日本水産学会誌掲載報分要旨

西湖におけるクニマス Oncorhynchus kawamurae 資源量の概算

坪井潤一(水産機構中央水研),松石 隆(北大院水),
渋谷和治,高田芳博(秋田水振セ),
青柳敏裕,谷沢弘将,小澤 諒,岡崎 巧(山梨水技セ)

 西湖で発見されたクニマスは,近縁種であるヒメマスと区別されずに釣獲されている。毎年,解禁から 2 日間,ビクのぞき調査を行い,鱗による年齢査定,遺伝子解析による種判定を行った。Age-length key から,体長組成分布を年齢組成に変換した。年齢組成から,平衡状態を仮定して全減少係数 Z を推定し,寿命から得られた自然死亡係数を用いて,漁獲係数 F を推定した。総釣獲尾数 CF, Z の関係から資源尾数 N を推定し,クニマスの比率を乗じた結果,クニマス資源量は 4,300-11,000 尾と概算された。

日水誌,82(6), 884-890 (2016)

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北海道沿岸域におけるケガニの齢期と甲長

三原栄次,美坂 正(稚内水試),
佐々木潤(網走水試),田中伸幸(道中央水試),
三原行雄(道原環セ),安永倫明(道中央水試)

 北海道におけるケガニの形態による齢期判別と甲長組成解析から齢期と甲長の関係を明らかにするとともに,標識放流試験,標本採集,および飼育実験から得られた脱皮前後甲長を基に定差成長式を算出した。甲長組成解析と定差成長式から得られた齢期別甲長には大きな差がなく,両者の結果は妥当と考えられた。また,北海道の 3 海域における雄(9 齢期以上)の定差成長式に有意差はなかったことから,北海道の雄成体の定差成長式として,Ln+1=1.035Ln+10.575 を提示した。

日水誌,82(6), 891-898 (2016)

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東京湾盤洲干潟において網袋と人工芝による 3 種の二枚貝稚貝の捕集速度に影響を与える要因

鳥羽光晴,小林 豊,石井 亮,林 俊裕,
岡本 隆(千葉水総研セ)

 網袋と人工芝のアサリ,バカガイ,シオフキガイに対する天然採苗機能に影響する要因を明らかにするため,東京湾盤洲干潟で 2 週間単位の採苗実験を 2012 年 10 月〜2013 年 12 月の間連続的に 28 回繰り返した。貝の大きさ,0.3 N m−2 以上の底面せん断応力の出現回数,水温の 3 つを説明変数とした重回帰分析で,3 種の捕集速度に最も大きく影響したのは貝の大きさであった。二枚貝の洗掘移動に影響する強い底面せん断応力の出現回数と,貝の潜砂速度に影響する水温は捕集速度と明確な関係を示さなかった。

日水誌,82(6), 899-910 (2016)

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島根県高津川におけるアユの天然魚と放流魚の混合率の推定

寺門弘悦,村山達朗(島根水技セ),
金岩 稔(東京農大生物産業)

 2009 年から 2012 年の高津川で漁獲されたアユの側線上方横列鱗数度数分布に多重正規分布を当てはめ,天然魚と放流魚の混合率を推定した。高津川のアユの系統は,海産(天然魚)と 2 種類の人工産(放流魚)の 3 種類であった。アユの遡上を阻害する堰堤の上流・下流側の漁場における天然魚の混合率のブートストラップ平均はそれぞれ 26.3-58.8% および 82.6-100% であり,アユの遡上状況を反映した妥当な推定値が得られた。

日水誌,82(6), 911-916 (2016)

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ゼラチンを用いた藻類養殖用施肥剤の開発

池脇義弘,牧野賢治,西岡智哉,平野 匠,
上田幸男(徳島農水総技セ)

 瀬戸内海をはじめ各地の藻類養殖漁場で不足している DIN を補うための新しいタイプの施肥剤(硝酸アンモニウム溶液をゼラチンで固めたのもの)を開発した。ケースに入れない 2 タイプと穴の開いたケースに充填したもの 2 タイプを作製し,実験水槽内への溶出量を硝酸塩センサーで測定した。その結果,肥料成分 60-70% の溶出に,ケースに入れないタイプはおよそ 5 日,ケース入りのタイプはおよそ 20 日を要した。このことから,施肥剤を入れるケースの穴の径と数を変えることにより肥料成分の溶出速度を調整できることが示唆された。

日水誌,82(6), 917-922 (2016)

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エクストルーデッドペレット飼料が養殖クロマグロの消化と成長に与える影響

