日本水産学会誌掲載報分要旨

とも補償による減船の経済効果に関する理論的分析

田中栄次(海洋大)

 余剰生産モデルを用いてとも補償による減船の経済効果を理論的に調べた。1)減船開始時の資源量が動態最大純経済生産量における最適資源量より小さいときに経済効果があること,2)減船開始時の資源量が自由競争均衡点における資源量に近いとき 5-20% の減船でも経済効果が大きいこと,3)その効果の程度は自由競争均衡点における資源量が環境収容力の 0.1-0.3 倍くらいのときに大きいことなどがわかった。コスト削減の動機の欠如などの解決すべき課題等について議論した。
日水誌,83 (1), 2-8 (2017)

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青森県周辺海域におけるキアンコウの背鰭第一棘による年齢査定法の検証

竹谷裕平(青森水総研・北大院水),
髙津哲也(北大院水),山中智之(青森水総研),
柴田泰宙(水産機構東北水研),中屋光裕(北大水)

 青森県周辺海域におけるキアンコウの背鰭第一棘による年齢査定法を検証した。背鰭第一棘の付け根付近の横断面をエッチング処理した後,メチレンブルーで染色し,実体顕微鏡下で落射光と透過光の両者による比較観察した結果,不透明帯数の読み取り精度が向上した。同横断面には,1 年に 2 本の不透明帯(主に 6 月と 11-12 月)が形成されていた。背鰭第一棘による年齢査定は脊椎骨によるものよりも読み取り誤差が小さく,標識放流魚の成長追跡結果と類似したことから,優れた年齢査定法と判定した。

日水誌,83 (1), 9-17 (2017)

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茨城県北浦におけるチャネルキャットフィッシュの年齢と成長

遠藤友樹,加納光樹(茨城大水圏セ),
所 史隆,荒井将人(茨城水試),
片山知史(東北大院農)

 2014 年 4 月から 2015 年 3 月に茨城県北浦において採集した侵略的外来種のチャネルキャットフィッシュ計 937 個体の耳石を解析し,本種の年齢と成長について調べた。耳石縁辺部の不透明帯は 1 年に 1 本,5-6 月に形成され,この時期は産卵盛期と一致していた。von Bertalanffy の成長式は雌雄間で有意に異なり,雄が雌よりも成長速度が速い傾向が認められた。最高年齢は雄で 14 歳,雌で 13 歳と推定された。さらに,本種の個体群構造の推定や防除計画の立案に有用な年齢-体長換算表を作成した。

日水誌,83 (1), 18-24 (2017)

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亜熱帯から亜寒帯に及ぶ我が国の 5 海域における珪藻 Skeletonema 属の種組成

山田真知子,大坪繭子(福女大国際文理),
多田邦尚(香川大農),中野義勝(熱生研),
松原 賢(佐賀有明水振セ),飯田直樹(富山水研),
遠藤宜成(東北大院農),門谷 茂(北大院水)

 我が国 5 海域における珪藻 Skeletonema 属の種組成を,遺伝子解析(LSU rDNA D1-D3)と微細形態の特徴から種を同定し,明らかにした。亜熱帯域の沖縄海域では S. grevillei,温帯域の有明海,富山湾,女川湾および亜寒帯域の噴火湾では S. dohrnii が優占し,S. japonicum が混在した。高水温期に塩分の低かった有明海や富山湾では S. costatum が,塩分 30 以上の女川湾や噴火湾では順に S. grevilleiS. pseudocostatum が出現した。

日水誌,83 (1), 25-33 (2017)

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瀬戸内海中央部燧灘周辺におけるタチウオ Trichiurus japonicus の食性

新野洋平,柴田淳也,冨山 毅,坂井陽一,
橋本博明(広大院生物圏科)

 瀬戸内海燧灘周辺海域におけるタチウオの食性について,2011 年から 2013 年にかけての各月標本採集により調査した。確認された餌生物のうち,カタクチイワシ,イカナゴ,ソコシラエビの餌生物重要度指数(%IRI)がそれぞれ 10% 以上と高い値を示した。カタクチイワシとソコシラエビはほぼ周年,イカナゴは 3-4 月に多く出現した。タチウオの成長に伴い,魚類の重要度は増加し,甲殻類では低下した。タチウオによるイカナゴの高頻度での利用は,本海域の特徴であると考えられた。

日水誌,83 (1), 34-40 (2017)

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長崎県対馬沿岸海域で発生した養殖クロマグロ Thunnus orientalis の斃死要因

石田直也(対馬水産業普及指導セ),山砥稔文(長崎水試),
浦 賢二郎(対馬水産業普及指導セ),
平江 想(長崎水試),青木一弘(水産機構中央水研),
小池一彦(広大院生物圏科)

 対馬沿岸海域で Cochlodinium polykrikoides 赤潮と濁水の発生時に養殖クロマグロが大量斃死した。斃死が発生した養殖漁場周辺での赤潮発生状況と水質環境を調査することにより斃死要因の究明を試みた。斃死漁場では,C. polykrikoides が 172-795 cells mL−1 の細胞密度で出現しており,濁度 3.8-7.6 FTU の濁水が確認された。クロマグロの斃死は,C. polykrikoides 赤潮水塊と濁水の曝露によって引き起こされた可能性が示唆された。

日水誌,83 (1), 41-51 (2017)

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食品添加物を用いた等電点利用分画法によるツノナシオキアミ Euphausia pacifica タンパク質の回収

