日本水産学会誌掲載報文要旨

イセエビフィロソーマ幼生の成長に伴う走光性の変化

神保忠雄(水産機構増養殖研),水本 泰(海洋大),
村上恵祐(水産機構本部),浜崎活幸(海洋大)

 イセエビの種苗生産において,フィロソーマ幼生の水槽底への沈降・蝟集による死亡を防ぐ技術を開発する基礎として,光量別(0-310 μmol m−2 s−1)と波長別(400-660 nm)に幼生の成長に伴う走光性の変化を調べた。幼生は強い光量では正の走光性を,弱い光量では負の走光性を示した。また,正の走光性を惹起する波長は初期幼生では400-620 nmで広かったが,中期以降には500 nm未満の短波長側に変化した。加えて,VI期幼生は420-620 nmの広い波長で負の走光性を示すのが特徴的であった。

日水誌, 84 (3), 361-368 (2018)

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琵琶湖におけるニゴロブナ漁獲魚の体長組成,年齢,性比および成熟状態

酒井明久(滋賀水試),
太田滋規,西森克浩(滋賀県水産課)

 刺網によるニゴロブナ漁獲魚について,2006-2008年の2-3月に体長,年齢,性比およびGSIを調べた。2007年4月に導入された漁獲制限サイズ(体長170 mm)以下の個体は,2006年(導入前)の18.9%から2008年(導入後)には2.8%に減少した。年齢は1歳と2歳が大部分を占め,性比は雌が7割以上を占めた。GSI値が小さい雌はしばしば商品価値の低い雄と同等に扱われ,2008年には全体の3割に達した。不合理な漁獲の低減には,漁期を遅らせることが有効と考えられた。

日水誌, 84 (3), 369-376 (2018)

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シロメバル稚魚に対するホンダワラ科海藻の誘引力の解析

本多正樹,中根幸則(電中研環境科学研),
中島慶人(電中研ENIC),
山本雄三,林 正裕(海生研)

 ホンダワラ科海藻がシロメバル稚魚を誘引する強さと海藻密度の関係把握を目的とした。円形水槽(4.8 m)の中央部(1.2 m)に海藻を配置し,魚の行動を10分間録画し,画像から約0.1秒刻みで魚の位置情報を取得した。観察された魚の分布パターンとエージェントベースモデルの計算結果の比較から,海藻密度と誘引強度(ランダム遊泳ベクトルの大きさに対する相対値)を解析した。魚が海藻に寄りつく割合は海藻密度の増加に伴って高まり,誘引強度は海藻密度22個体/m2の8%から86個体/m2で12-13%に増大した。

日水誌, 84 (3), 377-383 (2018)

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マハタの人工授精における排卵後経過時間と受精率との関係

中田 久(近大水研),
Ni Lar Shein(Fisheries Ministry of Myanmar),
水野かおり(愛媛水研),宮木廉夫(長崎水試),
征矢野 清(長大海セ)

 マハタの人工授精を行う際の媒精適期を検討するため,排卵後経過時間と受精率との関係を調べた。雌11個体にLHRHaコレステロ−ルペレットを背筋部に埋め込み,排卵を誘導した。排卵は36-54時間後に起こり,排卵直後の卵の受精率は平均88.2%と高い値を示したが,その後は急速に低下し,排卵から12時間後では平均28.9%となった。この結果から,マハタ人工授精卵の受精率は卵が排卵されてからの経過時間に依存しており,高い受精率の卵を得るためには排卵後短時間のうちに媒精する必要があることが明らかとなった。

日水誌, 84 (3), 384-392 (2018)

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アユのEdwardsiella ictaluri感染と友釣りでの釣られやすさの関係

坪井潤一(水産機構中央水研),
寺島祥子,高野倫一,森 広一郎(水産機構増養殖研),
鈴木俊哉(水産機構中央水研),
石原 学,高木優也(栃木水試),
小森謙次(那珂川南部漁協)

 友釣りおよび投網を用いて879個体のアユを捕獲しEdwardsiella ictaluriのPCR保菌検査を行った。週の平均水温が高いほどE. ictaluriの陽性率が高く,最も陽性率の高かった7/31-8/6には,週の平均水温が25℃以上を記録した。同期間中,投網で捕獲されたアユの陽性率は20.4%であったが,友釣り個体では陽性個体は確認されなかった。日中の平均水温が高いほど友釣りのCPUEが低かった。E. ictaluri感染は友釣りでの漁獲不振を招く可能性があることが示唆された。
日水誌, 84 (3), 393-398 (2018)

