日本水産学会誌掲載報分要旨

茨城県北浦の沖帯から沿岸帯におけるヌマチチブ仔稚魚の生息場所利用と食性

百成 渉(東大院農),柴田真生,加納光樹(茨城大),
碓井星二,金子誠也,佐野光彦(東大院農)

 茨城県北浦の沖帯から沿岸帯でヌマチチブ仔稚魚の分布と移動および食性を調査した。孵化後数日以内の上屈前仔魚は沖帯の表・中層に分散し,浮遊期稚魚は沖帯の底層に集群した。着底期から底生期の稚魚は沖帯から沿岸帯へと移動した。この接岸移動に伴い,稚魚の主要な餌は動物プランクトンから底生性餌料へと変化した。沿岸帯での底生期稚魚の個体数密度と各環境要因との関係を一般化線形モデルで解析したところ,ヨシ根元のえぐれの奥行と泥分が上位モデルで選択され,本種の底生期稚魚の成育場としてヨシ帯が重要であることが示された。

日水誌,82(1), 2-11 (2016)

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アユの生息にとって重要な環境要因の検討

坪井潤一(水研セ増養殖研),高木優也(栃木水試)

 全国 13 水系 25 地点において潜水目視によるアユの個体数カウントおよび環境計測を行った。解析の結果,放流量に関係なく,(1)川幅が狭い川ほど,(2)河床に占める長径 25 cm 以上の石の比率が高い川ほど,(3)浮き石の比率が高い川ほど,アユの観察個体数が多いことが明らかになった。また,那珂川において行った調査では,アユの観察個体数と友釣りによる釣獲個体数に正の相関が認められたため,潜水目視で得られたアユの観察個体数は,友釣りの対象となるアユ資源量の指標として有効であることが明らかになった。

日水誌,82(1), 12-17 (2016)

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関東産河川型オスサクラマスとの交配による千歳川産サクラマス種苗のスモルト化への影響

大熊一正,福田勝也,戸嶋忠良,小野郁夫(水研セ北水研)

 北日本の降海型サクラマスでは放流ヤマメとの交配による遺伝的攪乱やスモルト化率への影響が危惧されている。そこで遡上したメスサクラマスにスモルト化率の低い放流用オスヤマメを交配させた群(OKT 群)と千歳川の残留型オスサクラマスと交配させた群(CTS 群)との間でオス成熟率およびスモルト化率を比較したところ,OKT 群のオス成熟率は高く,逆にスモルト化率は低かった。このことから降海型サクラマス資源の保全,回復を図る上でスモルト化率の低いオスの放流ヤマメが影響を及ぼす可能性が示唆された。

日水誌,82(1), 18-27 (2016)

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脱血処理がカツオの臭い成分に及ぼす影響

平塚聖一,羽田好孝,小泉鏡子(静岡水技研)

 船上で脱血した冷凍カツオの揮発性成分を非脱血群と比較した。脱血群は非脱血群に比べて,アルデヒド類とアルコール類が有意に少なかった。緩衝液中で血液と脂質を混合させると,アルデヒド類とアルコール類の生成が顕著であり,血液のみ,脂質のみではそれらはほとんど生成されなかった。脂質 100 mg に血液 0-100 μL を反応させると,それらの生成は血液の濃度依存的に増加した。カツオ魚肉の臭い成分であるアルデヒド類とアルコール類は,血液と脂質の相互作用により生成し,脱血処理はそれらの低減効果があるものと考えられた。

日水誌,82(1), 28-32 (2016)

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小型巻貝 2 種におけるソデカラッパからの被食回避に及ぼす人工海藻の影響(短報)

山田秀秋(水研セ東北水研),
早川 淳,中本健太,河村知彦(東大大気海洋研),
今 孝悦(筑波大下田)

 巻貝に対する肉食性カニ類ソデカラッパの捕食圧が,小型海藻を模した人工海藻の存在によって軽減されるかどうかを飼育実験によって調べた。巻貝として,微細な生息環境が異なるオニツノガイ科の 2 種を用いた。小型海藻葉上に生息するヒメクワノミカニモリでは,人工海藻内に潜り込むことで被食が軽減された。転石帯に生息するカヤノミカニモリでは,人工海藻下の水槽底面上に隠れる行動を示したが,人工海藻に被食軽減効果は認められなかった。人工海藻の被食軽減効果は,2 種の巻貝の行動様式によって大きく異なることが明らかとなった。

日水誌,82(1), 33-35 (2016)

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給餌開始時期の遅れがカサゴ仔魚の成長および生残に及ぼす影響(短報)

岩本有司,御堂岡あにせ,相田 聡(広島水海技セ)

 給餌開始時期の遅れがカサゴ仔魚の成長および生残に及ぼす影響を調べるため,給餌開始日を産出日,産出後 1, 3, 5, 7 日後および無給餌とした 6 つの試験区でカサゴ仔魚を 10 日間飼育し,実験期間中の生残率および全長を比較した。生残率は産出後 5 日までに給餌を開始しなかった場合に大きく低下し,実験終了時の全長は産出日の給餌開始に比べ,産出後 1 日以降の給餌ではいずれも有意に小さかった。従って,カサゴ種苗を効率生産するためには,産出直後から速やかに外部栄養を供給する必要があるだろう。

日水誌,82(1), 36-38 (2016)

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