Fisheries Science 掲載報文要旨

コイチ Nibea albiflora から単離した 16 のマイクロサテライトマ-カ-について

Chunyan Ma, Hongyu Ma, Lingbo Ma, Keji Jiang,
Haiyu Cui, Qunqun Ma(東シナ海水産研究所,中国)

 中国産コイチから新しい 16 のマイクロサテライトマーカーを単離した。これらについて,各 30 個体を用い変異特性を調べた結果,アリル数はマーカー座当たり 3~9(平均 4.9,合計 79),PIC は 0.31~0.79,ヘテロ接合体率は観察値と期待値で,それぞれ 0.23~1.00 と 0.35~0.84(平均 0.72 と 0.66)であった。全マーカーは連鎖不平衡を示さず,4 マーカー座で Bonferroni 補正後も HW 平衡からのずれが認められた。本情報は,コイチの遺伝的多様性や構造,連鎖地図作成や資源管理などの研究に役立つと思われる。
(文責 原 素之)

77(5), 707-711 (2011)
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カンボジア・トンレサップ湖の漁業資源に関する資料収集と資源解析

榎本憲泰(東大院農),石川智士(東海大海洋),
堀 美菜(高知大院黒潮),
Hort Sitha, Srun Lim Song,
Nao Thuok(FiA Cambodia),黒倉 寿(東大院農)

 カンボジア・トンレサップ湖周辺の地方自治体で 1994 年以後の漁獲統計の記録を収集した。これらの記録と,大規模漁業の記録から,CPUE 解析によって資源量の変動を推測することが可能な地域を選び出し,解析を行った。その結果,コンポントム州のいくつかの漁業区画において,CPUE の計算が可能であることがわかった。CPUE の計算の結果,Cirrhinus spp などの単価の安い多獲魚の資源量は増加しているものの,Channa micropeltes など価格の高い魚の資源は減少していることが明らかになった。

77(5), 713-722 (2011)
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メキシコ湾南部のマダラトビエイ Aetobatus narinari 漁業における空間的,季節的変化について

Elyzabeth Cuevas-Zimbrón, Juan Carlos Pérez-Jiménez,
Iván Méndez-Loeza(ECOSUR,メキシコ)

 メキシコ湾南部沖合 30~50 km で漁獲されカンペチェ水揚げのマダラトビエイ Aetobatus narinari の体盤幅の平均値 1204 mm は,沿岸 8~10 km で漁獲,セイバプラヤ水揚げの平均値 924 mm よりも大きかった。カンペチェでは雄に,またセイバプラヤでは雌に偏っていた。漁獲率はカンペチェ沖の 6.6 個体/隻に対して,セイバプラヤ沖では 3.0 個体/隻であった。漁業者は,マダラトビエイの漁獲は冬の寒冷前線や濁度,低水温と新月期と正の相関が,またクロガネウシバナトビエイ Rhinoptera bonasus の現存量とは負の相関があると言う。マダラトビエイの体長組成や性比,成熟率は海域間で,漁獲率は漁業者間及び季節間で変動した。
(文責 東海 正)

77(5), 723-730 (2011)
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免疫組織化学的手法に基づく生殖年周期および産卵周期における雌マサバ脳下垂体の GtH 産生細胞変化

入路光雄,白石哲朗,Sethu Selvaraj,
Vu Van In,北野 載,山口明彦(九大院農),
岡本久美子,尾上静正(大分水研),
清水昭男(水研セ中央水研),松山倫也(九大院農)

 マサバの卵形成における生殖腺刺激ホルモン(GtH)の機能を推定するため,脳下垂体の濾胞刺激ホルモン(FSH)および黄体形成ホルモン(LH)産生細胞の活性を免疫組織化学的に解析した。生殖年周期において,FSH 細胞活性は未熟期から卵黄形成期にかけて上昇し,産卵期に下降した。一方,LH 細胞活性は卵黄形成期から産卵終了期に至るまで高い値を維持した。産卵周期における FSH 細胞活性は常に低く,一方,LH 細胞は常に高かった。以上の結果は,マサバの LH は卵黄形成および卵成熟の両方に関与することを示唆する。

