河邊 玲,梨本勝昭,平石智徳(北大院水),内藤靖彦,佐藤克文(極地研)
自然環境下でヒラメの行動を連続測定する手法を確立するために加速度データロガーを用いて,その有効性を検討した。ロガーを装着したヒラメ成魚 4 尾を水槽に放流して魚体振動運動(TBF)と行動測定を試みたところ,約 20 時間連続で体軸に対して 2 軸の加速度記録と同時にビデオカメラでの録画に 20 時間連続で成功した。加速度と画像記録の比較から,加速度プロファイルにより行動を遊泳・潜砂(活動的行動),滑空・定位(非活動的行動)に分類できた。また遊泳時の TBF は 1.65±0.47 から 2.04±0.25 Hz(平均値±標準偏差)の範囲にあった。さらに自発的遊泳速度は 0.6~1.2 BL/sec の間にあり,1.2 BL/sec 以上はまれであった。本研究から,野外で異体類の行動を測定するために,加速度データロガーは非常に有用で信頼性の高い記録計であることが示された。大泉 宏(東大海洋研),磯田辰也,木白俊哉,加藤秀弘(遠洋水研)
1999 年夏に西部北太平洋とオホーツク海南部で捕獲されたツチクジラの胃内容物を分析した。オホーツク海南部で捕獲されたツチクジラ胃内容物からはスカシイカが最も多く出現し,スケトウダラとイトヒキダラも比較的多く出現した。西部北太平洋ではヒモダラとイバラヒゲが多く出現した。西部北太平洋での胃内容物組成は,水深約 1000 m 以深でトロール網により漁獲される魚種組成と共通していた。夏期のツチクジラは水深 1000 から 3000 m の海域に分布している。これは底層の餌豊度と関連している可能性がある。アカボウクジラ科鯨類はイカを好むと信じられてきたが,本研究は底魚類も重要な餌となりうることを示唆している。Maidie Ase,吉島 徹,杉田 治男(日大生物資源)
キンギョ糞便中細菌群集を 10 種類の蛍光プローブを用いた FISH 法で解析した。全菌数の 57.8±16.7% が EUB303 と反応したことから,これらはいずれも細菌であった。94~100% の試料で α-,β-および γ-プロテオバクテリアが優占した。Aeromonas 属細菌は全菌数の 25.6±14.2% を占め,いずれの試料においても優占菌種であった。これに対し,Bacteroides A 型菌を含む Bacteroides 属細菌は 35 試料中 15 試料で検出されたにすぎず,個体差や日別変動が顕著であることが判明した。以上の結果から,FISH 法は魚類腸内細菌の迅速な検索に極めて有効であることが判明した。申 鉉玉,李 昊在,辛 亨鎰(釜慶大)
土木工事の際に使われるダイナマイト爆破の影響を調べる目的で,韓国 Chungju 湖において爆発時の水中ノイズレベルを測定するとともに,養殖生簀内のイスラエルカープ(体長 28 cm)の行動を音響テレメトリー手法によって 3 次元追跡した。爆破から 400 m 離れた距離での水中ノイズレベルは 40 dB(re 1 mPa)の増加が確認された。爆破を与える前の遊泳深度としては水深 1.5 m までの表層であり,遊泳速度は 0.33 m/s であった。爆破によって深い層への潜降が認められ,また遊泳速度としても 0.52 m/s に増加し,全体的に遊泳域の挟まる様子が確認された。爆破終了後の遊泳速度は 0.29 m/s となり,1 時間後には遊泳域も元の状態に回復していた。Eduard M. Rodriguez (SEAFDEC/AQD),Avelino T. Trino (SEAFDEC/AQD),皆川 恵(西海水研)
汽水養殖池において 2 種類の餌料及び 2 種類の収穫条件の組み合わせで,成長,生残,生産量を検討した。餌料及び収穫条件の交互作用は認められなかった。隔週の間引き収穫を行った場合,実験終了時に一括して収穫した場合に比較し,餌料に関係なく生残率及び生産量が有意に高かった。間引き収穫が一括収穫より,二枚貝とトウモロコシの混合餌料が魚類単独餌料より高い収益が得られることが判明した。廖 一久,張 怡頴(台湾水試)
red drum は台湾における外来の養殖対象魚種であり,魚類や無脊椎動物など様々の餌生物を捕食する。本研究ではその摂餌様式を明らかにするために,捕食行動に関わるであろう視覚,嗅覚,側線感覚などの遮断を行い,行動への影響を観察した。側線器官による機械的受容を遮断すると,捕食行動が完全に消失した。嗅房を焼灼すると捕食行動は逆に活発になった。光の遮断は捕食行動に有意な影響を与えなかった。以上より,本種の捕食行動に最も重要な感覚器は側線器官であり,視覚はこれに次ぐものと結論された。山岡耕作,佐々木 円,工藤孝也,神田 優(高知大農)