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養殖ブリ血合筋の褐変に及ぼす飼料および季節の影響

久保久美子(長崎水試・長大院水環),
桑原浩一,野口絵理香(長崎水試),
谷山茂人,橘 勝康,村田昌一(長大院水環)

 ブリ血合筋の褐変に及ぼす飼料と季節の影響を調べた。飼料中のαトコフェロール(αToc)量とアスコルビン酸誘導体は血合筋中の量に影響し,褐変はαToc量よりアスコルビン酸(AsA)量により抑制された。褐変は季節により異なり,メト化率は12月から3月より8月から10月が低かった。12月から3月のAsA量は低く,8月から10月の血合筋のpHは高かった。メト化率はAsA量とpHに相関したが,αToc量との相関は認められなかった。これらのことから,AsA量とpH低下抑制が褐変抑制の鍵と考えられた。

日水誌, 84 (3), 399-407 (2018)

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養殖ブリ血合筋の褐変機序に及ぼす筋肉糖代謝並びに脂質酸化の影響

久保久美子(長崎水試・長大院水環),
桑原浩一,野口絵理香(長崎水試),
谷山茂人,橘 勝康,村田昌一(長大院水環)

 ブリ血合筋の褐変は血合筋と普通筋の境界部分から起こり,体表側に向かって進行する。これらの現象を解明するために,ミオグロビンのメト化に関与する各筋肉の糖代謝および脂質酸化を測定した。褐変は乳酸の生成に伴いpHが最も低下した血合筋と普通筋の境界部分で始まると考えた。次に,血合筋から抽出された脂質とミオグロビンとの混合実験から,リン脂質の酸化がメト化を促進することが観察された。以上の結果から,褐変はリン脂質の酸化により血合筋と普通筋の境界部分から体表側に向かって進行したと考えた。

日水誌, 84 (3), 408-416 (2018)

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漁獲後輸送方法の違いが茹でズワイガニChionoecetes opilio筋肉の品質に及ぼす影響

渋谷 緑,髙橋希元(海洋大),
中西聖代(宮崎県),秋元健夫(ニチレイフレッシュ),
岡﨑惠美子,大迫一史(海洋大)

 漁獲後に海水循環システム(海水循環区)およびアイスボートにより氷蔵(氷蔵区)で輸送し,煮熟,冷凍したズワイガニ筋肉の品質を比較したところ海水循環区において筋肉の保水性が高かった。海水循環区では,試料のタンパク質二次構造中のαへリックス組成比およびpHが氷蔵区よりも高かった。また,筋肉中の乳酸およびコハク酸含量が少なく,ATP含量及びATP組成比が高かった。これらの結果は,海水循環区では漁獲後輸送中にカニが苦悶状態に陥らなかったことで筋肉中のpHが維持され,高い保水性を有したことを示唆した。

日水誌, 84 (3), 417-424 (2018)

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抱卵および軟甲ガザミPortunus trituberculatus筋肉から抽出したエキスの呈味評価

村山史康,佐藤二朗(岡山水研),
東畑 顕,石田典子(水産機構中央水研)

 甲殻が硬いガザミ(硬ガニ)と抱卵および軟甲ガザミ(抱卵および水ガニ)の呈味性の違いを調べるため,それぞれ熱水抽出エキスを作製して官能検査および味覚センサ分析を行った。官能検査の結果,抱卵および水ガニは硬ガニに比べて旨味および呈味の総合評価が有意に劣っており,味覚センサの結果とほぼ一致した。さらに,一般成分分析,遊離アミノ酸分析および核酸関連化合物分析を行ったところ,遊離アミノ酸量やイノシン酸量が有意に少ないことが分かった。

日水誌, 84 (3), 425-433 (2018)

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養殖シマアジから分離されたStreptococcus dysgalactiae(短報)

南 隆之,田中さおり,岩田一夫(宮崎水試),
伊藤昭太郎(宮崎大農),西木一生(水産機構中央水研),
吉田照豊(宮崎大農)

 2015年夏季に養殖シマアジ病魚からランスフィールドC群Streptococcus dysgalactiae(GCSD)が宮崎県内で初めて分離された。シマアジから分離されたGCSDはカンパチやブリから分離されたGCSDと同様の生化学的性状を示し,GCSD同定用のPCRにおいても陽性であった。また,攻撃実験により,シマアジ由来GCSD株のシマアジに対する病原性が確認された。本報はシマアジにおけるGCSD感染症国内症例の初報告である。

日水誌, 84 (3), 434-436 (2018)

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