近藤史崇,岩井俊治(愛媛大南水研),
三浦智恵美(愛媛大南水研・広工大),
坂田潤弥,太田 史,井戸篤史(愛媛大南水研),
入江 奨,岡松一樹,角正浩一(フィード・ワン),
三浦 猛(愛媛大南水研)

 養殖クロマグロに最適な飼料の開発を目指して,EP 給餌と生餌給餌の体成長と消化関連因子の比較を行った。EP 給餌のクロマグロの体成長は胃のペプシン活性が減少した後に一旦停滞したが,その後,幽門垂の肥大化に伴うプロテアーゼ活性の増加により生餌給餌と同程度に回復した。EP は生餌に比べて難消化であるため胃での滞留時間が長く,消化関連因子(cck, pyy)は生餌より遅れて発現した。成長関連因子(ghrelin)は餌の消化管内での移動に伴って発現が変動し,EP 飼料では有意に増加する事が明らかとなった。

日水誌,82(6), 923-933 (2016)

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2015 年秋季北海道函館湾における渦鞭毛藻 Karenia mikimotoi による有害赤潮の初記録

嶋田 宏(道中央水試),
金森 誠,吉田秀嗣(函館水試),
今井一郎(北大院水産)

 2015年 10月中旬から 11月下旬に,北海道函館湾において,魚介類に斃死をもたらす渦鞭毛藻 Karenia mikimotoi による有害赤潮が北日本で初めて発生した。赤潮の発生期間中に斃死した魚介類は,サケ Oncorhynchus keta,スルメイカ Todarodes pacificus およびエゾアワビ Haliotis discus hannai の 3 種に及んだ。K. mikimotoi 赤潮(3,200-11,500 cells/mL)の発生時における水温および塩分は,それぞれ 9.9-15.7℃ および 31.8-32.2 の範囲にあった。K. mikimotoi が北日本へ分布を拡大した原因としては,対馬暖流/津軽暖流による自然な来遊,あるいは船舶バラスト水による人為的輸送が想定される。

日水誌,82(6), 934-938 (2016)

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Ascophyllum nodosum を原料とした天然系凝集剤の調製条件が成分組成および凝集性能に及ぼす影響

佐藤駿佑,小林蒼馬(海洋大院),榎 牧子(海洋大)

 褐藻類の Ascophyllum nodosum に酸・アルカリ処理を行って凝集剤とし,処理条件の違いによる凝集効果の相違を成分組成から考察した。0.06 M 塩酸で処理し,炭酸ナトリウム水溶液に 24 時間浸漬して調製した凝集剤の効果が最も高く,ついで効果が高かったのは 0.6 M 塩酸で処理し,炭酸ナトリウム水溶液に 1 時間浸漬して調製した凝集剤であった。成分分析によって,前者では多量のフコイダンの存在,後者では灰分の著しい減少が確認され,それらが各凝集剤の高い凝集効果の要因であることが示唆された。

日水誌,82(6), 939-944 (2016)

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外来魚の影響を加味した希少魚保全のための重要地選定法:菊池川周辺流域のタナゴ類(短報)

鬼倉徳雄,川本朋慶,澤 海人,北川裕一,
小山彰彦(九大院農),
大坪寛征,林 博徳(九大院工),
皆川朋子(熊大院自然),島谷幸宏(九大院工)

 外来魚の影響を加味しながら,在来タナゴ類の保全候補地の相補的選択を試みた。タナゴの保全目標数は各種の出現割合に,外来魚の影響は種数と侵略リスクに応じて設定した。外来魚の影響を加味しない場合とする場合の 2 通りを解析した結果,タナゴ類の分布のみを考慮した優先保全地域から,外来魚の影響の大きい地点が外れ,残りの地点から外来魚の影響が小さく,タナゴ類が生息する地点が代替された。本結果は,外来魚の影響を受けにくい保全候補地を示すとともに,タナゴの保全に寄与する外来魚駆除候補地も明示している。

日水誌,82(6), 945-947 (2016)

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漁獲時期の異なるアユを用いたあゆなれずしの食味の比較(短報)

野村幸司(富山食研),田子泰彦(富山水研)

 秋に漁獲される「落ちアユ」と夏に漁獲される「夏アユ」を用いたあゆなれずしを製造し,食味や成分の比較を行った。原料魚の肥満度および脂質含量は夏アユが有意に高かった。本漬け 40 日後の乳酸量および遊離アミノ酸量は落ちアユが有意に高かった。官能検査では,落ちアユなれずしの評価について,なれずしを好むパネルは高い評点を示したが,その他のパネルは低い評点を示した。このことから,落ちアユなれずしは食べ慣れた人に好まれるが,食べ慣れていない人にとっては,夏アユなれずしの方が受け入れられやすいと考えられる。

日水誌,82(6), 948-950 (2016)

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