岡崎 樂,髙橋希元,天野かよ,岡田涼汰,遠藤雅人,岡﨑惠美子,大迫一史(海洋大)

 ツノナシオキアミの新規有効利用法の開発を目的とし,食品添加物を用いた等電点利用分画法によるタンパク質の回収を検討した。タンパク質回収率は炭酸カリウムで可溶化させたタンパク質をクエン酸で沈殿させた場合が最も高かった(58.8%)。回収したタンパク質の SDS-PAGE パターン,一般成分,ミネラル組成およびタンパク質構成アミノ酸組成を NaOH および HCl を用いた場合と比較したところ,顕著な差はみられなかった。以上より,本方法で本種タンパク質を効率的に回収できることが示唆された。

日水誌,83 (1), 52-58 (2017)

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養殖業への企業参入に関する漁業者の受入条件に関する分析―三重県神前浦地区のクロマグロ養殖を事例に―

山田二久次(三重大院生資),
大南絢一(京大院地球環境学舎),
松井隆宏(三重大院生資)

 本研究では三重県神前浦地区を事例に企業の養殖業新規参入と漁業者の意識の関係を二種類のアンケート調査から調べた。因子分析の結果,漁業者は 6 つの評価軸で養殖業の新規企業参入を評価していた。因子分析の結果から 6 つの参入条件を選び,選択実験を行った結果,神前浦地区の漁業者は基本的に企業参入には反対の姿勢を持っており,参入の条件として「地元住民の優先雇用」,「生餌の使用制限」,「社長・担当者の出身地」,「魚種」,「会社の規模」の順で重視していることがわかった。

日水誌,83 (1), 59-67 (2017)

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いわし棒受網漁業における水中集魚灯に蝟集する魚群の好適照度域の推定(短報)

梶川和武,西 翔太郎,中村武史,毛利雅彦,
川崎潤二,濱野 明(水産機構水大校),
渡邉俊輝(山口水研セ),吉村和正(山口産技セ)

 いわし棒受網漁業では,操業時に集魚した魚群を水中集魚灯周辺に滞留させる必要がある。本研究では,カタクチイワシ魚群が水中集魚灯(ハロゲン灯,LED 灯)周辺の滞留時の分布位置を音響機器で計測した。さらに,本研究で定義したカタクチイワシの視感度に基づいた照度を用い,それぞれの灯具の海中の照度分布を算出した。魚群の分布位置と灯具の照度分布とを照合した結果,滞留時の魚群はそれぞれの灯具の等照度線に沿い,かつ,灯具が異なってもほぼ同じ照度域に分布した。この現象は本種の好適照度の存在を示唆するものと考えられる。

日水誌,83 (1), 68-70 (2017)

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東シナ海の音響トロール調査における底魚資源の漁獲物組成と音響反射との対応関係(短報)

川内陽平,酒井 猛(水産機構西海水研),
松沼瑞樹(高知大理)

 東シナ海の音響トロール調査により底魚資源の漁獲と音響反射の対応を検討した。音響反射への影響が大きいと考えられる種・分類群(音響重要種)の総漁獲個体数密度と底層の平均体積後方散乱強度(平均 SV)に正の相関がみられた。調査点間で 1 個体あたり反射強度(TS)の違いも小さく,調査海域では平均 SV が漁獲個体数の有効な指標となると考えられた。また,音響重要種のうち多獲種の間で漁獲水深帯に相違がみられた。今後分布特性による種判別に加え,各種の音響特性も解明することで,底魚資源の音響資源調査の高度化が期待される。

日水誌,83 (1), 71-73 (2017)

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植食性魚類ノトイスズミ Kyphosus bigibbus の消波ブロックへの蝟集とその季節変化(短報)

門田 立,清本節夫(水産機構西海水研),
福田紘士(宮崎水試),吉村 拓(水産機構西海水研)

 ノトイスズミの消波ブロックへの蝟集実態を把握するため,壱岐市和歌漁港で 2010 年 4 月から 2015 年 2 月にかけて潜水調査を実施した。消波ブロックでは 1 月から 4 月に 200 個体以上の大規模な蝟集が頻繁に観察された。大規模な蝟集の出現と水温の間には有意な相関があり,水温 16.9℃ 以下の期間に蝟集が確認される傾向があった。また,長崎県と宮崎県の 4 地点でも調査を行い,冬から春に本種の消波ブロックでの蝟集を確認した。本研究は九州西部及び南東部の各地で冬から春に本種が消波ブロックに蝟集する可能性を示唆する。

日水誌,83 (1), 74-76 (2017)

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低塩分飼育が外傷のある海産魚の生残性に与える影響について(短報)

御堂岡あにせ,川口 修,工藤孝也(広島水海技セ),
飯田悦左(広島食工技セ),
長尾則男,松本拓也(県立広島大)

 外傷のある海水魚を 6-100% の 20 段階に希釈した海水で 48 時間飼育して死亡率を調べた。オニオコゼは 18-67% 海水,アカメバルは 23-50% 海水,カサゴは 21-92% 海水およびマダイは 36-92% 海水の範囲で低い死亡率が認められた。また,外傷魚を 33% 海水と 100% 海水で 8 日間飼育して死亡率を比較すると,マダイ以外の 3 魚種では 33% 海水の方が 100% 海水よりも延命して累積死亡率も低かったが,マダイの 33% 海水区では,体色変化や遊泳異常が観察され,試験区間の死亡率に差が見られなかった。

日水誌,83 (1), 77-79 (2017)

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