77(5), 731-739 (2011)
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熱帯エビ底曳網漁に混獲されるセミエビ類,コウイカ類,ツツイカ類の繁殖特性

Mark L. Tonks, David A. Milton and Gary C. Fry(オーストラリア連邦科学産業研究機構)

 北オーストラリアのエビ漁で混獲される 8 種の無脊椎動物について,個体群の維持に係わる繁殖特性を調べた。2 種の Thenus 属セミエビ類について雌個体の 50% が成熟する甲長を推定した結果,現在の漁獲制限(52 mm 以上)は Thenus parindicus には適しているが,T. australiensis にとっては最適値を下回ると示唆される。Uroteuthis 属ツツイカ類と Sepia 属コウイカ類についても成熟体長と成熟季節は種によって異なった。現在の漁獲水準下においてツツイカ類資源は,同じ海域において数年にわたり日和見的な漁獲対象となる産卵集群をすぐに回復可能な状態にあると考えられる。
(文責 河村知彦)

77(5), 741-756 (2011)
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バルト海における新規出現種:メナダの一種 Chelon labrosus の起源と回遊経路

Matthias Schaber (Fed. Res. Inst. Rural Areas, Germany),
Lasse Marohn, Christoph Petereit (IFM-GEOMAR, Germany),
Jan P. Schroeder (IFM-GEOMAR/Gesellschaft fur Marine Aquakultur mbH, Germany),
Karsten Zumholz (Berufsbildungszentrum am Nord-Ostseekanal, Fischereischule, Germany),
Reinhold Hanel (Fed. Res. Inst. Rural Areas, Germany)

 近年メナダの一種 Chelon labrosus は従来の生息域である大西洋北東海域から北方へと生息域を拡げている。本研究では近年生息が確認されるようになった北海およびバルト海西域のサンプルの耳石の微量元素解析により,本種の起源について推測した。その結果,両海域の個体は,ともに高い広塩性を持ち,嗜好する生育環境も同じであることが明らかになった。耳石成長軸に沿った Sr/Ca 比解析ではしばしば大きな変動がみられ,本種が周期的に異なる塩分を持つ水塊を利用することが示された。しかし,本種の正確な回遊ルートは明らかにできなかった。
(文責 都木靖彰)

77(5), 757-764 (2011)
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中国長江上流域における rock carp Procypris rabaudi 集団の遺伝構造に及ぼす放流の影響

Fei Cheng, Qingjiang Wu, Ming Liu,
K.V. Radhakrishnan(中国科学院),
Brian R. Murphy(バージニア工科大学,USA),
Songguang Xie(中国科学院)

 Rock carp Procypris rabaudi は長江上流域において危急種とされている固有種であり,資源回復のため放流が行われてきた。放流が野生集団構造に及ぼす潜在的影響を調べるため,野生集団と人工集団との間で 10 マイクロサテライト遺伝子座を調べた。その結果,最近のボトルネックの強い証拠が示され,人工集団の平均アリル数,allelic richness および allelic diversity は野生集団よりも低かった。また 14% が野生魚と人工集団との間の交配によるものである可能性が示された。放流は野生集団の遺伝的多様性を低下させ,集団遺伝構造を変化させるので,危急種の資源回復には適切でないと考えられた。
(文責 家戸敬太郎)

77(5), 765-771 (2011)
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マガレイ仔稚魚の耳石微細構造:日周輪形成の確認および変態に関係した微細構造の出現

城 幹昌(道網走水試),
松田泰平,佐藤敦一(道栽培水試),
田中伸幸(道網走水試),上田吉幸(道栽培水試)

 飼育実験により,水温 15℃ では扁平石・礫石ともに孵化後 6 日に耳石上にチェック(通常より太い輪紋)が形成,チェックの外側には日周輪が形成されることが分った。変態期仔魚の扁平石の外縁には二次核が形成され始めた。礫石には二次核は形成されず,変態期にはコントラストが低く幅が太い特徴的な輪紋(metamorphosing zone: MZ)が形成された。マガレイの礫石には,仔稚魚期を通じて同心円上に輪紋が形成されるが,MZ を指標に容易に仔稚魚期を区別して日周輪解析を行うことが可能であることが分った。

