井上誠章(水研セ増養殖研),岩崎隆志(水研セ西海水研), 嶋田幸典,佐藤 純,西岡豊弘(水研セ増養殖研) |
クエは冬季の低水温期に成長停滞が起こるため,出荷サイズまでに 3 年以上の飼育期間を必要とし,これがクエ養殖の普及を妨げる要因の一つである。多くの海産魚では,低塩分海水での飼育により成長量の増大が起こる。本研究はクエ稚魚の成長量に対する飼育塩分の効果を一般化線形モデル(GLM)により評価した。その結果,塩分 34 psu と比較して,給餌条件では塩分 17 psu での飼育によりクエ稚魚の成長量の増大が起こり,また無給餌条件では塩分 10 psu での飼育により体重の減少量を低下できることが明らかとなった。
水野健一郎,若野 真,高辻英之, 永井崇裕(広島水海技セ) |
有害渦鞭毛藻 Karenia mikimotoi がマガキ幼生の着底に及ぼす影響を評価するため,培養株で作成した赤潮環境下で着底実験を行った。幼生着底率は,500 cells/mL では影響が見られなかったが 5,000 cells/mL で低下した。5,000 cells/mL では,遊泳でのみ到達可能な付着基盤への着底数が低下し,ビーカー壁面で増加したため,マガキ幼生の遊泳を伴う着底行動を阻害する影響が生じたと考えられた。本研究から,本種赤潮はマガキ養殖での採苗不良を引き起こす一因であることが示された。
柿沼 誠,平 壮雄(三重大院生資), 岩出将英(三重水研) |
アサクサ板ノリの品質管理・評価のための技術開発を目的とし,板ノリ中のアサクサノリ含量の PCR による簡易定量について検討した。アサクサノリおよびスサビノリの間で遺伝子配置・構造に差のあるミトコンドリア DNA 領域を選定し,増幅 DNA 断片長の差で両種を容易に判別可能な PCR プライマーセットを作製した。アサクサ板ノリ葉状体片の簡易抽出 DNA を鋳型とした PCR による種判別や,アサクサ板ノリ片の簡易抽出 DNA を鋳型とした競合的 PCR により,板ノリ中のアサクサノリ含量を推定できることが示唆された。
笠根 岳,岡田美緒,遠藤英明,任 恵峰(海洋大) |
かつお節加工残滓を安全かつ有効に利用する研究の一環として,まず加工残滓の熱水抽出液に PAHs を合計 3217 μg/L 添加したモデル試料の活性炭による PAHs 最適除去条件を有用成分への影響も考慮しつつ検討した。その結果,PAHs 除去率は最大 99.6% であったが,活性炭の種類による影響が大きかった。続いて,市販品の黒粉 2 種を熱水,エタノール,酢酸エチルで抽出し,PAHs 浸出量を分析した。エタノール抽出で PAHs が最大 12823 μg/L 浸出し,市販品にも高濃度の PAHs が含まれていることが分かった。
佐々木崇之,松川雅仁,大泉 徹(福井県大海洋生資) |
クルマエビ筋原繊維(Mf)の温度安定性を明らかにするために,Ca-ATPase 活性を指標として検討した。加熱による Mf の同活性の失活は初期に速く後期は遅い速度の二相の一次反応式に従い,それぞれの速度はスケトウダラとニジマス Mf と近似した。二相の失活は F-アクチンを加えて加熱しても変わらなかった。Mf の同活性の至適温度は,意図的に加熱して初期の失活を除くことで上昇した。以上の結果,同エビから調製した Mf の温度安定性は,一部は安定な状態と他方はそれより不安定な状態にあることが示唆された。
安藤大成(道さけます内水試), 神力義仁(道さけます内水試道南), 佐々木義隆(道さけます内水試道東), 安富亮平,三坂尚行,水野伸也, 宮腰靖之(道さけます内水試), 中嶋正道(東北大院農) |
北海道の日本海側と太平洋側の河川に遡上したサケ親魚を用いて採卵,媒精させた受精卵を稚魚まで飼育し,脊椎骨数を比較した。太平洋側の河川におけるサケ稚魚の脊椎骨数は,日本海側の河川におけるサケ稚魚の脊椎骨数よりも多い傾向を示した。これより,サケの脊椎骨数には河川間や地域間で差が見られることと,その背景に遺伝的要因が関与していることが示唆された。
坪井潤一(水研セ増養殖研), 森田健太郎(水研セ北水研),佐橋玄記(北大院環) |
釣られやすさの種間差を明らかにすることは,天然個体群保全や放流等の増殖指針策定において重要である。本研究では,野生化したニジマスと天然のヤマメが生息する自然河川において餌釣りを行い,釣られやすさの種間差を比較した。その結果,ヤマメのほうがニジマスよりも釣られやすかった。また,キャッチアンドリリースによる学習(スレ)の効果は両種ともにみられなかった。放流直後のニジマスは非常に釣られやすいことが知られているが,自然水域に馴化した個体や再生産された個体では,釣られにくくなることが示唆された。
成田正直(網走水試), 水田尚志(福井県立大海洋生資), 若林克典(利尻水指), 宮崎亜希子,佐藤暁之,清水茂雅(網走水試), 古田智絵(道食工セ),辻 浩司(網走水試) |
乾燥ナマコ製造において著しく脆弱なボイルナマコの発生が指摘されている。このため,脆弱なボイルナマコの性状を調査した。突き刺し強度は通常ナマコが 400-1,000 g の範囲であったのに対し,脆弱ナマコは 40-400 g と著しく低い値を示した。アザン染色による組織観察から,コラーゲン繊維の組織内分布密度が低下していることが推察された。成分的には水分,粗灰分が多く粗タンパク質,ヒドロキシプロリンが少なかった。脆弱ナマコから調製した乾燥品は疣立ち不良や扁平個体が散見され,通常ナマコに比べて品質が劣っていた。