日本水産学会誌掲載報文要旨

九州周辺海域で漁獲されるカツオの回遊生態―黒潮流域でのサイズスクリーニングの可能性―

山下秀幸(水産機構開発セ),
柳本 卓(水産機構中央水研),
佐久間 啓(水産機構日水研),
木村拓人,黒坂浩平,小倉未基(水産機構開発セ)

 近海かつお一本釣りにより九州周辺で漁獲されるカツオの体長,肥満度および遺伝的特性を比較した。九州西方漁場では尾叉長50-60cm FL付近主体で肥満度の高い群が大半を占め,40-70cm FLの複数の体長群が出現するトカラ列島漁場とは異なった。mtDNA分析では異なる集団と判断されなかった。海洋条件も考慮すると,トカラ列島周辺に分布する魚群のうち,約50-60cm FLで肥満度が高い個体のみが黒潮流路付近の水温フロントを超えて九州西方海域に北上する,サイズスクリーニング現象が起こっていると推察された。

日水誌, 84 (4), 630-640 (2018)

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日本の沿岸・沖合水域における底魚漁業の適正規模について

田中栄次(海洋大)

 底魚類(魚類)全体の資源量と持続生産量の推移を推定し,過去の漁業規模の中から適正規模を推測した。動態モデルは余剰生産モデル型の近似式,データは1894-2013年の漁獲統計と近年の漁獲率のシリーズ,統計モデルは観測誤差モデルである。基本シナリオにおける推定結果では最適生産量は漁獲係数が0.21(年当たり)のときの147万トンであった。漁獲係数が0.21に最も近い1973年と2013年が適正規模となった。

日水誌, 84 (4), 641-655 (2018)

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日本海西部海域におけるトラフグはえ縄漁業の釣針選択性

片山貴士(水産機構瀬水研),藤森康澄(北大院水)

 トラフグはえ縄漁業における底はえ縄と浮はえ縄の釣針選択性の比較を目的に本研究を実施した。操業試験で得たデータを用いて,北原の方法により釣針幅を基準とした釣針選択性を求めた。両漁法の選択性とも,刺し網等の網目選択性に比べて非常に緩やかであった。特に浮はえ縄でその傾向が顕著で,漁具に遭遇した集団をサイズに関係なく漁獲している可能性が示唆された。また,浮はえ縄の設置水深帯には,概ね全長48cm以下の個体しか分布していない可能性が示され,トラフグは成長に伴い分布が鉛直的に変化する可能性が強く示唆された。

日水誌, 84 (4), 656-665 (2018)

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人工藻場に蝟集・増殖する魚類の摂餌・成長・漁獲を見積もる試み

山本民次(広大院生物圏科),
宮田康人(JFEスチール(株))

 人工漁礁におけるモニタリング結果をもとに,蝟集・増殖した優占3魚種の摂餌・成長・漁獲の季節変動を魚類の生理および摂餌生態から見積もった。1尾当たりの平均日間摂餌量は,メバル属の稚魚,成魚,カサゴ稚魚,成魚,クロダイで,それぞれ1.7, 4.6, 1.3, 2.1, 56.0 g day−1と計算された。魚礁造成後6か月から1年間の漁獲量は,メバル属 138 kg,カサゴ11 kg,クロダイ 681 kg と見積もられた。

日水誌, 84 (4), 666-673 (2018)

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スジエビPalaemon paucidensの2タイプを判別するためのDNAマーカーおよび日本における2タイプの分布

張 成年(水産機構中央水研),今井 正(水産機構瀬水研),
池田 実,槇 宗市郎(東北大フィールド研セ),
大貫貴清,武藤文人,野原健司,古澤千春(東海大海洋),
七里浩志,渾川直子,浦垣直子,川村顕子,
市川竜也,潮田健太郎(横浜環境科学研),
樋口正仁(新潟県庁),手賀太郎,児玉晃治(福井県庁),
伊藤雅浩(海洋大),市村政樹(標津サーモン科学館),
松崎浩二(ふくしま海洋科学館),
平澤 桂,戸倉渓太(アクアマリンいなわしろ),
中畑勝見(ホシザキグリーン財団),
児玉紗希江,箱山 洋,矢田 崇,丹羽健太郎,
長井 敏,柳本 卓(水産機構中央水研),
斎藤和敬(秋田県),中屋光裕(北大院水),
丸山智朗(東大院農)

 スジエビには遺伝的に異なる2タイプ(AとB)が知られているが,簡便に判別できるマーカーがない。18S rDNAの塩基配列に基づき,これら2タイプを判別するマルチプレックスPCRアッセイを考案した。日本における本種の分布範囲を網羅する152地点で採集した422個体を分析したところ,各タイプ特有の断片を併せ持つ個体,すなわちヘテロ型は観察されず,AとBタイプは生殖隔離しているものと考えられた。両タイプとも全国的に分布するがAタイプは河川及び湖沼に分布する一方,Bタイプは河川のみで見られた。

日水誌, 84 (4), 674-681 (2018)

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栃木県中禅寺湖の湖底土に吸着した放射性セシウムの空間分布,存在形態,および時間的推移

山本祥一郎(水産機構中央水研),
生野元昭,松村 淳,松見 健,
藤川 敬(環境総合テクノス),
安倍大介(水産機構中央水研)

