日本水産学会誌掲載報分要旨

LED 集魚灯試験から推定されたケンサキイカ Photololigo edulis とスルメイカ Todarodes pacificus の操業時に必要とされる消費電力の違い

舛田大作(長崎水試),甲斐修也(長崎県央水産指導セ),
松下吉樹(長大院水環)

 イカ釣り漁業への LED 集魚灯の導入を検討するために,長崎県壱岐北部海域において,沿岸の小型イカ釣り船に LED 集魚灯パネルを装備して,夏季のケンサキイカと冬季のスルメイカを対象とした漁獲試験を行った。LED 集魚灯船の漁獲量は,ケンサキイカとスルメイカともに対照としたメタルハライド船上灯船よりも低くなった。一般化線形モデルの解析結果から,漁獲量は集魚灯の影響を強く受け,ケンサキイカの場合には,スルメイカよりも少ない電力で漁獲が期待され,LED 集魚灯の導入の可能性はスルメイカよりも高いと考えられた。

日水誌,83 (2), 148-155 (2017)

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東北太平洋南部海域におけるズワイガニ雄のサイズ別最終脱皮割合および甲幅組成の地理的変異

鷹﨑和義(福島内水試),冨山 毅(広大院生物圏科)

 2007-2009 漁期年(12 月〜翌年 3 月)に,沖合底びき網漁船が宮城県〜茨城県海域で漁獲したズワイガニ雄のサイズ別最終脱皮割合と甲幅組成を調べた。甲幅 120 mm 以上の個体では全て最終脱皮を終えていたが,甲幅 119 mm 以下の個体では福島県海域における最終脱皮割合が茨城県海域よりも高く,宮城県〜福島県海域における甲幅は茨城県海域よりも有意に小さかった。これらのことから,東北太平洋南部海域においてズワイガニ雄のサイズ別最終脱皮割合と甲幅組成に地理的変異が存在することが示された。

日水誌,83 (2), 156-162 (2017)

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ミトコンドリア DNA の塩基配列から推測した日本産ニシンの集団構造と個体群動態史

藤田智也,北田修一,原田靖子,石田ゆきの,
佐野祥子,大場沙織(海洋大),
菅谷琢磨(水産機構瀬水研),
浜崎活幸(海洋大),岸野洋久(東大院農)

 北海道から東北太平洋沿岸の産卵場 9 か所において 2003 年から 2014 年に採取したニシン 16 標本 618 個体について mtDNA 調節領域の塩基配列 549 bp を決定した。FST の NJ 樹は,北海道,尾駮沼,宮古湾・松島湾のクラスターを描き,本州より北海道で遺伝的多様性が高かった。東日本大震災後の宮古湾ではハプロタイプ頻度が震災前と大きく異なり,尾駮沼に酷似した。北海道では約 60 万年前から集団が拡大,本州では 20 万年程度安定していたが,最終氷期後の温暖化と一致して 2 万年ほど前から急減していると推測された。

日水誌,83 (2), 163-173 (2017)

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耳石横断面法と表面法を用いた若狭湾西部海域におけるアカアマダイの年齢と成長

井関智明(水産機構日水研新潟),
町田雅春,竹内宏行(水産機構日水研宮津),
八木佑太,上原伸二(水産機構日水研新潟)

 若狭湾西部産アカアマダイの年齢と成長を調べた。耳石横断面の輪紋形成の年周性,年齢起算日(9 月 1 日)を仮定し,輪紋数から年齢を査定した。表面法で求めた 3 輪以下群の耳石径―体長関係式と各個体の第 1, 2 輪紋径から 1, 2 歳時の体長を逆算推定し,データに加えた。ベルタランフィの成長式は雌で Lt=276(1−exp−0.490(t−0.215)),雄で Lt=389(1−exp−0.320(t−0.0483))と推定された。確認された最高齢は雌 18 歳,雄 14 歳であった。

日水誌,83 (2), 174-182 (2017)

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卵巣の色彩に基づいて判別したサクラエビ雌の成熟段階

土井 航(東海大海洋),鷲山裕史(静岡水技研),
古市皓大(東海大海洋),大隅美貴(東海大海洋),
鈴木伸洋(東海大海洋)