77(5), 773-783 (2011)
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松川浦におけるホシガレイ天然魚の分布,食性および成長

和田敏裕,神山享一,島村信也,松本育夫,
水野拓治,根本芳春(福島水試)

 汽水性の潟湖である松川浦において 1983~2008 年に主にビームトロールによりホシガレイ天然魚(0 歳魚 25 個体,全長 6.0-18.0 cm,1 歳魚以上 71 個体,全長 13.8~43.0 cm)を採捕した。ホシガレイの分布量は少ないが,分布様式はイシガレイやマコガレイと類似し,分布中心は浦中央部であった。餌料・水温環境が良好となる 6 月以降,0 歳魚は高い成長を示した。主要な餌生物は,アミ類,エビ類,ヤドカリ類からカニ類(主に Hemigrapsus spp.)に移行した。以上の結果は,松川浦がホシガレイ稚魚の重要な成育場となるだけでなく,幼魚~成魚の索餌場になり得ることを示した。

77(5), 785-793 (2011)
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飼育マナティーの網状障害物に対する昼夜での行動の違いについて;漁具への混獲は夜間に生じるのか?

菊池夢美(東大院農),鈴木美和(日大生物資源),
植田啓一,宮原弘和,内田詮三(沖縄美ら海水族館)

 海牛類においては漁具への混獲が問題となっており,このような事故は視覚が効かない夜間に生じると推測されるが,これまでに検証した例はない。本研究では,飼育マナティーを対象に,明,暗時間帯における網状障害物に対する行動を調べた。その結果,障害物の回避は明時間帯に多く,昼間に障害物を認識しやすい傾向があった。一方で,障害物への積極的な接触は明,暗時間帯で違いがなく,触覚に頼って障害物を認識する傾向があった。障害物への衝突は明,暗時間帯で違いがなく,漁具への混獲は昼夜を問わず生じる可能性が示された。

77(5), 795-798 (2011)
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自然産卵するシロザケにおける脊椎骨数の季節変動と飼育水温の影響

安藤大成(道さけます内水試,東北大院農),
神力義仁,宮腰靖之,卜部浩一,安富亮平,
青山智哉,佐々木義隆(道さけます内水試),
中嶋正道(東北大院農)

 自然産卵するシロザケにおける脊椎骨数の季節変動と飼育水温に対する反応規格を調べた。親魚の脊椎骨数は産卵時期により変化していた。前期群は後期群より高い脊椎骨数を示し時期とともに変化したが,後期群の脊椎骨数は安定していた。3 家系から作出したシロザケの卵を 5 つの水温で孵化まで飼育したところ,脊椎骨数の反応規格は V 字曲線を示し,同一水温でも家系間により平均値は異なっていた。シロザケの脊椎骨数は,集団の変化を検出するとともに,発生時の環境と遺伝的背景を推定するのに有用な指標となるかもしれない。

77(5), 799-807 (2011)
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安定同位体分析によるジョーンズスナッパー Lutjanus johnii 幼魚の成長回遊と大規模マングローブ河口域の摂餌場としての重要性の解明

田中勝久(国際農研セ),花村幸生(水研セ中央水研),
Ving Ching Chong(マラヤ大,マレーシア),
渡部 諭(国際農研セ),Alias Man(マレーシア水研),
Faizul Mohd Kassim(国際農研セ),
児玉真史,市川忠史(水研セ中央水研)

 ジョーンズスナッパー幼魚とその餌料甲殻類の炭素・窒素安定同位体比を測定し,幼魚の回遊とマングローブ域の摂餌場としての重要性を検討した。幼魚とその主要餌料の炭素安定同位体比はマングローブ奥部で低く,沿岸域でより高い値を示した。体長 5 cm 以下の幼魚はマングローブ沿岸域に加入し,成長とともにマングローブ域の餌料への依存を強め,一部の幼魚はマングローブ奥部に移動していた。これらの結果から,大規模マングローブ域における餌料生物の供給と複雑な水路の広がりが幼魚にとって重要であることが示唆された。

77(5), 809-816 (2011)
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脱血海水への通気はブリのヤケ肉の発生を抑制する

塩谷 格,竹村秀平(ニッスイ中研),
山口高弘(東北大院農)