チダイ稚魚の成長に伴う食性の変化,尾叉長,肥満度を調べた。チダイ稚魚にはなわばりを形成する単独型個体と,なわばりをもたず群れ・群がりを形成する集団型個体が存在した。単独型は底性動物のヨコエビ類,ワレカラ類とプランクトン性のかい脚類を,集団型はプランクトン性のかい脚類,尾虫類,枝角類を主に摂食し,食物組成は異なった。今後チダイの胃内容物組成を調べる際には,供試個体が単独型個体か集団型個体かを考慮に入れる必要がある。前者の方が後者より大型で栄養状態も良かった。Jahan Parveen,渡邉 武,佐藤秀一,Viswanath Kiron(東水大)
有効 P の不足する市販コイ用飼料に要求量(0.6-0.7%)を充たすように P を添加することによって環境水に負荷される P 量軽減の可能性を調べた。有効 P 含量が 0.50 および 0.36% の市販飼料 A および B に有効 P を添加し 0.62 および 0.63% とした試験飼料 AP および BP,魚粉を 20% 配合した対照飼料(有効 P:0.67%)の 5 種類の飼料で平均 8.6 g のコイ(各区 2 群宛)を 12 週間飼育した。成長は対照区で最も優れていたが,市販飼料区では P を添加することによってかなり改善された。窒素(N)の吸収率に差はなかったが,P の吸収率,P と N の保留率は対照区,AP, A, BP, B の順で高かった。P 添加による P 負荷量の軽減はそれほど顕著でなかったが,N 負荷量は明らかに減少した。両負荷量とも対照区で最も低かった。
吉 紅,Ahmad Daud Om,海野徹也,中川平介(広大院生物圏),佐々木敏之,岡田賢治(広島市水産振興協),
浅野雅也,中川敦史(協和発酵)
新関紀文(京大院農),大黒トシ子(梅花女大),平田 孝(京大院農),
Ibrahaim ELShourbagy(タンタ大学),宋 興安,坂口守彦(京大院農)
山本俊昭,Ulrich G. Reinhardt(北大院農)
サクラマスの継代飼育魚,ふ化放流魚および天然魚間の優位性,攻撃および捕食者回避を室内実験により比較した。1 対 1 の競争実験において,養殖魚(継代飼育魚とふ化放流魚)は天然魚に対し優位でなく,高い攻撃性も示さなかった。一方,継代飼育魚は天然魚より高い採餌を示した。捕食リスク下において,継代飼育魚は天然魚に比べ隠れ場から離れ採餌する頻度が高く,低減した捕食者回避が示唆された。これらの結果から,サクラマスの家魚化は,すばやく餌に反応し,捕食リスクを顧みない個体になる傾向が示唆された。大平 剛,片山秀和,会田勝美,長澤寛道(東大院農)
クルマエビ血糖上昇ホルモン(CHH)の cDNA を組み込んだ発現ベクターを用いて酵母を形質転換し,組換え CHH を分泌発現させた。天然 CHH の C 末端はアミド化されていることから,アミド化酵素を用いて組換え CHH の C 末端をアミド化した。in vivo の生物検定系において,C 末端をアミド化した組換え CHH は天然物と同程度の血糖上昇活性を示したが,アミド化前の組換え体は弱い活性しか示さなかった。このことから,翻訳後に行われる C 末端のアミド化は CHH の生物活性に重要であることが判明した。横田賢史(東水大),原田泰志(三重大),飯塚 勝(九州歯科大)
種苗放流の遺伝的な影響の 1 つにふ化場内の遺伝的浮動による遺伝的多様性の消失がある。この影響を少なくするために,野生生まれの親を種苗生産に用いることが提案されており,本研究ではこの方策の有効性について数理的に検討した。その結果,ふ化場で生産された個体の割合が野外で高くなるときに特に野生生まれを親とする方策が有効であることが明らかになった。遺伝的多様性を維持する他の方策についても数値実験により,有効性を検討した。Susana F. Baldia (SEAFDEC), Ma. Cecilia G. Conaco (Univ.of Philippines, Marine Sci. Inst.),
西島敏隆(高知大農),今西 進,原田健一(名城大薬)
Jahan Parveen,渡邉 武,Viswanath Kiron,佐藤秀一(東水大)
