日本水産学会誌掲載報分要旨

上向き曳航カメラによる大型クラゲの計数および傘径計測システムの開発

本多直人(水研セ日水研)

 水中で上方向を観察するビデオカメラ(TULCam)を曳航しながら,大型クラゲ類の密度を簡単かつ正確に計数し,大きさを計測する方法を開発した。この TULCam は光通信ケーブルで船上のモニターとつなぐことで,リアルタイムにクラゲを計数できる。TULCam を深度約 20 m,速力約 7 ノットで曳航した時には,海面のみを観察する目視と比べると個体数面積密度で約 15 倍のエチゼンクラゲを観察できた。カメラの深度と画角を基に,クラゲの深度および傘径の計測も可能であり,求められた傘径は実測された値とほぼ等しかった。

日水誌,81(6), 946-957 (2015)

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mtDNA 調節領域の塩基配列により推定されたキンメダイの集団構造

柳本 卓(水研セ中央水研),酒井 猛(水研セ西海水研),
越智洋介(水研セ水工研),蛯名儀富(水研セ開発セ),
藤野忠敬(JICA)

 キンメダイは世界中の温帯亜熱帯域の水深 300-1300 m に生息し,底魚漁業において重要な魚種の一つである。しかし,キンメダイの集団構造の詳細は明らかになっていない。北太平洋 4 地点,南インド洋 3 地点,北大西洋 1 地点から集めたキンメダイについて,mtDNA の調節領域の塩基配列分析を行い,集団間に遺伝的な差異があるか調べた。それぞれの大洋内において集団間に差はなかったが,大洋間で差があった。このことから,大洋ごとに一つの大きな集団を形成していると推測された。

日水誌,81(6), 958-963 (2015)

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茨城県北浦のヨシ帯における魚類群集構造の季節変化

碓井星二(東大院農),加納光樹(茨城大水圏セ),
荒山和則(茨城水試),佐野光彦(東大院農)

 茨城県北浦のヨシ帯で,2 年間にわたって魚類群集構造の季節変化を調査した。調査期間中に仔稚魚を中心とした 9 科 22 種が採集された。種数と個体数は春季から夏季にかけて多かった。個体数で優占した種はヨシノボリ属の一種,ブルーギル,ヌマチチブ,シラウオ,ウキゴリ,モツゴ,ワカサギ,クルメサヨリであり,これらの出現パターンは周年滞在型(5 種),季節的滞在型(2 種),通過・遇来型(1 種)であった。したがって,ヨシ帯はさまざまな魚種によって定住の場や,一時的な成長の場として利用されていることがわかった。

日水誌,81(6), 964-972 (2015)

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マナマコ Apostichopus japonicus 浮遊期幼生に対する微細藻類 Rhodomonas sp. の餌料価値

山本慧史(三重大院生資),岡内正典(水研セ増養殖研),
吉松隆夫(三重大院生資)

 海産微細藻類 Rhodomonas sp. をマナマコ幼生に給餌し,初期餌料としての給餌効果を検討した。13 日間の飼育実験において,本種を給餌した幼生の生残率は 89.3% と高い値を示し,飼育 10 日目には着底期とされる Doliolaria 幼生期への変態が観察された。これらの結果は,既存の一般的な餌料用藻類を与えた場合よりも好成績であった。また,藻体の生化学成分の分析を行ったところ,本種には海産動物の成育に必須である DHA や EPA などの HUFA が豊富に含まれている事が明らかとなった。今回得られた試験結果は,本種の海産動物への新たな餌料生物としての活用を期待させる。

日水誌,81(6), 973-978 (2015)

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2013 年に播磨灘・備讃瀬戸(香川県沿岸)で発生した Coscinodiscus wailesii の大増殖

多田邦尚(香川大農,香川大瀬戸内研セ),
大山憲一(香川水試),白土晃一(香川大農),
益井敏光(香川水試),
深尾剛志(香川大農,香川大瀬戸内研セ),
吉松定昭(元香川赤潮研)

 2013 年に香川県沿岸で発生した C. wailesii の大増殖の原因について検討した。本種はノリの色落ち原因種で,近年は栄養塩濃度の低下にともない,鉛直混合が起こる時期に本種が大増殖することは無かった。しかし,2013 年の 10 月に大規模なブルームが起こり,ノリ養殖開始時に既に栄養塩濃度が不足するという事態を招いた。検討の結果,低栄養塩濃度環境下でも,鉛直混合期に,(1)豊富な降水量,(2)高い全天日射量,(3)深い有光層という三つの条件が整えば,本種の大規模なブルームが形成される,と考えられた。

日水誌,81(6), 979-986 (2015)

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卵白がホッコクアカエビ Pandalus eous 筋肉の加熱ゲル形成能に及ぼす影響

髙橋希元,板倉もね(海洋大),
雨宮弘和(東洋水産),岡﨑惠美子(海洋大),
Ha Thi Nhu Nguyen(カントー大学,ベトナム),
大迫一史(海洋大)

 ホッコクアカエビを有効利用するために,卵白を用いて本種筋肉の加熱ゲル形成能の改善を試みた。5% 卵白添加により 50-90℃ の各温度で本種筋肉はゲル化した。一方,坐りゲルは形成しなかった。SDS-PAGE の結果から,卵白は 60℃ においては本種筋肉の自己消化を抑制するが,40℃ ではその効果が低いことを示した。以上の結果より,50℃ から 90℃ の加熱では,卵白によって加熱ゲル形成能が改善するが,それ以外では自己消化が抑制されないため,練り製品製造時においては直加熱が適当であることが示唆された。

日水誌,81(6), 987-994 (2015)

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アワビモ Ulvella lens と稚貝の匍匐粘液に針型珪藻 Cylindrotheca closterium を付着させた板によるエゾアワビ採苗法の検討(短報)

松本有記雄(水研セ東北水研),野呂忠勝(岩手水技セ),
高見秀輝,藤浪祐一郎(水研セ東北水研),
久慈康支(岩手水技セ),河村知彦(東大大気海洋研)

 好適餌料珪藻 Cylindrotheca closterium(針型珪藻)を用いた新たなエゾアワビの採苗法を開発するため,針型珪藻のみが付着した板(針型珪藻板),アワビモ Ulvella lens と稚貝の匍匐粘液が付着した板(アワビモ粘液板),およびそれらを併用した板(アワビモ粘液+針型珪藻板)に対する幼生の着底・変態率,初期稚貝の生残率・成長速度を比較した。その結果,アワビモ粘液+針型珪藻板では,安定的に高い幼生の着底・変態率,および従来法の 1 つであるアワビモ粘液板に比べて高い稚貝の生残率と成長速度が得られた。
日水誌,81(6), 995-997 (2015)

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琵琶湖固有種セタシジミにおける産卵期の肥満度と採苗量の関係(短報)

石崎大介,幡野真隆,井戸本純一,
久米弘人,亀甲武志(滋賀水試)

 琵琶湖固有種セタシジミの肥満度と採苗量の関係を調査した。琵琶湖ののべ 19 漁場で採捕したセタシジミの体重に占める軟体部の乾燥重量の割合を測定し肥満度を求めた。また,それらの漁場で採捕した個体を用いて人工採卵し,肥満度と得られた D 型仔貝の数との関係を解析した。その結果,各漁場の肥満度と採苗量に有意な回帰直線が得られ,正の相関が認められた。このことから,肥満度が採苗量の指標として有効であると考えられた。

日水誌,81(6), 998-1000 (2015)

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