジ Trachurus japonicus ホルマリン固定卵の同定法を提示する。人工授精で得られた卵を飼育し,ホルマリン固定卵の標本で,発育段階に伴う形態学的特徴の変化を調べ,野外採集標本から同定するための特徴を詳述した。さらに,DNA 塩基配列分析及び飼育実験による検証を行った。同定に必要な最も重要な形態学的特徴は卵黄亀裂であり,これはホルマリン固定後も維持された。本結果は今後の同種の資源評価や生物学的研究に資すると考えられる。
松田圭史,マーシー・ワイルダー(国際農研セ) |
オニテナガエビの視覚を複眼組織と網膜電図から調べた。本種の個眼は重複像眼であり,夜間の暗順応状態時のみ感桿が著しく膨隆した。眼は暗黒下で50分間で暗順応,照明下で 4 分間で明順応した。視感度曲線の傾きは 0.4 radian,K 値は 16.1 log photons cm-2 s-1 であった。光刺激への応答潜伏時間は 19.6 ms であった。暗順応状態の最大分光感度波長は 563 nm であった。時間分解能は光刺激強度の増加と共に高くなり,K 値と同様の刺激強度の時,臨界融合周波数は最大 44.3 Hz を示した。
横内一樹(長大海セ),金子泰通(日本水産資源保護協会), 海部健三(東大院農),青山 潤(東大大気海洋研), 内田和男(水研セ増養殖研),塚本勝巳(東大大気海洋研) |
立松沙織,碓井星二,金井貴弘,田中裕一,百成 渉(東大院農), 金子誠也,加納光樹(茨城大水圏セ), 佐野光彦(東大院農) |
砂浜海岸におけるヘッドランドの設置が磯波帯の魚類群集構造に及ぼす影響を明らかにするために,茨城県の鹿島灘海岸において,ヘッドランドの周辺区域,隣接したヘッドランドとの中間区域,ヘッドランドのない区域(対照区)の 3 箇所で,2012 年と 2013 年の夏季と秋季に調査を行った。周辺区域は他の 2 区域よりも波浪環境が穏やかで,水質や底質にも差がみられた。魚類の種数と個体数は周辺区域で顕著に多く,種組成も他の 2 区域とは大きく異なっていた。ヘッドランドの設置は魚類群集構造に影響を及ぼすことが示唆された。
山本剛史,岡本裕之,古板博文,村下幸司,松成宏之(水研セ増養殖研), 岩下恭朗,天野俊二,鈴木伸洋(東海大) |
古板博文,村下幸司,松成宏之,山本剛史,永尾次郎,野村和晴,田中秀樹(水研セ増養殖研) |
飼料の脂質量を調整することで,ウナギ仔魚に対する成長や生残を改善できるかどうか検討した。ヘキサンにより脱脂したサメ卵,鶏卵黄,および未脱脂のものを主原料とする飼料を作製し,摂餌開始から 3 週間の飼育試験を行った。成長,生残ともに脱脂サメ卵飼料が最も高く,ついでサメ卵飼料,脱脂鶏卵卵黄飼料の順で,鶏卵黄飼料が最も劣った。全長は各区で有意差があったが,生残はサメ卵,脱脂鶏卵黄間で有意差はなかった。飼料の脂質量を調整することにより,サメ卵,鶏卵黄の栄養価を改善できることがわかった。
Thanaset Thongsaiklaing(カセサート大,AG-BIO/PERDO-CHE,タイ), Wimonsiri Sehawong, Anchanee Kubera, Lertluk Ngernsiri(カセサート大) |
田中照佳(近大院農・近大水研),髙橋賢次(近大院農), 足立亨介,太田遥貴,吉村征浩(近大院農), 阿川泰夫,澤田好史,高岡 治,Amal Kumar Biswas,滝井健二(近大水研), 財満信宏,森山達哉,河村幸雄(近大院農) |
クロマグロ皮プロコラーゲン α1(I)の cDNA のクローニングを行い,皮膚 I 型コラーゲンの一次構造の特徴を考察し,その成長マーカーとしての有用性を検討した。クロマグロプロコラーゲン α1(I)をコードする cDNA 配列は 4362 bp(1454 アミノ酸)から成っていた。クロマグロ初期発育におけるプロコラーゲン α1(I)の発現レベルは標準体長,体重およびタンパク質含量(×104 μg/fish)と相関したことから,プロコラーゲン α1(I)の魚類仔稚魚の新規成長マーカーとしての可能性が示唆された。
中村佑太郎,福田悠紀,清水香奈,安藤靖浩(北大院水) |
日本産の種々の水産動物に含まれるイコセン酸(20:1)の位置異性体組成を調べた。超高極性イオン液体カラムをガスクロマトグラフィーに導入することにより,従来は困難であった cis-7-20:1 異性体の分離・定量を実現した。多試料の分析から,同異性体は多くのカレイ,貝,カニに著量含まれこれらの主要異性体であることが明らかとなった。一方,表層魚にはほとんど含まれなかった。この結果から,底生魚への cis-7-20:1 の蓄積は餌に起因すると推察された。また底生性の水産動物を通じてヒトは同異性体を摂取していることが明らかとなった。
Yan-Ru Guo, Sai-Qi Gu, Xi-Chang Wang, Lin-Min Zhao, Jin-Yuan Zheng(上海海洋大,中国) |
異なる等級の蒸したチュウゴクモクズガニの脂肪酸組成及びアミノ酸組成を分析した。全体で 37 種類の脂肪酸が定量でき,全体の約 70% を不飽和脂肪酸が占めていた。主な脂肪酸はオレイン酸,パルミチン酸,リノール酸でそれぞれ約 30, 20, 10% であった。n-3/n-6 比は 0.54 から 2.64 の範囲で,n-3 の高度不飽和脂肪酸が多く含まれていた。加えて爪肉及び体肉は,必須アミノ酸を含む多くのアミノ酸が含まれていた。また脂肪酸,アミノ酸ともに特級品で最も多く含まれており,次いで一級品,二級品の順であり,特級品が栄養成分的に最も優れていた。
(文責 森岡克司)
平岡久明,森田先恵,後藤祐之介,服部賢志,石川徹生(FAMIC 神戸), 岡野敬一(FAMIC 名古屋) |
水圏生態系において,ワカメの窒素安定同位体比(δ15N)はその窒素源の δ15N の影響を受ける。原料原産地が鳴門と表示された乾わかめ(DW)の原料原産地の真正性を確認するため,私たちは δ15N 分析を利用した。鳴門 DW モデル試料(n=72)の δ15N(mean±σ)は,11.1±1.9‰であり,その δ15N の信頼範囲は 5.3-16.9‰(mean±3σ)となった。中国(n=23)及び韓国(n=22)が原料原産地の DW の δ15N はそれぞれ 4.2±1.4‰ 及び 1.6±2.3‰ であった。これらの結果から,原料原産地が鳴門と中国・韓国の DW を区別することが出来た。