霞ヶ浦飼料規格(CP<35%;DE>3.5 kcal/g)を満足する市販飼料 4 種類(総 P:1.57-1.86%,有効 P 含量:0.38-0.87%)を用いて P と N の負荷量(kg/t 生産量)を再測定した。魚粉 25% 飼料(総 P:1.4%,有効 P:0.68%)を対照区とし,平均 9.1 g のコイ(2 群/区)を 7 週間(給餌:3 回/日,6 日/週)飼育した。増肉係数は対照区で 1.00,市販飼料区で 1.19-1.56 であった。前者では P 吸収率(43.8%)と P 保留率(33.1%)も後者(吸収率 18.1-40.9%,保留率 10.7-18.7%)より優れていた。総 P 負荷量は対照区の 10.0 に対し市販区は高い値(19.1-25.0)で変動した。N 吸収率に大差なかったが,保留率が異なるため負荷量も市販区(47.1-66.3)は対照区(34.8)より高かった。松田浩一,竹内泰介(三重科技セ),山川 卓(東大院農)
イセエビのフィロゾーマ幼生の脱皮とプエルルス幼生への変態時刻を調査した。自然日長で飼育した場合,脱皮は日の出時刻前後に起こり,日の出時刻の変化とともに脱皮時刻も変化した。蛍光灯による人工照明下においても,脱皮は蛍光灯の点灯時刻前後に起こった。蛍光灯の点灯・消灯時刻を変化させた場合の脱皮時刻の変化から,イセエビ幼生の脱皮は内因的リズムに基づいて起こり,そのリズム形成には日の出時刻の関与が大きいと推察された。変態は,自然日長下では日没時刻前後,人工照明下では蛍光灯の消灯時刻前後に起こった。東 照雄,太田博巳,織田三郎,武藤光司,矢田 崇,鵜沼辰哉(養殖研)
凍結保存精子を用いた受精実験により,雌腹腔内に貯留,あるいは人工体腔液中に保存したニジマス成熟卵の受精能の変化を調べた。腹腔内の貯留時間の増加ととともに,受精率,発眼率および孵化率はいずれも緩やかに減少し,受精後の卵割の進行が遅延する傾向が認められた。2 週間腹腔内に貯留した卵の孵化率は 36% を示した。一方,人工体腔液中で保存した卵は,急速な受精能の低下を示し,保存開始 4 日目のふ化率は 1 % であった。古屋康則(岐阜大教育),征矢野清(長大水),山本和久,尾花博幸(日栽協),松原孝博(北水研)
ニシンの卵黄形成は 1 年魚の 8 月に始まり,その後徐々に進行し,翌年 3 月に完了した。4 月には一斉に産卵が起きた。血中エストラジオール-17β(E2)及びビテロゲニン濃度は共に 9 月から増加し始め,それぞれ 12 月および 3 月に最高値をとった。これは E2 がビテロゲニン合成の調節に関与していることを示唆している。血中 17,20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン濃度は産卵期にのみ高値を示したことから,卵成熟に関与すると考えられた。斉藤康二(北大院水),P. Mark Lokman,Graham Young(オタゴ大),尾崎雄一,松原 創,奥村浩美,
風藤行紀(北大院水),吉浦康壽,会田勝美(東大院農),足立伸次,山内晧平(北大院水)
SL. Yu(台湾澎湖技研),J. Peters(ネブラスカ大)
ネブラスカ州プラット川で調査を行ない,河川に生息する魚類の日周変化と季節変化を電気ショッカーを用いて採集したサンプルから明らかにした。春には,夜間より日中に多くの種が得られた。夏季には,これとは逆の結果が得られた。秋季には,日周変化は認められなかった。魚類の種構成は季節により異なっていた。Notropis blennius と Hybognathus argyritis は,秋季に多く出現したが,ほとんどの種は,春季に多く出現した。これらは,与えられる生息場所の変化によるものと思われた。豊田幸詞(関西総合環境セ),山内大助(関西電力),宮嶋俊明(京都海洋セ)
体長 50 mm のクルマエビを尾肢切除し,過剰再生させた尾肢を標識化した。再生尾肢は切除部位により形状と出現率が異なるため,外肢・内肢の縦溝位置を確認して 12 通りの切除を行った。その結果,外肢(飛出し,幅広,くびれ,幅狭)・内肢(飛出し,くびれ,幅狭,短)ともに 4 タイプの変形尾肢を得た。切除しやすい X2 区では変形尾肢が標識として識別され易く,変形出現率は 97% となり,切除後 9 か月間経過しても変形は保たれた。このことから変形尾肢を使った標識は見つけ易く,長期的に使用できることがわかった。呉 秀賢(高雄海洋技院),堤 裕昭(熊本県大),塚本久美子,木暮一啓(東大海洋研),
大和田紘一(熊本県大),和田 実(東大海洋研)