 水底放射能測定装置「みなそこ」を用いて,栃木県中禅寺湖の湖底土に吸着した放射性セシウム(137Cs)のマッピング調査を実施した。137Cs蓄積量(Bq/m2)は,水深が深い場所ほど多くなる傾向が認められた。ただし,蓄積量は水深毎に一様ではなく,とくに水深2m以浅では場所毎の差異が大きいことが示された。化学分画分析により,湖底土の放射性セシウム蓄積量は有機物成分よりも無機物成分でより大きい値を示すことがわかった。

日水誌, 84 (4), 682-695 (2018)

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少量漁獲魚種の産地価格形成―マトウダイを事例として―

阪井裕太郎(東大院農),
成尾俊亮(三菱UFJ銀行),
鈴木崇史,八木信行(東大院農)
 三重県外湾漁業協同組合所属の13漁港における2014年4月20日〜8月31日のパネルデータを用いて,マトウダイの産地市場価格形成について検討する。一般的に,産地市場では供給量が価格に反応しないと考えられるので,価格と数量のデータは右下がりの需要曲線に従うことが予想される。しかし,漁獲物の品質・全国価格・代替財価格・気象条件などを考慮した回帰分析の結果,当該魚種では数量と価格の間に右上がりの関係があることが示された。このようなパターンが観察される理由に関し,本研究ではいくつかの可能性を提起する。
日水誌, 84 (4), 696-704 (2018)

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内水面漁協におけるアユと渓流魚の放流事業の採算性

中村智幸(水産機構中央水研)

 内水面漁協の経営改善のため,アユとイワナ,ヤマメ等の渓流魚の放流事業の採算性を検証した。アユ,渓流魚ともに,放流経費と漁業権行使料・遊漁料の受入額の間に有意な正の直線関係が認められた。回帰式の傾きはアユでは0.55,渓流魚では1.20であり,アユのほうが有意に小さかった。このように,アユでは放流経費の約半分しか漁業権行使料・遊漁料で回収できておらず,アユの放流事業の採算性は低かった。放流経費と漁業権行使料・遊漁料の受入額の関係から,アユ,渓流魚それぞれについて放流事業の収支の評価指標を作成した。

日水誌, 84 (4), 705-710 (2018)

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アンケート調査からみた美鈴湖におけるワカサギ釣りの実態と経済波及効果

上島 剛(長野水試佐久),星河廣樹(長野水試諏訪),
松澤 峻(長野水試),山本 聡(長野水試佐久),
沢本良宏(長野水試)

 美鈴湖におけるワカサギ釣りの実態と経済波及効果を調べるため,来訪者へはアンケート,管理会社からは運営について聞き取りを行った。2016年の来訪者数は3,135-4,034人の範囲と推定した。年齢構成は30-40代が50%で,来訪者の33%は家族で訪れており,女性の割合は15%で他の内水面の釣りより多かった。県外からの来訪者は19%で,うち43%は宿泊し,主に近隣の温泉地を利用していた。釣り場の運営による経済波及効果は1,707-1,984万円の範囲と推定され,地域社会と経済への貢献が確認された。

日水誌, 84 (4), 711-719 (2018)

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Prospect theoryによる漁業者の意思決定の解釈

大西修平(東海大海洋),山川 卓(東大院農),
赤嶺達郎(水産機構中央水研),筒井義郎(甲南大経済),
山根承子(近大経済)

 漁業者行動は通常,合理性に基づいてモデル化される。一方,個々の漁業者は不確実性下で異なるリスク態度をとる事実も知られる。不確実性下の意思決定の観察結果は,期待効用仮説による説明としばしば異なる。過度に単純化された漁業者行動モデルは,漁業管理方策への適用にあたり注意が必要であろう。行動経済学の研究成果は,意思決定の合理性の破れがプロスペクト理論で説明できることを示したが,理論の有用性は漁業管理研究では十分に知られていない。本研究ではプロスペクト理論の可能性を概観し,漁業者の様々な性向を探究する。

日水誌, 84 (4), 720-727 (2018)

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北海道南西部尻別川支流におけるサクラマスとイワナの生息密度(短報)

長谷川 功(水産機構北水研)

 尻別川水系において,河川分断化解消後の在来サケ科魚類サクラマスとイワナの生息密度に外来サケ科魚類が与える影響を調べるために野外調査を行った。サクラマスの生息密度は支流によって異なったが,外来サケ科魚類の影響は検出されなかった。イワナの生息密度は,外来サケ科魚類がいる調査区ではいない調査区よりも低くなる傾向にあったが,低下の程度は支流によって異なった。

日水誌, 84 (4), 728-730 (2018)

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水産加工品が当たる懸賞企画による水産物の消費喚起効果(短報)

荒山和則(茨城県漁政課)

 懸賞企画による水産物の消費喚起効果を懸賞当選者へのアンケートで調べた。その結果,懸賞企画が直接的に購買行動を喚起あるいは誘客した効果(一次効果)は回答者の57.2%で認められた。また,懸賞企画の二次効果として,当選賞品の喫食後に水産物の喫食頻度が以前よりも高まったとする変化は回答者の71.0%で認められ,その程度は平均1.3倍であった。この二次効果は一次効果がなかった回答者においても認められた。以上のことから懸賞企画は短中期的に水産物の消費喚起に寄与したと考えられた。

日水誌, 84 (4), 731-733 (2018)

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