 サクラエビ成熟雌の卵巣色彩の目視分類とデジタル画像解析,卵巣の組織学的観察を行い,卵巣の色彩変異と成熟過程について研究した。目視で分けられた 3 段階の卵巣の色彩には,卵母細胞の発達段階との間に対応がみられた。成熟雌を前成熟期・成熟期の卵母細胞をもつ個体とそうでない個体に分け,比較した結果,両者の色彩データに有意差があり,多変量解析によってもそれらの差が示された。卵巣の色彩と卵母細胞の関係は,淡青灰色では卵黄球期以前,緑青灰色では前成熟期以降,濃青灰色はそれらの個体が約半数ずつであった。

日水誌,83 (2), 183-190 (2017)

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茨城県鹿島灘産チョウセンハマグリの年齢形質と年齢推定法

半澤浩美(茨城水試),杉原奈央子(東大大気海洋研),
山崎幸夫(茨城水試),白井厚太朗(東大大気海洋研)

 茨城県鹿島灘沿岸の重要な水産資源であるチョウセンハマグリの年齢推定法を確立するため,貝殻断面の輪紋と殻表の「リング」の年齢形質としての有効性を検討した。試料には,放流後の生存期間が分かる標識再捕貝の殻を用いた。試料は小型グラインダーで切断し,断面を研磨後,スキャナーで画像を取得した。断面の輪紋数は,試料が放流後に経験した冬の回数と概ね一致したことから,冬季に形成される年輪であると考えられた。殻表の「リング」ではほとんど一致しなかった。本種の年齢は,貝殻断面の輪紋数によって推定できると示唆された。

日水誌,83 (2), 191-198 (2017)

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乾燥工程が煮干しだし汁の臭気成分に及ぼす影響

小泉鏡子,平塚聖一(静岡水技研)

 脂質含量及び乾燥時間が異なる煮干しとそこから抽出しただし汁の臭気成分量を比較した。脂質含量が高いほど,乾燥時間が長いほど煮干しの臭気成分量が高く,臭気成分量が高い煮干しから抽出しただし汁は臭気成分量及び TBA 値が高かった。脂質含量が高い原料魚から煮干しを製造してだし汁を抽出すると,乾燥工程中に脂質酸化が進行して生じた脂質酸化生成物がだし汁に移行することにより,だし汁の風味が低下すると考えられた。乾燥工程を省くことにより,脂質含量の多い原料魚から臭気成分の少ないエキスを得られる可能性が示唆された。

日水誌,83 (2), 199-206 (2017)

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塩溶解性を利用したツノナシオキアミ Euphausia pacifica タンパク質の回収およびその加熱ゲル形成能

天野かよ,髙橋希元,岡﨑惠美子,大迫一史(海洋大)

 ツノナシオキアミを練り製品原料として利用するために,タンパク質を NaCl で溶解後に希釈し,沈殿して回収する方法を検討した。回収したタンパク質は,Ca-ATPase 活性および Mg-ATPase 活性が高く保たれた。また,SDS-PAGE において回収工程におけるタンパク質の分解が確認されたが,80-90℃加熱でゲルを形成した。以上より,本方法で本種タンパク質の変性を抑制し回収できること,また回収したタンパク質が加熱ゲル形成能を持つことが示唆された。

日水誌,83 (2), 207-214 (2017)

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DNA 種同定による広島湾における分離浮遊卵の季節変化(短報)

河合賢太郎,岡﨑隆真,笘野哲史,
海野徹也(広大院生物圏科)

 広島湾の湾内外において,1,4,5,6,9,11,12 月に分離浮遊卵を採集し,DNA バーコーディングによって種組成を明らかにした。種同定した 547 個の卵は 20 種に分類された。湾外は湾内より採卵量や種数が卓越した。月別では 6 月に採卵量や種数が多く,クロダイやマダイが優占種となったほか,イシダイやサワラも確認された。同湾は,主に春季に瀬戸内海の有用種の産卵場として利用されていることが明らかとなった。

日水誌,83 (2), 215-217 (2017)

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