 狭めた網に 20 分間収容したブリを海水中で脱血した場合(ヤケ肉区)と通気した海水中で脱血した場合(通気区)の 2 群に分け,即殺したブリ(対照区)の品質と比較した。即殺 3 時間後の pH と ATP の割合は高い順に対照区,通気区,ヤケ肉区であった。ヤケ肉区の K 値は他の試験区と比べ有意に高かった。通気区では対照区と同レベルまでエネルギーが回復していたが,筋肉の破断強度は対照区のレベルまでは回復しなかった。ブリでは脱血中に呼吸を継続させることで死後変化を緩やかにし,ヤケ肉の発生を抑制できる可能性が示唆された。

77(5), 817-822 (2011)
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小型魚の水銀濃度:魚体サイズと漁獲海域の影響

莫 文潔(近大農),
瀬岡 学(カルタヘナ工科大学,スペイン),
塚正泰之,川崎賢一,安藤正史(近大農)

 回遊性小型魚(マサバ,ゴマサバ,マアジ,マルアジ)および対照として底棲魚のヒラメを日本沿岸各地より入手し,その筋肉における水銀濃度を測定した。その結果,水銀濃度と魚体サイズとの相関性は認められなかったが,日本海側で漁獲された個体の水銀濃度は,ヒラメを除き太平洋側個体の 2 分の 1 から 4 分の 1 と低かった。この差は海水の水銀濃度の違いに基づくと考えられることから,日本海産小型魚を用いることで,ヒラメを除くこれら小型魚を主な餌とする養殖クロマグロの水銀濃度をより低く抑えることが可能と思われた。

77(5), 823-828 (2011)
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脂肪酸組成の異なる飼料で飼育したトラフグの成長

菊池弘太郎,古田岳志,岩田仲弘(電中研),
大貫和恵,野口玉雄(東京医保大),
杉田治男(日大生物資源)

 魚粉とカゼインを主原料として脂肪酸組成を変化させた飼料により,体重 18.7 g のトラフグを 8 週間飼育した。成長は,魚油 5 %,イカ肝油 2 % を添加した対照区に比べ,大豆油 7 % 区では有意に低く,亜麻仁油 7 % 区でも低い傾向にあった。EPA・DHA 濃縮液を 1,2.6,6% ならびに植物油 4.5% に EPA・DHA 濃縮液を 2.6% 添加した 5 飼料区では対照区と同等の成長を示した。飼料効率では類似の傾向が認められたが,タンパク質効率は,植物油単独ならびに濃縮液 1,2.6% 区で対照区に比べ有意に劣った。トラフグでは飼料中の n-3 HUFA が 1.5% 以上で良好な成長が期待できる。

77(5), 829-837 (2011)
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タイショウエビのアミノ酸および重金属含量に及ぼす養殖方式の影響

Biao Xie, Mingli Zhang, Hao Yang,
Wei Jiang(Nanjing Normal Univ., China)

 通常の養殖方法と有機養殖方法がアミノ酸および重金属含量に及ぼす影響に関し,タイショウエビを用いて比較評価を行った。有機養殖法で育てたエビのタンパク質量および総アミノ酸含量はそれぞれ 0.932 mg/g と 0.945 mg/g,通常の養殖法で育てたエビでは,それぞれ 0.849 mg/g と 0.826 mg/g であった。また,通常の養殖法では,有機養殖法に比べエビに重金属がより多く存在した。以上より,有機養殖法は,通常の方法に劣らない成長に加え,より高い品質のエビを生産できることが示唆された。
(文責 マーシー・ワイルダー)

77(5), 839-845 (2011)
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脊椎動物の祖先型ミオシン重鎖遺伝子 MYH14MYH7b)の魚類オーソログが示す種特異的な発現様式

木下滋晴,Bhuiyan Sharmin Siddique(東大院農),
Saltuk Burgrahan Ceyhun(Ataturk 大,トルコ),
Md. Asaduzzaman,浅川修一,渡部終五(東大院農)