田中 稔(北大院水),木村志津夫(北大フィールド科セ),藤本貴史,阪尾寿々(北大院水),
山羽悦郎(北大フィールド科セ),荒井克俊(北大院水)
宇藤朋子,堀江則行,岡村明浩,山田祥朗,田中 悟,三河直美,赤澤敦司,岡 英夫(いらご研)
マアナゴの卵形成およびそれに伴う卵母細胞の諸形質と GSI の変化について調べた。その結果,マアナゴの卵形成過程はニホンウナギの報告とほぼ同様に 8 つのステージに分類することができたが,卵黄胞期は特定できなかった。卵径,油球径,卵黄顆粒径,核径,GSI は卵形成に伴い直線的に増大した。特に卵黄顆粒径,油球径,GSI は最終成熟期に急増した。一方卵膜厚は第二次卵黄球期に最大となった後減少した。本研究によりアナゴ科魚種の卵形成過程が初めて明らかとなった。D. M. S. ムナシンハー,市丸憲一郎,龍野巳代,植木暢彦(宮崎大農),松井隆尚,菅本和寛(宮崎大工),
河原 聡,境 正(宮崎大農)
スモーク魚肉食品中に HHE は存在した。魚肉ソーセージ中の HHE 含量は非常に低かったが,スモークドサーモン中にはかなり高濃度の HHE を含む製品も存在した。CWV および SWV 添加ブリ肉中では脂質過酸の進行が抑制されたにもかかわらず,HHE 含量は増加した。
陳 美伶,邸 思魁,曹 欽玉,江 善宋(台湾海洋大)
ゴマサバから分離した氷核細菌 Pseudomonas uorescens MACK-4 はデキストリン液体培地,デンプン液体培地の両方でよく増殖できる。これらの培地に無機物,麦芽抽出物,ゼラチンを添加した場合は増殖がほとんど認められなかったが,ペプトン,酵母エキス,トリプトンあるいはスキムミルクを添加した場合はよく増殖した。氷核形成能はこれらの培地にペプトンを N-源として,ソルビトール,マンノース,デンプンを C-源として添加した場合に良好であった。また,培養温度を 30℃ から 5℃ へシフトすると氷核形成が上昇した。氷核形成能タンパク質は分子内に SH-基を有すると思われる。今野久仁彦(北大院水),趙 永済(釜慶大),吉岡武也(道工技セ),朴 信虎,関 伸夫(北大院水)
アメリカオオアカイカ筋原繊維(Mf)の加熱変性と自己消化の様子はスルメイカの場合とよく似ていた。すなわち,Mf の熱安定性そのもの,Ca による著しい変性抑制,KCl 濃度の上昇による著しい変性促進などはほとんど同じであった。また,筋肉ホモジネートの加温によるミオシンの自己消化パターン,至適 NaCl 濃度,至適温度,EDTA による抑制はスルメイカ筋肉の自己消化の場合とそっくりであった。ホモジネートを洗浄しても自己消化を完全に停止させることはできなかった。銭谷 弘,河野悌昌(瀬戸内水研),荒井修亮(京大院情報)
瀬戸内海で採集・飼育したカタクチイワシ成魚の耳石(扁平石)表面の微量元素を PIXE で分析した。その結果,主成分の Ca の他に,微量元素の Cr, Mn, Fe, Cu, Zn および Sr が検出できた。Cr, Mn, Fe, Cu, Zn は数 10~数 100 ppm 程度含有されていた。一方,Sr は 262~1573 ppm と高濃度に含有されていた。さらにカタクチイワシ耳石中の Sr:Ca と生息域の塩分は正の相関を示し,耳石がカタクチイワシの経験した塩分濃度の推定に有効な記録計と成り得る可能性が示唆された。山田佳裕,横山 寿,石樋由香(養殖研),畔田正格(マリノフォーラム 21)
五ヶ所湾から採取された底泥の柱状試料の炭素,窒素安定同位体比を測定し,養殖場における投餌の変遷を解析した。底泥の安定同位体比の鉛直変化は記録簿等から得られた投餌の歴史と定性的に一致し,これを説明することが出来た。これより,炭素,窒素安定同位体比が投餌の変遷や魚類養殖場環境評価において有効な指標になりうることが示唆された。後藤孝信,松本拓也,村上聡美(沼津高専),高木修作(愛媛水試),蓮實文彦(沼津高専)
魚類の肝臓ホモジネートを用いて,システイン酸のタウリンへの変換を調べた。透析して内因性のタウリンを除いた魚類の肝臓ホモジネートとシステイン酸をピリドキサルリン酸とメルカプトエタノール存在下にインキュベートした。生成したタウリン量をプレラベル OPA-HPLC 法で測定して,酵素活性とした。システイン酸は,ブルーギルとマダイで最も多くタウリンへ変換された。しかし,コイの変換能は著しく低かった。また,マダイでは,システインスルフィン酸の添加により,システイン酸のタウリンへの変換は抑制され,それに代わって,ヒポタウリンの生成が増加した。