 MYH14 は脊椎動物で近年新たに同定された横紋筋型ミオシン重鎖遺伝子(MYH)であるが,ほ乳類での発現量は低くその機能は不明である。一方,トラフグでは,相同遺伝子が筋肉で発現する主要な MYH の一つとして知られ,魚類での当該遺伝子の重要性が示唆されている。本研究では MYH14 周辺のゲノム構造を魚種間で比較するとともに,ゼブラフィッシュの筋肉系における転写産物の分布を解析した。その結果,MYH14 の分布および発現パターンは魚種により異なり,魚類筋形成における MYH14 の種特異的な機能が示唆された。

77(5), 847-853 (2011)
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トラフグ Takifugu rubripes 成長ホルモン受容体の cDNA クローニングと脂質蓄積様式に関連した組織別発現

平野 雪,金子 元,小山寛喜,
潮 秀樹,渡部終五(東大院農)

 トラフグから 2 種類の成長ホルモン受容体(GHR),GHR1 および GHR2 の cDNA をクローニングした。両 GHR は一次構造がよく保存されていたが,GHR2 は GHR1 に比べていくつかのシステインおよびチロシン残基が欠けており,両 GHR はシグナル伝達において異なる機能を持つことが示唆された。両 GHR の転写産物量は速筋,遅筋および肝臓で高い傾向がみられ,GHR1 の相対的 mRNA 蓄積量は速筋で最も高かった。これらの結果は,トラフグ筋肉での低い脂質蓄積量に関連すると考えられる。

77(5), 855-865 (2011)
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カジメ由来のフロログルシノール誘導体の LPS 刺激ヒト THP-1 マクロファージのマトリックスメタロプロテアーゼと炎症マーカーの発現に及ぼす影響

CS Kong(新羅大学,韓国),
JA Kim, BN Ahn, SK Kim(釜慶国立大学,韓国)

 カジメから抽出したフロログルシノール誘導体が,LPS 刺激ヒト THP-1 マクロファージのマトリックスメタロプロテアーゼと炎症性サイトカイン遺伝子の発現に及ぼす影響を調べた。その結果,マトリックスメタロプロテアーゼ,IL-1β,IL-6 および YNFα 遺伝子の発現が抑制された。これらの誘導体は PMA で分化誘導された THP-1 マクロファージの MAPK 遺伝子の発現も抑制した。これらの結果から,これらの誘導体は抗炎症剤として利用できる可能性が示唆された。
(文責 豊原治彦)

77(5), 867-873 (2011)
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サメガレイ Clidoderma asperrimum の筋肉脂質における全-cis-5,8,11,14,17,20,23-ヘキサコサヘプタエン酸(26:7n-3)の存在

福田悠紀,安藤靖浩(北大院水)

 北海道産サメガレイの筋肉脂質の脂肪酸を GC で分析したところ,炭素数 24 以上の領域に未知のピークが出現した。この成分を濃縮後,数種の誘導体に変換して GC-MS に供した結果,同成分は全-cis-5,8,11,14,17,20,23-ヘキサコサヘプタエン酸(26:7n-3)と同定された。総脂肪酸中の含有量は供試 5 個体の平均で 0.69±0.34% であった。サメガレイは,n-3 系および n-6 系超長鎖ポリエン酸の給源として一般的な高等動物の網膜,精子,ニシン油などには見られない 26:7n-3 を含む点で特徴的である。

77(5), 875-882 (2011)
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養殖ブリにおけるトウガラシ添加飼料による肉質改善

塩谷 格(ニッスイ中研),井上広滋(東大海洋研),
阿部晃久(ニッスイバイオ生産研),
竹下 朗(黒瀬水産),山口高弘(東北大院農)

 トウガラシを 0.5% 添加(v/v)した EP(試験区)あるいは通常 EP(対照区)を給餌した養殖ブリについて肉質を比較した。1 歳魚では試験区の背側普通筋の脂質含量が少ない傾向にあったが,2 歳魚では両区に差は認められなかった。背側普通筋の破断強度は,ブリの年齢,脂質含量に関係なく試験区で有意に高かった。また,試験区のチオバルビツール酸反応性物質は有意に低く,血合筋の色調変化は有意に小さかった。トウガラシ添加飼料は養殖ブリの肉質改善に有効であることが示唆された。

77(5), 883-889 (2011)
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